icon fsr

文献詳細

雑誌文献

臨床外科52巻7号

1997年07月発行

文献概要

外科医のための局所解剖学序説・12

胸部の構造 7

著者: 佐々木克典1

所属機関: 1山形大学医学部解剖学第一講座

ページ範囲:P.915 - P.925

文献購入ページに移動
 最初に一期的に,完成された形で肺全摘手術を行ったのはGraham EAである.この手術を受けた患者は48歳の内科医で異常なほど冷徹であった.彼はGrahamに正確な診断を求めた.左上肺の気管支原発性肺癌であると告げられた時,身辺を整理するために一端故郷に戻りたいと,また仲間の病理学者に見せるためにバイオプシーのスライドを貸して欲しいとGrahamに頼んだ.当時のGrahamは知らなかったが,故郷で墓まで購入していたのである.一方で彼はオプティミストでもあった.欠けた歯を治療してBarnes Hospitalに舞い戻った.
 1933年4月5日,歴史的な手術が行われた.しかしこれは最初から意図されたものでなく,当初は上肺切除のみに限る予定であった.ところが開胸すると腫瘍は下葉の気管支に近接しており,また下葉の上部に結節が認められ,さらに葉間裂がはっきりしなかった.このような状況下でGra-hamは次のように述べている."肺全摘だけが唯一の選択だと私には思えた.患者の友人の内科医が手術室に来ていたので,彼に上葉切除は無意味で全摘をやるしかないのだと述べ,意見を求めた.しかしこのやりとりはあまり役に立たなかった.彼はこのような手術は以前行われたことがあるかと聞いてきたので,「ない」と答えた.動物では成功しており,実際私自身も動物ではやったことはあるが,ヒトで一期的に全摘した例は知らないと付け加えた.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1278

印刷版ISSN:0386-9857

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?