icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科54巻10号

1999年10月発行

雑誌目次

特集 消化管EMRの現状と問題点

1.エディトリアル:EMR—胃における問題点は食道,大腸でも共通か

著者: 鈴木博昭

ページ範囲:P.1259 - P.1263

はじめに
 早期胃癌に対する内視鏡的粘膜切除術(EMR)は,その完全切除の有無が病理組織学的に証明できる理論的な根治的治療法として一定の評価を受け,さらに,その手技は食道表在癌や大腸早期癌に対しても応用されている.EMRの先達はDeyhle1)といわれているが,主としてわが国で発達し,内容の豊富さでも世界をリードしている.1999年のDDW-USA(Orlando,Florida)ではアジアの各国や欧米からの発表もあり,EMRは世界的に認知されつつある2)
 本特集は,食道・胃・大腸と消化管のEMRが部位別に取り上げられ,それぞれの領域での第一線の先生方に執筆をお願いしているのが特徴である.従来は手技のコツや問題点は部位毎に検討される場合が多かったが,今回は食道,胃,大腸のEMRが並列の形で誌面に登場する.各部位のEMRを対比するにはよい機会であり,執筆者たちが読者をどこまで納得させ得るのか興味深い.

2.EMRのための深達度画像診断

著者: 芳野純治 ,   中澤三郎 ,   乾和郎 ,   若林貴夫 ,   奥嶋一武 ,   小林隆 ,   中村雄太 ,   嘉戸竜一 ,   渡辺真也 ,   井上貴夫 ,   高田正夫

ページ範囲:P.1265 - P.1270

 食道癌,胃癌,大腸癌に対するEMRの適応を診断する上でのX線検査,内視鏡検査,超音波内視鏡検査による画像診断の所見について述べた.EMRの適応となる食道癌をX線検査で描出するのは容易ではないが,内視鏡検査では特徴ある所見を呈する.トルイジンブルー法は深達度診断に重要な役割を果たす.胃癌では病変の大きさ,表面性状,陥凹部の性状が深達度診断に重要である.雛襞集中を有する陥凹型癌は適応ではない.大腸癌は正面像,側面像およびその性状より診断される.これらの癌は,超音波内視鏡検査では第3層に変化がない低エコーの腫瘤像として描出される.しかし,通常の超音波内視鏡ではm癌とsm1癌とは区別しにくい.

3.食道病変のEMR

内視鏡内科医から見た適応とピットフォール—食道癌症例について

著者: 村田洋子 ,   鈴木茂 ,   林和彦 ,   吉田一成 ,   中村英美 ,   江口礼紀 ,   中村努 ,   井手博子 ,   高崎健

ページ範囲:P.1271 - P.1275

 食道表在癌に対するEMRの絶対的適応は,リンパ節転移の少ない深達度m1,m2までとされている.すなわち,内視鏡にて,0—IIb型,0—IIa型(1〜2mmの白色隆起),0—IIc型(陥凹面が平坦,細顆粒状),大きさは3cm以下,2/3周以下の病変,超音波内視鏡(EUS)にて病変下に粘膜筋板が保たれているもの,明らかな転移陽性リンパ節がないものとしている.しかし,患者のリスクが高い場合は,深達度(m3,sm1)すなわち0—II型,EUSにてmmの破壊がわずかで,明らかなリンパ節転移がないものまで行っている.この場合は,なるべく一括で切除可能なものが望ましい.また組織所見によって追加治療(放射線療法,化学療法)を行っている.

消化器外科医から見た適応とピットフォール

著者: 吉田操 ,   葉梨智子 ,   神代裕至 ,   山口達郎 ,   竹中芳治 ,   吉田幸弘 ,   門馬久美子 ,   加藤久人 ,   山田義也 ,   小沢広 ,   荒川丈夫 ,   榊信廣 ,   小池盛雄

ページ範囲:P.1277 - P.1280

 食道粘膜癌に対する治療としては,既に内視鏡的粘膜切除術が開発されている.低侵襲,根治性,食道機能の温存,治療成績が手術と同等であることなどが判明した結果,粘膜癌治療においては第一選択の治療法となった.この長所を活かして適応の拡大が図られているが,その現況を手術適応との関係から検討した.m3,m1癌には10%程度のリンパ節転移が存在するが,EMR症例と手術症例の治療成績には差が無かった.この領域にはEMRの適応できる可能性が高いと考えられる.EMR後に3/4周以上の粘膜欠損を生じる症例では食道狭窄が高率である.従来は手術の適応であったが,ブジー拡張法が有効で,解決できる.食道粘膜に多数のヨード不染帯を有する症例では,異時性の多発食道癌を高率に生じ,不染帯一個症例の10倍の頻度となる.EMR後の経過追跡が継続的に出来ない症例の場合は,手術を含めてEMR以外の治療を考える必要がある.

4.胃病変のEMR

内視鏡内科医から見た適応とピットフォール

著者: 浜田勉 ,   近藤健司 ,   板垣雪絵 ,   泉嗣彦 ,   奥田圭二 ,   北村成大 ,   下屋正則 ,   東馨

ページ範囲:P.1281 - P.1287

 内視鏡内科医からみた適応拡大の問題点とEMRのピットフォールについて述べた.EMRにおけるインフォームドコンセントでは,適応だけでなく合併症の頻度や癌遺残やリンパ節転移の頻度についても患者と話し合うことが基本である.適応病変の大きさでは40mmまで問題なく切除可能で,遺残再発を避けるためには術前のマーキングを行い,内視鏡的に治癒切除判定を行うことが重要である.深達度では粘膜筋板からの距離が500μm以内の癌浸潤であれば問題はないが,500μm以上であれば外科的手術を検討する.未分化型癌では浸潤範囲の困難性に加えて深達度診断の難しさがあるので,切除標本の病理学的検索に注意が必要である.多分割切除で思わぬ穿孔例があり,切除後の腹部症状に注意する.

消化器外科医から見た適応とピットフォール

著者: 仁木正己 ,   野村栄治 ,   中村素行 ,   西口完二 ,   奥沢正昭 ,   谷川允彦

ページ範囲:P.1289 - P.1296

 胃粘膜内癌は完全に治癒しうる疾患であり,癌の根治性を失わない治療法を選択することが肝要である.今回,外科切除例および内視鏡的粘膜切除(EMR)例を対象として,EMRを適切に行いうる条件を検討した.その結果は,(1)一括切除が可能な分化型腺癌で,長径20mm未満の隆起型および隆起+陥凹型と長径10mm未満の陥凹型であった.しかし,十分なinformed consentを得ることを条件に,(2)sm癌に対しては,10mm未満のsm1,分化型癌,(3)低分化型癌では切除標本に随伴IIbを伴わず,病巣辺縁に正常腺管が約5mm以上確保されているもの,すなわち,随伴IIbを伴わない10mm未満の病巣に対しても適応を拡大し得るものと考えられた.

5.結腸病変のEMR

大腸EMRの適応とピットフォール

著者: 清水誠治

ページ範囲:P.1297 - P.1303

 内視鏡内科医からみた大腸病変のEMR(endoscopic mucosal resection)に対する考え方について述べた.腺腫やm癌では大型の病変であっても,技術的に困難であったり環周度が高いものを除きEMRの適応である.sm癌では浸潤が粘膜筋板下端から1,000μm以下の病変は基本的にEMRで根治可能と考えられる.またsm癌に対するEMRの適応拡大を図る上では脈管侵襲の有無に着目する必要があると考えられる.EMRの適応を診断する目的には内視鏡所見に基づく評価に加えて,直接的な断層像が得られるEUSが有用であるが,EUSでは技術的理由あるいはリンパ濾胞や線維化の存在による過大評価に注意が必要である.

消化器外科医から見た適応とピットフォール

著者: 工藤進英 ,   田村知之 ,   山野泰穂 ,   為我井芳郎 ,   今井靖 ,   木暮悦子

ページ範囲:P.1305 - P.1310

 大腸腫瘍の内視鏡診断は近年飛躍的に進歩した.すなわちIIcを中心とした陥凹型早期癌やLSTの認識,組織診断に迫る精密なpit pattern診断の確立などである.今日の内視鏡医は陥凹型早期癌に代表される早急な治療を必要とする病変を的確に認識し,即座にEMRの適応を判断し,治療方針を決定・遂行できなければならない.一方で発見したポリープを組織診断をかねてすべてpolypectomyするという非効率的な治療体系(over polypectomy)から脱却することも求められているのである.これらは拡大電子内視鏡によるpit pattern診断をルーチンに行うことにより可能となる.

6.直腸病変のEMRとtransanal endoscopic microsurgery(TEM)

著者: 山下裕一 ,   酒井憲見 ,   馬場美樹 ,   白日高歩

ページ範囲:P.1311 - P.1315

 直腸病変の治療においてEMRの適応となるものは,局所切除で治療可能な腺腫,m癌(粘膜内癌)および一部のsm癌(粘膜下層内癌)であり,確実に一括切除が可能な大きさの病変としている.TEMの適応はEMRと同様であるが,より広い粘膜切除や筋層を含む切除が必要な症例となる.EMRの問題点は,分割切除となり断端の判定が不可能な場合である.EMR後に病変の残存が危惧される場合にはすみやかにTEMによる再切除を行う.早期癌といえども癌遺残や転移再発は重大な結果を惹起しうることを念頭におき治療を行うことが大切である.

カラーグラフ 消化器の機能温存・再建手術・14

直腸癌に対する自律神経全温存低位前方切除術

著者: 杉原健一

ページ範囲:P.1253 - P.1258

はじめに
 器械吻合法やdouble stapling法の開発により1),それまでは直腸切断術が適応されていた症例に括約筋温存術が行われるようになった.一方,直腸癌の局所コントロールの目的で側方郭清を含む拡大リンパ節郭清が導入され,その効果が認められるようになった2).しかし,拡大リンパ節郭清では骨盤内自律神経系が切除されるため,術後の排尿・性機能障害が大きな問題となった3).その解決策の1つとして骨盤内自律神経温存法が開発され,また,側方リンパ節転移の危険因子の研究に基づき側方郭清の適応が再検討された4)
 本稿では下部直腸癌に対する自律神経全温存低位前方切除を紹介する.

消化器疾患の総合画像診断

大腸疾患

著者: 亀岡信悟 ,   板橋道朗

ページ範囲:P.1317 - P.1325

はじめに
 近年の画像診断技術の発達に伴い大腸疾患の術前診断は確実に進歩しつつある.また,患者のquality of lifeを向上させるため症例個々の術式選択がなされる時代になってきた.従来の注腸造影,大腸内視鏡に加えて超音波内視鏡,CTおよびMRIなどの画像診断を効率的に組み合わせ,総合画像診断を行うことが重要である.本稿では,症例を呈示しつつ,結腸および直腸の代表的疾患の診断法とそのポイントについて述べる.

病院めぐり

明和会中通総合病院外科

著者: 花岡農夫

ページ範囲:P.1326 - P.1326

 1602年,初代秋田藩主の佐竹義宣が久保田城を築き代々の居城として以来,城下町の風情が残る秋田市は,現在人口30万人で,当院は秋田駅より徒歩15分ほどの所に位置しています.
 中通総合病院(539床)は,現在の特定医療法人明和会会長瀬戸泰士氏が昭和30年中通診療所として開設,発展した病院です.法人内には中通リハビリテーション病院(220床),大曲中通病院(124床)の2病院の他多くの診療所,訪問看護ステーションや中通高等看護学院を有しています.平成8年には臨床研修指定施設に認定され,医師数は法人全体で116名です.秋田市内には大学病院を始め500床前後の総合病院が5施設あり,良い意味でのライバルとなって地域医療に貢献しています.

石巻赤十字病院外科

著者: 金田巌

ページ範囲:P.1327 - P.1327

 仙台から1時間,牡鹿半島の根本にある石巻市は人口12万人と小さいものの,宮城県第2の市です.経済基盤が漁業にあり,北洋漁業が廃止になって以来深刻な不況に襲われていますが,その後は不況に慣れきったせいか,バブル崩壊後の日本全土を覆っている暗雲も,仲間が増えた程度の醒めた目でみる余裕があったともいえるでしょう.
 当地区の医療対象人口は,周辺9町を含め約25万人になりますが,2年前までは外科があるのは当院を含め2施設にすぎませんでした.しかし最近2つの公的医療機関が新設され,当地の医療にもやっと市場原理が働くこととなり,患者さんにとっては賀とすべきかもしれませんが,築30年を越えた老朽施設で競争を強いられるわれわれにはかなり厳しいものがあります.

臨床外科交見室

オランダにおける胃癌に対するリンパ節D1,D2郭清の無作為比較試験の最終結果について

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.1328 - P.1329

 最近,以前より注目を浴びていた,オランダにおける胃癌のリンパ節D1郭清とD2郭清の無作為比較試験の最終結果がNewEngland Journal of Medicine誌に発表された.オランダにおける胃癌手術ではD2リンパ節郭清はD1郭清と比較して術後合併症および長期生存率の点からメリットはなく,D2郭清は標準治療にはなりえないという結論であった1,2).このトライアルは1989年から1993年までの期間に996人の患者をエントリーし,そのうちD1郭清グループ380人とD2郭清グループ331人の計711人を比較している.重大な術後合併症の頻度はD1グループ25%,D2グループ43%,術後死の頻度はD1グループ4%,D2グループ10%,入院期間もD1グループ14日,D2グループ16日でD2グループが悪く,5年生存率はD1グループ45%,D2グループ47%と有意差はなかった.これは癌のstage別に比較しても有意差はなかった.この無作為比較試験は胃癌のリンパ節郭清に関して長期にわたる生存率の解明という点では世界で初めての結果であり,したがって非常に権威のある雑誌に掲載されている.また同誌に掲載されているアメリカ人医師のコメントは,「日本の胃癌の治療成績が良いのは,stage migrationのためであり,リンパ節郭清のためではない.

メディカルエッセー 『航跡』・36

米国医学部入学制度(2)

著者: 木村健

ページ範囲:P.1330 - P.1331

 入学試験の面接を担当するには,「よし,引き受けた」という返事をするだけでは済まない.面接専門の心理学部の教授によって実施される「入学試験面接担当官セミナー」受講が必須である.通常7時に始まる病院の日常業務の前に1時間,眠い眼をこすりながら指定されたセミナーに出てみると,70名にのぼると聞いていた面接担当志望者の中で出席しているのは5人だけ.1回5人で週3日,同じセミナーを数週間にわたって繰り返し,70名全員が受講し終えるまで続けるという.ニッポンの組織では,全員を一堂に集め1回で終了するのが講習の定形である.だが,セミナーを受けてみると,ニッポン式の講習では到底習得できない面接技術であることがわかった.
 面接の目標は,質問の意味を速やかに理解する知性,思考の統合能力,対話維持の教養を備えた常識の判定である.セミナーはこれらの能力の判定技術をマスターするためにある.講師は5人の受講者に噛んでふくめるような解説をしてくれる.ビデオテープで見せられた模範面接は,テーブルを中にして,椅子に座るときは背すじを伸ばし,前傾して肘をテーブルについてはいけない,視線は相手の目から外すな,質問はゆっくりと明確に,受験者が固くなっているようなら,質問を始める前に相手をリラックスさせるため日常的会話から入れなどなど.セミナー終了真際には,面接の実際のビデオをテレビに映して,受験者の応答を評価するテストを受けさせられる.

外科医に必要な泌尿器科common diseaseの知識・3

陰嚢水瘤,精巣炎

著者: 辻明

ページ範囲:P.1332 - P.1333

はじめに
 はじめに陰嚢腫大と陰嚢痛について簡単に説明する.
 陰嚢腫大は,①陰嚢内臓器の炎症や腫瘍(急性精巣上体炎,精巣上体結核,精巣腫瘍など),②陰嚢内への漿液,リンパ液,血液などの貯留(精巣水瘤,精液瘤,精索静脈瘤,陰嚢浮腫など),③他臓器の陰嚢内へのヘルニア(小腸,大腸,膀胱)で,有痛性と無痛性がある.

外科医に必要な整形外科common diseaseの知識・5

変形性膝関節症

著者: 大山直樹

ページ範囲:P.1334 - P.1335

はじめに
 中高年者で関節の退行変性を基盤に発生する膝痛を経験するものは多い.高齢化社会の現在,変形性膝関節症はますます増加している.したがって,外科,整形外科の診療に携わるものはこの疾患についての基礎的知識を持ち合わせていることが大切となる.そこで,この論文では,①疾患の概念,②診断・検査,③治療について述べることにする.

医療保険指導室より・6【最終回】

座談会:外科臨床と保険医療制度

著者: 北島政樹 ,   宮澤幸久 ,   寺本龍生 ,   渋谷哲男 ,   永田徹

ページ範囲:P.1337 - P.1350

 北島(司会) 医療経済が厳しい中で,いかに医療保険制度をうまく活用して,より効率のよい医療を行っていくか,これが現在問題になっていることと思います.『臨床外科』では5回にわたって「医療保険指導室より」という連載を組みましたが,その締めくくりとして今日は4名の先生方にお集まりいただきました.
 国民皆保険制度が1961年に導入されて,日本では非常に充実した保険制度があるわけですが,最近では国民総医療費が1998年では28兆8000億円,老人医療費が9兆円とかなりの高額に及んでいます.そのような背景の中で医療保険を見ていくと,高齢化による医療費の増大,あるいは少子化による就業人口の減少,保険料患者負担,国庫の逼迫などいろいろな問題点が起こってきました.そういう背景の中で,各病院で実際にどのように医療保険制度を行っているか,それについて今日は根本的なことから,実際の日常の経験までを踏まえてお話し合い願いたいと思います.

臨床研究

乳癌骨転移に対する新規治療戦略としてのビスホスホネート療法

著者: 尾浦正二 ,   櫻井武雄 ,   内藤泰顕

ページ範囲:P.1353 - P.1357

はじめに
 乳癌骨転移は,治癒を得ることが困難である一方で,内臓転移と比較して良好な予後が期待できるという特徴を有する1).それゆえ乳癌骨転移治療は,単に高い奏効率が期待できるといった短絡的な発想ではなく,より長期的な視野に立った治療戦略が強く求められる.
 ピロリン酸の構造類似物質であるビスホスホネートは,破骨細胞による骨吸収を抑制する薬剤であり,骨粗鬆症2)や骨Paget病3)などの骨吸収亢進性疾患に対する有効性が証明された薬剤である.また欧米では,多発性骨髄腫4)や乳癌骨転移5)に対しても積極的にビスホスホネート療法が施行されるようになっている.

標準的血管外科手技の組合せによる弓部大動脈瘤置換手術—人工心肺を用いない単純術式

著者: 多田祐輔 ,   神谷喜八郎 ,   進藤俊哉 ,   小林正洋 ,   石本忠雄 ,   伊従敬二 ,   宮田哲郎 ,   高山豊

ページ範囲:P.1359 - P.1364

はじめに
 弓部大動脈瘤手術は超低体温併用体外循環下に脳保護対策として選択的あるいは逆行性の脳灌流法を加えて行うのが常識となっている.したがって内外ともに体外循環法が不可欠な手術とされているために心臓大血管外科に分類され,一般の血管外科医がこれを取り扱うことはない.しかしながら高齢者に多い真性弓部大動脈瘤の手術は依然として在院死亡率,脳合併症ともに高く,体外循環下における脳保護対策が本手術の主要な研究課題となっている.われわれは人工心肺を用いずに弓部大動脈瘤の処理が出来れば高齢者にはより低侵襲であるとの観点から,1985年から標準的末梢血管外科手技を組み合わせて,人工心肺を使用せずに,また無ヘパリンか,使用しても少量(2,000〜3,000単位)使用下に大動脈解離を除く弓部大動脈瘤手術を一貫して行い,脳合併症,在院死亡ともに人工心肺下手術に劣らない成績を得ているのでその術式の詳細を報告する.

境界領域

妊婦の鼠径ヘルニア—子宮円索の処理方法について

著者: 中村泰啓 ,   山代寛 ,   梶谷真司 ,   赤木瑩子 ,   井口昌憲 ,   近藤恒正

ページ範囲:P.1365 - P.1369

はじめに
 鼠径ヘルニアの手術において,男性(男児も含む)における精索の取り扱い方に関しては精管や重要血管の損傷のないように十分配慮されていることが多いのに対して,女性(女児も含む)の子宮円索(円靭帯)の処理方法に関しては関心も薄く,曖昧にされていることが多い1〜4).今回われわれは,妊娠中に発症した外鼠径ヘルニアに対して,mesh plug法によるtension freeヘルニア修復術5,6)を4例に施行する機会を得て,子宮円索の重要性を再認識し,一般に普及している子宮円索を大きく損傷したり切断したりしてもよいとする従来の方法1〜5)で本当によいのか大いに疑問を感じたので,新たに問題提起をするためにも,若干の考察を加えて報告する.

臨床報告・1

下大静脈フィルター上の血栓に対して,追加のフィルター挿入を行い,カテーテルによる血栓溶解に成功した1例

著者: 戸谷直樹 ,   鈴木且麿 ,   藤岡秀一 ,   山崎洋次

ページ範囲:P.1371 - P.1374

緒言
 深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)に際して肺動脈塞栓症(pulmonaly embolism:PE)の予防目的にしばしば下大静脈フィルター挿入が行われる.しかし,稀な合併症として血栓の再発やPE再発がある1,2).われわれは,下大静脈フィルター挿入後に,フィルター直上の下大静脈血栓とPEの再発を認めた症例に対して予防的に2個目のフィルターを挿入し,最終的に下大静脈血栓の溶解に成功したので報告する.

十二指腸閉塞をきたした成人腸無回転症に腹腔鏡下Ladd手術を施行した1例

著者: 吉田正則 ,   加納正人 ,   菅典道

ページ範囲:P.1375 - P.1377

はじめに
 腸回転異常症は,中腸軸捻転症が発生しやすく,成人まで無症状で経過することは稀である1).一方,成人腸回転異常症の大部分は無症状であることが多い2)が,中腸軸捻転を起こす危険性があるため,最近では進んで腹腔鏡下手術が行われるようになってきている3,4).今回われわれは,十二指腸閉塞をきたした成人腸無回転症に対し,腹腔鏡下手術を行った症例を経験したので報告する.

虫垂粘液嚢腫の1例

著者: 大上英夫 ,   竹森繁 ,   坂本隆 ,   塚田一博 ,   高木弘明 ,   高木弘

ページ範囲:P.1379 - P.1382

はじめに
 虫垂粘液嚢腫は比較的稀な疾患であり,症状が非特異的であるため,他疾患の精査,手術を契機に発見されることが多い1).今回精査中に腫瘤が移動し,高CEA血症を呈した虫垂粘液嚢腫の1例を経験したので,若干の考察を加え報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?