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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科51巻5号

1996年05月発行

雑誌目次

特集 肛門疾患診療のポイント—エキスパート17人のノウハウ

肛門部の解剖と生理

著者: 寺本龍生 ,   渡邊昌彦 ,   奈良井慎 ,   石原雅巳 ,   石井良幸 ,   北島政樹

ページ範囲:P.543 - P.547

 肛門部の解剖学的構造は肛門管上皮,肛門腺,骨盤底筋群,内肛門括約筋,周囲支持組織,間隙が複雑に絡み合っており,それぞれが互いに作用し合って微妙な排便機能を司っている.したがって,肛門疾患の治療に際しては,これらの解剖および生理学的特性を十分把握したうえで過大な侵襲を避け,後遺症を残さない的確な治療法を選択するべきである.本稿では,各肛門疾患を考慮しながら肛門管の解剖,生理学的特徴について述べる.

痔核診察のテクニック

著者: 松田直樹

ページ範囲:P.549 - P.551

 肛門疾患の6割近くを占める痔核の診察について述べる.最初に問診のとり方,つぎに視診,そして肛門内指診を中心とした触診の方法,最後に痔核診察のうえで最も大きな比率を占める肛門鏡診についての要点を述べる.併せて,当院で実施している補助検査としての「肛門周囲pH測定検査」,「肛門放射温度測定検査」,「肛門内圧検査」を紹介する.

裂肛診察のテクニック

著者: 小内信也

ページ範囲:P.553 - P.555

 裂肛診察に限らず肛門診察は,患者が恐怖や羞恥心を抱かないよう医師およびバイスタッフは努めて明るく対応し,風邪で胸部や口腔診察を受けるのと同じ感覚を持たせることが大切である.診察する際は,患者本人から見えない位置で行うため,これからどのような診察をするか説明しながら患者の緊張をほぐし,各症状の有無,程度を把握し,また極力疼痛を与えないようにすることが要求される1)

痔瘻診察のテクニック

著者: 梅枝覚

ページ範囲:P.557 - P.562

 痔瘻の診察をするうえで最も大切なことは,肛門周囲の解剖を理解したうえで,瘻管の走行,視診,触診,経肛門的超音波検査などにより,いかに立体的にイメージできうるかにかかっている.すなわち,原発口をはじめとして,原発巣,瘻管が肛門周囲の括約筋などの組織とどのような位置関係であるのかを理解することが大切である.立体的に理解してはじめて痔瘻の正しい診断が可能となり,的確な治療を選択できるのである.単純痔瘻のなかでも低位筋間痔瘻は触診・視診でほとんどの場合診断がつくが,肛門周囲膿瘍,高位痔瘻の場合は誰もが視診・触診で簡単に診断できるものではない.そのときは迷わず超音波検査(経皮的な超音波プローベでも良いが,できれば経肛門的または大腸内視鏡超音波検査)を行ったほうがよい.

痔核外来治療のテクニック

著者: 石田裕

ページ範囲:P.564 - P.566

 痔核の外来治療は保存療法が基本である.すなわち,食事療法,排便習慣,肛門衛生などの生活指導を行ったうえで,外用薬,内用薬を併用した薬物療法を行うと効果的である.病状が進行すると外来処置が必要となってくる.Ⅰ〜Ⅲ度の慢性期には注射療法やゴム輪結紮療法を,嵌頓痔核には用手還納を行う.血栓性外痔核は,外来で局麻下に血栓除去手術を行う.今度は,Ⅲ度以上の痔核に対しても外来手術が行われるようになるだろう.

裂肛外来治療のテクニック—保存療法,用手肛門拡張

著者: 辻順行

ページ範囲:P.567 - P.569

 裂肛は肛門部に発生する急性の裂創から慢性の難治性潰瘍を指す.したがって,症状としては排便時の疼痛,場合によっては内括約筋の痙攣が加わり排便後の継続的な疼痛,出血,そして慢性化すると皮垂,肛門ポリープの脱出,肛門狭窄が認められる.治療としては,軽度(急性)は食事や緩下剤などにより便秘の予防と肛門衛生に注意する.中等度は外来処置の適応で要手肛門拡張,内括約筋側方切開を行う.重度は入院して皮膚弁移動術などを行うなど,裂肛の程度によりそれぞれ使い分けることが肝要である.

肛門周囲膿瘍・痔瘻外来治療のテクニック—切開開放術,Seton法

著者: 柳田通

ページ範囲:P.570 - P.573

 肛門周囲膿瘍は,肛門小窩(crypt)に開口する肛門腺への細菌感染(E.colliが主)により膿瘍が形成されたものである(crypt glandular infection theory).膿瘍の自然排膿や人為的排膿後,膿瘍腔は縮少して原発巣を形成し,肛門縁開口部(2次口)までが瘻管となり痔瘻が形成される1).最終的には肛門小窩に開口する肛門腺(原発巣)を除去しない限り根治せず,肛門病変としてはやっかいな病態である.

麻酔法の選択と工夫

著者: 増田純一

ページ範囲:P.575 - P.578

 肛門疾患手術の麻酔は,局所浸潤麻酔,脊椎麻酔,硬膜外麻酔,全身麻酔のいずれも選択可能であるが,麻酔の確実性,良好な筋弛緩,迅速な作用発現などの利点から,脊椎麻酔が選択されることが多い.また,術後疼痛対策には,麻薬性鎮痛薬および局所麻酔薬を用いた持続硬膜外ブロックが有用である.そこで,脊椎麻酔および硬膜外ブロックが1つの手技で施行可能な硬脊麻針(combined spinal epidural needle)を用いた麻酔について紹介した.本法により,細い脊椎麻酔針が穿刺可能であり,脊椎麻酔後頭痛の発生頻度も少なくできる.術後疼痛対策としては,硬膜外ブロックのほか,脊椎麻酔下でも局所麻酔を併用する先取り鎮痛(preemptive analgesia)や,患者自身が鎮痛薬を自分自身でコントロールするPCA(patient controlled analgesia)の有用性についても述べた.

痔核結紮切除術の原法を理解する

著者: 川原薫 ,   吉田鉄郎

ページ範囲:P.580 - P.582

 結紮切除とは痔核に対する代表的術式であり,その特徴は,肛門の機能を損なうことなく現存する痔核を消失せしめ,かつ将来の再発を予防できることにある.われわれが実際に行っている手術も,Milligan と Morganらによって発表された原法が低位結紮であったのを高位結紮としたほかは,とくにその基本手技に変わりはない.本稿では,原法を踏まえつつ結紮切除術の精神を考えてみた.

痔核結紮切除術—半閉鎖術の実際

著者: 奥田哲也 ,   岩垂純一

ページ範囲:P.583 - P.585

 痔核結紮切除術の半閉鎖術式は,開放術式と比べ手技がいくぶん煩雑であるが,創治癒が早く,術後疼痛が少なく,止血操作が確実であるなどの多くの長所を持っている.また,その手技においても,明瞭な視野を確保したうえで適切な切除範囲で処理すれば,さほど困難な術式ではない.現在,われわれが行っている半閉鎖術式の実際について述べた.

痔核結紮切除術—開放術の実際

著者: 辻仲康伸

ページ範囲:P.588 - P.589

 痔核結紮切除術では,よいドレナージを得るために皮下外括約筋外縁より5mm以上の外側から皮膚切開をはじめる.あくまでも浅く痔静脈瘤を剥離,切離し,括約筋に切り込まない.必ず高位で刺入結紮し,根部では5〜10mmのまつり縫いをする.たるんだ粘膜や肛門皮膚は創を縮少するように固定する縫合を加えておく.痔核は何か所切除してもよいが各創部間は最低1cm離れていること,および大きく切除しすぎないことが大切である.

裂肛手術—SSG法(皮膚弁移動術)の実際

著者: 坂田寛人

ページ範囲:P.591 - P.594

 裂肛切除術では切除創を開放創として二次的に治すため,術後に難治創をつくったり,再発する欠点もある.このため切除創を皮膚で被覆する方法が考案された.Sliding skin graftは基本的に腸管狭窄の拡張手術と同様,縦に切開し横に縫合されるが,外側で減張切開される点が異なる.本法は術後の疼痛が少なく,治癒も早く,再発・後障害の少ない安全な術式で,適応は肛門狭窄を生じた慢性の裂肛,難治創を伴う術後肛門狭窄,全周性の瘢痕狭窄である1).さらに内括約筋切開を加えないSSGはWhitehead anusの再建術として,また全周性痔核の部分的横縫合,あるいは痔瘻括約筋温存術における原発巣の被覆においても広く使用されている優れた術式である.本文では日頃行っているSSGについて述べ,さらに最近始めた皮膚弁回転術rotating skin flap2)についても少し述べる.

裂肛手術—LSIS法(側方皮下内括約筋切開術)の実際

著者: 家田浩男

ページ範囲:P.596 - P.597

 慢性裂肛の手術は,後方括約筋切開ドレナージ術,皮膚弁移動術(sliding skin graft:SSG)が主に行われてきたが,両術式の欠点を補う側方皮下内括約筋切開術(lateral subcutaneous internal sphincterotomy:LSIS)が最近では主流になりつつある.この術式は簡便で多くの慢性裂肛が適応になる優れた術式である.本稿では慢性裂肛に対するNotarasのLSISの適応,ポイント,手技上のコツ,手術,ピットフォールなどについて解説する.

痔瘻手術—切開開放術の実際

著者: 田中良明

ページ範囲:P.598 - P.601

 切開開放術とは瘻管の全長を開放する術式で,比較的簡単な手技にて再発率も低い痔瘻根治手術の基本といえる.本術式の最も重要な点は,術後肛門の変形・機能障害を起こさないように適応を正しく判断することである.最も良い適応は「肛門後方の低位筋間痔瘻」である.手術のポイントは,①確実な1次口・原発巣の処置,②瘻管の走行に沿った切開開放,③十分なドレナージの確保である.

痔瘻手術—括約筋温存術の実際

著者: 松田保秀

ページ範囲:P.602 - P.605

 痔瘻に対する括約筋温存手術は,従来からのlay open法に比べて術後の変形,括約機能の低下がきわめて少ない.現在では主に低位筋間痔瘻と坐骨直腸窩痔瘻がその対象である.手術原理は,①全瘻管のくりぬき,②原発口部の縫合閉鎖,③同部の肛門上皮被覆,④くりぬき腔のドレナージである.これらの処置は局所の細かい解剖に精通し,きわめて丁寧な手術操作をすることが必要である.したがって,適応や術式を誤ると再発につながり,結局はlay openとなり患者の苦痛を倍増することになる.低位筋間痔瘻では内括約筋を障壁として,外口と原発口と両面から瘻管をくりぬく.とくに内括約筋の縫合閉鎖は様々な方法を臨機応変に駆使する.坐骨直腸窩痔瘻では,瘻管のくりぬきが広範囲で,原発口側の切除と縫合閉鎖が高難度である.術後は下痢,便秘に注意し,指診は特別なとき以外は行わない.

痔瘻手術—括約筋温存術の実際

著者: 日高久光

ページ範囲:P.607 - P.610

 痔瘻に対する括約筋温存手術は,従来の開放手術に比べ,(1)肛門機能の保護,(2)創部のcosmetic qualityの向上,(3)治療日数の短縮といった点で優れている.しかし一方では,開放術式に比べ手技が繁雑で,再発しやすいといったこともある.根治性の高い温存手術を行うには,正確な診断のもとに,痔瘻の原発口および原発巣を確実に,また瘻管を可及的に切除することが大切であるが,とくに括約節を損傷せずに原発巣を処理することが最も重要なポイントである.

肛門手術後処置のノウハウ

著者: 竹馬浩 ,   瀧上隆夫 ,   嶋村廣視 ,   根津真司 ,   竹馬彰 ,   八岡英夫 ,   松田浩明

ページ範囲:P.612 - P.615

 肛門は放庇や排便などで安静が得がたく,かつ糞便による汚染が繰り返されるので,一般外科手術後処置と同じ考え方をしないほうがよい.肛門は血流がよく,感染にも強いので,創に緊張が加わらない手術,ドレナージのよい創をつくるように心掛ければ,比較的よく治る.往時,アヘンチンキで排便抑制をしたり,食事制限や手術後創の消毒をしていたのがなつかしくさえ思える.以下にわれわれが行っている創処置,洗浄,疼痛,出血対策などについて述べる.

[鼎談]肛門疾患診療の実際—診察から術後管理まで

著者: 岩垂純一 ,   寺本龍生 ,   松島誠

ページ範囲:P.617 - P.631

 岩垂(司会)本日は,お忙しいところをお集まりいただきまして,誠にありがとうございます.鼎談に先立ちまして,編集部で外科研修病院の若手の先生方やチーフレジデントの方々に,どんなことを知りたいかミニアンケートをとっていただきました.それらの質問をもとにして,(1)肛門診察,(2)外来治療,(3)手術適応,(4)術式の実際,(5)術後管理,の順に話を進めていきたいと思います.
 では,まず肛門の診察についてですが,松島先生,肛門診察する場合の心構えについてお話し下さい.

カラーグラフ 内視鏡下外科手術の最前線・17 胃・十二指腸

胃粘膜癌に対する腹腔鏡下胃局所切除術—Lesion lifting法の手術手技

著者: 大上正裕 ,   大谷吉秀 ,   吉田昌 ,   星屋泰則 ,   桜井嘉彦 ,   林憲孝 ,   石塚裕人 ,   熊井浩一郎 ,   久保田哲朗 ,   北島政樹

ページ範囲:P.533 - P.541

はじめに
 近年,内視鏡検査や内視鏡的超音波プローブなどを用いて早期胃癌の術前の深達度診断もかなり正確に行えるようになってきた1-3).これらにより粘膜癌と診断されたものに対しては,過去の胃切除例の検討から,病変の形状や大きさよりリンパ節転移の可能性のほとんどない症例群の選択が可能となってきている1,4).これらリンパ節転移の可能性がほとんどないと判断された粘膜癌に対して,教室では1992年3月より根治性,低侵襲性,臓器温存性を併せ持つ新しい治療法として積極的に腹腔鏡下手術を導入している.病変の部位により lesion lifting法による腹腔鏡下胃局所切除術5,6)と腹腔鏡下胃内粘膜切除術7-9)の2種類の手術法を使い分け,これまでに42症例に対して良好な手術成績を得ている.
 本稿では,このうちlesion lifting法による腹腔鏡下胃局所切除術の手術手技について症例の腹腔鏡写真を用いて紹介する.

病院めぐり

国立小倉病院外科

著者: 石光寿幸

ページ範囲:P.636 - P.636

 福岡県北九州市は,九州第二の百万都市として古くより工業を中心に発展してきました.当院は市の中心部小倉南区にあり,玄海灘を北に臨む閑静な文教地区に位置しています.当院の歴史はきわめて古く,明治21年創設の小倉衛戌病院を前身とし,今年で創立108周年を迎えました.かつて森 鷗外が軍医副総監として赴任した病院であり,小倉日記をひもとくと,当時の情景が今も脈々と続いていることに気付きます.現在では診療科20科,病床数650床の総合中核病院として発展し,診療圏は周辺市町村をはじめ福岡県東部一円に及んでいます.
 外科は,川上医長以下スタッフ7名で(レジデント2名を含む),常時60床を受け持ち,消化管および肝胆膵疾患を中心として,呼吸器,乳腺,甲状腺,副甲状腺疾患までを対象としています.当院は,地域では唯一の精神科病棟を有する国立総合病院であり,コントロール困難な精神疾患を伴う外科手術例も多く,専門各科と協力してその治療に努めています.

阿南共栄病院外科

著者: 尾方信也

ページ範囲:P.637 - P.637

 阿波踊り,鳴門の渦潮で知られる徳島県.1823年,シーボルト来朝とともに彼に入門し,名著『産論』をオランダ語訳して,日本の医学的業績を最初に世界に紹介した学功で知られる美馬順三先生を生んだ町,羽ノ浦町に阿南共栄病院はあります.羽ノ浦町は,西に四国山地,南に那賀川を臨み,産業は農業と木材工業が中心で,最近では徳島市,小松島市,阿南市に挟まれたベッドタウンとしても注目を浴びています.
 当院は,昭和12年,医師6名,職員40名足らずで,産業組合による農村保険運動の高まりとともに開院しました.太平洋戦争の混乱を経て,昭和23年,徳島県厚生連阿南共栄病院となりました.現在は病床数384床(一般345床,結核22床,伝染17床),診療科12科,常勤医師数33名の総合病院として,県南部地方の基幹病院として発展してきています.また,今後も病院の再開発計画があり,平成8年度は手術室の新築を含めた病院改装に着工します.

臨床外科交見室

米国における乳房温存療法の現況

著者: 町淳二

ページ範囲:P.638 - P.639

 「臨床外科」50巻7号の外科研修医実践講座で日本における「乳癌に対する温存療法の実際」が掲載され,大変興味深く読ませていただきました.米国では8人に1人の女性が乳癌にかかり,その治療について膨大な臨床研究が行われています.日本と欧米での乳癌は多少異なる点もあるかもしれませんが,参考までに米国でのbreast conser-vationに関して述べてみたいと思います.
 1970年代後半から1980年代のNSABP(National Surgi-cal Adjuvant Breast Project)をはじめとするclinical trialsによって,stage Ⅰ・Ⅱの乳癌に対してlumpectomy+axillar dissection+radiationの組み合わせによるbreast conserva-tionがmastectomy(modified radical mastectomy)と同等のsurvivalならびに1ocal con-trolがあると判明しました.

私の工夫—手術・処置・手順・20

食道癌の手術中に食道の口側切除線を決める方法

著者: 佐藤美晴

ページ範囲:P.640 - P.640

 食道癌の診断,治療は向上しており,早期食道癌には内視鏡的切除も行われている.一般に消化管の切除に際しては,手術中の病変部位診断は視診,触診で決定することになるが,深達度の浅い食道癌では,それも困難である.とくに右開胸で胸部上部食道Iu病変の切除,および左開胸で胸部中部食道Im病変を切除する際(根治性の確保が前提であるが,再建には残余の食道が長いほど手術手技上,有利である)にも,食道外膜からは癌腫の触診は困難で,従来は透視フィルムや内視鏡での食道入口部からの距離で決めたり,術中の内視鏡で口側切除線を決定していた.さらには,摘出標本を切開して肉眼で判断したり,術中迅速病理で診断しているのが現状であった.しかし,術中内視鏡も体位変換,食道壁の伸展が困難で,十分な診断は得られず,切除線の決定に難渋する.仮切除後に,切開した標本をルゴール染色したり,迅速病理診断の結果,追加切除することも時にはあった.
 以上のような術中の切除線決定の混迷を避けるため,深達度の浅い食道癌に対する術中口側切除線の決定に関する筆者の方法を以下に述べる.

膜の解剖からみた消化器一般外科手術・1【新連載】

基本事項

著者: 金谷誠一郎

ページ範囲:P.641 - P.646

はじめに
 消化器あるいは一般外科の手術に関しては,いわゆる成書からTips集といったものまで数多くの書籍が出版されている.しかし,それらの多くは局所の解剖・手技に重点を置きすぎており,その結果,消化器あるいは身体全体といったレベルでの解剖学的統一性に欠け,ついには手術に対する論理性にも疑問符を付けざるを得ないものも存在する.つまり,胃ならば胃の,直腸なら直腸の解剖があり,またそれぞれに対する手術手技が存在するといった具合である.それらの手術書は,基本をマスターしたうえで参考にすれば大いに役立つのであるが,これから手術手技を身に付けようとする若い外科医には,やや敷居が高いように思われる.
 今月から始まるこの連載では,局所にのみ通用する解剖・手技ではなく,消化器一般に通用する解剖学的な基本事項を中心に,代表的な手術についての解説を行う.解剖学的に,あるいは手術に対する論理性において普遍的な基本事項を身に付けさえすれば,いついかなる事態にも対処できるであろうし,いわゆる応用問題に対しても“考える手術”で対応できるものと信じている.

シリーズ 早期癌を見直す・2 早期大腸癌・7

早期大腸癌に対する縮小手術の理論と実際—①腹腔鏡下大腸切除術

著者: 渡邊昌彦 ,   大上正裕 ,   寺本龍生 ,   北島政樹

ページ範囲:P.647 - P.652

はじめに
 近年,腹腔鏡下胆嚢摘出術の急速な普及にともない,腹腔鏡下手術が注目されるようになった.われわれは胆嚢摘出術をはじめ,各種の消化器疾患に対し腹腔鏡下手術をこれまで積極的に導入してきた1).腹腔鏡下手術は通常の開腹手術に比べ,術後疼痛も軽微で腸蠕動も早くから得られ早期の退院が可能であるなどさまざまな利点がある.
 一方,診断技術の向上により早期大腸癌の発見率は年々増加している.教室の成績から,m癌にはリンパ節転移を認めないため内視鏡的切除で根治性が得られると考えている.しかし,m癌でも病変の位置や大きさによっては,内視鏡的切除が困難であるため開腹される症例も少なくない.さらに,内視鏡的切除の後に同一部位に再発をきたしたものは,再切除は困難である.また,sm癌の治療においては粘膜下層のわずかな浸潤しか認められないもの(sm1))はm癌と同様に扱い,sm層に高度に浸潤するもの(sm2-3))はリンパ節転移の可能性もあり,郭清をともなう根治手術を行ってきた.

臨床報告・1

壁外に巨大血腫を伴った胃外発育型胃癌の1例

著者: 梅原靖彦 ,   大久保忠俊 ,   佐野佳彦 ,   中村利夫 ,   土屋泰夫 ,   森山龍太郎

ページ範囲:P.653 - P.656

はじめに
 胃外発育型胃癌は発育形態としては稀な胃癌で,過去に60数例の報告を数えるにすぎない1-10).今回われわれは,これまでに報告のない,壁外に巨大血腫を伴いきわめて特異な形態を示した胃外発育型胃癌を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

総胆管内回虫迷入症の1例

著者: 淀縄聡 ,   小川功 ,   山部克己 ,   平野稔 ,   岡崎洋雄 ,   高橋正彦

ページ範囲:P.657 - P.660

はじめに
 本邦における胆道内回虫迷入症は,回虫罹患率の激減により,現在きわめて稀な疾患となっている.今回われわれは,術前内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)により診断し得た総胆管内回虫迷入症の1例を経験したので報告する.

甲状腺内に発生した扁平上皮性嚢胞の1例

著者: 池田英二 ,   大塚康吉 ,   小野監作 ,   大西洋一 ,   小西寿一郎 ,   國友忠義

ページ範囲:P.661 - P.664

はじめに
 甲状腺内に扁平上皮細胞を認める症例は,扁平上皮癌をはじめとして種々の疾患などで報告されている1-3)が,扁平上皮細胞に裏打ちされた良性嚢胞はきわめて稀であり,その報告例は散見されるのみである4-7).今回われわれは,甲状腺内に発生した扁平上皮性嚢胞の1例を経験したので,その発生起源について若干の文献的考察を加えて報告する.

胃神経鞘腫の1例—自験例を含む本邦超音波内視鏡施行13例の検討

著者: 宇田憲司 ,   成末允勇 ,   金仁洙 ,   大崎俊英 ,   室雅彦 ,   白川靖博

ページ範囲:P.665 - P.668

はじめに
 胃原発の神経鞘腫は比較的稀な疾患であり,粘膜下腫瘍の形態を呈するため,術前診断はきわめて困難である.近年,超音波内視鏡(以下,EUS)の出現により胃粘膜下腫瘍の診断能は向上したが,胃神経鞘腫に対するEUSの報告は非常に少なく,われわれの検索し得た限りでは,本邦における胃神経鞘腫についてのEUSの報告例は自験例を含め13例にすぎない.今回,われわれは術前にEUSを施行した胃神経鞘腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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