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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科53巻7号

1998年07月発行

雑誌目次

特集 分子生物学的診断は病理診断に迫れるか

遺伝子診断と病理診断の接点

著者: 安井弥 ,   田原榮一

ページ範囲:P.823 - P.827

 遺伝子診断とは,病態の発生あるいは進展に関わる遺伝子異常を臨床検体について解析し,診断および治療の指針とするものである.遺伝子解析を行うことにより,癌の存在診断,良悪の鑑別診断,癌の悪性度診断,病型診断,遺伝性腫瘍のキャリアーの同定・発症前診断などを行うことができる.組織検体に対しては,病理診断と遺伝子診断を対比して総合的に行う分子病理診断が必要であり,われわれは実践導人し大きな成果をあげている.遺伝子診断と病理診断は,今後の診断の両輪であり,対峙するものではない.

乳癌の分子生物学的診断と病理診断—現状と展望

著者: 津田均

ページ範囲:P.829 - P.833

 癌の生物学的特徴,患者予後の予測を従来よりもさらに正確に知るための手段として遺伝子・染色体レベルの検索(分子生物学的診断)に期待がかけられている.乳癌では既に幾つかの遺伝子・染色体変化が既存の臨床病期やリンパ節転移の程度とは独立した予後因子であることが示された.同時に各遺伝子・染色体変化は乳癌の異型度・組織型との間に強い相関関係を有しており,分子生物学的診断と病理診断との優劣が問題となり得る.前者は後者に比し客観性,再現性,特異的治療の可能性といった点で有利といわれるが,体系的分類は未だ不十分である.本稿では乳癌で見出された遺伝子・染色体変化の持つ臨床・病理学的意義について研究の現状を述べ,将来の分子生物学的診断と病理診断と関係についていくつかのシナリオを描いてみた.

肺癌治療における分子生物学的診断の意義—自験例(TM 4 SFの研究)を交えて

著者: 足立匡司 ,   三宅正幸

ページ範囲:P.835 - P.841

 肺癌の発生率は増加の一途をたどり,日本人男性の癌死亡の1位となっている.今回,肺癌の分子生物学的診断の意義として,前癌病変からの癌発生の予測と予後因子の推定について述べる.扁平上皮癌の進展の過程における癌抑制遺伝子p53の変異を調べ,癌発生予測因子となるかどうかが検討されている.また,予後因子に関しては,染色体3番短腕の欠失やp53,K-ras,RB,erbB-2,bcl-2など数多くの報告がなされている.予後の推定に関してはわれわれが以前より研究を進めているtransmembrane 4 superfamily(TM 4 SF)のうち,癌転移抑制遺伝子であるMRP-1/CD 9とKAI 1/CD 82を用いた新たなる病期分類は有意義な予後測因子となることが判明した.

食道癌における分子生物学的診断の意義—病理診断を越えられるか

著者: 小澤壯治 ,   安藤暢敏 ,   北川雄光 ,   上田政和 ,   北島政樹

ページ範囲:P.843 - P.849

 HE染色標本を詳細に観察する手法が中心の病理診断では,組織や細胞の異型を形態的に評価して癌の診断を行うが,質的診断,微量検体での診断には限界がある.その限界を打ち破るために分子生物学的手法が強力な道具となる.質的診断とはリンパ節転移や臓器転移,化学放射線療法の感受性を予測したり癌と前癌病変を鑑別することで,微量検体での診断とは末梢血液中の癌細胞を検出することである.食道癌において「病理診断を越えられるか」の問いに対する解答は,「質的診断,微量検体での診断」については「yes」と考えられる.

胃癌の遺伝子診断が目指すもの

著者: 田村元 ,   西塚哲 ,   前沢千早 ,   坂田謙 ,   遠藤泰志 ,   本山悌一

ページ範囲:P.851 - P.856

 遺伝子診断と病理診断は相補的な関係にあり,病理組織形態からだけでは鑑別が困難な良・悪性境界領域病変の診断や高悪性度腫瘍の診断に客観的指標を与えることが遺伝子診断の担っている役割である.胃の良・悪性境界領域病変の鑑別においては,p53遺伝子変異,染色体4p,7q,14q,17p,21qの欠失が悪性の指標として有用であり,一方,APC遺伝子変異の出現は良性(腺腫)あるいは超高分化型腺癌(低異型度癌)に特異性が高い.胃癌の進行度の目安としては染色体2q,5q,6p,11q,18qの欠失が蓄積することによるFAL(fractional allelic loss)の上昇があり,早期胃癌再発に関わる遺伝子異常として18q(DCC領域)の欠失,E-cadherin遺伝子変異が挙げられる.さらにc-erbB−2遺伝子増幅(あるいは過剰発現)の予後因子としての有用性が示されている.精度の高い遺伝子診断には,より多くの特異的遺伝子マーカーの同定が必要である.

肝細胞癌周術期におけるAFP-mRNAの臨床的意義

著者: 奥田直人 ,   竹田伸 ,   中尾昭公

ページ範囲:P.857 - P.861

 肝細胞癌症例では,血中AFP-mRNAの検出はAFP産生能を有する細胞の血中循環を意味する.肝細胞癌33例に対し,nested RT-PCR法を用いて肝癌周術期血中,AFP-mRNAの変化を測定し,術後再発との関係を検討した.肝細胞癌術前s-AFP値と術前血中AFP-mRNA検出の有無と相関はなく,肝細胞癌手術例33例中18例に術前血中AFP-mRNAが検出された.周術期を通して血中AFP-mRNA陰性の肝細胞癌手術例は33例中11例であり,その11症例中術後1年以内に再発は2例のみであった.周術期血中AFP-mRNAの変化の測定は肝癌術後の再発の予測および治療効果判定に有用であることが示唆された.

分子生物学的手法の膵癌への応用

著者: 玉川英史 ,   植松繁人 ,   小林健二 ,   菅野康吉 ,   松井淳一 ,   尾形佳郎 ,   相浦浩一 ,   上田政和 ,   高橋伸 ,   北島政樹

ページ範囲:P.863 - P.867

 膵癌では高率に遺伝子異常が検出され,K-ras癌遺伝子コドン12の点突然変異を70%〜90%に認める.われわれは,分子生物学的手法を用いてK-ras癌遺伝子を検出することで,膵癌の存在診断の可能性および,進行度判定・肝転移予測から膵癌切除例の予後を正確に予測する試みを行っている.膵液を用いた膵癌の存在診断では,膵浸潤性腺管癌の70%,膵管内乳頭腫瘍の80%に,慢性膵炎の約20%,膵嚢胞の約30%に遺伝子異常を認めた.リンパ節/神経叢を用いた遺伝子学的進行度判定では,60%の症例で病理組織学的検討よりも病期が進行し,遺伝子学的進行度は臨床経過とより相関していた.肝転移予測においては,門脈血や肝組織から遺伝子異常を認めた症例は,術後1年以内に再発死亡し,その有用性が示唆された.

大腸癌における分子生物学的診断の臨床応用の可能性と問題点

著者: 中森正二 ,   門田守人

ページ範囲:P.869 - P.874

 大腸癌の分子生物学的特性を利用して微小転移診断や流血中の癌細胞などの存在診断が試みられており,その実例を紹介した.しかしながら,分子生物学的診断自体が必ずしも癌細胞の存在を示すものでないこともあり,診断法の特徴や意義をよく理解して,診断結果を判断していく必要がある.また,分子生物学的診断自体,病理診断に替わるものでなく,単純に比較する事は不可能と考えられる.今後は,両者は互いに相補的な役割を持つものと考え,分子生物学的診断の臨床応用を考えて行くべきであろう.

理解のためのキーワード

著者: 北川雄光

ページ範囲:P.876 - P.878

癌遺伝子
 発癌レトロウイルスの遺伝子解析から癌化に関与する遺伝子領域として同定・単離され1),DNAトランスフェクション法を用いて正常細胞へ導入することにより癌形質を獲得することから(トランスフォーミング能),さまざまな癌遺伝子ファミリーが発見された.また,これらと相同性のある遺伝子が正常細胞の情報伝達経路にかかわる蛋白をコードしていることが判明した.遺伝子増幅,点突然変異,染色体転座によって細胞増殖促進的に作用し,ヒト癌の生物学的特性と癌遺伝子の変異との関連が解析されている.

カラーグラフ 内視鏡下外科手術の最前線・43 肝・胆・膵・脾

自動縫合器を用いた腹腔鏡下脾臓摘出術

著者: 大上正裕 ,   若林剛 ,   北島政樹

ページ範囲:P.813 - P.821

はじめに
 腹腔鏡下胆嚢摘出術の登場以来,光学機器や周辺医療機器の急速な発展と技術の向上により,腹腔鏡下手術の適応は拡大し続けている.最近では超音波切離装置,自動縫合器,アルゴン・ビームなどの止血機器の進歩により,肝臓,脾臓などの実質臓器の手術にも適応は拡がってきている1〜8).教室では1992年12月より積極的に腹腔鏡下脾臓摘出術に取り組んでおり,より安全かつ容易な手術法の確立のために,種々の手技上の改良を重ねてきた9).特に1995年10月より脾門部の血管処理に自動縫合器を導入してからは手技が飛躍的に安全,容易になり,手術時間も短縮した.本稿では現在教室で行っている自動縫合器を用いた腹腔鏡下脾臓摘出術の手術手技を中心に紹介する.

病院めぐり

高松市民病院外科

著者: 青木克哲

ページ範囲:P.880 - P.880

 四国は香川県の県都高松市にある紫雲山のふもとに,高松市民病院は位置しています.背後には讃岐松平藩主の御庭であった特別名勝栗林公園が控えており,病室からは備讃瀬戸や源平合戦の那須の与一で有名な屋島が一望できます.壺井栄の小説「二十四の瞳」で有名な小豆島や,桃太郎の鬼退治で知られている鬼ヶ島(女木島)も眼前に見おろせます.当地域は気候は温暖で雨風も少なく過ごしやすいところですが,何年かに一度は渇水の危機にみまわれます.
 当院の前身は遠く明治時代に遡りますが,昭和28年に現在位置に市立旭が丘病院が開院し,昭和41年に高松市民病院と改称されました.昭和47年に11階建ての本館が建設され,同51年に総合病院の承認を受け現在に至っています.病床数は一般398床,その他精神科,伝染病,結核の総計538床で,18診療科,医師47名で診療にあたっています.医師はすべて徳島大学から派遣されています.また当院は日本外科学会,日本消化器外科学会の認定医修練施設に指定されています.

済生会西条病院外科

著者: 劒持雅一

ページ範囲:P.881 - P.881

 済生会西条病院は四国山脈最高峰の石鎚山に抱かれた,名水百選にも選ばれている風光明媚な愛媛県東予地方の西条市に位置しています.
 当院は昭和33年に赤松病院の寄贈を受けて社会福祉法人済生会西条病院となり,今日まで西条市の公的中核病院として地域医療の向上と福祉の増進に努力してきました.昭和62年からは地域に開かれた開放型病院として市内の他の医療機関との連携をはかり,平成5年度からは厚生省の補助を受けて,西条市医師会との間で病院・診療所連携推進モデル事業を行って,地域医療の高度化,システム化を推し進めています.

メディカルエッセー 『航跡』・23

チーフレジデント物語—ボストンの臨床教育

著者: 木村健

ページ範囲:P.882 - P.883

 小児外科チーフレジデントとしての第一夜は,いきなり臍帯ヘルニアの手術とその翌朝のco-edシャワーという衝撃的な二つの出来事で明けた.このあと何が来てももう恐るに足らぬという気持ちで研修医生活が始められたのは,かえってよかった.
 無我夢中の一週間が終わった頃,Dr.フィッシャーのオフィスに呼ばれた.

私の工夫—手術・処置・手順・44

直腸切断術における骨盤腔腹膜欠損の盲腸充填術

著者: 渡部脩 ,   岩瀬博之

ページ範囲:P.884 - P.885

 直腸癌,骨盤内腫瘍に対する直腸切断術はごく日常的に行われている.このとき,腫瘍が広範に浸潤し他臓器合併切除を余儀なくされたり,側方郭清を十分行うために骨盤腔の腹膜が大きく欠損することがある.欠損が大きく腹膜の閉鎖が不可能なときにはそのままopenにしておく方法もあるが1),術後の感染,癒着,再発などを考慮すればpelvic floorの形成が推奨される.このために,小腸間膜後葉の縫い付け1),膀胱の利用2),メッシュの利用3),腹膜ハンモックの形成4)などが行われてきたが,われわれは従来とは違う方法として,肝彎曲部から回盲部までを授動し,盲腸を小骨盤腔に充填させている.ほとんどの場合,盲腸は何もしなくても癒着するが,縫着しないと稀に滑脱してしまうことがある.そこで必ず盲腸を腹膜端に3〜4針縫着している(図1,2).また虫垂炎のときにその処置に難渋することも予想されるので虫垂切除術を加味している.充填した盲腸の下には大網などは挿入せず,旧肛門部よりなるべくdead spaceを造らないように縫合し,ドレーンを入れておく.また腹腔にも念のためドレーンを縫着部近傍に挿入している.術後の注腸写真を示す(図3).

外科医に必要な耳鼻咽喉科common diseaseの知識・2

めまい・平衡障害

著者: 渡辺尚彦

ページ範囲:P.887 - P.889

疾患の概念
 めまい患者は女性に多く,女性では50〜60歳,男性では40〜50歳にピークを持つ.患者の訴えは回転感の時もあり,ふらつきや眼前暗黒感や平衡失調の場合もある.一般的に回転感は内耳障害に多く認め,ふらつきは椎骨脳底動脈の循環や自律神経関与のことが多いといわれているが,実際耳鼻咽喉科の専門外来で精査すると事実は少々異なる.ふらつきの訴えにも内耳障害が存在し,回転感の訴えでも中枢の血管病変が含まれる.めまいを覚えると患者はまず血圧や貧血を考え,かかりつけの内科を訪れることが多い.血圧はやや高いが神経症状がなく,CTで脳に異常がなければメニエール病だから耳鼻咽喉科を受診しなさいと勧められる.しかし,平衡機能検査の結果メニエール病と診断できるのは耳鼻咽喉科を訪れた患者の約15%にすぎない.メニエール病の診断基準を列記してみると,(1)発作性の回転性めまいを反復する.(2)めまい発作に伴って変動する蝸牛症状(耳鳴,難聴).(3)第8脳神経以外の神経症状がない.(4)原因を明らかにすることができない,である.
 急激に発症するめまいの大半は側頭部や後頭部の外傷を除けば血管障害であり,責任病巣は内耳(末梢)と脳幹・小脳(中枢)に分けられる.末梢障害ではメニエール病,遅発性内リンパ水腫,突発性難聴,外リンパ漏などがあげられるが,詳細は省く.中枢障害では脳幹・小脳の出血,梗塞や椎骨動脈のTIAなどが原因として考えられる.

外科医に必要な産婦人科common diseaseの知識・2

更年期障害

著者: 中村聡一

ページ範囲:P.890 - P.891

更年期障害の病態
 更年期とは閉経前後の数年間をいう.閉経に至ると卵巣からのエストラジオール(E2),プロゲステロン(P)分泌は減少し,逆に下垂体系からの卵胞刺激ホルモン(FSH),黄体形成ホルモン(LH)の血中濃度は上昇する.血中E2値20pg/ml未満,血中FSH値30mIU/ml以上であれば閉経と考えてよい.
 これら内分泌環境の変化やこの時期の社会的な環境,精神的な変化などの要因が重なりあい,更年期障害の症状が現れる.

遺伝子治療の最前線・13

GM-CSF遺伝子導入による癌治療

著者: 松原久裕 ,   菅谷睦 ,   軍司祥雄 ,   小出義雄 ,   浅野武秀 ,   落合武徳 ,   磯野可一 ,   田川雅敏 ,   崎山樹

ページ範囲:P.893 - P.896

はじめに
 サイトカイン遺伝子を導入し,癌を治療するという戦略は種々の癌,種々のサイトカイン遺伝子を用いて試みが行われている.欧米ではすでに実際にヒトに対して臨床試験も行われている.ここでは当科において基礎的検討を行ってきた食道癌に対するGM-CSF遺伝子を用いた遺伝子治療を中心に,その有効性および臨床応用への可能性について述べることにする.

癌の化学療法レビュー・3

多剤併用療法,Biochemical modulation

著者: 市川度 ,   仁瓶善郎 ,   杉原健一

ページ範囲:P.897 - P.900

 近年,化学療法による癌治療は,単剤の抗癌剤による治療よりも,むしろ複数の抗癌剤を組み合わせた多剤併用療法が主流となってきた.さらに,新しい多剤併用療法としてbiochemical modula-tion(生化学的効果修飾)が注目されている.

外科医のための局所解剖学序説・24

骨盤部の構造 3

著者: 佐々木克典

ページ範囲:P.901 - P.910

 当直を始めたころ,前立腺肥大の患者にカテーテルを挿入するため四苦八苦した経験を持たれた方は少なくないはずである.前立腺を恥骨上から摘出したのはBillroth Tで1885年のことであり,その後Bellfield W,McGill F,Fuller Eなどが世紀末盛んに行ったのであるが,この術式を普遍的たらしめたのは英国のFreyer Pであった.テクニックに長けた人であることが論文の端々で窺うことができる.その内容をかいつまんで書き留めてみよう.
 患者は75歳の男性で,15年前から前立腺肥大に悩まされ,受診した時はカテーテルを挿入しなければ排尿できなかった.繰り返す血尿,昼夜区別なく30分ごとに行わなければならないカテーテル挿入と,挿入時の焼けるような痛みで顔貌は苦痛に満ちていた.

Current Topics

肝移植の現状と将来展望

著者: 橋倉泰彦 ,   川崎誠治

ページ範囲:P.911 - P.917

はじめに
 1989年に行われた島根医科大学での生体肝移植1)は,永らく閉ざされていた国内での肝移植を再開したという点で重要な意味を持った.1990年には京都大学2)と信州大学3)が生体肝移植プログラムを開始し,これまでに国内における小児肝不全患者に対する治療体系に少なからず変化がもたらされてきた.さらに,生体肝移植は成人例に対しても適応を拡げ4,5),移植肝容積という点での限界はあるものの,成人重症肝疾患の治療体系にも変化が見られつつある.1997年10月に施行された「臓器の移植に関する法律」(以下,臓器移植法)はこれまで生体肝移植を中心とせざるをえなかった国内での臓器移植に新たな道を開くものとして,その内容について今後のさらなる議論が待たれるとはいえ,評価される.ここでは臓器移植の先進国である欧米での肝移植に関する最近の動向をレビューし,わが国における肝移植の現状と今後の展望について述べる.

臨床報告・1

術前診断が可能であった特発性大網捻転症の1例

著者: 安永正浩 ,   鶴田克明

ページ範囲:P.919 - P.921

はじめに
 特発性大網捻転症は比較的稀な疾患であり,急性腹症の一つである.しかし,術前診断がなされた症例は報告がなく,急性虫垂炎などの診断で開腹されている1-6)
 今回われわれは術前に診断可能であった特発性大網捻転症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

穿孔性腹膜炎,肝膿瘍破裂を伴った劇症型アメーバ性大腸炎の1例

著者: 佐川純司 ,   山口正人 ,   片山正文 ,   一迫玲 ,   小野寺健 ,   熊本裕行

ページ範囲:P.923 - P.927

はじめに
 アメーバ性大腸炎は,赤痢アメーバの大腸粘膜への感染により起こる疾患で,様々な病態を呈するが,中でも劇症型は重篤な経過をとり,死亡率が高い.われわれは穿孔性腹膜炎,肝膿瘍破裂を伴い,劇症型の経過をとったアメーバ性大腸炎の1例を経験したので報告する.

レゼクトスコープ下両側胸部交感神経遮断術を施行した手掌多汗症の1例

著者: 浅野満 ,   門倉光隆 ,   片岡大輔 ,   野中誠 ,   高場利博 ,   増田豊

ページ範囲:P.929 - P.931

はじめに
 従来,胸部交感神経節切除術の際には,胸部交感神経への到達法として,腋窩開胸法,鎖骨上窩切開法,背部切開胸膜外法など比較的侵襲の大きな方法が行われてきた.近年,内視鏡下手術の普及は著しく,呼吸器外科領域でも,肺,縦隔,胸膜,横隔膜などの病変に対する診断や治療に広く用いられている.一般に胸腔鏡下手術では,観察孔1か所と処置孔1ないし2か所が必要であるが,本来,内視鏡的泌尿器科手術における経尿道的切除術に使用する切除鏡すなわちレゼクトスコープ(図1)を用いた場合には同一視野から観察と処置が施行し得るため,約8mmの皮膚切開創1か所のみで手術が可能である.また手掌多汗症に対する内視鏡下手術の需要も高まっており,今後さらに発展することが予想され,美容上にも有効であった症例を報告する.

巨大食道憩室の1例

著者: 岩瀬博之 ,   渡部脩 ,   細田誠弥 ,   國井康弘 ,   櫛田知志

ページ範囲:P.933 - P.936

はじめに
 食道憩室は一般に無症状で経過するため,治療の対象となるものは稀である.しかし,高度の嚥下障害,嘔吐などがある場合には外科的治療が必要となる1).今回われわれは,食道憩室指摘後,約40年を経て嚥下困難,背部痛にて発症した巨大食道憩室を経験したので考察を加えて報告する.

転移性全眼球炎が発見の契機となった直腸癌の1例

著者: 馬場秀文 ,   田中克典 ,   板野理 ,   鈴木文雄 ,   大高均 ,   守谷孝夫

ページ範囲:P.937 - P.941

はじめに
 転移性全眼球炎は心内膜炎,髄膜炎,肺炎,骨髄炎ならびに前立腺手術の際,身体他部の化膿巣から化膿菌が転移性に到来して生じる眼球炎と定義されているが1),敗血症の合併症としては稀なものである.また,肝膿瘍が原因となり転移性全眼球炎が発生することも稀であるが,1986年Liuら2)が初めて肝膿瘍からの転移性全眼球炎について報告した.
 また細菌が直腸癌病巣より門脈血に進入し,肝膿瘍を併発することも稀である.今回,われわれは直腸癌が原因となり肝膿瘍および菌血症を併発し転移性全眼球炎が惹起されたと考えられる稀な症例を経験したので報告する.

胃壁外性発育を呈した低分化腺癌の1治癒切除例

著者: 大西秀哉 ,   清沢雷太 ,   塚原康博 ,   井下俊一

ページ範囲:P.943 - P.945

はじめに
 上皮性悪性腫瘍である胃癌が壁外性に発育し,胃壁外に腫瘤を形成することは比較的稀である.今回われわれは5年間無再発生存中の胃壁外発育型胃癌の1切除例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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