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文献詳細

雑誌文献

臨床外科51巻2号

1996年02月発行

文献概要

臨床外科交見室

在原業平のこころ—外科医バージョン

著者: 石田孝雄1

所属機関: 1中野総合病院外科

ページ範囲:P.222 - P.222

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 外科学と周辺領域の科学の進歩により,術後合併症は少なくなってきてはいるが,そのなかにあっても縫合不全は,依然として外科医の恐れる合併症の最たるものであることに疑いの余地はない.いくら注意して手術に臨んでも,ある一定の確率でリークが起こることは,現実の医療のなかでは紛れもない事実である.術者として全身全霊で手術し,祈るような気持ちで患者の回復を待つわが身に容赦なく襲いかかるリーク,あの曰く言い難い落胆と焦燥の気持ちは,外科医にしかわからない悲しくてつらい経験である.しかし,たとえリークがあっても,ドレナージが十分に効いていれば恐るるに足りないことも周知の事実である.
 今は昔,研修病院で外科訓練を受け始めた頃の話である.早期胃癌でB—Ⅰ法を行った患者が,術後11日目にリークを起こしたことがあった.ドレナージがうまくいっていて,おおごとにならずに済んだのであるが,これはチームを組んでいた2年先輩と責任者の医長が学会でたまたま不在で,病棟の居残り組だった私が,ドレーンを敢えて抜去しなかったことが幸いしたようだ.まさか,11日目にリークが起こるなど予想していなかったので,ドレナージが十分に効いていることがわかると,「よくぞ抜かずにいてくれた」と先輩からさんざん褒められた.しかし,よくよく考えれば皮肉にも聞こえて,複雑な心境だった.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1278

印刷版ISSN:0386-9857

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