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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科54巻1号

1999年01月発行

雑誌目次

特集 乳癌の手術:最適化への論点

エディトリアル

著者: 田島知郎

ページ範囲:P.11 - P.17

はじめに
 乳癌に対する診療は多面的に大きな様変わりを続けている.なかでも根治療法としての乳房温存治療の急速な増加には,ある種の戸惑いを感じている外科医も多く,最善の治療法として完成した標準的,定型的な術式が確立されきったとは言えない現状の中で1),社会からのプレッシャーも加わって,追い込まれて施行しているように見受けられる場面もある.
 乳房温存手術としては,乳腺実質部分が関わる部分と腋窩リンパ節郭清が関わる部分とがあり,現在の論点は世界的にも前者から後者の問題に移りつつあるが2),かと言って乳腺実質部分の問題に決着が付いたというわけではない.腋窩リンパ節に関しては,その郭清の有無が予後に直接には関係しないのではないかと考え始めている乳腺外科医の姿勢が一般・消化器外科医にはどう映っているのであろうか.本特集では論点を明確にする意味で,それぞれを別項目として扱う企画とした.

A.乳腺切除範囲のpros and cons

1.乳房切除術のプラス点

著者: 園尾博司 ,   下妻晃二郎

ページ範囲:P.19 - P.24

 現在,わが国では胸筋温存・乳房切除術(乳切)が60%,乳房温存手術(温存術)が30%を占める.温存術の適応は,腫瘤径3cm以下であり,広範な石灰化像,乳頭異常分泌,乳頭・乳輪下腫瘤などは適応から除外される.一方,乳切は,このような制限がなく,適応が広い利点がある.
 また,乳房内再発の不安がない.さらに放射線治療が不要で,それに伴う合併症がなく,治療期間が短く,医療費および諸経費が安価などの利点がある.QOL上は,身体面では温存術と比較して美容上は不利であるが,精神・心理面では治療初期ではむしろ温存術より良好である.社会面では,治療期間・経費の面で有利である.術式選択にあたっては,これらを十分に考慮したインフォームド・コンセントが重要である.

2.乳房温存術式の功罪

著者: 芳賀駿介 ,   歌田貴仁 ,   今村洋 ,   渡辺修 ,   飯田富雄 ,   芳賀陽子 ,   清水忠夫 ,   梶原哲郎

ページ範囲:P.25 - P.28

 円状部分切除術に放射線照射を併用する乳房温存療法について,約10年間の経験を基に総括し,本治療法の今後の展開について検討した.治療成績では乳房内再発単独例はなく,予後良好であった.また,美容的にも優れ本治療法の有用性が確かめられた.一方,今後の問題点として,多くの癌遺残があると思われた症例の約40%に癌遺残はなかったこと,free marginが十分あり放射線照射の必要がなかったと思われる症例が26.5%あったこと,salvage困難な遠隔転移を伴う炎症性乳癌様再発を1例にみたことである.今後,癌の拡がりに対応した切除法の選択,放射線照射の適応基準の見直しにより,症例ごとに最適な治療法が選択できるよう努めるべきと考える.

3.乳腺部分切除術:扇状と円状の差異

著者: 山下純一 ,   阿部道雄 ,   小川道雄

ページ範囲:P.29 - P.32

 本邦でも,早期乳癌に対する標準的治療のひとつとして,乳房温存療法が広く行われるようになった.乳房温存手術には,扇状切除術,円状切除術,腫瘤摘出術の3通りがある.主病巣周囲の乳腺切除に関しては,扇角60°の扇状切除は,free margin 2cmの円状切除とほぼ同等である.しかし,扇状切除術が乳頭を頂点とした乳頭側乳腺を切除するのに対し,円状切除では同部を切除しない.円状切除は扇状切除に比し,美容的にはより高い満足度が期待できるが,その反面,幾分か癌巣を遺残させる可能性が高い.「美容的により美しい乳房」か,それとも「乳房内再発の可能性がより低い乳房」か.相反する2つの側面が,医師,患者の双方を悩ませている.

4.乳房扇状部分切除の要点

著者: 大内憲明

ページ範囲:P.33 - P.36

 われわれは初発乳癌に対し,局所制御(外科的根治性)を目指して,乳癌進展の区域解剖に立脚した乳房温存手術を行ってきた.すなわち,乳癌は末梢乳管から発生し,乳管内進展または側方進展を示すという事実に基づき,乳管小葉系を包括する乳房扇状部分切除(quadrantectomy;Bq)を行い,切除断端を陰性とすることを原則としている.一方,Bqでは切除範囲が大きく,美容を損なうことから,lateral tissue flap(LTF)による充填(乳房形成)を同時に行っている.乳房形成を伴う乳房扇状部分切除の要点について概説した.

5.乳房円状部分切除の要点

著者: 福田護 ,   緒方晴樹 ,   中山義昭 ,   太田智彦 ,   山口晋

ページ範囲:P.37 - P.41

 乳房円状部分切除の適応は,患者の希望,乳房の大きさ,病巣の位置や数や3次元的拡がりなどによって決定される.教室では,腫瘤径約4cmをめどとし,広範囲な微細石灰化像,多発乳癌は原則として適応外としているが,絶対的なものではない.リンパ節転移程度,占拠部位,腫瘤乳頭間距離は問わない.術中断端検索は可能な限り行ったほうがよい.迅速病理検査で術中断端検索を行っている教室の231例中(切除断端距離2cm,頭側のみ3cm),術後病理検査で最終的に切除断端が陽性であったのは16%であり,その内水平切除断端陽性が8.2%,垂直切除断端陽性が7.8%であった.腋窩郭清は原則としてLevel IIとし,小さな皮膚切開から腋窩郭清を行うため,腋窩を長方形の箱とイメージしながら行うのがよい.

6.乳房温存療法:Liberal selection criteriaによる成績

著者: 雨宮厚 ,   近藤誠

ページ範囲:P.43 - P.48

 他施設と比べはるかに広い適応基準と縮小した治療内容による温存療法の経験を報告する.対象は1983年から1997年末迄に来院した患者のうち温存療法が可能であった1,530名(温存率88%).部分切除は肉眼的な断端陰性を目指した.術後,乳房に対し50Gyの外照射施行.1988年以降,N(0)に対しては局所制御を照射に委ね腋窩郭清を省略している.観察期間中央値50か月.5年累積乳房内再発率は7%,腋窩再発率は照射群で2.8%,郭清群で1.6%,生存率は0期100%,Ⅰ期96.6%,Ⅱ期92.8%,Ⅲ期66%となった.これらは他施設の温存療法および乳切の成績と比し遜色はなく,適応基準の拡大および治療内容の縮小は局所制御・生存率を犠牲にしないことがわかった.

7.温存術後照射における補完的役割

著者: 山下孝 ,   古川雅彦 ,   中川昌之 ,   水谷章喜 ,   本田力

ページ範囲:P.49 - P.53

 癌が発生した乳房を全て切り取る乳房切除術(乳房切断術とも呼ばれた)という早期乳癌に対する治療法が,標準的で最も良い方法として行われてきたが,癌の部分とその周囲を少し切り取り乳房をできるだけ残して,残した乳房に放射線治療する乳房温存療法の良好な治療成績が欧米で発表され,それに影響されてわが国でも行われている1,2).放射線治療を行う理由は,乳房を全て取るのではなく乳房を残すので,残した乳房に癌が再発しないようにするためである.乳房を残すことは美容上も形態上も患者の切実な希望である.最近話題になっているこの治療法について放射線治療の役割を中心に問題点を簡単に概説する.

8.胸筋合併乳房切除術に残された役割

著者: 光山昌珠 ,   阿南敬生 ,   玉江景好 ,   西原一善 ,   阿部祐治 ,   岩下俊光 ,   井原隆昭 ,   中原昌作 ,   勝本富士夫

ページ範囲:P.55 - P.59

 乳癌の手術は変遷し,現在わが国では今まで定型的乳房切除術とされていた胸筋合併乳房切除術(Halsted手術)に代わって,胸筋温存乳房切除術(胸筋温存術)が定型となっており,将来的には乳房温存術がこれにとって代わる勢いである.Halsted手術は,各施設により適応は少し異なるが,胸筋浸潤,Rotterリンパ節転移,腋窩リンパ節,鎖骨下リンパ節転移著明例,炎症性乳癌とされていた.しかし,胸筋温存術の術式の改良,進行乳癌に対するneoadjuvant治療の普及と共にその適応は限定され,また,患者のQOLを考慮すると胸筋に広範囲に深く浸潤した症例と,Rotterリンパ節の転移著明例や,胸筋への浸潤例と思われ,術前,術中での正確な診断が重要と思われる.

B.リンパ節郭清のpros and cons

9.N0症例に対する腋窩リンパ節郭清の得失

著者: 佐野宗明 ,   牧野春彦

ページ範囲:P.61 - P.64

 乳癌手術における縮小化は腋窩リンパ節郭清の是非までに至った.これはリンパ節転移のない早期症例が多くなった結果である.問題は,いかにして術前にリンパ節転移を予測するかである.腋窩郭清の意義は局所制御と予後因子であり,とくに転移個数は術後補助療法の決定に直結する.触診では的確にリンパ節転移を把握できず,また,腫瘤径,画像診断あるいは分子生物学的診断を用いても予測し得ない.DCIS(ductal carcinoma in situ)以外に3cm以下の75歳以上,純型の粘液癌あるいは非郭清後に再発例のみに郭清をする腫瘤径が1.0cm以下の浸潤癌などが非郭清の候補にあげられる.現在,SLN(sentinel lymph-node)生検に関心が寄せられているが,この低侵襲手技は医療費抑制にも寄与し,QOLの向上につながる.

10.腋窩リンパ節郭清範囲の最適化

著者: 馬場紀行 ,   岩瀬哲 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.65 - P.69

 現在乳癌根治手術においては,腋窩リンパ節郭清を併用することが標準的である.腋窩リンパ節郭清の意義は,術後長期予後における再発の危険を予測するための指標を得ることにあり,リンパ節郭清が長期予後を改善したという臨床的なevidenceは得られていない.腋窩リンパ節郭清を行った結果,後遺症として患側上肢の浮腫,感覚障害が起きる可能性がある.予後を予測する因子としての病理組織学的リンパ節転移状況は,Level Ⅰ,Ⅱの範囲を調べれば十分である.術後後遺症を少なくする上でも,腋窩リンパ節郭清はLevel Ⅰ,Ⅱにとどめるべきであり,将来は症例により,腋窩リンパ節郭清を省略することも考慮されるべきと考える.

11.センチネル・リンパ節生検(sentinel lymph node biopsy):妥当性の論拠

著者: 野口昌邦 ,   津川浩一郎 ,   坂東悦郎 ,   三輪晃一

ページ範囲:P.71 - P.74

 癌のリンパ節転移はランダムに生ずるのではなく,一定のパターンがあり,センチネル・リンパ節(前哨リンパ節)は,原発巣からリンパ管に入った癌細胞が最初に到達するリンパ節である.センチネル・リンパ節生検はそのリンパ節を同定・生検し,その転移の有無により,領域リンパ節全体における転移の有無を診断する方法である.同法による乳癌の腋窩リンパ節転移の診断率は高く,センチネル・リンパ節に組織学的転移を認めない症例ではリンパ節郭清を省き得ることが示唆される.

12.腋窩リンパ節郭清における小胸筋の扱い

著者: 塚本文音 ,   野口眞三郎

ページ範囲:P.75 - P.77

 腋窩リンパ節郭清を施行する際に小胸筋を切除するか否かは,患者の予後や術後の合併症の頻度に重大な影響を与えるとは思えないのでさほど重要視されていない.その適応基準は各施設で異なるのが現状である.われわれの施設でも厳密で説得力のある根拠に基づいて小胸筋切除の適応を決定しているわけではない.本稿では,われわれの施設では実際にどのような症例にどのような考えに基づいて小胸筋切除を行っているかについて述べる.

13.腋窩リンパ節郭清における肋間上腕神経の扱い

著者: 飯野佑一 ,   鯉淵幸生

ページ範囲:P.79 - P.82

 肋間上腕神経は上腕内後側に分布する知覚神経である.われわれは,術前および術中の所見で腋窩リンパ節転移の明らかでない場合に,肋間上腕神経を温存している.方法は,腋窩外側で腋窩や上腕に分布する神経の分枝を探索した後に,肋間筋穿通部近傍の中枢側で神経を明らかにして合流させる方法をとっている.神経切離群(n=38)と温存群(n=28)の上腕内側の知覚検査では,両群間で2点間識別距離に明らかな差はなく,知覚異常の訴えにも差はなかった.神経温存の操作上の問題や神経機能確認の困難さも含め,温存のmeritは必ずしも明確ではないが,リンパ節転移が明らかでない場合には温存する方が望ましいと考える.

14.胸骨傍・鎖骨上リンパ節郭清に残る役割

著者: 浅越辰男 ,   中津美優 ,   花谷勇治 ,   長岡信彦 ,   葉梨圭美 ,   小平進

ページ範囲:P.83 - P.86

 胸骨傍リンパ節(PS)および鎖骨上リンパ節(SC)郭清の意義を検討した.PS転移陽性乳癌の治療方針は臨床判断分析法によった.その結果,1)PS転移陽性および再発例とも内側中央,腫瘍径3cm以上,n+例が多かった.2)n0乳癌PS再発5例はいずれも内側中央,3cm以上群であった.3)PS郭清104例,PS転移・再発36例を対象とし健存率を効用値とした臨床判断分析では,照射群の期待値のほうが非照射群より高かった.以上よりPS転移陽性乳癌に対する治療方針としてはPS郭清により確定診断後,早期に照射し局所制御することは有用で,内側中央,3cm以上例で特にこの意義が高まると考えられた.またSC郭清の意義はなく,肺転移を続発することが多く予後は不良であった.

カラーグラフ 消化器の機能温存・再建手術・5

早期胃癌に対する幽門保存胃切除術(PPG)

著者: 北村正次 ,   梅北信孝 ,   宮本幸雄 ,   荒井邦佳 ,   岩崎善毅

ページ範囲:P.5 - P.9

はじめに
 近年,早期胃癌のリンパ節転移の実態が明らかになるに従い,画一的なD2郭清から臓器機能を少しでも温存する縮小手術が行われるようになってきた.それらの中で胃潰瘍に対する機能温存術式1)として開発されたPPG(pylorus-preserving gastrectomy)が早期胃癌に応用されている.この術式は幽門輪から1.5cmの幽門部を温存することで術後胃内容の排出を生理的に保っことを目的とした術式であり,多くの施設2〜7)で行われている.しかし,本術式に伴うリンパ節郭清の範囲は各施設で異なっており,D1からD2まで様々である.今後は腫瘍の肉眼型,組織型,大きさ,深達度により,統一された適応基準のもとにリンパ節郭清を行う必要がある.本稿では筆者らが行っている幽門温存胃切除術について,血管温存および神経温存からみた手術手技を中心に述べる.

短期集中連載・1【新連載】 乳頭血性分泌患者に対する診断法—乳管内視鏡と乳管造影を中心として

乳管内視鏡手技の実際

著者: 長内孝之 ,   市川度 ,   仁瓶善郎 ,   杉原健一

ページ範囲:P.87 - P.90

はじめに
 授乳期以外に乳頭から分泌物のある患者は,乳腺外来を受診する患者の5〜6%と比較的頻度が少ない.しかし,腫瘤を触知しない乳癌症例の重要な症状である.腫瘤を触知せず,血性乳頭分泌のみを主訴とする症例では,mammography(以下,MMG)や超音波検査を行っても,明らかな病変を描出できない場合が多い.近年,経乳頭的乳管内視鏡検査および乳管内生検法が開発され,乳頭異常分泌疾患の診断は飛躍的に向上した1〜3).本稿においては乳管内視鏡の適応,手技について概説する.生検法に関しては,次号で記載する.

消化器疾患の総合画像診断・1【新連載】

膵・肝疾患

著者: 奥芝俊一 ,   加藤紘之

ページ範囲:P.91 - P.99

はじめに
 消化器疾患の診断にはさまざまな画像診断法が駆使されているが,患者の負担や医療コストの面から効率の良い診断の進め方が強く要求される時代になった.本稿では診断から治療に至る効率の良い画像診断の進め方と考え方について,具体的に症例を呈示しつつ述べる.

メディカルエッセー 『航跡』・28

チーフレジデント物語—小児病院のプランニング

著者: 木村健

ページ範囲:P.100 - P.101

 新しい小児病院を開設する企画があって委員会が定期的に開かれているからオブザーバーとして出席するようフィッシャー教授に言われ出てみると,これがなかなか興味深かった.常時出席している委員は数人のみであるが,毎回顔ぶれが変わるのだ.アメリカではこうした委員会には定員以上の人間を選んでおいて,随時補欠として使うのをあとで知った.開設は2,3年先かと思うとあにはからんや,10年のちに目標を置いてのお話であった.
 マサチューセッツ州交通局長が招聘され,今後10年間のハイウエー建設プロジェクトをスライドで詳しく解説したのが,委員会の初日であった.ハイウエーの建設計画が小児病院といったいどう結びつくのだろうと思われようが,これがきわめて重大な要素を含んでいるのだ.アメリカではこどもの救急医療は小児病院の重要なパートを占めている.急を要する幼い患者がヘリで空から,あるいは救急車でハイウエーを搬送される際,州内のどの地域からでも最短時間で到達できる地点に小児病院を建てるという設定で議論され,交通局長のお出ましとなったのであった.

病院めぐり

北海道社会保険中央病院外科

著者: 安達武彦

ページ範囲:P.102 - P.102

 豊平川は小漁山に源を発し,定山渓を経て札幌市街地のほぼ中央を貫流し,石狩川本流と合流して石狩湾に注いでいます.その河川敷はサイクリングロード,野球場,サッカー場,テニスコート,公園などに利用され,多くの市民に親しまれている憩いの場でもあります.夏は花火大会,秋は鮭の遡上がうれしく,冬には一面の銀世界で,春には萌える緑が目に心地よく感じられます.
 当院は,この豊平川右岸に昭和28年2月11日に結核撲滅のため結核療養所として22床,医師5名でスタートしました.現在は17診療科を標榜し,病床数350床,医師数34名の総合病院となり,札幌豊平区および南区地域の基幹病院として重責を担っています.そしてまた,札幌市街地では唯一の結核病棟を有する病院として特徴づけられています.開院45周年を機に,建物の老朽化と狭隘化のため平成15年をめどに新築中であり,職員・丸となり設計図と新しい病院組織改革に知恵を結集しています.新病院では100床の老健施設が併設され,診療科も増設される予定です.

福島赤十字病院外科

著者: 今野修

ページ範囲:P.103 - P.103

 福島市は福島県の北部,吾妻山麓に位置し,山形県と宮城県に接している人口約28万の地方都市ですが,県庁,県立医科大学,国立福島大学,中央競馬場の所在地でもあります.夏は高温多湿で,冬は降雪は少ないものの寒く,これといって有名な観光地や産業はありませんが,桃に代表される果物のおいしい所です.
 本病院は日本赤十字社福島県支部の医療施設として地域医療と併せて災害時救護活動並びに社会医療活動を担当する目的で昭和18年に創設されましたが,平成5年11月には老朽化した施設の一部が新築され,屋上にはヘリポート,講堂には受災者の救急医療が行えるように各種パイピングを設備し万一に備え,日常診療活動とは別に時々災害救助活動訓練を行っています.

臨床外科交見室

治療成績の公開とインフォームドコンセント

著者: 高勝義

ページ範囲:P.104 - P.105

 山下病院では1995年から自院の治療成績を記載した,胃癌と大腸癌の患者さん向けの情報誌を用いて手術前の説明を行っている(図1,2).分かりやすい説明書を用い,自院の治療成績を示すことによって,患者さん側の十分な理解と安心感が得られるようになり,インフォームドコンセントに基づいた,医療側と患者側の良い人間関係が形成されるようになった.そこで,日頃われわれが行っている手術前の患者さんへの説明と,その反応,結果についてお知らせしたい.

外科医に必要な耳鼻咽喉科common diseaseの知識・8

咽頭・食道異物

著者: 金子達

ページ範囲:P.106 - P.108

はじめに
 咽頭異物は耳鼻咽喉科の日常診療でしばしばみられる疾患である.外科臨床医でも時にはのどに異物(特に魚骨)の疑いを本人が持った経験があることと思う.また,耳鼻科医がいない地域や救急で他科の医師が診ることもあるのではないかと思われる.食道異物は頻度的には咽頭異物より少ないが,同様に外科でも摘出することが多いと思われる.最近の傾向としてPTP異物などが増加し,ファイバースコープで除去する機会の増加が考えられる.またこの領域については外科の中でも取り上げられていると思うため,あまり多くは触れないこととした.

外科医に必要な産婦人科common diseaseの知識・8

子宮癌

著者: 宇都宮裕貴 ,   佐藤信二

ページ範囲:P.109 - P.110

子宮癌の概念
 子宮癌は子宮頸部に発生する子宮頸癌と子宮体部に発生する子宮体癌の2つに分類される.組織学的・発生学的には全く異なるものであるため,以下2つに分けて解説を行う(表).

外科医のための局所解剖学序説・26

鼠径部・下肢

著者: 佐々木克典

ページ範囲:P.111 - P.120

 下肢の体表の解剖はみずから触れることができるものが多いから,あえてとりあげるまでもないかもしれない.簡単に述べておく.幾つかの骨の出っ張りを触れるとき,触れやすくするためにどうすればよいか,考えてみるのもよい.例えば坐骨結節は座れば大殿筋に被われないことからわかるように,大腿を屈曲すれば触れやすい.触診できる骨の出っ張りには大かた滑液包があり,滑液包炎の起こる場所でもある.筋の視診,触診も下肢では容易だ.特にその筋の働きにあらがうような力をかけると,はっきり識別できる.縫工筋と鼠径靭帯,長内転筋で作る大腿三角は大腿静脈,動脈,神経が内側からVANという順序で並ぶことは常識であろう.脈をとれる血管が幾つかあるが,足背動脈は触れやすく,また末端の血管の変化を早い時期に示す.皮静脈が発達し,よく見える.Saphenousという語源はギリシャ語でいうclearからきていると言われている.神経としては坐骨神経の位置が取り上げられることが多いが,骨に直接接する神経に着目しておくのもよい.腓骨神経は腓骨頭の下縁に接して下行する.
 下肢の外科の歴史は多くのエピソードをもつが,ここでは銃弾で裂けた大腿動脈の再建について述べる.第二次大戦までは裂けた血管は結紮が主体であり,その再形成が試みられるようになったのは朝鮮戦争からであると言われている.それを1897年にすでに試みた人間がいた.シカゴのMurphy J Bである.

癌の化学療法レビュー・9

膵癌・胆道癌の化学療法

著者: 市川度 ,   仁瓶善郎 ,   杉原健一

ページ範囲:P.121 - P.125

はじめに
 膵癌・胆道癌は,抗癌剤に反応しにくい癌腫である.一般に,膵癌・胆道癌では,desmoplastic reactionと呼ばれる,癌腫周囲の間質増生を伴うことが多い.この間質増生のため,画像診断で癌腫の大きさを正確に評価することが困難となる.
 現在までに,種々の抗癌剤が使用されてきたが,多施設共同研究で20%以上の奏効率が得られた単剤および多剤併用療法は存在しない.膵癌・胆道癌の化学療法の歴史は,単施設での優れた奏効率が報告されると,多施設共同で追認試験が行われ,奏効率が従来の治療法と大差ないと報告されることの繰り返しであった.この理由として,先に述べた画像診断上の評価の困難さのみならず,単施設での抗腫瘍効果の評価が一定の基準で行われていなかった可能性や,1985年以前のCT検査導入前の報告では,肝腫大などの腹部理学的所見による甘い基準で評価が行われていたことによる可能性が挙げられる1)

臨床報告・1

食道気管瘻を合併した悪性気道.食道狭窄に対して,double stent留置によりQOLの改善が得られた1例

著者: 藤瀬直樹 ,   石井俊世 ,   松尾和彦 ,   福島建一

ページ範囲:P.127 - P.130

はじめに
 今回,筆者らは食道気管瘻を合併した悪性気道狭窄,食道狭窄に対して,Y字型Dumon tubeおよびUltraflexTM食道stentのdouble stentingにより,瘻孔の閉鎖,狭窄の解除ができ,QOLの著明改善が得られた症例を経験したので報告する.

咽頭食道憩室内に発生した食道表在癌の1例

著者: 長谷川正樹 ,   海部勉 ,   武藤一朗 ,   高木健太郎 ,   小山高宣 ,   関屋政雄

ページ範囲:P.131 - P.133

はじめに
 咽頭食道憩室の発現頻度は,日本では諸外国に比べ非常に少なく,食道憩室全体の10〜20%を占めるにすぎない1).その中での食道癌の合併は稀であり,本邦ではまだ報告例はない.今回われわれは長期間の愁訴を持つ咽頭食道憩室に,食道表在癌の併存を認めたので報告する.

胃潰瘍穿孔による汎発性腹膜炎術後に発生した脾膿瘍の1例

著者: 北方敏敬 ,   長岡武志 ,   福井博 ,   出射靖生 ,   山岨道彦

ページ範囲:P.135 - P.137

はじめに
 脾膿瘍は,以前は剖検例の0.2〜0.7%に認められる稀な疾患であると考えられていた1).しかし,近年画像診断技術の進歩に伴い,報告例が増加している.今回われわれは,胃潰瘍の穿孔による汎発性腹膜炎術後に発生した脾膿瘍を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

副腎骨髄脂肪腫の2切除例

著者: 馬場秀文 ,   渡辺稔彦 ,   板野理 ,   三浦弘志 ,   今井裕 ,   笹井伸哉

ページ範囲:P.139 - P.143

はじめに
 副腎原発の骨髄脂肪腫は病理学的に脂肪細胞と骨髄系細胞からなる非機能性良性腫瘍で,比較的稀な疾患である1).今回われわれは術前に診断し得た骨髄脂肪腫の2切除例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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