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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科51巻8号

1996年08月発行

雑誌目次

特集 直腸癌に対する肛門機能温存手術の実際

直腸の局所解剖(示説)

著者: 佐藤達夫 ,   坂本裕和 ,   平馬貞明

ページ範囲:P.961 - P.968

 直腸癌の機能温存手術の開発が進むにつれ,局所解剖の重要性が急速にそして確実に増してきている.詳述すべき必要事項は非常に多い.しかし,限られた紙数の中で十分に検討するのは無理である.本稿では骨盤神経叢,腸骨リンパ系,中直腸動脈および筋膜に焦点を絞り,実際の剖出所見をカラー写真で示説し,外科医の参考に供したい.

直腸癌手術からみた排便機能

著者: 鈴木宏志 ,   山本純二 ,   石田智美 ,   藤岡正樹

ページ範囲:P.969 - P.973

 直腸癌の根治手術としては可能な限り自然肛門温存手術,とくに低位前方切除が行われるようになった.低位前方切除が直腸癌の標準術式として確立されるに至ったのは,(1)直腸癌の進展様式とくに壁内進展様式とリンパ節転移様式が解明された,(2)器械吻合によって骨盤腔深部での吻合が安全,確実となった,(3)直腸肛門内圧測定をはじめとする生理学的研究の進歩によって,排便機能は低位前方切除後も障害されていないことが明らかにされた,などによる.直腸肛門機能に関する生理学的研究から,低位前方切除によって肛門括約能は障害されず,一時的に失われる貯留能も次第に回復をみることが明らかにされた.今後は術後排便障害の一つの原因である結腸運動にも研究の目が向けられるべきであろう.

直腸癌に対する直腸鏡下外科手術

著者: 金平永二 ,   大村健二 ,   疋島一徳 ,   森下実 ,   宇野雄祐 ,   渡辺洋宇

ページ範囲:P.975 - P.981

 経肛門的内視鏡下マイクロサージェリー(TEM)による直腸癌24例の手術成績を報告する.対象は[m]10例,[sm1]6例,[sm2]1例,[sm3]1例,[mp]6例であった.腫瘍最大径は1.0〜8.5cm,平均3.05cmであった.手術時間は30〜180分,平均80.75分,術中合併症は腹腔内穿孔が1例であった.4例に追加根治術を施行した.内訳は[sm1ly1]1例,[sm2]1例,[mp]2例であった.ほとんどの患者は疼痛を訴えず,術後第1病日より歩行可能であった.重篤な術後合併症は経験していない.経過観察期間は最長3.1年,平均1.2年であった.[mp]1例が90歳時に他病死した。他の症例は姑息例を含め全例再発なく,良好なQuality of lifeを享受している.
 TEMは安全かつ低侵襲で,優れた機能温存性を有する.直腸癌の治療体系に有用な選択肢として位置づけられるものと考える.

局所切除術—経肛門的,経仙骨的,経括約筋的

著者: 柳秀憲 ,   山村武平 ,   楠正人 ,   荘司康嗣 ,   野田雅史 ,   池内浩基

ページ範囲:P.983 - P.988

 早期直腸癌に対する局所切除術は予後とQOLを左右するため,病変の性状,拡がりとともに,転移危険因子の評価を行い,手術適応を十分検討する必要がある.N1’(+)疑診例,転移危険因子陽性症例にはインフォームド・コンセントで転移陽性の危険性を十分に説明した上で術式を選択する.教室では,局所切除術として,経肛門的切除と後方切除を用いており,本稿ではそれらの術式を概説した.教室では,早期直腸癌23症例に局所切除術(経肛門的局所切除14例,後方切除9例)を行い,現在まで再発症例はなく,満足すべき術後機能を得ている.後方切除群4例に術後創部感染を認めたが,いずれも保存的に軽快した.局所切除術を行う際には,術前診断以上に進展した病態にも適応しうるように,体位,術式を選択することが肝要である.

自動吻合器を用いた自律神経温存低位前方切除術

著者: 高橋慶一 ,   森武生 ,   安野正道

ページ範囲:P.989 - P.997

 我々の行っている直腸癌に対する自律神経温存低位前方切除術の手術手技の実際について述べた.現在では両側温存を原則とし,リンパ節郭清はメッツェンバウム剪刀を用いて行っている.No.262の郭清は下膀胱動脈を合併切除することで良好な視野が得られ,この部分の郭清の精度が向上した.骨盤腔内の解剖は複雑であり,機能温存と根治性を両立させた手術方法はいまだ完成されておらず,今後も改良すべきものと思われるが,本稿では我々が現在行っている自律神経温存手術における神経温存およびリンパ節郭清におけるコツと留意点について述べた.

下部直腸癌に対する経肛門的結腸肛門吻合術(ストレート型)

著者: 寺本龍生 ,   渡邊昌彦 ,   北島政樹

ページ範囲:P.999 - P.1003

 教室で積極的に行っている下部直腸癌に対する括約筋温存術式の限界の術式としての経肛門的結腸肛門吻合術(PAA)の適応,術式および成績について述べた.PAAは経肛門的に直視下に,正確に肛門側切除断端を確保離断した上で直腸を切除し,口側結腸と肛門とを経肛門的に端端吻合する術式であり低位であれば低位であるほど容易であり,従来の貫通術式と異なり,端端一期吻合であるため吻合部狭窄をきたしにくく,良好な術後排便機能を期待し得る.また適応を誤らねば腹会陰式直腸切断術と劣らぬ遠隔成績が得られる.

J型結腸嚢肛門吻合術

著者: 酒井靖夫 ,   畠山勝義 ,   谷達夫 ,   山崎俊幸 ,   島村公年 ,   神田達夫 ,   瀧井康公 ,   岡本春彦 ,   須田武保

ページ範囲:P.1005 - P.1011

 結腸肛門吻合術は直腸よりさらに低位の外科的肛門管で切離・吻合することにより,下部直腸癌に対する自然肛門温存術の適応を拡大した.しかし,糞便貯留部位である直腸膨大部が切除されるため,ストレート型再建では排便回数が頻回で,便意逼迫や漏便を生じやすい.そこで貯留能を有するneorectumを作製して吻合するJ型結腸嚢肛門吻合術はストレート型より有意に排便回数が少なく,排便機能を改善させた.
 筆者らも1988年より本術式を行っており,その適応や予術手技,術後成績について述べた.より優れた術後排便機能温存術式として定着するために,結腸嚢の至適容量や術後口側結腸の運動の変化など更なる検討が必要と考えられる.

カラーグラフ 内視鏡下外科手術の最前線・20 胃・十二指腸

低侵襲を目指した胃内手術—内視鏡下胃内手術

著者: 桜町俊二 ,   木村泰三 ,   吉田雅行 ,   小林利彦 ,   和田英俊 ,   鈴木憲次 ,   鈴木浩一 ,   竹内豊 ,   渡辺浩 ,   久保精一

ページ範囲:P.953 - P.959

はじめに
 腹腔鏡下胃内手術とは,早期胃癌に対する縮小手術の一法として大橋1)により開発された手術法である.従来の腹腔鏡下手術では,腹腔鏡や操作鉗子を腹腔内で利用するのに対し,この方法ではこれらの器械類を胃の中まで刺入し,胃の内腔側の病変の切除を行う.腹腔鏡下胃内手術は,同じ粘膜切除法である内視鏡的粘膜切除(EMR)に較べると,より大きい病変の一括切除ができる反面,全身麻酔気腹下の手術であり侵襲が大きい.我々は,この術式の侵襲性をさらに軽減すべく改良し,臨床に試みたので報告する.その改良の要点は,穿刺孔の縮小である.手術器械類は,細径のものを試作して利用した.腹腔鏡は細径化が困難なため,消化管内視鏡をもって代用した.本手術の操作はこの経口内視鏡画像下で行うことより,内視鏡下胃内手術と名付けている.

病院めぐり

岡山済生会総合病院外科

著者: 岡本康久

ページ範囲:P.1012 - P.1012

 下り山陽新幹線がスピードを緩めて岡山駅に滑り込む寸前,右手に見えるひときわ高いベージュ色の建物が当院で,日本で2番目?に交通の便の良い総合病院と自負している.
 当院の歴史については前回(臨外49巻6号,1994年)紹介したので,割愛させていただくが,今年2月待望の13階建ての新本館の1期工事が完成し,続いて2期工事(平成10年完成予定)の槌音が鳴り響いている.病床数は以前と変わらず563床であるが,高層化により患者さんにはゆとりのある入院生活を送っていただけるようになった.手術室も最新の設備が整い,当外科も新たな気持ちで手術に取り組んでいる.

大分赤十字病院外科

著者: 福澤謙吾

ページ範囲:P.1013 - P.1013

 当院は昭和27年に病床数99床にて発足し,昭和36年に350床,平成7年からは390床と増床し現在に至っています.昭和63年より増改築工事が着工され,平成9年に新病院が完成する予定です.病院は大分市の繁華街,都町に隣接しており,屋上からは別府湾,九重連山,由布岳などが一望できるという恵まれた環境にあります.
 当院外科は外科学会認定施設であり,心臓以外はほとんどの疾患を取り扱っており,最近はとくに肝臓外科,呼吸器外科,血管外科分野にも力を入れています.現在の外科のスタッフは,乳腺外科を指導していただいた顧問の中村泰也先生が急逝されたため,消化器外科の岩松部長,肝胆膵,呼吸器外科の福澤副部長以下4人と数は少ないのですが,全員10年目以上のベテランであり,チームワーク良く各分野の難度の高い手術をこなしています,各自専門分野は持っておりますが,良い意味で“レベルの高い何でも屋”でありたいと考え,貧欲に多くの分野にチャレンジしています.

臨床外科交見室

医療の発展と高齢化社会

著者: 野川辰彦

ページ範囲:P.1014 - P.1014

 コンピューターなどの分野に限らず医学分野でも進歩や変化が急速に進んでおり,卒業後外科に入局した25年前に比べ,自動機械吻合器や鏡視下手術の手術器具の進歩による手術法の変化,栄養投与を可能にしたIVHやEDの発達による全身管理の発展,社会人口構成の変化による高齢者手術症例の増加は特に際立っている.
 研修医の頃,高カロリー輸液による栄養投与法が導入され,計算した必要量になるよう多くのアンプルを切って高カロリー輸液を調整したもので敗血症や亜鉛欠乏など悲惨な経験をした.しかし,時とともに薬局から製薬会社へと製造所が移り改良製造されるようになってきたため,ほとんど合併症を起こさなくなり,多くの食事摂取困難な患者に福音をもたらすようになった.また入局の頃,消化管などほとんどは手縫いで,胃全摘後の食道空腸吻合や直腸切除後の低位前方切除など特に縫合に困難さを感じることが多く,消化器外科の最もいやな合併症である縫合不全も経験してきたが,自動機械吻合器が導入されるようになって狭くて縫合の困難な所でも容易に吻合ができるようになり,確実に操作することで縫合不全は皆無となってきている.3〜4年前より鏡視下手術があっという間に広がり適応疾患も多くなってきており,低侵襲で入院期間は短縮するということで患者に喜ばれている.

私の工夫—手術・処置・手順・23

腹腔鏡下胆嚢摘出時における胆嚢頸部の処理について

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1015 - P.1015

 腹腔鏡下胆嚢摘出術は,胆嚢結石症に対する標準術式となりつつある.しかし一方で,手技の繁雑さが指摘され,さらに胆管損傷や出血などの合併症の発生率が従来の開腹手術よりやや高いとされている.そこでわれわれが行っている,より容易で安全な胆嚢頸部の処理法について紹介する.
 把持鉗子にて胆嚢底部を横隔膜方向へ挙上し,Calot三角部の視野を展開する.次に他の鉗子で胆嚢頸部を把持し,右下方へ牽引して胆嚢管を伸展させる.高周波メスで胆嚢頸部の前面,後面および胆嚢管前面の漿膜を切開する.次にヘラ型剥離鉗子を用いて胆嚢頸部を全周性に剥離し,胆嚢管を胆嚢側から胆管側に向かって剥離する(図1).この際,胆嚢管の全長を十分に露出し,胆管・胆嚢管の合流部を必ず確認することが大切である.胆嚢管の胆管側に2個,胆嚢側に1個のクリップをかけ,その間を鋏で切る.次に胆嚢頸部を右下方へ牽引すると,胆嚢動静脈は胆嚢と肝十二指腸間膜との間で膜状に伸展された組織内に存在する.そこで胆嚢壁に沿ってクリップを2重にかけ,胆嚢側を鋏で切離する(図2).この際,胆嚢側からは少量の出血をきたすが,あえてクリップはかけない.これは出血により胆嚢動脈が存在していたことを確認すると共に,できるだけ右肝動脈や胆管より離してクリップをかけ,これら脈管の損傷を避ける理由による.

外科医のための局所解剖学序説・1【新連載】

頸部の構造 1

著者: 佐々木克典

ページ範囲:P.1017 - P.1026

 熟練した外科医は解剖に熟知しているのが常であり,解剖学者が改めてここで局所解剖を語る意義は少ない.しかし,私自身の経験から,卒後まだ日の浅い若き術者は,学生時代に学んだ解剖をうまく使えないということに,もどかしく思うのではないかと想像する.本来,解剖学教育は解剖を終えた時点ですでに人体にアプローチできるだけの能力を与えるべきものと考えるが,実際はほど遠い.Leriche症候群で知られている RenéLericheは「死体解剖実習はきわめて多くの時間を浪費し,未来の外科医にとってさえもほとんど役に立たぬ」と述べている.極論ではあるが,頷かれる方も少なくないであろう.原因は教育の方法にある.しかし,今それを述べても仕方ないことであり,この連載では教育と実際の臨床の間に横たわるギャップを埋めてみようと思う.
 医学を志した人間ならば,解剖は本質的に楽しいはずであるが,往々にして強いられる用語の記憶などで,その気持ちが次第に褪せていくことが多いように思う.しかし,人体構造の機微を一度でも自ら体得できれば,突如として解剖のおもしろさがわかるようになる.私は毎年,実習も含め三十数体の遺体と向き合うが,繰り返すごとに新鮮な印象を受ける.人体にはカギになる構造があり,それを見つけることで多くのことが氷解し,深く理解することができるようになるからである.

シリーズ 早期癌を見直す・2 早期大腸癌・9

早期大腸癌の治療と予後およびサーベイランス

著者: 吉川宣輝 ,   小林哲郎 ,   小林研二 ,   柳生俊夫 ,   蓮池康徳 ,   三嶋秀行 ,   辛栄成 ,   西庄勇

ページ範囲:P.1027 - P.1033

①はじめに
 癌はそのステージにしたがって治療を行うことが原則であるが,実際の臨床の場においては患者の年齢,性別のみならず,体型や職業などを考慮して治療法が選択される.このような社会的背景を加味した治療戦略として,われわれは「大腸癌の治療では個々の症例のグレードに見合った方法を選択する」1)という基本的な考え方で診療を行ってきた.早期大腸癌という同じステージであっても,内視鏡的切除から開腹手術まで異なった縮小治療が行われる.選択肢の広い理由の1つに治療成績,予後の不確かさがある.かなりの症例が集積され,その長期予後も検討できるようになったこの時期に,早期大腸癌の治療を見直すことは大変有意義なことである.自験症例を提示しながら早期大腸癌の治療と予後およびサーベイランスを考察する.

手術手技

遊離広背筋皮弁による頭部組織欠損の再建

著者: 本庄省五 ,   湊祐廣 ,   柏克彦

ページ範囲:P.1035 - P.1040

はじめに
 頭蓋領域の組織欠損の再建にはその大きさ,部位,深さなどにより遊離植皮や有茎植皮,筋皮弁など様々な方法が用いられているが1),これらの方法で再建が困難な場合は血管柄付き遊離組織移植が行われる2〜7).ここでは,軟部組織のみならず頭蓋内に達する広範な欠損を遊離広背筋皮弁で修復した2例を提示し,その問題点について考察を加える.

内視鏡的止血を得た出血性十二指腸粘膜下腫瘍の1例

著者: 野田弘志 ,   岸川正彦 ,   吉原幸治郎 ,   古賀敏朗

ページ範囲:P.1041 - P.1043

はじめに
 食道静脈瘤に対する内視鏡的静脈瘤結紮術(endoscopic variceal ligation:以下EVL)は1986年にStiegmann GVら1)により開発され,わが国には1990年に山本ら2)により紹介された.以後EVLは偶発症が少なく手技が簡便であるため急速に普及し,現在多くの施設で食道静脈瘤の治療法として採用されている.
 今回筆者らは十二指腸粘膜下腫瘍からの出血に対し,EVLの手技を応用して腫瘍基部を結紮し止血に成功した.筆者らが検索した範囲では,EVLを応用した出血性十二指腸粘膜下腫瘍止血例の報告はないので,若干の文献的考察を加えて報告する.

外科医の工夫

ヒルシュスプルング病根治術(Z型吻合法)でのENDO GIA60の応用

著者: 末浩司 ,   上野孝毅 ,   大野毅

ページ範囲:P.1045 - P.1046

はじめに
 ヒルシュスプルング病で自動縫合器を用いた1期的Z型吻合法はすでに一般的となっているが,小児症例では以前より器械がやや大きすぎる感があった.これに対し今回我々は1歳男児で鏡視下用の手術用自動縫合器(ENDO GIA60,U.S.Sur-gical Corp.,Norwalk,Conn.)を使用し有用であったので報告する.

臨床研究

皮下吊り上げ法による腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術の経験

著者: 大田準二 ,   納富昌徳 ,   末松哲 ,   山内祥弘 ,   武田仁良 ,   白水和雄

ページ範囲:P.1047 - P.1050

はじめに
 腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術は,従来の Bas-sini法やMcVay法のように筋膜や筋肉の修復による閉鎖を行わず,メッシュによる欠損部の閉鎖を行うため,術後の疼痛,腫脹,緊張が軽度で,通常生活への復帰が早いと報告されている1).なかでも両側例や再発例,腹壁の脆弱な症例には良い適応と考える.
 しかし,本手術では気腹および腹腔鏡操作による合併症,高価な手術器具,全身麻酔による管理など問題点がないわけではない.われわれは,全身麻酔,気腹法による腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術の経験をもとに,脊椎麻酔下で気腹を行わず皮下吊り上げ法による手術を行ったのでその有用性を報告する.

臨床報告・1

胃癌術後孤立性大腸転移の1切除例

著者: 楠山明 ,   梨本篤 ,   西村真 ,   田中乙雄 ,   佐々木壽英

ページ範囲:P.1051 - P.1054

はじめに
 胃癌の再発として孤立性に大腸に転移することは少なく,なかでも切除可能であった症例は稀である.今回われわれは,術後5年間の外来経過観察にて身体所見,血液検査(腫瘍マーカーを含む),腹部超音波検査,腹部CT検査にて再発徴候がなく,胃癌術後7年目に孤立性大腸転移によるイレウスおよび急性虫垂炎穿孔性腹膜炎をきたした1例を経験したので報告する.なお,本文中の略語は胃癌取扱い規約1)および大腸癌取扱い規約2)によった.

右水腎症を伴った回盲部放線菌症の1例

著者: 丸田福門 ,   市川英幸 ,   窪田達也 ,   宮川雄輔 ,   土屋克己 ,   川口研二

ページ範囲:P.1055 - P.1058

はじめに
 放線菌症は主としてActinomyces israeliiによって引き起こされる慢性化膿性疾患であるが,抗生物質の普及により近年では稀な疾患となっている.腹部放線菌症は放線菌症の約20%を占め,回盲部や横行結腸に好発し1),大腸癌や悪性リンパ腫などとの鑑別が問題となる.今回,われわれは右水腎症を伴い術前悪性リンパ腫を疑った回盲部放線菌症の1例を経験したので報告する.

分娩を契機に発生した褐色細胞腫の1例

著者: 岩佐真 ,   冨田隆 ,   久瀬雅也 ,   高橋幸二

ページ範囲:P.1059 - P.1064

はじめに
 褐色細胞腫は副腎髄質あるいは交感神経のクロム親和性細胞から発生し,カテコールアミンを過剰に分泌することにより,高血圧,多汗,高血糖,頭痛,動悸,代謝亢進など多彩な症状を呈する腫瘍である1).最近の画像診断の進歩や,ホルモン測定の簡便化により,本症が発見される機会が増えているが妊娠に合併することは稀である.筆者らは分娩を契機に発症した褐色細胞腫の1例を経験したので報告するとともに,これまでの本邦報告例を集計し,検討したので報告する.

動脈硬化性右上腕動脈瘤の1例

著者: 平井淳一 ,   白髭健朗 ,   木村穂積

ページ範囲:P.1065 - P.1067

はじめに
 四肢末梢動脈に発生する動脈瘤のうち,上肢の動脈瘤は比較的稀である.また上肢動脈瘤のほとんどは外傷,炎症に起因するものであり,動脈硬化によるものはきわめて少ない1).最近,われわれは動脈硬化性上腕動脈瘤を経験したので報告する.

腹腔内注入用リザーバーによる化学療法が有効であった腹膜偽粘液腫の1例

著者: 岩淵知 ,   八木橋信夫 ,   柘植俊夫 ,   国分弘道 ,   高畑太郎 ,   野宮守正

ページ範囲:P.1069 - P.1071

はじめに
 腹膜偽粘液腫は,腹腔内に多量の膠質物質の貯留を起こす疾患であり,可及的に腫瘍塊を除去して抗癌剤療法を併用したとしても,今なお,きわめて難治性の疾患といわれている1).今回われわれは,術後に腹腔内注入用リザーバーよりCDDP,OK−432の間欠注入を行い,良好な経過をたどっている腹膜偽粘液腫の1例を経験したので報告する.

鎖骨下静脈狭窄に対し経皮経管的血管形成術(PTA)が有効であった1例

著者: 木村圭一 ,   井戸弘毅 ,   本多桂 ,   利光鏡太郎 ,   鈴木高

ページ範囲:P.1073 - P.1075

はじめに
 血液透析のblood accessとしてカテーテルを用いる方法は,他の方法に比べて容易かつ確実であり,特に急性腎不全の透析導入に際して利用されている.しかし,様々な合併症の報告もみられ,その一つとして鎖骨下静脈をカテーテル挿入部位として使用した後に生じる鎖骨下静脈の狭窄がある1,2).その治療法としては手術3,4),経皮経管的血管形成術(percutaneous tansluminal angio-plasty,以下PTA)5,6),ステント挿入7,8)等が報告されている.今回我々はPTAの手法を用いた鎖骨下静脈狭窄の1治療例を経験したので報告する.

小腸内視鏡が術前診断に有用であった空腸平滑筋腫の1例

著者: 新山秀昭 ,   真方紳一郎 ,   橋爪健太郎 ,   森崎隆 ,   桑野恭行 ,   藤原博

ページ範囲:P.1077 - P.1079

はじめに
 小腸腫瘍は比較的稀な疾患で,未だ質的診断に苦慮することが多い.今回我々は,小腸内視鏡検査が術前診断に有用であった空腸平滑筋腫の1例を経験したので報告する.

胆嚢結石症を伴う左側胆嚢に対し,腹腔鏡下胆嚢摘出術を行った1例

著者: 江崎哲史 ,   杉岡篤 ,   鳥居和之 ,   小森義之 ,   菅谷宏 ,   蓮見昭武

ページ範囲:P.1081 - P.1085

はじめに
 左側胆嚢は胆嚢の位置異常に属する稀な先天性奇形の一つで,本邦報告例は40例に過ぎず,また本症に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術の報告は3例に過ぎない1,3)
 最近筆者らは胆嚢結石症を伴った左側胆嚢の症例に,腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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