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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科53巻6号

1998年06月発行

雑誌目次

特集 ここまできたDay Surgery

一般消化器外科におけるDay Surgeryの現状と問題点—アンケート集計結果

著者: 長尾二郎 ,   炭山嘉伸

ページ範囲:P.677 - P.680

 一般消化器外科医にとって,なじみの薄いday surgeryについて,アンケート集計の結果を報告した.回答を得た57施設のうち,13施設(22.8%)で1996年の時点でday surgeryが導入されていた.対象疾患としては小児ヘルニア,乳腺疾患,肛門疾患などであったが,手術件数としては施設総手術数の0.1〜6.6%であり,まだ一般化したものではなかった.Day surgery専用の手術室を有する施設は2施設のみで,専用スタッフ,病棟を有する施設はなかった.Day surgeryの利点としては,ベッド回転率の向上以外には病院サイドとしての利点はなかった.患者・家族のストレス軽減,経済的負担の軽減など,患者サイドの利点が多かった.問題点としては体制面の不備をすべての施設が指摘し,専用の手術室・病棟・スタッフの不備,帰宅後の患者のフォローアップの不備などの指摘があった.Day surgeryを導入していない38施設のうち,10施設では将来的にはday surgeryを採用する考えで,2施設では現在進行中の改築計画でday surgeryの専用施設の計画がなされていた.また現時点ではday surgery導入の予定はない28施設でも,必要性がない,患者要請がないなど,day surgeryの導入に消極的な施設は17施設,残りの11施設では消化器外科医としては前向きな考えであり,将来的にはday surgery導入の可能性を含んだ回答であった.

一般病院におけるDay Surgeryの導入

著者: 須田嵩 ,   望月能成 ,   牧野達郎 ,   山崎安信 ,   望月康久 ,   坂本和裕 ,   渡部克也 ,   高橋真治 ,   竹村浩

ページ範囲:P.681 - P.685

 今日,医療を取り巻く社会的,経済的環境が変化し,日帰り手術が脚光を沿びている.当科では成人鼠径ヘルニアの手術に対して,mesh plug法を用いることで手術時間の短縮と早期退院を実現してきた.この経験をふまえて,1997年12月から成人鼠径ヘルニアに対して8例の日帰り手術を行った.導入にあったてはフローチャートを作成し,それに沿って治療を行った.日帰り手術から離脱した症例はなく,術後も重篤な合併症はなかった.日帰り手術に対する満足度は高く,5例が満足,2例がやや満足と答えた.その理由の多くが入院に伴う時間的拘束の短縮と精神的負担の軽減を上げている.医療費面では入院手術では保険請求点数が24,000点に対して日帰り手術では12,000点であり,大幅な医療費削減につながると考えられた.患者本位の医療や医療費の削減につながる日帰り手術は今後,さらなる発展が見込まれると思われた.

医療保険制度の改革とDay Surgery

著者: 池田俊也 ,   楊浩勇 ,   池上直己

ページ範囲:P.687 - P.691

 先進諸国におけるday surgeryの導入状況は医療費適正化政策との関わりがきわめて大きい.わが国の医療保険制度改革案においても急性期入院医療の疾病別定額払いが議論されており,これに伴い,day surgeryの利用が急速に進展する可能性がある.しかしながら,day surgeryの導入が医療費の削減につながるとは必ずしも言い切れない.今後,day surgeryの医療経済や社会に与える影響を十分見極めていく必要がある.

米国におけるDay Surgeryの現状

著者: 北浜昭夫

ページ範囲:P.693 - P.698

 米国の保険会社はHMO(Health Maintenance Organization)の導入により,多くの手術を経済的側面から外来手術でやるように要求する.それを拒否したり,合併症を併発する手術の頻度の高い医師との契約を破棄する.腹腔鏡下胆摘術は安全性,手術成績,経済性,早期社会復帰,患者の満足度の面から外来手術の典型といえる.わが国では虫垂切除やヘルニアの手術では腹腔鏡の使用は外科学会から標準の手術として認められていない.米国では血管の手術もplasty,stent,prosthesisが試みられている.また,温存療法が標準化している乳癌の手術や甲状腺も大部分が外来手術である.医師と病院に対する資格が厳しい米国では,住いの近くでも良い医療施設が選択できるし,術後在宅ケアも含め外来手術が容易に受け入れられている.

上部消化管の諸病変に対するDay Surgery

著者: 夏越祥次 ,   愛甲孝 ,   島田麻里緒 ,   中野静雄 ,   馬場政道 ,   福元俊孝

ページ範囲:P.699 - P.704

 上部消化管のday surgeryの対象となるのは主として内視鏡治療である.術後の吻合部狭窄に対する拡張術,内視鏡切開,レーザー照射はday surgeryの適応である.ステントやプロテーゼ挿入は数日入院で対応可能と考えられる.内視鏡的粘膜切除術は病巣の切除範囲に応じて,1泊入院や数日入院で対応可能になる可能性が十分にある.いずれの場合にも,患者に対して説明と同意が完全に伝達,納得される必要がある.Day surgeryの適応を考慮する場合,少なくとも治療の本質を低下させることがあってはならず,安全かつ的確という医療の原点とcost benefitに基づいて決定されるべきである.

大腸腫瘍性病変に対するDay Surgery

著者: 片倉重弘 ,   横山知子 ,   佐竹儀治

ページ範囲:P.705 - P.709

 大腸腫瘍性病変に対するday surgeryは内視鏡を中心にして行われている.過去においては原則的に入院して行われていたような症例に対しても,外来にて治療が行われるようになってきた.そのことに大きく寄与してきたのが止血用クリップである.止血用クリップでの摘除後の創の縫合,有茎性病変の茎部におけるクリップを使った血流遮断などによって,出血を恐れずに大腸腫瘍に対する内視鏡摘除が行われるようになった.本稿においてはクリッピングを行う際の手技的な留意点を中心に述べる.適切な術前,術後の対応がなされるのであれば,現在入院して内視鏡的摘除がなされている大腸腫瘍の多くは外来にて内視鏡的治療が可能であると筆者は考えている.

Day Surgery適応の拡大

著者: 篠崎伸明

ページ範囲:P.711 - P.717

 当院で日帰り手術センターを開設し,1,500例を経験したころ,日帰り手術の一般的な患者選択,システムが安定し,さらに地域での患者教育が浸透し,腹腔鏡下胆嚢摘出術を日帰り手術のメニューに加えた.すでに,当院での腹腔鏡下胆嚢摘出術の平均在院日数は3.5日を切っており,手術前日入院を当日に切り替えることは日帰り手術センターのシステムに乗るだけで済み,特に問題はなかった.腹腔鏡下胆嚢摘出術における的確な患者選択と一定の手術技術があり,十分なpatient educationがなされていれば約30%の患者は同日退院でき,トータルでは70%が1泊で退院できる.今後,麻酔技術の向上,帰宅後のサポート体制をさらに改善することにより,安全により多くの患者が腹腔鏡下胆嚢摘出術の日帰り手術を受けられると思われる.

乳癌に対するDay Surgeryの適応と限界

著者: 稲治英生 ,   元村和由 ,   野口眞三郎 ,   小山博記

ページ範囲:P.719 - P.721

 近年,乳癌手術の縮小化に伴い,乳房温存手術対象例のごく一部ではあるがいわゆるday surgeryとして外来手術の形で行われることがある.Day surgeryで行う乳癌手術では腋窩郭清が不十分になるなど問題点がないわけではなく,安易に行うべきではないが,患者の心理的負担の軽減や医療経費の節減につながる利点も見逃がせない.現時点では微小乳癌や高齢者で郭清の必要がないときなどの特殊例に対象が限定されている.今後わが国においてもday surgeryを定着させるためには,専用病棟や専任スタッフなどの体制作りが必要となるであろう.

Day Surgeryを目指す内視鏡下甲状腺手術

著者: 石井誠一郎 ,   大上正裕 ,   有澤淑人 ,   大森泰 ,   納賀克彦 ,   北島政樹

ページ範囲:P.723 - P.727

 内視鏡下外科手術は低侵襲のための従来の手術と比較して在院日数が短縮でき,また,美容上の観点からも満足すべき結果が得られている.これらの利点を生かして,筆者らは甲状腺疾患に対する前胸部アプローチ法による内視鏡下甲状腺切除術式を考案し,2例の甲状腺腺腫症例に対し内視鏡下手術を施行した.従来の甲状腺手術に遜色のない切除が可能であり,術後合併症も認めなかった.3時間を越える手術時間を要したが,熟練度,手技の工夫,新しい手術器具の開発がなされることにより改善されると考える.本術式は美容上の利点の追求ばかりでなく,甲状腺外科領域におけるday surgeryへの応用に発展していくことが期待される.

成人鼠径ヘルニアのDay Surgery

著者: 平井淳一

ページ範囲:P.729 - P.732

 米国で主に医療経済的理由により始まったday surgeryは,1990年代には一般外科領域の全手術数の約50%を占めるようになった.一般外科手術症例のなかで最も多い鼠径ヘルニ手術では80%以上がday surgeryで行われている.一方,わが国の医療保険制度下では鼠径ヘルニア修復術のday surgeryによる医療費削減効果はそれほど大きくはない.したがって,筆者らは多様かつ効率的な医療を提供するという観点から,患者に選択肢の1つとしてday surgeryを示し,これを希望する症例に対して行っている.その結果は患者のQOLを損なうことなく治療が行え,満足度は高かった.Day surgeryの実施にあたってはインフォームドコンセントと外科医の意識改革とが不可欠である.

小児鼠径ヘルニアのDay Surgery

著者: 平川均 ,   横山清七 ,   上野滋 ,   田島知郎 ,   幕内博康

ページ範囲:P.733 - P.737

 1986年から小児鼠径ヘルニアに対しday surgeryを導入し,問題なく継続している.今回筆者らのday surgeryシステム,術式の提示と,術後合併症の考察ならびに家族からのアンケート調査でday surgeryの利害について検証した.検討したのは1,155例で,day surgery 920例中224例(24.3%)に合併症を認めたが,発生率は入院手術例と同等であった.年齢別に合併症内容は異なり,学童に創離開,疼痛が多く,感染はない.乳児,幼児に発熱,嘔吐,下痢が発現しやすく,創離開は少ない,などが判明した.小児鼠径ヘルニアは小児外科医,麻酔科医,小児病棟一体のもと安全にday surgeryを行いうる疾患で,かつ家族の要望に応えうる医療形態である.

カラーグラフ 内視鏡下外科手術の最前線・42 肝・胆・膵・脾

膵仮性嚢胞胃開窓術

著者: 森俊幸 ,   杉山政則 ,   跡見裕

ページ範囲:P.669 - P.675

はじめに
 膵仮性嚢胞は急性膵炎や慢性膵炎急性増悪後に発生し,腹痛などの臨床症状を呈することが知られている.膵仮性嚢胞の治療は従来外科医の手に委ねられてきたが1),現在,開腹手術に加え,endo-scopic interventionや腹腔鏡下手術などの様々な選択肢がある.本稿では筆者らが施行している胃内手術による膵仮性嚢胞胃開窓術の適応,手技のポイント,手術成績などについて述べたい.

私の工夫—手術・処置・手順・43

鏡視下手術におけるblunt trocarの挿入時の長鼻鏡の応用

著者: 青柳光生

ページ範囲:P.739 - P.739

 われわれは後腹膜腔に対する鏡視下手術に最初blunt trocarを挿入するが,trocarの挿入の際に長鼻鏡を用いることで,必要最小限の皮膚切開のもとに安全かつ良好な視野のもと容易に後腹膜腔に到達しているので紹介する.
 全身麻酔下で側臥位をとり,腸骨稜の直上で体躯を折り曲げ側腹部を伸展させる.皮膚割線に従いtrocar挿入に必要なだけの皮膚切開をする.一般的には筋鉤にて視野を作り切開剥離をすすめるが,これでは助手が術野を覗けば術者は見えず,術者が覗けば助手には見えない.またtrocar 1本分の深部での筋鉤の操作は難しく,その中での剥離や切開はなお難しい.

病院めぐり

小松島赤十字病院外科

著者: 阪田章聖

ページ範囲:P.740 - P.740

 小松島市は徳島県の東南に位置し,徳島市に隣接した港町で,ここに徳島の南部医療圏における基幹総合病院として昭和24年本院が開設されました.現在20診療科,病床数564床をもち,医師数約80名を擁し,地域に密着した医療を目ざしております.外科は昭和25年より診療を開始し,8名のスタッフで構成され,現在の主な診療は消化器外科,呼吸器外科,内分泌外科,小児外科および透析療法を中心とする腎不全外科をメーンに行っており,日本外科学会,消化器外科学会,胸部外科学会,気管支学会,透析医学会の各認定施設に認定され,透析療法従事職員研修実習施設にも指定されています.消化器外科は渡辺恒明,榊芳和両先生の指導のもとに全員が担当しています.渡辺部長は昭和43年に赴任され当院の最古参であり,わが医局の親分的存在でもあります.年間手術件数のうち胃癌60例,大腸癌50例とやはり悪性腫瘍の割合が高く,ヘルニア,痔疾患などを含む全消化器外科手術症例は平成10年度は416例で,腹腔鏡下手術も年々増加しています.呼吸器外科は木村秀先生が担当し,肺癌を中心に自然気胸,縦隔腫瘍などを含め年間40例を越え,VATSにも積極的に取り組んでおり,年ごとに著しく増加しています.内分泌外科は須見高尚先生を中心に,乳癌,甲状腺,副甲状腺疾患を扱っており,徳島県における乳癌,甲状腺疾患の検診業務にも積極的に参加しています.

大牟田市立総合病院外科

著者: 小野崇典

ページ範囲:P.741 - P.741

 三池炭坑で有名な大牟田市は福岡県の最南端に位置し,南は熊本県荒尾市に接し,西は有明海に面し,晴れた日には遠く島原の普賢岳が望めます.しかし,平成9年3月の炭坑閉山でかつては22万人近くいた人口は14万人となり,斜陽の兆しを見せ始めています.
 当院は昭和25年大牟田市立病院として開設され,昭和60年には388床の臨床研修指定病院となり,平成7年5月には7階建てのベッド数400床の総合病院として移転新築されました.医師数52名,診療科は18科を標榜しており,久留米大学関連病院として福岡県南部地方の中核をなす総合病院です.外科は80床で,副院長を始め現在7名のスタッフで一般外科,消化器外科を中心として地域住民のニーズに応えており,平成7年からは血管外科にも対処できるように1名増員となりました.手術は常勤の麻酔医が4名いるため月曜から金曜まで午前,午後と組むことができます.外来日は月曜から土曜まで,内視鏡,超音波,造影検査は月曜から金曜までの午前中に行っています.また,水曜日の朝に抄読会,午後はX線,内視鏡読影会のあとに内科,病理医師とともに症例検討会,病理検討会を行っています.木曜日には外科症例検討会を行い翌週の手術症例の術前検討を行っています.また毎月1回近隣の病院との症例検討会を行い,互いに刺激しあい切磋琢磨しています.

臨床外科交見室

カルテ開示と医療情報の共有

著者: 原春久

ページ範囲:P.742 - P.743

 私たちの病院の所属する日生協医療部会は,1991年医療生協の「患者の権利章典」を発表した.その内容にはインフォームド・コンセントに関連する「知る権利」「自己決定権」が含まれている.私たちの外科ではこの実践の一環として癌告知を積極的に進め,カルテ開示を実施した.癌告知の原則は患者の知る権利を重視して行っており,日常の医療の多くの場面で患者が告知を望むかどうかを確認する努力をしている.また告知後の患者の動揺を支えるために家族の同意は必要と考えている.外科病棟で癌告知が約90%行われるようになった1995年10月よりカルテ開示を実施した.
 方法を示す.病棟では毎日回診の前にカルテを患者のベッドサイドに配布し,回診が終了する約2時間後に回収する.外来では看護婦の予診から医師の診察までの間30分前後患者にカルテを渡す.カルテが患者の手元にある間に閲覧するのは自由である.この方法では業務上の支障がなく,患者がカルテ搬送をするなどの業務上の利点もある.

メディカルエッセー 『航跡』・22

チーフレジデント物語—カルチャーショック(1)

著者: 木村健

ページ範囲:P.744 - P.745

 1972年7月,ボストンのローガン空港に降り立ったのは正午過ぎであった.スーツケースひとつをもって,期待と不安に心躍らせタクシーに乗り,ダウンタウンのボストンフローティング病院にむかう.人工島の空港からボストン湾の底を貫く海底トンネル(キャラハンであったか,ソマーズであったか記憶にない)を出たときの第一印象は,「なんと汚い街だろう」であった.
 古ぼけた4階建てのフローティング病院は,タフツ大学の教育施設であるニューイングランドメディカルセンターの一角をなす小児病院である.もともと感染症にかかったこどもを隔離するため,ボストン港に碇泊する船舶病院として発足したところからフローティング病院という名前がつけられた.80年近く前,碇泊中の船舶病院は船火事を起こして焼け沈み,以来陸に上って今の場所に定着した.1970年当時,ベッド数100床の小児病院は,1マイルと離れていないハーバード大学のボストン小児病院と対抗しながらも幼い患者さまの数は結構多く,繁盛していた.マサチューセッツ州で開業する小児科医の大半は,小児科のチーフであるDr.Sydney Gellisの門下生であったので,わたしの専門分野とする小児外科の患者さまの紹介例にはこと欠かなかった.

外科医のための局所解剖学序説・23

骨盤部の構造 2

著者: 佐々木克典

ページ範囲:P.747 - P.757

 外科を志した方ならHalstedという名前を一度は耳にしたことがあるはずである.Halsted WSは19世紀後半から20世紀初頭にかけてBaltimoreで活躍したオールマイティ,快刀乱麻を断つにふさわしい外科医で,その面目躍如たる様を端的に示すものとして掲げられるのが,彼が「New York Medical Journal」に寄せた2ページに満たない論文である.そこには3症例報告されており,最初の症例が食道切開による食道異物の摘出,2例目は膀胱結石の摘出,最後が頭蓋腔からの弾丸の摘除である.いずれも短い文で事も無げに書いているが,それらは耳鼻科,泌尿器科,脳外科の異なった領域を対象にしており,彼が名前を残したのがヘルニア根治術,乳房切除術,皮膚の形成・移植であることを考えると,実に守備範囲が広い.映像で活躍するような外科医の中の外科医を想像してしまうが,意外なことに実にシャイだったといわれている.コカインで局所麻酔の実験をやっているうちに,麻薬中毒になってしまい,立ち直るのにつらい経験もしている.完全には元に戻らなかったというが,しかし外科医として活躍するのはその後である.
 ここでは上述の論文で骨盤に関係した膀胱について引用しておこう.患者は35歳の男性で,膀胱麻痺のため長年カテーテルを用いて排尿していた.ある日,カテーテルが途中で壊れ,膀胱の中に2〜3インチの部分が残ってしまった.

遺伝子治療の最前線・12

IL-2遺伝子を用いた癌免疫遺伝子治療

著者: 山上裕機 ,   谷村弘

ページ範囲:P.759 - P.763

はじめに
 癌に対する新しい治療としてサイトカイン遺伝子を用いた免疫遺伝子治療が開発され,サイトカイン遺伝子を導入された腫瘍細胞をワクチンとして用いる免疫療法が基礎的に検討されてきた1,2).すなわち,インターロイキン2(IL-2)遺伝子を導入された腫瘍細胞でvaccinationすることで,担癌マウスにおいて腫瘍細胞のtumor-igenicityの低下を認め,腫瘍細胞からIL-2が産生されることで,CD 4陽性細胞のhelper func-tionをバイパスした抗腫瘍効果が期待できる3)
 さらにマウスの進行膀胱癌モデルにおいても,IL-2遺伝子を導入した腫瘍細胞で治療することで生存率の向上が期待できる4).その他,サイトカイン遺伝子を導入した免疫遺伝子治療に関する数多くの論文が報告されているが,ほとんどがマウスあるいはヒトの樹立腫瘍細胞株を用いた実験にすぎず,いずれもin vitroでの細胞回転が早く,不死化した細胞を用いたものである.最も頻用されているレトロウイルスベクターによる遺伝子の導入効率は細胞回転,あるいは細胞周期に依存するので5),これら樹立腫瘍細胞株にサイトカイン遺伝子を導入するのはきわめて容易である.

癌の化学療法レビュー・2

使用される薬剤

著者: 市川度 ,   仁瓶善郎 ,   杉原健一

ページ範囲:P.765 - P.769

 抗癌化学療法(以下,化学療法)に使用される薬剤には多くの種類があるが,それらを分類して整理しておくことは有用である.抗癌剤の作用機序を知ることにより,細胞動態との関係から薬剤を合理的に選択することが可能となり,また多剤併用療法に用いる薬剤の選択の根拠ともなる.さらに薬剤間における交叉耐性を考える場合にも有用である.
 抗癌剤の分類としては一般に,アルキル化剤,代謝拮抗剤,天然抽出物(抗生物質,植物アルカロイド),ホルモン剤,およびBRM(biological response modifier)に分類される.アルキル化剤と代謝拮抗剤は殺細胞作用の機能を表現し,抗生物質,植物アルカロイドは薬剤の起源に由来している.これらの分類に従って抗癌剤の細胞周期上の作用機序,殺細胞作用様式,薬剤によって影響を受ける細胞周期の分類を表1に示した.

外科医に必要な耳鼻咽喉科common diseaseの知識・1【新連載】

難聴,耳鳴

著者: 小林一女

ページ範囲:P.770 - P.771

難聴
 1.疾患の概念
 難聴は外耳から中耳までの障害で生じる伝音難聴,内耳から中枢の障害で生じる感音難聴,両方の障害を持つ混合難聴に分類される.それぞれ急性に発症するものと徐々に進行する疾患がある.急性に発症する伝音難聴には急性中耳炎,外傷性鼓膜穿孔,外耳道異物など,感音難聴には突発性難聴,外リンパ瘻,メニエール病,ムンプス難聴,音響外傷,気圧外傷などがある.徐々に進行する伝音難聴には慢性中耳炎,耳硬化症などがあり,感音難聴では騒音性難聴,加齢によるものなどがある.急性に発症するものでは特に耳鳴を伴うことが多い.突発性難聴,外リンパ瘻,メニエール病ではめまいを伴うことが多い.その他側頭骨骨折では種々の程度の難聴を認める.自己免疫疾患,膠原病(RA,SLE,高安動脈炎など)に伴う感音難聴もある.今回は急性に発症する難聴を中心に解説する.

外科医に必要な産婦人科common diseaseの知識・1【新連載】

月経異常

著者: 横溝玲

ページ範囲:P.772 - P.773

はじめに
 ①産婦人科の医師が常勤しない病・医院で外科医が診なければならない,②当直外科医が緊急的に対応しなければならない場合を想定して月経異常について述べる.①は月経持続日数の異常や,月経血量の異常を入院患者が訴える場合が,②は過多月経か高度月経困難症を訴える患者が救急外来を受診するような場合が推測される.いずれにせよ①②どちらの場合でも,患者の訴える「月経」が本当に月経であるのか診断しなければならない.この出血・疼痛の中に妊娠や器質的疾患(子宮筋腫,子宮内膜症,子宮内膜ポリープ,子宮悪性腫瘍など)が隠されていることがあるからである.

Current Topics

保険医療制度改革と外科診療について

著者: 鈴木隆夫 ,   松野祐治

ページ範囲:P.775 - P.786

はじめに
 わが国の社会経済のあらゆる分野において構造改革が求められており,社会保障制度もその一環として抜本的改革が求められている.その中でわが国は高齢化に伴い医療費も増大し,つい昨今医療費が27兆円という膨大な額にのぼった.中でも政府官掌健保は1993年度以降毎年赤字が発生し,1997年度には実に7,800億円の赤字が見込まれている.このままでは医療費の支払いが不能になり,医療保険制度そのものが崩壊するという局面に直面してしまった.このような危機的状況を回避するために,抜本的な医療改革が求められている.医療における情報公開,医療資源利用に無駄がないか,効率的かどうかの観点からも,国民の立場に立ちながら,医療提供者と医療保険制度の両面から抜本的改革が着手された.

臨床研究

手術用手袋の術中損傷についての検討

著者: 山村義孝 ,   小寺泰弘 ,   紀藤毅 ,   雨森貞子

ページ範囲:P.787 - P.792

はじめに
 術中の感染防止を目的とする術前の手指消毒(以下,手洗い)についての報告は少なくないが1〜3),手術用手袋(以下,手袋)の術中損傷についての報告はほとんど見られない.
 しかし,手袋の術中損傷の問題は医師や看護婦から患者への感染防止だけではなく,患者からこれら医療従事者への感染防止の面からも重要な問題であると思われる.

臨床報告・1

遺伝性球状赤血球症に対して腹腔鏡下胆摘,総胆管結石切石術,脾摘を施行した1例

著者: 川辺昭浩 ,   吉田雅行 ,   小林利彦 ,   礒垣淳 ,   伴覚 ,   数井暉久 ,   木村泰三

ページ範囲:P.793 - P.796

はじめに
 遺伝性球状赤血球症(hereditary sphero-cytosis:以下,HS)は溶血性貧血,黄疸,脾腫を主症状とする先天性疾患であり,治療法としては脾臓摘出術が有効とされている.また,本疾患は高頻度に胆石を合併することが知られており,近年,腹腔鏡下胆嚢摘出術(laparoscopic cholecys-tectomy:以下,LC)が施行された症例の報告も散見する1〜3)
 今回筆者らはHSに胆石・総胆管結石を合併した症例に対して,腹腔鏡下に胆嚢摘出術と総胆管結石切石術および脾臓摘出術を一期的に行い,良好な成績を得たので報告する.

5-FU持続静注とCDDP少量連日投与の併用が著効し,腫瘍縮小後切除しえた胃癌副腎転移の1例

著者: 山口竜三 ,   田近徹也 ,   中西賢一 ,   山口洋介 ,   川西順 ,   政井治

ページ範囲:P.797 - P.801

はじめに
 胃癌の副腎転移が単独に存在し,切除の対象になることは稀で,検索しえた限りでは5例の切除例があるのみである1〜5).筆者らは巨大な副腎転移巣に対し,5-FUの持続静注とCDDPの少量連日投与の併用療法(以下,low dose FP療法)を施行したところ,著効を示し,腫瘍縮小後切除しえた症例を経験した.

出血性“riding ulcer”を伴った滑脱型食道裂孔ヘルニアの1例

著者: 小林利彦 ,   吉田雅行 ,   川辺昭浩 ,   和田英俊 ,   礒垣淳 ,   木村泰三

ページ範囲:P.803 - P.806

はじめに
 近年の高齢化社会と食生活の欧米化に伴う肥満傾向などから,本邦でも食道裂孔ヘルニアは増加しているが1),いまだ軽症例が多く,手術適応となるものは比較的少ない.今回,食道裂孔ヘルニアの嵌頓部に一致した潰瘍(riding ulcer2))からの大量出血に対して,手術を要した1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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