icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科53巻11号

1998年10月発行

雑誌目次

特集 縫合・吻合法のバイブル Ⅰ.縫合法・吻合法の基本

縫合,縫合止血,吻合のポイント

著者: 島田信也 ,   小川道雄

ページ範囲:P.10 - P.13

はじめに
 吻合(anastomosis)は管腔の内腔を交通させる手技であり,縫合(suture)は創を閉鎖する手技で吻合も含んでいる.外科において縫合と吻合は様々な手術の再建において必要不可欠で,この成否は患者の生死に関わる重要な手技である.ここでは,縫合,吻合,縫合止血について解説する.

縫合糸,針付き縫合糸,縫合材料の種類と使い分け

著者: 園田仁志

ページ範囲:P.14 - P.18

はじめに
 縫合糸は,1)縫合(suturing),2)結紮(liga-tion),3)支持(stay)を使用目的とした最も基本的な手術材料の1つである.最近では合成縫合糸を中心に,多種多様の縫合材料が開発されているが,縫合糸の選択に当たっては手術臓器や手術手技にとって最も適切な縫合針,縫合糸の選択が望まれる.

縫合針,持針器の種類と使い分け

著者: 戸田完治

ページ範囲:P.19 - P.22

はじめに
 最近では消化器外科でもマッチュウの持針器でなく,ヘガールの持針器を利用する医師が増えてきた.ローゼルの持針器(図1D)も存在したが,現在ではこの持針器を使用する医師が極端に少なくなった.因みに当院で現在ローゼルの持針器を使用する医師はいない.このローゼルの持針器の把持力は強く,比較的遅くまで婦人科の医師が愛用していた.
 筆者はマッチュウの持針器(18cm,図1A)とヘガールの持針器(18cm,図1B)を使い分けているが,主としてマッチュウの持針器を愛用している.この持針器の把持の仕方であるが,手掌の中に入れて握ると安定性が確かに良い.筆者は持針器を末節骨と中節骨の中間位で把持している.少し不安定であるが慣れれば克服できる.指先のほうで持針器を持つと持針器の回転角度が広くなり,狭い場所での運針がかなり容易になる.筋膜縫合や皮膚縫合など力の入る場所では手掌で持っても支障は感じられない.運針には持針器を浅く握る場合と,深く握る場合と持ち方を選択するのが賢明かと思う.

接着剤の種類とその使い分け

著者: 前田肇

ページ範囲:P.23 - P.27

はじめに
 損傷された組織を再建するには自己組織が完全に接着することが必要であり,組織修復の理想は損傷部位を接着し,自己の創治癒に適切な状態を作ることである.組織の修復には今日でも縫合針と縫合糸で組織を縫い合わすことが基本である.しかし,縫合は組織を傷害することにもなり,接合部の血行障害を招き,かえって創治癒を阻害することも少なくない.さらに縫合操作ができないこともしばしば存在する.そこで,創部を糊のような物質で接着する方法が古くから考えられてきた.現在臨床応用されている組織接着剤としてはフィブリン糊,ゼラチン系接着剤,シアノアクリレート系接着剤などがある1).しかし,これらの接着剤はまだ理想的な接着剤とはいえず,一長一短があるが,接着剤の特性を知り,適切な使用をすれば,手術操作を短縮・簡便化でき,縫合操作ができにくい部位の止血や組織の接着が可能となる.

自動縫合器,自動吻合器の種類と特徴

著者: 納賀克彦

ページ範囲:P.29 - P.32

はじめに
 自動縫合器,自動吻合器として現在最も広く使われているのは金属製のステイプラーによるもので,今日縫合器,吻合器といえばこれを指すものと考えてほぼ差しつかえない.使用されている金属の材質は従来はステンレススチールであったが,現在では生体反応がより少なく,X線画像でのアーチファクトも少ないチタンやチタン合金がほとんどの器械に使用されている.ステイプラーの他には,組織を圧着させて長期間放置することによって吻合する圧挫吻合器などもある.
 これらの縫合器,吻合器の一般的な特徴として,以下のものを上げることができる.

Ⅱ.組織別の縫合・吻合法

皮膚,皮下組織の縫合

著者: 門田俊夫

ページ範囲:P.34 - P.37

皮膚,皮下組織縫合の準備
 手術創を除いて,大部分の外傷による創は砂や泥で汚染されていたり,辺縁がギザギザで挫滅組織を有する.感染予防と創瘢痕をきれいに仕上げるために,生理食塩水や滅菌ブラシで創辺縁から異物を取り除き,さらに挫滅を伴う創縁の場合は皮膚の辺縁を2〜3mmメスやはさみで切離し,ギザギザの挫滅組織や異物を除去する.デブリドマンはまた縫合部瘢痕を最小限にするコツでもある(図1a).
 皮膚,皮下組織の縫合に際しては創縁の取り扱いに注意する,創縁を直接大きな有鉤鑷子で把持すると,大事な創縁の組織が挫滅し,治癒を遅らせ,過剰な瘢痕形成の原因となる.したがって創縁の把持に際しては表皮を把持するのではなく,真皮あるいは皮下組織を鋭利なスキンフック,または先端部分の細い有鉤または無鉤のアドソン鑷子を用いる(図1b).

ステイプラーによる皮膚縫合

著者: 太田正敏 ,   田島知郎

ページ範囲:P.38 - P.40

はじめに
 ステイプラーによる皮膚縫合には,患者側および医療従事者側に以下の利点がある.①縫合が迅速に行える.②手技が容易である.③麻酔時間が短縮される.④いわゆる“針刺し事故”の危険性がない.⑤美容効果が高い.⑥創の感染・異物反応が少ない.⑦抜鉤が容易である.
 パラメディカルに限って利点を上げると,①器械出しの手間が省ける,②縫合糸・縫合針を誤ることがなくなる,③ディスポーザブルの使用であるために,洗浄・再滅菌の必要がない,④手術中に汚染された手術器具に触れることがないために,創を汚染する可能性が低い,などがあげられる.また,患者側にとっては,抜糸に比べて抜鉤時の疼痛が軽度であるという利点もある.

顔面,露出部における皮膚縫合の工夫

著者: 平広之 ,   谷野隆三郎

ページ範囲:P.41 - P.44

 顔面や露出部の皮膚縫合においては当然のことながら,最終的な瘢痕をいかに目立たなく仕上げるかが肝要である.瘢痕が目立つ条件としては瘢痕の幅が広い,赤くて盛り上がっている(肥厚性瘢痕ないしはケロイド),瘢痕の方向が悪い,瘢痕の両側に段がある,といったようなことがある.縫合に際しての基本としては組織を愛護的に取り扱うこと,そして縫合に際して創面に緊張をかけず,創の表面をできる限りていねいに合わせることが大切である.もし切開線を選択できる場合はできるだけ皺に沿った方向,すなわち最も創縁にかかる緊張の少ない方向にこれを置くのがよい.また糸痕を残さないような縫合,抜糸も大切である.

筋肉,筋膜,腱の縫合

著者: 有野浩司 ,   冨士川恭輔

ページ範囲:P.45 - P.49

筋,筋膜損傷
 筋断裂にはカッターなどによる鋭的損傷,挫滅,圧挫を伴う鈍的損傷などの開放性断裂や,スポーツなどによる急激な筋収縮により起こる非開放性皮下断裂がある.最近は腎不全に対する長期間の腎透析例が増加しているので,簡単な外傷で筋断裂を起こす例が増加している.治療の基本として断裂部の間隙がなくなるように肢位を保ち,ある程度の緊張に耐えられるまで修復を要する期間の固定を行う.筋断裂の修復は離開したままでは断裂部の癒合は起こらず,筋力の伝達が著しく減少するばかりでなく遠位部断端の壊死が生じたり,断端部が膨隆し,美容的にも問題が残るので,肢位の保持によっても離開が残存する場合,早期に修復を要する場合には縫合し,縫合部に過緊張がかからないような肢位で外固定をする.これにより,断裂した筋は再び一つのユニットとして修復される1,2).皮下断裂では部分断裂が多く,断裂部の離開は小さく,縫合術の適応となることは少ない.しかし,断裂が広汎で離開が大きく,筋を弛緩させる肢位でも離開が縮小しない場合には縫合術の適応となる.筋が完全断裂か部分断裂かの診断には臨床所見の把握とMRIがきわめて有用である.開放性断裂では,創汚染がある場合は十分な洗浄と挫滅組織のデブリードマンを行う.挫滅が高度な場合はコンパートメント症候群を合併することがあるので注意する.

末梢神経の縫合

著者: 多久嶋亮彦 ,   波利井清紀

ページ範囲:P.50 - P.52

はじめに
 末梢神経の縫合は外傷による神経断裂の修復,腫瘍切除後の神経欠損部に対する神経移植,機能的再建を目的とした筋組織移植に伴う神経移植などの際に行われる.ここでは末梢神経の具体的な縫合法に関して述べる.

骨,軟骨の縫合

著者: 岡義範

ページ範囲:P.53 - P.56

はじめに
 四肢,脊椎における骨,軟骨の形態・機能は多岐にわたる.したがって,外傷や疾患による解剖学的位置関係の破綻で発生する骨折や軟骨損傷の手術的治療法は,個々の受傷形態によって異なった縫合法(以下,固定法)の選択が必要となる.
 骨折の固定法はプレート,髄内釘,スクリュー,キルシュナー鋼線,ワイヤーなどによる内固定,さらに創外固定などに大別される.これらの固定法は骨折が長骨か短骨か,その部位(長骨における骨幹部,骨幹端部,骨端部,関節内),また,骨折線の種類(横,斜,螺旋,粉砕,裂離圧迫など)により,手術方法はおおむね決められているが,年齢,骨粗鬆症の有無,合併症の程度などを含めた総合的判断のもとに最終的手術適応,手術方法の選択がなされるべきものである.

血管の手縫い縫合・吻合

著者: 森下靖雄 ,   高橋徹 ,   小谷野哲也

ページ範囲:P.57 - P.61

はじめに
 血管の切離や損傷の際,一般に血管の結紮が行われる.しかし,悪性腫瘍などにおける拡大手術では重要臓器の血管の合併切除を要する場合も多く,血行再建が手術の上で重要な位置を占める.ここでは血管の縫合法と吻合法について述べる.

マイクロサージャリーによる血管吻合

著者: 薄井正道

ページ範囲:P.62 - P.66

はじめに
 マイクロサージャリーによる血管吻合とは,顕微鏡下に行う直径1mm前後の血管吻合を意味する.
 この方法は1960年Jacobson and Suarezにより紹介された1).1965年奈良医科大学の小松,玉井2)は完全切断母指の再接着に世界で初めて成功した.これがmicrovascular surgeryの臨床応用の幕開けとなった.それからわずか2年後にイギリスのCobbett3)は母指欠損例の再建に,第1足趾の移植を行った.これがmicrovascular surgeryを用いた血管柄付き遊離自家組織移植による各種の再建術の始まりとされている.

自動吻合器による血管吻合

著者: 吉村陽子

ページ範囲:P.67 - P.71

はじめに
 微小血管吻合による血管柄付き遊離組織移植は1970年代の初めに成功し,以来皮膚への血行形態の研究の進展とともに急速に普及してきた.近年では悪性腫瘍切除後の欠損の再建などに標準的な手技として用いられている.この手術の成功のためには血管吻合の成功が絶対条件であるが,顕微鏡下に数mmの血管を吻合するにはそれなりの技術を要する.腫瘍切除という大手術の後にさらに時間のかかる血管吻合を行うことは患者,術者双方にとって大きな負担であり,またその成否が術者の技量により左右される面が少なくない.そのため,微小血管吻合を器械により自動化し,短時間に均一な結果が得られるようにしたいという意図から自動吻合器の開発が行われてきた.しかし現在までに商品化されているものは1種類しかない.ここでは,現在臨床に使用されている微小血管吻合器の使用法について紹介する.

消化管の縫合・吻合

著者: 細田洋一郎

ページ範囲:P.72 - P.78

はじめに
 消化管を切除するということは必然的に再建が必要となる.再建に伴う技術として縫合(suture)と吻合(anastomosis)がある.縫合と吻合の違いは,「縫合」は主に消化管を閉鎖する手技できわめて広い意味を持ち,「吻合」は異なる消化管の内腔を交通させる手技と言えるであろう.したがって,縫合は吻合をも含む意味をもつことになる1)
 消化管吻合においては,時に致命的になる縫合不全(吻合部のリークならば吻合不全と言うべきかもしれない.幽門側胃切除術時のいわゆる小彎縫い込み,十二指腸の断端閉鎖などを含めれば縫合不全ということになる),狭窄,出血などの合併症を極力避けなければならない.合併症を起こしにくい縫合,吻合を行うためには,患者さんをより良い状態にもっていく全身管理,吻合部の治癒過程を十分理解した上での理にかなった吻合法,また治癒に大きな影響を与える縫合糸の問題など種々の要因が関係する.以下,消化管吻合の治癒機転,また縫合糸の問題にも多少触れ,器械吻合も含めた筆者らの行っている縫合法,吻合法について述べる.

Ⅲ.部位(術式)別の縫合・吻合法 1.胸壁,腹壁,横隔膜

胸壁,胸膜の縫合と閉胸

著者: 南谷佳弘

ページ範囲:P.80 - P.83

はじめに
 胸部外科領域で一般的に行われている後側方切開による開胸手術後の閉胸について述べる.最近は呼吸補助筋の温存や術後の創痛や肋間神経痛を回避することを目的として種々の工夫を凝らした開胸法が検討されているが,ここでは最も一般的な,胸筋を温存せずに第5肋骨を切断して第5肋間開胸した場合を想定して閉胸の方法を述べることとする.以下筆者らの行っている方法を,①手順,②ポイント,③コツ,④ピットフォールの順に述べる.

腹壁,腹膜の縫合と閉腹

著者: 三毛牧夫

ページ範囲:P.84 - P.86

はじめに
 閉腹にあたっては何層で閉腹するか,縫合材料,縫合方法などいくつかの技術的選択をしなければならない.そして,創感染,血腫,創哆開,腹壁瘢痕ヘルニアなどの術後創部合併症を最小限にしなければならない.以下,主に腹部正中切開創の縫合閉鎖の現時点における考え方について述べる.

横隔膜の縫合

著者: 三毛牧夫

ページ範囲:P.87 - P.90

はじめに
 横隔膜の縫合の対象となる横隔膜の疾患には,①先天性横隔膜ヘルニア,②外傷性横隔膜ヘルニア,③横隔膜弛緩症,④良性・悪性腫瘍および他臓器腫瘍の浸潤などがある.以下,主に横隔膜の縫合の現時点における注意点について述べる.

2.呼吸器

気管,気管支の縫合・吻合

著者: 土屋了介

ページ範囲:P.91 - P.96

はじめに
 気管,気管支の縫合・吻合は気管支断端処理(閉鎖)と気管—気管支吻合とに分けることができる.断端処理は最近では器械処理が多くなったが,気管支癌で癌の浸潤が肺葉気管支から主気管支にかかっているような症例では,気管支断端での癌の浸潤の状況が切除範囲や術式の選択に影響するので,用手処理が必要となることも多い.気管—気管支の吻合は,気管や主気管を管状に切除した後の気管—気管吻合や主気管支の気管支—気管支吻合のように口径差のない吻合と,気管と気管支との吻合のように口径差のある吻合とでは難易度に大きな差がある.口径差のある吻合では口径差の調整にコツを要し,これがポイントであり,ピットフォールにもなる.

永久気管孔の縫合

著者: 浅井昌大

ページ範囲:P.97 - P.99

 永久気管孔は皮膚に直接気管を縫着して外部との交通をつけて気道を確保する方法である.咽頭癌,喉頭癌,頸部食道癌などで喉頭を摘出する必要がある場合と,甲状腺癌の気管浸潤などで気管部分切除し,開窓する場合,気道管理が長期化し,気管孔の管理が容易に行えるようにする場合などに用いられる.

肺,胸膜の縫合

著者: 土屋繁裕 ,   中川健

ページ範囲:P.100 - P.104

はじめに
 どんな縫合法であれ,肺内の死腔と残存肺の収縮(縮小)と変形が最小限になるように縫合し,肺からの空気漏れと出血をコントロールすることが大事である.

肺静脈,肺動脈の縫合・吻合

著者: 小川純一

ページ範囲:P.105 - P.107

 肺切除において処理すべき主な血管は肺静脈,肺動脈である.

3.心臓・大血管

心筋の縫合

著者: 笠原勝彦 ,   維田隆夫

ページ範囲:P.108 - P.110

はじめに
 心筋の縫合は健常な心筋を縫合する場合と,心筋梗塞や心臓弁膜症のような心臓病に合併した病的な心筋や,高齢者にみられるような脆弱な心筋を縫合する場合とに分けられる.本稿では健常な心房筋・心室筋,病的心筋の縫合法を区分して述べる.

大動脈の吻合,人工血管の縫着

著者: 今村洋二

ページ範囲:P.111 - P.114

 良好な術野の確保には局所解剖に精通した血管露出と出血の制御が大切である.この稿では,大動脈および人工血管吻合に関し,一般的な手順を総論的に述べ,後に個々の吻合について各論的に述べる.

大静脈の縫合・吻合

著者: 田代秀夫 ,   折井正博

ページ範囲:P.115 - P.117

はじめに
 大静脈の縫合,吻合を必要とする機会としては腹部外傷による鋭的,鈍的損傷,腹部大動脈瘤の下大静脈穿破,腹部臓器の開腹ならびに鏡視下手術,下大静脈フィルター挿入術などに起因する医原性の損傷,肝移植術,悪性腫瘍の浸潤に伴う下大静脈合併切除後の再建などがある.それらのケースに対応しうる大静脈の縫合・吻合法のポイントを概説したい.

冠動脈再建の縫合・吻合

著者: 岡林均

ページ範囲:P.118 - P.120

はじめに
 冠動脈の吻合は血管径が細いこと以外は通常の血管縫合法と何ら変わりがない.しかし,血管径が細いためそれなりの準備が必要である.

人工弁の縫着

著者: 落雅美 ,   田中茂夫

ページ範囲:P.121 - P.126

大動脈弁置換術の手順
 通常の大動脈弁置換術の手順は以下のごとくである.
 体外循環開始(右房脱血,大動脈送血)→大動脈遮断→大動脈切開→心筋保護液注入→大動脈弁切除→人工弁縫着→大動脈壁縫合→大動脈遮断解除→体外循環停止.

心嚢の縫合

著者: 吉津博

ページ範囲:P.127 - P.128

はじめに
 消化管および心大血管などの管腔の吻合は消化管内容物および血液の漏出を防ぐ縫合が必要であるが,心嚢膜の縫合に際しては心嚢液の漏出を防ぐ必要がなく,縫合は比較的簡単に行うことができる.
 今回,心嚢膜の縫合について簡単に論述したい.

4.食道

食道切除後の遊離(有茎)空腸移植術における手縫い吻合と器械吻合

著者: 川原英之 ,   山高浩一 ,   櫻井孝志 ,   山本貴章 ,   井上聡

ページ範囲:P.129 - P.135

はじめに
 食道切除後に空腸を用いる再建術式は,下咽頭頸部食道癌に対する咽頭喉頭食道切除(咽喉食摘)術後の遊離空腸移植術が代表的であり,その他は比較的稀である.遊離および有茎空腸移植術の適応を表に示した.
 手縫い吻合はすべての消化管吻合に用いられてきたが,自動吻合器の安全性が著しく向上し,器械吻合が第1選択となっている吻合も多い.本稿では遊離空腸移植における手縫い吻合と器械吻合の適応,手技,ポイントなどにつき概説する.

食道切除後の手縫いによる食道—胃管吻合

著者: 藤田博正

ページ範囲:P.136 - P.139

適応
 食道亜全摘術後,後縦隔胃管再建例である.

食道切除後の手縫いによる咽頭—遊離空腸—胃管吻合

著者: 藤田博正

ページ範囲:P.140 - P.144

適応
 喉頭食道全摘術後の食道再建例である.

食道切除後の器械による食道—胃管吻合

著者: 藤田博正

ページ範囲:P.145 - P.147

適応
 食道亜全摘術後,胸壁前胃管再建例である.

食道切除後の手縫いによる食道—結腸吻合

著者: 藤崎真人

ページ範囲:P.148 - P.150

はじめに
 食道切除後の食道一結腸吻合法はEEA®やILSなどを用いた器械吻合が主流になってきている.器械吻合は従来の手縫い吻合に比べて縫合不全の発生も少なく,習熟度もそれほど要しないので優れた吻合法といえるが,反面,吻合部狭窄の発生がやや多く,コストもかかるという欠点がある.
 手縫い吻合も習熟すれば縫合不全の発生も少なく,吻合部狭窄もほとんど起こらない.また,吻合に用いる消化管に高度の浮腫などが見られる場合は手縫い吻合に頼らざるをえない.

食道切除後の手縫いによる下咽頭—結腸吻合

著者: 佐々木俊一

ページ範囲:P.151 - P.153

はじめに
 咽喉頭領域の手術,特に再建手術を必要とする症例においては実際の手技もさることながら,術後処置を含めて考慮しないと,せっかく精度の高い手術操作をしても術後経過が不良なものになってしまう場合がある.特に下咽頭・頸部食道癌は早期発見が困難である場合が多く,その結果として咽喉頭・食道全摘術が施行される症例が少なくない.この場合,摘出後の食道再建が必要で,今日代表的な方法としては種々の消化管を用いた再建が施行されている.喉頭を温存する術式を選択できる場合は音声喪失の心配はないが,喉頭を合併切除せざるをえない場合は当然音声喪失となる.この場合,食道再建時になんらかの形で音声獲得が可能であれば,術後患者のQOLはかなり向上する.
 そこで本稿では,下咽頭—結腸の手縫いによる吻合の手技のみならず,術後管理を含め音声獲得が期待される手技を交えて述べる.

食道切除後の器械による食道—結腸吻合

著者: 北川雄光 ,   安藤暢敏 ,   小澤壯治 ,   北島政樹

ページ範囲:P.154 - P.157

はじめに
 吻合の形態において器械吻合は創傷治癒的にはベストとは言えないが,頸部という限られたスペースにおいても全周の均一性,耐圧性が確保され,手術時間短縮のはかれる点で,食道切除後の頸部吻合には比較的適した手技と言える.再建臓器として胃,結腸,空腸のいずれもが適応となり,いずれの再建経路に用いることも可能である.その限られたスペースにおける適切な操作手順とポイントは,基本的にどの再建臓器,経路を用いた場合でも同じであるが,ここでは食道—結腸端側吻合を中心にその手技を概説する.

5.胃

胃全摘後の手縫いによる食道—空腸吻合

著者: 佐久間正祥

ページ範囲:P.158 - P.160

はじめに
 胃全摘出は胃体上部や噴門部の胃癌に対して行われることが多い.進行癌では隣接臓器の合併切除や徹底的なリンパ節郭清を行うため,再建法も吻合法も複雑でなく,短時間で終了できるものが望ましい.
 胃全摘後の再建法は歴史的に種々の方法があり,それぞれ術者の経験的な慣れもあり,未だに一定した見解はみられない.大きく分けてRoux-en Y法,double tract法,ビルロートⅡ法,空腸間置法などがあるが,重要なのは膵液や胆汁の逆流による食道炎を防ぐことにある.最近では早期胃癌も多くなり,術後のQOLを考え,食物が十二指腸を通る空腸間置法も多くなっている.ここでは最も一般的である食道—空腸Roux-Y吻合の手縫い縫合を述べる.今ではどこの施設でも器械吻合がfirst choiceと思われるが,時に手縫い吻合に切り替えることもあり,基本的な手技はマスターしておく必要がある.

胃全摘後の器械による食道—空腸吻合

著者: 佐久間正祥

ページ範囲:P.161 - P.164

はじめに
 器械吻合が普及したが,再建法は前項手縫い吻合で示したRoux-en Yを主として行っている.食道剥離,視野の出し方,挙上空腸の作製などは既述した通りである.やはり食道—空腸端側吻合で盲端は左側とすると器械吻合が視野もよく,自然である.

胃全摘後の空腸パウチの縫合・吻合

著者: 佐久間正祥

ページ範囲:P.165 - P.168

はじめに
 空腸パウチを利用する意義は食事摂取量を増加させるための代用胃としての役割と,ダンピング症状を防ぐためにゆっくりと食物が十二指腸へ排出されることである.空腸パウチをRoux-en Y法やダブルトラクト法にするか,十二指腸との間に間置するかの方法とがある.ここでは空腸パウチの間置法を取り上げたいが,これも種々あり,複雑多岐にわたる.目的は代用胃に加え,食物が十二指腸を通ることにより,消化・吸収をよくすることである.間置の場合,パウチを有茎空腸の十二指腸側を使うか,食道側を使うかの問題もある.パウチの長さも20cm,15cm,10cmなどまちまちで,導管の長さもいろいろである.

胃全摘後の(回)結腸問置の縫合・吻合

著者: 佐久間正祥

ページ範囲:P.169 - P.171

はじめに
 回結腸間置と横行結腸間置が行われているが,それぞれの特徴がある割には一般化していない,術者の慣れ,胃全摘術の歴史が関係して,なるべく煩雑でないものとして空腸が使われてきたものと思われる.
 推奨している術者らの文献から述べる.

幽門側胃切除後の手縫いによる胃—十二指腸吻合

著者: 山田好則

ページ範囲:P.172 - P.174

はじめに
 筆者らの行っている方法は通常のAlbert—Lembert吻合である.はじめに全層の連続縫合を後壁—前壁の順に行い,続いて,漿膜筋層縫合を前壁—後壁の順に行って吻合を終了する.
 他の手順として,まず後壁の漿膜筋層縫合を行ってから全層の連続縫合,続いて前壁の漿膜筋層縫合を行う方法もある.

幽門側胃切除後の器械による胃—十二指腸吻合

著者: 山田好則

ページ範囲:P.175 - P.177

手順
 器械吻合による胃—十二指腸吻合は十二指腸側にcircular staplerのanvil部分を挿入しておき,残胃の前壁をstapler本体の挿入口にして,後壁からcenter rodを貫通させて十二指腸側のanvilと結合させ,残胃後壁と十二指腸の側端吻合を行うことによる.
 残胃側にstapler本体を挿入する方法にはいくつかの変法がある.すなわち,1)前壁を挿入口として,残胃断端の最も大彎よりにcenter rodを貫通させ,十二指腸と端々吻合を行う.2)挿入口を十二指腸切断時の胃側断端(幽門)として,胃切断予定線より口側の後壁からcenter rodを貫通させ,十二指腸と側端吻合を行い,吻合後に胃の切離を行う.

幽門側胃切除後の手縫いによる胃—空腸吻合

著者: 才川義朗

ページ範囲:P.178 - P.181

はじめに
 1881年にChristian Albert Theodor Billrothが,世界で初めて,いわゆるBillroth Ⅰ法と呼ばれる再建術式を用いて胃切除に成功した.その4年後1885年に,幽門側胃切除・十二指腸断端閉鎖,残胃前壁に空腸を吻合する再建術式が試みられた1).Billroth Ⅱ法(B—Ⅱ法)と総称される再建術式は,この残胃前壁—空腸吻合をオリジナルとし,数々の修飾・変更が施されてきたが,広義としては幽門側胃切除および十二指腸断端閉鎖後,空腸の切離がなく,残胃—空腸を吻合する再建術式とされている.その変法として,Polya法(残胃断端全周を用いた胃—空腸吻合),Hofmeister変法(大彎側に吻合口を設定する)などが代表的である1).現在,後者が一般的に用いられており,幽門側胃切除後の手縫いによる胃—空腸吻合として,ここにその術式を示す(図1).

幽門側胃切除後の器械による胃—空腸吻合

著者: 才川義朗

ページ範囲:P.182 - P.184

はじめに
 近年腹腔鏡下手術の発展に伴い,各種手術器械の改良が行われ,縫合器,吻合器に関しても,より安全かつ簡便な製品が普及した.1885年にBillrothが初めて行った幽門側胃切除・十二指腸断端閉鎖後の残胃—空腸吻合術,いわゆるBillroth Ⅱ法(B—Ⅱ法)を器械を用いて,迅速に行う試みがなされ,現在に至り標準術式として定着してきた.本稿では幽門側胃切除後の器械による胃—空腸吻合の代表的術式を呈示する.

幽門側胃切除後の空腸パウチの縫合・吻合(器械・手縫い)

著者: 才川義朗

ページ範囲:P.185 - P.188

はじめに
 空腸パウチは代用胃として胃切後の各種愁訴の改善を目的とする.胃亜全摘後の再建としての空腸パウチは1949年にSteinbergらにより試みられた1).当初はすべての吻合が手縫いであり,その煩雑さとその合併症により広く普及はしなかった.しかし器械吻合器の改良により,吻合部位の多い本術式の安全性,簡便性,迅速性が確保され,臨床的に消化機能再構築・術後のQOL向上の面で良好な結果が得られるようになり,標準再建術式の1つとなってきた.ここでは,再建方法として二重空腸嚢ダブルトラクト法および空腸パウチ間置法につき簡潔に触れ,本題として,空腸パウチの作製方法と幽門側胃切除後残胃—空腸パウチ吻合につき記した.

噴門側胃切除後の手縫いによる食道—胃吻合

著者: 吉住豊 ,   杉浦芳章 ,   小池啓司 ,   愛甲聡 ,   田中勧

ページ範囲:P.189 - P.191

はじめに
 噴門側胃切除後の再建に食道—胃吻合術を選択する場合,重要なポイントは残胃の容積がある程度以上残ること,術後の胃食道逆流を予防することである.術後の逆流性食道炎の発生頻度は通常の端々吻合では100%,端側吻合では60%と高率1)であると報告されており,通常の食道一胃吻合に逆流防止弁を形成する方法などが工夫1〜4)されている.ここでは,手縫いでのAlbert-Lembert縫合による食道—胃前壁吻合術について述べ,逆流防止を付加する方法について考察する.

噴門側胃切除後の器械による食道—胃吻合

著者: 吉住豊 ,   杉浦芳章 ,   小池啓司 ,   愛甲聡 ,   田中勧

ページ範囲:P.192 - P.194

はじめに
 噴門側胃切除後の食道—胃吻合術の最大のポイントは逆流性食道炎を発生させない再建の工夫1,2)である.ここでは,胃上部早期胃癌に対して,当科で施行している逆流防止機能の再構築を併置した,器械による食道—胃吻合術について述べる.

噴門側胃切除後の空腸パウチの縫合・吻合

著者: 吉住豊 ,   杉浦芳章 ,   小池啓司 ,   愛甲聡 ,   田中勧

ページ範囲:P.195 - P.197

はじめに
 噴門側胃切除後に空腸パウチを間置する再建法は従来の空腸間置に比較して食物貯留能が優れ,かつ術後に残胃,十二指腸,膵胆道などの精査・治療も可能であり,合理的な再建術式である.従来,空腸パウチの作製手技が比較的煩雑であったが,自動縫合器の発展により簡便かつ確実に施行できるようになった.ここでは,噴門側胃切除後の空腸パウチの縫合・吻合について述べる.

胃楔状切除後の縫合

著者: 片井均 ,   丸山圭一 ,   笹子三津留 ,   佐野武

ページ範囲:P.198 - P.200

胃楔状切除(手縫い)の手順
 1.術前のマーキング
 胃楔状切除は最近は開腹,腹腔鏡とも器械で行われることが多い.したがって,用手的に切除・縫合閉鎖が行われるのは病変が大きかったり,占拠部位が噴門や幽門に近いときである.粘膜下腫瘍の場合は触診で腫瘍の範囲がわかり,切除範囲が容易に決定できるが,早期胃癌の場合はこれができないので,必ず手術前にstepwise biopsyを行い,内視鏡下でクリッピングを行っている.

幽門温存胃切除後の胃—胃吻合(器械+手縫い)

著者: 片井均 ,   丸山圭一 ,   笹子三津留 ,   佐野武

ページ範囲:P.201 - P.203

手順
 ①遠位切除部位のマーキング:小彎側では右胃動脈の第1枝を温存して,小彎,大彎ともに幽門輪の中央より3cm血管を処理して,切離予定線を電気メスでマーキングする.
 ②Linear staplerをマーキングの部位にかけてファイヤーする(図1a).器械の長さは切除長に応じて使い分けている.

十二指腸断端の縫合閉鎖(器械縫合)

著者: 大谷吉秀 ,   石川洋一郎 ,   横山剛義 ,   久保田哲朗 ,   熊井浩一郎 ,   北島政樹

ページ範囲:P.204 - P.205

はじめに
 十二指腸断端の処理は胃全摘術(Roux-Y再建),幽門側胃切除術(Billroth-Ⅱ法再建,Roux-Y再建)などの手術の過程で必要な手技である.十二指腸では胆汁や膵液をはじめ多量の消化液が分泌されるので,縫合不全を生じると腸瘻を形成し,治療に難渋することが多い.
 器械を用いた縫合閉鎖は初心者が行っても熟練した外科医が行っても大差なく,良好な結果が得られることが大きな利点である.しかし,実際には器械の使用の前段階として腸管をどのように処理するか,さらに当然のことながら縫合器の使用法について熟知していなければならない.そもそも患者の状態や局所の状況から,縫合する腸管が器械縫合に適しているかどうかの判断も重要である.

十二指腸断端の縫合閉鎖(手縫い縫合)

著者: 大谷吉秀 ,   木全大 ,   阿部定範 ,   久保田哲朗 ,   熊井浩一郎 ,   北島政樹

ページ範囲:P.206 - P.207

はじめに
 十二指腸断端の処理は,現在ほとんどの施設で前項で述べたような自動縫合器を用いる方法で行われている.あえて手縫い縫合が選択されるのは患者側の要因で自動縫合器が使用できない場合や,他の器械吻合器を併用するために,医療保険が適用されない場合などである.

十二指腸切開部の手縫いによる縫合閉鎖

著者: 大谷吉秀 ,   和田則仁 ,   江川智久 ,   徳山丞 ,   久保田哲朗 ,   熊井浩一郎 ,   北島政樹

ページ範囲:P.208 - P.208

はじめに
 十二指腸切開は十二指腸内の出血部位の確認や腫瘍の内腔からの切除に際して行われる手技である.総胆管結石に対するファーター乳頭切開は現在はほとんど内視鏡下で行われているが,かっては開腹下で十二指腸切開を加えて行われていた.

十二指腸部分切除後の手縫いによる十二指腸—空腸吻合

著者: 今野弘之 ,   鈴木昌八 ,   中村達

ページ範囲:P.209 - P.210

はじめに
 十二指腸の部分切除が行われるのは粘膜下腫瘍,カルチノイドなどの摘出,大腸癌,胆嚢癌の十二指腸浸潤,胆嚢十二指腸瘻,外傷性損傷などの場合である.実際には径2〜3cmにわたって切除した場合でも,十二指腸を十分脱転することにより,縫合閉鎖することが可能である.したがって,十二指腸部分切除後の十二指腸—空腸吻合の適応は腫瘍浸潤や炎症の波及のため,かなり広範囲に切除をしなければならない場合など,きわめて限られている.
 十二指腸も空腸も血行はきわめて良好であり,他の消化管吻合に比し十二指腸—空腸吻合による縫合不全は発生しにくい.しかし,ひとたび十二指腸の縫合不全が発生すると,きわめて重篤な状態に陥る可能性が高いため,細心の注意を払って吻合をする必要がある.

胃切除後再建における手縫いによる空腸—空腸端側吻合

著者: 今野弘之 ,   鈴木昌八 ,   中村達

ページ範囲:P.211 - P.212

はじめに
 胃切除後再建における空腸—空腸吻合は胃亜全摘後,および胃全摘後のRoux-Y式の再建の際に行われるのが最も一般的である.この場合の空腸—空腸吻合は端側吻合で行われる.また空腸間置による再建の場合は空腸—空腸吻合は通常端々吻合で行われる.本稿では最も一般的と考えられる端側吻合について述べる.

胃切除後再建における器械による空腸—空腸側々吻合

著者: 今野弘之 ,   鈴木昌八 ,   中村達

ページ範囲:P.213 - P.214

はじめに
 開腹手術での胃切除後の空腸—空腸吻合は保険における縫合器数の制約,良好な術野,腸管の口径差が少ないことなどから,手縫いで行われることが多い.しかし手術時間の短縮,吻合の均一性などから器械吻合にも習熟する必要がある.器械吻合による空腸—空腸吻合は端側吻合も側々吻合も可能であるが,本稿では最も一般的と思われる側々吻合について述べる.

ブラウン(Braun)吻合

著者: 窪地淳 ,   竹内裕也 ,   島田敦 ,   磯部陽 ,   島伸吾

ページ範囲:P.215 - P.217

手順
 ①Billroth Ⅱ法による胃—空腸吻合などが終了した後,その吻合部から約10〜15cm離れた輸入脚および輸出脚の両小腸を互いに平行に並べ(側々吻合のため),それぞれ腸鉗子にて把持する.
 ②把持した腸間膜対側の両小腸を約3〜4cm全層切開する(図1).

胃瘻造設術

著者: 窪地淳 ,   竹内裕也 ,   島田敦 ,   磯部陽 ,   島伸吾

ページ範囲:P.218 - P.219

手順
 ①上腹部正中切開にて開腹する.
 ②胃体部の前壁を吊り上げ,胃瘻チューブ挿入予定部位に,3-0絹糸で長径約1.5cmのタバコ縫合を予めかける.その中央で胃壁全層を小さく切開する.

6.小腸

上腸間膜動脈・静脈の縫合・吻合

著者: 堀豪一 ,   田中弘之 ,   鈴木隆

ページ範囲:P.220 - P.224

はじめに
 消化器外科手術において血行再建が日常的に行われるようになった.血管に病変がない場合は通常の縫合・吻合の基本手技を行えばよいが,高齢者の手術では動脈硬化をはじめとする基礎病変が存在する場合が多く,血管外科の知識,経験が必要である.
 上腸間膜動静脈を再建しなければならない病態は上腸間膜動脈閉塞症,腸間膜静脈血栓症,動脈瘤,悪性腫瘍の拡大根治手術に対する血管の合併切除,術中血管損傷の場合などであるが,単独の再建は決して多くない.

小腸切除後の手縫いによる小腸—小腸吻合

著者: 浅原利正 ,   岡島正純 ,   土肥雪彦

ページ範囲:P.225 - P.227

はじめに
 消化管吻合で最も避けなければならない合併症は縫合不全と吻合部狭窄である.小腸は可動性に富み,血流豊富な腸管であること,小腸内容は液状であることから,小腸—小腸吻合ではこれらの合併症が生じる危険性は少ない.この点において小腸—小腸吻合は消化管吻合の中で最も容易な吻合といえる.またこの吻合は小腸に限局した病変に対する手術を除いては,いくつかの吻合の一部として,多くはより難易度の高い吻合と併施されることが多い.したがって小腸—小腸吻合では術者が最も慣れた簡便な吻合法が行われている.本稿では,最も簡便な吻合の1つであると考えられるAlbert-Lembert吻合について述べる.

小腸切除後の器械による小腸—小腸吻合

著者: 宮島伸宜 ,   山川達郎

ページ範囲:P.228 - P.229

はじめに
 器械吻合の普及によって手術時間は大幅に短縮され,手術も安全になった.また腹腔鏡下手術においても器械吻合を施行することによる手術時間の短縮が期待される1).本稿では小腸切除後のlinear cutterを用いたfunctional end-to-endanastomosisの手技とコツおよび注意点について述べる.

小腸切開部の縫合閉鎖(手縫い)

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.230 - P.232

手順
 小腸の切開は小範囲であれば腸管軸に直交する横切開がよい.なぜなら小腸に分布する支配血管を損傷せず,蠕動に重要な輪状筋を横断しないからである.また,小腸の輪状ひだに沿っているため粘膜面の縫合がきれいに行えるし,縫合部が狭窄する心配もない.切開はもちろん腸間膜の対側におく.
 縫合閉鎖はAlbert-Lembert縫合もしくはlayer-to-layerの層々縫合で行う.連続縫合でも結節縫合でもよいが,経験の浅い者はより安全な結節縫合を選ぶべきであろう1)

小腸狭窄に対する形成における縫合・吻合

著者: 小森山広幸 ,   萩原優

ページ範囲:P.233 - P.237

はじめに
 小腸狭窄に対する形成術は腸を切除することなくこれを解除しようとする術式で,stricture plas-tyと呼称されている.Stricture plastyは胃の幽門形成術に準じ,Heineke-Mikulicz法,Finney法,Jaboulay法などが行われている.Stricture-plastyが求められる病態としては炎症性腸疾患,とりわけクローン病が主であると考えられる.したがって,本稿ではクローン病における小腸狭窄の解除術を中心に述べる.

回腸瘻造設術の縫合

著者: 里見昭 ,   川瀬弘一

ページ範囲:P.238 - P.240

はじめに
 回腸瘻は原疾患に対する治療の補助として一時的な減圧を目的に,また一時的もしくは永久的な人工肛門として造設される.回腸瘻よりの排出物は水様便であり,集便用の装具のパウチングを確実に行う必要がある.そのためには,腸瘻を常にskin levelより突出した状態に造設することが肝腎である.

7.大腸

右半結腸切除術後の手縫いによる小腸—結腸吻合

著者: 亀岡信悟 ,   荒武寿樹

ページ範囲:P.241 - P.244

はじめに
 消化管手術の特殊性の1つは必ず再建を行うことである.さらに,確実な消化管吻合による縫合不全の防止が重要である1)
 右半結腸切除術後の吻合は日常頻繁に遭遇する吻合であり,その特徴は吻合部は十分創外に出して直視下に操作できるものの,小腸と結腸との口径差が大きいことにある.

右半結腸切除における小腸—結腸器械吻合

著者: 渡邊昌彦 ,   寺本龍生 ,   北島政樹

ページ範囲:P.245 - P.247

はじめに
 腹腔鏡下右結腸切除の吻合では,剥離・授動の後に腸管を体外に露出して切除,吻合する体外法(extracorporeal method)が一般的である1〜3)
 体外法は手縫い吻合でもよいが,通常筆者らは器械吻合を用いている.本法では小さな創から腸管を露出するためうっ血による浮腫を招きやすく,その結果吻合後に体内への還納が困難になることがある.したがって,迅速かつ確実な吻合を行うためには,器械吻合とくに機能的端々吻合(functional end-to-end anastomosis)が適している4〜6).この吻合法は腹腔鏡下手術のみならず,開腹手術でも短時間に清潔で確実な吻合が行えるので,とくに緊急手術では有用である.

結腸亜全摘術後の手縫いによる回腸—直腸吻合

著者: 馬場秀雄 ,   森谷冝皓 ,   赤須孝之 ,   藤田伸 ,   三宅秀夫

ページ範囲:P.248 - P.250

はじめに
 結腸亜全摘後の手縫いによる回腸—直腸吻合は,器械吻合器の登場により施行される機会は少なくなってきたが,手術の簡便さや術後合併症の少なさなどにより,現在でもなお重要な術式である.
 本術式の適応は,①家族性大腸腺腫症,②潰瘍性大腸炎,③多発結腸癌,④大腸型クローン病,⑤出血部位の同定の困難な大腸からの出血などが考えられ,特に家族性大腸腺腫症や潰瘍性大腸炎に施行されることが多い.

結腸亜全摘術後の器械による回腸—直腸吻合

著者: 福島恒男 ,   小金井一隆 ,   篠崎大 ,   木村英明

ページ範囲:P.251 - P.253

はじめに
 結腸亜全摘が必要になる疾患は限られており,潰瘍性大腸炎,Crohn病,多発性大腸癌,多発性大腸ポリープ,家族性大腸腺腫症,広範な虚血性大腸炎などである.器械吻合は大きく分けると腹部のみで吻合が完了する方法と肛門から器械を挿入して吻合する方法がある.後者が一般的であるが,肛門狭窄があり,器械の挿入が困難な場合,肛門側に入る人手がない場合などには腹部のみで行う.また,直腸側の断端の処置もroticulatorを用いてdouble stapling techniqueで行う方法と,直腸断端を閉鎖しないで吻合する方法に分けられる.ここでは標準的な,回腸と直腸の断端を巾着縫合器を用いてpurse string sutureをかけて吻合する方法を述べ,roticulatorを用いたdoublestapling techniqueにも言及したい.

大腸亜全摘術後の回腸パウチの縫合・吻合

著者: 楠正人 ,   荘司康嗣 ,   柳秀憲 ,   山村武平

ページ範囲:P.254 - P.256

はじめに
 回腸パウチは直腸切除後に低下したreservoircontinenceを補う目的で,代用直腸として発展した手法である.特に,潰瘍性大腸炎や家族性大腸ポリポーシスに対して行う全結腸切除,直腸粘膜切除,J型回腸嚢肛門吻合術(IPAA:ileal Jpouch anal anastomosis)においてはJ pouchを歯状線に吻合してもcontinenceが十分保たれることから,その有用性は疑問の余地がないと言える1).IPAAの手術では大腸粘膜の完全切除が行われることから,確実な治療効果は得られるものの,分割手術が必要であり,直腸粘膜切除の手技的困難さも伴うために,staplerを用いたIPACA(ileal J pouch anal canal anastomosis)は欧米を中心に広く行われるようになってきた2).これは基本的に直腸癌に対する低位前方切除術におけるdouble stapling techniqueの応用である.直腸粘膜切除を行わないので,術後長期における疾病の再燃や癌化は問題になるものの,一期的手術が可能であり,十分なメリットはあると考える.本稿では,このIPACAについて記述する.

結腸切除術後の手縫いによる結腸—結腸吻合

著者: 佐々木一晃 ,   平田公一 ,   古畑智久

ページ範囲:P.257 - P.260

はじめに
 種々の手縫いによる結腸吻合法が存在するが,筆者らはGambee法を愛用している.本稿ではGambee法の手順,ポイント,コツなどに言及するとともに,結腸—結腸吻合術ならではのピットフォールを述べる.

結腸切除術後の器械による結腸—結腸吻合

著者: 森田隆幸 ,   伊藤卓 ,   村田暁彦 ,   一戸和成

ページ範囲:P.261 - P.263

はじめに
 器械吻合・縫合の目的は手技の容易性,迅速性,普遍性の3点にある.結腸—結腸吻合にも種々の器械吻合が応用されるようになってきたが,本稿では普段行われることが多い方法について,それらの手技や注意すべき点について述べる.

結腸切除術後のバイオフラグメンタブル縫合輪による吻合

著者: 森田隆幸 ,   平間公昭 ,   一戸和成 ,   村上哲之

ページ範囲:P.264 - P.266

はじめに
 腸管内分解性消化管吻合リング(biofrag-mentable anastomosis ring:BAR)は,縫合することなく腸管吻合を行うという着想に基づいて開発された腸管吻合器であり1),吸収性のポリグリコール酸と硫酸バリウムとからなる生体内崩壊性の吻合リングである.本邦で使用可能となったのは最近のことであり,1994年から手術用具として適用となった2).本稿ではBARによる結腸—結腸吻合について手技や注意点を中心に述べる.

前方切除術後の手縫いによる結腸—直腸吻合

著者: 杉原健一

ページ範囲:P.267 - P.269

はじめに
 器械吻合法の導入やさらにdouble stapling法の開発により,中・下部直腸癌に対する術式として,それまでは直腸切断術が適応されていた症例に括約筋温存術が行われるようになった.低位前方切除術後の吻合にはdouble stapling法が有効であるが,Rs癌や上部Ra癌に対しては手縫いによる吻合がなされる場合も多い.本稿では筆者が行っているRs癌切除術の結腸—直腸吻合を紹介する.

低位前方切除術の器械による結腸—直腸吻合

著者: 貞廣荘太郎 ,   徳永信弘 ,   向井正哉 ,   田島知郎 ,   幕内博康

ページ範囲:P.270 - P.273

はじめに
 現在低位前方切除術後の吻合に最も広く行われている環状吻合器を用いた端々吻合の手技について述べる.環状吻合器を用いた端々吻合は,直腸断端の処理方法によって断端を巾着縫合で閉鎖するcircular stapled anastomosis(CSA)と線状ステイプラーで閉鎖するdouble stapling anastomosis(DSA:cross stapling technique)の2種類に分類される.環状吻合器にはPremium Plus CEEA®(オートスーチャージャパン)あるいはILS(エチコンエンドサージェリー)が用いられるが,いずれも先端部のanvilがshoulder pieceから着脱可能である.

経肛門的結腸—肛門吻合

著者: 須田武保 ,   岡本春彦 ,   酒井靖夫 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.274 - P.276

はじめに
 経肛門的結腸—肛門吻合術は1972年Parksにより初めて報告1)され,本邦では1983年に報告2)されて以来,教室でも1988年から本術式を採用している.今回教室で行ってきた直腸癌に対する手縫いによるJ型結腸嚢—肛門吻合術の手術手技を中心にして述べる.

人工肛門造設時の縫合

著者: 田澤賢次 ,   新井英樹 ,   竹森繁

ページ範囲:P.277 - P.280

はじめに
 ストーマには一時的なものと永久的なものと2通りあり,その造設術も大いに違ってくるが,今回は永久的結腸ストーマ造設術について解説する.ストーマの手術手技上の問題として,いまだにストーマ開口部の結腸端と皮膚との縫合にいっさい注意をすることなく,皮膚全層にストーマ縁より離れたところに針糸を掛け,抜糸しないため粘膜移植や放射状瘢痕が形成されても,その原因について無頓着な外科医がいることにびっくりする.今回はこのような観点からも論じてみたい.

ハルトマン術式の肛門側縫合閉鎖

著者: 山本康久

ページ範囲:P.281 - P.283

はじめに
 Hartmann手術は大腸癌,結腸憩室穿孔,炎症性腸疾患,放射線照射後の下血などさまざまな病態に適用される術式である.その選択にあたっては患者の全身状態はもとより,緊急手術か待機手術か,さらに永久的か一時的かも重要な因子となる.
 本法の特徴は人工肛門の造設を余儀なくされる反面,ショックに陥った重症患者の救命をはじめとし,急性期症状の改善,過度な手術侵襲の回避などを主目的とするものである.したがって,切離線の部位,切除範囲,肛門側断端の処理方法は,それぞれの疾患に応じた対応が不可欠である.

直腸部分切除術の縫合

著者: 倉本秋 ,   河原正樹

ページ範囲:P.284 - P.287

はじめに
 直腸部分切除術,粘膜抜去術ともに,食事制限と腸管洗浄剤による十分なpreparationが安全な縫合のために必須である.非吸収性抗生物質の術前経口投与は行わない.

直腸・肛門脱手術の縫合

著者: 永澤康滋

ページ範囲:P.288 - P.291

はじめに
 肛門脱は内痔核が肛門外へと脱出するとき,同時に肛門管全体も脱出した状態をいう.臨床的には外痔核を併存していることが多い.治療は内外痔核の処置と同様に高位結紮切除術を行う.脱肛(anal prolapse),肛門粘膜脱(anal mucosalprolapse)は同義語として扱われている.
 直腸脱は完全直腸脱と不完全直腸脱に分類されている.

ヒルシュスプルング病手術の縫合

著者: 水田祥代 ,   窪田正幸

ページ範囲:P.292 - P.294

はじめに
 直腸肛門部全域が病変部に含まれるヒルシュスプルング病では,罹患部を完全に切除し,正常腸管と置換することは骨盤腔の狭い乳児においては技術的に困難なだけでなく,剥離操作に伴う神経や臓器損傷の危険性も高い.そのためヒルシュスプルング病手術では,病変部の一部を残しながらも正常腸管との吻合法を工夫し,良好な排便機能が得られる術式が考案されてきた.
 基本的な手術法はDuhamel法,Swenson法,Soave法であるが,それぞれに多くの変法が考案され1),さらに近年ではそれぞれが鏡視下手術にも応用され2〜4),術式のvariationはきわめて多い.当科では本邦で最もよく使用されているDuhamel変法(池田式Z型吻合術5))を用いており6),以下本法について述べる.

8.肝・胆道

肝実質の縫合

著者: 松股孝

ページ範囲:P.295 - P.297

肝実質縫合の目的
 肝実質縫合では出血と胆汁漏に注意し,術後出血→再手術→肝不全,あるいは術後胆汁漏→肝切除断端膿瘍→在院期間延長をきたさないことが肝要である.

肝動脈の縫合・吻合

著者: 早川直和 ,   牧篤彦 ,   山本英夫 ,   錦見尚道 ,   二村雄次

ページ範囲:P.298 - P.301

はじめに
 肝動脈の縫合,吻合には術中誤って肝動脈を損傷したり,分枝が引き抜かれた場合の長軸方向や横断方向の単純な結節縫合,腫瘍の浸潤のために合併切除した際の端々吻合あるいはグラフトを間置する吻合などがある.ここでは肝左葉切除で右肝動脈を合併切除した際の自家静脈グラフト(大伏在静脈)を用いた動脈再建での吻合法について述べる.

肝静脈,下大静脈の縫合・吻合

著者: 早川直和 ,   山本英夫 ,   梛野正人 ,   神谷順一 ,   二村雄次

ページ範囲:P.302 - P.305

はじめに
 肝静脈,下大静脈の縫合,吻合は側壁合併切除,単純縫合閉鎖,パッチグラフトによる縫合閉鎖,環状切除後の自家静脈グラフト間置など種々ある.しかし,部位や静脈切除後の欠損部の状況,あるいは用いるグラフトの種類,グラフトのトリミングや形成法などに差はあるが1,2),基本的には静脈系の縫合であり,5-0あるいは6-0の非吸収性のモノフィラメントの糸を用い,結び目は腔外にするなど縫合法の留意点は共通なものも多い.吻合法では2点支持法,1点支持法,後壁吻合をintraluminal techniqueで縫合する方法,あるいは鉗子をrotationしてextraluminal techniqueで縫合するものなどがあるが,ここでは下大静脈側壁合併切除の際の単純閉鎖法,1点支持法の静脈吻合法を中心に述べる.

肝内胆管—空腸吻合

著者: 竜崇正 ,   木下平 ,   小西大 ,   井上和人

ページ範囲:P.306 - P.308

はじめに
 肝内胆管—空腸吻合は切除不能胆道癌のバイパス術であり,患者のQOL維持の面からも有用な方法である.左肝の部分切除により露出された胆管と空腸を吻合するLongmire法1),X線透視下に左肝管にチューブを挿入して,そのチューブを触知することにより容易に胆管に達するCameronら2)のmodified Longmire法,右の肝部分切除を施行して肝内胆管を露出して空腸と吻合するRagins3)法などが報告されている.しかしこれらの方法は末梢胆管との吻合なので手技が困難で,吻合口が狭く,また胆汁の生理的流れと逆になり胆管炎をきたしやすいなどの欠点がある.Bismuthら4)は肝下面から肝内胆管B3枝を露出して,腸管と吻合する方法を報告している.この方法は胆管を長く露出でき,広い吻合口が得られるなどの利点がある.中村ら5)もBismuthらの方法を行い,良好な結果を得ている.筆者ら6)は閉塞部に最も近い部分の胆管と吻合したほうが吻合効果もよく,胆管炎をきたしにくいと考えている.切除目的で開腹して切除不能となった症例が適応であり,筆者らは肝内胆管—空腸吻合と,切除不能病巣への術中照射を併用している.以下に筆者らの行っている方法を述べる.

肝門部胆管—空腸吻合

著者: 竜崇正 ,   木下平 ,   小西大 ,   井上和人

ページ範囲:P.309 - P.311

はじめに
 肝門部胆管—空腸吻合は胆管癌や胆嚢癌の胆管切除後の再建法である.これらの手術は長時間を要し,侵襲が大きいので,確実な吻合が望まれる.筆者らは通常胆管—空腸吻合を1層の結節吻合で行っている.そして胆管にスプリントチューブを挿入して,吻合の安全性を向上させるようにしている.
 以下に筆者らの行っている方法を述べる.

胆管—空腸吻合

著者: 跡見裕 ,   杉山政則

ページ範囲:P.312 - P.314

はじめに
 胆管—空腸吻合は端側と側々吻合に大別される.後者は吻合部が狭窄しやすいことやsump syn-dromeの問題があり,今日では施行されることは少ない.前者は膵頭十二指腸切除や胆管切除後の胆道再建に最も汎用される術式である.この術式の中で,肝内胆管・肝門部胆管—空腸吻合術と肝外胆管である総胆管—空腸吻合術では難易度も吻合法も異なっている.
 本稿では日常臨床で最も多い(総)胆管—空腸吻合を中心に述べる.

永久磁石を用いた総胆管—十二指腸吻合法

著者: 萩原優 ,   山内栄五郎 ,   中野末広 ,   野田真一郎 ,   田中一郎 ,   小森山広幸 ,   作山攜子

ページ範囲:P.315 - P.317

はじめに
 2つの永久磁石を用いて胆管と十二指腸を吻合させる方法について報告する.この方法は偶然に小児が複数の磁石を誤飲して,腸管に内瘻が形成された自験例がヒントとなった.しかし,この方法はすでに1990年代にCope1)が実験的に,Savelievら2)が実験と5例の臨床例を報告している.
 だが,IVRと内視鏡治療の併用下で磁石を用いて非観血的に胆管十二指腸吻合した報告は筆者の検索した限りではなく,新しい手技と思える.

9.膵・脾

膵実質の縫合

著者: 宮原成樹 ,   川原田嘉文

ページ範囲:P.319 - P.322

はじめに
 膵縫合術は,(1)膵腫瘍,膵外傷,進行胃癌における膵合併切除など,種々の疾患に対する膵切離後の断端処理を行う場合,(2)島細胞腫瘍など主に膵の良性腫瘍に対する核出術や膵嚢胞の切除後,またはwedge biopsy後などに摘出創を閉鎖する場合,(3)術中の膵損傷時に止血と膵液瘻を防止する場合などに必要な手術手技であり,常に愛護的な操作を要する.
 膵は通常軟らかく,血流に富む臓器であり,膵管や膵実質の損傷あるいは阻血により膵液瘻や膵炎を起こす可能性がある.膵実質縫合において最も注意すべき点は切離端からの膵液の漏出を最小限にすることであり,このことが膿瘍形成や膵液瘻,さらには主要な血管の破綻による致命的な大出血を未然に防ぐことになる.また膵は後腹膜腔に存在するため,膵切離ならびに縫合は膵を十分に露出,授動し,術者の左手でこれを確実に把持し良好な視野の下で行うことが大切である.

門脈の縫合・吻合

著者: 中村達 ,   鈴木昌八 ,   今野弘之

ページ範囲:P.323 - P.326

 癌切除における門脈再建の意義についてはすでに確立されているが,肝切除,膵頭十二指腸切除術において門脈吻合部が狭窄あるいは閉塞すると危険な状態に陥ることがある.そこで門脈縫合および吻合における手技,ポイント,コツ,ピットフォールについて述べたい.

膵管—膵管吻合

著者: 今泉俊秀 ,   原田信比古 ,   羽鳥隆 ,   高崎健

ページ範囲:P.327 - P.330

はじめに
 膵切除術後の膵再建術として,膵—空腸吻合術が一般に行われてきた.Begerら1)による十二指腸温存膵頭切除術でもRoux-Y挙上空腸脚と膵との再建が行われ,血流障害の危険性がある十二指腸は再建対象臓器として選択されなかった.筆者らは十二指腸温存膵頭全切除術後に膵と十二指腸との吻合に初めて成功したが2),その後十二指腸乳頭部を切除することなく主膵管(または総胆管との共通管)を十二指腸壁外で切離して尾側膵管との再建を,また副膵管が太い例では副膵管との再建を,すなわち膵管—膵管吻合を行った3,4).主膵管損傷に対する膵管—膵管吻合術としてMartin手術5)が行われることがあるが,その適応はきわめて限定されたものである.本稿では十二指腸温存膵頭全切除術後の膵管—膵管吻合を伴う膵—十二指腸吻合を中心として手術手技の要点を述べる.

膵—空腸吻合—膵管—空腸粘膜縫合法

著者: 天野穂高 ,   高田忠敬 ,   吉田雅博

ページ範囲:P.331 - P.333

はじめに
 膵—空腸吻合の縫合不全は腹腔内出血などの重篤な合併症の原因となり,さまざまな消化管吻合法の中で術者が最も気を遣う吻合法の1つである.したがって,縫合不全を防止するために幾多の工夫がなされており,施設ごと,術者ごとに術式の相異を認める.これまで本邦では膵管径が太いものでは粘膜縫合法が行われ,また膵管径が細いものでは完全膵管ドレナージによる吻合(膵管挿入法)が多く行われてきた.しかし最近では膵管—空腸粘膜縫合法が縫合不全が少なく1,2),膵管の開存性の点からも良好であるとし,次第に取り入れられるようになってきた.現在,筆者らは膵管拡張の有無にかかわらず全例に膵管—空腸粘膜縫合法を用いている2)
 ここでは,膵頭部領域癌に対する筆者らの標準術式である,Traverso変法による再建法を用いた幽門輪温存膵頭十二指腸切除術の際の,膵管—空腸粘膜縫合法による膵—空腸吻合の実際について述べる.

膵—空腸吻合—invagination法

著者: 上坂克彦 ,   二村雄次 ,   早川直和 ,   神谷順一 ,   梛野正人 ,   湯浅典博 ,   佐野力

ページ範囲:P.334 - P.336

はじめに
 Invagination法(嵌入法)は膵—空腸を端々吻合・再建する吻合法である.本邦では膵頭十二指腸切除術(PD)の再建において,本法を用いたPD—Ⅱ B法がPD—Ⅱ A法に次いでよく行われている1).本法では膵断端そのものが空腸内に嵌入・埋没されるため,膵断端からのいかなる膵液の漏れも空腸内にドレナージされるという利点がある.その反面,膵断端部で空腸粘膜の欠損が生じ,消化液が直接膵断端に接するという欠点を有する.
 当科では1986年まではPDの際本法によって膵—腸吻合を行っていた.1987年からは膵管拡張のある症例には膵管—空腸粘膜吻合による端側吻合を,また膵管拡張のない症例には節付きチューブを用いた完全膵管外瘻による端側吻合を採用してきた.しかしながら現在でもinvagination法は代表的な膵—腸吻合法の1つであり,消化器外科医にとっては修得しておくべき技術である.以下,本稿では完全膵管外瘻によるinvagination法2,3)の手順や,そのポイントについて順に述べる.

膵—空腸吻合—tube法

著者: 加藤紘之 ,   近藤哲 ,   平野聡 ,   近江亮 ,   安保義恭 ,   奥芝俊一

ページ範囲:P.337 - P.339

はじめに
 膵—空腸吻合に関する多くの論文が輩出しており,多くの議論がかわされてきた.いずれも各自が経験と慣れの中でコツを取得し,良好な成績をあげている.しかし今日なお,トピックスとして取り上げられ議論が尽きない事実は,臨床の現場ではなお問題をかかえており,さらなる工夫と対策が必要なことを物語っている1).ちなみに1997年日本膵切研究会(嶋田紘会長)におけるアンケート調査結果2)によれば,膵—空腸吻合に伴う縫合不全発生頻度は6〜8%であり,縫合不全が発生した場合の致死率は5〜18%である.この調査の膵—空腸吻合は3,281例を対象としており,死亡36例は1.1%に相当する.このような背景をふまえて,本稿では膵—空腸吻合—tube法について述べるが,ステントチューブは一時的ドレナージとして有用なのであって,吻合の基本はあくまでも膵管—空腸粘膜吻合であることをご理解願いたい.

膵管—空腸側々吻合(Freyの手術)

著者: 江川新一 ,   澁谷和彦 ,   砂村眞琴 ,   武田和憲 ,   小針雅男 ,   松野正紀

ページ範囲:P.340 - P.343

はじめに
 膵管—空腸側々吻合術は5mm以上の主膵管の拡張と多発性の狭窄(chain-of-lakes)を伴う慢性膵炎に対して行われ,膵内外分泌機能を温存しながら主膵管内の切石と減圧を行うことを目的としている.従来Puestow1),Partington2)の膵管—空腸側々吻合術が広く行われてきたが,膵頭部に腫瘤形成がある場合や,膵鉤状突起に膵石が多数存在する症例では病態の改善を期待するのは難しいため,教室では慢性膵炎に対して膵頭部の芯抜き(coring out)を行うFreyの手術3)を行っている,本稿においてはFreyの手術を中心に膵管—空腸側々吻合の要領を述べる.

膵仮性嚢胞—空腸吻合

著者: 岡正朗 ,   西原謙二 ,   上野富雄

ページ範囲:P.344 - P.346

はじめに
 膵仮性嚢胞に対しては種々の術式が選択されるが,嚢胞—消化管吻合術は待機手術として汎用される内瘻術である.本稿では膵仮性嚢胞—空腸吻合の手技を紹介する.嚢胞—空腸吻合の利点は嚢胞—胃吻合と異なり,その位置や大きさにより制限されることが少ないが,吻合箇所が多くなるのが欠点と言える.吻合後の再建法は食物が嚢胞内に貯留しないためにも,Roux-Y再建とする.

膵仮性嚢胞—胃吻合

著者: 森俊幸 ,   杉山政則 ,   跡見裕

ページ範囲:P.347 - P.348

適応
 膵仮性嚢胞は,急性膵炎もしくは慢性膵炎の増悪時に膵実質の壊死から膵管の破綻をきたし,膵液が漏出するようになり,炎症が鎮静化した後にも漏出が持続し,貯留膵液の周囲に反応性の線維性被膜を形成したものである2).膵仮性嚢胞は約20%の症例で自然退縮し,そのほとんどは嚢胞形成後6週以内に起きると報告されている1).膵仮性嚢胞には感染,破裂,出血などの合併症があり,これら合併症の累積発生率は嚢胞発生後0〜6週で21%,7〜12週で46%,13〜18週で60%,19週以降で67%と,経過観察期間の延長に伴いその頻度を増してくる.このため,自然消退が期待できない発生後6週以上経過した嚢胞を成熟嚢胞と称し,合併症の頻度増加を考慮し治療の対象とする.
 膵仮性嚢胞の外科的治療法には嚢胞—消化管吻合,外瘻術,膵切除などが施行されるが,嚢胞が胃後部に存在する場合には嚢胞—胃開窓(吻合)術が適応となる2)

脾実質の縫合

著者: 冲永功太

ページ範囲:P.349 - P.351

はじめに
 脾を縫合する機会はそれほど多いものではない.おそらく最も遭遇する機会があるとすると腹部外傷で脾が損傷され,これを止血のために修復する場合であり,その他特殊な脾の疾患で部分的に脾を切除する場合,あるいは術中の損傷に対してやはり止血目的で縫合する場合などが考えられる.これらの状態に対しては従来はむしろ脾摘出が一般的であったが,脾の機能が重視され,また実際縫合が十分安全に施行できることが認められるようになり,脾を縫合することが行われるようになった.
 脾を縫合する場合には,裂創に対する止血の目的のために単に縫合するだけでよい場合と,脾の損傷や脾部分切除などのように脾が完全に離断された場合に大きく分けられる.

10.その他

乳房温存手術における乳腺実質の縫合

著者: 三瀬圭一 ,   児玉宏

ページ範囲:P.352 - P.354

はじめに
 今日,乳癌に対する標準手術術式は縮小傾向にあり,定型的乳房切除術から胸筋温存乳房切除術1)へと移行し,さらに乳房温存療法2)の普及も着実に進んでいる.乳房温存療法を施行するに当たって留意すべき点は,乳房切除術と同等の治療成績を得ることと,同時に乳癌患者のquality oflife,ことに美容上の要因を高めることである.したがって,乳房温存手術施行時には美しい乳房を残すように十分に配慮し,手術手技上の工夫を凝らす必要がある.美容上の要因を考慮した乳腺円状部分切除術2)施行時における乳腺欠損部補填,および乳腺実質縫合の実際を紹介する.

甲状腺実質の縫合

著者: 高見博

ページ範囲:P.355 - P.356

手順
 甲状腺実質の縫合はとりわけ難しいものではないが,甲状腺疾患は日常あまり経験しないこと,血流に富んでおり,出血しやすい臓器であることなどから完全な止血を行うことに注意を払う必要がある1,2)
 方法は原疾患により若干異なる.すなわち,血流の豊富な甲状腺機能亢進症(バセドウ病)では最も止血が厄介であり,血流の少ない腺腫様甲状腺腫,さらに最も少ない慢性甲状腺炎(橋本病)では止血のための縫合は比較的楽である.正常甲状腺組織はその中間に属する.

腎の縫合

著者: 斉藤史郎

ページ範囲:P.357 - P.360

はじめに
 腎の縫合が必要となるケースは2通りの場合が考えられる.ひとつは腎の腫瘤状病変を切除した場合の断端形成,もうひとつは腎外傷時の腎の修復である.外科の領域で必要となりうるのは外傷時の操作がほとんどと思われるので,ここではその場合についてのみ述べることにする.
 腎は下部肋骨および腰背筋に囲まれ,さらに脂肪組織や腎筋膜によって保護されているため重篤な損傷を受けにくい臓器である.しかし顕微鏡的血尿のみを認めるものまでを腎外傷に加えるとその発生頻度は高く,腹部外傷2,055例中393例,19.2%を占めている1).日本での腎外傷の原因としては交通事故が最も多く,次いで転落,墜落,打撲,転倒,スポーツ,遊戯,暴力,労災事故であり1),これらの際に腰背部を強打した場合に生じる.

尿管手術(尿管皮膚瘻術を含む)

著者: 勝岡洋治 ,   東治人

ページ範囲:P.361 - P.364

尿管の局所解剖
 尿管は粘膜(移行上皮),筋層(縦走筋・輪状筋・螺施状筋),線維膜の3層構築からなる径7〜8mm,長さは約25cmの管腔性臓器で,神経,血管支配,およびリンパ管系により上・中・下の部位に分けられる(図1).蠕動により尿は輸送されており,ペースメーカーが腎盂下部をはじめ要所に存在し,これによって尿は塊(bolus)となって尿管腔内を下降する.

腸管利用による尿路変向術におけるパウチの縫合

著者: 橘政昭

ページ範囲:P.365 - P.367

手順
 腸管利用尿路変向術におけるパウチの作製は,通常回腸あるいは回腸ならびに盲腸・上行結腸を利用した術式が選択されることが多い.この際,低圧のパウチを作製することがこの術式の成績向上に必須の要点となる.したがって,管状の腸管構造を一度破壊し,都合よい形で再び縫合する必要がある.例えば,回腸を利用した回腸パウチを作製する際には腸間膜の反対側の腸管壁を完全に切開し,これを再び縫合するわけである.この作製されたパウチは内に尿を貯留するため,縫合に使用する縫合糸は結石形成を予防する上で吸収糸を使用する必要がある.
 縫合方法としては液体を貯留するパウチを作製する必要性からwater tightな縫合が要求される.この観点から通常は連続縫合を行う.多くの場合,その縫合は長い距離になり,時間短縮のための幾つかの工夫が必要である.その1つとして縫合部を2つの部分に分け,2チームで行う工夫がある.他に直針を使用して手縫いのような方法をとること,あるいは自動縫合器による縫合などの工夫が挙げられる.後で詳しく述べるが,最近では吸収性のsurgical staplerが開発され(図1),これを使用することにより大幅な時間短縮が可能となっている.縫合は粘膜粘膜,漿膜筋層の2層縫合を原則とし,縫合糸は粘膜粘膜は3-0の吸収性糸としてpolyglycolic acid(PGA)を使用し,漿膜筋層は2-0 PGAによる連続縫合を行うことが通常である.

回腸導管—尿管吻合,回腸導管—腹壁吻合

著者: 早川正道

ページ範囲:P.368 - P.371

回腸導管—尿管吻合
 尿管をそれぞれ導管と端側吻合するNesbit法について記載するが,他に導管の口側端に両側の尿管を合わせて端々吻合するWallace法もある.まず約20cmの長さの回腸を遊離し,導管を造設する.導管の口側断端は吸収糸(chromic catgutやDexon®)2-0で2層に閉鎖する.導管の中を生食水で洗う.

尿管—膀胱吻合

著者: 秦野直

ページ範囲:P.372 - P.375

はじめに
 尿管と膀胱は他の部位の吻合と異なり,ただ単に吻合すればよいというものではない.膀胱から尿管に尿が逆流しないようにする工夫が必要である.一般にこの逆流は尿管を膀胱粘膜下トンネルに通すことにより防止する.手術法にはさまざまな方法が考案されているが,出来上がりが図1のようになればどのような方法を用いても良い.例として膀胱尿管逆流に対し一般に広く用いられているLeadbetter-Politano法を示す.この手術は逆流のある尿管をつなぎ直し,逆流を防止するものである.原法に若干の変更を加えている.本手術法を理解すれば,尿管を下端で切断した時や,膀胱壁の一部を尿管口とともに切除した時の再吻合などさまざまな局面で応用できる.

膀胱の縫合

著者: 中村薫 ,   山本泰秀

ページ範囲:P.376 - P.379

はじめに
 膀胱縫合の基本について,(1)前壁の部分切除,(2)後壁の部分切除,(3)つぎに損傷部位が膀胱三角部あるいは後壁に広い範囲で起こっていて,膀胱拡大が必要な場合の膀胱縫合について解説する.
 膀胱縫合が適応となるのは膀胱部分切除である.泌尿器科領域では膀胱部分切除は膀胱腫瘍において経尿道的切除(TUR)では切除困難な腫瘍,あるいは原則として膀胱全摘の適応となる浸潤性膀胱癌で,全身状態が悪くてmajor surgeryに耐えられない高齢者患者の姑息的手術法として施行されている(ただし膀胱癌は多中心性の発生であり,浸潤癌ではすでにリンパ節転移をきたしていることも多いので,積極的に膀胱部分切除は行われていない).

膀胱—尿道吻合

著者: 中島淳

ページ範囲:P.380 - P.382

手順
 内尿道口の形成と吻合法は術後の尿失禁ならびに狭窄に関与する.前立腺摘除後の膀胱頸部はbladder neck preservationを施行しないときは大きく開いている.膀胱頸部縫縮の際,インジゴカルミン®を静注し,尿管口を確認すれば尿管カテーテルを挿入する必要はないが,本法に習熟するまでは尿管カテーテルを挿入することにより,不用意に尿管口を縫合閉鎖することが避けられる.膀胱頸部の6時の位置から2-0バイクリル®糸を用いた全層結節縫合により,小指の太さぐらいを目安としていわゆるテニスラケット状に膀胱頸部を縫縮する(図1).十分縫縮ができない時などはラケット作製時の縫合線を覆うように膀胱外膜を用いて2層目を追加する.ついで,12時の位置より4-0バイクリル®糸約6針にて内尿道口の粘膜を引き出し,外反させる(everting suture)(図1).これは膀胱—尿道吻合に際して,粘膜と粘膜がうまく合うようにするためである.尿道断端の1時,5時,6時,7時,11時に両端針付きの2-0バイクリル®糸をかけるが,骨盤底筋群にかからないように慎重に運針する.術者によってはまず膀胱に糸をかけ,その後尿道にかける場合や,4針あるいは6針により膀胱—尿道吻合する場合もある.

子宮実質の縫合

著者: 飯田智博 ,   鈴木廉三郎 ,   岩田正範 ,   曽根郁夫 ,   五十嵐雄一 ,   海老原肇 ,   田口泰之 ,   林和彦

ページ範囲:P.383 - P.385

はじめに
 産婦人科で行われる子宮実質縫合は,①帝王切開術で児娩出後に行われる子宮壁修復と,②子宮筋腫核出術あるいは奇形子宮整復術として非妊娠時に行われる子宮壁修復の2通りの場合がある.このうち前者の帝王切開時の子宮壁修復は多くの場合吸収糸を用いた1層,あるいは2層の連続,もしくは単結紮による縫合で行われ1),一般の管腔臓器の縫合・修復と同様と考えてよい.そこで,本稿では後者の子宮筋腫核出術で行っている子宮実質縫合についてのみ述べることとする.本手術は主に若年者の子宮筋腫に対し,妊娠・分娩を可能とする生殖機能温存を目的としている手術であるため,操作に伴って生じる癒着などを防止することが最も重要な手術でもある.そこで,筆者らが行っている工夫も含め,以下に述べる.

腟の縫合

著者: 澤田富夫 ,   西澤春紀

ページ範囲:P.386 - P.388

はじめに
 外科領域において腟壁を縫合する手術手技は,直腸〜S字結腸における悪性腫瘍摘除の際に子宮合併切除を行った後の縫合ということになろう.この時子宮切除法には原疾患の浸潤部位の高さにより,子宮全摘術を施行せざるをえない場合と子宮体部のみの切除,いわゆる子宮腟上部切断術で済ませる場合とがある.後者の腟上部切断術では子宮頸部切断端面を縫合することになり,図1のような縫合を行うが,詳細は前項に譲る.
 本稿では前者の子宮全摘出後に行う膣断端の処理につき解説する.

Rokitanski-Küster-Hauser症候群における造腟術

著者: 古谷健一 ,   徳岡晋 ,   村山敬彦 ,   山岸幸子 ,   後藤友子 ,   斎藤恵子 ,   新井克志 ,   永田一郎

ページ範囲:P.389 - P.392

はじめに
 Rokitanski-Küster-Hauser(RKH)症候群は胎生期のMüller管の発生異常により子宮・腟欠損をきたす疾患で,頻度は女児の約1/5,000人とされている1).診断は思春期になっても初潮がみられず,原発性無月経を主訴として婦人科を受診して診断されること多い.染色体は46XXで排卵を含めた卵巣機能は正常であるので,患者自身における挙児は困難であるが,造腟術によって女性としてのQOLを高めることが可能となる.本稿ではRKH症候群における造腟術の種類を概説するとともに,当科における人工粘膜を用いた新しい造腟術の試みにも触れたい.

ヘルニア手術

著者: 山本俊二 ,   内田靖之 ,   内藤雅人 ,   矢部慎一 ,   中野正人 ,   坂野茂 ,   山本正之

ページ範囲:P.393 - P.395

 成人外鼠径ヘルニアに対するopen tension-freeヘルニア修復術1)について述べる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?