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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科52巻13号

1997年12月発行

雑誌目次

特集 血管系病変と腹部消化器外科

急性大動脈解離と腸管虚血

著者: 近藤治郎 ,   井元清隆

ページ範囲:P.1521 - P.1526

 急性大動脈解離の血管合併症のうち,腸管虚血をきたす上腸間膜動脈や腹腔動脈閉塞は,全体の3%前後で決して頻度は高くはない.しかし,診断が難しい上に治療成績もきわめて不良である.外科治療成績は文献的には80%以上の死亡率である.この治療成績向上には,腹部大動脈に解離の及ぶ大動脈解離では腸管虚血の発生を常に念頭におき,注意深い観察のもとに時期を失することなく治療を行うことが大切である.現時点での方針は,DeBakeyⅠ型(Stanford A型)では発症早期(超緊急的)にentryを含めた大動脈置換手術,通常緊急手術を要しないDeBakeyⅢb型(Stanford B型)では,降圧治療中も腸管虚血発生に対し慎重な観察を行うことにより,本疾患に対する治療成績が向上すると思われる.

急性上腸間膜動脈閉塞症の診断と治療

著者: 佐藤幸治 ,   小越章平

ページ範囲:P.1529 - P.1532

 急性上腸間膜動脈閉塞症(SMA閉塞症)は現在でも重篤な疾患である.SMAが閉塞してから腸壊死になるまでの数時間の間に血流を再開しないと,大量腸切除や試験開腹となり予後が不良となる.心疾患の既往のある高齢者が突然の腹部激痛を訴えたなら本症を念頭におく.選択的SMA造影が確定診断となるが,造影CTやカラードプラ検査も参考になる.発症早期なら選択的血栓溶解療法が適応となる.腹膜刺激症状が出現していれば緊急開腹術を行う.壊死腸管の切除とSMAの血行再建を併わせて行う.術後は長期間の抗凝固療法が必要である.

急性上腸間膜動脈閉塞症に対する血栓溶解療法

著者: 岩崎善衛 ,   山口敏雄 ,   中島康雄 ,   石川徹

ページ範囲:P.1533 - P.1535

はじめに
 急性腹症として発症する上腸間膜動脈閉塞症は,腸管壊死をきたし死に至る重篤な病態であるが,診断困難な疾患の1つである.多くは心房細動や弁疾患による心臓由来の血栓による塞栓症である.早期診断に腹部単純X線撮影は有用ではなく,最近ではCTがその診断に有用であるとされている.上腸間膜動脈血栓は単純CTで上腸間膜動脈内にhigh densityとして見られ,造影CTでは上腸間膜動脈内の陰影欠損として認められることで診断される(図1).急性腹症で発症し,心疾患の既往がある患者においては急性上腸間膜動脈塞栓症を考慮に入れ,CTを積極的に行うことが勧められる1).確定診断は血管撮影であるが,確定診断に引き続いてカテーテルから血栓溶解療法が行われ救命効果を上げている2,3).今回は急性上腸間膜動脈塞栓症に対する血栓溶解療法について,実際の手技を中心に解説する.

非閉塞性腸管虚血症への対処

著者: 金田巌

ページ範囲:P.1537 - P.1541

 非閉塞性腸管虚血症は,腸間膜動脈の攣縮により生ずる虚血症であり,全虚血症の20〜30%を占める.初発症状は閉塞性虚血症に比べ軽微なことが多く重篤感がないために診断の遅れをもたらしやすい.血液生化学的検査で特異的なものはなく,画像では動脈造影での血管の攣縮像が確定診断となる.根本的治療は血管拡張剤の持続動注で,腸管の壊死をきたした場合のみ手術の適応となる.手術の基本は短腸管症候群を避けるべく,必要最小限の切除にとどめ,残存腸管のviabilityの判断に心血を注ぐ.予後はきわめて不良であり,予後改善のためにはhigh risk groupの初期症状を見逃さずに血管造影を行い,早期診断に努めることである.

上腸間膜静脈血栓症

著者: 石井貴士 ,   島田長人 ,   柴忠明

ページ範囲:P.1543 - P.1547

 上腸間膜静脈血栓症(mesenteric venous thrombosis)は古くは腸間膜血管閉塞症と称された疾患群の1つで,動脈血栓症や塞栓症に比較して稀な疾患である.かつては原因不明例が多かったが,最近ではアンチトロンビンⅢ,プロテインC,プロテインSなどの欠損症や分子異常症などの先天性血液凝固線溶系異常が成因の1つとして注目されている.本症は早期診断が困難であり,急性腹症として開腹され,多くは小腸大量切除などの外科的治療を余儀なくされているのが現状である.近年,画像診断やinterventional radiologyの進歩により早期診断および治療が可能となりつつあるが,再発率も比較的高く,長期にわたる経過観察が必要となる.

虚血性大腸炎

著者: 貞廣荘太郎 ,   徳永信弘 ,   向井正哉 ,   田島知郎 ,   幕内博康 ,   関田恒二郎

ページ範囲:P.1549 - P.1552

 虚血性大腸炎の臨床的特徴,治療方針をreviewし,自験例を呈示した.突然の腹痛,下血,下痢で発症する本疾患は,動脈硬化,血管炎などの血管側因子と便秘などに伴う腸管内圧上昇の腸管側因子が重複して発症すると言われ,高齢者ばかりでなくどの年齢層にも発生する.罹患腸管は下行結腸,S状結腸,横行結腸が大部分である.全症例の60〜80%が一過性型で,自覚症状は1〜2日,注腸などの所見は1〜2週間内に正常化するが,発症直後にその後の経過を予測することは困難で,身体所見,検査所見を見ながら経過を追う必要がある。壊死型と判断すれば緊急に壊死腸管を切除する.狭窄型は2年後に狭窄が消失した報告もあり,閉塞症状がなければ手術する必要はない.診断には注腸造影検査,大腸内視鏡検査が重要で血管造影検査の意義は小さい.また感染性腸炎,薬剤起因性腸炎を除外する必要がある.

腹腔動脈起始部圧迫症候群と上腸間膜動脈症候群

著者: 伊藤雅史 ,   仁瓶善郎 ,   杉原健一

ページ範囲:P.1553 - P.1557

 腹腔動脈起始部圧迫症候群は,正中弓状靱帯や腹腔神経叢などの外因性圧迫による腹腔動脈起始部の慢性狭窄が原因となって,食後のabdominal angina様症状や栄養障害をきたす疾患で,上腸間膜動脈症候群は十二指腸第3部が腸間膜根部と腹部大動脈や脊椎との問で圧迫されれて高位イレウスを呈する疾患である.ともに比較的稀な疾患で,臨床所見は非特異的であることも多く,また,概念や診断基準についても多少の問題点が残されている.したがって,診断に際しては他疾患の確実な除外診断を基本とし,手術適応は慎重に判断しなければならない。様々な術式が施行されているが,血管や周囲臓器の解剖学的関連を十分把握して治療にあたる必要がある.

腹部内臓動脈瘤

著者: 宮田哲郎 ,   重松宏

ページ範囲:P.1559 - P.1564

 腹部内臓動脈瘤は破裂しない限りは症状がないことが多いために,破裂し重篤な状態になって初めて診断されることがあり,注意すべき疾患である.過去27年間に筆者らが経験した腹部内臓動脈瘤24例35瘤を呈示し,診断,治療に関し文献的検討を加えた.発生部位の内訳は,脾動脈13例,肝動脈5例,空腸,回腸,結腸動脈3例,上腸間膜動脈2例,腹腔動脈1例である.破裂で初診した6例以外の18例中17例は無症状であり,他疾患精査時偶然診断されたものであった.治療を行った18例中待機手術12例は治癒したが,破裂例6例のうちで,肝動脈瘤十二指腸内破裂例とEhler-Danlos症候群の空腸動脈瘤破裂例を失った.腹部内臓動脈瘤の特性は発生部位,原疾患,形態により異なる.それぞれの瘤にあった治療法を選択して対処することが重要である.

消化管の動静脈形成異常

著者: 吉川宣輝 ,   藤谷和正

ページ範囲:P.1567 - P.1570

 消化管のangiodysplasiaは比較的稀な疾患であるが,近年の消化器内視鏡検査や血管造影検査の進歩・普及に伴って,報告例が増えつつあり,消化管出血の際には鑑別すべき疾患の1つである.多くは加齢に伴う後天性変化と考えられ,下血を中心とした消化管出血を主訴とする.右側結腸,空腸,回腸に発症するものが多く,大半は血管造影検査によって診断される.内視鏡による診断の報告も増えつつあり,その他,出血シンチグラフィ,内視鏡ドプラ超音波が診断に利用されている.出血に対しては,超選択的カテーテル挿入による動脈塞栓術,動脈内ピトレシン注入療法や,内視鏡的焼灼・凝固術,hot-biopsy,内視鏡的硬化療法などによる内科的治療が優先されるが,無効な場合には腸管切除術を行う.止血に成功すれば予後は良好である.

破裂性腹部大動脈瘤,腸骨動脈瘤

著者: 益子邦洋 ,   犬塚祥 ,   辺見弘

ページ範囲:P.1571 - P.1577

 腹部大動脈瘤や腸骨動脈瘤は無症候性,症候性または切迫性,破裂性の3つに分けられ,さらに破裂性のものは漏出性と真性破裂に分けられる.破裂性の場合の三徴として,腹痛または腰背部痛,腹部の拍動性腫瘤,ショックが知られている.ショック例では緊急血液検査と胸・腹部単純X線撮影,腹部超音波検査のみを迅速に行い,一刻も早く外科的治療を開始することが大切である.手術では迅速な中枢側遮断がポイントであり,横隔膜脚部や下行大動脈での一時的遮断も時には有用である.術後は多臓器不全,結腸虚血,下肢血栓塞栓症,対麻痺,abdominal compartment syndromeなどの合併に注意して全身管理を行わなければならない.

カラーグラフ 内視鏡下外科手術の最前線・36 肝・胆・膵・脾

腹腔鏡下総胆管切開術およびCチューブドレナージの手技と適応

著者: 北野正剛 ,   板東登志雄 ,   吉田隆典 ,   松本敏文 ,   二宮浩一 ,   D.パータル

ページ範囲:P.1513 - P.1518

はじめに
 わが国に腹腔鏡下胆嚢摘出術(lap.c)が登場して以来数年間は総胆管結石の合併はlap.cの相対禁忌とされていた.その後,術前術後の乳頭切開による結石除去,経胆嚢管的切石,腹腔鏡下総胆管切開Tチューブドレナージ,さらにCチューブドレナージ術が登場して治療法に選択の幅が出てきている1,2).これらの治療法を臨床応用し,いろいろな術式を経験した結果,現在,筆者らの施設では腹腔鏡下総胆管切開Cチューブドレナージ術を標準術式としているので,その術式および選択と適応について述べたい.

病院めぐり

水俣市立総合医療センター外科

著者: 谷川富夫

ページ範囲:P.1578 - P.1578

 当院は昭和28年に病床数98床にて国保水俣市立病院として発足して以来増築を重ね,昭和40年に現在と同じ395床となり,県南の医療の拠点として実績を挙げてきました.平成2年に全面改装,改築し,名称も水俣市立総合医療センターと改め,今日に至っています.昭和31年に発生した水俣病は公害の原点としてよく知られた忌まわしい出来事で,当院も検診業務等行政,医療両面から長年にわたり協力体制を取ってきましたが,今年1月ようやく和解が成立し,祈願の完全終結をみ,新生水俣市として希望の年を迎えることができました.
 さて,当院外科は熊本大学第2外科の関連施設で,院長を始め現在8名のスタッフで構成されています.北野院長,池田副院長が管理職・外来を担当され,浦島主任医長を中心に,麻酔の知識が豊富な大津医師,漢方に造詣の深い坂本医師,病理検索を兼務する小生(谷川),熊大2外科からの派遣医の前田医師,さらに僻地の久木野診療所長を兼務する宮崎医師(自治医大卒,県派遣)が現場で実働し,役割分担がうまくなされています.

大分県立病院外科

著者: 上尾裕昭

ページ範囲:P.1579 - P.1579

 大分県立病院は開設以来120年の伝統を有しており,診療科22科,ベッド数630床,医師100名を擁する県下の中核基幹病院としての役割を担っています.
 私たち外科では,消化器と乳腺の疾患を対象として,悪性疾患やリスクの高い患者さんを優先的に手術しています.75床のベッドをフル回転していますが,手術症例は年々増加しており,昨年度は総数626例,全麻症例は月平均41.1例,主な癌切除例は乳癌111例,胃癌86例,大腸癌80例,膵癌5例,食道癌5例,肝癌5例となっています.8名の外科メンバー(スタッフ6名,レジデント1名,研修医1名)は,九州大学第2外科(杉町圭蔵教授),九州大学生医研外科(秋吉毅教授,森正樹助教授),大分医大第1外科(北野正剛教授)の出身で,診療面では“より大きく”(拡大手術),“より小さく”(縮小手術),“より細やかに”(メンタル・ケアー)を合言葉に,患者さんが心身ともに元気で家庭復帰できるように取り組んでいます.

メディカルエッセー 『航跡』・16

カナダ横断30日間講演旅行(3)

著者: 木村健

ページ範囲:P.1580 - P.1581

 トロントでジェットを乗り換え,1時間半ほど東へ向かって飛ぶとカナダ東端の街,ハリファックスに着く.人口12万人ほどの静かな街は,丘の上に築かれた要塞の周囲を取り巻くように発展してきた港町である,目の前にはネービーブルーの大西洋が広がっている.鉛色の潮の色合いは,グリーンがかった色彩の太平洋と対照的である.同じ海でありながら何故こうも違いがあるのだろう.思いを他所に,巨大な水塊は水平線の彼方まで広がったままである,ハリファックスはノヴァスコシア州の東端に位置している.帆船による航海時代にはヨーロッパとアメリカ両大陸を結ぶ接点として栄えた.ノヴァスコシアは“新しいスコットランド”という意味である.読んで字のごとく,この街に定住した人々の故郷は英国であった.同じカナダでも日常語,道路標識それに人々のライフスタイルがフランス一色のケベック州と対照的に,ノヴァスコシアは古くから英国の伝統を維持している.
 質素ではあるが塵ひとつ落ちていない清潔な空港に降り立つと,Dr.マイク・ジャコマントニオが二人の坊やと一緒に出迎えてくれた.名前でわかる通り,マイクの先祖はこの街に住みついたイタリア移民である.二月前にトロント小児病院で二年間の研修を終えたマイクは,大都会の大学や小児病院から呈示のあったポジションをふり切って生まれ育った故郷のハリファックスに戻り,小児外科医としてこの地域に住む人々のために働くという道を選んだのであった.

臨床外科交見室

手術は祈りである

著者: 山根正隆

ページ範囲:P.1582 - P.1582

 1968年岡山大学第2外科教室に入局し,当時の砂田輝武教授に師事し,外科医の心構えを教わった.
 「外科医は患者に傷をつけることによって,病気を治すが故に大きな責任を負わされている.メスを使って人間のからだを傷つける治療上の特権を持っているが,それには必ず義務と責任を負わなければならない.外科医は,医学の基礎知識を十分に持つことは当然であるが,同時に人問性がなければならない.患者を理解し,愛する気持ちを持たねばならない.医師である前に「誠」の心を持った人間であれ,誠とはまごころであり,私欲を離れ,まじめにしかも全力を傾けて物事に対する心である」と盛んに言われていた.

私の工夫—手術・処置・手順・38

Valtrac自動吻合器を用いた全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術

著者: 岩淵知 ,   皆川正仁 ,   佐藤浩一 ,   町田清朗

ページ範囲:P.1583 - P.1583

 全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PpPD)にValtrac自動吻合器による十二指腸空腸吻合,一層結節吻合による膵胃吻合を行い,手術手技の簡略化と手術時間の短縮を目指した.
 通常の胆嚢摘出術を行い,総胆管,膵頭部,十二指腸乳頭部を切除,空腸はTreitz靱帯から15cmの部位で切離する.以後,以下のように消化管再建を行う.

外科医のための局所解剖学序説・17

腹部の構造 4

著者: 佐々木克典

ページ範囲:P.1585 - P.1593

 この連載で胆嚢だけを論ずる機会がないため,ここで少しその埋め合わせをしておきたい.胆嚢の手術の際必ずとりあげられる局所構造にCalot JFの名前が冠されたカローの三角(Calot's tri-angle)がある.しかし胆嚢管を底辺として,総胆管,肝下面で囲まれた三角で血管や胆管の損傷を招きやすい場所とする現在の記載は,Calotの最初の記載を必ずしも正確には反映していない,1891年Calotは,“この三角は正三角形ではなく,どちらかといえば二等辺三角形に近い.上縁は胆嚢動脈,下縁は胆嚢管でほぼ等しく,底辺となる肝管よりわずかに長い.腹腔神経叢の細かな枝で覆われている”と述べており,重要な構造の少ない3〜4cmの狭い隙間を指している.肝臓下面を含めた定義は拡大解釈されたものであり,いつのまにか名義だけが残り内容がすり替わってしまった.本人は不本意かもしれない.Calotが胆嚢の手術に深く関係したと考えるのはごく自然であるが,奇妙なことに彼の名前はこのトライアングル以外消化器外科領域で聞くことはない.それもそのはずで彼はPott's diseaseの治療をライフワークとした整形外科医であり,胆嚢は学位をとるためのテーマだった.彼自身胆嚢摘出はやっていない.Calotは信心深く内向的で,旅行を好まず,そのため国際的な名声を求めることもなくフランスの小さな街で一生を送った.

遺伝子治療の最前線・6

CEA遺伝子発現制御領域の癌遺伝子治療への応用

著者: 大崎匡

ページ範囲:P.1595 - P.1598

はじめに
 従来から癌治療に用いられている化学療法や放射線療法は癌細胞と正常細胞の増殖の差を利用したものであり,癌細胞に対して特異性が低い.その結果,正常細胞への副作用が強く,投与量が限られることから,これらの治療法に対する獲得耐性の原因ともなっている.癌胎児性抗原(carcino-embryonic antigen:CEA)遺伝子のように,正常細胞には発現していないが多くの癌細胞に発現している遺伝子の発現制御領域を用いれば,目的の遺伝子を癌細胞だけに発現させることができ,これを遺伝子治療に応用すれば癌特異的な治療法の開発が可能である.本稿ではCEA遺伝子の転写制御部位を含めた構造,機能を概説し,筆者らが取り組んでいる肺癌に特異的な遺伝子治療への応用を紹介したい.

臨床研究

残胃機能からみた胃癌に対する中央胃切除術の評価

著者: 佐野圭二 ,   伊関丈治 ,   高木正和 ,   袴田光治 ,   中上和彦 ,   遠山和成

ページ範囲:P.1599 - P.1604

はじめに
 リンパ節郭清を伴う幽門側胃切除術(distal gastrectomy,以下,DG)は胃癌に対する術式として確立され,特に早期胃癌に対して良好な遠隔成績を得てきた1,2).しかし術後経口摂取不良による低栄養状態の遷延や体重減少,ダンピング症候群など,術後合併症も少なからず見られている.その対策として,近年諸施設で幽門輪温存胃切除術(pylorus preserving gastrectomy,以下,PPG)が施行されているが3〜6),筆者らは幽門機能のみならず残胃容積をも可及的に温存するために,胃の肛門側切離端をできるだけ高位に設定し,可能なかぎり従来のリンパ節郭清のレベルを維持しながら幽門側残胃を温存する術式を考案した.このような術式を中央胃切除術(central gastrectomy,以下,CG)と呼称し,1992年7月より適応症例に施行している.
 今回,筆者らはCGを施行した症例に対し数種の胃機能検査を行い,多角的に術後残胃機能を評価し,その有用性を検討した.

臨床報告・1

胸腔穿刺後,腹腔内にfree airを認めた成人Bochdalek孔ヘルニアの1例

著者: 千須和寿直 ,   市川英幸 ,   村上真基 ,   土屋克巳 ,   増淵雄 ,   甘利俊哉

ページ範囲:P.1605 - P.1608

はじめに
 Bochdalek孔ヘルニアは,先天性横隔膜ヘルニアの中で最も頻度が高く,新生児期に重篤な呼吸,循環障害を起こす疾患である1).新生児症例に比べて成人になって発見される症例は比較的稀である2,3).今回,筆者らは胸部X線像で肺癌を疑い,精査の結果,成人Bochdalek孔ヘルニアと診断し,手術を施行した症例を経験したので報告する.

後腹膜変性型神経鞘腫の1例

著者: 十倉正朗 ,   川崎繁 ,   土壁浩 ,   宮田央 ,   藤田洋子

ページ範囲:P.1609 - P.1612

はじめに
 左腹腔神経叢部に発生した後腹膜変性型神経鞘腫を経験したので報告する.

肝硬変を合併した血友病A患者に対する経腹的食道離断術の経験

著者: 矢澤和虎 ,   梶川昌二 ,   下澤信彦 ,   中田伸司 ,   藤森芳郎 ,   天野純

ページ範囲:P.1613 - P.1616

はじめに
 血友病は伴性劣性遺伝性の先天性凝固因子欠損症であり,大きく第Ⅷ因子欠損症の血友病Aと,第Ⅸ因子欠損症の血友病Bに分けられる.血友病患者の手術に際しては,凝固因子の生体内回収率と半減期,出血の程度を勘案しながら凝固因子製剤を補充する.
 今回,肝硬変に続発した胃・食道静脈瘤,脾機能亢進症を有する血友病A患者において凝固因子補充療法を行い,経腹的食道離断術を無事施行しえた稀な症例を経験したので報告する.

骨形成を伴った後腹膜脂肪肉腫再発の1例

著者: 津田基晴 ,   池谷朋彦 ,   杉木実 ,   杉山茂樹 ,   三崎拓郎 ,   酒井剛

ページ範囲:P.1617 - P.1620

はじめに
 後腹膜脂肪肉腫の再発形成としては,局所再発が最も多い1).今回,筆者らは局所再発を繰り返したために14年間に4回の手術を行い,かつ4回目には骨形成のために腫瘍全体が腹部X線上はっきりと石灰化陰影を呈した,後腹膜脂肪肉腫再発の1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

貧血を契機に発見された若年者直腸粘膜脱症候群の1例

著者: 大谷眞二 ,   谷口哲也 ,   松井孝夫 ,   岸本弘之 ,   日野原徹 ,   小松健治

ページ範囲:P.1621 - P.1623

はじめに
 直腸粘膜脱症候群(mucosal prolapse syn-drome:以下,MPS)1)は顕性,非顕性の直腸粘膜の脱出の反復に炎症性変化が加わり,直腸粘膜に潰瘍性または隆起性病変が生じる疾患である.今回,貧血を契機に発見され,外科的治療を行った若年者のMPS症例を経験したので報告する.

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「臨床外科」第52巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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