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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科51巻10号

1996年10月発行

雑誌目次

特集 胃癌治療のup-to-date—機能温存手術と縮小手術 機能温存手術

迷走神経肝枝・腹腔枝の温存手術

著者: 三輪晃一 ,   木南伸一 ,   佐藤貴弘 ,   道輪良男 ,   伏田幸夫 ,   谷卓 ,   藤村隆 ,   西村元一 ,   宮崎逸夫

ページ範囲:P.1249 - P.1253

 幽門側胃切除D2における迷走神経温存とそのQOLに及ぼす意義を検索した.肝枝は全例,腹腔枝は胃膵ヒダを左胃動脈の上行枝・本幹に接して下降する走行以外は温存可能であった.術後愁訴を,1991年以降の1年以上経過した肝枝・腹腔枝温存の39例(VS-D2群)と,肝枝のみ温存した32例(D2群)で比較した.両群に再発例はみられなかった.術前に比べ「下痢気味」の頻度は,VS-D2群3%で,D2群28%より低率であった(P<0.01).胆石の発生は,VS-D2群は3%で,D2群12%より低く,通常のD2/D3の22%に比べ,低率であった.体重回復を,術前値の95%以下を不良とすると,VS-D2群64%,D2群84%で,VS-D2で不良例が少ない傾向が見られた(p=0.08).

幽門保存胃切除術

著者: 渡部洋三 ,   津村秀憲 ,   巾尊宣

ページ範囲:P.1255 - P.1261

 幽門保存胃切除術(PPG)例の術後成績を胃亜全摘術(DSG)例を対照として,胃内容排出機能,残胃・十二指腸運動機能,術後栄養障害,術後愁訴および早期ダンピング症候群などの面から検討した.その結果,胃内容排出と残胃十二指腸運動機能は正常例と同様の機能が保たれていたが,術後愁訴で『もたれ』感がPPG例で高く,臨床的には胃内容停滞が示唆された.しかし,術後の栄養はPPG例のほうが優れており,早期ダンピング症候群の発生頻度および「苦いものの逆流』はPPG例のほうが低率であった.以上の成績からPPGは,術後栄養障害,逆流性食道炎および早期ダンピング症候群の予防の面からみて,DSGより優れた術式であることが分かった.

下部食道括約筋(LES)温存胃全摘術

著者: 平井敏弘 ,   峠哲哉

ページ範囲:P.1263 - P.1268

 下部食道括約筋を温存する胃全摘術(LES温存胃全摘術)の適応,具体的な術式,逆流性食道炎予防効果について述べた,病理組織学的検討により,LES温存胃全摘術の適応は,食道胃接合部より腫瘍口側縁までの距離が肉眼的リンパ節転移陰性例で2.0cm,陽性例で3.0cmある症例で,なおかつ肉眼的に明らかに漿膜浸潤のみられない症例と思われた.術式は簡便で迷走神経も食道も食道胃接合部で切離した.現在までに施行したLES温存胃全摘術のうち術後内視鏡を施行できた15症例,同時期のLES非温存胃全摘術の22例について内視鏡所見を比較すると,LES非温存胃全摘術では発赤を32%に,びらんもしくは潰瘍を18%に認めたが,LES温存胃全摘術ではそれぞれ13%,7%であり消化液逆流の程度が軽微であると思われた.

膵温存手術

著者: 片井均 ,   丸山圭一 ,   笹子三津留 ,   佐野武 ,   羽田真朗

ページ範囲:P.1269 - P.1274

 上部,中部の胃癌では脾動脈周囲のリンパ節郭清は重要な意義を持つ.徒来はこの部を完全に郭清するために膵尾切除が一般的に行われてきたが,膵液瘻,横隔膜下膿瘍,術後糖尿病の発生率が高くなる.本術式は脾動脈を切除し,膵実質を温存することにより,根治性を損なうことなく,膵臓関連の合併症の減少,膵機能の温存を目指す方法である.

幽門側切除後十二指腸液逆流防止のための工夫

著者: 落合正宏 ,   船曵孝彦

ページ範囲:P.1275 - P.1279

 幽門側胃切除後の十二指腸液逆流による障害には逆流性胃炎の他,拡大郭清後には逆流性食道炎も少なからず発生する.その原因として,食道胃接合部逆流防止機構の機能不全,胃貯留能の減少,胃クリアランスの低下,B-I吻合における食道—胃—十二指腸の直線化,臥床時の十二指腸高位などが挙げられる.
 これに対し空腸間置法,Roux-Y法,Double Tract法などの再建術が行われ,さらに最近ではpouch作製も試みられている.本稿では幽門部進行胃癌治癒切除後の再建としてわれわれがルーチンに行っている自動吻合機器を多用した空腸間置術の手技を中心に述べ,その成績に触れるとともに,他の術式についても言及した.

胃全摘後貯留能再建手術—二重空腸間置術

著者: 内田雄三 ,   野口剛 ,   久保宣博 ,   平岡善憲 ,   橋本剛

ページ範囲:P.1281 - P.1286

 胃全摘によって失われた機能のうち,手術によって再建できるものは,①食物が十二指腸へ通過するルート,②食物の貯留,撹拌,排出など胃袋としての機能,③食物への逆流防止機構などである.この失われた3つの機能を同時に代償する術式として,教室では二重空腸間置術を施行してきた.適応は長期生存が期待されうる症例で,寝たきりの生活を必要としない症例である.術式の要点は,①食道空腸端側吻合,②十二指腸胃端側吻合(手縫い),③十二指腸寄りに側々吻合,pouch形成(約5〜10cm),④口側のシングル空腸(約20〜30cm),⑤肛門側の空腸約10 cmを犠牲にして帯型の腸間膜茎を形成し,⑥空腸の端々吻合.体型に応じてpouchの長さを加減する.術式と手技の実際を述べた.

縮小手術

縮小手術の適応,方法,成績

著者: 久保田哲朗 ,   大谷吉秀 ,   大上正裕 ,   熊井浩一郎 ,   北島政樹

ページ範囲:P.1287 - P.1290

 胃癌縮小手術(D1+#7)の適応は,リンパ節転移が少なく,転移が存在しても一次リンパ節にとどまっているm癌に限られる.教室においては1977年以降の縮小手術はD1+#7リンパ節郭清とし,大網・小網はN1リンパ節を含む胃近傍にとどめ網嚢は温存した.1964年から1976年に標準D2手術を施行した早期胃癌173症例の5年生存率は累積86%,相対95%であったが,縮小手術導入後の5年生存率は累積96%,相対100%であり,縮小手術の術後成績は従来のD2郭清と基本的に同一であった.縮小手術は標準手術に比し良好な術後QOLを獲得する可能性がある.

早期胃癌症例に対する噴門側切除術

著者: 稲田高男 ,   尾形佳郎 ,   奥村拓也 ,   村野武志 ,   長谷川誠司 ,   清水秀昭

ページ範囲:P.1291 - P.1294

 胃癌診断技術,特に内視鏡検査の進歩により,胃上部早期癌症例の増加がみられ,噴門側切除の必要性が増した.従来,この術式の最大の欠点は,術後の逆流性食道炎であった.われわれは,早期胃癌症例に噴門側切除,空腸間置を行い,満足すべき成績を得ている.現時点での絶対適応は,術前深達度診断M,分化型腺癌症例としている.
 術式のポイントは,①胃切除範囲は1/2以下とする,②リンパ節郭清範囲はD1〜D1+αとする,③15〜20cmの空腸を食道・残胃間に間置する.④幽門形成術は付加しない.この術式による噴門側切除によって逆流性食道炎は認められず,良好な成績を得ている.

早期胃癌に対する縮小手術

著者: 太田惠一朗 ,   新井正美 ,   大山繁和 ,   高橋孝 ,   中島聰總 ,   西満正

ページ範囲:P.1295 - P.1299

 1960年から1990年までに切除されたM,SM胃癌2,110例の,占居部位,腫瘍長径,肉眼型および組織型とリンパ節転移状況の検討から早期胃癌に対する縮小手術を考えた.長径4cm以上では,標準的D2郭清+α,4cm未満では,切除範囲の縮小とD1郭清+重点的郭清,2cm未満では小彎と占居部位周辺の郭清と送走神経温存が可能である.中部胃癌に対する幽門輪温存術は,長径1.5cm未満が望ましい.未分化の隆起型(Ⅰ,Ⅱa),2cm以上のⅡa+Ⅱc型とpor2の症例の縮小手術には慎重に対処する.

腹腔鏡下胃局所切除術

著者: 松本純夫 ,   川邊則彦 ,   鈴木啓一郎 ,   梅本俊治

ページ範囲:P.1301 - P.1304

 早期胃癌でもリンパ節転移のない深達度mの癌は局所切除のよい対象といえる.胃内視鏡による粘膜切除は病巣の大きさが1.0cmを超えると一括切除は難しくなり,分割切除が試みられるが,no touch isolationの原則からみれば一括切除のほうが望ましい.腹腔鏡下の胃局所切除のよい適応は2.0cmまでのリンパ節転移のない症例である.しかし本法はそれ以上の大きさの病変にも対応できるし,壁外アプローチでもあるのでリンパ節のサンプリング郭清も可能である.病巣吊り上げ法での胃局所全層切除は前壁のものは容易に可能であるが,小彎,大彎のものは血管とリンパ節の処理が必要である.後壁のものは大網,小網を開けてから病巣を引き出す工夫が必要である.

カラーグラフ 内視鏡下外科手術の最前線・22 胃・十二指腸

腹腔鏡補助下幽門側胃切除Billroth I 法再建術

著者: 永井祐吾 ,   谷村弘 ,   瀧藤克也 ,   中谷佳宏 ,   坂口聡

ページ範囲:P.1241 - P.1247

はじめに
 早期胃癌の外科手術は,従来は胃切除+D2のリンパ節郭清が標準術式であった.しかし,次第に進行度に応じた合理的手術が施行されるに至り,粘膜内癌については種々の縮小術式が考案されている.リンパ節転移の否定できる2cm以下の隆起型,あるいは陥凹型では1cm以下の潰瘍のない分化型粘膜内癌は内視鏡的治療や腹腔鏡下局所切除が行われ,それ以外の粘膜内癌はD1+αの縮小術式が施行されるのが一般的である.
 我々は,内視鏡的治療として粘膜切除とマイクロ波凝固法(ER・EMCT)を中心に施行し,従来の縮小手術に代わる治療法としては,腹腔鏡下に1群リンパ節を含めた胃部分切除を行い,再建を行う腹腔鏡補助下Billroth I法胃切除術(Laparo-scope-assisted Billroth I gastrectomy,Lap.B-Igastrectomy)を施行している.

臨床外科交見室

完全皮下埋め込み型中心静脈カテーテルの使用経験

著者: 藤森千尋

ページ範囲:P.1305 - P.1305

 癌治療法の発達には目覚ましいものがあるが,癌患者,とくに余命幾許くもない未期癌患者に対しては,QOLを考慮した治療が非常に重要である.治療を重視するあまり,患者が希望しないのに,病院に長期間拘束したりするのでは,QOLの面から好ましいことではない.たとえ治療を好まずに,残された生命が短くなろうとも,本人が納得いく余命が過ごせ,心静かに生活できるのならその方が良いと思う.未期癌患者が,残された日々を自分の思い通りの有意義な生活が送れるように,われわれ医師は考えるべきであり,告知しなかつた患者に対しても,死後に,周囲の者が納得のいく余命を過ごさせてあげられたと,満足できるようにせねばならない.
 そのような事を考え,私は未期癌患者に,完全皮下埋め込み型中心静脈カテーテルを使用してきたが,満足出来る成果が得られている.カテーテルと接続された,皮下に埋め込んであるポートに針を刺入すれば,中心静脈栄養などの輸液が可能で,抜針すれば患者は入浴するなど,点滴から解放される.また,家族や患者に点滴方法などの教育をすれば,在宅治療が行え,携帯用輸液ポンプと接続すれば,遠方への旅行も可能である.

病院めぐり

済生会松阪総合病院外科

著者: 佐々木英人

ページ範囲:P.1306 - P.1306

 松阪市は三重県の中部伊勢平野の中央にあって東は伊勢湾に連なり,陸上におけるJR,私鉄などの交通網は四通八達して古くから県下における商工都市として知られており,特産品としての松阪牛は遠く海外にまでその名を馳せています.
 この松阪市のほぼ中央に位置する当院は,社会福祉法人恩賜財団済生会三重県支部により昭和12年1月26日に開設され,当初は内科,外科のみのわずか18床での発足でしたが,戦争など幾多の紆余曲折を経て,施設の充実整備を行い,現在では診療科16,医師数52,病床数430(うち外科は57床)の中規模総合病院に発展しています.

済生会福岡総合病院外科

著者: 松浦弘

ページ範囲:P.1307 - P.1307

 当院の前身である済生会福岡診療所は,大正8年に福岡県庁裏に開所し,同10年に福岡病院となり,さらに,各科の診療体制の整備が終わり,昭和40年福岡総合病院と改称されました.現在ではこれに,交通救急センター,救命救急センター,人工透析センター,熱傷センターが併設され,14の臨床科,総病床数390床を有し,福岡地区の第3次救急救命センターを標傍しています.24時間体制のもと,広く重症患者の収容治療を行い,一般診療と同時に救急治療にも対処しています.
 当院は福岡の中心部,中央区天神にあり,場所柄,高層ビルが乱立する中,若干老朽化の色を隠せない存在となっています。このため,地の利を生かして現在地にて新病院の建築が進行中で,現在解体している東棟が来年には完成して,さらに3年後には西棟が竣工予定です.このように,現在は新しい病院になるちょうど過度期に当たり,病院の将来像をいろいろ模索している段階ですが,現在の時点での外科の体制について述べてみたいと思います.

メディカルエッセー 『航跡』・2

ドレツキー教授の腕時計

著者: 木村健

ページ範囲:P.1308 - P.1309

 1978年5月,植田隆会長のもとで第11回太平洋小児外科学会が開かれた.世界六十か国から150人もの小児外科医が集い,現在の天皇皇后両陸下である明仁皇太子殿下御夫妻の御臨席を仰いで,大規模な国際学会となった.当時はニッポンの経済成長が頂点にさしかかろうとしていた時代であった.数年前に迎えた第一次オイルショックから脱却しつつある時でもあった.ニクソン・キッシンジャーのコンビで永く閉ざした中国の扉が開かれはじめたすぐあとのことであったが,自由主義諸国と対立するソ連は依然として謎につつまれた遠い存在であった.
 学会に出席する人は,前もって登録を済ませるのが普通である.準備をする側ではどの国から何人の参加があるか前もって握んでおかねばならないからだ.登録者のリストにはソ連からの参加者は含まれていなかった.

私の工夫—手術・処置・手順・25

外傷例の膵頭十二指腸切除における膵胃吻合

著者: 西田聖剛 ,   徳永正晴 ,   福留健一 ,   赤尾元一

ページ範囲:P.1310 - P.1310

 外傷性膵十二指腸損傷に対する膵頭十二指腸切除術(PD)の適応と手術手技を紹介する.適応は膵頭部での主膵管の断裂,制御困難な出血,乳頭部の損傷を伴う重篤な膵十二指腸損傷がある.外傷の場合は,血管損傷,大量の血腫,循環不全に加えて,膵が柔らかい事,主膵管の拡張がない事より,手技が難しく危険性も高い.PDの再建法の一つとして膵胃吻合を用いてきたが1),本法は,安全,迅速,簡便であり,とくに外傷に対するPDの際の再建法として推奨される.
 次に症例を紹介する.36歳,男性で1992年8月,作業中にトラックの間に上腹部を挟まれショック状態で当院へ搬送された.著明な貧血と腹部に激しい筋性防御を認めた.腹部単純X線撮影にて遊離ガス,CTにて膵頭部後腹膜へ血腫,出血,十二指腸の破裂を認めた(図1).開腹すると腹腔内には膵頭部より活動性の出血を認め,後腹膜へ大量の血腫を形成し,十二指腸は圧挫により多発性に穿孔挫滅していた.膵を授動し検索を進めると膵頭部は激しく挫滅しており,門脈前面で完全に断裂していた.主膵管は同定困難であった.臓器損傷の程度より膵頭十二指腸切除,膵胃吻合を選択した.膵胃吻合の手順を述べる.膵断端を後腹膜より5cm遊離し胃後壁に長軸と直角に1.5cmの膵断端よりやや小さ目の穴を電気メスで開ける.3-0ポリプロピレン両端針25mmを用いて膵は主膵管に注意し十分に深く,胃は全層に確実に懸ける.

外科医のための局所解剖学序説・3

頸部の構造 3

著者: 佐々木克典

ページ範囲:P.1311 - P.1321

 総頸動脈の結紮が頸部の止血の治療に行われる場合がある.歴史的には1803年,David Flemingがのどを掻き切られた(あるいは掻き切った)患者の出血を止めるために行ったのが最初だと記載されている.Astley Cooperは1808年に頸動脈分岐部の広範囲な動脈瘤に対し総頸動脈を結紮している.遅れて1849年,Augustus Evesが総頸動脈の結紮の症例をLancetに報告したが,その内容は今まで学んできた解剖を考えるうえで非常に興味深い.かい摘んで書きとどめておく.
 「患者は自殺するために,ゆるく彎曲した刈り込みナイフを左下顎角の場所から反対側の同じ部位に達するまで突き刺し,そして横に引いた.Evesが診察したときは意識はなく,頸部は凝血のため膨らみ,傷口から出血が続いていた.傷は深く,切れた血管を見い出すことはできなかった.手首の脈は途絶えた.彼は総頸動脈を肩甲舌骨筋の下で結紮することが残された一縷の望みだと判断した.胸鎖乳突筋の内側縁をガイドに総頸動脈まで一気に開いた.動脈はすでに脈はなく,弱々しくみえた.動脈瘤穿刺針をその下に入れゆっくりと持ち上げ,迷走神経が動脈側にないことを確認し結紮した.その後,傷口のところで3つの口を持つ動脈を2本結紮した.出血は止まり,縫合後2〜3時間後には回復の兆しがみえ,つぎの日には元気になった.

膜の解剖からみた消化器一般外科手術・4

鼠径ヘルニア根治術・鼠径管後壁の処理

著者: 金谷誠一郎

ページ範囲:P.1322 - P.1330

はじめに
 外鼠径ヘルニアと内鼠径ヘルニアとは似て非なる病態であり,その違いを明確にしたうえで手術を行わなくてはならない.多くの手術書では,外鼠径ヘルニアの解説に重点が置かれ,その標準術式として,後壁補強を中心とした解説が行われている.一方,内鼠径ヘルニアに対しては,付け足しのように「後壁に対する処理が必要である」と書かれているだけのことが多い.これでは,どちらの手術も後壁に対する処理が手術の中心であって,その方針に大きな違いがないようにも解釈可能である.実際そういった部分を十分に理解しないまま手術を行っている初心者が少なくないように思われる.
 しかし,前回も説明したように,ヘルニア治療の原則はヘルニア門の閉鎖である.したがって,内鼠径輪をヘルニア門とする外鼠径ヘルニアでは内鼠径輪の縫縮が,鼠径管後壁にヘルニア門が存在する内鼠径ヘルニアでは鼠径管後壁の処理が手術の基本でなくてはならない.

手術手技

Snake retractorを用いた腹腔鏡下脾臓摘出術

著者: 志村英生 ,   一宮仁 ,   吉田順一 ,   水元一博 ,   小川芳明 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.1331 - P.1335

はじめに
 腹腔鏡下手術は術後の疼痛軽減や早期離床が得られることから腹部疾患に広く応用されているが,腹腔鏡下の脾臓摘出術(以下脾摘と略する)はその手技的な困難さ1),出血による開腹移行率の高さから二の足を踏まれる傾向にある.しかし特発性血小板減少性紫斑病(ITP)における脾摘の効果は高く2),さらに腹腔鏡下の脾摘であれば術後の疼痛が軽微で早期に社会復帰できるなどメリットがあり,工夫をしながら試みられているが3,4),標準術式の確立には至っていない.
 我々は若い女性患者に多いITPの脾摘を,術後経過の良さや創の小ささを利点と考え,積極的に腹腔鏡下に行っている.これまでに13例のITP患者に術中の出血を避けるために脾門部血管を最後に一括処理する腹腔鏡下脾摘を試みたが,開始当初に2例の開腹移行例を経験し,そのいずれも手技的な問題がその原因であった。そこでその後手術法を改善し,術視野の展開を確保するためflexible snake retractorを用いて脾臓の脱転を行い,術視野の確保と剥離操作の迅速化から手術成績の向上を認めたので報告する.

臨床研究

十二指腸潰瘍穿孔に対する保存的治療の検討

著者: 山成英夫 ,   島山俊夫 ,   竹智義臣 ,   末田秀人 ,   吉岡誠 ,   瀬戸口敏明

ページ範囲:P.1337 - P.1341

はじめに
 内視鏡治療や薬物療法の進歩は消化性潰瘍症例に対する外科的治療を減少させてきた.従来より絶対的手術適応とされてきた十二指腸潰瘍穿孔に対しても,近年,保存的治療を行う施設が増加してきた1〜3).われわれは,穿孔後の腹水の量・性状およびそれらの推移より穿孔部被覆の状況や腹腔内膿瘍形成の可能性を推測できるものと考え,1989年より腹部超音波検査の所見を主体に保存的治療の適応を決定し,比較的良好な結果を得てきた.今回,これらの自験例を検討し,その適応決定の実際と成績について報告する.

臨床報告・1

乳房切除後,特異な経過をとった乳房原発悪性リンパ腫の1例

著者: 長田啓嗣 ,   岡島邦雄 ,   梁壽男 ,   岩本伸二 ,   権五規 ,   山本隆一

ページ範囲:P.1343 - P.1345

はじめに
 乳房原発悪性リンパ腫は稀な疾患で,予後については乳癌と比べ不良であると報告されている1,2).今回,マンモグラフィー,超音波,穿刺吸引細胞診でも確定診断がつかず,拡大乳房切除術を施行した後に悪性リンパ腫と診断し,術後3か月目に手術側同側腋窩リンパ節に再発し,初治療後1か月で癌性腹膜炎,癌性髄膜炎にて死亡した1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

CPAOAに陥った両側同時自然気胸に対し二期的手術を行い救命しえた1例

著者: 米山哲司 ,   米沢圭 ,   東久弥 ,   森茂 ,   二村学 ,   白子隆志 ,   横尾直樹

ページ範囲:P.1347 - P.1350

はじめに
 自然気胸の原因の一つである気腫性肺嚢胞症はしばしば両側に認められるが,両側同時に気胸を発生することは稀である.今回筆者らはcardio-pulmonary arrest on arrival(以下CPAOA)に陥った両側同時自然気胸の症例に対し,二期的手術を行い救命しえたので若干の文献的考察を加え報告する.

十二指腸球部に脱出・嵌頓し吐血を伴ったBorrmann 1型胃癌の1例

著者: 工藤通明 ,   長町幸雄 ,   田中尊臣 ,   松本正 ,   松本郷

ページ範囲:P.1351 - P.1354

はじめに
 胃の悪性隆起性病変が,幽門輪を越えて十二指腸内に脱出する症例は比較的少なく,文献上42例の報告があるにすぎない1,2)
 今回われわれは,胃前庭部のBorrmann 1型胃癌が十二指腸に嵌入し,幽門狭窄症状と吐血を伴った症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

大量下血を呈した空腸迷入膵の1手術例

著者: 実方一典 ,   渡辺泰章 ,   渡辺裕一 ,   伊藤望 ,   菅原浩 ,   大貫幸二

ページ範囲:P.1355 - P.1358

はじめに
 迷入膵は内視鏡検査時,手術時,剖検時などに偶然発見されることの多い疾患と言われているが,症状を呈して臨床上問題となることは少ない.今回われわれは,大量下血にて発症した空腸迷入膵の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

胆嚢壁内嚢胞の1例

著者: 近藤竜一 ,   清水忠博 ,   久米田茂喜 ,   岩浅武彦 ,   堀利雄 ,   中沢功

ページ範囲:P.1359 - P.1362

はじめに
 胆嚢壁内に嚢胞が発生することはきわめて稀であり,その発生にはRockiltansky-Aschoff sinus(以下RAS)との関連が指摘されている1).今回われわれは,早期胃癌に併存した胆嚢壁内嚢胞の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

S状結腸脂肪腫の1例

著者: 菊地勤 ,   平野誠 ,   村上望 ,   荒能義彦 ,   長尾信 ,   橘川弘勝

ページ範囲:P.1365 - P.1368

はじめに
 消化管の脂肪腫は小腸,胃に次いで大腸に多く,また結腸の中でも右半結腸に多い1,2).また大きなものでは血行障害によってびらんが生じ,悪性腫瘍と鑑別を要する症例や,腸重積を合併する症例も認められる3)
 今回我々は,腸重積をきたしたS状結腸脂肪腫の1例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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