icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科52巻3号

1997年03月発行

雑誌目次

特集 ドレッシング—創傷管理の新たな展開

エディトリアル

著者: 穴澤貞夫

ページ範囲:P.287 - P.289

ドレッシングとは何か
 Wound dressing.この聞きなれない言葉に接して読者の中には「はてこれは一体何のことか?」と首をかしげる方がいるかもしれない.Dressingというkey wordで文献検索をすると「看護婦さんのユニフォーム」の論文がでてきてしまうが,通常の英和辞典では「衣服を着ること」,等々の末尾に「傷の手当」と書いてある.また「包帯などの衛生材料」と書いてあるものもある.
 さて,われわれ医療者は臨床の場で多様な創傷に遭遇するが,それがどのようなものであれ,これを大気環境に晒しっぱなしにすることはせず,必ず何かで覆うという行為をする.これをwounddressingという.現在のところ日本語のこの言葉の対応語はなく,「創傷ドレッシング」,あるいは単に「ドレッシング」とカタカナに直して使っている.

創傷治癒に必要となる局所環境因子—ドレッシング理論の変遷と展開

著者: 倉本秋 ,   味村俊樹 ,   山崎一樹

ページ範囲:P.291 - P.298

 創傷治癒に影響する局所環境因子に関する認識は,1960年代以降大きく変化した.湿潤環境の重要性がWinterやHinmanらによって報告され,ついで外界の酸素張力が低いほうが,マクロファージから血管新生因子がより多く放出され,治癒が促進することが示された.そのような環境は閉塞性ドレッシングによってつくり出すことが可能である.閉塞環境をつくるドレッシングが感染の頻度を高めることはなく,細菌汚染がみられる創傷にも応用することができる.ハイドロコロイドドレッシングのもたらす酸性環境は静菌作用を有している.創腔に存在する増殖因子も合理的に利用され,創傷面の汚染防止や保温の目的も達することができる.「消毒薬」を創面に使用せず,以上の局所環境因子を整えることが大切である.

わが国におけるドレッシング材の現状

著者: 高尾良彦 ,   三浦英一郎 ,   穴澤貞夫 ,   山崎洋次

ページ範囲:P.299 - P.304

 近年,多種多様のドレッシング材が開発され入手可能になってきた.それに伴って従来の画一的な局方ガーゼを用いた創傷管理方法は,各種のドレッシング材を用いた方法に変わりつつある.諸外国と比較しても,種類の点ではわが国のドレッシング材供給状況はほぼ満足できる状態にあると考えられる.しかし入手可能な製品の情報を網羅した資料が得難く,また使用に際しての比較検討が十分なされているとは言い難い.外科医を中心に,医療従事者のドレッシング材に対する理解を深め,時代に即した創傷管理の基本の統一をあらためて強調する必要があると思われる.

ドレッシング材の開発とその展開

著者: 竹森繁 ,   田澤賢次

ページ範囲:P.305 - P.309

 創傷に対するドレッシングは,有史以前より様々な材料による方法が行われてきた.しかし,内容的には数千年前から19世紀に入るまでほとんど進歩しなかった.19世紀半ばの細菌の発見,無菌的操作法の概念に続き,20世紀半ばに湿潤環境下での創治癒の促進が理論的にも認められ,様々なドレッシング材が開発された.ドレッシング材は,1950年頃まではガーゼが主体であったが,1960年以降は湿潤環境理論に合致したポリウレタンフィルム,ハイドロコロイド,アルギネート,ハイドロゲルといった新しい材料が開発され発展を遂げてきた.ドレッシング材は,創傷が治るのを待つ時代から,積極的に治癒を促進させる時代へと進歩してきたのである.

一次縫合創に対するドレッシング

著者: 柵瀬信太郎

ページ範囲:P.311 - P.315

 一次縫合創も術後24〜48時間は創から少量の滲出液・血液の漏出や創汚染の可能性がある.これまでドレッシングとして使われてきたガーゼは滲出液吸収能はあるが,創汚染を完全に防止することはできない.フィルムドレッシングやハイドロコロイドドレッシングなどの閉塞性ドレッシングは少量の液体であれば処理能力をもち,皮膚の浸軟を起こすことも少ないので1週間程度は交換の必要がない.また伸縮性や粘着性に富み,さらに創汚染を完全に防止できることから,汚染を受けやすい部位の創,外来患者の小手術創,ガーゼの貼付・保持が困難な部位の創などに対してはとくに有用である.外来患者は快適かつ自由に動け,必要に応じて不安なくシャワーも浴びることができるなど生活の質の向上が得られる.これまで慣例化していた毎日のガーゼ交換,消毒など無駄な処置は不要となり,医療費削減・仕事量削減など医療側からみてもその有用性は高い.

擦過創,感染創に対するドレッシング

著者: 赤松順 ,   田嶋定夫

ページ範囲:P.317 - P.321

 最近,ドレッシングとは,創傷被覆法という意味だけでなく,広く全般的な創傷の管理方法を示す概念として捉えられている.そして,様々な創傷被覆材の開発と相俟って,閉鎖性ドレッシングの重要性が強調されている.ドレッシングの基本は,どのような創傷であれ,現在の創傷の状態を正しく把握し,それに適した治癒環境を提供することにある.以前より存在する方法から新しく提唱される方法まで幅広く理解し,創処置の原則や各種軟膏,創傷被覆材などの特徴に精通し,一般的な管理法を基準として,個々の症例に応じて,局所のみならず,あらゆる条件を検討,考慮し,対応するべきである.

難治性皮膚創傷に対するドレッシング

著者: 中村義徳 ,   浅生義人 ,   木原直貴 ,   永濱隆 ,   長谷川傑 ,   山城大泰 ,   藤川貴久 ,   加藤恭郎 ,   武田博士 ,   上田裕一

ページ範囲:P.325 - P.332

 細胞生物学の進歩に伴う“乾かして治す”乾燥環境下創傷治癒理論(dry wound healing)から“湿らせて痂皮をつくらず治す”湿潤環境下創傷治癒理論(moist wound healing)への変遷と,医療工学の進歩による新しいドレッシング材の登場は,創傷管理に新しい時代を開いた.従来から難治性皮膚創傷として知られている,褥瘡,下腿潰瘍,糖尿病性壊疽なども,適切な治療計画に基づく段階的な創傷管理を行うことにより,良好な治療成績を上げることが可能となってきた.創傷管理におけるドレッシングの果たす役割はきわめて大きい.

熱傷に対するドレッシング

著者: 大浦武彦

ページ範囲:P.333 - P.339

 広範囲に熱傷を受けると,水分・蛋白質・電解質が大量に失われ,体液の変動は著しく,生命の危険が生じる.また免疫不全に陥り,burn wound sepsisとなりやすい.したがって,重症熱傷において最も重要なことは,できる限り早期に自家皮膚で熱傷創を覆うか,同種植皮,人工被覆材で熱傷創面を覆うことである.近年,人工被覆材(new dressings)の開発はめざましく,組織親和性,鎮痛,不感蒸泄の調節や,分泌物の吸収や排出など,適切な処理能力をもった新しい人工被覆材が作られている.さらに人工被覆材に抗菌剤を含有させ,徐放させるものも開発されている.人工被覆材を使用すると,創を保護すると同時に創を湿潤状態に保ち,サイトカインの働きを助長して創傷治癒を促進させることが解明されている.本稿では,熱傷治療におけるdressingの歴史,人工被覆材と人工皮膚の違いを述べ,人工被覆材(new dressings)の臨床として人工被覆材と人工皮膚の種類,特徴,使用方法と熱傷治療の詳細について述べる.

ストーマ,瘻孔に対するドレッシング

著者: 渡辺成

ページ範囲:P.341 - P.344

 ストーマも瘻孔もその中から消化器あるいは尿路の内容が排出されるきわめて特殊な創である.創とそれを囲む皮膚の両者に留意しながらドレッシングを行うが,その管理が患者のQOLに密接に結びついているので外科医の責任はきわめて重い.ストーマも瘻孔もカラヤガムやハイドロコロイドといった皮膚保護剤と袋状のドレッシング材を用いてパウチングを行うのが標準的な管理方法である.排液量が多い瘻孔に対しては,積極的に排液を回收するclosed suction wound drainage法を採用するのがよい.局所管理に困難を感じたら,専門的なトレーニングを受けたストーマリハビリテーションナースに相談するとよい.

カラーグラフ 内視鏡下外科手術の最前線・27 大腸

大腸亜全摘術

著者: 中村利夫 ,   大上正裕 ,   馬塲正三

ページ範囲:P.279 - P.283

 腹腔鏡下大腸切除術が1991年に初めて米国で報告1)されて以来,その手技は欧米および本邦でも広く応用され,とくに良性疾患についてはその有用性が認められている.筆者らは1993年より主として家族性大腸腺腫症を対象として,全結腸を腹腔鏡下に剥離してから下腹部に比較的小さいPfannenstiel切開による開腹を加えるだけで大腸亜全摘,回腸肛門管吻合(restorativeproctocolectomy)を行う腹腔鏡補助下手術を施行している(表)2).これらの経験も踏まえ,腹腔鏡下大腸手術の手技上の要点を述べる.

病院めぐり

春日部市立病院外科

著者: 高本雄幸

ページ範囲:P.348 - P.348

 当院は,昭和33年2月に埼玉県厚生連農業協同組合連合会経営の春日部病院を買収し診療科5科,ベット数79床でスタートしました.昭和44年1月に現在の地に地域医療に根ざした総合病院として,診療科13科,ベット数250床で新設,移転しました.
 診療圏は春日部市,岩槻市,草加市,越谷市,幸手町,庄和町などの近隣の市町村となっています.現在の診療科は14科で,MRI,ライナックも備えており,許可病床は一般350床,伝染病棟20床で常に87%の利用率で稼働しています.

武蔵野赤十字病院外科

著者: 窪田孝蔵

ページ範囲:P.349 - P.349

 武蔵野赤十字病院は武蔵野市の南部に位置するこの地域の基幹病院の一つです.昭和24年の創立当時は病床数50床,診療科数6科,医師数8名でしたが,その後病院は数次にわたり拡充され,現在は567床,占床率約96%,1日の外来患者数約2,000名という規模になっています.本稿が掲載される頃には新病棟の建築がはじまり,2年後にはさらに増床されることになっています.当院は昭和57年に救命救急センターに指定され,昼夜を問わず急患が飛び込んできます.ちなみに平成7年の救急車による来院件数は4,264件でした.屋上にはヘリポート(写真Ⓗのマーク)があり,主に奥多摩方面より重度の外傷患者が搬送されてきます.
 外科は平成7年の心臓血管外科の独立以後10名のスタッフで構成され,腹部および頸・胸部の外科疾患の診療に従事しています.また,当院では全国公募の研修医が毎年6〜8名採用され,そのうちの1〜2名がローテーションで外科に回ってきますのでその指導にもあたっています.外科の病床数は,混合ベッド制をとっているために一定ではありませんが,70床前後です.総手術数は小手術を含めて平成7年が1,198件で,このうち成人の全身麻酔例は596例,主な悪性疾患は胃癌105例,大腸癌103例,乳癌72例でした.

メディカルエッセー 『航跡』・7

中国の小児外科医(1)

著者: 木村健

ページ範囲:P.350 - P.351

 1981年4月.フィラデルフィア小児病院で永年小児外科部長を努めたDr.Koopは,レーガン大統領の要請を受けて公衆衛生局長官(SurgeonGeneral)として閣僚に加わることになった.小児外科医の輝かしい経歴に終止符を打って政界に進出することになったDr.Koopは内外の政学界から千人に余るゲストを招いて,学究生活との別れの宴を開いた.当時兵庫県立こども病院に勤めていた筆者も,招待客に加えてもらいペンシルバニアへと向ったのである.
 合衆国の現行法では公衆衛生局長官の候補者は65歳未満でなくてはならない.ところが,当時Dr.Koopは65歳を過ぎており,法的には不適任者であった.レーガン大統領はDr.Koopに限ってはたとえ年齢オーバーであっても長官就任を許可するという特別法案を議会に提出した.これが,与野党の賛同を得て万場一致で可決,めでたくKoop長官の誕生をみたのである.この経緯を日本のシステムと比較してみると,法律,規則,それに憲法でさえも,時代と局面の要求に応じてどんどん変えるというのがアメリカである.他方の日本では,法律,規則,政令のたぐいは金科玉条かつ絶対不変のものとして護り通す.とくに役人が普通の市民に対して威圧的立場をとりたいとき,法や規則をかさに着るのは日常経験されている通りである.

臨床外科交見室

むすび

著者: 山形尚正

ページ範囲:P.352 - P.352

 三内丸山遺跡で約5,500年前の編布の断片がはじめて出土した.日本では最古級のものらしい.平織りの布の断片は既に此処で出土していた.縄文の編布にはイラクサ科のカラムシやアカソなどの麻系統の細い繊維が使われていたが,今後素材を鑑定してもらう予定という.
 私が医師免許を取りたての頃は縫合糸は絹糸かカットグットであった,現在は合成糸も多く,どれを使うべきか迷うこともある.糸結びを見ればその人の腕がわかるともいわれた.

私の工夫—手術・処置・手順・29

腹腔鏡下総胆管砕石術におけるバルーンカテーテルによる結石除去

著者: 岡本亮爾 ,   坂田晃一朗 ,   福山訓生

ページ範囲:P.353 - P.353

 腹腔鏡下胆嚢摘出術の技術,手術機器の進歩に伴い,今日では一部の総胆管結石症症例も腹腔鏡下手術の適応とされるようになった.しかしながら,開腹手術であれば総胆管内の結石の除去はいくつかの方法を組み合わせ,比較的容易に行いうるが,腹腔鏡下では結石の摘出手段は限られている.通常,胆道内視鏡下にバスケット型把持鉗子を用いるが,実際にはかなり操作性が悪く,困難な手技である.われわれは胆道用フォガティカテーテルを用いて良好な結果を得ているので報告する.
 通常の胆嚢摘出術と同様にまず胆嚢管を露出し,造影用のカテーテルを挿入する.総胆管の処理が終了するまで胆嚢の切除は行わない.総胆管の前面を剥離し,マイクロ剪刀を用いて約1cmの縦切開を置く.胆道ファイバーは5.4mm径のCYF−3を用いているが,硬性腹腔鏡用CCDを装着可能で,きわめて有用である.右季肋部のサージポートより6ないし7Fの胆道用フォガティカテーテルを総胆管切開部より挿入し,数センチ乳頭方向に前進させる.フォガティカテーテルはそのままに,引き続き胆道ファイバーを挿入し結石を確認する.内視鏡観察下にカテーテルを結石を越えるまで進め,バルーンを拡張し内視鏡とともに徐々に引き抜き,結石を総胆管切開部まで移動させる(図1).胆道ファイバーを抜去し,結石を腹腔鏡で観察しながら把持鉗子にて摘出する.

外科医のための局所解剖学序説・8

胸部の構造 3

著者: 佐々木克典

ページ範囲:P.355 - P.364

 Blalock-Taussigの手術が生まれたきっかけは,肺動脈狭窄を伴う先天的心疾患に副血行路が発達しており,それは肺動脈の血液量を確保するためであることに気づいたからだと学生時代に教わった.解決の糸口を生体自身が暗示していたことに深く感動した.
 Alfred Blalock,Helen B Taussigが先駆的な治療を行った例をJAMAに報告したのは1945年5月であった.しかしBlalockが最初に手術したのは1944年11月29日である.助手としてこの手術に参加したLongmire Williamはその時の印象を次のように述べている.“当時血管外科に必要なモダンな器具など一切なかった.ただ教授の意志決定だけがこの手術を遂行させたのである.開胸してみると,かつてみたことがないほど副血行路が発達し青黒い血で満たされていた.左肺動脈を縦隔で見出した後,鎖骨下動脈と吻合したが,決してやさしい手術ではなかった”.

詳説 皮膚割線の局所解剖・3

女性解剖体における顕出例の示説—肩峰周辺・腋窩から上肢にかけて

著者: 伊藤由美子 ,   佐藤達夫

ページ範囲:P.365 - P.370

はじめに
 前回に引き続き,今回は「肩峰周辺・腋窩から上肢にかけて」の割線について示説する.
 従来の上肢の報告例の挿図を見ると,前後からの観察が主であり,肩峰周辺から続く上肢の外側部あるいは腋窩から続く内側部についての記載がない.そこでわれわれは,上肢を前,外側,後,内側の4方向に分けて観察・記録することにより,体幹から上肢への移行部での割線の変化を調査した.さらに,手背,手掌の割線の精査などを含めて,詳細図(図15),展開図(図16),総合図(図18)を活用して示説する.

抗生物質によるエンドトキシン血症・3

放出機序と影響される病態および臨床的検討

著者: 谷徹 ,   小林知恵 ,   近藤浩之

ページ範囲:P.371 - P.377

はじめに
 抗生物質投与後,数時間後に起こる一過性の炎症反応増悪現象は前世紀末から知られてきた.臨床経験,in vitro, in vivo,臨床的検討の知見から,エンドトキシン放出に影響するさまざまな因子は表1のごとくまとめられる.
 従来,β-ラクタム系抗生物質の作用機序はトランスペプチダーゼ阻害によって起こると考えられ,殺菌機序もすべてこの機序により説明されてきた.しかし,1975年,Spratt1)がペニシリン結合蛋白(PBP)を報告し(表2),メシリナムによって起こる大腸菌の球状化現象も説明した新知見により,抗生剤とエンドトキシン放出機序について新しい考え方が必要となった.また,今まで感染症が単独の疾患であったのに対し,近年,とくにsystemic inflammatory response syndrome(SIRS)の概念が提唱2)され,感染とは別にエンドトキシンやサイトカイン血症といった毒素血症が原因で全身炎症反応状態となる重症病態が再確認された.Compromized hostが増え,感染症下にエンドトキシンが放出される病態は,重大さを増したと思われる.

臨床研究

si(ai)直腸癌の臨床病理学的検討

著者: 井上雄志 ,   鈴木衛 ,   吉田勝俊 ,   高柳泰宏 ,   安原清司 ,   天満祐子 ,   手塚徹 ,   高崎健

ページ範囲:P.379 - P.382

はじめに
 直腸癌は狭い骨盤腔に位置し,膀胱,精嚢,前立腺,子宮,腟などに接しているため,隣接臓器へ直接浸潤している症例は少なくない.そこで今回われわれは,組織学的隣接臓器浸潤直腸癌について臨床病理学的に検討した.

穿孔性十二指腸潰瘍に対する腹腔鏡下手術—単純閉鎖十大網被覆法と大網充填被覆法の比較

著者: 福田直人 ,   石山純司 ,   春日井尚 ,   宮島伸宜 ,   丸野要 ,   山川達郎

ページ範囲:P.383 - P.386

はじめに
 穿孔性十二指腸潰瘍の治療方針として,従来は広範囲胃切除術や迷走神経切離術に代表される潰瘍根治術が中心であったが,強力な抗潰瘍薬の普及に伴い,最近では治療方法が大きく変化している1,2).すなわち,穿孔部閉鎖術に代表される穿孔性腹膜炎の治療のみを外科的に行い,潰瘍自体は薬物療法で治す方法が一般的になりつつある.このような背景のもと,われわれは穿孔性十二指腸潰瘍に対するminimally invasive surgeryとして,腹腔鏡下穿孔部閉鎖術を1993年1月より適用してきた3).当初は,鏡視下に穿孔部の単純閉鎖と大網の被覆を行っていたが,最近では穿孔部に大網を直接縫着させる充填被覆法を用いている.そこで,腹腔鏡下大網充填被覆法の実際と自験例の成績について検討を加えた.

臨床報告・1

後腹膜に発生した非機能性傍神経節腫の3切除例

著者: 浮草実 ,   鍛利幸 ,   山本俊二 ,   有本明 ,   中島康夫 ,   花房徹児 ,   粟根弘治

ページ範囲:P.387 - P.392

はじめに
 後腹膜腫瘍の全腫瘍に対する発生頻度は0.2%1),さらに傍神経節腫は後腹膜腫瘍の1.8%2)と非常に稀な疾患である.筆者らは,内分泌活性のない非機能性の後腹膜傍神経節腫を3例経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

十二指腸平滑筋芽細胞腫の1例

著者: 岩淵知 ,   佐藤浩一 ,   町田清朗 ,   福田晃也 ,   大出華子 ,   田中正則

ページ範囲:P.393 - P.395

はじめに
 平滑筋芽細胞腫の報告は胃原発が多く,他臓器原発は稀とされている.今回筆者らは下血で発症した十二指腸平滑筋芽細胞腫の1例を経験し,緊急手術を行って良好な結果を得たので報告する.

小腸憩室炎に起因する小腸膀胱瘻の1例

著者: 藤井正彦 ,   正宗克浩 ,   今冨亨亮 ,   斉藤恒雄 ,   中田昭愷 ,   嶋津秀樹

ページ範囲:P.396 - P.398

はじめに
 消化管膀胱瘻はその多くが結腸憩室炎の合併症として報告されており,小腸膀胱瘻の頻度は非常に低い.今回われわれは,非常に稀な小腸憩室炎による小腸膀胱瘻の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

術前に内視鏡で診断しえた回腸の多発性悪性リンパ腫による腸重積症の1例

著者: 乳井誠悦 ,   長内宏之 ,   大庭滋理 ,   増岡秀次 ,   江端俊彰 ,   吉田幸成

ページ範囲:P.399 - P.403

はじめに
 消化管原発の悪性リンパ腫は比較的稀であるが,そのなかで回腸末端部は好発部位とされている.また成人の腸重積症は全腸重積症の5〜10%を占めるとされ1),器質的疾患が原因となる場合が多い.われわれは術前に診断された回腸末端部の多発性悪性リンパ腫を先進部とする腸重積症に対して腸管切除術を行い,術後の化学療法が奏効した1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

食道癌の同時性甲状腺転移の1手術例

著者: 葉梨圭美 ,   高見博 ,   三吉博 ,   関根勝 ,   小平進 ,   小坂井守

ページ範囲:P.405 - P.407

はじめに
 食道癌の転移部位としては,頸部・縦隔リンパ節や,肺・肝臓が多い1).われわれは稀である甲状腺への転移を認めた食道癌を経験し,原発巣と共に切除しえたので報告する.

乳癌小腸転移によるイレウスの1手術例

著者: 津田基晴 ,   池谷朋彦 ,   中島邦喜 ,   鈴木衛 ,   三崎拓郎 ,   酒井剛

ページ範囲:P.409 - P.411

はじめに
 乳癌の消化管転移は末期状態で生ずることが多いため,外科的治療の対象となることは稀である.今回われわれは,乳癌手術8年後にイレウスで発症した乳癌小腸転移の1手術例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Yersinia腸炎により腫大した腸間膜リンパ節を先進部とした腸重積症の1例

著者: 宮本康二 ,   山本哲也 ,   清水幸雄 ,   由良二郎 ,   林照恵 ,   池田庸子 ,   粟田浩史 ,   山岸篤至

ページ範囲:P.413 - P.416

はじめに
 近年,Yersinia(以下,Y.)感染症の報告例が徐々に増加しているが,腸重積を来たした症例の報告は少ない1).今回われわれは,腸重積により緊急手術を施行し,腹腔内全域の著明なリンパ節腫大を認めたため,腸重積の再発を防止する目的で回盲部切除術を施行したところ,術後,リンパ節よりY.pseudotuberculosisが検出され,Yersinia腸炎による腸重積症と診断した症例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?