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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科53巻9号

1998年09月発行

雑誌目次

特集 急性腹膜炎—病態と治療の最前線 Ⅰ.病態—最近の知見

1.腹腔内感染とエンドトキシン

著者: 谷村弘 ,   岩橋誠 ,   中谷佳弘

ページ範囲:P.1100 - P.1104

 腹膜炎はグラム陰性菌の分離頻度が高く,しかも複数菌感染の場合が多く,複数の細菌の共同作用による病原性の増加や,それぞれの菌から放出されるエンドトキシンの相乗作用によって重篤化する.腹膜炎に伴うエンドトキシン血症の治療は,手術による原疾患の治療が最優先であり,必要に応じて腹腔内洗浄と適切なドレナージを行う.穿孔部位などより予想される菌種を考慮して,特に抗菌薬の種類によってエンドトキシンの遊離に違いがあることを銘記し,菌体のフィラメント化によるエンドトキシンの遊離に注意して薬剤を選択しなければならない.治療に際してエンドトキシン血症に十分留意し,SIRSよりMOFへの進展を阻止するために,病態を考慮した抗エンドトキシン療法,抗サイトカイン療法も試みるべきである.

2.腹膜炎とサイトカイン

著者: 広田昌彦 ,   野澤文昭 ,   岡部明宏 ,   柴田宗征 ,   大嶋寿海 ,   山崎勝美 ,   中川真英 ,   池井聰 ,   小川道雄

ページ範囲:P.1105 - P.1109

 腹膜炎が高度であると,高サイトカイン血症やそれに基づく臨床所見であるSIRSを発症すること,その反応が高度であると臓器障害の発生につながること,炎症性サイトカインに引き続いて炎症性サイトカイン阻害物質の著明な誘導が起こるが,これは強い炎症反応をやわらげ,ホメオスタシスを保とうとする制御機構の一つであること,生体防御機構の発現にはサイトカイン反応が必須であること,などを述べた.サイトカイン反応は,本来,生体防御を司るものであることを認識して病態の制御を考える必要がある.

3.多臓器不全の発生機序

著者: 篠澤洋太郎 ,   藤島清太郎 ,   山崎元靖 ,   関根和彦 ,   三村琢也 ,   相川直樹

ページ範囲:P.1111 - P.1117

 重症腹膜炎患者では炎症性サイトカインであるTNFα,IL-1βの産生,血中への遊離が増大しSIRSを呈するが,サイトカイン自体には組織傷害性はなく,IL-8により活性化される好中球より遊離される活性酸素,エラスターゼなどが組織傷害に関係する.炎症性サイトカインや活性化好中球は,凝固線溶系,補体系の活性化,DIC,微小循環障害,虚血再灌流,アポトーシス,傷害臓器のremodelingなどにも関係し,臓器障害(MODS)を惹起する.また,免疫系の障害はCARSを誘導し,腹膜炎の増悪,他部位感染症の併発,BTなどによりMODSの増悪に関係すると考えられる.好中球の存在部位(腹膜,肺)による動態の相違についての検討も進められている.

Ⅱ.治療法の選択とタイミング

1.SIRSの評価と治療法

著者: 井上知巳 ,   齋藤英昭

ページ範囲:P.1119 - P.1124

 急性腹膜炎治療の原則は,適切な対策による腹腔内感染の終結と臓器不全の予防である.急性腹膜炎の早期発見や治療法の選択,予後予測には重症度評価が必要となる.そして急性腹膜炎に伴う全身炎症反応の程度を,簡易な臨床観察項目で定義したのがSIRSである.しかし現状のSIRSの定義では,その評価が急性腹膜炎の重症度を明確に反映するとは言い難い.このため,SIRSの病態をより詳細に評価する方法,すなわちAPACHE Ⅱスコアや血中メディエータ濃度評価が用いられる.急性腹膜炎治療では,外科的治療や抗菌療法に加え,栄養管理や重要臓器機能のサポート,メディエータ対策が重要である.その際,全身の炎症性・抗炎症性メディエータのバランスを保ち,腹腔局所の炎症性メディエータを重視した対策が必要となる.

2.急性腹膜炎周術期の抗菌薬療法

著者: 炭山嘉伸 ,   草地信也

ページ範囲:P.1125 - P.1128

 消化管穿孔による腹膜炎の手術は,汚染手術または感染手術と呼ばれており,術後感染は高率である.このため周術期の抗菌薬療法は重大な意義がある.穿孔性腹膜炎では穿孔臓器によって常在菌が異なり,腹膜炎の起因菌が異なる.抗菌薬の選択には穿孔臓器と宿主の状態を考慮する必要があり,発症から数時間しか経過していない十二指腸潰瘍の穿孔例では第2世代セフェム薬でも十分な効果が期待できるが,下部消化管穿孔による腹膜炎ではカルバペネム系抗菌薬を術前から投与する場合もある.

3.上部消化管穿孔例の保存的治療—十二指腸潰瘍穿孔を中心に

著者: 井上義博 ,   大森浩明 ,   遠藤重厚

ページ範囲:P.1129 - P.1133

 消化管穿孔,特に十二指腸潰瘍穿孔に対し,最近保存的治療を行う施設が増加し,良好な成績を上げている.しかしながら,保存療法の選択についての統一的な基準はない.われわれの施設では1988年から十二指腸潰瘍穿孔に保存的治療を導入し,1993年から1996年までprospective studyを行ったところ,保存的治療の中で経過中に腹腔ドレナージを行った症例が入院日数,診療単価,平均年齢ともに有意に高く,65歳以上が多かった.したがってその後は65歳に達しない症例で,重篤な基礎疾患がなく,腹水の大幅な増量のない症例に対し,第1選択に保存療法を行っている.また,保存的治療を行うにあたっては確定診断が不可欠であり,内視鏡検査が有用である.

4.急性腹膜炎に対する腹腔鏡下手術の適応と限界

著者: 長島敦 ,   吉井宏 ,   奥沢星二郎 ,   北野光秀 ,   土居正和 ,   福島秀起 ,   茂木正寿 ,   山本修三

ページ範囲:P.1135 - P.1139

 腹腔鏡下手術は,手術器具の進歩により,胃・結腸・直腸切除まで適応が拡大されている.しかし,腹腔内洗浄には限界があり,現在の腹腔鏡下腹腔内洗浄で対処できる急性腹膜炎は,非細菌性の汎発性腹膜炎および限局性腹膜炎までである.このため腹腔鏡下手術の適応は,穿孔性十二指腸潰瘍,小腸穿孔,急性虫垂炎,急性胆嚢炎などになる.また,原因不明あるいは確定診断がつかない急性腹膜炎も腹腔鏡検査の良い適応であり,疾患によっては腹腔鏡下で治療が可能となる.急性腹膜炎の腹腔鏡下手術に際しては,臓器が炎症性変化を生じていることを理解し,愛護的な操作を心掛け,開腹術への移行をためらわないことが重要である.

5.腹膜炎術後遺残膿瘍の対策

著者: 秦史壮 ,   平田公一 ,   浦英樹

ページ範囲:P.1141 - P.1146

 術後の腹腔内膿瘍は手術操作による解剖学的位置関係の変化や腹壁の疼痛,術後腸管麻痺による腹部膨満などにより存在診断が困難なこともある.診断の遅れが敗血症を惹起し致命的となりうる本病態においては,早期の適切な膿瘍ドレナージが要求される.ドレナージ法には経皮的ドレナージ法と手術的(経腹膜,腹膜外)ドレナージ法があるが,可能であるならば侵襲の少ない超音波下の経皮的ドレナージが望ましい.しかし,膿瘍内容や膿瘍存在部位や形態(単発性,多発性,多房性など)によっては,経皮的ドレナージが適応とならないこともある.したがって,膿瘍の質的・形態学的診断を考慮した上で最適なドレナージ法を選択することが重要である.

6.血液浄化療法の適応と限界

著者: 浅沼義博 ,   古屋智規 ,   佐藤勤 ,   黒澤伸 ,   稲葉英夫 ,   小山研二

ページ範囲:P.1147 - P.1153

 急性腹膜炎の治療の原則は,感染源の外科的除去,抗生物質の投与,術後の心肺機能の十分なモニタリングである.この治療方針のなかで血液浄化療法の果たす役割は,不全臓器を補助し,生命維持と臓器の再生をはかり,さらに病原因子であるエンドトキシン(Et)や炎症性サイトカインなどを除去して,臓器不全の発生,進展を予防することである.CHF,CHDFは,血中IL-6,IL-8,顆粒球エラスターゼを低下させ,心肺機能を改善する.また,ポリミキシンB固定化ファイバーによるEt除去療法は,SIRS指標を改善し,救命率の向上が期待できる.しかし,重症例ではその効果は少なく,APACHE Ⅱ scoreが20点以下の,より早期に適用すべきである.

Ⅲ.ハイリスク例の特徴と治療の要点

1.新生児,乳児の腹膜炎

著者: 伊藤不二男 ,   安藤久實

ページ範囲:P.1155 - P.1160

 新生児,乳児期の腹膜炎の多くに先天異常が関与している.器質的な消化管通過障害のみならず,Hirschsprung病などの機能的通過障害も消化管穿孔の原因になりうるので注意を要する.腹腔内遊離ガス像で穿孔性腹膜炎の診断が確定するが,腹部超音波検査も穿孔部位や原因疾患を推測するために是非行うべきである.腹膜炎と診断したら必要最小限の術前検査を行い,治療を開始する.体液補正,感染症対策が重要であることは一般成人の腹膜炎の場合と同じであるが,新生児では特に低体温や呼吸器合併症をおこさないように注意する.手術は救命を第一と考え,侵襲をなるべく少なくするように心がける.

2.高齢者の穿孔性腹膜炎

著者: 黒岩厚二郎 ,   橋本肇

ページ範囲:P.1161 - P.1164

 過去9年間に経験した70歳以上の高齢者の汎発性腹膜炎39例の臨床的特徴について検討した.穿孔部位は大腸が最も多く,続いて胃・十二指腸,小腸であった.術前よりショック状態が26%でみられ,また意識状態の低下が36%に認められ予後不良であった.手術死亡は11例28%であったが,術前に白血球減少(5,000以下),BUN,Creatinineの上昇,および代謝性アシドーシスが認められた場合は重篤であった.高齢者の穿孔性腹膜炎では,発症から手術まで時間が経過しているため全身状態の悪化している場合が多く,状態に見合った侵襲の少ない手術を行うべきと考えられた.

3.肝硬変と腹膜炎

著者: 今岡真義

ページ範囲:P.1165 - P.1169

 肝硬変は重度の肝障害で,非代償期になると腹水貯留,食道静脈瘤からの出血,腎不全,肝性脳症など多くの重篤な合併症が発生する.腹部手術後もmortalityの高い合併症が発生し,腹膜炎もそのうちの一つであるが,外部からの細菌の侵入がない場合でも,内因性の常在菌の日和見的感染による腹膜炎すなわち特発性細菌性腹膜炎が発生する.この腹膜炎は予後不良であり,治療の基本は感染の制御,特に腸内細菌の制御である.一方,腹水の減量と腹水中のオプソニン活性の増強,循環血漿量の維持→腎不全の防止,白血球の機能増強など全身的な生体の防御機構の改善をも併せて治療しなければならない.同時に,非代償性の肝硬変に伴う合併症への配慮も怠ってはならない.

4.糖尿病・腎不全合併例

著者: 岡本好司 ,   伊藤英明

ページ範囲:P.1171 - P.1175

 糖尿病や慢性腎不全合併例での急性腹膜炎例では,原疾患や緊急手術の侵襲により糖尿病が悪化したり,持続透析の合併症としての抗凝固剤やその他薬剤の蓄積による止血困難や薬物中毒,糖尿病・腎不全両合併症に関連する易感染性や創傷治癒遅延などが生命予後の危険因子となり,外科治療において問題となる.糖尿病では,インスリン投与により術前血糖値をコントロールし,ケトーシスの消失,脱水の改善,電解質・酸塩基平衡の是正を計り,腎不全例では,血中カリウム値・酸塩基平衡の是正のために緊急人工透析を行って,緊急手術を施行すべきである.実際の症例に対して丁寧かつ慎重に対処していくことが大切であり,腹膜炎に対する根治手術が大切である.

カラーグラフ 消化器の機能温存・再建手術・1

頸胸境界部食道癌に対する喉頭温存手術

著者: 北村道彦 ,   鈴木裕之 ,   斉藤礼次郎 ,   佐々木晋一 ,   小川純一

ページ範囲:P.1095 - P.1099

はじめに
 頸部食道癌においては従来,癌に対する根治性を上げることと,術後の誤嚥を防止することを理由に,たとえ喉頭や気管に直接浸潤がなくても喉頭が合併切除されることが多かった.しかし,喉頭切除の患者に対する影響は多大なものであり,その反省と手術術式の工夫,術後管理の向上を背景に,喉頭温存術施行例の報告も増えている.本論文では頸胸境界部食道癌に対して,筆者らが現在施行している喉頭温存術の手術操作を中心に述べる.

病院めぐり

勤医協中央病院外科

著者: 原隆志

ページ範囲:P.1176 - P.1176

 当院は社団法人北海道勤労者医療協会(勤医協)のセンター病院として1975年6月2日,札幌市東区の田園,葱畑の真ん中に開院しました.現在は高速道路がそばを横切る繁華街となり,JR札幌駅から車で約20分の所にあります.現在では地域の基幹病院としても期待され,また厚生省臨床研修指定病院として毎年多くの新卒医師を迎え入れています.歴史的には当協会のセンター病院を白石区から現在の東区に移転したことから始まります.前旭川厚生病院院長藤井敬三先生が初代院長兼外科科長として赴任されました.当協会は全日本民主医療機関連合会(民医連)に加盟しており,その医療姿勢は「働くひとびとの医療機関」としての立場です.全道に11の病院と28の診療所,訪問看護ステーション,老人保健施設,特別養護老人ホーム,保健薬局,看護学校を有する北海道民医連のセンター病院として位置づけられています.診療科22,病床数457床を有し,1日平均外来患者数は約950人,常勤医師85名,非常勤医師3名で診療に当たっています.
 外科は消化器外科,呼吸器外科,心臓血管外科,乳腺外科,内分泌外科などを中心に一般外科を担当しています.

国立善通寺病院外科

著者: 佐尾山信夫

ページ範囲:P.1177 - P.1177

 空海生誕の地,香川県善通寺市に当院は明治30年7月第11師団善通寺丸亀衛戌病院として創立され,昭和11年12月善通寺陸軍病院と改称されました.昭和20年に現在の国立善通寺病院として再び改称され同時に外科も開設されました.以来,今年で創立54年を迎えます.現在では診療科20科,病床数(精神100床を含む)351床の総合病院として発展し,診療圏は善通寺市人口3万5千人と周辺市町村をはじめ一部徳島県にまで及んでいます.当院はJR善通寺駅より徒歩15分で,南方200mには75番札所,総本山善通寺があります.数年前に善通寺の五重の塔の大改築工事がなされ,病院よりその景観を望むことができます.北方には手術室より瀬戸大橋,瀬戸内海,岡山を一望することができます.
 さて当院外科は徳島大学第2外科の関連施設で,吉田院長を始め現在7名(スタッフ5名,研修医1名,レジデント1名)で構成されています.日本外科学会,日本消化器外科学会,日本胸部外科学会,日本呼吸器学会などの修練施設に指定されています.常時60床を受け持ち,消化器外科,呼吸器外科,乳腺,甲状腺を中心に一般外科を担当しています.また救急指定病院でもあり外傷外科の症例も多くみられます.常に満床の状態であるため院内の他病棟に必ず外科の患者がいるといった状態です.在院期間の短縮,病床の効率的運営に苦心しています.

メディカルエッセー 『航跡』・25

チーフレジデント物語—1972年風ライフスタイル

著者: 木村健

ページ範囲:P.1178 - P.1179

 1972年当時を想い起こしてみると,ニクソン大統領のウオーターゲート事件隠蔽疑惑が全米を揺るがせていた.ベトナム戦争は泥沼にはまり込み,若者達の間では徴兵逃れが最大の関心事であった.各地の大学では反戦運動がまき起こり,歴史はじまって以来の厭世ムードに包まれていた.そうした世相を反映するかのように,髪は肩まで伸ばし放題,体の線にぴちっと合ったニットのシャツにタイトなベルボトムパンツ,ド派手な太いネクタイをしめるのが流行っていた.
 ボストンフローティング小児病院は,タフツ大学医学部のフランチャイズであるニューイングランドメディカルセンター(NEMC)に属した小児科部門の教育センターである.小児外科は小児科が支配する小児病院にありながら,NEMCの外科に所属していた.外科のチーフは血管外科のDr.デタリングであった.彼の分野からみると小児外科はサハラ砂漠から眺めたトウキョウのような存在であったろう.心臓,血管,腫瘍,形成,小児など全分科が週に一度集う外科全体の死亡合併症例検討会(M & Mカンファレンス)では,時間が余ったから仕方なしに小児外科の症例も討論に加えてやるというまま子扱いをされた.腹部大動脈瘤破裂や頸動脈閉塞など熟年疾患を扱っている外科医の目には,体重1,000グラムの食道閉塞症に6-0の縫合糸数本で食道を吻合したなどという報告は,次元の違う世界の出来事に思えたのであろう.

膜の解剖からみた消化器一般外科手術・9

直腸癌根治術・自律神経温存手術

著者: 金谷誠一郎

ページ範囲:P.1181 - P.1192

はじめに
 癌に対する手術では,腹膜下筋膜に包まれた層を1つの区画と考え,腫瘍の存在部位・リンパの流れ(主流・副流・亜流)を踏まえて,転移リンパ節+αの郭清を心掛ける必要がある.そのためには,(1)腹膜下筋膜に包まれたままでの臓器の摘出が基本であり,それが不可能な部位では,(2)腹膜下筋膜のなかの世界で,神経の存在に注意しながら温存すべき血管や臓器を取り扱い,リンパ節郭清を進めなければならない.
 直腸癌の手術では,下腹神経や骨盤神経叢を周囲組織とともに温存する自律神経温存手術が上記の(1)の操作に相当し,骨盤内における側方郭清や大動脈周囲リンパ節郭清を行う拡大郭清術が(2)の操作に相当する.今回は直腸癌根治術の手術の実際として,(1)の操作が主体となる自律神経温存手術の解説を行う.

Current Topics

「インフォームド・コンセント」とは「医療における信頼の創造」である

著者: 飯田修平

ページ範囲:P.1193 - P.1202

インフォームド・コンセントとは何か
 インフォームド・コンセント(以下,IC)という単語が新聞やテレビで頻繁に使われている.ICという単語を書いた人や話した人(情報の発信側)と,読んだ人や聞いた人(情報の受信側)とが同じ意味でICを捉えていなければ,「言った,言わない.聞いた,聞かない.そんなつもりではなかった.そんなはずではない.」という誤解や齟齬の原因となる.
 筆者は「インフォームド・コンセント」という単語を用いないようにしている.上記の危惧を抱くからである.

癌の化学療法レビュー・5

胃癌の化学療法

著者: 市川度 ,   仁瓶善郎 ,   杉原健一

ページ範囲:P.1203 - P.1209

はじめに
 従来,消化器癌は抗癌剤に対する感受性が低いとされてきた.しかし,近年では,5-fluorouracil(5-FU)のbiochemical modulation(BCM)やcisplatin(CDDP)の導入に伴い,切除不能進行・再発胃癌に対する化学療法では高い奏効率が報告されるようになってきた.
 また,切除不能進行胃癌における,best suppor-tive therapy(BST)群と化学療法施行群の3つの無作為比較試験では,生存期間中央値(MST)はBST群3〜4か月,化学療法施行群で9〜12.3か月であり,化学療法が延命に寄与することが示唆された(表1).さらに,Glimeliusら1)はquality of life(QOL)の視点から比較試験を行い,BST群の20%(6/30)に対して化学療法群では45%(14/31)の症例でQOLの改善,維持が得られることを報告している.

外科医に必要な耳鼻咽喉科common diseaseの知識・4

鼻出血

著者: 大氣誠道

ページ範囲:P.1210 - P.1212

はじめに
 鼻出血は日常生活で頻繁に見られる症候で,プライマリーケアとしてすべての医師が遭遇し,その的確な処置を要求される疾患である,

外科医に必要な産婦人科common diseaseの知識・4

子宮筋腫

著者: 宇都宮裕貴 ,   佐藤信二

ページ範囲:P.1213 - P.1214

概念
 子宮の筋組織から発生する良性腫瘍で,40歳代に最も多く,35歳以上の婦人の約20%に認められる.性成熟期に発生・増大し,閉経後に縮小・消退する.

臨床研究

胆管結石症に対する治療法の検討—特に切石後一次縫合法について

著者: 塩崎滋弘 ,   岡村進介 ,   原野雅生 ,   小野田正 ,   大野聡 ,   小林直広

ページ範囲:P.1215 - P.1219

はじめに
 総胆管結石症に対する手術としては,従来より総胆管切石後,Tチューブ留置による減圧ドレナージが標準術式とされているが,以前よりチューブトラブルやその問題点も多く指摘されている1).われわれは,以前より総胆管の高度の拡張や炎症所見を認めない症例に対しては,積極的に切石後,胆管1次縫合を取り入れ,総胆管結石に対する標準術式としてきた.今回,胆管1次縫合の有用性を,Tチューブ留置例と比較し報告するとともに,最近施行している腹腔鏡下手術による術式を加え,各術式を比較し検討した.

臨床報告・1

Ball valve syndromeをきたした胃体下部に発生した胃癌の1例

著者: 小西一朗 ,   上田順彦

ページ範囲:P.1221 - P.1224

はじめに
 隆起型胃癌が十二指腸内に嵌入することは比較的稀であり,そのほとんどは胃前底部から幽門部に存在した癌により生ずる1).今回,筆者らは胃体下部に発生した隆起型早期胃癌が十二指腸内に嵌入し,高アミラーゼ血症とball valve syndrome(以下,BVS)をきたした1例を経験したので報告する.

結腸癌を原発とする腹膜偽粘液腫の1例

著者: 竹村雅至 ,   岩本広二 ,   合志至誠

ページ範囲:P.1225 - P.1228

はじめに
 腹膜偽粘液腫は腹腔内に多量の粘液物質の貯留を認め,可及的に粘液物質の除去を行ったとしても再発を繰り返すきわめて難治性の疾患である.本症の原発巣としては虫垂や卵巣が多く報告されており,結腸原発は稀であるとされている1).今回,筆者らは上行結腸を原発部位として発症した腹膜偽粘液腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

魚骨によるメッケル憩室穿孔の1例

著者: 長井一信 ,   石田数逸 ,   大佛智彦 ,   花岡俊仁 ,   河島浩二 ,   三原康生

ページ範囲:P.1229 - P.1232

はじめに
 メッケル憩室は消化管にみられる先天性異常のうち最も頻度が高い疾患だが,そのほとんどは生涯無症状で経過し,合併症を有するものはわずか4%4)とされている.なかでも魚骨による穿孔はきわめて稀であり,筆者らが検索した範囲では本邦で13例の報告のみであった.今回,筆者らは開腹後診断のついた1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

全身性悪性リンパ腫における小腸病巣穿孔の1例

著者: 伴野仁 ,   藤岡進 ,   加藤健司 ,   吉田カツ江

ページ範囲:P.1233 - P.1235

はじめに
 節性悪性リンパ腫に比べ節外性,特に腸管悪性リンパ腫は症状発現が遅いため進行例が多く,なかでも穿孔で発症した症例の予後は不良のことが多い1,2).今回われわれは全身性悪性リンパ腫の治療中にその部分症としての小腸悪性リンパ腫が穿孔した症例を経験したので報告するとともに,その治療上の問題点につき検討した.

異時性四重複癌(肺癌,上皮小体癌,胃癌,乳癌)の1治験例

著者: 小松誠 ,   小松俊雄

ページ範囲:P.1236 - P.1238

はじめに
 近年,悪性腫瘍に対する診断技術および治療成績の向上,社会の高齢化に伴い,重複癌症例も稀ではなく認められるようになってきた1).しかし,四重複癌についての報告例は未だ少なく,また四重複癌すべてに根治的治療がなされたという報告は稀である.今回われわれは,各々の癌に対し根治的治療が可能であった肺癌,上皮小体癌,胃癌,乳癌の異時性四重複癌の1例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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