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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科53巻2号

1998年02月発行

雑誌目次

特集 食道・胃静脈瘤攻略法

食道・胃静脈瘤の基礎知識

著者: 荒川正博

ページ範囲:P.145 - P.150

 食道・胃静脈瘤の病態について食道静脈瘤と胃静脈瘤を対比しながら述べたが,両者ではかなりの相違があり,病態に応じた治療法の選択が望ましい.以下,その相違を列挙する.①解剖学的に食道には皺襞が見られる.②食道では粘膜筋板がルーズで粘膜下層と粘膜固有層の交流が容易である.このため,食道静脈瘤は静脈瘤の重積が見られるが胃静脈瘤ではこれが見られない.③静脈瘤の破綻血管も食道静脈瘤では粘膜固有層の細い血管であるが,胃静脈瘤では粘膜下層を走行している静脈瘤そのものの破綻である.④胃静脈瘤でも噴門部と穹窿部の静脈瘤ではその成り立ちが異なる.

EIS (内視鏡的食道・胃静脈瘤硬化療法)

著者: 橋爪誠 ,   田上和夫 ,   森田真 ,   富川盛雅 ,   御江慎一郎 ,   津川康治 ,   太田正之 ,   杉町圭蔵

ページ範囲:P.151 - P.155

 食道・胃静脈瘤の内視鏡的硬化療法による治療戦略について述べる.急性出血例は硬化療法の絶対的適応で,止血率はほぼ100%と良好である.待期予防例の肝機能良好例では手術療法と治療成績に有意差はなく,侵襲の少ない硬化療法を第一選択と考える.手技的には食道静脈瘤も胃静脈瘤においても静脈瘤の完全消失を治療目標とする.3か月毎の内視鏡検査による定期的経過観察が重要であり,発赤所見を伴う小血管の出現がみられた際には必ず追加治療を行う.当施設での10年累積静脈瘤非出血率は84.2%と良好な成績が得られている.また,上部消化管出血による死亡は2.7%である.以上より,硬化療法は食道・胃静脈瘤患者の治療の第一選択と考える.

EVL(内視鏡的静脈瘤結紮術)の適応と限界

著者: 吉田智治 ,   重光俊範 ,   竹尾善文 ,   原田捻也 ,   沖田極

ページ範囲:P.157 - P.162

 EVLは簡便性,安全性に優れ,静脈瘤の荒廃効果も良好である反面,再発しやすいという問題点が指摘されている.内視鏡治療の選択肢はEVLか硬化療法か,あるいは両者のcombined therapyかであり,どう使い分けるべきかと治療法の選択に迷うことが多い.筆者らは,EVLの最もよい適応は食道静脈瘤の緊急出血例であると考えている.まず簡便で合併症の少ないEVLで止血し,肝機能を評価した後に,可能であれば硬化療法あるいはEISLを追加して静脈瘤の完全消失をはかる方法が合理的であると考えている.
 また孤立性胃静脈瘤の緊急出血例には,食道静脈瘤と同様の理由でEVLsを第一選択の治療法として施行し,止血後は肝機能を評価した後に可能であればEISLを追加して胃静脈瘤の完全消失をはかっている.

TIPS(経皮的肝内門脈静脈短絡術)

著者: 松岡利幸 ,   中村健治

ページ範囲:P.163 - P.168

 TIPSはIVRの手法により低侵襲に肝内に肝静脈門脈短絡を形成して,門脈圧減圧を図る治療法である.食道・胃静脈瘤の治療法として優れ,内視鏡的治療法と比較しても再出血率は低い.手技に習熟すれば成功率は高く,緊急例のみならず待期例も適応となりうる.術後の肝性脳症は内科的に対処可能である.高頻度で再狭窄を生じる点が問題であるが,ステントの改善やカラードプラー超音波による早期発見と,バルーンカテーテルによるPTAで解決可能である.今後,長期成績や肝機能に及ぼす影響の検討と適応基準の明確化が必要と考えられる.

PTO・TIO(経門脈的食道・胃静脈瘤塞栓術)

著者: 田尻孝 ,   恩田昌彦 ,   山下精彦 ,   鳥羽昌仁 ,   梅原松臣 ,   吉田寛 ,   真々田裕宏 ,   隈崎達夫

ページ範囲:P.169 - P.174

 経門脈的静脈瘤塞栓術は門脈圧亢進症によって生じた食道・胃静脈瘤に介在する遠肝性側副血行路を,interventional radiologyにてその流入路から塞栓する治療法であり,静脈瘤治療の基本ともいえる.しかし静脈瘤の発生機序は多岐にわたっており,その攻略法もまた様々である.したがって,より良い成績を得るためにはそれぞれの攻略法の特色をよく理解し,それぞれの欠点を補いながら本法を含む集学的治療を行うことが大切である.また本法における門脈への到達法には経皮経肝法,経回結腸法,さらに現在ではTIPS経路を利用する方法があり,それぞれの特色を生かして使い分けることで安全性・確実性が増し,本法の有用性が高まる.

孤立性胃静脈瘤に対するBRTO(バルーン閉鎖下逆行性塞栓術)

著者: 國分茂博 ,   浅野朗 ,   高田雅博 ,   日高央 ,   中沢貴秀 ,   西元寺克禮 ,   松永敬二 ,   磯部義憲 ,   林修 ,   荒井義孝 ,   國場幸均 ,   比企能樹

ページ範囲:P.175 - P.180

 多種多様に存在する食道・胃静脈瘤治療の中で唯一,孤立性胃静脈瘤に対するBRTOは手技の侵襲度,消失効果,安全性において他の治療法より抜きん出ており,その選択に迷うことはない.胃腎シャントからの逆行性造影において胃静脈瘤が描出される造影剤の90%量の硬化剤(5%EOI)を注入,最大量を0.4ml/Kg/日とし,翌日の造影で消失確認もしくは追加注入するカテーテル留置・反復注入法により安全にかつ効果的な治療が可能である.本法により胃静脈瘤は2か月後に93%が消失し,再発を認めない(最長5年間).食道静脈瘤は9か月で23%に出現する.
 BRTOは肝性脳症や十二指腸静脈瘤にもその適応が拡大されつつある.

食道静脈瘤の薬物療法

著者: 金沢秀典 ,   小林正文

ページ範囲:P.181 - P.186

 欧米におけるrandomized controlled studyの成績を中心に,食道静脈瘤に対する薬物療法について概説した.食道静脈瘤破裂の止血にはvasopressinとnitroglycerinの併用またはoctreotideが用いられるが,その止血率は約60%であり,EISやEVLに比べ低率である.予防的治療では治療効果および安全性の両面から薬物療法が優れており,非選択性のβ遮断剤であるpropranolol,nadololを治療の第一選択とすべきである.待期的治療ではβ遮断剤,EISのいずれも再出血を低下させるが,EISでは生存率の向上も期待できることからEISが第一選択となる.β遮断剤と硝酸イソソルビドの併用はβ遮断剤単独より優れており,予防,待期のいずれでも併用療法を行うことにより今後さらなる成績の向上が期待できる.

食道・胃静脈瘤に対する直達手術—長期成績と現在の方針

著者: 高森繁 ,   大橋薫 ,   児島邦明 ,   深澤正樹 ,   別府倫兄 ,   二川俊二

ページ範囲:P.187 - P.192

 教室において1979年9月から1997年9月までに食道・胃静脈瘤に対して565例の直達手術を施行した.累積再発率ならびに累積生存率に基づいた長期遠隔成績について検討を加え,直達手術に伴う問題点を述べた.
 硬化療法導入後は静脈瘤破裂の緊急例に対しては緊急手術は原則的に行わず,またChild B,Cの肝機能不良例に対してはより侵襲の低いHassab術を選択し,遺残静脈瘤に硬化療法を追加するというcombined therapyを行っている.しかし,IPH,EHOならびに肝硬変症であってもChild A症例のような長期予後が期待できるような症例に対しては,静脈瘤再発の少ない直達手術を積極的に選択すべきであると考えられた.

食道・胃静脈瘤に対するシャント手術の適応と実際

著者: 北城秀司 ,   加藤紘之 ,   金谷聡一郎 ,   奥芝俊一

ページ範囲:P.193 - P.197

 近年,食道・胃静脈瘤に対する治療は非手術的治療が主流となっているが,筆者らは外科治療,中でもシャント手術を第一選択としてきた.その長期予後を検討した結果,肝予備能が一定の基準内(Child B以上,かつICGK≧0.05)であれば,きわめて良好な結果が得られたことから,内科的治療難治例のみならず早期社会復帰を望む肝機能良好例に対しても積極的に推奨すべきと思われた.

EVLにこんな工夫

著者: 村島直哉 ,   熊田博光

ページ範囲:P.199 - P.201

 内視鏡的食道静脈瘤結紮術(EVL)の改良された方法として,撲滅法(密集結紮法)・螺旋式結紮法・二重結紮法などがある.硬化療法との併用療法も盛んに行われている,しかし,合併症に留意する必要があり,できるだけ単純な方法を選択すべきである.内視鏡装着器具はcapが透明になったものを使用すべきであるが,連発式のものを用いるかシングルリングを用いるかは,オーバーチューブが容易に挿入できるかどうかによる.Pneumatic deviceは操作が容易である.最近ナイロン糸による結紮が可能になった.どの方法を用いるかは個人的嗜好が大きく,肝疾患全体としての予後を十分考慮する必要がある.

EVL連発式の利点と欠点

著者: 渋谷進 ,   高瀬靖広

ページ範囲:P.203 - P.205

はじめに
 食道静脈瘤に対する内視鏡的結紮術(以下,EVL)は硬化療法に比して簡便であることから多用されているが,手技が簡便であるということは術者にとっても患者にとっても大きな意義があると言える.そして,患者にとってより簡便なEVLを突き詰めていくと,治療に要する施行時間がより短く,できれば施行回数が少ないEVLということになろう.このように考えると,術者のみならず,患者にとって結紮器が連発化することは必然の帰結といえる.しかし,EVLが連発式になることは利点と引き替えに欠点が発生しうることを忘れてはならない.これらのことを考慮しながら連発式結紮器の利点と欠点について述べたい.はじめに結紮器の種類から述べる.

EIS—地固め法とは

著者: 小原勝敏 ,   粕川禮司

ページ範囲:P.207 - P.211

 食道静脈瘤治療は副病変の治療であるが故に,安全かつ効果的であることが要求される.地固め法(EO・AS併用法変法)は安全性と効果持続の追及の結果生まれた治療法である.地固め法とは,まず静脈瘤造影下EO法(EVIS)であらゆる供血路を完全閉塞(供血路の地固め)し,次にAS法にて細血管を消失させ,さらにlaser照射法で下部食道壁を全周性に硬化(静脈瘤発生母地の地固め)させる治療手技である.地固めが確実に達成されたかどうかの判定にはEUSが有用である.地固めすると,食道粘膜層および粘膜下層は密な線維組織で置換され,EUSでは食道壁が全周性に著明に肥厚した像として観察される.地固め法は再発率がきわめて低く,出血再発を確実に防止できる治療手技である.

手術を併用した食道・胃静脈瘤硬化療法

著者: 北野正剛 ,   板東登志雄 ,   吉田隆典 ,   松本敏文 ,   二宮浩一 ,   バータルドルゴール ,   坪井貞樹

ページ範囲:P.213 - P.215

 硬化療法抵抗性の巨大食道静脈瘤に対して,比較的侵襲の軽い血行郭清術と術中左胃静脈へのカテーテル挿入による術後硬化剤注入を行うopen injection sclerotherapy(OIS)を紹介する.食道静脈瘤の根元である左胃静脈の領域のみを残して血行遮断を行い,次いで左胃静脈根部で結紮の後,6Frのビニールチューブを留置する.3〜5日毎に,硬化剤として5%エタノラミンオレートをカテーテルより左胃静脈を経て静脈瘤内に注入する.2〜3回の注入で完全塞栓され,硬化剤がもはや入らなくなった時点で終了する.本法は動脈の遮断と同時に静脈瘤の完全閉塞といういわば立体的食道離断と言える.

カラーグラフ 内視鏡下外科手術の最前線・38 肝・胆・膵・脾

急性胆嚢炎に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術

著者: 徳村弘実 ,   梅澤昭子 ,   今岡洋一 ,   大内明夫 ,   山本協二 ,   松代隆

ページ範囲:P.137 - P.142

はじめに
 急性胆嚢炎に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術(以下,LC)はその初期のころは禁忌1〜3)とされたが,経験とともに試みられるようになった.しかし,本手術はLC手術困難例のほとんどを占め,実際に胆管損傷などの合併症や開腹移行が多いことなどが多数報告されている3〜11).現在もその手術時期,手技あるいは適応そのものも多く議論されている.本稿ではLC自験例の術中所見および手術成績から急性胆嚢炎合併例の特徴を検討し,手技の実際を述べる.そして,その問題点,手術時期および開腹移行について考察する.

臨床外科交見室

ヘルニアという言葉

著者: 川満富裕

ページ範囲:P.217 - P.217

 ヘルニアについてはヒポクラテス全集にも記述があるが,Hippocratesがヘルニアをいうのに使った言葉は「かさばったもの」という意味のギリシャ語keleだった.Herniaという言葉はラテン語であり,1世紀にCelsusの著書「医学について」の中で初めて医学用語として用いられた.膨らんだ若芽を意味するギリシャ語herniosから派生したラテン語とされ,ヘルニアは体表の膨らみを意味していたと考えられているが,Celsusは次のように述べている.
 「一撃を受けたり,長く息をこらえたり,重いもので圧迫されたりすると,外皮はなんともないのに下腹部の内部の膜が破れることがある.……外皮が軟らかく腸管を十分に支えられないと,腸管の上で皮膚が引き伸ばされ,不格好な腫瘤が生じる」.

病院めぐり

倉敷成人病センター外科

著者: 松本剛昌

ページ範囲:P.218 - P.218

 当院は,倉敷美観地区やチボリ公園に近く,JR倉敷駅から南方15分(徒歩)の所にあります.1968年,岡山大学第1外科出身の須原(現理事長)が診療所を開院し,その後総合病院へと発展させ,1971年に財団法人倉敷成人病センターとなりました.
 須原理事長の「これからの病院運営は『3つの柱』からなる」という理念のもとに,その法人の発展を考えて現在に至っております.3つの柱とは,1.研究所による学問的基盤の確立,2.予防医学を推進するための健診センターの設立,3.患者さんのためになる医療を提供する病院の確立,であります.

国家公務員共済組合連合会熊本中央病院外科

著者: 高野定

ページ範囲:P.219 - P.219

 当院は昭和26年4月,熊本市の中央,新屋敷の地に熊本共済診療所として創設されました.昭和27年には病棟が竣工し,病院を開設,名称を熊本中央病院と改称しました.その後,増改築を重ね,現在では診療科18科,病床数361床となっています.平成9年1月には熊本市の南の地に,待望の7階建ての病院を新築し,移転しました.
 移転を機会に,入院患者の在院中の環境と食事についてはいうまでもなく,最善を期して満足の行く機能と設備を備えました.そのほか病室は最大でも4人部屋で,すべてのベッドの横に窓があり外景が楽しめるよう設計されているなど,アメニティについてはいろいろと試みられています.内科系・外科系の疾患を臓器別に同一フロアーに持ってくるなど,医師と医療スタッフがスムーズに協調できる配慮がなされています.

私の工夫—手術・処置・手順・39

総胆管切開後,Tチューブ内ドレナージチューブの留置の工夫

著者: 馬場秀文 ,   田中克典 ,   菅重尚 ,   鈴木文雄 ,   大橋均 ,   守谷孝夫

ページ範囲:P.220 - P.221

1.はじめに
 総胆管結石症に対して切石術が行われた後にTチューブを留置する目的は総胆管切開後の胆汁のうっ滞および腹腔内への胆汁漏出の予防とされているが,Tチューブ留置後の胆管壁の縫合閉鎖およびTチューブを体外に誘導する位置などに十分な配慮を行わないと胆汁漏出が生じ,腹腔ドレーンより胆汁がドレナージされることがある.
 われわれは総胆管切開後のTチューブ留置に際し,Tチューブ内にPTCD 6号チューブを胆汁ドレナージチューブとして挿入することにより,Tチューブ留置後の合併症である胆汁漏出を防止することができたので紹介する.

メディカルエッセー 『航跡』・18

カナダ横断30日間講演旅行(5)—モントリオールからオタワへ

著者: 木村健

ページ範囲:P.222 - P.223

 モントリオール駅から首都オタワ行きの特急列車に乗り,停車場を離れていく車窓から手を振ってガットマン夫妻に別れを告げた.2時間足らずの旅であったが,途中には紅葉の渓谷を抜けるところもあって退屈はしなかった.驚いたことにファーストクラスの乗客には丁度国際線の飛行機の旅のように,湯気が立ちのぼるスープのついた食事が席に配られるのであった.もちろん料金はいらない.汽車の旅で上げ膳据え膳ははじめてのことであった.オタワに着くと東オタワ小児病院小児外科部長のマーサー博士夫妻が出迎えてくれた.カナダ議会のすぐ隣にそびえ立つ,古城のごときホテルシャトーローリエに宿がとってあった.例によってペントハウスフロアには,エレベーターの鍵穴に合う特別のキーを持ったスペシャルゲストだけが到達できるようになっている.このフロアではたとえ一夜の客であっても「ミスター」だの「サー」とは呼ばない.受付嬢,クラーク,ウエイトレス,メイドに至るまで「ドクターキムラ」と名前を呼ぶように躾けられている.部屋に入ると総シルクの寝具や年季の入ったクラシックな家具調度はともかくも,灰皿に載ったマッチに金文字でDr.Kimuraと印刷してあったのには魂消た.あれもこれもマクロード家がスポンサーであればのこと,自前で泊まるにはかなりの勇気がいるわいと思いながら超ゴージャスな2晩の滞在をエンジョイした.

外科医のための局所解剖学序説・19

腹部の構造 6

著者: 佐々木克典

ページ範囲:P.225 - P.234

 診断の神様と言われた沖中重雄が最終講義で誤診について語った時,それを直接聞いた人々はもちろん,その後時代を経て講義内容を読む機会を得たものにとっても深く感銘させられるものがあった.手元に書籍がないため正確な数値を引用できないが,診断しにくく誤診しやすいものに膵臓の疾患を挙げておられたと記憶する.膵臓は腹腔の最も奥にあり,椎体に取り巻くように密着している臓器で,症状が出にくく,また位置的特殊性からCTやMRIが出現するまでは,極端に言えば“開かずの間”だった.しかもその裏には重要な血管が複雑に存在し,かつ臓器をえぐるほど密着しており,外科で扱う際も実に苦慮した,しかし人類は果敢にこの臓器にチャレンジしてきた.1884年にBillrothが全摘したと記録されている.その後しばらく目立った動きはなかったが,1910年Finneyが体部を切除し,頭部と尾部をつなぐ安全な手術法を開発してから,外科医はこの臓器を躊躇せずに手術するようになった.しかし膵頭部切除が完成するまでにはさらに25年を要している.
 十二指腸乳頭部癌に膵十二指腸乳頭部切除を初めて行ったのが1935年,コロンビア大学のWhip-ple AOであり,彼の考案した術式がその後標準的なものとして流布した.しかしオリジナルが必ずしもそのまま踏襲されたわけではない.

遺伝子治療の最前線・8

p53遺伝子導入による肺癌治療

著者: 日伝晶夫 ,   藤原俊義 ,   田中紀章

ページ範囲:P.235 - P.239

はじめに
 近年,分子生物学の進歩により癌細胞における様々な遺伝子異常が観察され,その異常が癌の発生および進展の原因であることが明らかになった.突然変異による癌遺伝子の活性化や,特異的染色体の欠損・変異による癌抑制遺伝子の不活性化はきわめて多くのヒト悪性腫瘍に認められており,複数の遺伝子に生じた変化が正常細胞の癌化を招くと考えられている.そこで,異常をもつ遺伝子を正常遺伝子に置換するか,あるいは欠陥遺伝子の機能を正常遺伝子で補うことにより,癌細胞の悪性形質を治療しようとする遺伝子治療の概念が生まれてきた.
 癌抑制遺伝子はその正常機能が脱落したときに細胞を癌化させるものであり,遺伝子転写,細胞分裂,DNAの修復などに働いている.多くの癌では片方のアレルの癌抑制遺伝子が部分的あるいは完全欠失し,同時に対立遺伝子に点突然変異などの微小変異が生じることで癌抑制機能が不活化されている.これまで報告されている癌抑制遺伝子のなかでp53遺伝子は最も多くのヒト悪性腫瘍で異常が認められ,その変異や欠失による機能喪失は,癌細胞の異常増殖能,治療抵抗性,血管新生能などの悪性形質の発現に関与している.癌の遺伝子異常は別個の染色体に位置する複数の遺伝子に認められるにもかかわらず,単一の正常癌抑制遺伝子を導入することによりその増殖は著しく抑制され,悪性形質の治療が可能であると考えられる.

臨床報告・1

経仙骨的に切除した径10cmの前仙骨部神経鞘腫の1例

著者: 鈴鹿伊智雄 ,   塩田邦彦 ,   西原正純 ,   中川準平 ,   間野正平 ,   清水信義

ページ範囲:P.241 - P.244

はじめに
 神経鞘腫は末梢神経由来の良性腫瘍で,顔面,頸部に好発し1),前仙骨部に発生することは稀である.一方,前仙骨部腫瘍の頻度は入院患者約4万人に1人と言われており,その中では類表皮嚢胞,脊索腫などが多い2)
 今回,筆者らは排便困難にて発症し,経仙骨的手術にて治癒しえた前仙骨部神経鞘腫の1例を経験したので報告する.

内視鏡下に摘出しえた胃内テーブルスプーンの1例

著者: 清水輝久 ,   出口雅浩 ,   松本佳博 ,   佐藤哲也 ,   大曲武征

ページ範囲:P.245 - P.247

はじめに
 近年の内視鏡技術の進歩により,上部消化管異物はほとんど保存的に内視鏡下に摘出可能となった.しかし,異物の種類や摘出時期によっては摘出不可能なものや消化管穿孔,出血,イレウス,膿瘍形成など異物によって引き起こされた合併症のため,開腹手術を要する場合がある.今回筆者らは無理やり嚥下して胃内に停滞したテーブルスプーンを開腹手術することなく,内視鏡下に透視併用にて摘出しえた症例を経験したので,若干の考察を加え報告する.

腎細胞癌の膵転移の1切除例

著者: 小林達則 ,   神原健 ,   上山聰 ,   上川康明 ,   藤井喬夫

ページ範囲:P.249 - P.254

はじめに
 腎細胞癌は血行性転移をきたしやすく,肺・肝・骨などへの転移は比較的多いが,膵への転移は稀である1).今回,筆者らは初回腎細胞癌摘出術後5年7か月で腎細胞癌の膵転移と診断され,転移部位を手術にて完全に切除しえた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

胆嚢癌との鑑別が困難であった黄色肉芽腫性胆嚢炎の1例

著者: 田澤賢一 ,   内田敬之 ,   南康平 ,   山川洋子 ,   宇仁淳 ,   小尾龍右 ,   萬谷直樹 ,   斎藤美津雄

ページ範囲:P.255 - P.259

はじめに
 黄色肉芽腫性胆嚢炎(xanthogranulomatous cholecystitis:以下,XGCと略す)は比較的稀な胆嚢炎症性疾患であり,胆嚢癌との鑑別が重要な疾患である1,2).筆者らは,術前画像にて胆嚢癌との鑑別が困難であったXCGの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

術後に鼠径ヘルニアの出現をみた上腰ヘルニアの1例

著者: 中村好宏 ,   石部良平 ,   池江隆正 ,   平明

ページ範囲:P.261 - P.263

はじめに
 腰部には上腰三角(Grynfeltt-Lesshaft tri-angle),下腰三角(petit triangle)の2か所の解剖学的抵抗減弱部があり,稀にここにヘルニアが発生する.本邦報告例は約40例みられる.今回,筆者らは上腰ヘルニアの根治術後に,鼠径ヘルニアが出現した症例を経験したので報告する.

単発性脾膿瘍の1例

著者: 谷掛雅人 ,   仲本剛 ,   新保雅也 ,   小川敦史 ,   牧本伸一郎 ,   上江洲朝弘

ページ範囲:P.265 - P.269

はじめに
 脾膿瘍は比較的稀な疾患であり,従来は汎発性腹膜炎の診断にて開腹手術を施行され,破裂した膿瘍を確認することで診断された1).しかし最近ではultrasonography(US)や,computed tomo-graphy(CT)といった画像診断装置の進歩,普及により,破裂前に診断される症例も増加した.
 今回,筆者らは破裂前に診断しえた単発性脾膿瘍の1例を経験し,その診断,治療法について検討したので文献的考察と併せて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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