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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科51巻11号

1996年10月発行

雑誌目次

特集 術前ワークアップマニュアル—入院から手術当日までの患者管理

エディトリアル—「術前ワークアップマニュアル」に寄せて

著者: 萩原優

ページ範囲:P.10 - P.11

はじめに
 「手術が成功した」とは,術前,術中,術後の各時期の管理が滞りなく進行して初めてそういえるものです.とかく外科医は手術手技に熱心ですが,手術手技が複雑になるほど手術前の正確な評価が不可欠となります.そこで今回,『術前ワークアップマニュアル—入院から手術当日までの患者管理』という増刊号が組まれたわけです.

Ⅰ.術式別:術前患者管理の実際 1.頸部手術

甲状腺癌手術

著者: 吉田明 ,   麻賀太郎 ,   河原悟

ページ範囲:P.12 - P.16

 甲状腺癌は組織型により生物学的性状が大きく異なるため,組織型をよく見極めてから治療方針を決定し準備を進めることが重要である.根治手術の適応となる甲状腺癌は分化癌と髄様癌であるが,頻度的には分化癌(乳頭癌)が圧倒的に多い.分化癌に対しては甲状腺の葉切除〜全摘と頸部の保存的郭清が標準的な術式となっている.通常この手術を行う場合は特別な準備は必要としない.しかし腫瘍が大きい場合はCTや内視鏡などにより病巣の広がりや反回神経麻痺の有無について調べておくことが必要であり,隣接臓器の合併切除や縦隔郭清を行う場合は,心肺機能の評価を十分に行っておくべきである.髄様癌の場合は上記に加え上皮小体の病変や褐色細胞腫の合併の有無を確認することが必須である.甲状腺癌が甲状腺の機能異常を伴うことは稀であるが,念のため甲状腺ホルモンや抗甲状腺抗体を測定し,機能異常や橋本病の合併の有無を調べておくことも必要である.手術のインフォームドコンセントにおいては,対象となる癌の性状を十分に説明するとともに,甲状腺機能低下,上皮小体機能低下,反回神経麻痺など,起こり得る合併症についても話しておくことが必要である.

バセドウ病手術

著者: 杉野公則

ページ範囲:P.17 - P.22

 バセドウ病の術前管理の要点は甲状腺機能状態の把握とコントロールにある.良性疾患であるし,無理をして手術に臨むべきではない.リスクのある症例は手術以外の治療法を選ぶ.基本的に若年者が手術の対象となることから,他の疾患のように全身状態の評価を厳重に行うことは少ない.バセドウ病特有の合併病変もあり注意を要する.抗甲状腺薬が使用できる症例は外来で甲状腺機能が正常になっていることを入院間近に確認しておくことが肝要であるが,入院時に機能異常を認めた場合は,これを是正してから手術日時を決める.抗甲状腺薬がその副作用のために使用できない場合は,入院後にヨード剤,βブロッカー,ステロイド剤を使って可及的速やかに甲状腺機能を正常化させ手術を行う.この際,ヨード剤には“エスケープ現象”が認められ,ヨード投与後2〜3週間でその効果が突然失われ,甲状腺ホルモンが再上昇してくる.そのため,ヨードを主としてコントロールする場合には開始後2〜3週後の手術をめざさねばならない.

上皮小体機能亢進症手術

著者: 宮内昭

ページ範囲:P.23 - P.27

 上皮小体機能亢進症には病態のまったく異なる原発性と続発性(腎性)があり,両者の術前の準備には大きな相違点がある.原発性上皮小体機能亢進症ではまず正確な診断が大切であり,(1)機能亢進症であることの診断,(2)病的腫大腺の部位と質の診断,(3)機能亢進症に続発する病変の診断の3段階に分けて考える.通常は特別な術前管理を要しないが,血清Ca 12mg/dl以上のときは補液などの処置を要し,高Ca血症クリーゼのときは緊急手術も考える.続発性では手術の適応の判断が最も重要である.循環器系などの合併症に注意し,術前に血液透析し,術後管理を計画する.

2.乳房手術

乳房切除術

著者: 冨永健

ページ範囲:P.28 - P.32

 乳癌手術患者,とくに乳房切除術を施行するにあたっての術前準備について記述した.乳房切除の場合,最近では胸筋温存術が行われることが多く,大・小胸筋を温存するAuchincloss手術や大胸筋のみを温存するPatey手術が行われている.乳癌の場合はほぼ100%告知が行われているので,治療法の説明は比較的容易である.ただし,女性の象徴である乳房を切除することに対するインフォームドコンセントはとくに慎重に行う必要がある.術前検査や処置としては体表にある臓器の切除であるため,呼吸器や消化器手術に比べて比較的簡単である.患者の心理的な面からの術前のケアがもっとも大切である.

乳房温存手術

著者: 福富隆志

ページ範囲:P.34 - P.38

 乳房温存療法は腫瘍径3cm以下,N0,N1aで,マンモグラフィー上広範な石灰化がないこと,明らかな多発癌がないことなどを一般的な適応として行われている.したがって,全身管理に困難な点は少ないものの,術前画像診断によって乳管内進展範囲・多発癌の検索を行うことが必須である.術前生検施行例では病理組織所見(EIC,lyなど)も適応決定に重要である.また本治療法ではとくに患者の病気・治療に対する理解が前提となり,術前の説明には他の疾患に比較しいっそうの配慮が必要である.

乳房再建手術

著者: 酒井成身 ,   久保田賢子 ,   山中美和 ,   脇坂長興 ,   坂井庸子 ,   石田寛友

ページ範囲:P.39 - P.44

 二期的乳房再建の術前管理においては,手術までに十分な期間があり,術式や方法,利点・欠点,合併症,入院期間などの十分な説明が行われ,術式の選択とインフォームドコンセントがなされる.手術の約2〜3週間前に基本的なvital sign,血液一般検査,肝機能,生化学的検査,検尿などが行われる.全身麻酔のために,胸部X線,ECG,呼吸機能検査,またマンモグラフィーも行う.症例によっては生理的食塩液バッグなどの注文も必要である.筋皮弁などの手術では,術前に400〜800mlほどの自己血輸血の採血を行う.再建乳房の位置や筋皮弁の皮島の位置のデザインを手術前日までに行うことがよい結果をもたらすために重要である.

3.肺・気管手術

肺部分切除術

著者: 岩﨑正之 ,   加納雅美 ,   朴在善 ,   米谷文雄 ,   加賀基知三 ,   鶴見豊彦 ,   小川純一 ,   井上宏司

ページ範囲:P.45 - P.47

 肺部分切除術は,開胸手術のなかで呼吸,循環系に対する影響が少ない手術法である.このため,治療法としてだけでなく診断法としても繁用される.より侵襲の少ない手術法として内視鏡下手術が増加してはいるが,病巣の数,位置,胸膜癒着の程度などによって,様々な開胸法による手術選択をすることが少なくない.したがって,治療法としてはもちろんのこと診断法として施行する場合のインフォームドコンセントには,より様々な展開への詳細な説明が必要である.

肺全摘術

著者: 中村治彦 ,   日吉利光 ,   古川欣也 ,   平栗俊介 ,   斉藤誠 ,   加藤治文

ページ範囲:P.48 - P.52

 肺全摘術は肺切除術のうちで最も侵襲が大きく,ひとたび呼吸器合併症を併発すると致命的になりやすいので,手術適応の決定を含めた術前管理には細心の注意を払わねばならない.現在,肺全摘術はほとんどが肺癌に対して行われ,その適応は腫瘍の占居部位・進行度と術後に予測される心肺機能を考慮して決定される.喫煙者に対する禁煙指導の徹底,術前呼吸機能訓練は術後合併症予防に有用と考えられる.

肺葉切除術

著者: 岩崎昭憲 ,   白日高歩

ページ範囲:P.53 - P.56

 肺癌を中心とする肺悪性疾患の肺葉切除は,術前の正確な患者の機能評価とそれによって得られる情報をもとに良好な患者管理を行うことが術後成績の向上にもつながる.すなわち,外科医は単に手術に習熟するのみではなく,全身管理についてもある程度の集学的知識が要求されることとなる.悪性疾患に対する外科切除は現在のところ根治性を得るための唯一の手技であることより,安全性を常に念頭において手術適応を決定する必要がある.本稿では,肺葉切除を行うための検査やその評価,管理について概説した.

気管切開術

著者: 笹壁弘嗣

ページ範囲:P.57 - P.60

 気道確保は患者の生命に直結するきわめて重要な手技であり,外科医は各種の人工気道の長所・短所・合併症やその適応などを熟知しておく必要がある.挿管チューブの発達により,気管内挿管は2〜3週間と,以前より長期にわたって使用可能となり,気管切開の適応はやや狭まってきている.気管切開は手術室で行うのが最良であるが,手術室への搬送にはリスクを伴う.そのリスクは,患者の重症度に加え,各施設の準備状況によっても異なってくるため,どこでどのように行うかは総合的判断が求められる.そのなかで,キットさえあればどこでも簡単に行えるpercutaneous tracheostomyは今後注目される手技である.

4.食道手術

頸部食道癌手術

著者: 坂本昭雄 ,   磯野可一

ページ範囲:P.61 - P.65

 頸部食道癌症例は,食道切除術のみに終わる症例から,右開胸操作を必要とする症例まで幅広い.また,入院前より嚥下障害に伴う脱水や栄養低下例が多く認められ,さらに術式決定のための検査が頻回となりがちであり,絶飲絶食となる機会が多い.術前管理として注意すべき事柄は,脱水とならぬように注意し,栄養状態の改善を速やかに図り,呼吸訓練を十分行うことが重要である.検査は,軽い検査から開始し,観血的検査は手術近くに行うようにして,検査によるストレスを軽減するように努力する.

胸部食道癌手術

著者: 小澤壯治 ,   安藤暢敏 ,   北島政樹

ページ範囲:P.66 - P.72

 胸部食道癌に対する手術・術式の選択には,癌の進行度と患者のリスクの両者を十分に検討する必要がある.食道癌の進行度は深達度,リンパ節転移,臓器転移を中心に決定されるので,胸部X線検査,食道造影検査,上部消化管内視鏡検査,超音波内視鏡検査,頸部・胸部・腹部CT検査,頸部・腹部超音波検査を行う.重複癌の除外と,再建候補臓器の検査目的で注腸も行う.リスク評価のためには,右開胸による一期的切除再建術が標準術式であるので,肺・心・肝・胃などの重要臓器機能検査として,動脈血液ガス分析,肺機能検査,心電図,ICG負荷試験,糸球体機能検査(クレアチニン・クリアランス),75g-OGTTなどを行う.また,術前準備として栄養管理と呼吸管理がとくに重要である.

食道抜去術

著者: 川原英之 ,   井上聡 ,   須田泰史 ,   河地茂行 ,   櫻井孝志 ,   山本貴章

ページ範囲:P.73 - P.77

 食道抜去術は良性疾患,悪性疾患のどちらにも行われる.本術式は開胸下に施行される食道切除に比べ呼吸,循環系におよぼす侵襲が少なく,術後の回復が速やかである.食道抜去の方法には用指的食道抜去法と翻転抜去法があり,対象となる疾患や食道壁の状態などにより使い分ける必要がある.早期食道癌症例では一般的に全身状態が良好な場合が多く術前の全身管理面での問題点はほとんどないが,高齢者やpoor risk症例など開胸を避ける目的で本術式を選択する場合には,慎重な術前管理が必要となる.本術式は一部に盲目的剥離操作が行われるため,出血や気管損傷,反回神経麻痺などの合併症を併発することが決して少なくないため,これら合併症についても術前に十分なインフォームドコンセントを得ておく必要がある.

食道静脈瘤手術

著者: 芦田寛 ,   西脇学 ,   西岡昭彦 ,   宇都宮譲二

ページ範囲:P.78 - P.83

 近年,食道静脈瘤治療はEISやEVLの普及により低侵襲な内視鏡治療が主流となったが,IPHやEHOや肝機能の良好な肝硬変症例に限っては,手術療法が効果的な治療法であり,食道離断術やHassab手術などの直達手術と遠位脾腎静脈吻合術などの選択的shunt手術が行われている.出血既往(+)や,F2以上でCb,RWM(++)やCRS(++)以上,HS(+)などのrisky varicesでは,Child分類A,Bに加えて,ICG R15(≦40%),ICG K(≧0.05),プロトロンビン時間(≧60%)を満たす場合,75gOGTT,年齢,肝癌合併の有無も考慮して手術適応を決定する.術前には貧血,低アルブミン血症,電解質異常の補正や腹水,糖尿病のコントロール,呼吸訓練などの厳重な術前管理を行う必要がある.

5.胃・十二指腸手術

幽門側胃切除術

著者: 沢井清司 ,   高橋俊雄

ページ範囲:P.84 - P.88

 幽門側胃切除術の適応は,胃中部・胃下部の胃癌である.ただし,胃中部のみに限局する早期胃癌は幽門保存胃切除術の適応となる.胃透視と胃内視鏡で癌の深達度・深達度浸潤範囲を診断し,CT検査,超音波検査をルーチンに行う.早期胃癌には超音波内視鏡,stage IVが疑われる例には血管造影を追加する.80歳以上,術前併存疾患を有する症例は,術後合併症の発生頻度が高いので注意する必要がある.幽門狭窄・出血例に対しては,中心静脈栄養・輪血・エリスロポエチンの投与などを行う.患者の不安を取り除くためには,正確な情報を与え,無駄な検査を繰り返さずに,早く手術を行う.

胃全摘術

著者: 帆北修一 ,   夏越祥次 ,   有留邦明 ,   白尾一定 ,   岩重弘文 ,   愛甲孝

ページ範囲:P.89 - P.93

 胃全摘術の適応となる症例では病状の進んだものが多く,開胸による食道切除,胃隣接臓器の合併切除,広範なリンパ節郭清が行われることがある.病変の進行度診断は,近年の画像診断の向上によりかなり正確に診断できるようになったが,適切な手術を行うための必要十分な検査を無理のない予定で行う.さらに,高齢者の増加により術前の全身状態の把握はきわめて重要となり,併存疾患を術前に診断しておくことは術後合併症の発生予防ならびに早期診断に不可欠となる.インフォームドコンセントについては,悪性疾患の告知の問題を含め病状・全身状態を十分に説明し,患者および家族との信頼関係を構築しておく必要がある.

胃部分切除術

著者: 大谷吉秀 ,   五十嵐直喜 ,   石川秀樹 ,   藤田晃司 ,   大上正裕 ,   久保田哲朗 ,   熊井浩一郎 ,   北島政樹

ページ範囲:P.94 - P.97

 胃部分切除術は胃の大部分が温存できるため,術後の小胃症状を回避することが可能で,quality of lifeの点から優れた術式である.しかし,標準術式と比べるとリンパ節郭清が不確実となり,切除範囲も縮小されるため,本術式を根治目的で実施する場合には症例の適切な選択が重要である.術前の深達度診断,腫瘍の広がりの診断が重要であることはいうまでもない.一方,高齢者やpoor risk例に対して相対的適応となる場合には,術前の全身状態の把握が重要である.

迷走神経切離術

著者: 柏木秀幸 ,   渡辺正光 ,   青木照明

ページ範囲:P.99 - P.104

 迷走神経切離術(迷切術)は,迷切術単独術式と迷切術兼幽門洞切除術に分けられ,選択的近位迷走神経切離術と選択的胃迷走神経切離術兼幽門洞切除術が用いられている.前者は機能温存に,後者は潰瘍再発予防に重きが置かれている.これらの術式の対象は,主に再発性,薬物治療抵抗性の十二指腸潰瘍である.術前管理として重要なことは,個々の患者の病態を踏まえ,迷切術を含めた外科治療の効果を予測することであり,そのためには術前の胃液検査が必要となる.対象となる疾患の病態に対する外科治療の効果,そして外科治療自体のもたらす術後障害(後遺症)に対する認識は,患者に対するインフォームドコンセントの観点からも重要である.

6.大腸・肛門手術

大腸全摘術

著者: 堀孝吏 ,   吉田優一 ,   梅村彰尚 ,   坂本昌義 ,   久保琢自

ページ範囲:P.105 - P.109

 大腸全摘術は全結腸切除術+直腸切除術のことで,肛門を温存し回腸肛門吻合とする術式と肛門を温存せず回腸瘻とする術式がある.適応となる疾患は潰瘍性大腸炎,直腸型のクローン病,家族性大腸腺腫症,多発大腸癌などが挙げられる.病気を診る医療から患者を看る医療へと変わりつつある現在,術後のQOLの点からこの術式が選択される機会は多くはない.大腸手術の術前管理が他の部位の手術の術前管理と異なるのは,腸管前処置が最も重要な処置に位置づけられることである.これは様々な術後合併症を予防し,術中操作を円滑に行うために必要不可欠な処置であるためである.

小腸広範囲切除術

著者: 高田秀穂 ,   吉田良 ,   中川州幸 ,   岩本慈能 ,   川西洋 ,   岡村成雄 ,   吉岡和彦 ,   日置紘士郎

ページ範囲:P.111 - P.114

 成人における小腸広範囲切除術の対象疾患は,小腸の血行障害,炎症性腸疾患,腫瘍,その他,外傷などがあるが,小腸の広範囲切除は術後に短腸症候群を呈することになるので,できる限り小腸を温存すべきである.待機手術における小腸広範囲切除術の術前患者管理は通常の腸管手術と何ら変わるところはないので,本稿では病態の進行が早く,早期診断とすばやい外科的治療が必要な上腸間膜血管閉塞症について主に述べた.術前検査で本疾患を確定できるのは血管造影検査のみであり,腹部理学的所見や血液検査上に異常がみられるようになるのは病状が進行してからである.術前管理の要点は,喪失体液に対する補正と補給,感染症に対する抗生剤の術前投与ならびに2次塞栓もしくは血栓の予防のための少量ヘパリンを使用し,速やかに緊急手術に踏み切ることにある.

結腸切除術

著者: 酒井靖夫 ,   谷達夫 ,   山崎俊幸 ,   三間智恵子 ,   瀧井康公 ,   岡本春彦 ,   須田武保 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.115 - P.120

 結腸切除術の術前患者管理の実際について述べた.本術式は原疾患にもよるが,通常,待期手術が可能で侵襲も大きくないが,イレウス,穿孔など重篤な合併症や貧血,低栄養,全身的併存疾患が存在する場合はより綿密な術前管理や迅速な検査と正確なリスク判定が要求される.術前検査には全身・栄養状態の把握のための検査と原疾患の病態・進行度を診断するための検査があり,それに基づいて重症度とリスク判定を行い,術式選択をする.検査で判明した異常や併存疾患に対しては術前に可及的に補正,加療するとともに,多量の腸内細菌の存在する結腸に特有の腸管前処置を行うことにより合併症を最小限に抑え,安全に手術を遂行することが可能になる.

直腸切断術

著者: 沢田寿仁 ,   早川健 ,   土肥健彦 ,   木ノ下義宏 ,   堤謙二 ,   梶山美明 ,   宇田川晴司 ,   鶴丸昌彦

ページ範囲:P.121 - P.125

 直腸切断術は人工肛門造設を伴う点で慎重かつ周到なインフォームドコンセントを必要とするが,性機能,排尿機能障害についても術式に応じた説明が必要である.直腸切断術の術前検査としては直腸指診が簡便であるが,きわめて重要な所見を得ることができる.これが直腸切断術の適応をほとんど決定するといっても過言ではないが,もちろん最終的には注腸造影検査,大腸内視鏡検査,直腸EUS,骨盤内CT,骨盤内MRI検査を行い,総合的にその適応を決定する.直腸切断術術前のリスク因子としては,糖尿病,心疾患,肝硬変,腎疾患,呼吸器疾患などの合併があるが,昨今では単独ではなく複数因子を合わせ持つ症例が増加しており,よりいっそうの注意が必要である.

直腸低位前方切除術

著者: 中村文彦 ,   森田隆幸 ,   小田桐弘毅 ,   今充

ページ範囲:P.126 - P.130

 低位前方切除術は根治性の面においても直腸切断術に劣るものではなく,最近では下部直腸癌の80%に適応されるようになった.また骨盤内自律神経切除に起因する排尿・性機能障害,あるいは直腸切除による排便障害などが本術式に特徴的な問題であるが,癌の進行度,病変の広がりを正確に評価し,それによる適切な術式の決定,インフォームドコンセントが要求される.術前管理のポイントはせっかく温存したこれらの機能,QOLを低下させないためにも全身状態,リスクファクターを改善し,十分なcolon preparationによって術中,術後の操作,管理をスムーズに進められるようにすることである.

人工肛門造設術

著者: 津田基晴 ,   池谷朋彦 ,   杉山茂樹 ,   三崎拓郎

ページ範囲:P.131 - P.134

 人工肛門造設術は,排便機能障害とともにヘルニア,腸脱出,そして人工肛門周囲皮膚障害といった合併症をもたらすことがある.適切な基準に従って,術前からストーマサイトマーキングを行い,人工肛門を適当な部位に造設することにより,上記の合併症を減少させることができる.また,人工肛門造設患者には精神的な援助も必要であり,術前から人工肛門造設について十分な説明を行うことにより,術後,患者が人工肛門を受容しやすくなり,早期の社会復帰も可能になると思われる.

急性虫垂炎手術

著者: 大野義一朗 ,   濱砂一光 ,   継篤

ページ範囲:P.135 - P.139

 急性虫垂炎手術は確定診断の難しさと緊急手術であることに特徴がある.診断では限られた検査手段で多くの鑑別疾患を除外し,かつ手術が必要か否かの虫垂炎の重症度を判断しなければならない.理学所見と腹部エコーが中心となる.また急性腹症であるので診断のプロセスと同時進行で抗生剤投与などの治療,脱水などの全身状態の改善,手術の手配などの準備を図らねばならない.「安全に終わって当然の手術」であるが,その安全性は丁寧な問診,緊急検査の活用などの準備のうえにあることを忘れてはならない.

痔核・痔瘻手術

著者: 辻順行 ,   高野正博 ,   黒水丈次

ページ範囲:P.140 - P.144

 肛門疾患のなかでも痔核,痔瘻はもっとも頻度の高い疾患で,手術が手軽に行われる傾向にある.しかし,肛門部は消化管の出口に位置し,術後においては術創に便が付着するため一度合併症が生じると,他の消化管と比べて症状が表面化しやすく,それだけに術前の症状を把握し,適切な手術を行うことが重要である.当院では術前の検査として,問診,視診,触診の他,肛門内圧,肛門エコー,defecographyなどの直腸肛門機能検査を行っている.これらの検査結果を分析することによって,原疾患に対してより確実な治療を行うだけでなく,副病変に対しても確実な処置を行い,さらに機能検査の結果も参考にし肛門機能を損なわない手術を行うように努めている.

7.肝臓手術

肝葉切除術

著者: 有井滋樹 ,   門田一宣 ,   今村正之

ページ範囲:P.145 - P.149

 近年の肝臓外科の進歩は目覚ましく,用意周到で合理的な周術的管理に基づき,適切な手術手技を駆使することにより,肝葉切除は安全に施行しうる.ただ,硬変肝,黄疸肝においては術前に肝葉切除に耐えうる肝予備力を有していることを正確に判定することが大切であり,許容切除量を超えた肝切除は不可逆的な肝不全を招来する.また,一歩間違えば大出血につながることもあり,正しい解剖学的知識と出血に対する的確な対応能力が要求される.

肝(亜)区域切除術

著者: 左近賢人

ページ範囲:P.150 - P.153

 肝(亜)区域切除の術前管理のポイントは,基本的には患者自身の疾患や肝手術に対する理解を深めること,基礎疾患のコントロール,術後管理に必要な検査の実施の3項目である.これに加えて最近では,出血量の減少から自己血輸血の実施も重要となってきた.術前の十分なインフォームドコンセントにより,病態や手術に対する理解が深まり,その結果,治療に対する積極的な姿勢が生まれる.肝硬変,糖尿病などの基礎疾患のコントロールを行っておく.術後疼痛対策として硬膜外チューブの留置も行う.

8.胆嚢・胆管手術

胆嚢摘出術

著者: 内山和久 ,   谷村弘 ,   大西博信 ,   山崎茂樹

ページ範囲:P.154 - P.158

 腹腔鏡下胆嚢摘出術が普及し,胆嚢摘出術の80%がその適応とされる現在,敢えて開腹下胆嚢摘出術を選択すべき疾患は,①癌の合併が疑われたり,②高度の炎症を伴うため緊急手術を要するなど特殊な場合のみとなった.したがって,術前管理も絶食下で輸液管理を行ったり,鎮痛剤や抗菌薬を投与しながら個々の症例で異なった工夫が必要となる.このように特殊な病態下では,単に胆嚢を摘出するだけの手術とはいえ,十分に患者の全身状態を把握し,できる限りの胆道精査を行い最良の状態で開腹手術を行うことが必要である.これにより,術後合併症の発生を最小限に防止できる.

拡大胆嚢摘出術

著者: 亀山仁一 ,   川村博司

ページ範囲:P.159 - P.163

 拡大胆嚢摘出術は主としてpmあるいは一部のss胆嚢癌に対して,胆嚢摘出と同時に肝床を合併切除し,さらにリンパ節郭清を行う術式である.肝床切除とは肝S4・S5の部分切除を意味するが,腫瘍の占居部位,深達度,浸潤増殖様式,脈管侵襲の程度により,より侵襲の大きな拡大手術に変更する場合もある.術前には画像診断などによってできるだけ正確な進行度分類を行うように努めるが,ときに困難な場合もあり,各臓器の術前機能評価,術前準備も術中の拡大手術への術式の変更の可能性を考慮に入れて万全にしておくべきである.患者やその家族に対しては,進行度と予後,手術法とその危険性,起こりうる合併症に関して,インフォームドコンセントを行っておく必要がある.

総胆管切開術

著者: 青木洋三 ,   植阪和修 ,   中村昌文 ,   南光昭 ,   庄野嘉治 ,   嶋本哲也 ,   平林直樹 ,   榎本勝彦

ページ範囲:P.164 - P.168

 十二指腸上部総胆管切開術(supraduodenal choledochotomy)に代表される総胆管切開術は,単独より他の術式に付随して「従」の操作として施行されることが多い.それだけに,術前・術後は胆道感染,黄疸,肝硬変など併存病変の影響を少なからず受け,術前における併存病変への対処が,本術式成功の重要なポイントの一つである.したがって,術前には必要に応じて抗生物質による化学療法,減黄術,肝庇護療法などを行い,全身状態の改善を図った後リスクを慎重に判定することが肝要である.本術式そのものは比較的簡単な手技であるが,neg-ative choledochotomyを可及的に回避するためにも,適応を十分に理解したうえで施行したい.

胆管空腸吻合術

著者: 浅沼義博 ,   佐藤勤 ,   小山研二

ページ範囲:P.169 - P.173

 胆管空腸吻合術の適応となる患者では,閉塞性黄疸,胆道感染を有する場合が多い.黄疸を軽減させ肝機能と全身状態を回復させることと,胆道感染症を制御することに主眼をおいて術前管理を行う.すなわち,血清総ビリルビン値が5mg/dl以上の場合には,PTBDなどの胆道ドレナージを行い,血清総ビリルビン値が5mg/dl以下に低下してから手術を行う.胆道感染から菌血症に移行している場合には,感受性の高い抗生物質を投与し全身状態を改善させた後に手術を行うのがよい.

9.膵臓手術

膵頭十二指腸切除術

著者: 中迫利明 ,   高崎健 ,   今泉俊秀 ,   吉川達也 ,   原田信比古 ,   羽鳥隆 ,   天満信夫 ,   武市智志

ページ範囲:P.174 - P.180

 膵頭十二指腸切除術(以下,PD)が行われる患者の術前管理について述べた.PDの利点は膵頭部領域の病巣をen-blockに切除し,一期に根治的治療ができることである.その欠点である臓器欠落症状は全胃幽門輪温存PDの登場により改善されつつあり,手術直接死亡も1%と向上している.術前管理のポイントは,PDを受ける患者に特徴的な病態を理解することである.閉塞性黄疸に対しては減黄処置,出血傾向に対してはビタミンK投与,重症感染に対してはDIC治療などが必要である.糖尿病に対しては十分なカロリーを補給し,インスリン投与による血糖管理が必要である.PDが適応される肝機能の目安はT-Bil10mg/dl以下,ICGR15,20%以下であり,心肺腎などの併存疾患や高齢者という因子は,通常の生活が可能であればPDの適応を妨げる絶対的な因子ではない.大切なことは心肺腎などに異常を認めた場合,ささいなことでも各科専門医および麻酔科医にコンサルトし,緊密な協力体制をとることである.

幽門輪温存膵頭十二指腸切除術

著者: 具英成 ,   鈴木康之 ,   岩崎武 ,   黒田嘉和 ,   斎藤洋一

ページ範囲:P.181 - P.185

 幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(以下,PPPD)は,術後小胃症状がなく消化管ホルモンを介した胃膵臓器相関の破綻が小さいため,膵炎や乳頭部癌など膵頭十二指腸領域疾患の切除術式として近年広く受け入れられている.しかし,膵癌など悪性疾患での適応の限定や術後の胃内容停滞を来たしやすいことが短所として挙げられている.術前準備をすすめるうえではこうしたPPPDの利点,欠点に対する十分なインフォームドコンセントを行う.また黄疸例,栄養不良例では減黄や栄養管理を入院後できるだけ早期に開始するとともに,術前検査をバランスよく計画し,患者の体力的負担が過度に集中しないよう配慮する.以上の諸検査結果をもとに全身状態や病変の進展度について改めて再評価し術式の妥当性を検討する.

膵管空腸吻合術

著者: 杉山政則 ,   中島正暢 ,   森俊幸 ,   跡見裕

ページ範囲:P.186 - P.189

 膵管空腸吻合術は,主膵管のびまん性拡張を示す慢性膵炎に対して,疼痛の緩和を目的に行われる手術である.慢性膵炎症例では,膵病変のみならず栄養障害,糖尿病,消化性潰瘍,食道・胃静脈瘤,胆管狭窄などの合併症を有し複雑な病態を呈することが多い.術前に膵病変および合併症を正確に把握し適切に処置することが,良好な手術成績を得るために重要である.高度な低栄養に対しては,インスリンとともに経口的あるいは経中心静脈的に十分に栄養を投与する.

膵頭部切除術

著者: 内田豊彦 ,   高田忠敬 ,   天野穂高 ,   吉田雅博 ,   安田秀喜

ページ範囲:P.190 - P.193

 膵頭部病変に対しては,膵頭部・十二指腸切除に加え,広範囲胃切除術を併施する膵頭十二指腸切除術や全胃を温存する幽門輪温存膵頭十二指腸切除術が行われてきた.1980年代以降,十二指腸を温存する十二指腸温存膵頭切除術や,さらには腹側膵原基由来の腹側膵のみを切除する腹側膵切除術など病変の切除とともに周辺臓器の可及的な温存をめざす術式が次々と報告されている.ここでは,主に十二指腸温存膵頭切除術について述べる.これらは当初,慢性膵炎などの良性疾患に対して行われていたものであるが,画像診断の進歩に伴い,膵の小病変が術前に診断可能となり,low-grade malignancyなどにも適応されるようになってきた1).しかし,縫合不全など重篤な術後合併症を惹起する可能性もあり,術前の全身ならびに局所の診断,管理はこれらを回避するうえでもきわめて重要である.

膵体尾部切除術

著者: 網倉克己 ,   小針雅男 ,   松野正紀

ページ範囲:P.194 - P.198

 膵体尾部病変に対する術前検査,手術適応を中心に膵体尾部切除術の術前患者管理について述べた.膵体尾部癌の多くは診断時すでにリンパ節転移や後腹膜浸潤,脈管侵襲を伴う進行した症例であり予後不良であるが,Stage Iでは長期予後の得られる可能性もあり早期診断に努めることで予後の向上が期待される.一方,比較的予後良好といわれる粘液産生膵腫瘍でも上皮の異型度が強く,浸潤性に増殖する症例は予後不良であり,嚢胞性疾患では嚢胞内隆起性病変の有無などの質的診断が必要である.膵体尾部病変に対するリンパ節の拡大郭清を含めた術式,切除範囲の決定には術前検査によって鑑別診断および進展度診断が十分になされていることが重要と思われる.

膵全摘術

著者: 竹田伸 ,   中尾昭公

ページ範囲:P.199 - P.203

 膵全摘術は,術後無膵性糖尿病となり血糖管理を中心にQOLが最も問題となる.したがって,手術適応は,当教室においては膵頭部癌の尾部までの癌進展例,膵体部癌の頭側進展例や膵全体癌としている.進行性膵癌のため,初診時にすでに症状(閉塞性黄疸・疼痛・体重滅少)が出現していることが多く,これらの処置を最初に配慮すべきである.手術までの間に,US・胆道造影・ERCP・MRCP・血管造影・CT・EUS・UGIなどの検査で診断のみならず病巣の進展範囲を明らかにし,手術適応を決定する.減黄が十分になされ(T.Bil 2〜3mg/dl以下),血糖管理も十分にコントロールされた時点で手術を施行することが肝要である.

10.血管系の手術

腹部大動脈瘤手術

著者: 大城秀巳 ,   重松宏

ページ範囲:P.204 - P.209

 腹部大動脈瘤手術では,高齢者を対象とすることが多く,加齢に伴う重要臓器の病態や併存する悪性疾患などに留意し,十分な術前全身検索を行い治療することが必要である.とくに,心筋梗塞は重篤な術後合併症であり,心機能の精査および治療が術前管理の重要なポイントの一つである.冠動脈狭窄が高度な場合は,PTCAやCABGを腹部大動脈瘤手術に先行して施行しなければならない場合がある.その他,腎,肺,脳などについても機能障害の有無やその程度を十分に把握し,予備力の少ない高齢者に対し,きめ細かな術前管理を行うことが必要である.

深部静脈血栓摘出術

著者: 土田博光 ,   石丸新

ページ範囲:P.210 - P.214

 深部静脈血栓症(DVT)はまず診断がつき次第,抗凝固療法を開始し,急性期(約2週以内)の場合は手術適応を検討する.手術が保存的療法に確実に優れるのは急性期症状の改善で,一般に重症例が対象になる.手術合併症には肺塞栓,出血,静脈穿孔,弁不全などがあるが,肺塞栓や弁不全は手術をしなくても起こりうる合併症である.緊急手術を行わない場合は線溶療法を行うが,その効果によっては準緊急手術を行えるよう準備を進めておく必要があり,治療,検査を進めながら患者,家族のインフォームドコンセントを得ることにより,治療のタイミングを逃さないよう心がけるべきである.

急性腸間膜動脈閉塞症手術

著者: 鈴木修 ,   神谷喜八郎 ,   小島淳夫 ,   石本忠雄 ,   伊従敬二 ,   小林正洋 ,   進藤俊哉 ,   多田祐輔

ページ範囲:P.215 - P.219

 急性上腸間膜動脈(SMA)閉塞症は突発的に発症し早期に広範な腸管梗塞を引き起こす疾患であり,予後は不良で,救命できたとしても術後のQOLは良好でない.腸管壊死に陥る前に,SMA血行再建のみで救命することが望ましい.このため早期診断と早期治療が広範囲小腸切除を避けるための唯一の手段である.しかるに本症では他の急性腹症との鑑別が難しく,術前管理としては確定診断までの時間経過がきわめて重要である.臨床症状から本症が疑われた場合,従来は血管造影で確定診断を得たが,最近ではこれを省略しCTで早期に確定診断に至る症例が増えている.確定診断後は十分な補液,抗生剤投与の下,一刻も早くSMA血行再建を目指すべきである.

11.ヘルニア手術

成人鼠径ヘルニア手術

著者: 徳原真 ,   跡見裕

ページ範囲:P.220 - P.223

 鼠径ヘルニアの手術は侵襲が少なく,安全に行える簡単な手術と考えられている.しかし,術前の入院期間が短く,術前検査が少ないだけに,詳細な病歴の聴取や十分な身体学的所見をとるなどの全身の術前評価が重要である.隠れた併存疾患,とくに前立腺肥大,慢性呼吸器疾患,大腸癌など,ヘルニアの誘因となる疾患がないかを常に念頭におくべきである.また,術前にあたり,鼠径部の解剖学的位置関係を理解したうえで,術式の特徴を知っておくことも必要である.

小児の鼠径ヘルニア手術

著者: 大浜用克

ページ範囲:P.224 - P.227

 小児鼠径ヘルニアの手術は外科初期研修でその訓練を受けているが,minor surgeryであるがゆえに,すべてがうまくいって当たり前であり,地域差や小児外科医の不足など,解決すべき課題はあるとしても,今や小児麻酔を得意とする麻酔医のいる施設で小児外科専門医(認定医,指導医)の指導下で手術されるべき時がきていると理解すべきであろう.ヘルニア手術例の約80%の患児はヘルニア以外には慢性疾患のない健康な子である.母子の入院生活,母子間の隔離など日常生活を損なう入院を1日でも減らし,日帰り手術を目指すようになりつつあるので,手術の準備は外来で行われている.約20%の患児は何らかの合併疾患を有しており,関連する専門医と連携して,適切な術前準備を行うことが必要である.

腹壁瘢痕ヘルニア手術

著者: 里見昭 ,   村上三郎 ,   高橋茂樹 ,   川瀬弘一 ,   竹内浩紀 ,   田中克幸

ページ範囲:P.228 - P.232

 腹壁瘢痕ヘルニアは,手術が唯一の治療法である.無症状でも絞扼嵌頓の危険性や増大傾向のある例は早期に手術を行う.しかし,局所感染のある場合は術後創感染を起こし再発しやすいため,手術を回避すべきである.また,生死にかかわる合併症を有したり,予後不良の悪性疾患や手術に耐え難い症例は手術の適応としない.とくに高齢者で,喘息,糖尿病,肥満などの合併症を持つ例は術後再発が多いだけでなく,腹圧の上昇による呼吸不全や心血管系の不全におちいる危険性もある.大きなヘルニア門の修復に際しては,適切な術式の選択と呼吸器系,循環器系,消化器系の異常や臓器予備能を把握し,予め治療を行うなど予測される術後合併症に備える.

12.そのほかの手術

脾摘出術

著者: 板東登志雄 ,   北野正剛

ページ範囲:P.233 - P.236

 脾摘出術の適応となる原疾患は(1)血液疾患,(2)脾損傷,(3)腫瘍性疾患,(4)門脈圧亢進症に伴う脾機能亢進症,(5)脾動脈瘤など多種多様である.脾摘出術それ自体による合併症はむしろ少なく,大部分がこれらの対象疾患の背景にある末梢血有形成分の減少,出血凝固異常あるいは肝機能障害に起因するものと考えられる.さらに副腎皮質ホルモンや免疫抑制剤を長期にわたって投与されている場合もあり,手術に際してはこれら背景にある病態および惹起されうる合併症を十分に把握し,厳重な術前管理を行う必要がある.

腎摘出術

著者: 武田正之

ページ範囲:P.237 - P.240

 腎摘出術には単純(腹膜外的)腎摘出術,根治的経腹腔的腎摘出術,根治的経胸腹腔的腎摘出術,根治的腹膜外的腎摘出術,および最も新しい術式である腹腔鏡下腎摘出術がある.最も侵襲の少ないものが腹腔鏡下腎摘出術であるが,現時点では悪性腫瘍を適応とするかどうかは決定していない.腎細胞癌に対しては,通常,根治的経腹腔的腎摘出術が選択されるが,大きな腫瘍や下大静脈腫瘍塞栓を伴うものに対しては根治的経胸腹腔的腎摘出術を行うことが多い.

副腎摘除術

著者: 片桐誠

ページ範囲:P.242 - P.246

 副腎摘除術の対象の多くはCushing症候群,原発性アルドステロン症,褐色細胞腫などのホルモン産生腫瘍である.産生されるホルモンの種類により病態が異なり,高血圧,電解質異常,耐糖能異常などの合併症を有するものが多い.手術を安全に行うためには,各疾患の病態を正確に把握し,これを可能な限り是正して種々の合併症を如何に管理するかがポイントとなる.また,術後はホルモン過剰分泌が急速に除去されることによる生体反応が生ずるので,各疾患に応じた術後管理が必要である.

遊離植皮術

著者: 西村正樹

ページ範囲:P.247 - P.249

 遊離植皮術の全身管理は重症熱傷や重篤な基礎疾患を有する患者を除けば健康人に対する待期手術であり,それほど問題となることはなく,したがって局所的な管理が間題となる.局所管理の目的は移植した皮膚の固定であるため,術後は患者に安静度制限を科することになる.それには患者の協力が不可欠のため,術前に十分な説明を行っておく必要がある.また安静度が守れないような小児に対しては植皮片の固定のため圧迫包帯やギプス固定などを追加することがあるが,このギプスや包帯による褥瘡や神経麻痺などの偶発症を確実に避けなくてはならない.

13.内視鏡下外科手術

腹腔鏡下胃局所切除術・腹腔鏡下胃内粘膜切除術

著者: 大上正裕 ,   大谷吉秀 ,   林憲孝 ,   石塚裕人 ,   久保田哲朗 ,   熊井浩一郎 ,   北島政樹

ページ範囲:P.250 - P.253

 胃粘膜癌に対する腹腔鏡下手術として,lesion lifting法による腹腔鏡下胃局所切除術と腹腔鏡下胃内粘膜切除術が行われはじめている.きわめて早期の粘膜癌が対象であるため,病変によっては内視鏡でも辺縁がはっきりしないものもある.本手術法は十分なsurgical marginが確保できることが最大の利点であり,術前の病変の正確な深達度診断とともに病巣辺縁の同定が重要になってくる.マーキング・クリップの留置とその根部の生検による癌陰性の確認は,本法の根治性を確保する意味でもとくに重要な処置と考えている.

腹腔鏡下胆嚢摘出術

著者: 来見良誠 ,   花澤一芳 ,   江口豊 ,   仲成幸 ,   岸田明博 ,   谷徹 ,   柴田純祐 ,   小玉正智

ページ範囲:P.255 - P.261

 侵襲の少ない胆嚢摘出術として腹腔鏡下胆嚢摘出術は爆発的に普及し,現在では標準術式の一つとなってきている.術式導入初期は,内視鏡的逆行性胆道造影を含む比較的侵襲の大きな検査をも術前検査の必須項目と考えていたが,徐々に簡略化され,最近では腹腔鏡下外科手術手技の向上により開腹胆嚢摘出術と同程度の術前検査で十分であるとの風潮になってきている.しかしながら,過去のアンケート結果にも示されるとおり,胆嚢管の誤認による胆管損傷が少なからず認められている.難易度の高い症例への適応拡大による可能性も考えられるが,術前の胆道の精査により回避されるものまで含まれていることも否定できない.術前検査としての胆道精査の重要性とヘリカルCTによる胆道の立体画像の有用性について述べるとともに,腹腔鏡下胆嚢摘出術における術前管理の実際について解説する.

腹腔鏡下大腸部分切除術

著者: 宮島伸宜 ,   山川達郎

ページ範囲:P.262 - P.266

 腹腔鏡下大腸切除術は通常の開腹手術と比べて術後の回復が早く,優れた手術方法である.しかし,比較的断しい手術方法であり,手術時間も長くなりがちなため,術前一般検査は入念に行わなくてはならない.また,腹腔鏡下手術の適応を決定するにあたっては施設の経験や,悪性腫瘍の場合には癌の深達度を術前に十分に把握しておくことが必要である.患者や家族へのインフォームドコンセントも重要で,腹腔鏡下手術の利点ばかりでなく欠点も説明し,理解を得たうえで手術を施行しなければならない.

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術

著者: 木村泰三 ,   和田英俊 ,   吉田雅行 ,   小林利彦

ページ範囲:P.268 - P.271

 腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術における術前管理のポイントは,①インフォームドコンセント(術式,合併症,従来法との比較,対側の不顕性ヘルニアの処置などについて)を得ること,②後壁補強の必要な鼠径部ヘルニアを適応とすること,③心肺機能や出血傾向に関するチェックを行い,高リスク群を除外すること,④十分な腸洗浄処置を行うこと,などである.

胸腔鏡下食道切除術

著者: 川原英之 ,   櫻井孝志 ,   山内健義 ,   河地茂行 ,   山本貴章 ,   井上聡

ページ範囲:P.272 - P.276

 胸腔鏡下手術に共通する利点は,(1)肋間筋の損傷がほとんどなく術後の回復が早い,(2)術後遠隔期での呼吸機能障害が軽い,(3)創の違和感やひきつれが少なく,美容上も優れている,などである.胸腔鏡下食道切除は,一部のリンパ節を除けば従来の開胸食道切除に近い根治度が可能である.手術適応についてはまだ確立されていないが,(1)深達度A1程度まで,(2)高度のリンパ節転移を認めない,(3)分離片肺換気が可能である,(4)高度の胸膜癒着がない,などである.術前検査は基本的には従来の開胸手術に準じるが,胸腔内の触診ができないため術前に十分な検索が必要である.

胸腔鏡下肺部分切除術

著者: 安藤陽夫 ,   市場晋吾 ,   青江基 ,   岡部和倫 ,   山下素弘 ,   伊達洋至 ,   清水信義

ページ範囲:P.277 - P.281

 胸腔鏡下手術は低侵襲に手術が行え,術後の疼痛が軽く創も小さく目立たないことから急速にその適応を拡げている.そのなかでも胸腔鏡下肺部分切除術の適応は広く,診断目的では①確定診断のつかない肺腫瘤性病変,②びまん性肺疾患,③胸水貯留性疾患や胸膜疾患の臓側胸膜病変の診断,治療目的では①気胸・気腫性肺嚢胞,②良性肺腫瘍、③非腫瘍性肺病変,④転移性肺腫瘍,⑤原発性肺癌(縮小手術)の治療が適応となる.胸腔鏡下肺部分切除術の術前患者管理は基本的には開胸手術のそれと同様であるが,呼吸機能の評価と禁煙と低肺機能患者での呼吸訓練が重要である.

14.内視鏡的手術

内視鏡的食道・胃静脈瘤硬化療法

著者: 田尻孝 ,   恩田昌彦 ,   鳥羽昌仁 ,   梅原松臣 ,   吉田寛 ,   金徳栄 ,   山下精彦

ページ範囲:P.283 - P.288

 食道・胃静脈瘤に対する内視鏡的硬化療法は近年急速に普及し,治療の第一選択となりつつある.しかし,治療の対象となる患者は門脈圧亢進症を有しており,その原因の大半が肝硬変症である.したがって,本法を行うにあたっては入院より術当日までの術前管理が重要なポイントとなる.まず,治療にあたってはインフォームドコンセントが重要であり,患者本人や家族に本法について十分に説明をして理解を得る.つぎに,適切な検査計画をたて,患者の病態やリスクを的確に把握し,厳密に治療適応を検討する.また,術前に肝機能や栄養状態をできるだけ改善して治療に臨むことが合併症を予防するうえで重要である.

内視鏡的食道・胃静脈瘤結紮術(EVL)

著者: 橋爪誠 ,   御江慎一郎 ,   津川康治 ,   田上和夫 ,   富川盛雅 ,   太田正之 ,   杉町圭蔵

ページ範囲:P.289 - P.294

 内視鏡的食道・胃静脈瘤結紮術(EVL)の術前管理においては,患者の肝機能だけでなく,心肺腎機能を含めた全身の状態を十分に把握することはいうまでもないが,門脈血行動態を十分に把握し,その病態に応じた治療法を選択することが最も重要である.そのためには,一般的な検査のほかに,超音波ドプラ検査,経皮経肝的門脈造影などを施行し,門脈血行動態を検討する必要がある.近年,比較的合併症が少なく手技が簡単であることから,静脈瘤治療においてはEVLが主体をなしている.しかし本邦では,長期の出血予防のためにEISを併用する施設が多い.

内視鏡的食道・胃粘膜切除術

著者: 井上晴洋 ,   谷雅夫 ,   永井鑑 ,   河野辰幸 ,   吉野邦英 ,   竹下公矢 ,   遠藤光夫

ページ範囲:P.296 - P.298

 内視鏡的粘膜切除術は,局所治療でありながら病理組織学的検索に供する標本を獲得できることから近年急速に広まりつつある.その実施にあたっては,適応基準を順守すること,また正確な術前診断をつけるために十分な検査を施行することが重要である.また,切除したあとにおいても,病理からの報告によっては手術を含んだ追加療法の必要性が生じることがあることをインフォームドコンセントとして与えておくことが必要である.

内視鏡的乳頭切開術

著者: 田川一海

ページ範囲:P.300 - P.303

 内視鏡的乳頭切開術(以下,EST)は総胆管結石症治療の第一選択であり,閉塞性黄疸に対する経乳頭的ドレナージや胆道疾患の診断のための手技としても広く行われている.総胆管結石の截石成功率は90〜95%と高い.術前検査では,ERCPにより総胆管結石の数・大きさ,胆管や胆嚢の形態的変化を診断することが重要で,砕石術付加が必要かを判断せねばならない.術前管理では,しばしば合併する胆管炎,膵炎の診断と治療が重要である.これらの重症例では,緊急に経乳頭的ドレナージやEST・截石を施行しなければならない場合がある.胆嚢有石例では,EST後に腹腔鏡下胆嚢摘出術を行うことで,侵襲の少ない治療が可能になった.

内視鏡的胃瘻造設術

著者: 奥脇秀一郎

ページ範囲:P.305 - P.308

 内視鏡的胃瘻造設術(以下,PEG)は,外科的手術に匹敵する内視鏡手術の1つであり,安全で迅速に施行することができる.PEGは,高カロリー輸液と違い,正常腸管を使用するためより生理的ルートで栄養を補給することができ,従来の経鼻栄養と比べてもより美容的で優れている.本邦に導入され10年以上経過しているが,定着しているとはいいがたい.現在,本邦は高齢化社会に直面し,在宅医療の方向が明らかとなった.本稿では,PEGに対するインフォームドコンセント,術前管理を中心に述べるとともに,新しいボタン式胃瘻キットを紹介し,PEGの栄養瘻以外の概念(減圧瘻)にも触れ,その有用性を見直し理解して頂きたい.

Ⅱ.特殊な病態の術前患者管理 1.循環器系

心不全

著者: 田中寿英

ページ範囲:P.310 - P.311

 術前に心不全が疑われた場合,その重症度の評価とともに心不全の原因となっている原疾患,運動能力の程度,手術自体の心循環器系へのリスクを総合して検討する必要がある.原疾患の中で術前に最も問題になるのは虚血性心疾患である.その他に心不全を起こす原疾患として弁膜症,高血圧性心疾患,心筋症,高齢者に不整脈を伴う例などがある.また心不全増悪因子,あるいは術中,術後に間接的に血行動態に影響する要因,貧血,甲状腺機能異常,糖尿,腎機能不全,慢性肺疾患などの精査も必要である.さらに心不全やそれに伴う合併症の治療薬の検討も重要で,特にジギタリス剤は高齢者や腎機能低下例では必ず血中濃度の測定が必要である.抗不整脈剤や抗凝固剤(抗血小板剤)もしばしば心不全時に使用されており,それらの知識と管理が大切である.さらに弁膜症などでは術後の感染性心内膜炎の予防対策も重要である.また術前に術後第2〜4病日に心不全をきたしやすいという知識をもって術後管理の対策を講じる必要がある.
 緊急手術例を除いて,術前に心不全があるか既往がある場合,次のようなアプローチが勧められている1)

高血圧症

著者: 森下清文

ページ範囲:P.312 - P.314

はじめに
 高血圧症を有する患者で術前管理が問題となるのは,脳・腎・心など重要臓器に障害を合併する場合である.また,外科治療を必要とする高血圧症が存在すれば,予定術式に影響を及ぼすため,把握しておくことが重要である.本稿ではこれら問題を有する高血圧症に焦点を絞り,術前管理の実際について述べる.

頻脈,徐脈,不整脈

著者: 加戸靖 ,   今村洋二

ページ範囲:P.315 - P.317

 術前に不整脈を有する患者では,手術時の麻酔(ことに全身麻酔)の影響,輸液,電解質のアンバランス,血圧の変動などにより不整脈が増悪することがしばしば認められる.場合によっては急激な循環動態の悪化をきたし不幸な転帰をたどることがある.術前の評価は不整脈の原因と予定している手術侵襲度,周術期侵襲度を考慮した対策が必要となる.

虚血性心疾患

著者: 森下靖雄 ,   石川進

ページ範囲:P.318 - P.320

術前検査と重症度の判定(表1)
 狭心痛の特徴は胸骨後面に感ずる圧迫感や絞扼感であるが,時に左上肢,頸部,舌下部への放散痛を伴う.発作は通常数分で治まるが,30分以上持続する場合には心筋梗塞を考慮する必要がある.

脱水症

著者: 中根恭司 ,   山中英治 ,   日置紘士郎

ページ範囲:P.321 - P.323

 脱水症は水分の欠乏のみでなく,電解質(特にNa,K)異常を合併していることが多い.従来より高張性,低張性,混合性の3つに分類されているが,一般外科領域において遭遇する脱水症は,ほとんどが混合性脱水症である1).したがって術前管理においては,水分管理とともに電解質管理がきわめて重要である.

酸塩基平衡・電解質異常

著者: 古井純一郎 ,   兼松隆之

ページ範囲:P.324 - P.326

術前検査と重症度の判定(表1)
 酸塩基平衡,電解質異常の診断にあたっては,病歴を詳細に聴取し,臨床症状や理学所見を把握し,さらに臨床検査所見を明確に解析する必要がある.

貧血

著者: 卜部元道 ,   溝渕昇

ページ範囲:P.327 - P.329

概念・定義
 貧血とは単位容積血液中の赤血球数あるいはヘモグロビン量が正常値に比べて低下した病態の総称であり,単一の疾患ではない.一般的に,成人男性は赤血球数400×104/μl以下,ヘモグロビン値13.0g/dl以下,成人女性は赤血球数350×104/μl以下,ヘモグロビン値11.0g/dl以下の場合に貧血と判断し,検索をすすめる.

2.呼吸器系

気管支喘息

著者: 曽我浩之 ,   伊達洋至 ,   安藤陽夫 ,   清水信義

ページ範囲:P.330 - P.332

 気管支喘息患者の術中術後の合併症には,気管支痙攣,気道分泌亢進,低酸素血症,高炭酸ガス血症,無気肺,呼吸器感染症などがあり,重篤な経過をとる場合もある.本稿では,喘息の基本病態と合併症を防止するための術前管理のポイントについて述べる.

低肺機能

著者: 小林紘一

ページ範囲:P.333 - P.335

はじめに
 低肺機能の患者には術後合併症が高頻度に発生するが,肺機能に問題がなくても開腹術や開胸術など横隔膜に近い部位の手術後には深吸気量,肺活量や機能的残気量が減少し,動脈血酸素分圧が低下することが知られている.麻酔法,外科治療や術後管理に関する知識や技術が進歩し,高齢者やpoor riskの患者にも手術適応が拡大されてきているが,術後合併症で患者が苦しむことのないよう術前からの十分な対処が重要である.

間質性肺炎・肺線維症

著者: 河野匡 ,   古瀬彰

ページ範囲:P.336 - P.337

 間質性肺炎IIP(idiopathic interstitial pneu-monia)は,UIP(usual interstitial pneumonia),DAD (diffuse interstitial damage),BOOP(bronchiolitis obliterans organizing pneumo-nia),DIP(desquamative interstitial pneumo-nia),LIP(lymphocytic interstitial pneumonia)などに分類されるが,手術適応や術前準備と関連するのはその症例の重症度である.間質性肺炎や肺線維症を有する症例に対して手術を行う場合,これらの疾患が手術の対象となる場合と,これらの疾患が手術の対象疾患の合併症である場合がある.欧米などで行われている間質性肺炎,肺線維症症例に対する肺移植手術は当面わが国で行われる見込はなく,間質性肺炎や肺線維症自体が手術によって軽快する疾患ではないため,これらが手術の対象となる場合には基礎疾患(表)を診断するための生検が手術の主たる目的となる.これらが合併疾患となる場合には手術の対象疾患によって手術の術式が異なる.

慢性気管支炎

著者: 吉田治 ,   呉屋朝幸 ,   輿石義彦 ,   柳田修 ,   小林ゆかり

ページ範囲:P.338 - P.339

慢性気管支炎の病態
 ここでは慢性気管支炎を[肺,気管支,上気道の限局性病巣によらないで起こる慢性持続性の痰を伴う咳を示す疾患]と単純に割り切ることにする.外科の術前・術後管理あるいは麻酔管理上wetcaseとして問題になる疾患群とする.この疾患群では気道の粘液分泌構造の肥大増生が起こり,粘液性分泌物が過剰に生成されることを基本病像とする.したがって,本疾患患者は痰を長期間にわたって喀出し,多くの場合は痰を喀出するために持続的に咳嗽を続ける.病期が進行すれば,肺気腫のように持続性の息切れが出現し,急性増悪期には喘息様の症状を呈するようになる.胸部X線検査では肺紋理の増強を見るが,異常所見を指摘できないことも多い.細菌感染は二次的であるが術後肺炎対策上は術前の細菌検査は必須である.インフルエンザ菌と肺炎球菌が多いとされる.
 鑑別すべき疾患としては,①気管支喘息,②肺気腫,③気管支拡張症がある.

3.消化管系

潰瘍性大腸炎

著者: 藤井久男 ,   中野博重

ページ範囲:P.340 - P.342

はじめに
 潰瘍性大腸炎手術患者は一般の消化管手術患者に比し若いが,広範な大腸の炎症や炎症の持続により消耗し,見かけより全身状態が悪い場合が多い.

幽門狭窄

著者: 相浦浩一 ,   納賀克彦

ページ範囲:P.343 - P.344

 幽門狭窄とは,胃幽門前庭部から十二指腸球部にかけて発生した癌あるいは消化性潰瘍の瘢痕化により,同部消化管径が細くなり通過障害が生じた状態である.手術の絶対的適応であるが,緊急手術になることはきわめて少ない.ここでは,悪性幽門狭窄に絞って術前管理のポイントを概説する.

イレウス

著者: 藤崎真人 ,   平畑忍 ,   前田大 ,   長谷川博俊 ,   和田徳昭 ,   小島由光 ,   滝沢健次郎 ,   関根和彦

ページ範囲:P.345 - P.346

 外科的治療が必要とされる機械的イレウスは,閉塞部位により小腸イレウスと大腸イレウスに,また,閉塞の状態により単純性と複雑性(絞扼性)に大別される.それぞれに病態が違うので一概には論じられないが,大腸イレウスは閉塞性腸炎や敗血症を併発して重篤化することがあり,より素早い対応が必要である.また,小腸イレウスでは絞扼性か否かを判断することが非常に重要で,診断の遅れは時として重大な結果をもたらすことがある.

4.肝・胆道系

肝炎

著者: 松田政徳 ,   松本由朗

ページ範囲:P.347 - P.348

肝炎合併患者の術前診断
 肝臓にびまん性の炎症をきたす疾患のうち,術前臨床的に問題となるのは,ウイルス肝炎,薬剤性肝炎(アレルギー性肝障害),自己免疫性肝炎,アルコール性肝炎である.ウイルス肝炎の中では,A,B,C型ウイルス肝炎が重要であり,診断は各種のウイルスマーカーの血液検査によって可能である,ウイルス肝炎の重症度の判定は,一般的にはトランスアミナーゼ値の上昇の程度によって行われるが,肝臓におけるタンパク合成能による評価や肝生検(特に慢性肝炎)も重要である.薬剤性肝炎は,薬物の内服歴の聴取,末梢血中の好酸球増加,薬物感受性試験(リンパ球培養試験,皮膚試験)などを参考にして診断する.自己免疫性肝炎が疑われた場合は,γ—グロブリン値,抗核抗体,抗平滑筋抗体,抗肝細胞膜抗体,抗アシアロ糖蛋白レセプター(ASGR)抗体,肝腎マイクロゾーム(LKM)抗体などを検索する.アルコール性肝炎の診断は飲酒歴の聴取とALT優位のトランスアミナーゼの上昇,γ—GTPの上昇を参考に診断する.

肝硬変

著者: 平岡武久

ページ範囲:P.349 - P.351

はじめに
 肝硬変患者に手術を行う場合には,とりわけ細心な配慮が要求される.肝硬変患者には,各種重要な生命維持に必要な機能低下がみられ,手術のリスクが高いことが知られており,また術後肝不全が起きたら,その根本的治療は現状ではない.そこで,術前肝機能を十分に評価することは,きわめて重要である.
 肝硬変患者において,肝切除を行う場合と肝切除以外の手術を行う場合があり,前者の場合には,特に肝機能の評価を厳密に行う必要がある.

門脈圧亢進症

著者: 本原敏司 ,   奥芝俊一 ,   高橋利幸 ,   道家充 ,   奥芝知郎 ,   金谷聡一郎 ,   加藤紘之

ページ範囲:P.352 - P.354

はじめに
 門脈圧亢進症では80%以上の症例が肝硬変症を基礎疾患とする.そのため術前の肝機能障害の重症度および肝予備能の把握は,手術適応の決定や術中・術後管理に際して重要なポイントとなる.肝予備能評価としてはChildの肝障害度分類がよく用いられるが,プロトロンビン時間を加えたPugh分類のscoreも有用である.またICG停滞率(R15)や血漿消失率(KICG)も広く用いられている.術前内視鏡検査では,Red Color(RC)Sign陽性の食道胃静脈瘤は破裂の危険性が高いRisky Varicesと認識して緊急的処置も考慮しておく必要がある.一方,静脈瘤の背景にある門脈血行動態の正確な把握のためには,選択的上腸間膜動脈造影などの門脈相所見の検討が必須である.さらに静脈瘤内の血流方向と流速とを非侵襲的かつ迅速に判定し得る手段として,経内視鏡的マイクロバスキュラー・ドップラー血流計(EMDS)による血行動態の評価も有用である1)

閉塞性黄疸

著者: 山名秀明 ,   堀内彦之 ,   平城守 ,   白水和雄 ,   荒木恒敏

ページ範囲:P.355 - P.357

 閉塞性黄疸は,肝胆膵領域の種々の疾患によって発症する重篤な病態であり,様々な病状に応じた迅速かつ適切な検査・処置・管理によって全身状態の改善を図るとともに原因疾患を鑑別し,手術適応を含めた治療方針の決定が必要な救急性疾患である.

慢性胆嚢炎

著者: 田辺博 ,   伊藤英夫 ,   飯田豊 ,   山内希美 ,   渡辺進

ページ範囲:P.358 - P.359

術前検査と重症度の判定
 血液検査において炎症の程度(WBC,CRP),肝障害の程度(GOT,GPT),胆汁うっ滞(ALP,γ-GTP,T.Bil.,D.Bil.)などによる胆管障害の程度を判定することが必要となる.
 さらに画像診断が重要な診断法となるが,通常は体外式腹部超音波検査(US)が主体となる.所見については胆嚢の大きさ,結石の有無,胆嚢内容物の性状,胆嚢粘膜病変,胆嚢壁内・壁外病変(壁肥厚,壁内結石,胆嚢周囲の膿瘍,腹水),胆嚢の周囲臓器への炎症の波及状態を見ることが必要となる.また内視鏡的超音波検査(EUS)を行い胆嚢内部の状況をより明確にすることも可能である.

5.内分泌・代謝系

糖尿病

著者: 土井隆一郎 ,   井上一知 ,   今村正之

ページ範囲:P.360 - P.362

術前検査と重症度の判定
 外科医は,まず外科手術対象症例における糖尿病の割合がきわめて高いことを認識すべきである.手術対象症例の高齢化,および日本人の食生活における過食傾向および偏食傾向によって近年この割合は確実に増加している.外科患者における糖尿病の扱いの第一歩は,病歴によって聴取しうる糖尿病の既往症のみならず,潜在的に存在し外科手術によって顕在化しうる自覚症状のないレベルの糖尿病までをも確実に把握することである.このために必要な検査を術前に施行し(表1),糖尿病の重症度を判定する(表2).糖尿病状態においては,内因性のインスリンの絶対的,相対的不足による糖代謝の異常のみならず,糖代謝異常によってもたらされる低栄養,脂質,蛋白質代謝の異常,電解質異常,脱水が存在する.さらには長期間にわたる糖尿病の合併症として,全身性の血管硬化,重要臓器の機能低下,感染に対する抵抗の減弱などがある.以上のことを念頭に置いて術前検査により病態を十分に把握しておく.

甲状腺機能障害

著者: 清水輝久

ページ範囲:P.363 - P.364

 甲状腺機能障害には,甲状腺ホルモンの過剰分泌による甲状腺機能亢進症と過少分泌による甲状腺機能低下症があり,術前管理のポイントとしては,甲状腺機能をいかに正常な機能(euthyroid)にコントロールして手術に臨むかが重要である.術前より機能障害に対して十分な治療が行われていれば問題はないが,未治療の場合には,甲状腺クリーゼをはじめとして術中・術後種々の重篤な合併症が生じ,治療に難渋する.したがって,その対策には予防がまず第一で,術前甲状腺機能障害を正しく評価し,できるだけ正常に是正しておく必要がある.

6.腎・尿路系

急性腎不全

著者: 大竹喜雄

ページ範囲:P.365 - P.366

血液浄化法の現状
 最近の血液浄化法の進歩は著しく,急性腎不全の術前管理も従来の方法と大きく変わった1).その大きな理由としては,持続的血液浄化法である持続的血液濾過(continuous hemofiltration,CHF),持続的血液濾過透析(continuoushemodiafiltration,CHDF)2)と抗凝固剤3)の発達があげられる.血液浄化法を施行するには抗凝固剤が必須であるが,手術に際しては,術中,術後においては出血が最も重篤な合併症である.したがって,従来は緊急手術において術中,術直後に血液浄化法を施行することなど考えも及ばなかったことである.さらに間欠的血液浄化法に比し持続的血液浄化法は多くの点で有用性は認めるものの長時間にわたって抗凝固剤を用いることもあり,出血性合併症の最も危惧される周術期には施行は困難であった.それを可能にしたのは,蛋白分解阻害剤であり膵炎や播種性血管内凝固(DIC)に対して用いられるnafamostat mesilate(NM)が抗凝固作用があり,血液浄化法の抗凝固剤として用いられるようになったためである.NMの抗凝固剤として優れているのは半減期が5〜8分と適度であるため,体外循環している時には血液が凝固するのを防止し,体内に入ると活性がなくなり出血を助長しない点である.

慢性腎不全

著者: 郷秀人 ,   斎藤和英 ,   武田正之

ページ範囲:P.367 - P.368

術前検査と重症度の判定
 腎機能障害による合併症は表1に掲げるように循環器,呼吸器をはじめ多臓器にわたって起こりうる.したがって,手術目的に腎不全患者が入院した場合には,これらの合併症の有無につき注意を払う必要がある.しかし,これらすべてにつき詳細に検査をする必要はない.ある程度腎機能障害患者として管理されてきている症例であれば,術前検査としては表2に掲げる検査で十分であろう.また,入院時まで腎機能障害を指摘されていない症例もある.腎臓には予備力があり,多少の機能低下では血中尿素窒素や血中クレアチニン値が上昇してこないことがある.手術を予定する場合は,術前腎機能の評価としてクレアチニンクリアランス(Ccr)の値で重症度を評価し,管理するとよい1).その方針を表3に示す.

前立腺肥大症

著者: 森啓高 ,   岡田謙一郎

ページ範囲:P.369 - P.371

はじめに
 前立腺肥大症(BPH)は高齢者の疾患であり,組織学的には60歳以上の男子の60%以上に認められる.このうち臨床的に問題になるのは10〜47%程度であろうと推測される1).我が国の高齢化は急速に進んでおり,65歳以上の男子人口は,1990年の601万人から2010年の1,187万人へとほぼ倍増するものと推計されている2).これに伴い,一般外科術前の合併症としてBPHの頻度も増加すると思われる.

7.感染症

HIV感染症

著者: 森武生 ,   高橋慶一 ,   安野正道

ページ範囲:P.372 - P.374

はじめに
 1982年に初めてのAIDS患者が報告されて以来,アメリカとアフリカを中心にHIV感染者は幾何級数的に増加してきた.この間外科的手術に関しても幾つかの報告がなされ,試行錯誤が繰り返されてきた.近年になり大体のアウトラインができたように思えるが,未だに詳細については不明の点が多い.特に手術適応の決定に関しては,欧米でも各施設により大きな隔たりがあり1,2),これは各外科医の哲学によるところが多く,症例数の少ない日本にとってはどのように考えるかについて迷うところである.本稿においては基本的な考え方を述べるにとどめ,詳細については将来の結論に待ちたいと考える.

STD感染症

著者: 磯山徹

ページ範囲:P.375 - P.376

はじめに
 性感染症(sexually transmitted diseases,STD)は古くて新しい病気であり,近年の抗生剤の開発にもかかわらずその患者数は横這いないしやや減少程度である1).本症は原則として薬剤療法にて治療される疾患であるが,合併症が発生した時には外科的治療の対象になる.また手術患者に本症が認められた際には,術前に本症の治療を行うことが原則であり,特に本症が術後に悪影響を与えることが懸念される場合や,治療に携わる医療関係者への感染が危惧される場合には,できる限り術前に本症の治療を行うべきである.本稿では STD の特徴と治療を中心に述べたいが,HIV感染症に関しては前項に解説されているためここでは述べない.

敗血症

著者: 谷徹 ,   蔦本慶裕

ページ範囲:P.377 - P.378

症状と診断
 敗血症は従来,遠隔臓器にも障害を起こす感染症と考えられ,血中に菌を同定することが必要とする考えもあったが,明確な定義は存在しなかった.現在敗血症は感染症に起因したSIRS(Sys-temic Inflammatory Response Syndrome)と定義することができ1),その診断としては,全身的な炎症の存在,明らかな感染(巣)の存在,血行動態の異常などを確認することが必要である.症状は頻脈,呼吸促進,体温の変化,白血球増多・減少などで示される感染に対する全身反応として出現し,ショックの場合温かく紅潮した皮膚が特徴(warm shock)とされ,その極期には皮膚蒼白,四肢冷感・チアノーゼなどが観察される.

MRSA感染症

著者: 小棚木均 ,   田中淳一 ,   小山研二

ページ範囲:P.379 - P.380

はじめに
 MRSA感染症は,1)主に術後感染症(腸炎,肺炎,腹腔内感染症など)として発症し,2)発症後の病態の進展が急激で重症化しやすい,3)日和見感染としての性格をもつ,4)有効な抗生物質が少ない,5)院内感染としての対策が必要になる,などの性格を有する1).現在,MRSAは広く蔓延しているため,これを根絶することは不可能である.それゆえ,感染の予防よりMRSA保菌者の発症の予防に主眼を置いた対処が術前からなされなければならない2)

真菌感染症

著者: 伊藤史人 ,   世古口務 ,   山本敏雄 ,   中村菊洋 ,   下村誠 ,   高木馨子 ,   稲守重治

ページ範囲:P.381 - P.382

はじめに
 本来真菌は皮膚や消化管に常在するフローラでありヒトに対する病原性は低く,これが感染症として臨床的に発現するには宿主の免疫能低下や,抗生剤による常在菌叢の破壊などの要因が存在する必要がある.近年深在性真菌感染症に遭遇する機会は増加しているが,このほとんどはカンジダによるものである.本稿では術前どのような患者をカンジダ感染のハイリスクグループとして注意すべきか,またカンジダ血症が疑われる患者に対してなすべき検査,治療につき述べる.

8.精神・神経系

精神障害

著者: 保坂隆

ページ範囲:P.383 - P.384

はじめに
 手術を受ける前の患者は麻酔や手術自体あるいは術後の痛みなどについて不安をもつことが普通であり,主治医や看護婦は保証や支持などの,広い意味での「支持的精神療法」を日常的に行っている.しかし,神経症などもともと不安が中心症状である疾患や,より重篤な他の精神・神経系の疾患を有した患者の場合には,特別な配慮が望ましいことになる.精神科医が常勤・非常勤でいる場合には,精神科的な評価や対応をすぐに相談できるが,ここではそのような専門医がいない場合を想定して,外科医に必要な患者管理を述べる.

脳血管障害

著者: 阿部琢巳

ページ範囲:P.385 - P.387

はじめに
 脳卒中という頭蓋内の“事件”は脳浮腫,脳腫脹といった二次的な病態を合併し,脳ヘルニアを引き起こす.脳ヘルニアの悪化は,死亡(脳死)につながる.したがって,緊急手術を必要とする場合が多く,早期診断,迅速な対応がその患者の生命予後ならびに社会的予後を大きく左右する.

Ⅲ.注意すべき状態の術前患者管理

高齢の患者

著者: 平松毅幸 ,   谷若弘一 ,   内田宏昭 ,   金沢孝満 ,   高林直記 ,   小林亮 ,   原宏介 ,   富山次郎

ページ範囲:P.390 - P.391

術前検査と重症度の判定
 手術の危険因子の一つとして「高齢の程度」を評価するには,まず,全身の動脈硬化の度合を知ることが重要である.
 動脈硬化症の重症度の判定に関しては,我々は,脳動脈硬化症では6か月以内に脳卒中発作(一過性虚血発作を含む)の既往のある者や頸動脈硬化の著明な者を重症群,6か月以前に脳卒中発作の既往のある者を中等症群としている.冠動脈硬化症では心筋梗塞発作の既往のある者,内科治療の有効でない狭心症患者を重症群,症状のコントロールされている狭心症患者を中等症群としている.さらに,加齢とともに脳・冠動脈硬化症は進行するので,すべての70歳以上の老年者は無症状でも軽症群として扱っている.

乳幼児の患者

著者: 伊藤不二男 ,   安藤久實 ,   伊藤喬廣

ページ範囲:P.392 - P.393

 乳幼児期の外科的疾患のうち,特殊な疾患は小児医療専門施設にて治療されることが多いので,本稿では一般病院においても比較的遭遇する頻度が高い,肥厚性幽門狭窄症を中心とした上部消化管通過障害の術前管理について述べる.

肥満の患者

著者: 宮沢幸正 ,   落合武徳 ,   川村功 ,   磯野可一

ページ範囲:P.394 - P.395

術前検査と重症度の判定
 肥満とは体内に脂肪が過剰に蓄積した状態と定義されている.肥満の判定法としては,①標準体重法,②体格指数,③体組成の分析による体脂肪量測定法等があるが,詳細は他文献1)を参照していただきたい.肥満患者の術前判定として最も重要なことは,その患者が単純性肥満か症候性肥満かを診断することである.前者は特別な原因疾患なしに過食と運動不足で起こるものであるが,後者は内分泌疾患等の原因疾想を認めるもので,症候性肥満ではまずその原因疾患を治療することが必要である.また単純性肥満においても最近では臍の高さでのCT像により内臓脂肪(visceralfat:V)と皮下脂肪(subcutaneous fat:S)の比をとるV/S比を用い,V/S比0.4以上を内臓脂肪型肥満,0.4未満を皮下脂肪型肥満と分類し,内臓脂肪型肥満のほうが合併症が多いとされており2),単に体重の多い少ないのみでなく脂肪の分布に対する評価も必要とされる.また肥満患者においては呼吸器系,循環器系,内分泌・代謝系疾患の合併が多く,これらの検索を行う必要がある.特に男性の高度肥満患者においては突然死の原因となる睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syn-drome)のチェックは必要であり,そのためにsleep studyを行う必要がある.

低栄養の患者

著者: 平山克

ページ範囲:P.396 - P.398

はじめに
 手術の対象となる疾患で代謝栄養管理を必要としない疾患はほとんどないが,中でも外科系疾患,とくに進行癌に代表される消化器疾患を有する症例は,程度の差はあれ栄養障害を伴っている場合が多く,代謝栄養管理の持つ意義は重要である.
 栄養状態が,手術に伴う創傷の治癒機転のみならず,感染に対する生体の防御能力など免疫能とも密接に関連していることはよく知られている1).したがって,栄養状態が不良な症例において術後合併症が好発することは当然ともいえる.

透析中の患者

著者: 小池正 ,   久保田和義 ,   井上彰 ,   高野裕 ,   荒瀬勉 ,   伊藤洋二 ,   太田秀男 ,   草野満夫

ページ範囲:P.399 - P.400

はじめに
 維持透析患者は年々増加し,これに伴いこれらの患者の手術に遭遇する機会も多くなってきた.透析患者の手術では全身麻酔下のみならず,局麻下の手術に際しても術中,術後の合併症をきたす頻度は高く,術前検査により全身状態をできるだけ綿密に把握することが重要で,術前から細心の注意を払うことが大切である.

妊娠中の患者

著者: 久保田俊郎 ,   麻生武志

ページ範囲:P.401 - P.402

はじめに
 妊娠中の患者を手術する際には,妊娠そのものによる生理的変化と妊娠子宮の影響,さらに胎児への影響を考慮しなければならない.したがって,原疾患の危険状態に対する母体への緊急度,手術の必要性,妊娠時期,母児の予後などについて,外科医と産婦人科医との間で十分協議することが大切となる.また,術前検査についても慎重に施行されるべきであり,特に産科的なものも含めた厳重な系統的診察が必要である.

月経中の患者

著者: 塚崎克己 ,   中川博之 ,   野澤志朗

ページ範囲:P.403 - P.404

 月経は視床下部—下垂体—卵巣系のステロイドホルモンの相互作用によって制御される卵巣ホルモンの周期性変化に,子宮内膜が反応することによって発来する.実際には,卵巣の黄体より分泌され,高値を呈したエストロゲンやプロゲステロンが,急速に血中より消退することによって(図),子宮内膜組織の壊死・出血・剥離が起こり月経が始まる.この急激なホルモン環境の変化により,全身的な変化が月経直前や月経期に起こってくる(表)1)

DICの患者

著者: 田中一郎 ,   大越修 ,   住吉賢 ,   根本賢 ,   小森山広幸 ,   生沢啓芳 ,   金杉和男 ,   萩原優

ページ範囲:P.405 - P.406

 DICは重篤な基礎疾患があり,組織因子の血管内注入や血管内皮細胞障害などの原因により血液凝固機序が活性化され,全身の細小血管内での血栓の多発による臓器障害と二次線溶亢進による出血傾向が生ずる病態である.
 DICの原因となる疾患は多種あるが,外科領域で経験することが多いのは悪性腫瘍や重症感染症を伴う疾患である.完成されたDICは多臓器不全を併発し不可逆性となりやすいので,DIC準備状態の時期に早期に治療を開始すべきである.

副腎ステロイド使用患者

著者: 浅原利正 ,   土肥雪彦 ,   吉岡伸吉郎 ,   岡島正純 ,   片岡健 ,   杉野圭三 ,   丸林誠二 ,   八幡浩

ページ範囲:P.407 - P.408

 副腎皮質ホルモンには大きく分けて,mineral-corticoidとglucocorticoidの2つがあるが,本稿では一般的で使用頻度の高い glucocorticoid(cortisol)の投与を受けている患者について述べる.

抗凝血薬服用患者

著者: 小須賀健一 ,   青柳成明 ,   押領司篤茂 ,   西義勝 ,   木下寿文 ,   今山裕康 ,   中山和道

ページ範囲:P.409 - P.410

 近年,開心術の目ざましい進歩により,心臓手術後の患者の長期生存が得られるようになり,大動脈—冠動脈バイパス術後や,人工弁置換術後,先天性心疾患姑息手術後等には,抗凝血薬であるワーファリン(warfarin potassium)を服用しながら,社会復帰する症例が稀ではなくなり,一般外科医や歯科医が心疾患以外の疾病のため一般外科手術や抜歯等を必要とする機会が増加している.
 心臓手術後の一般外科治療の際に問題となるのは,心機能をはじめ,抗凝血療法に起因する後出血,人工弁置換術後では,血栓塞栓症,人工弁の感染など人工弁固有の合併症の発生や,A-Cバイパス,先天性心疾患における血管吻合術後の患者では,それらの吻合血管の閉塞は致命的な合併症となり,周術期における抗凝血薬の管理はきわめて重要となる.

止血機能障害の患者

著者: 山下裕一

ページ範囲:P.411 - P.412

 外科治療の対象となる患者は,出血という危険性を考慮して術前検索を行う必要がある.止血機能障害を有する患者は,血小板,凝固因子,線溶系因子または血管に異常を有し,それらが単独または複合して出血傾向として術中・術後に外科治療が困難になる危険性を有している.出血傾向の原因となる疾患は,血小板減少症をきたす各疾患,遺伝性凝固因子欠乏症,重症感染症や癌疾患に伴うDICなどの病態などが挙げられる.したがって,顕性または不顕性の出血傾向を有する患者を術前に見落としなくスクリーニングし,術前にその状態を改善させ,術中に相応の対処ができるよう準備し手術に臨めるようにしなければならない.

外傷の患者

著者: 今成朋洋

ページ範囲:P.413 - P.415

 外傷患者の診断と治療においては,局所の損傷のみに目を奪われることなく,全身状態を把握しながら,すぐにはじめなければならないことと,後回しにできることとを,すみやかにそして的確に判別し,手順よくすすめていくことが大切である.

熱傷の患者

著者: 白川洋一 ,   越智元郎 ,   前川聡一

ページ範囲:P.416 - P.417

術前検査と重症度の判定
 熱傷患者の病態は,①熱傷創それ自体の重症度と,②受傷後の時間経過という2つの因子に左右される.したがって,この両者を正しく把握することが術前管理には不可欠となる.

癌化学療法後の患者

著者: 鈴木力 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.418 - P.420

 近年,術前化学療法(neoadjuvant chemother-apy)は多くの悪性腫瘍に対し集学的治療の一環として行われるようになってきた.本稿ではこのような術前化学療法を受けた患者の術前管理についてその要点を述べる.

放射線治療後の患者

著者: 鈴木和信 ,   早瀬仁滋 ,   山崎達之 ,   鈴木敬二 ,   小柳泰久

ページ範囲:P.421 - P.424

術前放射線治療の目的
 術前放射線治療は,現在消化器領域では,食道癌,胃癌,直腸癌と幅広い臓器にわたり施行され,効果を得ている.また,近年,術前放射線治療に化学療法や免疫療法を併用するようになり,より一層の成果をあげるとともに,思わぬ合併症を招くことも少なくない.正しい目的で,術前管理がなされることが大切である(表1)1)

Ⅳ.術前一般検査—異常値の読みとその対策

循環器機能の検査

著者: 鬼塚敏男

ページ範囲:P.426 - P.430

 一般外科手術においても手術適応の拡大により,高齢者の手術例の増加とともに,動脈硬化による臓器機能不全の合併率も高くなり,手術の適応決定に際し循環器機能を正しく評価しなければならない.ここでは一般外科手術を前提にした術前の循環器機能検査と評価さらに対策について述べる.

呼吸器機能の検査

著者: 藤川貴久 ,   武田博士

ページ範囲:P.431 - P.433

はじめに
 全身麻酔を必要とする手術の際には,術前に十分な肺機能の評価が必要となる.術中の致命的な低酸素血症および高炭酸ガス血症を避け,さらに術後の肺合併症を最少にするためにも,術前の肺機能を正しく評価し把握しなければならない.

止血機能の検査

著者: 篠木信敏 ,   上林純一

ページ範囲:P.434 - P.437

はじめに
 手術に際して,止血機構の必要かつ十分な評価が必要であることは言うまでもないが,止血機構は,血小板と血管壁が関与する一次止血機構,凝固反応が主役である二次止血機構,線溶系とさらにそれらの活性化を調節する制御系より構成される.生体にとって合目的な止血反応が破綻すると,出血異常,血栓症やそれに伴う臓器不全,創傷治癒の遅延などの重篤な病態が発症する.すなわち,止血機構の役割は単に血栓の形成による失血の防止だけでなく,血液流動性の維持や組織修復など多くの重要な生体反応に関与している.近年,新しい止血検査が多く開発されているが,すべてが術前検査として必要ではなく,不必要な検査は避けるべきである.

腎機能の検査

著者: 内田克紀

ページ範囲:P.438 - P.440

はじめに
 近年,透析などの血液浄化療法の進歩により比較的高度の腎機能障害を呈する患者であっても,よほど大きな合併症を有さない限り手術が比較的安全に行えるようになった.しかし,高齢者人口の増加に伴い潜在的に腎機能が低下している患者に対する手術が増加していることから,術前の腎機能の正確な評価は術中術後における腎機能障害の発生を予知あるいは予防する上で重要である.

肝機能の検査

著者: 渡邉千之 ,   石山賢

ページ範囲:P.441 - P.444

はじめに
 肝臓の機能検査は,①肝臓疾患の種類や重症度を診断する,②手術の安全性や術後合併症の危険性を予測する,③肝臓手術で切除範囲を決定する,などを目的として行われる.すでに原疾患が診断され治療方針として手術療法が選択されている患者における術前肝機能検査は,主として生体が手術侵襲に耐えられるか否かを判定するために行われる.しかし,①肝臓は解毒排泄,糖代謝,蛋白合成,エネルギー代謝,網内系免疫能など多くの機能があることから検査値個々の結果はすべての肝機能を代表していない,②健常な肝臓は蛋白合成能で約3倍,ビリルビン処理能で約2倍,尿素合成能では約10倍の予備能を有しているなど検査値に表れるよりも手術侵襲に備える予備能は大きい,③手術の安全性は生体防御能と侵襲との相対関係で評価されなければならない,などの理由でその判定は非常に難しい.

内分泌機能の検査

著者: 折田博之 ,   是永大輔 ,   池田俊彦

ページ範囲:P.445 - P.448

 外科手術の術前の内分泌機能検査の評価とその対策について特に周術期に問題となる下垂体,副腎皮質,甲状腺,副甲状腺のホルモンに焦点を絞って述べる.

免疫機能の検査

著者: 中島一朗 ,   渕之上昌平 ,   太田和夫

ページ範囲:P.449 - P.452

 免疫機能,なかでも生体防御機能とは,生体にとって異質な存在を排除して生体自身の組織を守り,その機能を全うさせることである1).したがって,その機能が低下すると,細菌やウイルスとの力関係に影響を及ぼし,病原性の弱い菌によっても感染症が発症しやすくなる.
 このような観点から,術前に生体防御機能の低下が疑われる際には,十分な対策を講じておくか,あるいはそのような状態にあることを念頭において術後管理にあたることが必要となり2),免疫機能検査が重要になってくる.

感染症の検査

著者: 伊山明宏 ,   宮崎耕治

ページ範囲:P.453 - P.455

はじめに
 術前の感染症検査には2つの目的がある.1つは患者の感染の有無を確認し,必要な処置を加え,よりよい状態で手術に臨めるようにすることであり,もう1つは医療従事者の保護である.感染が確認された場合は,正確な病態の評価と,必要な術前処置を行うとともに,厳重な感染拡散予防対策を講じる必要がある.手術時に問題となる感染症として,梅毒,B型肝炎,C型肝炎,HIV感染症等が考えられるが,患者のプライバシーの尊重や感染が判明した場合の告知の問題なども含め,その検査のありかたには慎重な対応が望まれる.表1に主な術前感染症検査を示す.

精神機能の検査

著者: 岡村仁

ページ範囲:P.456 - P.458

 術前に最低限チェックしておくべき精神機能として,不安や抑うつが強くないかどうか,および痴呆やせん妄が存在していないかどうか,といった感情状態や認知機能の評価があげられる.これらの状態を正しく認識しておくことは,手術適応を考える際だけでなく,術後のケアを行っていく上で重要になってくる.すなわち感情障害や認知機能障害を見過ごし,症状をコントロールできないまま手術を行ってしまうと,術後,高頻度にせん妄が生じたり,不安・抑うつ状態が遷延,増悪することによって,全身状態の管理にも支障をきたすことになる.
 術前に感情状態や認知機能を簡便,かつ客観的に評価するためには,患者が自ら記入することにより評価を行う自己記人式評価法や,簡単な質問に対する回答で評価を行う質問紙法などの,評価尺度を用いたスクリーニング法が有用であると考えられる.ここではこうした調査尺度の利用と評価を中心に述べていく.

麻酔のための検査

著者: 白土辰子 ,   内山正教

ページ範囲:P.459 - P.462

はじめに
 術前の患者の状態を正確に把握することは,麻酔管理上重要な意義をもつ.術前に術者や麻酔科医は,既往歴・現病歴・麻酔歴・家族歴などの聴取に加え,診察による身体所見の把握と術前検査所見の把握とにより,患者の全身状態を評価する.異常所見が認められる場合には,再検査やさらに詳細な検査が行われ,患者の状態を改善するための処置が行われる.異常所見の内容や程度により,麻酔管理方法も必然的に異なってくる.異常の有無にかかわらず,得られた患者の全身状態の情報は,周術期の管理に取り込まれ,手術および麻酔に関連した合併症の発生を防ぐ一助となる.
 ところで異常所見の発見について実をいえば,病歴や身体所見で分からなかった異常が,術前のスクリーニング検査で発見されることは,比較的稀である.つまり,麻酔のためにはスクリーニング検査よりもしっかりとした問診と診察がより重要である.

Ⅴ.知っておきたい最近の話題

剃毛の功罪

著者: 原田明生 ,   高木弘

ページ範囲:P.464 - P.465

はじめに
 剃毛は手術操作や術後処置を容易にし,また創部の感染予防のための術前処置として,従来から慣習として行われてきている.しかし近年,感染に対する効果について疑問が呈されており,今後より合理的な方法が検討されるべきと思われる.本稿では現在までの報告について若干の考察を加えて述べる.

予防的抗菌薬投与の功罪

著者: 岩井重富

ページ範囲:P.466 - P.469

はじめに
 抗生物質が発見されて以来,感染症の治療は急速に進歩し,非常に多くの人々の生命を救助しうるようになった.また,外科領域においても術後感染予防に非常に多くの抗菌薬が用いられるようになり,一応は術後感染予防に有用であるとされている.一方,近年に至り,非常に多くの抗菌薬の使用によって多くの抗菌薬に対する耐性菌の出現が大きな問題となっている.本稿では術後感染予防に抗菌薬が有用であるか否か,また,予防投与での弊害について述べる.

輸液のトピックス—知っておきたい周術期輸液剤と代謝,生理

著者: 田中洋輔 ,   小越章平

ページ範囲:P.470 - P.472

 現在市販されている輸液製剤を用いて周術期輸液を施行するにあたり,考慮すべき事項を4つとりあげた.最近乳酸リンゲル液に代わり多用されるようになってきた酢酸リンゲル液と,従来からcontroversyの対象であった3つの話題について言及する.

輸血のトピックス—輸血のインフォームド・コンセント

著者: 山本哲 ,   米増祐吉

ページ範囲:P.473 - P.476

はじめに
 近年の医学の発展にもかかわらず,輸血については,いまだ人工血液が実用化されておらず,感染,免疫など多彩な影響を内包する生物製剤に頼らざるをえないのが現状である.したがって,輸血の可能性のある患者に対しては,その必要性と,それによるリスクについての説明と同意が必要となる.
 そこで,術前の患者説明の中で,輸血のインフォームド・コンセントを得るにあたり必要な条項についてまとめてみた.

麻酔のトピックス

著者: 徳田秀光

ページ範囲:P.477 - P.479

術前の既往歴の確認
 アレルギーの既往は必ず確認しましょう.薬剤に対する過敏症の確認は忘れてはいけません.最近導入されたプロポフォール(デュプリバン®)には大豆油,グリセリン,卵黄レシチンが入っていますので,こうした物に対するアレルギーの有無を問診しましょう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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