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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科53巻4号

1998年04月発行

雑誌目次

特集 早期直腸癌診療のストラテジー

早期直腸癌に対する粘膜切除術(EMR)

著者: 五十嵐正広 ,   勝又伴栄 ,   小林清典 ,   高橋裕之 ,   横山薫

ページ範囲:P.407 - P.411

 早期直腸癌の治療方針は,肉眼形態,大きさ,深達度,部位(肛門からの距離)などにより決定される.内視鏡的治療は隆起型早期癌に対してはスネアによるポリペクトミーが,表面型早期癌に対しては粘膜切除術(EMR)が選択される.とくにEMRの適応は病変の大きさとして3cm以内,深達度はmないしsm1までの癌とされる.早期直腸癌に対する治療法として内視鏡的治療のほか,経肛門的局所切除やTEMなどの方法もあり,患者のQOLを十分検討して選択されるべきである.内科の立場としては内視鏡的に確実に根治可能な病変にとどめ,切除後の組織診断で最終的な治療法を決定すればよいといった考えは直腸では避けるべきである.

早期直腸癌に対するEMR(endoscopic mucosal resection)

著者: 磯本浩晴 ,   荒木靖三 ,   唐宇飛 ,   松本敦 ,   辻義明 ,   安永昌史

ページ範囲:P.413 - P.418

 直腸早期癌に対する内視鏡的粘膜切除術(endscopic mucosal resection:EMR)について,自験例を中心に外科的立場から他の経肛門的方法と比較検討した.EMRはすべての大腸領域に施行されているが,上部直腸に多く,腫瘍径が10mm以下の比較的小さい病変に主たる適応が向けられ,形態分類では隆起型やLSTに多く,深達度はすべてm癌であった.直腸において最も多く行われた術式は直腸内視鏡下手術のTEMであった.EMRの適応としては腫瘍型15 mm以下の上部直腸に局在するsm1までの癌においては簡便性,安全性と低侵襲性の面から優先して行える方法であると考える.

経肛門的局所切除術(peranal local excision)のストラテジー

著者: 前田耕太郎 ,   丸田守人 ,   内海俊明 ,   佐藤美信 ,   奥村嘉浩

ページ範囲:P.419 - P.424

 経肛門的局所切除術は,さまざまな局所切除術式のなかでも早期癌の根治性を損わない最も低侵襲な治療法として,さらに完全生検が可能なため切除した標本の病理組織所見で根治性を確認でき,不必要な腸切除を回避できる術式として特に有用である.経肛門的局所切除術のストラテジーを,従来行われている経肛門的局所切除術(従来法)と新しい開肛器と自動縫合器を使用した,より低侵襲な低侵襲経肛門的局所切除術(minimally invasive transanal surgery:MITAS)とを対比して,適応,手術手技について概説した.経肛門的局所切除はMITASにより,より低侵襲で全直腸の早期癌病変が適応となる手技に進展してきた.

早期直腸癌に対する経仙骨的切除

著者: 寺本龍生 ,   渡邊昌彦 ,   亀井秀策 ,   遠藤高志 ,   橋本修 ,   北島政樹

ページ範囲:P.425 - P.429

 直腸の早期癌はほとんどの症例が経肛門的に局所切除可能であるが,腫瘍が直腸S状部に及ぶものや,腫瘍径が大きくて経肛門的には完全切除が不完全になる場合に経仙骨的局所切除が適応とされる.内視鏡あるいは経肛門的局所切除後,さらに根治的追加切除が必要と判断された場合には,1群リンパ節を含めて切除可能な経仙骨的管状切除が適応とされる.本術式は直腸周囲の解剖学的関係を熟知して行えば術後の機能障害をきたすことがなく,容易で安全な応用範囲の広い術式である.

広範間膜切除を伴う直腸局所切除術(WME直腸局所切除術)

著者: 畦倉薫 ,   安部哲也 ,   平松聖史 ,   上野雅資 ,   太田博俊 ,   高橋孝 ,   小泉浩一 ,   甲斐俊吉 ,   柳沢昭夫 ,   加藤洋

ページ範囲:P.431 - P.437

 食生活の欧米化,検診の普及により早期直腸癌は増加しつつあり,進行度に応じた適正手術が求められている.下部直腸の早期癌に対するこれまで手術は局所切除か開腹根治手術かの二者択一であり,その段差があまりにも大きかった.筆者らは中問の根治性・手術侵襲を有する広範間膜切除を伴う直腸局所切除術(WME直腸局所切除術)を工夫し症例を重ねつつある.直腸sm癌の進展様式に沿い,小範囲の直腸局所切除(safty marginは10 mm前後の直腸全層切除)に口側に10cm以上もの広範な直腸間膜切除(リンパ節郭清)を加える術式で14例に施行,平均31か月の観察で再発を認めていない.加藤による大腸sm癌亜分類に従い,sm1はポリペクトミーか局所切除で可,sm2・sm3はリンパ節郭清を伴う根治手術必要との方針で望んでいるが,この中でWME直腸局所切除の適応はsm2で浸潤の浅い癌(sm2 shallow cancer)である.sm2浅層浸潤の診断は超音波内視鏡(EUS)と内視鏡的粘膜切除か経肛門的直腸粘膜切除で決めている.

経肛門的内視鏡下マイクロサージェリー(TEM)による早期直腸癌の治療

著者: 木下敬弘 ,   金平永二 ,   大村健二 ,   川上和之 ,   渡邊洋宇

ページ範囲:P.439 - P.444

 教室では早期直腸癌に対する経肛門的内視鏡下マイクロサージェリー(TEM)の適応を,(1)腫瘍肛側縁から肛門縁までの距離が5 cm以上20 cm未満,(2)SM浸潤が明らかではない,(3)基部長径が1.5 cm以上を満たすもの,としている.これまでに30症例に対して施行した結果,平均腫瘍径は30.6 mm,平均手術時間は61.4分であった.術中合併症は認めず,治療を要した術後合併症は狭窄の1例(3.7%)のみであった。sm1ly11例,sm21例,sm3l例の計3例(10.0%)に追加切除を施行した.経過観察期間は最長4.5年,平均1.5年で,1例(3.7%)にのみ局所再発を認めた.
 TEMは低侵襲性と根治性を兼備した外科的局所切除術として,早期直腸癌の治療体系において重要な選択肢として位置付けられるものと思われる.

早期直腸癌に対する腹腔鏡補助下切除術

著者: 筒井光広 ,   佐々木壽英 ,   田中乙雄 ,   梨本篤 ,   土屋嘉昭

ページ範囲:P.445 - P.450

 直腸癌腹腔鏡補助下切除の術式と治療成績および適応について述べた.早期直腸癌に対してはEMRやTEMなどの小さな切除で根治性を保った治療法の適応が進んでいる.しかし,sm癌では10%程度のリンパ節転移がみられることから,これらに対しては郭清を伴った切除が必要である.また,腫瘍径の大きな症例では局所切除にも限界がある.直腸癌腹腔鏡補助下切除は開腹手術でしか行えなかった切除を最小の侵襲で行うことを目的とした術式であり,前方切除で多く行われている.郭清が必要な早期直腸癌に対しては,神経温存や肛門機能温存術式により術後長期のQOLを確保するとともに,低侵襲手術によって早期の社会復帰を可能とする努力が求められている.

カラーグラフ 内視鏡下外科手術の最前線・40 肝・胆・膵・脾

腹腔鏡下肝嚢胞開窓術

著者: 長谷川格 ,   平田公一 ,   秦史壮

ページ範囲:P.399 - P.404

はじめに
 1996年4月の社会保険診療報酬改定で,腹部領域についても多くの腹腔鏡下手術の保険診療が認められた.とくに本シリーズの肝・胆・膵・脾領域では胆嚢摘出術がすでに標準術式の1つとなり,他領域についても現在では良性疾患のみならず,悪性疾患に対しても適応拡大が図られている.筆者らの教室でも1991年より腹腔鏡下胆嚢摘出術を開始し,基本手技の向上,機器の開発に合わせて,現在では種々の領域の疾患に対して腹腔鏡下手術を施行している.また今回のテーマである肝嚢胞に対する腹腔鏡下手術の報告1)も散見されるようになってきたが,その適応と術式についてはいまだ確立されていない.現時点での本疾患に対する治療は,主に超音波誘導下によるドレナージ術,エタノール局注療法,薬物注入療法2,3)などが第1選択として施行され,良好な成績が報告されている.一方,開腹術は特定の症例を除き,その侵襲の大きさから施行される機会が少なくなった.しかし超音波装置を併用した治療に完治を得られぬ症例があり,特に巨大化した肝嚢胞に対しては難治例や再発例があり,治療期間が長期にわたる場合があった.したがって,このような症例に対して低侵襲でかつ根治性のある治療法が求められていたが,ここ数年来普及した腹腔鏡下手術が開腹手術による根治性と超音波による治療法の低侵襲性を合わせ持つ治療法として注目されるに至っている.

病院めぐり

徳島県立三好病院外科

著者: 倉立真志

ページ範囲:P.452 - P.452

 当院は徳島市から西へ約70km,香川,愛媛,高知3県の県境に位置し四国のへそといわれ,祖谷のかずら橋で有名な平家のかくれ里にも近い風光明媚な池田町(水野元巨人軍投手の出身校で,やまびこ打線として甲子園をわかせた池田高校のある町です)にあります.周辺町村約6万人の診療圏をカバーする,ヘリカルCT,MRI,DSAなど最新医療機器を備えた病床数236床11科を標榜する地域中核病院です.
 当科スタッフは,管理職業務,外来担当の藤峰院長,外科臨床業務統括責任者の矢田医長以下倉立医長,倉橋医員,矢和田医師の5名に,自治医科大学出身で県より派遣され,西祖谷診療所兼務の笠松医員を加えた6名です.また当科は徳島大学第1外科の研修施設で,日本外科学会,日本消化器外科学会などの関連施設となっています.

佐賀県立病院好生館外科

著者: 米村智弘

ページ範囲:P.453 - P.453

 当院はベッド数520床,病院全体での年間手術症例数は約3,000例,気管内麻酔例数は約1,300例であります.医師数はスタッフ69名,レジデント25名で佐賀医科大学の関連教育病院として学生の実習も引き受けています.当院には20床の救命救急センターがあり,心臓外科(開心術が約45例/年),整形外科,脳外科なども充実しているので交通事故を含め緊急手術も多く,救急部の専任スタッフ3名が人工呼吸管理,持続血液濾過透析,低体温療法など最先端の技術で重症患者さんをサポートしてくれます.
 外科のスタッフは岡直剛副館長,米村智弘外科部長,林田裕手術部長(小児外科),安倍能成,古川次男,平田裕造(小児外科),楠本哲也,岸川圭嗣の8名(全て医長),野田弘志(自治医大卒,後期研修)研修医4名(九大第2外科,同小児外科,佐賀医大消化器一般外科および胸部外科から1名ずつ)です.成人外科病棟のベッド数は62床ですが,病院全体で常時85人ほどの外科の患者さんがいます(別に,小児外科は小児病棟に10名程度).指導医も充実しており外科学会および消化器外科学会の認定施設であります.年間手術症例数は約1,000例(小児外科手術が400例程度)で成人外科手術の約6割が悪性腫瘍の手術です.

臨床外科交見室

地方の私立総合病院小児外科の小さな挑戦

著者: 末浩司

ページ範囲:P.454 - P.454

 近年の少子高齢化傾向は,都会の小児専門病院ならいざ知らず,地方の私立総合病院の小児科や小児外科にとっては死活問題である.患者数の減少はイコールその科の衰退を意味する.まして当院のような私立病院の場合,患者が減れば内外の風当たりも強くなるのは当然で,そうかといって地域の小児外科としての役目を果たす必要もありスタッフの心は痛むばかりである.しかも年々景気は悪くなる一方,親もこどもの入院のために何日も休めない,まして老人をかかえた家庭ならますますそれも難しいという現状もある.
 この状況をただ見過ごしていれば患者は自然に減っていく.減らないまでも現状を維持できるかどうか不安である.遠方からの患者まで呼び込もうなどと大それたことは考えていないが,せめて診療圏周辺の患者は確保したい.こちらに目をむけてもらうには診療面で特色を出すしかない.考え抜いたあげく,入院期間の短縮に積極的に取り組むのも,ひとつの手段かもしれないと思うようになった.じゃ,思い切って小手術(簡単な手術なんてないが!?)は日帰りにしてしまおう,そのほうが親も病院やこどもの病気に,もっと目を向けてくれるかもしれない.これは決して患者側の状況にあわせているのではなく,自然発生的にでてきた結果であった.

私の工夫—手術・処置・手順・41

臓器圧排ヘラの使用下に,結節縫合とループ針による連続縫合を組み合わせた閉腹法

著者: 下間正隆 ,   伊藤彰芳 ,   鶴田宏史

ページ範囲:P.455 - P.455

 私達は閉腹を安全・確実・迅速に行うために以下の2つの工夫をしている.

メディカルエッセー 『航跡』・20

米国における外科レジデント制度

著者: 木村健

ページ範囲:P.456 - P.458

 アメリカの外科は,今世紀初頭ジョンズホプキンス大学のHolsted教授がその原形を造ったといわれるレジデント制度によって先達から後進へと伝授されて来た.その間に開発発見された新知見を加え,旧聞を捨てていくという柔軟な姿勢によって,現在の外科体系が築き上げられた.この体系は,今日真実と信じられているコンセプトも明日になれば新進に打ち破られ,新しいコンセプトにとって代わられるという流動性をもって未来へと推移しているのである.外科体系の根幹を成すレジデント制度とは何か.本稿ではこの問いに答えてみたい.
 レジデント制度の目的は,5年間の研修の終了時点で社会一般に普遍的とされている手術が一人立ちでできる外科医を育てることにある.ここでいう手術という言葉には術前後の管理能力,疾患に対する基本知識などを含むのは言うまでもない.何故に5年間と決められた期間内に,一人立ちで手術ができるようにならねばならないか.この背景には,米国特有の医療経済事情がある.アメリカ外科学会は5年と定めた研修期間を終えたものしか外科医としての資格を認めないと社会に公表している.すなわち,研修中の医師は外科医と自他ともに称することができないのである.たとえ5年目のチーフレジデントであっても,外科医(surgeon)と称することはできない.単なる外科医志望者にすぎないのである.チーフレジデントと研修を終了したての若い外科医では力量的にはほとんど変わることはない.

外科医のための局所解剖学序説・21

腹部の構造 8

著者: 佐々木克典

ページ範囲:P.459 - P.468

 臓器移植が制度として確立するまでわが国では長い時間が費やされた.その理由はいろいろ挙げられるが,他人の死を前提とする治療に日本人は気質的に合わないためだったのではないかと私は思う.これを解消するためには今後の啓蒙が重要になるであろうが,このような素朴な気持を封じ込めることもできれば避けたい.つまりこの紆余曲折は他人の死を前提としない臓器置換にエネルギーを注ぐことを,われわれ日本人に求めていたのではないかと考える.臓器移植とともに臓器工学に多くの人,エネルギー,時間と経済的支援を行うことが今後日本の歩むべき道であるように思う.腹腔の構造の最後のエピソードに人工腎臓を取り上げる.
 人工臓器に現実味を与えたのはオランダ生まれのKolff WJの情熱であったといっても過言ではない.「人工臓器に未来をみる」の中で進行する日本が生んだ著名な人工臓器研究者,能勢之彦とKolffとの対談は先駆者の情熱のほとばしるすばらしいものである.

遺伝子治療の最前線・10

TNF遺伝子導入による癌治療

著者: 渡辺直樹 ,   佐藤康史 ,   新津洋司郎

ページ範囲:P.469 - P.474

はじめに
 腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)は,もともと実験動物において腫瘍に出血性壊死を誘発する因子として発見された.その細胞傷害性は種々のサイトカインのなかで最も強力であり1),また,腫瘍細胞上のMHC抗原や,接着因子の発現増強,LAK,NK,CTLの誘導や活性の増強,抗腫瘍性マクロファージの誘導,好中球の活性化など,多彩な作用を介して抗腫瘍作用を発揮する2〜5)
 TNFの臨床応用については皮膚腫瘍,肝臓癌,膵臓癌などへの腫瘍内投与において高い奏効率が得られたにもかかわらず,全身投与では血圧低下,発熱などの副作用のため,満足すべき効果(奏効率)を得るに至っていない6,7)

臨床研究

胸部食道癌患者における術後呼吸管理—特に予防的気管切開の有効性について

著者: 戸倉康之 ,   山藤和夫 ,   高橋哲也 ,   会沢健一郎 ,   朝見淳規 ,   竹島薫

ページ範囲:P.475 - P.479

はじめに
 食道癌手術後の肺合併症は周術期管理の進歩にもかかわらず30%前後と報告され,依然として患者の術後病的状態,術後在院死亡の主因として考えられている1,2).当科では,これまで胸部食道癌に対して標準術式として2領域リンパ節郭清と胸骨後胃管再建,術後は経鼻挿管による最大限1週間に及ぶ予防的人工呼吸管理を行ってきた.しかしながら,経鼻挿管による人工呼吸管理は人手の少ない一般病院では術後管理が容易である反面,鎮静催眠剤の使用など非生理的で患者の心理的圧迫感も強く,最近ではできるだけ早期の抜管,不可能な時は術前の種々のリスクファクターを検討した上で,患者の同意を得て術後0病日の予防的気管切開やトラヘルパー®で管理して早期weaning(呼吸器離脱)をめざしている.
 本研究の目的は適応を決めて導入した術当日の予防的気管切開が術後の肺合併症発生や,在院死亡の減少をもたらすか否かをretrospectiveに検討することである.

肝外胆道系走向異常の検出における造影剤使用ヘリカルCTの有用性ついて

著者: 地引政晃 ,   井上征雄 ,   吉田彰 ,   碇秀樹 ,   石橋経久 ,   菅村洋治 ,   國崎忠臣

ページ範囲:P.481 - P.484

はじめに
 胆石症の手術に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術の手術経験が蓄積されるにつれて,術中の予期せぬ合併症も報告されるようになっている.その中でも胆道系の損傷は重要な合併症であり,その防止のためには術前に十分な胆道系の検索を行っておく必要がある.筆者らは経静脈的胆道造影後のhelical CT(以下,DIC-CTと略す),特にその3Dイメージで術前の肝外胆道系の評価を行ったので報告する.

肝右葉切除前の門脈右枝塞栓術の経験

著者: 斎藤信也 ,   津下宏 ,   森雅信 ,   八木孝仁 ,   高倉範尚 ,   田中紀章

ページ範囲:P.485 - P.488

はじめに
 わが国の現状では,慢性肝炎や硬変肝に発生した肝細胞癌や黄疸を伴う胆管癌に対する肝切除が相当多いと思われる.これらの肝切除後には当然のごとく正常肝に比べて高率の肝不全の発生が危惧される.この問題の解決の一助として,切除予定肝の門脈枝を塞栓し,同部の萎縮と残存肝の肥大を待って,肝切除を行う方法の有用性が報告されている1〜5)
 筆者らの施設でも1992年から肝右葉切除術の術前に門脈右枝を塞栓し,右葉の萎縮と左葉の代償性の再生肥大を促し,肝不全の防止と手術適応の拡大を試みている.今回は,主として門脈右枝塞栓の残存肝(肝左葉)の容積に及ぼす効果と,その副作用を中心にその結果を報告する.

手術手技

腹腔側からみた鼠径・大腿ヘルニア手術の理解—特に解剖の簡略化について

著者: 三毛牧夫 ,   木村圭介 ,   清澤美乃

ページ範囲:P.489 - P.493

はじめに
 現在,ほとんどの手術手技が膜構造を基本とした外科解剖で解明されつつある.鼠径・大腿ヘルニアを考える場合も,この「膜からみた解剖」で考えることができる.
 しかし,腹腔鏡下ヘルニア修復術の導入に伴い,通常,ヘルニア手術とは全く異なる視野の理解が必要となった.そこで,この2つの視野を統合するため,腹腔側よりみた鼠径・大腿部の解剖をできるだけ簡素化し,膜構造を用いない「骨組み」構造としてとらえることを考案した.この「骨組み」構造により従来のヘルニア修復術を表すとともに,新しいメッシュを用いたヘルニア修復術についても述べる.

臨床報告・1

肝外胆管拡張を伴い,胆汁アミラーゼが高値を示した総胆管瘤の1例

著者: 大塚隆生 ,   児玉和彦 ,   西方不二彦

ページ範囲:P.495 - P.498

はじめに
 総胆管瘤(choledochocele)はAlonso-Lej Ⅲ型の先天性胆道拡張症として知られる稀な疾患であるが,膵胆管合流異常の合併頻度は非常に低い.今回筆者らは総胆管瘤に右肝管の嚢状拡張および総胆管から総肝管の管状拡張を伴い,胆汁アミラーゼが高値を示した1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

胃癌手術後に発生した難治性肝リンパ漏の1手術治験例

著者: 高畑浩美 ,   及能健一 ,   中野秀貴

ページ範囲:P.499 - P.503

はじめに
 腹部手術時のリンパ管損傷に起因する難治性腹水の報告はほとんどが乳糜腹水であり,肝リンパ漏によるものは稀である.今回筆者らは胃癌手術後に難治性腹水を生じ,保存的療法を試みたが改善せず,腹水の性状から肝リンパ漏と診断し,損傷リンパ管の結紮により治癒せしめた症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

胃原発悪性消化管間質腫瘍(分類不能型)の1例

著者: 松本正俊 ,   藤川貴久 ,   西村理 ,   松末智 ,   兼平和徳 ,   小橋陽一郎

ページ範囲:P.505 - P.508

はじめに
 胃の粘膜下腫瘍は全胃腫瘍の約3.7%を占め,平滑筋腫,悪性リンパ腫など複数の腫瘍がこれに含まれている1).近年これらのうちで消化管壁の間質細胞に由来するものを総括して,gastrointes-tinal stromal tumor(以下,GIST)と呼ぶことが提唱されており2),大きく平滑筋原性腫瘍と神経原性腫瘍の2つに分けられている.今回筆者らは,このGISTの中でも上記2つのいずれにも属さないuncommitted typeの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

主膵管と交通を認め,hemosuccus pancreaticusをきたした脾動脈瘤の1例

著者: 河内保之 ,   畠山勝義 ,   榊原清 ,   阿部僚一 ,   松原要一 ,   塚田一博

ページ範囲:P.509 - P.512

はじめに
 主膵管を経て消化管出血する病態はhemosuc-cus pancreaticusと呼ばれ,比較的稀な病態である1〜3).今回筆者らは膵管と交通を認め,下血をきたした脾動脈瘤の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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