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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科54巻11号

1999年10月発行

雑誌目次

Ⅰ.救急患者の薬物療法 1.蘇生術とショック

心肺蘇生

著者: 稲葉英夫

ページ範囲:P.10 - P.12

基本的な事項
 心肺蘇生は心停止に対して実施される.心肺蘇生(法)は一次救命処置(basic CPR)と二次救命処置(advanced CPR)に分類される.一次救命処置とは胸骨圧迫心マッサージおよび呼気吹き込み人工呼吸で心拍を再開させようとする行為である.すなわち,特殊な器具や医薬品を用いることなく,医師以外の者でも行いうる気道確保,人工呼吸,胸骨圧迫心マッサージからなる心肺蘇生である.二次救命処置(advanced CPR or advanced cardiac life support)とは一次救命処置に加え,さらに高度な気道確保と換気の技術,除細動,経静脈的あるいは経気道的薬剤投与を用いて,心拍を再開させようとする行為である.

アナフィラキシーショック

著者: 永納和子 ,   山中郁男

ページ範囲:P.13 - P.15

アナフィラキシーとは
 すでに感作されている物質に再び曝露した場合,IgE抗体を介する免疫学的抗原抗体反応が起きる.その結果,肥満細胞や好塩基球からヒスタミンやロイコトリエン,プロスタグランディンなどの化学伝達物質が放出され,急激な全身反応を発症する.これをアナフィラキシーという.免疫学的反応ではなく,補体の活性化や起因物質による肥満細胞や好塩基球の直接刺激などで同様の症状を発症するものをアナフィラキシー様反応といい,初回曝露でも起こりうる.両者は臨床的に区別できないことが多く,治療や検査も同様に扱う.
 原因物質は食物や虫刺症によるものを除くと薬剤が大部分であるが,あらゆる物質の摂取・接触により発症する可能性がある.

心原性ショック

著者: 上嶋権兵衛

ページ範囲:P.16 - P.17

はじめに
 心臓の一次性原因によるポンプ機能障害で末梢組織の代謝要求に対応できない循環不全が心原性ショックと定義され,急性心筋梗塞に起因するものが大部分である.臨床的には心拍出量の低下,循環不全に起因する末梢組織のhypoxiaに伴う症状や所見が認められる.心原性ショックの原因が非可逆性の病変や,たとえ回復可能な原因であっても速やかに効果的な治療が行われないとその死亡率は85%以上となる1).したがって,心原性ショックの治療の原則は病態を迅速に把握し,是正できる原因疾患の速やかな除外診断とともに原因疾患に対する根治的な治療を含めた循環不全に対する治療により,臨床症状および血行動態の安定化をはかることである.

出血性ショック

著者: 漢那朝雄 ,   後藤謙和 ,   橋爪誠

ページ範囲:P.18 - P.20

はじめに
 臨床医が最も経験するショックである出血性ショックについて,薬物療法を中心に概説する.

細菌性ショック

著者: 中敏夫 ,   篠崎正博

ページ範囲:P.21 - P.22

はじめに
 細菌性ショックはその病態の飛躍的な解明にもかかわらず現在でも予後不良の病態である.今回は細菌性ショックに対して現在行われている治療について概説する.

2.精神・神経系

意識障害

著者: 池田幸穂 ,   松本清

ページ範囲:P.23 - P.25

意識障害患者への対応のポイント(図1)1)
 1.状況の把握,病歴聴取
 ①意識消失時の状況:どのような発症であったのか(突然なのか,徐々になのか,外傷の有無など).
 ②既往歴,飲酒歴

痙攣

著者: 町井克行 ,   葛原茂樹

ページ範囲:P.26 - P.28

基本的な事項1〜3)
 救急医療の痙攣発作の中で迅速な対応が必要なのは「てんかん重積」および発作が頻回に繰り返される「重積前状態」の2つである.全身痙攣が長時間持続すると咽頭・喉頭筋群の痙攣による呼吸筋の運動制限,分泌物による気道閉塞,骨格筋の酸素消費量の増加によって,脳が二次的に低酸素状態に陥ることにより非可逆的な脳障害を起こしたり,生命を脅かす場合がある.そのため,診断はもちろんであるが早期治療を速やかに,確実に行わなければならない.薬物療法に際しては,呼吸・循環抑制を生じる薬物を使用するので,十分な監視下で治療を行う.

脳出血

著者: 安井信之

ページ範囲:P.29 - P.31

はじめに
 脳動脈瘤,脳動静脈奇形,もやもや病などの血管の病気や脳腫瘍が脳出血の原因となることがあるが,最も頻度が高いのはいわゆる高血圧性脳出血で,脳内の細い動脈壁が病的に変化した部(高血圧に伴う脳内小動脈の血漿性動脈壊死やそれに基づく脳内小動脈瘤,動脈硬化,アミロイド変性など)の破綻により起こる.脳出血はCTにより病名診断,出血部位,広がり,さらに脳出血に伴う再出血,水頭症,脳浮腫などの二次的な病態が容易に診断できる.これらの病態を診断し,病態に見合った治療を行うことが重要である.

脳梗塞

著者: 大坪亮一 ,   峰松一夫

ページ範囲:P.32 - P.34

基本的な事項
 脳梗塞とは,「脳の血管病変のために脳実質内に生じた,虚血による突発性の局所的脳機能障害」と定義される.脳梗塞は臨床カテゴリーから4型に,機序から3型に分類されている(表1).これは同じ脳梗塞でも病型によって病態が異なることを示しており,治療法とも密接に関係することになる.
 脳梗塞の急性期治療は脳病巣自体に対する治療だけでなく,呼吸管理,消化管出血の予防・管理,排泄管理,静脈血栓の予防・治療,水・電解質バランスの管理,血圧管理など,二次的合併症の管理が必要である.このため,虚血性心疾患におけるcoronary care unit(CCU)のように,脳卒中の専門的医療チーム(stroke care unit:SCU)による管理が望ましい.

めまい

著者: 足立智英 ,   高木誠

ページ範囲:P.35 - P.37

めまいの患者をみたら
 めまいを呈する疾患には様々なものがあり(表1)1),患者が訴えるめまいもまた一様ではなく,回転性,動揺性など様々である.しかし,原因疾患によって治療の緊急性,治療方法が大きく異なり,生命の危険がある場合もあるため,めまいの鑑別診断は重要である.鑑別診断のためにはまず詳細な問診と診察が必要となる.

興奮,錯乱

著者: 長谷川朝穂

ページ範囲:P.38 - P.40

救急医療の場における興奮,錯乱
 救急医療の場において興奮あるいは錯乱といった症状をもった患者に遭遇するケースは,以下の3つに分類される.
 ①症状が精神分裂病,躁うつ病など狭義の精神疾患による場合

3.代謝・内分泌系

脱水症

著者: 山中英治 ,   日置紘士郎

ページ範囲:P.41 - P.43

基本的な事項
 1.体液の基礎
 成人男性の体内水分量は体重の約60%で,その3分の2が細胞内液,3分の1が細胞外液である.さらに細胞外液の4分の1が血管内すなわち血漿で,4分の3が血管外すなわち間質液である.血管壁は半透膜で電解質は通過するが蛋白分子は通過しない.ゆえに血管内外で膠質浸透圧が生じる.正常時は毛細血管の静水圧と均衡しているが,高度低蛋白血症では膠質浸透圧が低下して間質に水分が移動するので,血管内水分量(循環血液量)の減少や浮腫の原因となる.
 細胞外液と細胞内液の電解質組成は全く違うが,浸透圧(正常値290±5mOsm/kgH2O)は常に等しく保たれている.ゆえに浸透圧に差が生じると低いほうから高いほうへ水分が移動する.生体内で浸透圧に関与している主な物質はNa,ブドウ糖,BUNである.

アシドーシス

著者: 塚本雄介

ページ範囲:P.44 - P.46

定義
 アシドーシス(acidosis)とアルカローシス(alkalosis)の用語は往々にして間違って使われている.動脈血液ガス分析で実際にpHが正常範囲(7.5〜8.0)より低下している状態は酸血症(acidemia),増加している状態はアルカリ血症(alkalemia)と呼ばれ,アシドーシスおよびアルカローシスとは厳密には異なる.アシドーシスおよびアルカローシスとはそれぞれ血液中にHまたはOHが増加するような病態が存在することを指し,それぞれ呼吸性または代謝性の代償が追いつかなくなると実際に血液pHが正常域を逸脱し,酸血症またはアルカリ血症を呈するようになる.このことを理解していないと,血液pHだけに目を奪われて酸—塩基平衡異常を見落とすことになる.特に代謝性アシドーシスに代謝性アルカローシスが合併するような複雑な病態を理解できなくなる.これが奇異に聞こえるとすれば前述の意味を理解していない.例えば尿毒症で代謝性アシドーシスを呈し,かつ嘔吐が起きるとクロール喪失による代謝性アルカローシスが合併することになるのである.アシドーシスとはあくまで病態を指しているのであって,必ずしも酸血症でなくても良い.

アルカローシス

著者: 藤井正満

ページ範囲:P.47 - P.50

はじめに
 代謝性アルカローシスの治療に際してはまずその病態生理を理解しておくことが必須である.そして代謝性アルカローシスが発生する原因と腎で過剰なHCO3が排泄できない要因を検討し,それぞれを除去する必要がある.
 呼吸性アルカローシスではその原疾患への治療が必要で,アルカローシスに対する特異的な薬物治療はないため,本稿では省略する.

高血糖,低血糖

著者: 土井隆一郎 ,   井上一知 ,   今村正之

ページ範囲:P.51 - P.54

高血糖の原因
 救急患者において高血糖が問題になるのは,①ケトン性昏睡(diabetic ketoacidotic coma)および,②高浸透圧非ケトン性昏睡(hyperosmolar non-ketotic diabetic coma)を発症した患者である.その他に,③乳酸アシドーシス,④清涼飲料水ケトーシスが高血糖性昏睡の原因として重要である(表1).ケトン性昏睡は若年者(多くは30歳以下)のインスリン依存型糖尿病(IDDM)の発症時や,IDDM患者が何らかの理由でインスリン注射を中断したときやインスリン治療が不十分であったとき,あるいはIDDM患者が感染症,手術,外傷などの強いストレスにさらされた場合などに起こる.一方,高浸透圧非ケトン性昏睡は高齢者(多くは50歳以上)のインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)に起こることが多く,感染症,ステロイド,サイアザイド系利尿剤,脱水,熱傷,膵炎,肝機能障害が誘因となる.乳酸アシドーシスは敗血症や心不全に伴う末梢循環不全による二次的組織アノキシアによりピルビン酸や乳酸の産生が亢進して起こるが,循環呼吸不全と糖尿病が併存すると発症しやすい.糖尿病患者において経口血糖降下剤であるビグアナイド剤が誘因となる.清涼飲料水ケトーシスは肥満者のNIDDMに発症する病態で,高血糖による口渇を癒すために清涼飲料水(糖液)を多飲することにより血糖がさらに上昇し,ケトーシスをきたす1)

高熱

著者: 野村哲彦 ,   長谷川均

ページ範囲:P.55 - P.57

基本的な事項
 発熱は主訴として最もよく見られる症状のひとつであり,多くの疾患で出現し,診断に苦慮する場合も多い.通常成人の体温は口腔内温で36.8±0.4℃であり,発熱の程度により37℃台を微熱,38℃以上を高熱と分ける.表に示すように発熱をきたす疾患は数多くあるが,感染症,悪性腫瘍,膠原病が3大疾患である。発熱患者を診察するときはまず迅速な全身状態の評価を行い,これらに対する処置を行い,次に発熱原因の追求をする.その結果に基づいて原因疾患の治療をするのが最終目標である1)

4.循環器系

胸痛

著者: 斎藤徹

ページ範囲:P.58 - P.60

はじめに
 胸痛をきたす疾患は狭心症,急性心筋梗塞,急性心膜炎,急性心筋炎などの心疾患が多いが,急性大動脈解離,肺血栓塞栓症などの血管疾患,自然気胸,肋膜炎などの肺疾患,肋間神経痛,帯状包疹などのその他の疾患に分けられる1).これらのうちの主な疾患の薬物療法について述べる.

不整脈

著者: 松居喜郎 ,   安田慶秀

ページ範囲:P.61 - P.63

主要症状,所見と診断
 救急患者の不整脈出現時の訴えはその重症度にかかわらず個人差が大きく注意が必要である.一般に120回/分以上の頻脈性不整脈では動悸,胸部圧迫感,呼吸困難感などがみられ,50回/分以下の徐脈性不整脈ではめまい,目の前が暗くなり意識が遠のく感じ,全身倦怠感などの訴えが出てくる.約200回/分以上の高度の頻脈や,逆に30回/分以下の徐脈が急激に発症すると,心拍出量の減少とともに血圧低下,さらに脳組織への血流低下を起こし,一過性の意識消失や痙攣を起こすことがある(アダムス・ストークス〔Adams-Stokes〕発作).
 救急の現場で心電図モニターで鑑別診断しなければならない最低限の不整脈として,アメリカ心臓病学会では,①洞性不整脈,②洞性徐脈,③心房性期外収縮,④発作性上室性頻拍,⑥心房粗動,⑥心房細動,⑦房室接合部調律,⑧心室性期外収縮(頻発性,多源性,R on T現象を含む),⑨心室性頻拍(トルサド・ドゥ・ポアントを含む),⑩心室細動,⑪心停止,⑫I度,II度(モビッツI型,II型),III度房室ブロックを挙げており,心電図上の特徴は覚えておく必要がある1)(図).不整脈の種類により治療戦略は異なり,薬剤治療,電気ショック,心臓ペースメーカーなどを組み合わせて治療する必要がある.

5.呼吸器系

呼吸困難

著者: 相馬一亥

ページ範囲:P.64 - P.65

基本的な事項
 呼吸困難は一般的に呼吸仕事量の負荷に伴って感じられ,その受容体は化学受容器(中枢性,末梢性),肺内受容器(伸展受容器,刺激受容器,C線維),呼吸筋受容器が知られている.最も関連性が高いのは呼吸筋受容器と考えられている.換気の機械的障害は拘束性障害と閉塞性障害の2つに分類され,拘束性障害の特徴は吸気・呼気が最大に行えない状態で,肺のコンプライアンスの低下,正常肺組織の非換気病変による占拠,呼吸筋力低下あるいは呼吸筋麻痺,胸郭の運動障害によって生じ,臨床的には浅い速い呼吸となる.一方,閉塞性障害は気道閉塞・狭窄による障害であり,上気道あるいは下気道狭窄に分類される.原因は異物,炎症,腫瘍,気道攣縮,弾性力低下などである.

喘息発作

著者: 高木健三

ページ範囲:P.66 - P.68

基本的な事項
 喘息は病因の不明な体質的な疾患であり,病因の除去によって疾患の治癒を目指すことは困難な現状である.現在,到達しうると考えられる管理・治療は,気道炎症の原因の回避・除去,気流制限を惹起する因子の回避・除去,そして薬物療法による炎症の抑制と気道拡張とにより,気道過敏性と気流制限を軽減ないし寛解することである.その結果,日常生活,できれば呼吸機能を正常化し,患者のQOLを改善することである.

喀血

著者: 益子邦洋 ,   工廣紀斗司

ページ範囲:P.69 - P.70

基本的な事項
 喀血は肺結核,気管支拡張症,肺動静脈奇形,肺動脈瘤,肺塞栓,肺炎,気管支炎,肺化膿症,肺癌などの肺疾患のほか,肺損傷,喉頭癌,うっ血性心不全,血液疾患などに伴って見られる1)
 喀血が少量であれば生命の危険を伴うことはないが,大量の場合には急激な経過で窒息から死に至ることがあり,診断や治療では緊急度や重症度を常に念頭に置いておかなければならない.

過換気症候群

著者: 清水孝一 ,   大井元晴

ページ範囲:P.71 - P.72

はじめに
 換気量の増加と呼吸性アルカローシスによる種々の不安感や身体症状を呈する過換気症候群は遭遇することの多い病態である.本稿では過換気の病態を踏まえて過換気症候群の治療を概説する.

6.消化器系

腹痛

著者: 岡本和真 ,   沢井清司 ,   山岸久一

ページ範囲:P.73 - P.75

はじめに
 腹痛は日常診療の場でよく遭遇する訴えのひとつである.腹痛の原因のほとんどが消化器の器質的あるいは機能的疾患によるものであるが,冠動脈疾患,肺・胸膜疾患,子宮とその付属器疾患や代謝性疾患なども原因になることを常に念頭に置く必要がある.また,腹痛の診察で最も大切なことは外科的な緊急処隅を必要とするか否かを的確に判断することである.これらを鑑別したうえで薬物療法による鎮痛がなされるべきである.

嘔気,嘔吐

著者: 古河洋 ,   池田正孝 ,   龍田眞行 ,   桝谷誠三 ,   平塚正弘 ,   石川治 ,   石田秀之 ,   宮章博 ,   川崎高俊 ,   里見隆

ページ範囲:P.76 - P.77

病態,原因
 嘔気,嘔吐は日常診療の中でしばしばみかけるが,多くの場合原因として大きな疾患が存在する.

吐血

著者: 外村修一 ,   小西敏郎

ページ範囲:P.78 - P.79

吐血の概論
 吐血患者を救急で診察する場合,まず患者の全身状態を把握することが肝要となる,バイタル・サインをチェックし,出血性ショックに陥っている場合はその対策を優先する.全身状態の改善をはかりながら,同時に出血部位と原因疾患の検索を行う.その際,吐血の性状,疾患の既往などが出血部位と原因疾患を推測するうえで重要である(表1).
 全身状態が落ち着いたら直ちに緊急内視鏡を行い,出血部位と原因疾患を検索する.出血部位としては食道,胃,十二指腸が考えられ,原因疾患としては静脈瘤,潰瘍,急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion:以下,AGML),癌,Mallory-Weiss症候群などが考えられる(表2).出血部位と原因疾患,ならびにその程度に応じて治療計画を立てる.

下血

著者: 寺嶋吉保 ,   田代征記

ページ範囲:P.80 - P.82

 下血をきたす疾患病態は多岐にわたり,治療方法も異なる.各々の疾患病態に対する治療については別に詳しく説明されるので,この項では診断時の注意点を中心に述べる.

7.腎・尿路系

乏尿,無尿

著者: 戸澤啓一 ,   郡健二郎

ページ範囲:P.83 - P.85

基本的な事項
 乏尿(oliguria)または無尿(anuria)は糸球体濾過量(GFR)の減少,尿細管再吸収の増加,尿路の通過障害などによって起こる.

尿閉

著者: 橋本良博 ,   郡健二郎

ページ範囲:P.86 - P.87

基本的な事項
 尿閉とは排尿が不可能となり,膀胱内に尿が充満した状態であり,溢流性尿失禁を伴うことが多い.全く尿を排出できない完全尿閉と,残尿は多いが少しは排尿できる不完全尿閉がある.急性あるいは慢性尿閉という分け方もあり,急激に尿閉になった場合には激しい尿意と膀胱部の疼痛を訴える(急性尿閉)が,尿閉状態を徐々に生じた場合には疼痛,尿意をほとんど訴えない(慢性尿閉).無尿との鑑別が大切であるが,徐々に膀胱拡張をきたし,慢性の経過をとって尿閉となった場合には強い尿意を訴えないことがあり,無尿と誤診されるので注意を要する.脊髄損傷や腫瘍に起因した神経因性膀胱以外は泌尿器系の疾患がほとんどである.男性に多く,原因は前立腺肥大症,前立腺炎,前立腺癌,膀胱結石,高度の尿道狭窄,尿道断裂,尿道損傷などがあり,処置の上からも男性が重要である.多くはカテーテル挿入が可能であって,尿の排出がみられるが,尿道狭窄,尿道損傷のときには挿入できないときもある.そのような場合には膀胱が拡張していることを確認の上,下腹部正中線で恥骨直上を長針で穿刺して排尿を試みなければならない.女性でも直腸癌などの骨盤内手術後や糖尿病による神経因性膀胱で尿閉をきたすことがある.前立腺肥大症の患者がアルコール多飲後(前立腺がさらに腫脹),感冒薬,胃薬の内服後(抗コリン作用など)に急性の完全尿閉をきたして来院する例が多い.

血尿

著者: 山田泰之 ,   郡健二郎

ページ範囲:P.88 - P.89

基本的な事項
 血尿とは尿中に赤血球が混じる状態をいい,その程度で顕微鏡的血尿と肉眼的血尿に区別される.救急患者の場合は主に後者の場合なのでそれについて述べる.
 血尿の治療は当然その原因疾患(表)を確定することから始まるが,対症療法としても十分な知識が欲しいものである.診断確定においては十分な問診が必要であり,特に血尿に関してはその状態(間欠的か持続的か,症候性か無症候性か,全血尿か排尿終末時血尿か,など)や既往歴が診断の大きな助けとなる.

8.外因による障害

熱傷

著者: 安瀬正紀 ,   千島康稔 ,   奥村仁

ページ範囲:P.90 - P.92

基本的な事項
 熱傷,特に受傷面積30%,熱傷指数(burn index)15を越えるような重症例では治療期間は長期にわたる.病期も受傷直後から1週間前後の循環動態の不安定なショック期,ショック後期,多少の重複はあるものの,その後数週間にわたり壊死創が切除され,自らの皮膚で被覆されるまでの数回に及ぶ焼痂切除,植皮手術が行われ,局所の感染から全身性の敗血症に拡大する感染症対策に治療の全力が注がれる感染期,その後のリハビリテーション期,広範な瘢痕拘縮に対する再建手術期と多彩を極める.したがってその治療の目的,内容は各々の病期によって大きく異なり,系統的なマニュアルを提示することは困難となる.本稿では受傷直後から48時間前後の初療,ショック期の治療について述べることとする.

熱射病

著者: 宮城良充

ページ範囲:P.93 - P.96

はじめに
 高温の環境下に生体に生じる障害は日射病(heat syncope),熱痙攣(heat clump),熱疲労(heat exhaustion),最も重篤な熱射病(heat stroke)がある.熱射病は紀元前24年の古代ローマ時代にすでに軍隊の行軍中に発症する死亡率の高い疾患として記載されたものの,19世紀半ばまで高い外気温と体温,臨床症状との関連がわかっていなかった.1946年Malamudらによって熱射病から多臓器不全に陥る症例を呈示されてから病態解明は大きく進んだ.その後50年たっても病因は完全には解明されておらず,近年エンドトキシンやサイトカインの関与も取りざたされており,興味のある疾患である1)

低体温症

著者: 城嘉孝 ,   佐藤俊秀 ,   岡元和文

ページ範囲:P.97 - P.99

基本的な事項
 低体温症とは直腸温などの深部体温が35℃以下に低下した状態をいう.脳保護目的や心臓麻酔などにおける人為的低体温と区別して,寒冷曝露で非人為的に生じたものを偶発性低体温症と呼ぶ1,2).本症では深部体温の低下とともに標的臓器の薬物に対する反応性が低下する.また肝臓の代謝機能が低下し,薬物の血中半減期は延長する。したがって初期治療における薬物使用は必要最小限にとどめ,復温後過量にならないように注意する.

中毒

著者: 西岡憲吾 ,   石原晋

ページ範囲:P.100 - P.101

はじめに
 中毒を引き起こす原因物質は医薬品,家庭用品,化学薬品,農薬など多彩に存在し,中症が起こる形態の様式も事故,自殺,誤飲,テロ行為など多岐にわたっている.急性中毒の治療において最も重要なことは全身管理と原因物質の同定,中毒原因物質の体内からの除去である.原因物質が同定でき,その解毒拮抗剤が存在すれば,その拮抗剤を投与することでその中毒作用を減弱させたり,症状を改善することができる.ただ,原因物質を早期に同定することは必ずしも容易ではなく,解毒拮抗剤が存在しないこともある.その場合は呼吸管理,循環管理,体液管理,感染防止,栄養管理など非特異的な治療,対症療法を駆使して治療にあたらなくてはならない.
 非特異的な中毒原因物質の体内からの除去手段としては水洗,催吐,胃洗浄,下剤・活性炭投与,腸洗浄などによる未吸収毒物の除去,強制利尿,血液浄化法などの排泄促進がある.

創傷

著者: 田中一郎 ,   萩原優

ページ範囲:P.102 - P.103

基本的な事項
 創傷は物理的外力による体表組織の損傷を意味する.創部の状態による分類では挫傷,擦過症は非開放性の機械的損傷である.一般的にこれらの疾患で重篤になることは少ないが,創傷治癒の管理の失敗は単に治癒を遅らせるだけでなく,後障害の誘因にもなりうる.
 挫傷は一般的に打撲症と同義語として用いられるが,厳密には挫傷の中には打撲症のほかに内臓の挫傷が含まれる.

Ⅱ.検査・処置・内視鏡的治療に伴う薬物療法

1.経静脈栄養,中心静脈栄養法

著者: 城谷典保

ページ範囲:P.106 - P.109

はじめに
 Dudrickらにより始められた中心静脈にカテーテルを留置して高濃度グルコース,アミノ酸液を投与する静脈栄養法は中心静脈栄養法と呼ばれ,アメリカで発展してきた.これに対してスウェーデンのWretlindらが脂肪乳剤を開発した経緯もあり,ヨーロッパでは末梢静脈栄養法が広く普及した.

2.IVR

著者: 山内栄五郎 ,   中村龍治 ,   杉浦孝司

ページ範囲:P.110 - P.112

はじめに
 インターベンショナルラジオロジー(以下,IVR)とは画像診断学的知識に基づいて非手術的療法を行う治療の総称であり,通常はインターベンションとかIVRと言われることが多い.
 IVRは単一の手技を指すのではなく,動注化学療法,経動脈的塞栓術(transarterial emboli-zation:以下,TAE)などからステント留置などまで広範な手技の集合であり,よってそれに伴う薬物療法も多様である.

3.上部消化管

EIS(内視鏡的食道静脈瘤硬化療法),EVL(内視鏡的食道静脈瘤結紮術)

著者: 萩原優 ,   田中一郎 ,   小森山広幸

ページ範囲:P.114 - P.115

はじめに
 食道静脈瘤に対する治療法の第1選択として,内視鏡的食道静脈瘤硬化療法(endoscopic inje-cion sclerotherapy:EIS)や内視鏡的食道静脈瘤結紮術(endoscopic variceal ligation:EVL)が広く普及している,
 これらの治療法を成功させるためには手技そのものに必要な薬物と合併症を予防するための薬物があるが,いずれにも細かな配慮が必要である.

EMR(内視鏡的粘膜切除術),ポリペクトミー

著者: 幕内博康

ページ範囲:P.116 - P.117

基本的な事項
 診断技術の進歩と早期癌の病態の解明が進み,minimally invasive surgeryとして内視鏡的粘膜切除術(EMR)が広く行われるようになってきた.消化管の粘膜癌に対する第1選択の治療法となっている.
 上部消化管のEMR,ポリペクトミーに伴う薬物療法は食道,胃,十二指腸で異なる.

PEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術)

著者: 鈴木裕 ,   青木照明 ,   鈴木博昭

ページ範囲:P.118 - P.120

はじめに
 経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endo-scopic gastrostomy:PEG)は1980年にGaudererら1)によりはじめて報告されたが,その低侵襲性と経済性から瞬く間に普及し,現在では胃瘻造設術の標準的術式となっている.一方,本邦においては医療保険制度やわずかな傷をも忌み嫌う国民性などが影響して欧米ほどの普及をみなかったが,未曾有の超高齢化社会を迎える社会状況から,ここ数年急激に増加傾向を示している.
 PEGは間腔内臓器と体表との間に瘻孔を作るいわゆる外科手術であることから,通常の内視鏡治療と外科治療の側面を持った管理法が要求される.そこで本稿ではPEGの術前・術中・術後の薬物療法を中心にした管理について述べる.

4.下部消化管

EMR(内視鏡的粘膜切除術),ポリペクトミー

著者: 工藤進英 ,   田村知之 ,   為我井芳郎 ,   山野泰穂 ,   今井靖

ページ範囲:P.121 - P.122

大腸内視鏡検査に伴う薬物療法
 1.前処置
 以前は注腸X線検査に準じてBrown変法が用いられていたが,近年は経口洗腸液としてポリエチレングリコール(以下,PEG)(ニフレック®)2lを用いる方法が一般的である1,2).この方法は,①便秘のない患者では前日の食事制限を必要としない,②腸管内の固形残渣が従来の方法に比べ非常に少なく精度の高い検査が行える,③腸管とスコープの滑りがよく内視鏡挿入がやりやすい,などの利点がある.一方,習慣性便秘のある患者では検査前日就寝前にラキソベロン®5〜10mlまたはプルセニド®2〜4錠の投与を行うべきである.それでも前処置が不良の場合はPEG 1l程度を追加飲用させる.また微温湯による洗腸を必要とする場合もある.PEGによる前処置の副作用として嘔気,腹痛,冷感などがみられるがいずれも軽微な場合が多く,飲用時間を調節するだけで問題ない場合が多い.しかし注意すべき副作用としてマロリーワイス症候群や虚血性腸炎を惹起する場合が報告されている.また最近では,前日を検査食とすることでPEGの飲用量を減らす試みもなされている3).PEG飲用の絶対的禁忌は腸閉塞,相対的禁忌は虚血性腸炎である.

5.肝胆膵

PTBD(経皮経肝胆道ドレナージ)

著者: 平松和洋 ,   神谷順一 ,   梛野正人 ,   上坂克彦 ,   佐野力 ,   二村雄次

ページ範囲:P.123 - P.125

はじめに
 経皮経肝胆道ドレナージ(percutaneous trans-hepatic biliary drainage:PTBD)は胆道疾患の診断,治療法のひとつとして定着している1〜4).適応は肝内結石や総胆管結石,そして良性胆道狭窄といった良性疾患から膵,胆道癌などの悪性疾患まで多岐にわたる.特に肝門部胆管癌においては減黄や精密診断を行うためだけでなく,肝内区域性胆管炎を治療するために不可欠な診断・治療手段となっている2〜4)
 PTBDの前後における薬物療法としてはPTBD施行時の鎮痛剤,胆汁ドレナージ中の補液管理などが中心となる.

PTCS(経皮経肝的胆道鏡)

著者: 石山純司 ,   山川達郎

ページ範囲:P.126 - P.128

はじめに
 PTCS(percutaneous transhepatic chol-angioscopy)は,拡張したPTBD(percutaneous transhepatic biliary drainage)瘻孔を介して行う内視鏡検査であり,胆道ファイバースコープ1)の開発とその進歩により,胆道疾患の診断と治療になくてはならないものとなっている.PTCSの目的と臨床的意義は表1に示すごとく,主として結石の有無の確認とその摘出,あるいは良,悪性の胆管狭窄の診断と治療にある2〜5)
 PTCSは瘻孔さえ確保されていれば比較的容易に,繰り返し検査が行えることが利点であり,手技に熟達した術者が行うならば苦痛の少ない検査法である.

TAE(経動脈的塞栓術)

著者: 田尻孝 ,   恩田昌彦 ,   吉田寛

ページ範囲:P.130 - P.131

はじめに
 経動脈的塞栓術(transarterial embolization:以下,TAE)は,出血に対する緊急止血1),肝細胞癌2),門脈圧亢進症3〜5)などの治療として手術より低侵襲なinterventional radiology(以下,IVR)として広く普及している.
 以下,TAE前後および術中薬物療法の実際を適応別に述べる.

PEI(経皮的エタノール注入療法)

著者: 浅原利正 ,   片山幸治 ,   板本敏行 ,   土肥雪彦

ページ範囲:P.132 - P.133

はじめに
 肝細胞癌に対する治療としては外科的切除,経皮的エタノール局注療法(PEI),経カテーテル的肝動脈塞栓療法(TAE)などが代表的である.
 経皮的エタノール局注療法(PEI)は毒性が少なく,かつ迅速な組織凝固作用を持つ99.5%無水エタノールを超音波ガイド下に腫瘍に注人し,その周囲肝実質を含めて壊死させようとする局所治療法であり,1982年にEbaraらによって開発された1,2).その適応基準は腫瘍径3cm以下,腫瘍数3個以内とされ,以来この適応基準が広く用いられ現在に至っている.PEIの特徴は局所麻酔下に超音波ガイド下穿刺術を応用した手技を用いることにより,簡便かつ低侵襲で繰り返し施行できる点にある.しかし,当然のことではあるが超音波検査で描出の不良な腫瘍や,難治性腹水や高度の黄疸,出血傾向などの重篤な肝不全例はその適応外となる.

ERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影法),EST(内視鏡的乳頭括約筋切開術)

著者: 齊藤信明 ,   眞栄城兼清 ,   池田靖洋

ページ範囲:P.134 - P.135

基本的な事項
 各種画像検査法の中で,内視鏡的逆行性膵胆管造影法(endoscopic retrograde cholangiopancre-atography:ERCP)は膵管,胆管の管腔描出に優れているため,膵胆道疾患の病態の精査に不可欠な検査法である.また,内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy:EST)は総胆管結石の標準的治療法として確立されている.一方,ERCPやESTは内視鏡を用いるX線画像診断および処置であることから,ある程度の経験と熟練が必要とされる.そのため,未熟な手技に関連する種々の重篤な偶発症も報告されている.
 本稿ではERCPやESTをより安全に施行するために,ルーチン検査のあり方から偶発症の予防と対策について述べる.

POPS(経口的膵管鏡検査)

著者: 山雄健次 ,   大橋計彦 ,   松浦昭 ,   栗本組子 ,   中村常哉 ,   鈴木隆史 ,   渡辺吉博 ,   高橋邦之 ,   竹田欽一 ,   直田浩明 ,   今井奈緒子 ,   藤田直也

ページ範囲:P.136 - P.137

基本的な事項
 1.検査方法
 経口的膵管鏡検査法(peroral pancreatoscopy:POPS)はERCPのカテーテルの代わりに細径の子ファイバーを主膵管内に挿入し,病変部を観察する方法である.現在使用されている子ファイバーには,3〜5mmの太径でアングル機構,洗浄口および鉗子口を有するものと,1mm以下の極細径でアングル機構および鉗子孔をもたず,ERCPカテーテルをガイドに主膵管内に挿入して観察するものに二大別される(表1)1).前者は観察能に優れ,直視下生検やバスケットカテーテル,レーザーを用いた膵石の破砕・除去などの治療にも応用できるが,太径であるため特殊な疾患(いわゆる粘液産生膵腫瘍)を除き,乳頭切開やバルーン拡張などの前処置が必要である.一方,超細径ファイバーは元来血管内視鏡として開発されたもので,挿入に際しては乳頭切開は不要で,ERCPに引き続いて実施できる利点がある.ただし,アングル機構がないため観察不十分な箇所が生じる可能性がある.

Ⅲ.周術期の薬物療法 1.予定手術

麻酔の前投薬

著者: 鈴木利保 ,   滝口守

ページ範囲:P.140 - P.142

前投薬の目的
 前投薬の目的は手術を受ける患者の精神状態を少しでも快適にすること,とりわけ患者の不安を取り除くこと,麻酔の導入をスムーズに行うこと,麻酔の副作用を少なくすることにある.そのためには術前に麻酔科医が患者を診察し,検査結果を把握した上で患者と必要に応じて家族に面接を行い,麻酔の手順,麻酔計画および起こりうることを説明して納得を得ることが大切である.なによりも大切なことは患者を心理的,生理的に把握することである.前投薬の主な目的を表に示す.
 術前の患者心理をよく理解し,患者の不安の程度をよく観察することが大切である.不安の強い患者や良い信頼関係が得られなかった患者は,とかくheavy premedicationになる傾向が強い.不安の強い患者には鎮静薬の投与より麻酔科医による術前の説明のほうが不安を鎮める効果が大きいと言われている.患者の年齢,全身状態,手術内容,手術時間,麻酔法などを考慮した上で薬物の種類,投与時間,投与経路,投与量を決定する.

感染症(HIV,ウイルス肝炎,STD)の予防

著者: 蓮見昭武 ,   岡本喜一郎 ,   大山晃弘

ページ範囲:P.143 - P.145

はじめに
 HIV,ウイルス肝炎,性行為関連疾患(sexual-ly transmitted diseases:STD)などの感染症を有する患者の手術に際しては,手術のリスク・適応の判定,術式の決定,術前処置など患者の安全性に関する対策と,医療従事者側への感染防止対策の両面について検討しなければならない.

深部静脈血栓症の予防

著者: 榊原謙 ,   植野映 ,   三井利夫

ページ範囲:P.146 - P.148

はじめに
 下肢深部静脈血栓症(DVT)は本邦でも増加しつつあると考えられるが1),周術期に好発することも知られており,肺塞栓(PE)の合併とともに各種手術の合併症として注目を集めている.DVTの確実な診断と急性期治療指針の確立は重要な課題であるが,一方でいかにDVT・PE発症を予防するかも重要な課題であると考えられる.最近のDVT・PE予防指針の概要と新しい動向について解説する.

呼吸器系手術

著者: 中井秀典 ,   渡辺健一 ,   呉屋朝幸

ページ範囲:P.150 - P.151

はじめに
 周術期の管理の要点としては,①感染の防止,②併存疾患の管理,③水分管理に帰結される.呼吸器系手術の周術期の管理は薬物療法が主となるものではないが,上記の考え方と実際の薬剤の使用ついて述べる.

心血管系手術

著者: 今村洋二

ページ範囲:P.153 - P.155

はじめに
 開心術の目的は心拍出量の増加と考える.体外循環や心筋の虚血再灌流の影響が強く残存し,低拍出量症候群(LOS)の状態にあり,全身の組織の酸素需要を満たす血液量を拍出できない状態と考える.この状態をいかに短時間で軽減させるかが,周術期管理の最大のポイントである.薬物療法は収縮機能のみでなく,拡張機能への考慮も大切である.

胸腔鏡下手術

著者: 南谷佳弘 ,   小川純一

ページ範囲:P.156 - P.157

はじめに
 当初,胸腔鏡下手術は気胸などに対する手術に始まった.そして光学システムの進歩,手術器具の開発,手術手技の向上により胸腔鏡下手術の対象領域は瞬く間に広がった.今まで通常開胸下に行われていた呼吸器外科領域の手術は,現在ではかなりの部分が胸腔鏡下手術で行われるようになってきている.そのため通常開胸下手術と胸腔鏡下手術の相違点はアプローチ法の相違であり,手術法自体の相違ではない.したがって,胸腔鏡下手術やその周術期管理を行うにあたっては,従来の通常開胸下手術と同様に十分な注意が必要であり,また胸腔鏡下手術の特殊性を理解しておく必要がある.

上部消化管手術

著者: 白数積雄 ,   沢井清司 ,   山岸久一

ページ範囲:P.158 - P.160

はじめに
 現在行われている上部消化管手術はほとんどが悪性腫瘍に対する手術である.そのため,それぞれの悪性腫瘍の進行度に応じて術前・術中・術後に化学療法が行われ,化学療法の副作用に対する薬物療法も行われる.誌面の都合上これらについては省略するので,悪性腫瘍の薬物療法の項を参照されたい.本稿では上部消化管の手術に際して行う薬物療法を術前・術中・術後に分けて概説する.

下部消化管手術

著者: 貞廣荘太郎 ,   徳永信弘 ,   鈴木俊之 ,   田島知郎 ,   幕内博康

ページ範囲:P.161 - P.163

 下部消化管手術の特徴は,1g当たり1010〜11個のBacteroidesを主とする嫌気性菌と106〜8個の好気性菌を含んでいる糞便1)を内容物とする大腸を切離することである.したがって,少量の腸管内容による汚染であっても,組織は多数の細菌にさらされることになり,予防的な抗生剤を投与しなければ,創感染率は30〜40%に上ると報告されている2,3).このように下部消化管手術では他の消化器手術に比し,術後の創感染および創以外の感染症の発生率が高いという特徴を踏まえ,本稿では術前の腸管前処置と周術期の抗生剤の使用方法について記述する.

腹腔鏡下手術

著者: 松本純夫

ページ範囲:P.164 - P.165

はじめに
 腹腔鏡下手術は腹腔内へ挿入した内視鏡観察下に鉗子を操作して行うもので,手術に必要なスペースを作るのに炭酸ガスを腹腔内へ注人する気腹法と腹壁吊り上げ法がある.気腹法では気腹圧にもよるが,腹腔内圧上昇により肝臓や消化管の血流が減少する.さらに下大静脈経由の静脈還流も減少するため下肢深部静脈血栓症が生じる可能性がある.歩行開始時に血栓が遊離し,致命的な肺梗塞を突然発症することがある.このような事態を回避するために凝固・線溶系をチェック,凝固系の過度の亢進がないようにコントロールすることが肝要で,腹腔鏡下手術の薬物療法のポイントはここにある.

臓器移植

著者: 岸田明博 ,   堀内彦之 ,   崎浜秀康 ,   大村孝志 ,   古川博之 ,   松下通明 ,   藤堂省

ページ範囲:P.166 - P.169

はじめに
 臓器移植患者は移植の必要な臓器の機能不全は言うに及ばず,他臓器の機能不全を合併していることも多い.したがって,移植周術期の全身管理を含めた薬物療法は重要である.本稿では肝移植術を中心に周術期において頻用される各種薬剤の使用法についてまとめてみた.

2.緊急手術

大動脈解離

著者: 吉津博

ページ範囲:P.170 - P.171

はじめに
 大動脈解離は突然発生し,その自然歴は予後不良であり,Hirstら1)の1958年の報告によれば発症24時間後21%,1週後62%,4週後80%が死亡する非常に予後不良の疾患である.その予後不良に対する治療として1965年のWheatら2)の降圧療法の導入により予後が改善したと報告しているが,さらに近年の薬物療法の改善および急性期の外科療法の向上により治療成績は向上してきている.本稿では,大動脈解離に対する薬物療法を中心として解説する.

特発性食道破裂

著者: 島田英雄

ページ範囲:P.172 - P.174

基本的な事項
 特発性食道破裂の典型的な初発症状は飲酒後の繰り返す嘔吐に続発する激烈な胸背部痛,心窩部痛であることが多い.そのため,急性腹症や呼吸,循環器系疾患が疑われ検査が進められることもある.また,比較的稀な疾患であるため,本疾患を念頭に入れて検査が施行されないと診断に難渋する.早期診断は治療方針の決定,さらには予後にも関与してくる.このような経過で発症し,胸部X線検査,胸部CT検査で縦隔気腫,気胸,胸水が確認されれば食道破裂を疑い,水溶性造影剤(ガストログラフィン®)で食道造影を行い,造影剤漏出の有無を確認することが必要である.

胃十二指腸潰瘍穿孔

著者: 近藤泰理

ページ範囲:P.175 - P.176

薬物療法の意義
 H2受容体拮抗剤(H2RA)やproton pump inhibitor(PPI)などの薬物療法が進歩し,胃十二指腸潰瘍全体の手術件数は激減しているが,穿孔症例数は減少していない.十二指腸潰瘍穿孔についてみると,わが国においては広範囲胃切除術が広く行われてきた.筆者らは十二指腸潰瘍穿孔例に対して,緊急手術時に穿孔部大網充填術ならびに減酸処置として幽門形成術を付加しない選択的近位迷走神経切離術(SPV)を86例に施行し,術後累積再発率を検討した結果,術後10年累積再発率が26.6%と少なからず認められ,SPV術後1年時に高酸分泌能を示す症例は潰瘍再発をきたしやすいことを報告した1).また,緊急手術時に減酸処置を行わずに穿孔部大網充填術単独とした43例の術後5年累積再発率を検討した結果,術後にH2RAを継続投与した17例は22.2%であるのに対し,H2RAを継続投与しなかった26例は55.3%と高率であることから,穿孔部閉鎖単独症例に対する薬物療法の重要性が示唆された2)
 胃潰瘍穿孔例は症例数が少ないが,一般に穿孔部が大きく,high risk症例であることが多い.胃癌の穿孔との鑑別を常に考慮し,救命を目的に穿孔部の一時的な閉鎖を行った場合でも術後に内視鏡による胃癌との鑑別診断が重要であると考えられる3)

イレウス

著者: 山本康久

ページ範囲:P.177 - P.178

緊急手術の適応判断
 腹痛,嘔吐を主訴とするイレウスの診断は比較的容易であり,本症と判断したならば経鼻胃管(Levin管),イレウス管(Miller-Abbott管)の挿入により減圧をはかることが原則である.ただちに開腹手術を行うべきか否かは主病巣となる腸管の血行障害の有無による.すなわち疼痛が強く,腹膜刺激症状を伴い,炎症所見がみられれば緊急手術を前提に準備する(表1).

汎発性腹膜炎

著者: 飯野佑一 ,   横江隆夫

ページ範囲:P.179 - P.181

はじめに
 腹部救急疾患である汎発性腹膜炎はその発生原因により感染の起因菌(内因性)が異なるが,これに二次性感染(外因性)が加わることも多く,病態を複雑にしている.さらに,治療の開始時期の遅れが原因で全身性反応としてのSIRS(sys-temic inflammatory response syndrome)からMOF(multiple organ failure)に至る症例も少なくない.基本的には発生原因を外科的に治療する場合がほとんどで,薬物療法のみでは回復困難である.本稿では,発生原因別の術後薬物療法を中心に解説する.

虫垂炎

著者: 丸田守人 ,   前田耕太郎 ,   内海俊明

ページ範囲:P.182 - P.184

定義と名称
 虫垂炎とは一言で言えば虫垂に原発する化膿性炎症である.本邦では歴史的に右下腹部痛の原因が盲腸炎(typhilitis)から次第に虫垂炎(appen-dicitis)になっていった経過から,虫垂炎を俗に社会一般で“盲腸”といっているが,これは正しくない.これを是正していくには医師自らが患者あるいは一般の人に対して虫垂炎と正しく言う必要がある.

ヘルニア嵌頓

著者: 清水忠夫

ページ範囲:P.185 - P.186

はじめに
 ヘルニア内容がヘルニア嚢の狭小部(多くはヘルニア門)で絞扼されて非還納性となり,その脱出臓器の血行障害を伴うものをヘルニア嵌頓または嵌頓性ヘルニアという.臨床上非還納性のものをすべてヘルニア嵌頓と呼ぶことが多いが,区別されるべきである.日常診療でよくみられ,嵌頓をきたすことのあるヘルニアは鼠径ヘルニア,大腿ヘルニア,腹壁瘢痕ヘルニア,臍ヘルニアなどである.また,閉鎖孔ヘルニアは稀な疾患であるが嵌頓を起こしやすく,術前診断が困難なことが多いので注意を要する.
 ヘルニア嵌頓はヘルニアの合併症中最もしばしばみられ,かつ重篤である.この状態が解除されないと脱出臓器は短時間のうちに壊死に陥ることとなる.したがって診断の遅れが致命傷となることもあり,急性腹症をみたら必ず念頭に置かなければならい.特に,高齢者に多く,嵌頓をきたしやすい大腿ヘルニアの診察にあたっては,身体所見をとる際に診察の範囲が腹部にとどまると見逃すことになるので十分注意を要する.

肛門周囲膿瘍

著者: 梅村博也 ,   安富正幸

ページ範囲:P.187 - P.189

基本的な事項
 肛門周囲膿瘍は癤(せつ),癰(よう)に代表される皮下膿瘍として外来処置で安易に切開されることが多い.膿瘍が肛門周囲の皮膚感染から生じたものではなく,直腸肛門移行部の歯状線付近にある肛門小窩や肛門腺(一次口)の腸内細菌による感染の場合には膿瘍の切開排膿後,痔瘻となって皮膚の二次口から膿を排出することが多い.

急性上腸間膜動脈閉塞症

著者: 壬生隆一 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.190 - P.191

基本的な事項
 1.原因
 急性上腸間膜動脈閉塞症は上腸間膜動脈(SMA)に血栓や塞栓による急性閉塞をきたし,血流の低下または途絶のため広範に虚血による腸管壊死をきたす疾患である.
 40〜50%が塞栓による1).塞栓物質は心房細動などによる左心系の壁在血栓である.一方,血栓症はSMAの基部の粥状硬化部に発生する.非閉塞性腸管虚血も本症の20〜30%を占めるが,これは血管収縮性薬剤の投与,心不全,末梢循環血液量減少,腸間膜動脈血管の攣縮などによる血流低下と血流回復後の再灌流障害によって引き起こされる.

腹部大動脈瘤破裂

著者: 近藤治郎

ページ範囲:P.192 - P.193

腹部大動脈瘤の病態
 腹部大動脈瘤はその病因の多くが動脈硬化によることから,本邦においても高齢化社会と食生活をはじめ生活環境の欧米化に伴い患者の数は増加している.大動脈瘤自体からの症状は,表に示すような合併症が発生しない限りほとんどない.時に拍動性腫瘤として自覚する場合と,いわゆる炎症性動脈瘤として疼痛を伴って発見されること以外は,健康診断や他疾患の検査の際に超音波検査やCT検査で偶然に指摘されることが多い.このようにして発見された腹部大動脈瘤は全身状態が許す限り瘤の大きさや瘤形態などから破裂予防を目的として待期的に手術治療が勧められる.
 腹部大動脈瘤破裂は腹部あるいは腰背部の激痛を伴って発症し,ショック症状を呈することが多い.典型的な破裂は後腹膜腔あるいは腹腔内への出血で急性循環不全をきたす.破裂により大動脈外に出た血液量が多いほど手術によっても救命しがたい1).通常,待期的手術では3%位の死亡率であるのに対し,破裂例では50%位の死亡率である.種々な手術成績の報告はあるが,いったん破裂すると手術に至らず破裂するものも含めると全破裂例の20〜25%の救命率と思われる2).破裂から救命する手段は,なるべく早く少しでも良い状態のもとに緊急手術を行うべきで,一刻も早い破裂中枢部の大動脈遮断が要求される.

下肢動脈血栓症

著者: 折井正博

ページ範囲:P.194 - P.196

基本的な事項
 下肢の急性動脈閉塞症は原則的に緊急手術を必要とする疾患であり,治療の遅れは肢の切断に直結するのみならず,死を招くことも稀ではない.閉塞の主たる病因は塞栓症と血栓症である.塞栓症は心房細動に伴い左房内に生じた血栓に起因する例が最も多く,この場合診断は比較的容易で,早期の塞栓摘除術が良好な結果をもたらす.
 下肢動脈血栓症の原因は様々であるが,緊急手術の適応となるのは動脈硬化性の狭窄部に血栓を生じて急性閉塞をきたした場合,およびバイパス術後のグラフト閉塞が多い.膝窩動脈に関しては粥状硬化性動脈瘤の血栓性閉塞,膝窩動脈捕捉症候群あるいは外膜嚢腫による狭窄部の血栓性閉塞など特殊な例もあり,鑑別診断を要する.その他,膠原病やBehçet病における血管炎や多血症も血栓症の原因となるが,これらでは血行再建術の適応困難な末梢の動脈が閉塞することが多い.

3.機能性病変手術

甲状腺機能亢進症

著者: 清水一雄

ページ範囲:P.197 - P.200

はじめに
 甲状腺機能亢進症とは血中に甲状腺ホルモンが増加し,標的臓器に代謝亢進をきたす結果,多彩な甲状腺中毒症状を惹起する病態である.その約90%はバセドウ病(Graves病)であることから,まず本疾患について述べ,他の原因による甲状腺機能亢進症については最後に一括して述べる.

上皮小体(副甲状腺)機能亢進症

著者: 冨永芳博 ,   木全司

ページ範囲:P.201 - P.204

はじめに
 原発性上皮小体(副甲状腺)機能亢進症(hyperparathyroidism:HPT)を改善させる薬剤で現在使用可能なものはない.したがって本疾患が診断されれば外科的治療(上皮小体摘出術:PTx)に委ねなければ根治は不可能である.腎不全に合併する二次性上皮小体機能亢進症で程度が軽い状態(びまん性過形成)ではCaの補充,高リン血症の補正,活性型ビタミンD製剤の投与により改善可能である.最近上皮小体細胞に存在するCa-sensing receptor(CaR)がクローニングされ,calcimimeticsと総称されるCaRに対するagonistが原発性,続発性HPTで有効であったとの報告が見られる1,2).今後薬物療法が特に軽度な原発性HPTでPTxに取って代わる時期が来るかもしれない.本稿では,HPTに対する実際的な薬物療法について述べる.つまり原発性HPTでは高Ca血症(hypercalcemic crisis,上皮小体癌)に対する治療,PTx後のCa補充療法,二次性HPTに対する薬物療法,PTx後のCa補充療法についてである.

特発性血小板減少性紫斑病

著者: 月川賢 ,   窪田倭

ページ範囲:P.205 - P.206

基本的な事項
 特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombo-cytopenic purpura:ITP)は,明らかな原因や基礎疾患がないにもかかわらず血小板破壊が亢進し,出血症状を呈する原因不明の疾患である.最近では抗血小板抗体(PAIgGあるいは抗GP Ⅱ b/Ⅲ a抗体,抗GP Ⅰ抗体)が産生されるために起こる自己免疫疾患と考えられている.臨床経過から急性型と慢性型に分けられる.小児に多くみられる急性型は6か月以内に自然寛解することが多いのに対して,慢性型は成人女性に好発し,自然寛解はほとんどない.急性期は副腎皮質ステロイドの投与が行われる.ステロイドに抵抗性のある場合は脾摘が行われ,50〜60%の症例に完全寛解が得られる1)

インスリノーマ

著者: 佐々木隆光 ,   真栄城兼清 ,   安波洋一 ,   池田靖洋

ページ範囲:P.207 - P.208

基本的な事項
 インスリノーマは膵ラ島β細胞に由来する腫瘍であり,インスリンを過剰に分泌する.ほとんどは膵に発生し,約10%に多発例,約10%に悪性例を認める1).好発年齢は40〜60歳で,男女差はない.典型例ではいわゆるWhippleの三徴(①空腹時血糖が50mg/dl以下,②精神神経症状を伴う低血糖発作,③ブドウ糖投与による劇的な回復)をもって発症する.診断は存在診断と局在診断に分けられる.

機能性副腎腫瘍

著者: 原尚人

ページ範囲:P.209 - P.211

はじめに
 機能性副腎腫瘍において診断,治療,術後管理に対し常に問題となるのは,厳密に片側性病変の腫瘍であるのか,両側性病変(主に過形成)であるのかの鑑別である.副腎病変によるCushing症候群では腺腫,癌とPPAND(primary pigmented adrenocortical nodular disease(dysplasia))やAIMAH(ACTH independent macronodular adreno-cortical hyperplasia)との鑑別,原発性アルドステロン症では単発の腺腫と結節性過形成との鑑別,褐色細胞腫の場合,単発の腫瘍(良性,悪性)かMEN type 2かを鑑別しなくてはならない.ここではまず,各々大多数を占める単発性の腫瘍について述べ,最後に両側性病変についてまとめて述べることにする.

4.要注意状態の患者

小児,新生児

著者: 黒田達夫 ,   佐伯守洋 ,   中野美和子 ,   嶋寺伸一 ,   中目和彦

ページ範囲:P.212 - P.214

基本的な事項
 小児,新生児における薬剤投与は年齢,体の大きさ,内臓,諸器官の機能的発達や行動の発達を勘案して,薬剤の種類,投与量,剤形,投与経路などを選択し,薬剤が有効かつ安全に吸収・作用するようにする必要がある.本稿では総論および小児外科領域の薬物療法の代表的疾患である腹膜炎,敗血症および横隔膜ヘルニアにつき述べる.

高齢者

著者: 佐々木公一 ,   濱名俊泰

ページ範囲:P.215 - P.217

はじめに
 近年の治療学に占める薬物療法の役割は大きく,固有の薬理作用と体内動態に基づく薬剤の選択や至適投与法が求められてきている.本稿では加齢に伴う複合病態をもつ高齢者の薬物治療上の留意点を述べ,日常臨床上のpitfallに言及したい.

女性患 者月経中の患者

著者: 朝倉武士 ,   山口晋

ページ範囲:P.218 - P.220

はじめに
 月経は一般的には一定周期をもって反復する子宮内膜からの出血を示す.性周期おける卵胞期にはエストロゲンが,また黄体期にはエストロゲンとプロゲステロンが増加するが,これらのホルモンは直接的あるいは間接的に全身的変化を誘導する.一般にprostaglandins(PGs)の産生はエストロゲンにより刺激され,プロゲステロンで抑制される.特に黄体期末から月経時にかけてのエストロゲンあるいはプロゲステロンの分泌異常により,PGs産生も大きく変化する.月経中子宮内膜はPGsの産生能が高く,全身状態の変化として血管の攣縮,毛細血管脆弱性の亢進,皮膚・粘膜の水分貯留・浮腫,糖代謝異常,およびpro-thrombin低下をはじめとする血液成分の変化などを認める.これらの多くはPGs系作用ばかりでなく,自律神経系の作用の関連が深い1).このように,全身性変化に随伴し臨床的問題が起こりうるので,外科治療にあたり,月経前・月経中の患者に対し十分な注意が必要である.

女性患者 妊娠中の患者

著者: 内田賢

ページ範囲:P.221 - P.223

基本的な事項
 産婦人科医に限らず,妊娠可能な年齢(17,18〜45歳)の女性を診察し,投薬するときは先ず妊娠を念頭におくことが必要である.とくに,最終月経から28日以上経った女性の投薬については注意が必要であり,妊娠の可能性を問診し,診療録にその旨を記載すべきである.
 あらかじめ妊娠がわかっているときは医師も投薬に慎重になるが,問題は最終月経初日から28〜50日目までの絶対過敏期である.この時期は胎児に一番危険な時期であるが,未だ患者自身が妊娠していることに気づいていないことが多いので注意が必要である.一方,28日より以前の投薬については催奇形性が問題になることは少ない(図).

女性患者 授乳中の患者

著者: 君島伊造 ,   竹之下誠一

ページ範囲:P.224 - P.226

はじめに
 母乳哺育は単に栄養面や免疫面での利点のみならず,母子間の精神的なつながりを深めるのに重要な役割を果たし,授乳行為は母子相互作用の原点とみなされる1).新生児室設置に伴う母子異室制導入により一時は減退した母乳哺育も近年その実施率が回復しており,可能な限り母乳栄養で児を育てる努力がなされるようになってきている.
 授乳中の母親が手術を受ける機会も稀ならず存在し,大きな手術の場合には周術期の授乳は一般に困難である.しかし,day surgeryあるいは外来の小手術など比較的小さな手術の場合には周術期に授乳が可能な場合も多い.

出血傾向のある患者

著者: 徳永祐二 ,   古川正人

ページ範囲:P.227 - P.228

基本的な事項
 手術に際して遭遇する出血はそのほとんどが血管の機械的破綻によるもので,その止血には結紮,縫合,圧迫などの外科的処置のみが奏効する.これに対して出血傾向による出血は血管系や血小板,凝固線溶系因子に異常を有しているため通常の外科的処置では止血し難く,必ず止血障害に対する適切な治療が必要となる.このような出血傾向による術中止血困難や術後出血はしばしば致死的でさえある.したがって,出血傾向を有する患者では術前に止血障害の病態を熟知したうえでの周術期管理が要求される.

特定薬物使用(療法)中の患者

アルコール依存者

著者: 櫻井武雄

ページ範囲:P.229 - P.230

はじめに
 慢性アルコール中毒者はわが国では240万人1),アメリカでは1,000万人と概算され,男性成人入院患者の50%近くがこれらの患者で占められており2),大きな社会問題とともに医療問題でもある.また,アルコール依存者は交通事故やその他の外傷などで緊急手術を受ける頻度が高く,さらにアルコール関連身体障害のために,周術期には特に高度な管理と治療が必要である.

薬物中毒患者

著者: 麻賀太郎 ,   春木繁一

ページ範囲:P.231 - P.233

はじめに
 薬物中毒(依存)患者とは麻薬,睡眠剤,抗不安剤,鎮痛剤,覚醒剤などの依存症患者を指すものと思われる.これらの患者の周術期の薬物療法と注意点について述べる.

ステロイド内服中の患者

著者: 土屋敦雄 ,   長谷川有史 ,   竹之下誠一

ページ範囲:P.234 - P.236

基本的な事項
 侵襲に対する生体反応としてはホルモンを介する神経内分泌反応と,サイトカインなどの炎症性メディエーターを介する反応がある.そのうちグルコ(糖質)コルチコイドを主体とした神経内分泌反応は基本的かつ重要な生体反応である.
 一般に侵襲が加わると生体のコルチゾール需要が高まる.加わったストレスが視床下部からのCRH(corticotropin releasing hormone)分泌を刺激し,このCRHが下垂体前葉を刺激し,ACTHが分泌される.ACTHは副腎皮質を刺激し,内因性コルチゾール供給が増加する.副腎皮質からのコルチゾールの増加は視床下部や下垂体に直接作用して,そこから分泌されるCRHやACTHの分泌を抑制している(negative feedback).このfeedback機構により長期にステロイドを服用している場合二次性に副腎機能の低下をきたす.さらに手術など過度の侵襲が加わると,コルチゾール需要増加に対応できずに副腎不全となり,死に至ることもある.したがって,ステロイド服用中の患者の周術期管理には侵襲を想定したステロイドの補充療法が必要になる.臨床の場面でのステロイドとは合成糖質ステロイドのことを指す慣習があり,本稿でもそれに従った.ステロイドは作用時間,力価,糖質・鉱質作用から表1のように分類される.

インスリン/血糖降下薬服用中の患者

著者: 浦英樹 ,   平田公一 ,   岡崎亮

ページ範囲:P.237 - P.239

はじめに
 周術期における血糖管理の良否が創傷治癒や術後合併症の発生率にどの程度影響を及ぼすかについては異論のあるところであるが,血糖管理を疎かにすることにより,水・電解質異常を生じて術後回復の遷延化を招いたり,時には糖尿病性昏唾などの重篤な合併症を惹起することもあることから,やはり厳密な管理が必要不可欠である.本稿では糖尿病患者に対する周術期血糖管理のポイントと,迅速かつ適切な対処を要する糖尿病性昏睡の鑑別診断およびその治療法について述べる.

降圧剤服用中の患者

著者: 清水哲

ページ範囲:P.240 - P.242

基本的な事項
 外科手術可能年齢の上昇に伴い,心血管系の合併症を持つ手術患者の数も増加している.中でも高血圧は程度の差はあれ,かなり多くの患者が持っている合併症の1つである.とかくわれわれ外科医は高血圧を狭心症や心筋梗塞といった合併症に比べ軽く考えがちであるが,その病態,薬歴をきちんと把握していないと思わぬ合併症に遭遇することになる.本稿では,降圧剤内服中の患者の術前,術中,術後の管理,薬物療法について述べる.
 高血圧の患者に対して外科医が自ら降圧剤を処方することはあまりなく,通常はかかりつけの内科医や紹介医によって処方されていることが多い.そのような内科医は年配の開業医から大学病院の若い医師まで様々で,降圧剤の使い方もそれぞれの医師が自分の使い慣れた薬を処方しているのが現状である.したがって,手術を行う外科医には古い薬から新しい薬までの幅広い降圧剤の基礎知識が要求される.そこでまず降圧剤の種類について概略をまとめておく.

抗凝固剤服用中の患者

著者: 金渕一雄 ,   小出司郎策

ページ範囲:P.243 - P.244

はじめに
 現在では人工弁が臨床応用されて約30年を経ており,心臓血管外科手術後の抗凝固療法中の患者が一般消化器外科その他の手術治療を必要とする機会が増えている.この場合に問題となるのが抗凝固療法に伴う術中,術後の出血や血栓塞栓症の予防であり,その周術期管理のポイントを述べる.

免疫抑制剤服用中の患者

著者: 安永親生 ,   合屋忠信

ページ範囲:P.245 - P.247

基本的な事項
 免疫抑制剤は臓器移植後の拒絶反応抑制や膠原病,ネフローゼ症候群などにおける疾患の活動性のコントロールに用いられる.臨床的に用いられることの多い免疫抑制剤を表1に示す.臓器移植後維持期においては副腎皮質ホルモン,T細胞機能抑制剤および代謝拮抗剤の3剤,自己免疫疾患などでは副腎皮質ホルモンおよびT細胞機能抑制剤の2剤が用いられることが多い.免疫抑制剤服用中の患者に外科的治療が必要となった場合,下記の病態が存在することを認識しておく.
 ①免疫抑制剤を必要とする原疾患が存在する:臓器不全に対する臓器移植後か,膠原病(SLE,RA, PN,ウェジナー肉芽腫症,ベーチェット病など),腎疾患(ネフローゼ症候群,各種腎炎),炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎,クローン病)や皮膚疾患(乾癬)などで活動期の状態が存在する.手術に当たり,上記疾患群による他臓器合併症の存在や拒絶反応の出現,原疾患の増悪の可能性を考慮する.

化学療法,放射線治療中の患者

著者: 金隆史 ,   峠哲哉

ページ範囲:P.248 - P.251

はじめに
 進行消化器癌患者に対しては,その外科的治癒切除の限界から再発の防止および生存期間の延長のために,術前,術後に化学療法あるいは放射線治療の併用が行われている.抗癌剤および放射線による抗腫瘍効果は,腫瘍のみならず正常組織に対しても影響を及ぼすことから,時に重篤な合併症を引き起こしたり,QOLの低下を余儀なくされることも稀ではない.したがって,治療中の癌患者に対しては抗癌剤および放射線による副作用を十分に熟知し,治療を安全かつスムーズに遂行するためにその起こりうる副作用に対する対策を早期に行わなければならない.本稿では,消化器癌患者に対する化学療法あるいは放射線治療中に発生しうる主な副作用についての予防・対策を概説する.

透析患者

著者: 平賀聖悟 ,   山田敏生

ページ範囲:P.252 - P.254

はじめに
 透析患者の手術においては,救急患者のように一刻を争うようなriskyな状態は少ないにしても,腎機能の廃絶という通常と全く異なる病態が存在する.したがって,末期腎不全(end-stage renalfailure:ESRF),すなわち透析患者の周術期に際しては,病態を十分に理解した上で薬物療法を継続する必要がある.
 本稿では慢性腎不全(chronic renal failure:CRF)における薬物動態,透析患者における薬物投与法,周術期の透析療法と薬物療法などについてその要点を述べる.

Ⅳ.術後愁訴と合併症の薬物療法

1.DIC

著者: 岡本好司 ,   大里敬一

ページ範囲:P.256 - P.258

はじめに
 播種性血管内凝固症候群(disseminated intra-vascular coagulation:DIC)は様々な基礎疾患により凝固反応を起こし,微小循環系に血栓が多発する一方で,消費性の凝固障害と呼ばれる血液凝固因子や血小板の著しい減少,二次線溶の過剰亢進により出血傾向が現れる重篤な病態である.
 しかし,その病態は基礎疾患により発症形式が異なっており,凝固異常が主であったり線溶異常が主であったりしてバランスが均等ではない.例えば腹部重症感染症を基礎疾患としたDICでは凝固亢進に加えて線溶が抑制された状態で,サイトカインや顆粒球エラスターゼ,PAFなどといったケミカルメディエーターの関与が強く全面に出ており,臓器障害の発症頻度も高い1).一方,悪性腫瘍を基礎疾患としたDICは凝固亢進状態に呼応した二次線溶の亢進した状態で,消費性凝固障害と相まって出血症状の発現頻度が高い.

2.術後疼痛

著者: 吉野茂文 ,   岡正朗

ページ範囲:P.259 - P.261

術後疼痛の発生機序
 術後疼痛は手術による組織損傷とそれに伴う炎症反応によって生じる強い痛みであり,次のような機序で発生する1).すなわち,損傷組織や遊走白血球からプロスタグランディン,ブラディキニンやセロトニンなどの発痛物質が遊離され,この発痛物質が痛覚神経終末(Aδ,C線維)を興奮させ,疼痛を自覚するようになる.また,発痛物質は末梢性感作を生じさせ,軽度の刺激でも疼痛を感じるようになり(アロディニア),さらに痛み刺激が持続的に脊髄後角に入力されると,後角ニューロンの機能的・構造的変化が生じてその興奮性が高まり(中枢性感作),これも術後疼痛の発生に関与するようになる.

3.ICU症候群

著者: 佐藤一範

ページ範囲:P.262 - P.263

基本的な事項
 ICUに収容中の患者にある種の精神症状が発現した場合,中枢神経系に機能異常や器質的な合併症が認められないときにICU症候群と診断される.ICUという特殊環境によって引き起こされた精神症状との認識からこの用語が使用されてきた.事実,ICUにおいては重要臓器の機能不全に対処するため,多くの医療機器が配備,使用され,ベッド上の安静を余儀なくされ,近親者との面会が著しく制限される.また,医療機器から発生する機械的騒音や室内の照明などによって昼夜のリズムに狂いが生じやすい環境である.こうした種々の要因がストレスとなって重なり,患者の精神障害を誘発すると考える立場からは,ICU症候群という用語はそれなりに意味のあるものかもしれない.しかしながら,ICU症候群の定義は曖昧で,不眠,不安,抑うつ,幻覚妄想,せん妄など多彩な症状が含まれ,施設間でその意味するものに相違があることが報告されている1).近年,ICU症候群という屑籠的な用語を避け,専門領域である精神科的にそれぞれを診断するほうが妥当と考える施設も増えている.
 ICUせん妄はしばしばICU症候群と同義に使用されるが,その発現は特に重要で,患者の予後にも影響する.外科系のICU患者における発生頻度は11〜28%であり,高齢の術後患者では37%にも及ぶと報告されている2)

4.精神・神経系

せん妄(錯乱),興奮,不眠

著者: 辻美隆 ,   大久保雄彦 ,   竹内浩紀 ,   須藤謙一 ,   平山廉三

ページ範囲:P.264 - P.265

はじめに
 手術患者では身体的ならびに精神的ストレスは大きい.そのため,周術期には精神不安定に陥り,せん妄(錯乱),興奮,不眠などが生じやすい.また,神経症や分裂病などの患者では手術を契機に病状悪化をみる症例も少なくない1).さらに,高齢者の術後せん妄は周術期管理のうえでも大きな問題である2)
 せん妄は急性可逆性の精神障害である.これは錯乱状態と意識障害を特徴とするもので,情動が変わりやすく,幻覚や錯覚によって衝動的,非合理的,暴力的行動をきたすものと定義される3).せん妄発症の機序は未だ不分明であるが,高齢者手術の増加をみる今日,避けて通れない問題である.

5.循環器系

術後低血圧

著者: 羽野卓三 ,   西尾一郎

ページ範囲:P.266 - P.267

はじめに
 術後低血圧は様々な循環動態の異常により生じる.単に血圧値のみならず血圧の下降度が重要となる.これらの幾つかは重篤な病態を示しており,緊急な対応が必要であり,速やかに原因の検索を行う.

術後高血圧

著者: 羽野卓三 ,   西尾一郎

ページ範囲:P.268 - P.269

はじめに
 術後の高血圧を考える際には,元来高血圧を呈していたか正常血圧者かによって対応が異なる.また,手術に至る基礎疾患においても治療方針が異なる可能性がある.例えば,脳出血の際には通常血圧の上昇がみられ,これは術後も持続する.一方,消化管出血,心機能障害などにより従来高血圧を示す例でも正常血圧を示すこともある.また,降圧薬を服薬している場合もある.したがって,術前の血圧値が本来の血圧と異なる可能性があり,高血圧の既往,治療経過,服薬状況,期間に関する情報をできるだけ正確に得るとともに,網膜所見,心電図所見,蛋白(アルブミン)尿などから,緊急時においても高血圧の重症度,臓器障害,罹病期間を客観的に評価することが必要である.

6.呼吸器系

呼吸抑制,低酸素血症

著者: 羽白高 ,   西村浩一

ページ範囲:P.270 - P.272

はじめに
 術後の呼吸器系の合併症は周術期の死亡率,疾病率と大きな関係があり,その予防および治療は重大な問題である.これまで文献で報告されている術後の呼吸器合併症の発症率は2〜70%と大きなばらつきが認められる.これは呼吸器合併症の定義が異なることや,対象となる患者の差によるもので,各研究間の結果の比較を難しくしている.
 現在では術後の呼吸器合併症とは,呼吸器系に明らかな異常を認め,その異常が臨床上意味があるもので,また臨床経過に悪影響を与える疾病ないし病態であると考えられている.その定義に基づく重要な合併症としては無気肺,感染症(気管支炎,肺炎),遷延化した人工呼吸管理および呼吸不全,基礎にある慢性肺疾患の悪化,気管支収縮などが挙げられる.

無気肺

著者: 小倉滋明 ,   川上義和

ページ範囲:P.273 - P.275

基本的な事項
 無気肺は肺の含気が減少したためにその容積が減少した状態をいう1).そのため無気肺は病名ではなく病態であり,胸部画像診断における所見の1つであるといえる.一般には肺・肺葉あるいは肺区域の容積が減少した状態を指しているが,通常は葉気管支より末梢の気管支が閉塞されても胸膜で境されていない肺では,Korn孔やLambert管などによる側副路が存在するため無気肺は生じない.しかし,炎症性病変の合併などで側副路が閉ざされていると区域性や亜区域性に無気肺が生じることになる.無気肺はその発生機序から閉塞性無気肺,圧排性無気肺,癒着性無気肺,瘢痕性無気肺に分類される2).このうち臨床上遭遇する最も重要な無気肺は肺癌によるものとICUや術後患者に合併するものがあり,両者とも閉塞性無気肺に分類される.
 肺癌による無気肺は太い気管支に好発する扁平上皮癌の早期発見に重要な兆候である.一方,ICUで最も多い呼吸器の合併症は無気肺といわれ,術後患者の48時間以内の合併症は無気肺を考えるのが原則である.このような患者の場合,多くはポータブル胸部X線写真しか撮影できないことが多く,写真の条件が悪くて無気肺の読影が困難であることも多い.しかし,無気肺の発生は患者の病状の悪化や回復を遅延し,続発性に肺炎を惹起させる危険が高く,予後を左右しかねない.

肺炎

著者: 柳生久永 ,   中村博幸 ,   更級元 ,   足立秀喜 ,   土田文宏 ,   岸厚次 ,   松岡健

ページ範囲:P.276 - P.277

はじめに
 術後呼吸器合併症としては肺炎と無気肺が重要である.両者を厳密に区別することは困難であるが,本稿では肺炎を中心に概説する.

肺水腫

著者: 諏訪邦夫 ,   中西英世

ページ範囲:P.278 - P.279

基本的な事項
 1.原因
 肺水腫の原因は肺血管内圧の上昇による.そのメカニズムとしては次のようなものがある.
 1)末梢静脈圧の上昇で静脈還流が増大して肺血管系の血液量が増加するもの:①末梢静脈の収縮:例えば極端な興奮や血管収縮作用のある薬の使用.②循環血漿量の増加:輸液や輸血の過量や極端な乏尿.

ARDS

著者: 諏訪邦夫 ,   中西英世

ページ範囲:P.280 - P.282

基本的な事項
 各種の傷害が肺に及んで,肺の広範で重篤な非特異的炎症の発生した状態を呼ぶ.最初の損傷は肺自体の場合と他の部位の障害が肺に及ぶ場合とがある.損傷された肺が修復の過程で線維症を起こすのもARDS(acute respiratory distress syn-drome)の病像の1つである.

胸水

著者: 武野良仁 ,   長晃平 ,   服部佳広 ,   栗原正利

ページ範囲:P.284 - P.285

はじめに
 胸腔には生理的にも数mlの漿液があり,両胸膜の間で生成,吸収が行われている.しかしこの正常の液量ではX線やCTでそれを証明することはできない.胸水の出納は静力学的,膠質浸透圧,胸腔内圧によって規定される.臨床的に胸水として認められるのはそのバランスが崩れたとき,すなわち生成の増加または吸収の減少するときである.
 本稿は術後の薬物療法が主題なので,胸水を「胸部の手術後の胸水」と「癌の場合」に分けて解説する.

7.消化器系

悪心,嘔吐

著者: 谷口繁

ページ範囲:P.286 - P.287

病態
 術後患者の愁訴として,悪心,嘔吐は少なくない.術後の嘔吐は一律ではなく,種々の病態によって起こる.嘔吐の原因を正しく把握するには注意深い観察が必要であり,安易に対症療法にとどまってはならない.輸液による体液調整,胃,腸管の減圧,適切な食事療法などがより重要であり,制吐剤にのみに頼ってはならない.嘔吐中枢は網様体外背側部にあり,chemoreceptor triggerzone(CTZ)や求心性神経を介して嘔吐刺激が伝わる1).中毒物質,体内代謝産物などはCTZを介して,内臓からの刺激は求心性神経を介して嘔吐中枢に伝えられる.

吃逆

著者: 谷口繁

ページ範囲:P.288 - P.288

発生機序
 吃逆(しゃっくり)とは,横隔膜や吸気肋間筋が間代性に攣縮することによって起こる不随意的呼吸運動である.同時に連動して声帯も攣縮するので特異的な音を発する.

ストレス潰瘍,出血性胃炎

著者: 亀山仁一 ,   鈴木晃 ,   坂井庸祐 ,   長谷川繁生 ,   大塚聡 ,   鈴木真彦 ,   高須直樹

ページ範囲:P.290 - P.291

はじめに
 “術後”愁訴と合併症の項目で“ストレス潰瘍,出血性胃炎”の“薬物療法”の担当を命ぜられた.薬物療法について記述することになるが,他の療法との兼ね合いが非常に重要なので,内視鏡的治療などとの関連にも簡単に触れてみたほうがよいと考える.また,術後とあるが,どのような病態や疾患時にストレス潰瘍や出血性胃炎がみられるかについても触れることにする.

縫合不全,吻合部狭窄

著者: 北村和也 ,   山岸久一

ページ範囲:P.292 - P.293

はじめに
 縫合不全,吻合部狭窄の多くは外科医の手技的エラーで生じ,吻合に細心の注意を払うことによって防止できる合併症である.したがって,薬物療法に頼ることの少ない術後合併症である.これらの多くは保存的治療によって軽快することが多いが,時に治癒が遷延し,薬物の助けを借りることが効を奏する場合もある.薬物療法は初期の保存的治療が奏効せず,治癒が遷延化し,再手術の決断を行う前に試みる方法として位置づけられる.

ダンピング症候群

著者: 田宮洋一

ページ範囲:P.294 - P.295

はじめに
 ダンピング症候群は早期と晩期の症候群に分けられてきたが,両者の成因が異なるので,最近はダンピング症候群(症状)といえば早期ダンピング症候群(症状)を意味し,晩期ダンピング症候群は後発性低血糖症候群(late hypoglycemic syn-drome)と呼称されている.

術後膵炎

著者: 野本周嗣 ,   中尾昭公

ページ範囲:P.296 - P.298

成因
 術後膵炎は成因によって3つに分類することができる.第1は,膵およびその周辺臓器の機械的損傷によるものであり,膵臓,胆道手術や胃切除などの上腹部手術後がこの分類に含まれる.膵損傷,とくに膵組織の挫滅,膵管の損傷や十二指腸乳頭部およびその周辺の損傷が膵炎の発症に関与するものである.
 第2には,周術期の循環障害や薬剤の使用による急性膵炎の発症であり,心,血管系のバイパス手術後や腎移植手術後の膵炎がこの分類に含まれる.循環障害は術中,術後の低血圧,薬剤ではステロイド製剤,フロセマイド,プロカインアマイドなど周術期に使用する機会の多い薬剤も含まれている.

術後肝機能障害

著者: 緑川泰 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.299 - P.301

基本的な事項
 術後肝機能障害は多くの場合が術後の一過性で可逆的な合成能・代謝能の低下であるが,時には意識障害,消化管出血を伴う致死的な術後肝不全に至る場合もある.主な原因としては慢性肝疾患患者に対する手術侵襲,過剰肝切除,麻酔薬,抗生剤,中枢神経薬,抗癌剤などの薬剤投与,輸血,感染,高カロリー輸液,潜在する体質性黄疸など多岐にわたる.術後に生じた肝機能障害に対処するには周術期の厳密な輸液量,カロリー,電解質の管理が重要である.

腹水

著者: 緑川泰 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.302 - P.303

基本的な事項
 腹水は腹腔内に生理的限界を越えて液体が貯留した浮腫の特殊型であり,原因は多岐にわたる.腹水の性状,比重,蛋白濃度,Rivelta反応から漏出液と滲出液に大別される.治療は原疾患の治療に加えて,対症療法として安静臥床,経口摂取の制限,利尿剤,血漿蛋白製剤,新鮮凍結血漿の投与を原則とする.これらの保存的治療に反応しない難治性腹水に対しては腹腔穿刺,腹水の濃縮還元,腹膜頸静脈シャント(Le Veen shunt)などの治療を行う.

鼓腸

著者: 西村元一 ,   三輪晃一

ページ範囲:P.304 - P.305

基本的な事項
 鼓腸とは腹腔内に異常に多量のガスが貯留したための腹部膨隆であり,胃腸管系にガスが貯留する腸性鼓腸(meteorismus intestinalis)と遊離腹腔内に貯留する腹膜性鼓腸(meteorismus pri-tonealis)とに分けられる.一般に術後問題となるのは前者である.

麻痺性イレウス

著者: 西村元一 ,   三輪晃一

ページ範囲:P.306 - P.307

基本的事項
 手術とくに開腹術後には程度の差はあるが一時的に腸管運動麻痺状態(生理的イレウス)が起こり,通常は48〜72時間後には回復する.しかしながら麻痺の状態が遷延し,腹部膨満が続くと全身状態に影響を及ぼすことがあり,この状態が麻痺性イレウスである.

8.腎・泌尿器系

急性腎不全

著者: 熊谷裕生 ,   篠村裕之 ,   猿田享男

ページ範囲:P.308 - P.310

基本的な事項
 急性腎不全とは急速に腎機能が低下し,乏尿(尿量400ml/日以下)または無尿(100ml/日以下)となって高窒素血症が出現する症候群である1).尿量が保たれている非乏尿性腎不全もあるので注意を要する.発症機序から腎前性,腎実質性,腎後性に分けられ,治療方針も三者で異なる.腎前性は主に腎虚血が,腎実質性は尿細管上皮細胞に対する虚性が病因とされてきたが,最近,いずれの場合も様々なサイトカインや活性酸素がmediatorとなって腎微小循環や腎細胞障害を起こすと考えられるようになった2)
 急性腎不全は早期に診断し,適切に治療すれば1週間から3か月の薬物治療や透析で回復し,透析から離脱しうる.当院での最近5年間の術後急性腎不全の透析症例の予後は,透析から離脱できたもの,救命されたが維持透析になったもの,死亡が3割ずつであった.

排尿困難

著者: 大東貴志

ページ範囲:P.311 - P.312

基本的な事項
 排尿困難,特に尿閉は比較的多く認められる術後の合併症である.発生率は3.8〜52%とされ,肛門直腸疾患,婦人科疾患に対する手術やヘルニア根治術の術後に多い1).尿閉あるいは排尿困難は患者に苦痛を与えるばかりでなく,難治性尿路感染症の原因となり,腎後性腎不全を引き起こすこともある.またカテーテル留置自体が感染や膀胱尿道損傷の原因となることがある.
 排尿困難の成因,および薬物治療を考える場合,排尿のメカニズムを理解する必要がある.下部尿路機能は交感,副交感,体性神経による三重支配を受けている.仙髄(S3〜S4)から分岐する副交感神経系の骨盤神経は骨盤神経叢を経て主に排尿筋に作用し,これを収縮させる.一方,交感神経系の節前線維はTh11〜L2から始まり,主要経路は大動脈前面の上下腹神経叢で節後線維となり,下腹神経を構成後,α1受容体を介して膀胱底部や尿道平滑筋の収縮をもたらし,またβ2受容体を介して排尿筋を弛緩させる.体性神経の遠心路はS3〜S4前角から出て陰部神経となり,外尿道括約筋と骨盤底筋群に分布する.

Ⅴ.悪性腫瘍の薬物療法

甲状腺癌

著者: 田中礼子 ,   小原孝男

ページ範囲:P.314 - P.316

はじめに
 甲状腺癌は病理組織型によって臨床像が異なり,それぞれ治療法も異なってくる(表1).分化癌は手術が中心で薬物療法としては甲状腺全摘術後のTSH抑制療法,また進行・再発症例に対する化学療法が行われる.一方,未分化癌,悪性リンパ腫は化学療法が治療の中心である.

乳癌

著者: 池田正 ,   正村滋 ,   松井哲 ,   北条隆 ,   川口正春 ,   高山伸 ,   戸倉英之 ,   宮部理香 ,   北島政樹

ページ範囲:P.317 - P.321

病態
 乳癌の病態に関する考え方は歴史的にみて転換期にあると思われる.すなわち,古典的にはハルステッド流の考え方として癌は局所にできて,そこからリンパ流に乗り,リンパ管,リンパ節を経て全身に散らばっていくという考え方が主流であった.ところが1980年代になり,FisherらがNSABP trialの結果を元に,癌は血流に乗ってatrandomに全身に散らばるために,臨床的に触知するような癌はすでに全身病であるとの考えを提示し,広く受け入れられていた1).ごく最近になり,癌からのリンパ流を最初に受け入れるリンパ節(sentinel lymph node)を生検することにより,腋窩リンパ節転移を高率に予測しうることが報告されるようになったことや2),術後照射を所属リンパ節にかけることにより予後が改善されたことなどが報告されるようになり3,4),臨床的な癌の中にも局所にとどまる癌,すなわち局所療法により治癒する癌の存在が広く認められつつある.ただ,これらは原発癌に対する考え方であり,再発乳癌の場合には当然全身病であり,かつpalliativeな治療とならざるをえない.乳癌を局所病と考えた場合には全身治療である薬物療法の適応は予後との関係で決まり,全身病と考えた場合には最初から薬物療法が主体となる.

肺癌

著者: 小川純一

ページ範囲:P.322 - P.324

肺癌に対する化学療法
 肺癌はわが国の癌死亡数の第1位を占めるものの,その治療成績はきわめて不良である.原因として発見時にすでに切除不能の進行癌が多いこともさることながら,血行性転移の頻度が高く,外科治療のみでは対処できない全身性疾患であることも大きい.そのため全身療法としての抗癌剤投与は欠かせない.
 肺癌はその病態から扁平上皮癌,腺癌,大細胞癌を含めた非小細胞癌と小細胞癌とに大別され,それぞれで化学療法が異なる.

食道癌

著者: 西巻正 ,   神田達夫 ,   鈴木力 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.325 - P.327

はじめに
 食道癌に対して本邦では頸胸腹部3領域リンパ節郭清が1980年代初めから積極的に導入され,従来きわめて不良であった食道癌の治療成績が5年生存率で50%前後にまで向上した1).しかし,いかに郭清範囲を拡大しても外科手術は局所療法であり,切除後に生ずる遠隔臓器再発には無力である.したがって食道癌の治療成績をさらに向上させるには全身療法である化学療法の併用は必須と考えられる.
 このような補助化学療法の適応となるのは,不顕性の遠隔転移が生じている確率が高い食道癌である.リンパ節転移(N1)は食道癌切除例の最も強い予後不良因子であり,補助化学療法の適応と考えられる.特に転移リンパ節個数5個以上,3領域同時転移例,頸部リンパ節転移陽性の下部食道癌,そして壁内転移陽性例などは3領域郭清を行っても予後はきわめて不良で1,2),化学療法の併用が必要と考えられる.また隣接臓器浸潤のため切除不能となる食道癌(T4)も少なくなく,このような症例にresectabilityを得るためにも化学療法や放射線治療の適応がある.さらに初診時あるいは術後に遠隔臓器転移(M1)が明らかになった症例にも化学療法が行われる.

胃癌

著者: 山口浩和 ,   上西紀夫

ページ範囲:P.328 - P.330

薬物療法の位置づけ
 胃癌は化学療法の効果の少ない癌であり,治療の第1は外科療法と考えられてきた.現在でも化学療法が外科療法を凌駕するものではないが,多剤併用療法の開発によって胃癌はchemosensitiveな腫瘍と認識されるようになってきた.切除不能な進行胃癌に対する化学療法の生存への寄与に関しては,1993年にMuradらがFAMTX療法で,1995年にPyrhonenらがFAMTX療法のmodifiedarmで無治療群と比較試験を施行し,化学療法が生存へ寄与することを明らかにしている1,2).進行胃癌の治療は外科療法でも限界があり,外科治療と化学療法との複合療法が期待されている.

結腸・直腸癌

著者: 小平進 ,   捨田利外茂夫 ,   野澤慶次郎

ページ範囲:P.331 - P.334

はじめに
 大腸癌の治療法の基本は早期癌,局所進行癌ともに手術療法であり,また,肝・肺転移巣,局所再発巣に対しても治癒的切除が行われれば,比較的良好な成績が得られている1).したがって,大腸癌に対して薬物療法,すなわち,癌化学療法が行われるのは,(1)治癒的切除時の再発防止を目的とした手術補助化学療法,(2)切除不能な進行・再発癌に対する化学療法ということになる.
 大腸癌化学療法に用いられる抗癌薬は5-fluo-rouracil(5-FU)が中心であり,本邦では5—FU誘導体(tegafur(FT),UFT, carmofur(HCFU),doxifluridine(5'DFUR))の経口薬も多く用いられており,その他,mitomycin C (MMC),Me-CCNU, CDDPなども用いられる.そして,近年は5-FUとleucovorin (LV),levamisole (LEV)などの併用も盛んに行われている.

肝臓癌

著者: 塚田一博 ,   霜田光義 ,   魚谷英之

ページ範囲:P.335 - P.337

基本的事項と治療戦略
 肝臓癌を原発性肝癌と転移性肝癌に分類すると,前者では肝細胞癌,後者では大腸癌の肝転移が主なものである.肝臓癌の診断,治療は最近急速な進歩を遂げたが,なかでも治療法では手術療法の安全性の向上はことにめざましい.更にPEIT(percutaneous-transhepatic ethanol injectiontherapy),TAE(transarterial embolization),PMCT(percutaneous microwave coagulation ther-apy)などの局所療法が確立されつつある.化学療法はこれら局所療法のadjuvant therapyとして用いられるほか,他の治療法の対象とならない高度進行例の治療法として選択される.ときには肝予備能不良例において化学療法が唯一検討されることもある.
 肝臓癌への化学療法における投与経路としては,経口ならびに経静脈的投与による全身投与の他に,肝動脈内投与(動注)が挙げられる.特に,肝細胞癌では正常肝組織と腫瘍とでの肝動脈からの血流依存度の差異が顕著であることから,肝動脈からの化学療法が有効と考えられている.動注は薬剤輸送システムdrug delivery system(DDS)を含め様々な工夫のもとに広く行われている.

胆嚢・胆管癌

著者: 三枝庄太郎 ,   田端正己 ,   川原田嘉文

ページ範囲:P.338 - P.340

胆道癌に対する薬物療法の位置づけ
 胆道癌(胆嚢・胆管癌)に対しては化学療法や放射線療法はほとんど効果なく,外科的治療が唯一の治療法と言っても過言ではない.しかし,早期発見例は少なく,大半は閉塞性黄疸を伴った進行癌であることや,発生部位が肝・膵あるいは門脈・肝動脈などの主要血管に近接するといった解剖学的特性から,その切除は必ずしも容易なことではない.したがって,切除のみならず切除不能例への対応も重要であり,この場合には適切な減黄とともに,良好なQOLを得るための薬物療法が大きな柱となる.一方,切除例といえども胆道癌は悪性度が高く,容易に再発をきたすことから,再発予防のための集学的治療の一環として薬物療法が行われている.なお,進行胆道癌の多くは閉塞性黄疸という特有の病態を呈するが,その管理の面でも薬物療法の果たす役割は大きい.

膵臓癌

著者: 島村弘宗 ,   渋谷和彦 ,   江川新一 ,   砂村眞琴 ,   武田和憲 ,   松野正紀

ページ範囲:P.341 - P.342

はじめに
 膵癌は消化器癌の中でも最も予後の悪い癌の1つであり,拡大郭清手術1)の導入によって切除率は向上しているものの,長期生存は未だに得難いのが現状である.特に切除不能症例に対しては確立された治療法はなく,全国集計2)では1年生存率がわずかに10%を超える程度である.膵癌の予後改善のためには治癒切除を得ることが必要条件であり,外科的治療の役割は大きい.しかし,化学療法や放射線療法など他の治療法を組み合わせた集学的治療なくして長期生存例を得ることはできない.“膵癌の薬物療法”としては化学療法の他に放射線療法に併用する放射線増感剤や,免疫療法としてのLAK療法で用いるinterleukin−2(IL−2)なども含まれるが,本稿では化学療法に的を絞り,現在膵癌に対して施行されている化学療法の実際について概説する.

消化管悪性リンパ腫

著者: 小野裕之

ページ範囲:P.343 - P.345

基本的な事項
 悪性リンパ腫はリンパ組織から発生する腫瘍であり,リンパ組織の構成細胞であるTおよびBリンパ球,さらに単球,マクロファージ系など網内系細胞起源の腫瘍の多くがリンパ腫のカテゴリーに入る.組織学的には大きくホジキン病(Hodgkin's disease)と非ホジキン病(non-Hodgkin's disease)に分類され,また発生部位別にリンパ節から発生する節性リンパ腫とその他の臓器から発生する節外性リンパ腫に分けられる.消化管原発の悪性リンパ腫は節外性リンパ腫に分類され,その大半は非ホジキン病かつBリンパ球性である.頻度としては消化管悪性リンパ腫は全リンパ腫の約10%を占め,そのうち胃原発のものが約60〜80%と最も多く,次いで小腸(15〜30%),大腸(10〜20%)の順となり,食道原発はきわめて稀である.また,消化管腫瘍に占める悪性リンパ腫の割合は全体で1〜2%,胃では1〜4%,小腸で20〜40%,大腸で0.1〜0.7%とされている.
 また,Isaacsonらが提唱した胃MALTリンパ腫は,本邦で従来RLHとされていたものの一部とdiffuse medium cell悪性リンパ腫とされていたものの一部を含む疾患概念であり,H. pyloriとの関連が強く示唆されている1)

小児癌

著者: 水田祥代 ,   田尻達郎

ページ範囲:P.346 - P.348

はじめに
 小児固形腫瘍では全摘不可能な症例に対して化学療法を施行して腫瘍縮小後に再手術(secondlook operation)を行うことが多い.本稿では小児三大固形腫瘍である神経芽腫,ウィルムス腫瘍,肝芽腫における化学療法について述べる.

Ⅵ.感染症の薬物療法

1.抗菌薬の使い方

著者: 内山和久 ,   谷村弘

ページ範囲:P.350 - P.352

はじめに
 抗菌薬の選択基準はまず,①感染部位別に起炎菌を推定し,empiricに抗菌薬を選択する.同時に,②薬剤感受性試験を行って,抗菌活性のある薬剤を選択する.その際,③宿主側の重症度を考慮しつつ,④使用する薬剤の体内動態や抗菌活性の作用機序を把握しておく.抗菌薬投与時には,⑤その抗菌薬の副作用を十分把握しておく.また,⑥その薬剤単独使用では問題なくても,他剤との併用によって思わぬ相互作用が出現することがあるため,使用薬剤の併用効果を確認して投与する.

2.全身的感染症

日和見感染症,院内感染症

著者: 松股孝

ページ範囲:P.353 - P.355

はじめに
 重い病気をもつ人の生存期間が延長されるようになった一方では,感染症にかかる機会が多くなってきた.このような易感染性宿主(コンプロマイズド・ホスト)では,弱毒菌による感染症も成立する.多くは耐性菌で,これによる感染症を日和見感染症という.日和見感染症は弱毒菌による菌交代症であることが多い.院内感染の主体は日和見感染と医療事故で起こる職業感染である.

MRSA感染症

著者: 石川啓

ページ範囲:P.356 - P.358

基本的な事項
 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症は院内感染として感染防御能の低下した易感染性宿主に感染しやすく,また多剤耐性を示すため難治性となり重篤な感染症を引き起こす.わが国においては1980年代の後半からMRSA感染症の報告が散見されるようになり,過大ともいえるマスコミ報道によりパニックに近い社会問題となったのは記憶に新しい.それから10年の月日が経過し,MRSA感染症を引き起こすメカニズムが解明され,感染者に対する対応や感染予防に関する知識の啓蒙とともに,有効な抗菌剤の開発と臨床応用によって現在ではMRSA感染症が社会問題となることは少ないようであるが,一方ではバンコマイシン耐性のMRSAも報告されており1),ここらで再認識をする必要性を感じる.
 現在大病院での細菌検査で臨床材料から分離される黄色ブドウ球菌のうち,約60%がMRSAであると報告されている.黄色ブドウ球菌はヒトの皮膚,鼻腔,口腔,腸管内に常在する菌であり,MRSAも黄色ブドウ球菌と同様で,ただ多剤耐性であることのみが異なっており,その病原性は黄色ブドウ球菌より強いものではなく,同等かむしろ弱いとされている.

敗血症

著者: 小針雅男 ,   渋谷和彦

ページ範囲:P.359 - P.360

敗血症の病態
 敗血症の病態は病原菌や毒素あるいは最近では各種の炎症性サイトカインが流血中に存在し,強い全身症状と各重要臓器障害を招来して,緊急に適切な治療を施さないと致死的経過をたどる重症全身感染症と捉えられている.敗血症ではショック,DIC,多臓器不全(MOF)など様々で複雑な病態を起こすが,これらの病態は単なる細菌感染症によるよりはむしろ,感染症に起因する炎症性サイトカインへの全身性の過剰反応,すなわちSIRS(systemic inflammatory response syndrome)として理解されている.SIRSとはACCP(American College of Chest Physicians)がSociety ofClinical Medicineにおいて提唱した概念であり(図)1),敗血症やそれに伴う臓器障害を炎症性サイトカインの面から捉えようとするものである.

真菌症

著者: 原田明生

ページ範囲:P.361 - P.364

はじめに
 近年手術適応の拡大に伴って高齢者,悪性腫瘍,臓器移植などの手術後易感染性状態の患者が増加してきており,術後合併症としての真菌症への対策がますます重要となってきている.
 真菌症は感染部位に基づいて浅在性,皮下,深在性に分類されるが,外科領域では特に深在性真菌症が問題となる.本稿では主な深在性真菌症とその病態,薬物治療について述べる.

HIV感染症

著者: 細野治 ,   森本幾夫

ページ範囲:P.365 - P.367

基本的な事項
 HIV感染症は性行為により感染した日本人男性の増加傾向が続いており,最近の特徴は後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症してHIV感染がわかる症例が増えていることである.このことは,感染者自身もHIV感染していることを知らないことによる2次感染の増加の危険性を示唆している.そして医療現場ではHIV感染者の診療の機会や医療従事者の針刺事故などによるHIV曝露の危険性が増加している.HIV感染症における薬物療法はHIVに対する抗ウイルス療法とAIDS指標疾患の治療とそれらの発症・再発予防が中心になる.抗HIV薬としてプロテアーゼ阻害剤が出現し,生命予後の改善やAIDS発症の減少が見られ,日和見感染症・腫瘍に対する薬物療法から抗HIV薬によるHIVの複製抑制,免疫能の回復に治療の中心が移っている.

破傷風,ガス壊疽

著者: 山崎元靖 ,   田熊清継 ,   青木克憲 ,   相川直樹

ページ範囲:P.368 - P.369

破傷風
 破傷風は局所に感染した嫌気性菌である破傷風菌Clostridium tetaniの産生する外毒素tetanospas-minの神経系への作用により発症する重症感染症である.C.tetaniは土壌に生息し,通常外傷により創部から侵入する.主な症状は開口障害,痙攣,腱反射亢進,呼吸困難,窒息などを呈する.死亡率は30%に達するが,外傷歴不明例が1/4にみられるため,本疾患は予防に重点が置かれる.潜伏期は2日〜8週間であり,一般的に感染から発症までの時間が短いほど,また開口障害から全身痙攣までの時間(onset time)が短いほど予後が悪い.治療は開口障害などの所見があり,破傷風を疑った時点で開始しなければならない.経過中の多彩な症状に対処するため,集中治療室での管理が望ましい.

3.臓器・系統別感染症

皮膚・軟部組織感染症

著者: 清水輝久

ページ範囲:P.370 - P.372

はじめに
 皮膚・軟部組織感染症とは皮膚,皮下組織,筋膜に起こる感染症で,皮膚に常在する細菌叢に起因することが多い.一般外科領域の皮膚・軟部組織感染症としては外来で治療対象となるものが多いが,皮下組織に起こった感染症は組織抵抗が少ないので,急速に周囲へ拡大することがあり,早期に適切な薬物治療を開始することが肝要である.
 疾患としては皮膚付属器に関連した毛嚢性・汗腺性皮膚感染症,慢性膿皮症,伝染性膿痂疹,膿瘍,丹毒,蜂窩織炎,壊疽性感染症,急性リンパ節・リンパ管炎,感染性粉瘤,爪囲炎,瘭疽,乳腺炎,肛門周囲膿瘍などがある.創感染と重篤な全身症状を惹起する破傷風とガス壊疽は別項に譲る.

創傷感染,熱傷創感染

著者: 橋本可成 ,   小野山裕彦 ,   高尾信太郎 ,   福本巧 ,   裏川公章 ,   安積靖友

ページ範囲:P.373 - P.374

はじめに
 最近の抗生物質を含む抗菌剤,感染対策の進歩により創感染は減少しているが,完全に克服されたというわけではなく,ひとたび発症すると比較的長期にわたり患者および医療関係者を悩ませる合併症の1つで,さらに重篤な感染症や合併症を出現させる.抗菌剤の使用にあたっては予防的投与と治療的投与を明確に区別する必要があり,両者は根本的に異なる概念であるにかかわらず,その区別をつけないまま漫然と抗生物質の長期投与を続けることをよく見受ける.外傷治療における予防的投与とは受傷時に付着した細菌が組織内へ侵入し,増殖を開始する前に抗菌剤を投与し,これを防ぐことで,早期,短期間に十分量を投与することである.

気道感染症,膿胸

著者: 長尾二郎 ,   炭山嘉伸

ページ範囲:P.375 - P.378

気道感染症と膿胸
 気道感染症には原因がウイルス主体のかぜ症候群などの比較的軽症のものから,MRSA,緑膿菌,真菌などを起因菌とした,主に院内感染に伴う重症肺炎,あるいは比較的若年者に増加傾向を認める肺結核症など,症状・病態・治療法などきわめて多岐にわたる疾患群が認められる.
 膿胸は急性期では試験的胸腔穿刺による原因菌の同定,感受性試験を行い,適切な抗菌薬の投与が治療のポイントとなるが,慢性に経過したもの,すなわち結核性では発症から6か月以上経過した場合,非結核性では抗菌薬による治療に抵抗し発症後4〜6週間以上を経過した場合には,膿瘍腔の浄化,死腔の閉鎖のために外科的治療が必要となることがある.

腹腔内感染,腹膜炎

著者: 木暮道彦 ,   後藤満一

ページ範囲:P.379 - P.381

基本的な事項
 急性腹膜炎は大部分が続発性腹膜炎1)であり,その原因疾患はさまざまであるが,消化管穿孔によるものが多く,穿孔臓器によって常在菌が異なるためその起因菌に応じた抗菌療法が必要である(表1).外科的あるいは抗菌療法によっても治癒しきれない場合は腹腔内膿瘍に移行する.ここで分離される菌は起因菌が異なり,混合感染が多く2),単独感染よりも細菌の病原性が増強する3).さらにグラム陰性菌からエンドトキシンが流出すること,黄色ブドウ球菌や化膿性連鎖球菌の存在下ではスーパー抗原が産生されるため,生体のエンドトキシン感受性が高まる4)ことから混合感染時には重症化に注意する必要がある(図).
 腹膜炎では炎症性サイトカインによって好中球が腹腔内局所の生体防御を行うが,炎症性サイトカインが大量に産生されると重要臓器に集積した好中球が臓器障害を引き起こす.腹膜炎でSIRS(systemic inflammatory response syndrome)の条件を満たせば敗血症であり,予後不良である5).また腸管麻痺による腸管内圧亢進と蛋白異化亢進による腸管粘膜の萎縮がbacterial translocationをもたらし,敗血症を助長する(図).

胆道感染,肝膿瘍

著者: 小玉雅志 ,   橋爪隆弘 ,   伊藤誠司

ページ範囲:P.382 - P.384

基本的な事項
 本病態は細菌感染と胆汁うっ滞(胆道感染),あるいは蓄膿(肝膿瘍)であり,抗菌剤投与と胆汁うっ滞解除(胆道ドレナージ)あるいは排膿(膿瘍ドレナージ)が治療の中心となる.軽度な場合は抗菌剤投与のみで治癒することもある.一方,胆汁うっ滞が強く,炎症が高度の胆道感染や,孤立性で増大する肝膿瘍ではドレナージが優先されるべきである.ドレナージによって感染胆汁あるいは膿汁を得,起炎菌の同定,感受性試験をすることは適切な抗菌剤選択の面からも有用である.

ピロリ菌感染症

著者: 太田恵一朗 ,   矢島浩

ページ範囲:P.385 - P.387

はじめに
 Helicobacter pylori(H.pylori)は,1983年にオーストラリアの病理学者WarrenとMarshallにより発見された1).現在,H.pyloriは慢性胃炎や消化性潰瘍など良性疾患のみならず,胃癌や悪性リンパ腫の病因としても注目されている.本稿では日本消化器病学会Helicobacter pylori治験検討委員会が出した『Helicobacter pylori治験ガイドライン』(以下,ガイドライン)2)などを基に,H.pylori感染症の薬物療法について述べる.

腸炎

著者: 小棚木均

ページ範囲:P.388 - P.389

はじめに
 感染性腸炎は抗生剤使用に起因する偽膜性腸炎やMRSA腸炎(別項),輸入感染症など,医療上および公衆衛生上,重要な疾患を含む.下痢の性状や海外渡航歴,集団内発生の有無,抗生剤使用の有無などで疑診し,便や生検材料の培養で確診する.ただし,菌の同定や抗菌剤感受性などの結果が出るまで数日を要するので,簡易迅速診断法を用いたり,疑診のまま直ちに治療を開始する場合も少なくない.なお,感染性腸炎の下痢に対する抗コリン剤や止痢剤の使用は腸内容の停滞をきたして除菌を遅らせ,毒素の吸収を助長させるので禁忌である.

肝炎ウイルス感染症

著者: 岡田充巧 ,   牧野勲

ページ範囲:P.390 - P.392

基本的な事項
 現在までにヒトの肝炎ウイルスとしてA,B,C,D,E型の5つが確立しており,新種の肝炎ウイルスとして通称“G型肝炎ウイルス”が発見された1,2).G型ウイルスが真の“肝炎ウイルス”なのかについては議論の余地があり,肝疾患に対する立場が確定するには至っていない.また,非A〜G肝疾患とTTウイルスとの関係も検討されている3)
 G型も含めて6つの肝炎ウイルスのうちA型,E型は糞便経口感染によって伝播し,急性肝障害の原因となるが,持続感染となることはない.一方,B,C,G型は主に血腋を介した経路で感染し,急性のみならず持続感染に移行し,慢性肝障害の原因となる.D型肝炎ウイルスは単独では複製できない不完全なウイルスで,B型肝炎ウイルスとの共存下でのみ感染が成立する.臨床の場で日常的に遭遇する肝炎ウイルス感染症はA,B,C型肝炎ウイルスのいずれかが原因の場合が大多数である.

尿路感染症

著者: 小林晋也 ,   井川靖彦 ,   加藤晴朗 ,   西沢理

ページ範囲:P.393 - P.394

基本的な事項
 尿路感染症の診断と治療は他疾患の診断と治療と同様に,問診の聴取,身体所見を取ることから始まる.診断・治療を進める上で念頭に置かなければならない重要な点は,尿路に基礎疾患を有する複雑性感染と,有しない単純性感染との鑑別診断である.問診で同様な症状が過去に繰り返されていないか,中枢神経疾患や骨盤内手術の既往がないか,排尿障害をきたす薬剤の内服をしていないか,血尿の有無や普段の排尿状態に異常がないかを確認することは鑑別の手助けとなる.尿路基礎疾患としては尿流停滞,尿路結石,尿路腫瘍,膀胱尿管逆流,尿路異物,尿路留置カテーテルなどである.
 尿路感染症の症状としては頻尿,排尿痛,残尿感,尿混濁,悪寒,発熱,腎部自発痛および圧痛,下腹部痛などがあり,上記の症状を示す症例に対してはまず尿検査を行う.尿沈渣所見では尿中白血球5/hpf以上を膿尿とし,尿培養所見では尿中菌数104CFU/ml以上を尿路感染の起炎菌と考えて良いが,適切な採尿がされていることが大切である.自然排尿は容易な方法であるが,男性では包皮・尿道の常在菌が混入することことがあり,女性では外陰部や腟の分泌物・上皮・細菌が混入する可能性があるため,中間尿法で外陰部の清拭後に包皮を翻転あるいは陰唇を広げ中間尿を採取させる.膀胱尿では,一側性の上部尿路完全閉塞による感染性水腎症や膿腎症では感染が証明されないこともある.

性感染症(STD)

著者: 小林晋也 ,   井川靖彦 ,   加藤晴朗 ,   西沢理

ページ範囲:P.395 - P.396

基本的な事項
 淋疾,梅毒,軟性下疳,性病性リンパ肉芽腫の4疾患が従来性病として扱われてきたが,性行為によって感染する疾患は他にも多数あり,これらを含め性感染症(STD)と呼ぶ.多くは性行為により性器およびその用辺に付着した病原微生物の感染で発症する.病原微生物はクラミジア,ウイルス(ヘルペス,HIV,ヒューマンパピローマウイルスなど)など20種類以上に及ぶ.淋菌,クラミジアを原因とする尿道炎,子宮頸管炎が最も頻度が高く,また最近はクラミジアを含む非淋菌性尿道炎が淋菌性尿道炎の2〜3倍を占めている.性行為の多様化により,初感染部位が肛門直腸,口腔,咽頭である場合もある.STDの総数はエイズ防止キャンペーンにより減少傾向にあるが,クラミジア尿道炎は減少をみていない.以下,尿道炎,性器ヘルペス,尖圭コンジローマについて述べる.

Ⅶ.併存病態の理解と薬物療法 1.精神・神経疾患

てんかん

著者: 八木和一

ページ範囲:P.399 - P.400

発作型およびてんかん類型診断
 てんかん治療の第1歩は的確な発作型およびてんかん類型診断で始まる.てんかん発作型およびてんかん類型診断は国際分類に基づいて行われている.
 てんかん発作型は臨床発作症状と発作時ないしは発作間歇期の脳波所見に基づいて,主に部分発作と全般発作に分類されている.

精神分裂病,感情障害

著者: 野村総一郎

ページ範囲:P.401 - P.403

精神分裂病の基本概念
 いわゆる精神病の中では代表的な疾患であり,有病率は0.7%とされる.かつては人格崩壊に至る予後不良の疾患で,はっきりした治療法もなく,青年期に初発して精神病院の中で一生を終えるというイメージで捉えられていたが,最近はこの概念が大きく変化している.現在では大まかに言って,予後良好に経過する群,支えを必要とするが十分に社会適応できる群,社会適応という面ではなおも予後の良くない群が各々3分の1ずつであるとされる.経過がかつてより良くなってきたのは薬物療法を中心とした治療法の進歩,社会的な理解が進み,社会復帰やリハビリテーションシステムの確立が進んだこと,精神保健福祉法などの法的整備,などに基づく.
 病態生理や病因論に関しては画像診断や分子遺伝学的な研究などの先端科学のスポットが当たりつつあるが,現在までに確定的なのは脳内ドパミン受容体の機能亢進が関係しているということだけであり,それがいかなる原因に基づくのか,他の神経伝達物質はどう絡んでいるのか,遺伝子の関与はどのようなものであるか,などについての結論は出ていない.したがって予防法も確たるものは提唱されるレベルにはない.治療法はあくまで薬物が主体だが,急性期の対処は進んだが慢性期への方法が乏しく,今後の課題である.

脳血管障害

著者: 山崎昌子 ,   内山真一郎

ページ範囲:P.404 - P.406

はじめに
 脳血管障害は的確な診断と治療が予後を大きく左右する.急性期には脳血管障害の機序を同定しながら,患者の全身状態を保つための呼吸および循環動態の管理,頭蓋内圧亢進の治療,二次合併症の予防と治療などの一般的管理を行う必要がある.頭蓋内圧亢進の治療法としては10%グリセロール200〜300mlを1〜2時間かけて,軽症例では1日1〜2回,中等症から重症では1日3〜4回点滴静注する.投与期間は約2週間を目安とし,臨床的に脳浮腫の経過を評価して投与期間を調節する.痙攣の予防や治療には抗てんかん薬,消化管出血予防にはH2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬,感染症に対しては抗生物質を投与する.現在,脳血管障害の分類には米国国立神経疾患・脳卒中研究所による脳血管障害分類(第3版)(NINDS-Ⅲ)1)が用いられており(表),本稿ではこの中の脳梗塞と一過性脳虚血発作(TIA)の抗血栓療法について述べる.
 脳梗塞はそれぞれ血栓の成因や関与の度合が異なり,病型,病期別に抗血栓療法を考える必要がある2)ので,以下に病型別の治療方針と急性期および慢性期の具体的な治療について示す.

重症筋無力症

著者: 西谷裕

ページ範囲:P.407 - P.409

基本的な事項
 1.病因
 重症筋無力症(myasthenia gravis:以下,MG)は神経筋接合部のシナプス後膜に集合して存在するアセチルコリン受容体(AchR)蛋白が標的抗原となり,自己免疫性機序により惹起される.
 その発症には胸腺の存在が重要な意義を持つと推定されている.胸腺髄質内には筋様細胞(myoid cell)が存在し,その細胞質内にはAchR蛋白も証明されている.1972年以降の研究からMG患者の血清中には抗AchR抗体が70〜80%の高率に証明され,他の類似疾患では全く陰性であることから,本症は胸腺と密接な関係をもつ抗体依存性の高いユニークな自己免疫性疾患として注目されるようになった.

2.循環器疾患

心筋梗塞

著者: 岡田昌義 ,   杉本貴樹

ページ範囲:P.410 - P.412

定義
 心筋梗塞とは冠状動脈が閉塞して,その配下の心筋領域に虚血が生じ,最終的に不可逆性の心筋壊死をきたした病態である.

狭心症

著者: 岡田昌義 ,   杉本貴樹

ページ範囲:P.413 - P.414

定義
 狭心症とは冠状動脈に有意(通常75%以上)の狭窄が存在し,運動負荷や心拍数の増加などで心筋の酸素消費量が増加し,相対的に酸素の供給が不足した病態と定義される.

不整脈

著者: 三崎拓郎

ページ範囲:P.415 - P.416

はじめに
 外科診療においては手術侵襲,使用カテコラミンなどにより生ずる不整脈をみる機会が多い.それらには放置できるものから緊急の治療を要するものまで様々である.本稿では不整脈に対する薬物療法について述べる.

心不全

著者: 三崎拓郎

ページ範囲:P.417 - P.418

はじめに
 医学が進歩するに伴い,臨床の場において外科医が循環管理を必要とする心不全の患者に出会う機会が多くなってきている.これらの心不全症は安静,Naと水分の摂取制限で十分なものから,薬物療法で軽快するもの,さらには補助循環,左室容積縮小手術(Batisra手術),骨格筋ポンプ,心臓移植を必要とする末期的なものまで様々なものが含まれている.これらの心不全に対する治療内容も時代とともに変遷している.本項では現在使用されている代表的な心不全の薬物療法について述べる.

心筋症

著者: 岩見元照 ,   三野原基興 ,   古賀義則

ページ範囲:P.419 - P.421

はじめに
 心筋症は心筋自身の病変により心不全,不整脈などの心機能障害をきたす疾患である.最近の分子遺伝学の進歩を受けて,1995年にWHO/ISFC合同委員会の新提案が発表された(表).「原因不明な」とする説明は削除され,①肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM),②拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy:DCM),③拘束型心筋症(restrictive cardiomyopathy:RCM),④催不整脈性右室心筋症(arrhythmogenic rightventricular cardiomyopathy:ARVC)と分類された.臨床的には肥大型心筋症が大半を占め,拘束型や催不整脈性右室心筋症は稀である.

3.呼吸器疾患

肺結核

著者: 坂谷光則

ページ範囲:P.422 - P.423

はじめに
 結核菌は生体の各臓器に病巣を作りうるが,圧倒的に多いのは呼吸器すなわち肺結核(気管・気管支結核と胸膜炎を含む)である.理由は結核の感染形式が飛沫核感染,つまり患者が咳やくしゃみをしたときに口から出る多数のしぶき(飛沫)の中に菌が潜んでおり,水分が蒸散し(5μサイズの飛沫核となる),その後しばらく空気中に漂っている間に,周囲の人間が呼吸とともに肺内奥深く吸い込むことによって感染するからである.菌陽性の膿や胸水を介しての,MRSAのような接触感染はまずないものと考えてよい.本邦での代表的な細菌性伝染病である.
 肺結核とよく似た疾患に肺非定型抗酸菌症がある.環境由来の非結核性抗酸菌が原因菌(したがって伝染病ではない)の呼吸器感染症で,検出される菌の種類を正確に同定することで鑑別できる.最近では肺結核4例に対し1例の割合で発見される.

慢性閉塞性肺疾患

著者: 山田浩一 ,   木田厚瑞

ページ範囲:P.424 - P.427

はじめに
 慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pul-monary disease:COPD)は慢性気管支炎,肺気腫を包含する疾患概念であり,可逆性の乏しい閉塞性換気障害を特徴とする.
 肺気腫は病理形態学的に定義されており,終末細気管支より末梢の含気空間が肺胞壁の破壊を伴い異常に拡大したものを指す.胸部X線像では肺胞破壊のために肺血管が減少し,しかし含気量の増加により透過性が亢進した過膨張の所見を呈する.対応するCTによる画像診断ではlow attenua-tion areaが散在し,一部にbullaを形成を伴っていることが多い.一般に患者はやせており,労作性の呼吸困難が強く,口すぼめ呼吸をしていることからpink pufferと呼ばれることがある.

気管支喘息

著者: 安岡劭 ,   吉永純子

ページ範囲:P.428 - P.431

基本的な事項
 気管支喘息はその有病率が成人で1〜4%と高く,しかも近年増加しつつある疾患である.本症の病態が気道の慢性アレルギー性炎症として捉えられるようになっている.その病巣では,1)リンパ球や好酸球などの免疫・炎症細胞が関与する炎症が持続しており,2)粘膜浮腫,気道分泌の亢進,血管透過性の亢進,気道平滑筋の収縮による気道の閉塞に加えて炎症細胞の放出する細胞障害因子による気道上皮細胞の障害および剥離がみられ,3)進展例では基底膜の肥厚や線維化,気道平滑筋の肥大などの気道組織のリモデリングにより非可逆的な気流制限が起こる.このような背景から,本症の治療では発作を解消する治療法から,炎症を抑制することによって喘息発作の予防や疾患の進展防止をはかる長期管理に力点が置かれるようになっている.

4.消化器疾患

門脈圧亢進症

著者: 蓮見昭武 ,   藤田順子 ,   松井英男

ページ範囲:P.432 - P.433

はじめに
 門脈圧亢進症とは門脈系血行動態の異常によって門脈圧が異常に亢進した状態をいい,肝硬変症,特発性門脈圧亢進症,肝外門脈閉塞症などの疾患を基盤として生じる.
 本症では肝機能障害,腹水,脳症,食道胃静脈瘤,脾機能亢進症状,合併胃病変などの多彩な臨床症状を呈し,いずれも治療対象となる.しかし,これらの症状のすべてを同時に改善させ得る治療法は未だなく,肝移植術の導入,普及が期待されてはいるが,現在では個々の症状ごとにその改善を目標とした治療法が集学的に行われている.

逆流性食道炎

著者: 北川雄光 ,   安藤暢敏 ,   小澤壯治 ,   北島政樹

ページ範囲:P.434 - P.436

はじめに
 逆流性食道炎は消化液が食道内に逆流し,これが頻回に起こるか,あるいは長時間食道内に停滞することにより食道粘膜の傷害が発生する病態である.欧米に比べて本邦においては頻度も低く,軽症例が多いと言われているが,近年増加傾向にある.従来からその原因として食道裂孔ヘルニア,肥満,慢性咳嗽性疾患などによる腹圧の上昇と,それによるlower esophageal sphincter (LES)の機能不全が指摘されているが,最近では一過性LES弛緩(transient LES relaxation)が胃食道逆流(gastroesophageal reflux:GER)の主因であることが明らかになってきた1).健常者にも認められるGERがいかにして逆流性食道炎に発展するのか,その成因,病態において未だ不明な部分も多いが,24時間pHモニタリングや食道内圧測定などの機能的診断法の進歩がそのメカニズムや病態の解明に寄与してきている.本疾患に関してはHelicobacter pyloriとの関連,ロサンゼルス分類をはじめとする分類法の臨床的有用性,食道腺癌発生との関連など現在でも議論の多い問題が残されている.そして,本稿の主題である治療戦略についても,内科的治療VS外科的治療という構図のなかで,近年それぞれに新しい展開がみられたのは周知の事実である.

胃十二指腸潰瘍

著者: 中村正彦 ,   岸川浩 ,   井上淳 ,   土本寛二 ,   石井裕正

ページ範囲:P.437 - P.439

はじめに
 Helicobacter pylori (Hp)発見以後の時代,いわゆるpost-Hp eraにあって消化性潰瘍の薬物療法を考えるにあたっては,従来の消化性潰瘍の病態生理に加えてHpを含めた新たな病態を理解する必要がある.本稿では,Davenportの提唱した胃粘膜障害の機序およびcytokineなどを含めた近年の考え方について述べ,それに基づいた薬物療法を考えたい.

クローン病

著者: 岩男泰 ,   渡辺守 ,   日比紀文

ページ範囲:P.440 - P.441

クローン病治療の基本
 クローン病の病因・病態にはいまだ不明な点が多いが,腸管腔内から進入した抗原に対する生体側の過剰な反応が生じていることが明らかになりつつある.クローン病の内科的治療法は薬物療法と栄養療法とに分けられるが,薬物療法は腸管の炎症を抑制し,栄養療法は抗原物質の除去により治療効果を持つと考えられている.欧米では薬物療法が主体であるが,日本では栄養療法がクローン病のprimary therapyとして位置づけられている1).栄養療法は緩解導入にきわめて有効ではあるが,厳しい食事制限を行いつつ長期にわたって継続することは実際には困難なことが多く,緩解維持療法として薬物療法の併用が必要になる.逆に患者のQOLを考慮すると,薬物療法の併用により緩解を維持しながら栄養療法の減量をはかる必要があるともいえる.また,大腸型クローン病や大腸病変を主体とする小腸大腸型クローン病は栄養療法だけでは緩解導入が困難な場合が多く,薬物療法を併用する.大腸型の軽症例の中には薬物療法だけで緩解導入が可能な症例も少なくない.当然ながら栄養療法に反応しない肛門病変や栄養療法の不耐例に対しては薬物療法が絶対適応となる.発熱や下痢などの臨床症状が強い場合における速やかな症状の軽減・消失には,副腎皮質ステロイド剤が有効である.

潰瘍性大腸炎

著者: 日比紀文 ,   長沼誠

ページ範囲:P.442 - P.445

はじめに
 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)はクローン病とともにいまだ原因不明の炎症性腸疾患の1つであり,根本的な治療法がないのが現状である.軽症例では薬物療法で軽快することも多いが,再燃を繰り返したり,治療に難渋する症例も数多く存在する.本疾患では病型,罹患範囲,重症度,臨床症状などによってさまざまな病態を示すため,的確な病態,臨床像の把握とそれに応じた治療法の工夫が必要となってくる.本稿ではまず症状,検査所見,診断の手順,鑑別疾患などについて述べ,さらに最新の治療方針を含めた潰瘍性大腸炎の薬物療法について述べたいと思う.

虚血性大腸炎

著者: 桜井洋一 ,   落合正宏 ,   船曵孝彦

ページ範囲:P.446 - P.448

成因
 虚血性大腸炎は,1966年にMarstonら1)により,主幹動脈に基質的な閉塞がなく,腸管の虚血により引き起こされた可逆的な炎症性病変と定義されている,一般に高血圧症,動脈硬化症,心疾息,糖尿病などの心血管障害のある高齢者にみられる大腸血流障害による区域性腸炎である.下行結腸からS状結腸に多く,血流障害の原因としては血管側の要因と腸管側の要因がある.Marstonらは古典的に壊死型,狭窄型,一過性型の3型に分類し,現在でも用いられているが,最近では壊死型を除き狭窄型,一過性型の2型に分けることもある.また腸管壁の病変が可逆的である虚血性大腸炎と不可逆的である非閉塞性腸管虚血症(non-occlusive mesenteric ischemia:以下,NOMI)2)とに分類されることもある.厚生省研究班アンケート調査3)によれば各病型の頻度は一過性が65.7%,狭窄型が24.1%,壊死型が10.2%と一過性型が最も多い.壊死型は急激に起こる高度の血流障害によるもので,比較的稀であり,むしろ腸梗塞の範疇に入れられるべきものである.腹痛が強く,持続性,進行性で腸壁全層の壊死を示す.穿孔,腹膜炎の症状(腹部全体の庄痛,Blumberg徴候,筋性防御)がみられる.腹部単純X線検査で麻痺性腸閉塞が認められる.

結腸憩室炎

著者: 宮北誠 ,   桜井嘉彦 ,   古川潤二 ,   石川洋一郎 ,   三井洋子

ページ範囲:P.449 - P.451

はじめに
 大腸憩室疾患は増加傾向にあり,注腸造影検査での発見率は9〜15%である.本邦の大腸憩室1)は右側結腸に多く(72.8%),とくに39歳以下の若年者は93.3%が右側である.憩室の個数は単発例が32%,10個未満の多発例が47%であり,群発例もみられる.加齢とともに憩室個数は増加するが,経時的観察では左側型は右側型の約2倍の増加傾向を示す.男女比は1.8:1とやや男性に多い.欧米の憩室疾患は左側,ことにS状結腸に多く,男女比もほぼ同数である.

腸管癒着症

著者: 納賀克彦

ページ範囲:P.452 - P.453

疾患の概念
 腸管癒着とはなんらかの原因で腸管漿膜あるいは壁側腹膜が損傷を受け,漿膜下層と周囲の他の漿膜とが線維性に癒着した状態をいう.漿膜損傷の原因としては腹膜炎などの炎症,血液や消化液による化学的刺激,温熱,乾燥などによる物理的刺激や手術操作による機械的損傷などが挙げられる.一般に腸管の癒着が形成されても必ずしも腹部症状を呈するとは限らず,むしろ無症状に経過することが多い.腸管癒着により腸管内容の通過に何らかの障害が発生した状態を腸管癒着症といい,約90%は開腹術後に発生する.通過障害が強くなると腸閉塞となる.癒着により通過障害をきたす腸管は主に小腸であり,特に下部小腸に多い.

下痢

著者: 小野成夫

ページ範囲:P.454 - P.456

定義
 糞便中の水分量が増加し,液状あるいは半流動性になった大腸内容が排出される状態で,1日の糞便中の水分量が200ml以上(または,1日の糞便重量が200g以上)と定義されている.排便回数は必ずしも関係しない.

便秘

著者: 小野成夫

ページ範囲:P.459 - P.461

定義
 種々の原因により排便機序に障害が起こり,糞便の結腸内通過あるいは直腸からの排出が遅れ,3日以上排便のない状態をいう.具体的には1回の排便量が35g以下に減少し,便中の水分量が少なく,排便時に努力と苦痛を要し,不快感,腹部膨満感,腹痛などがあって,日常生活に支障が出るなどの症候群を便秘と定義している.

痔核

著者: 黒水丈次 ,   高野正博 ,   豊原敏光

ページ範囲:P.463 - P.465

概念
 痔核は過剰な上皮や粘膜下組織を伴う弾力線維の著明に減少した静脈塊で,静脈瘤様に内腔が拡大した病変とされている.すなわち,痔核の本質は静脈内腔の拡大,静脈壁の萎縮,弾力線維の退行,間質の浮腫,小静脈の新生である.

慢性肝炎

著者: 吉岡政洋 ,   伊藤貴 ,   原歩

ページ範囲:P.467 - P.469

疾患概念
 慢性肝炎は第19回犬山シンポジウムにおいて,6か月以上肝機能異常とウイルス感染が持続している病態と再定義された1).慢性肝炎の原因ウイルスとして頻度の高いものは,B型肝炎ウイルス(HBV)とC型肝炎ウイルス(HCV)で,各々30〜40%,50〜60%である.近年G型ウイルスやTTウイルスの役割が注目されているが,詳細は未だ不明である.HBVによる慢性肝炎はキャリアー(垂直感染や生後3か月以内の感染により成立)から発症することがほとんどで,成人になって感染した場合は急性肝炎のみで慢性化することはまずない.近年,HBV免疫グロブリンやワクチンを使った母子感染の予防事業によりキャリアーは減少しており,B型慢性肝炎も減少していくことが予想される2).一方,C型肝炎は60〜80%が慢性化する.したがって今後の慢性肝炎ではC型肝炎の占める割合が増加すると考えられる.

肝硬変

著者: 土本寛二 ,   芹澤宏

ページ範囲:P.470 - P.471

基本的な事項
 肝硬変は原因のいかんにかかわらず慢性肝障害の終末像であり,病理組織学的には肝細胞の持続反復する壊死に伴う炎症の結果,結合組織の増生と肝細胞の結節状再生を認めるものと定義される.原因としては本邦ではウイルス性(特にC型肝炎ウイルス)のものが圧倒的に多く,次いでアルコール性や薬剤性,また特殊型として免疫異常による自己免疫性肝炎や原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis:PBC),日本住血吸虫症などの寄生虫,代謝異常によるものがある.肝硬変の病態は不可逆的進行性で,その病期は代償期と肝不全徴候を呈す非代償期とに分けられ,最終的に肝細胞癌合併,肝不全,消化管出血により死亡することが多い.したがって,肝硬変の診療では肝予備能の維持,肝細胞癌の早期発見と治療など肝関連の対応はもちろん,他疾患の合併時の適切な手術適応判断や術後管理が要求される.

薬剤性肝障害

著者: 荒井正夫

ページ範囲:P.472 - P.473

はじめに
 従来から抗生剤,抗炎症剤,抗腫瘍剤,化学療法剤,ホルモン製剤,抗精神薬,循環器製剤などによる多くの薬剤性肝障害の報告があり1),肝臓は薬剤の代謝を担う重要な臓器であるとともに,その副作用の最大の標的臓器でもある.今回,薬剤性肝障害の診断および治療を概説したい.

急性膵炎

著者: 佐久間正祥 ,   小山孝彦 ,   又吉秀樹

ページ範囲:P.474 - P.476

はじめに
 急性膵炎は軽症から重症まで病態は多彩である.治療に際しては胆管結石などの成因の明らかなものかどうかを鑑別することが大切である.これら胆石による膵炎は原因除去が優先される.最近では重症急性膵炎に対しても集中治療による保存的治療が主流であり,感染などの合併症が発生したときに外科的療法が選択されることが多い.急性膵炎の治療は重症度によって異なるため,的確な診断とともに成因を分析し,発症早期に重症度の判定を行う必要がある.

慢性膵炎

著者: 高橋伸

ページ範囲:P.477 - P.479

基本的な事項
 慢性膵炎は臨床的に反復性または持続性腹痛と膵内・外分泌機能低下を主な症状とし,病理組織学的には限局性ないしび漫性な膵実質の脱落と線維化を示す疾患である.その成因について1984年の全国集計では男性にアルコール性が多く,女性に特発性や胆石が多いい傾向があるが,男女全体ではアルコール性が59%,特発性が27%,胆石が8%,急性膵炎が3%であった1)

急性胆嚢炎

著者: 島津元秀

ページ範囲:P.480 - P.482

基本的な事項
 急性胆嚢炎の発症機序としては一般的に,1)胆石,2)上行性感染などによる細菌感染,3)胆汁酸などの化学的刺激,4)胆嚢の収縮異常,4)胆嚢動脈の血行障害などが挙げられるが,最も頻度の高いものは胆石を伴う胆嚢炎であり,90%以上を占める.胆石胆嚢炎は胆石により胆嚢管が閉塞して胆汁うっ滞が生じ,それに胆汁成分の化学的刺激や細菌感染が加わって発症すると考えられている.胆石胆嚢炎では外科的な胆嚢摘出術が根治的な治療法であり,基本的には薬物療法は疼痛および炎症を抑えて危険な緊急手術を回避し,全身検索後に良い条件で待期手術を行うための一時的な治療と位置づけられる.

5.腎・尿路疾患

慢性腎不全

著者: 吉田和弘 ,   秋元成太

ページ範囲:P.483 - P.485

基本的な事項
 慢性腎不全とは腎疾患が慢性の経過で障害され,不可逆的に機能低下した病態を呼称する.慢性腎不全は腎機能の障害度によって腎予備機能減少期,代償性腎不全期,非代償性腎不全期,および尿毒症期に分類1)される.正常腎機能に対する各期の糸球体濾過量はそれぞれ100〜50%,50〜30%,30〜5%,<5%である.
 慢性腎不全の原因疾患は透析導入に至る原疾患と同様であり,第1位の慢性糸球体腎炎,第2位の糖尿病性腎症が大多数を占め,さらに腎硬化症・嚢胞腎,慢性腎盂腎炎が続く.腎機能障害の進展因子として糸球体の過剰濾過,過形成,ネフロン減少,およびtrade off説が挙げられる.また,脂質代謝異常や各種サイトカインの関与もみられる.主な腎機能増悪要因は蛋白過剰摂取と高血圧であり,過度な降圧や脱水,高尿酸血症,腎機能に影響する薬剤の使用も問題となる.血清クレアチニン値はGFRが30ml/分以下の高度腎機能障害に陥らないと異常値を示さない.したがって,腎機能の障害度による生活指導と病態に即した適切な薬物療法が必要となる.

ネフローゼ症候群

著者: 河邊満彦 ,   秋元成太

ページ範囲:P.486 - P.488

基本的な事項
 ネフローゼ症候群(以下,ネ症)は腎糸球体傷害による糸球体基底膜(以下,GBM)の蛋白透過性亢進による3.5g/日以上の蛋白尿と,6.0g/dl以下の低蛋白血症(アルブミンで3.0g/dl以下),浮腫,高脂血症(総コレステロール250mg/dl以上)などを認める症候群であり,原因として原発性および続発性の糸球体疾患がある.平成6年度厚生省特定疾病進行性腎障害調査研究班(班長:黒川 清)報告では,成人の原発性疾患は微小変化群(36.7%:以下,MCNS),膜性腎症(33.5%),メサンギウム増殖性腎炎(13.5%),巣状糸球体硬化症(8.9%:以下,FSGS),膜性増殖性糸球体腎炎(5.5%)の順で年代の変遷を認める.続発性は糖尿病,ウイルス性肝炎,サルコイドーシス,ループス腎炎など多彩である.

前立腺肥大症

著者: 堀内和孝 ,   秋元成太

ページ範囲:P.489 - P.492

基本的な事項
 前立腺肥大症に対する治療法の第一選択は手術療法で,その主流は経尿道的前立腺切除術(transurethral resection of the prostate:TURP)であった.しかし,TURPを行っても良好な結果を得られないばかりか,様々な合併症の存在が示唆されるようなった1).そこで,近年,薬物療法を含めた非侵襲的治療法の開発が進んでいる.

6.血液疾患

貧血

著者: 檀和夫

ページ範囲:P.494 - P.495

基本的な事項
 1.病態
 「貧血」とは血液単位容積あたりのヘモグロビン量が減少した「病態」を指す用語であり,診断名ではない.すなわち,鉄欠乏性貧血,再生不良性貧血,溶血性貧血,悪性貧血など多くの疾患を総称したものである.したがって,「貧血」に対する治療は単純ではなく,「貧血」をみたら鉄剤,ビタミン剤あるいは赤血球輸血をただちに施行するというようなことを行ってはならない.実際,血液専門医のところへ紹介されてくる貧血患者のなかにはこれらの治療を受けた後に貧血が軽快しないとの理由で来院する例がしばしばある.
 上述の血液疾患以外にも慢性感染症,非感染性炎症性疾患(慢性関節リウマチ,SLEなど),悪性腫瘍,肝疾患,腎疾患,内分泌疾患などに合併する二次性貧血まで含めると貧血を呈する患者はきわめて多く,どの診療科でも診る機会は稀ではなく,したがって適切な診断および治療の手順を習得しておく必要がある.

顆粒球減少症

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.496 - P.497

基本的な事項
 顆粒球減少症は白血球中の好中球の減少を意味しており,好酸球・好塩基球はこの中に含まない.
 したがって,顆粒球減少(以下,neutropenia)の存在は白血球数×好中球(%)によって表せる.好中球の正常値は1,500〜7,000/mm3までとされており,neutropeniaは1,500/mm3以下になった状態をいう.

血小板減少症

著者: 小山高敏 ,   広沢信作

ページ範囲:P.498 - P.500

はじめに
 血小板の働きは血液の凝固や毛細血管の恒常性維持に密接に関係するので,血小板が減少したり機能が低下すると出血が起こりやすくなる.逆に,血小板の数が極端に増加すると血栓を作り,二次的に出血も引き起こす.増加している血小板の機能的障害がある場合もあり,出血傾向をきたすこともある.現在,血小板数は自動血球計数器で測定されているが,特に減少の結果が出た場合は後述の通り,直接塗抹標本や計算板で確認することが必要である.

7.内分泌・代謝疾患

甲状腺機能異常症

著者: 片桐誠

ページ範囲:P.502 - P.503

はじめに
 甲状腺機能異常症には甲状腺ホルモンの分泌過剰による機能亢進症と分泌不足による機能低下症がある.すでに診断がついている場合はそれほど問題にはならないが,緊急手術時など甲状腺機能異常に気がつかない場合は不測の事態を招くことがあるので注意を要する.

副甲状腺機能異常症

著者: 片桐誠

ページ範囲:P.504 - P.505

はじめに
 副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)は骨吸収の促進,尿細管におけるカルシウム(Ca)再吸収の亢進およびビタミンD3(D3)の活性化などの作用を持ったCa代謝関連ホルモンの1つである,副甲状腺機能亢進症の場合は二次性のものを除いて血中Caが上昇し,機能低下症の場合は血中Caが低下する.いずれの場合も臨床的にはこの血中Ca濃度異常が問題となり,PTH濃度自体はほとんど障害とはならない.

高脂血症

著者: 山本実

ページ範囲:P.506 - P.509

はじめに
 高脂血症治療の目的は主に動脈硬化性疾患の発症予防である.したがって動脈硬化性疾患の有無あるいは合併している危険因子を考慮し,高脂血症を治療する必要がある.そこで高脂血症の診断基準,成因,管理基準,非薬物療法,薬物療法について説明したい.

痛風,高尿酸血症

著者: 谷口敦夫

ページ範囲:P.510 - P.511

基本的な事項
 痛風は高尿酸血症が長期間持続し,析出した尿酸・尿酸塩が原因となって急性関節炎や腎障害などを生じる疾患であり,生活習慣病のひとつとして位置づけることができる.適切な治療が行われないと関節炎は次第に頻発・慢性化し,関節破壊も生じる.さらに腎障害も進行し,腎不全・尿毒症に至る.しかし,これらは適切な薬物療法により回避可能である.また,基礎療法としての日常生活指導も重要である.
 痛風の基盤である高尿酸血症は血清尿酸値7.0mg/dl以上と定義される.また,高尿酸血症のなかで痛風性関節炎の既往のない場合を無症候性高尿酸血症という.遺伝的素因に過食,肥満,アルコール摂取,過度の運動などの環境要因が加わり,尿酸産生が過剰になったり,腎臓からの尿酸排泄が低下すると高尿酸血症が起こる.薬物により二次的に生じる場合もある.

SIADH

著者: 齊藤寿一

ページ範囲:P.512 - P.513

基本的な事項
 下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモン(ADH)は,正常状態では大量の水負荷などによる血清ナトリウム濃度低下に呼応して分泌が抑制される.その結果,腎集合尿細管における水再吸収は抑制され,水利尿が増強し,血液の希釈状態は矯正され,低ナトリウム血症の出現は抑止される.SIADHは原疾患(表)に由来するADHの分泌亢進の結果,相対的な水過剰が持続した病態である.肺小細胞癌などの悪性腫瘍による異所性ADH産生に由来するものと,中枢神経系疾患や胸腔内疾患に合併して下垂体後葉からの内因性ADH分泌が亢進したものに二大別される.SIADHの治療はまず原疾患の治療が考慮されることとなるが,同時に低ナトリウム血症に由来する神経症状を中心とした全身状態の悪化の改善に向けられることとなる.輸液,とりわけ水の投与量を制限し,これと同時に薬物治療が行われる.

8.膠原病(RAを含む)

膠原病(RAを含む)

著者: 縄田泰史 ,   高林克日己

ページ範囲:P.514 - P.516

膠原病とは
 1942年,病理学者のKlempererはそれまでの臓器別疾患とは異なり,結合組織を中心とする全身性の炎症性病変をきたす疾患として“diffusecollagen disease”の概念を提唱したが,「膠原病」の名称はこれに由来する.当初,1)全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE),2)全身性強皮症(systemic scleroderma),3)多発性筋炎(polymyositis:PM)/皮膚筋炎(dermatomyositis:DM),4)結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PN),5)慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA),6)リウマチ熱の6疾患が挙げられたが,その後,溶連菌感染が原因のリウマチ熱は除外され,1)〜4)は「古典的膠原病」と呼ばれている.現在わが国ではシェーグレン症候群,ベーチェット病,混合性結合組織病,ウェゲナー肉芽腫症,大動脈炎症候群などの膠原病類縁疾患を含めて広義に「膠原病」と呼んでおり,欧米では「connective tissue disease,col-lagen vascular disease」などと呼ばれている.

9.水・電解質異常

低・高ナトリウム血症

著者: 井上武明 ,   冨田公夫

ページ範囲:P.517 - P.519

はじめに
 ナトリウム(Na)は細胞外液中の主な陽イオンであり,血漿Na濃度の2倍が血漿浸透圧にほぼ等しい.正常ではこの浸透圧は渇中枢の刺激および下垂体後葉からの抗利尿ホルモン(ADH)分泌を介して厳密に調整されている.たとえば,高張食塩液を負荷して血中Na濃度が増加した場合,直ちに渇中枢が刺激されて飲水が増加するとともに浸透圧受容体を介してADHが分泌され,腎臓集合尿細管における水再吸収が増加して浸透圧が元に戻る.一方,低張液を投与した場合は全く逆の反応が起こって,飲水が制限されるとともに希釈尿が排泄される.したがって,血中Na濃度の異常にはこの調節機構の何らかの障害が関与する.

低・高カリウム血症

著者: 井上武明 ,   冨田公夫

ページ範囲:P.520 - P.522

はじめに
 成人の体内総カリウム(K)量は3,500〜4,000mEqであるが,細胞外液中のKは60〜80mEq(血清K濃度4.0mEq/l)と少なく,Kを多く含む食品の摂取により細胞外K濃度は著明に上昇する可能性がある.しかし,実際にはKの細胞内移動と尿中へのK排泄により細胞外K濃度が比較的一定に保たれる.したがって,K濃度の異常をきたす患者では,この2つの調節機構になんらかの異常が存在する.

低クロール血症

著者: 庭山淳 ,   佐中孜

ページ範囲:P.523 - P.525

低Cl血症の原因
 低Cl血症をきたす場合を以下に示す.
 低Cl血症の原因は,図1のフローチャートに示すように,先ず①低Na血症に伴う場合,②酸・塩基平衡異常を伴う場合に大別される.

低・高カルシウム血症

著者: 斎賀美恵子 ,   井上大輔 ,   松本俊夫

ページ範囲:P.526 - P.528

カルシウムの代謝調節
 血清カルシウム(Ca)濃度は骨からの放出,腎尿細管での再吸収,腸管からの吸収などによりCaが血中へ動員されることで維持されている.これらの臓器と血液との間の代謝平衡を調節することによって,血清Ca濃度の維持に中心的な役割を果たしているのが副甲状腺ホルモン(PTH)や1,25水酸化ビタミンD(1,25(OH)2D)などのCa調節ホルモンである.PTHは骨と腎に作用し,主に骨吸収の亢進と腎遠位尿細管でのCa再吸収の促進によって血清Ca濃度を維持している.更に,PTHによる腎近位尿細管の1α水酸化酵素活性の促進を介して生成される1,25(OH)2Dは,CaとPの腸管からの吸収促進などによって骨の石灰化を含めた長期的なCa代謝平衡の維持にかかわっている1)
 血清総CaのうちCa調節ホルモンの厳密な調節を受け,生体の細胞機能に直接影響を及ぼすのは,その約50%を占める遊離イオン化カルシウム(Ca2+)である.残りの大部分は主にアルブミンなどのタンパクに結合して存在する.したがって,血清アルブミン値が4g/dl以下のときには見かけ上総Ca濃度が低下するため,その評価には次のような補正式を用いる.

Ⅷ.終末期患者の薬物緩和療法

症状緩和とセデーション

著者: 田中桂子 ,   志真𣳾夫

ページ範囲:P.530 - P.532

終末期癌患者の症状とセデーション
 癌早期発見への努力と外科技術の進歩にもかかわらず,癌による死亡は年々増加し,年間約27万人で総死亡の32%を占める(1996年).終末期癌患者の症状は癌の部位により様々であるが,疼痛,倦怠感,体重減少,食思不振,嘔気,便秘,呼吸困難感,不眠,混乱せん妄などが挙げられる1).WHO方式がん疼痛治療法2)によるモルヒネの使用が普及して,疼痛の多くは緩和されつつある.しかし神経因性疼痛や倦怠感,呼吸困難感,混乱せん妄など多くの症状は未だ標準的治療法が確立されておらず,こうした緩和困難な苦痛症状の最終的な緩和方法として,セデーションは重要な位置を占める.
 セデーションとは,「標準的な緩和方法による症状緩和が不可能な場合,その苦痛を軽減する目的で薬剤により意図的に意識を下げること」と定義される.終末期患者に対してセデーションがどの位行われているかの正確な報告は少ないが,イギリスの報告では病院で21%,ホスピスで67%であり3),筆者らの緩和ケア病棟では40%(212例中84例)であった.しかし,セデーションの標準的方法は確立されておらず,経験的に行われているのが現状である.本稿では当院緩和ケア病棟で行っているセデーションを中心に紹介する4,6)

疼痛の緩和

著者: 山室誠

ページ範囲:P.533 - P.535

はじめに
 WHO方式のがん疼痛治療法の普及によりモルヒネの使用量は増加しているが,依然として多くの患者が癌性疼痛に苦しんでいる.その最大の理由は副作用対策を含めて,モルヒネの使用法の拙さである.たとえ剤形が変わってもモルヒネという薬剤自体が素晴らしいのではなく,WHO方式に則って投与するからこそ効果があることを再確認すべきである.

呼吸器系の愁訴

著者: 岡部健

ページ範囲:P.536 - P.537

はじめに
 終末期呼吸器愁訴,特に在宅ホスピスケアでの癌の終末期の愁訴を中心に述べる.呼吸困難感,咳嗽,死前喘鳴の3つの愁訴が主体である.その中でも呼吸困難感は末期癌全体で50%,肺癌で70%に出現し,末期癌の愁訴として最も重要と考えられる.呼吸困難感のメカニズムは必ずしも解明されていないが,いくつかの呼吸調整メカニズムの障害で起きてくるものであり,この薬物学的調整をはかるためには,呼吸調整のメカニズム(chemical control mechanisms (Paco2,Pao2,pH),airway stretch receptors, airway opioid receptors,lung parenchymal receptors, respiratory musclesの機能)を良く知り,その中のどこに呼吸困難感を形成する原因があるのかを想定する必要がある.

消化器系の愁訴

著者: 前野宏

ページ範囲:P.538 - P.540

はじめに
 東札幌病院緩和ケア病棟に入院する末期がん患者の入院時の症状は表1のごとくである1).このうち消化器症状である全身倦怠感,食欲不振,嘔気,嘔吐,腸閉塞,腹水,便秘について述べる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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