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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科52巻4号

1997年04月発行

雑誌目次

特集 膵瘻の予防・治療のノウハウ

なぜ膵瘻になるのか

著者: 武田和憲 ,   山内淳一郎 ,   江川新一 ,   松野正紀

ページ範囲:P.431 - P.435

 膵瘻(膵液瘻)は体腔あるいは体腔内の臓器と交通する内膵液瘻と体腔外に交通する外膵液瘻とに分けられる.内膵液瘻は慢性膵炎に伴う膵性腹水,膵性胸水,消化管との内瘻が大半を占める.外膵液瘻は膵切除後,膵空腸吻合における縫合不全,外傷後,急性膵炎術後などにみられ,ドレーンから膵液が排出される場合をいう.その発生機序は内膵液瘻は仮性嚢胞の穿破であり,外膵液瘻は膵に手術などの侵襲が加わった場合の創傷治癒不良があげられる.

膵液漏出,膵瘻をどのように診断するか

著者: 浅沼義博 ,   柴田聡 ,   小山研二

ページ範囲:P.437 - P.440

 膵液漏出,膵瘻は膵手術,腹部外傷に伴う膵損傷や急性膵炎による膵壊死などに続発し,膵管が破綻することによって生じる,ドレナージが良好であれば外膵液瘻が形成されるが,ドレナージが不良であれば膿瘍や大出血に至ることもある.
 排液が膵液であることはその性状,周囲組織の反応,アミラーゼ濃度などによって診断する.すなわち,膵液は無色透明であるが他の消化液と混合すると黄白色に混濁し,排液は膿状で異臭を放ち,周囲の皮膚に発赤,びらんをきたす.排液中のアミラーゼ濃度は5,000IU/l以上を示す.
 さらに瘻孔造影,ERP,CTは瘻孔と膵管の位置関係,膵管の断裂や狭窄の程度を把握でき,治療法を決めるのに有用である.

膵液漏出を膵瘻とするために

著者: 岡正朗 ,   上野富雄

ページ範囲:P.441 - P.444

 膵外に漏出した膵液は適切なドレナージにより体外へ誘導されると.3〜4週間で瘻孔を形成し外膵液瘻となる.本稿では膵瘻とは外膵液瘻を指すものとし,膵に関連する手術における漏出膵液を膵瘻をするための諸家および当科における工夫について紹介する.膵切離後のある程度の膵液漏出は許容され得ると考えられるが,適切なドレナージが行われる限り,純粋膵液瘻の約80%は自然に閉鎖するとされている.漏出膵液を膵瘻とするためには,①漏出する膵液をできる限り最小限に抑え,②遊離腹腔内への拡がりを防ぎ,③体外へ適切に誘導路を確保してやること,が原則であり,特に適切なドレーン留置を強調したい.

膵尾部切除における膵液漏出・膵瘻とならないための工夫

著者: 高橋伸 ,   玉川英史 ,   富川盛啓 ,   斎藤淳一 ,   相浦浩一 ,   北島政樹

ページ範囲:P.445 - P.450

 膵液漏は膵手術後における合併症のなかで最も頻度が高く,いったん発生すると腹腔内膿瘍,腹腔内出血などを起こしやすく,外科医にとっては厄介な現象である.膵尾部切除では膵断端の主膵管や,更に細い膵管からの膵液の漏出が問題となる.膵断端の処理には種々な方法があるが,膵液漏を0%にすることは残念ながら不可能である.筆者らは術直後のある程度の膵液漏出は避けられないと考えており,膵液をいかに体外にドレナージするか,すなわち腹腔ドレーンの入れ方がポイントであると考えている.不幸にして合併症が生じた場合にも治療に役立つドレーンを入れるべきである,

膵鉤部切除における膵液漏出,膵瘻とならないための工夫—膵鉤状突起,腹側膵の位置ならびに構成要素と関連して

著者: 高田忠敬 ,   安田秀喜 ,   天野穂高 ,   吉田雅博 ,   内田豊彦 ,   須田耕一 ,   高橋徹

ページ範囲:P.451 - P.457

 膵液漏出,膵液瘻とならないための工夫には,切除部位の解剖学的位置関係を知る必要がある.膵鉤部は解剖学的用語ではなく膵頭の左下から上腸間膜静脈の背側に伸びる鉤状突起を指していると考える.膵頭と鉤状突起は腹側膵と背側膵が癒合し,膵頭では腹側膵が後部に,背側膵が前部に存在する.鉤状突起は腹側膵のみで構成されるものと,腹側膵が頭側約2/3を,背側膵が足側約1/3を構成する2つのタイプがある.両原基のdrainage ductであるWirsung管と分枝,Santorini管と分枝は,膵頭では後部と前部に走行している.鉤状突起では頭側はWirsung管の分枝が走行し,足側はSantorini管の分枝が走行している.これらの解剖学的特徴を理解することが合併症予防に最も大切である.

膵頭十二指腸切除における膵瘻の予防対策

著者: 跡見裕 ,   杉山政則

ページ範囲:P.459 - P.462

 膵頭十二指腸切除術は膵頭部領域の腫瘍に対する標準的な術式である.最近の画像診断を中心とした診断技術の向上や術前後の管理の著しい進歩により本術式の手術成績も良好なものとなりつつあるが,膵を含めた消化管の大量切除と複雑な消化管再建が必要であり,術前後に慎重かつ綿密な管理が要求される.術後の合併症の中でも,膵消化管吻合部の縫合不全は膿瘍形成やときに腹腔内大量出血などのきわめて重篤な病態に至ることがあり,膵頭十二指腸切除術におけるkeypointとなっている.
 そこで,本稿では膵消化管吻合縫合不全の診断,治療,予防対策としての手術手技について述べる.

膵生検における膵液漏出・膵瘻とならないための工夫

著者: 飯田俊雄 ,   川原田嘉文

ページ範囲:P.463 - P.469

 膵生検は主に経皮的膵生検,内視鏡下膵生検,術中膵生検に大別されるが,合併症としての膵液瘻が主要な問題である.そこで膵液瘻を合併しやすい経皮的膵生検,および術中膵生検を文献的に集計し検討した.経皮的膵生検では超音波下生検616例,CT下生検314例,計930例の膵生検報告例中CT下で1例(0.11%)のみに膵液瘻を合併していた.手技的にはなるべく細径針を使用し,迅速,的確な生検で膵液瘻のみならず合併症全般の発生率が低くなっている.また術中膵生検では,1,334例の膵生検報告例中19例(1.4%)にみられ,経皮的膵生検例より高率であった.当科の膵腫瘤摘出術を含む18例中2例に膵液瘻が認められた.核出術や生検の場合には生検終了後セクレチン静注により膵液の漏出の有無を確認し,フィブリン糊製剤を塗布し膵液瘻合併の予防が重要である.

難治性膵瘻に対するIVR—経皮経胃的膵瘻ドレナージ術

著者: 田中一郎 ,   山内栄五郎 ,   小森山広幸 ,   生沢啓芳 ,   金杉和男 ,   萩原優

ページ範囲:P.471 - P.476

 膵切除後の合併症として膵瘻を認めることがあるが,消化管との内瘻化や尾側膵実質の荒廃に伴う外分泌機能低下など,より多くの場合保存的に自然治癒する.しかし,難治性膵瘻の場合,長期にわたり管理に難渋することが多く,瘻孔消化管吻合術などの内瘻化が必要な場合もある.筆者らは最新のIVR(interventional radiology)的手法である経皮経胃的ドレナージ術を膵仮性嚢胞1),膵管拡張型慢性膵炎2)そして重症急性膵炎3)に施行しその有用性を確認してきた.本稿では,経皮経胃的ドレナージ術の応用である経皮経胃的膵瘻ドレナージ術について手技を中心に述べる.

膵外分泌抑制療法は有効か

著者: 長見晴彦 ,   矢野誠司 ,   田村勝洋

ページ範囲:P.477 - P.481

 薬剤による膵外分泌機能抑制療法が膵液瘻治療に有効であるか否かについて自験例も含めて検討した.従来より膵外分泌機能抑制作用を有する薬剤として,サンドスタチンは有名であり,これまでにも本邦,欧米においてサンドスタチンが膵液痩の治療に有効であることを指摘する報告も多いが,筆者らは今回β-adrenergic agonistであるterbutaline sulfate(ブリカニール)を膵液瘻の患者に投与しその有効性を確認した.terbutaline sulfateの膵に対する作用は単に膵血流を介したものではなく膵実質への作用と考えられ,本剤により膵液,重曹,膵酵素分泌が抑制されることが実験的,臨床的に確認されている.
 膵液瘻に対しては,漏出膵液の完全な体外ドレナージと絶飲食により膵液分泌量の減少,中心静脈栄養管理と体液漏出の補正,抗膵酵素剤投与と感染予防を中心とした保存的療法をまずは優先すべきであるが,これらの治療に加え,薬剤によって膵外分泌機能を抑制すれば比較的早期の段階で瘻孔閉鎖が期待できるという点において,本方法は今後膵手術後の高齢者などに対し,予防的投与も含めて積極的に試みてもよい治療法であると考える.

難治性膵瘻の外科治療

著者: 宮﨑耕治

ページ範囲:P.483 - P.486

 難治化した膵瘻の手術適応決定に際しては,膿瘍腔の残存がなく,少なくとも2か月以上経過して瘻管が線維性に強固に形成されていることが必要条性である.主膵管の頭側から消化管への流れに障害がなければ,保存的治療が十分期待できるし,閉塞があればIVRないしは手術が必要となることが多い.膵炎後の膵瘻はとくに治療に難渋することが多く,瘻管造影と膵管造影は不可欠である.膵瘻となった原因と全身状態,社会復帰への時間的余裕からcase by caseで手術適応,時期を決定する必要があり,術式としては瘻管の強度を考慮して,胃ないしは空腸ルートを用いてdiversionを行うことが多い,

膵瘻の合併症は

著者: 細谷亮 ,   小切匡史 ,   今村正之

ページ範囲:P.487 - P.491

 膵瘻は種々の原因で起こるが,急性の術後膵外瘻で感染も活性化もしていない純粋膵液が少量みられる膵瘻の多くは保存的治療で自然閉鎖する.複雑膵瘻で腸液や胆汁を混じ活性化膵液が周辺臓器を溝化したり感染が合併した場合には,腹腔内膿瘍や血管破綻による術後出血などを合併することがある.いったん膵瘻が発生した場合には,適切なドレナージと保存的療法により膵瘻合併症を起こさないように慎重に管理することが大切である.また,経過中に腹腔内大量出血をきたす可能性があることを常に念頭において腹腔内ドレーンを注意深く観察することが肝要である.膵瘻合併症の診断,予防と治療について述べた.

膵性胸水・腹水の病態と治療

著者: 高橋利幸 ,   奥芝知郎 ,   道家充 ,   奥芝俊一 ,   加藤紘之

ページ範囲:P.493 - P.497

 慢性膵炎の比較的稀な合併症である膵性胸水・腹水の病態と治療について,自験例の経験を交えて述べた.本症は胸・腹腔穿刺液の性状を調べること,および膵管造影によって内膵液瘻の存在を証明することによって確定診断が得られる,膵の安静と,高カロリー輸液などの保存的治療によって約半数が治癒するといわれるが,病態が遷延した場合,仮性動脈瘤破裂など重篤な合併症を引き起こし,死亡する症例もあることから,保存的治療開始後3〜4週で治癒傾向のみられない場合には,手術のタイミングを逸することなく外科治療が考慮されるべきであろう.

カラーグラフ 内視鏡下外科手術の最前線・28 大腸

大腸癌に対する腹腔鏡下リンパ節郭清術

著者: 筒井光広 ,   佐々木壽英 ,   田中乙雄 ,   梨本篤 ,   土屋嘉昭 ,   佐野宗明 ,   牧野春彦

ページ範囲:P.423 - P.429

はじめに
 大腸癌に対する腹腔鏡補助下切除術は多くの施設で行われるようになったが,その切除方法は各施設での差が大きく,手技的な問題としての施設間の差は解消されていない.特に,リンパ節郭清については,開腹で行う方法や1),超音波吸引装置を用いた方法2)も行われているが,郭清の方法や郭清の範囲についての基準は示されていない.そのため,郭清の確実性についてはoncologistから十分な承認を得ているとはいえない現況にある.今後の大腸癌の腹腔鏡下手術の発展のためには,リンパ節郭清を確実なものとすることがきわめて重要である.本稿では,筆者らの行っている腹腔鏡下リンパ節郭清法を呈示して批判を仰ぐとともに,確実な腹腔鏡下リンパ節郭清法確立の一助としたい.

病院めぐり

横浜市立市民病院外科

著者: 鬼頭文彦

ページ範囲:P.498 - P.498

 横浜市立市民病院は,昭和35年に,内科,小児科、外科,産婦人科の4科42床の病院として開設され,その後,増床を繰り返し,昭和56年にはがん検診センターの業務を開始した.また昭和57年には病院の再整備計画が着手され,以後,南病棟,東病棟,西病棟の順で再整備が完了し,平成3年には,感染症病棟を含む637床の総合病院として再出発した.現在では診療科は計20科にわたり,医師の数は研修医20名を含めて113名である.
 病院は,サッカーのJリーグ開催で知られる横浜の三ツ沢競技場と,桜の名所三ツ沢公園のすぐそばにあり,春には各病棟がお花見に繰り出している.また,高台にあるため,8階からのランドマークタワーを含む横浜の眺望は一見の価値がある.

愛知県立尾張病院外科

著者: 浅野昌彦

ページ範囲:P.499 - P.499

 愛知県立尾張病院は,濃尾平野の中央,一宮市の西端に位置し,名神高速道路,東海北陸自動車道に近接する交通の便の良いところにあります.7万m2の広大な敷地は緑につつまれ,春には桜が美しく,環境に恵まれた病院です.
 本院は,県民の結核医療対策の一環として昭和32年に結核病床300床で開院しましたが,その後,結核患者の減少,一般患者の増加とともに診療機能の拡充を図り,昭和56年に救急病棟を建設,昭和60年に心臓血管外科を開設し,平成7年4月に病床数350床(一般病床280床,結核病床50床,伝染病床20床)の新病院に診療を移しています.当院の特色は,地域住民の一般診療を行うとともに,24時間体制の循環器疾患治療であり,循環器病センターが併設されています.循環器内科では年間1,000例を越す心臓カテーテル検査と約300例のPTCAが行われています.それに伴い心臓外科では開心術(冠動脈バイパス術,弁置換術など)が年間約130例行われています.また,地域医療の二次救急を担当し,災害拠点病院に指定されています.

臨床外科交見室

研修医の「ため息」

著者: 池田俊行

ページ範囲:P.500 - P.500

 最近,手術件数が激減している.といってもこれは研修医の話である.
 私が研修医として広島市民病院に勤務した1972年頃は胃十二指腸潰瘍,胆石,鼠径ヘルニア,虫垂炎などの良性疾患が悪性疾患より多く,これら良性疾患の多くは研修医の「モノ」だった.良性疾患の手術で,メスやハサミなどの手術器具の扱い方やテクニックなどを学んだ.そして2年間の研修の終わる頃には,指導医の下に胃癌,乳癌,大腸癌などの手術もそれなりにできるようになっていた.しかし,年々悪性疾患の手術件数が増加していったのとは逆に良性疾患の手術件数は減少していった.とくに1982年に胃十二指腸潰瘍に対してH2ブロッカーが登場して以来,胃十二指腸潰瘍の手術件数は大幅に減少し,外科医の出番は穿孔,幽門狭窄,大出血などの三大合併症の場合だけであり,これら緊急を要する手術に研修医の出番はない.

私の工夫—手術・処置・手順・30

ヒルシュスプルング病根治手術における器械吻合の工夫

著者: 濱田吉則 ,   日置紘士郎

ページ範囲:P.501 - P.501

 ヒルシュスプルング病の根治手術術式には,Swenson法,Soave法,Duhamel法などの変法あるいは改良術式が現在広く行われている.われわれはDu-hamel変法の1つで器械吻合を応用したDuhamel-GIA法を行っているので,術式ならびにGIAの使用上の工夫について紹介する.
 新生児期を指ブジー,浣腸などの保存治療で管理できる症例は母親に手技を指導後,外来で経過観察としている.しかし腹満,嘔吐,ときに腸炎を来たし,体重増加も不良な症例には適切な時期に人工肛門を造設する.人工肛門を造設する部位はshort segment typeで2期的手術とする場合はS状結腸に,3期的手術とする場合は右側横行結腸に置く.S状結腸より口側に及ぶ症例では全例3期的手術とし,右側横行結腸に置く.人工肛門造設時は術中迅速病理を必ず行い,神経節細胞の有無を確認する.根治手術は体重6kg,生後6か月を原則としている.

メディカルエッセー 『航跡』・8

中国の小児外科医(2)

著者: 木村健

ページ範囲:P.502 - P.503

 第1回中国国際小児外科学会の案内は,Dr.韓のリクエストによって個人的に交流のあった人を選んで発送することになった.通常,小児外科の国際学会の案内は,米,英,欧,太平洋小児外科学会のメンバー宛に発送しておけば,殆んど世界中の小児外科医をカバーすることができる.これらの学会のすべてのメンバーになっていると,同じ案内状を3つも4つも重複して受取ることになる.そうした一網打尽の方式を避けて,Dr.韓の個人的な友人に限った理由は今もってよくわからないが,全く出合ったこともない人を招くのに一抹の不安があったせいかも知れない.西側8か国の35人の方々から出席するとの返信があり,これを天津に連絡すると,ことのほか喜んでもらえた.当時の中国の国内事情では,国際学会を開くと言っておきながら,外国からの参加者が少なければ当事者の面目にかかわることであるし,何よりもドルで支払ってもらう参加費がなければ会の運営が成り立たなかったのである.期日が迫り,学会もあと2日で開会するというところまで来た.何しろ国際学会というものを経験したことのない人達ばかりで,初めて開催されるというのだから,一部たりとはいえ会の開催を請負った人間としては,万全を期してそつのないようにしたいではないか.それゆえに,国外からの参加者が到着する2日前に天津に赴いたのであった.

外科医のための局所解剖学序説・9

胸部の構造 4

著者: 佐々木克典

ページ範囲:P.505 - P.515

 Theodr Billrothが“この臓器の創を縫おうとする外科医は名声を失うであろう”と予言した心臓に誰が,なぜチャレンジしたか,医学史の大きな興味である.
 “ナイフによる右心室の貫通創を前にして,私は否応なく手術に踏み切らざるをえなかった.私の目の前で出血で死にかかっている患者にこれ以外のオプションは考えられなかった.次の報告を読んでいただければ,私の立場は理解していただけるであろう.熟慮したかったのはやまやまだったが,時間がなかったのである.”James W.Blatchfordはこの文章を“いいわけがましく”と評しているが,1896年9月9日,フランクフルトでLudwig Rehnにより裂けた心臓が初めて縫合された.

手術手技

アルゴンビームコアギュレーターを用いた腹腔鏡下肝嚢胞開窓術

著者: 渡辺透 ,   佐々木正寿 ,   池田真浩 ,   金平永二

ページ範囲:P.517 - P.519

はじめに
 肝嚢胞に対する治療は腹痛,腹部不快感などの有症状例に行われる1).治療は経皮的肝嚢胞穿刺による吸引,エタノール注入2)や,開腹下に開窓術,嚢胞内瘻化術,肝切除3)などの手術治療が行われてきた.しかし、手術は根治性のあるものの,肝嚢胞が良性疾患であるため,その侵襲性が問題となる.超音波ガイド下に穿刺およびエタノール注入は低侵襲であるが複数回の注入4)が必要であり,入院は長期に及び,再発率はきわめて高い5).腹腔鏡下肝嚢胞開窓術はこれらの短所を補う治療と考えられる6,7.今回,筆者らは有症状の肝嚢胞3症例に対して,腹腔鏡下にアルゴンビームコアギュレーター(以下,ABC)を用いた開窓術を行い,良好な結果を得たのでその手術手技について報告する.手術手技は下記の呈示症例について述べる.

臨床研究

ニトログリセリン軟膏による裂肛の治療

著者: 服部和伸 ,   中島久幸

ページ範囲:P.521 - P.523

はじめに
 裂肛は肛門上皮にできた浅い裂創であり,これに内肛門括約筋の痙攣が加わると慢性化し,難治となる.そのため内肛門括約筋の痙攣を取ることが裂肛治療のポイントとなり,今までは用手的肛門拡張術1)や側方皮下内括約筋切開術(lateralsubcutaneous internal sphincterotomy:LSIS)2)が必要であった.最近,nitric oxide(NO)が内肛門括約筋の収縮を抑制する神経伝達物質であることが知られるようになった3).ニトログリセリンはこのNOの供給体であり,この軟膏を使用した裂肛の治療が報告されている4〜6).当科でもニトログリセリン軟膏による裂肛の治療を経験したので報告する.

肝切除症例の99mTc-GSA(アシアロシンチ)を用いた術前肝予備能の検討

著者: 權雅憲 ,   河相吉 ,   上辻章二 ,   上山泰男

ページ範囲:P.525 - P.528

はじめに
 1955年Taplinら1)131I-rose bengalを用いて肝の摂取排泄機能評価を行って以降,最近では低被曝線量の99mTc標識の肝・胆道スキャン剤が開発され,肝実質機能診断に応用されている2,3).肝細胞膜表面に存在するアシアロ糖蛋白受容体(asialoglycoprotein receptor:以下,ASGPRと略記)4)は,血清糖蛋白の酸性糖鎖の脱シアル化によりガラクトースを露出した糖蛋白を認識して,これを特異的に結合し肝細胞内に取り込むことにより糖蛋白代謝に関与している.肝細胞に存在するASGPRの数は,肝疾患において減少することが報告されており5),ASGPRに特異的に認識される99mTc-galactosyl human serum albumin(99mTc-GSA:以下,GSAと略記)を用いてASGPR量の分布を観察することで,既存の検査とは異なる観点から肝疾患の病態や肝予備能を評価することが可能となる.今回,筆者らは肝癌症例の術前肝予備能をGSAを用いて評価し,その有用性を検討した.

臨床報告・1

バセドウ病を合併した重症筋無力症の1例

著者: 森山萩文 ,   古川研一郎 ,   山下弘幸 ,   黒木祥司 ,   鳥巣要道 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.529 - P.532

はじめに
 重症筋無力症は様々な自己免疫疾患を合併することが知られており,なかでもバセドウ病の合併が多いとされている.両疾患を合併した症例の外科治療の際には,通常,甲状腺亜全摘術を施行した後,2期的に胸腺摘出術を行うことが多いが,今回,筆者らは同時手術を行い,特に合併症なく良好な経過をたどったので,その治療を中心に若干の文献的考察を加えて報告する.

結腸癌術後に発生した中心静脈カテーテル感染による化膿性脊椎炎の1例

著者: 辻和宏 ,   堀堅造 ,   河本知二 ,   安藤健夫 ,   西原建二

ページ範囲:P.533 - P.536

はじめに
 高齢者の悪性腫瘍術後の感染症の合併は,宿主の免疫能の低下もあり,致命的なものとなりうる.今回筆者らは,中心静脈カテーテル感染が原因と考えられる上行結腸癌根治術後に発生した化膿性脊椎炎の1例を経験したので報告する.

イレウス管が誘因と考えられた術後腸重積症の1例

著者: 林正修 ,   水谷隆 ,   野々山孝志 ,   平井一郎

ページ範囲:P.537 - P.540

はじめに
 癒着性イレウスに対してlong tubeのイレウス管を用いて,閉塞上部腸管の吸引・減圧療法が行われている.外科的治療に至る場合でも,イレウス再発防止として,イレウス管を腸管内スプリントとして術後もしばらく留置することがある.今回筆者らは,胃切除後の癒着性イレウス術後留置していたイレウス管が誘因と考えられた腸重積症の1例を経験したので報告する.

チクロピジン投与中にみられた内腹斜筋血腫の1例

著者: 山本裕 ,   飯野与志美 ,   坂田道生 ,   吉田博之 ,   植田正昭

ページ範囲:P.541 - P.544

はじめに
 多発性脳梗塞の再発予防目的で,抗血小板薬チクロピジンの投与を聞始して4年半後に内腹斜筋筋層内血腫を生じた1例を経験したので報告する.

特異な形態を呈した真性腸石症と考えられた1例

著者: 宮本康二 ,   山本哲也 ,   清水幸雄 ,   由良二郎 ,   池田庸子 ,   松尾洋一

ページ範囲:P.545 - P.548

はじめに
 腸石症はイレウスの原因となる稀な疾患であるが,今回筆者らは,これまでの報告例とは若干異なった形態の腸石症を経験したので報告する.

スパイラルCTが診断に有用であった重複胆嚢に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術の1例

著者: 橋爪泰夫 ,   長利あゆみ ,   飯田茂穂 ,   竹内正勇 ,   米島学 ,   上田隆之

ページ範囲:P.549 - P.552

はじめに
 重複胆嚢は剖検例の4,000〜5,000例に1例と言われるきわめて稀な先天奇形とされている1).今回,筆者らは胆石症を合併した重複胆嚢の1例を経験し,その術前の解剖学的形態診断にスパイラルCTによる3次元表示胆道造影がきわめて有用であり,安全に腹腔鏡下胆嚢摘出術(以下LC)を施行できたので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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