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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科54巻2号

1999年02月発行

雑誌目次

特集 癌転移治療のノウハウ

進行・再発乳癌の集学的治療—実地医療として外科医ができること

著者: 井本滋

ページ範囲:P.159 - P.163

 進行・再発乳癌に対する様々な薬物療法が可能となったが,未だ組織的治癒を期待できる状況にはない.ホルモン感受性によって内分泌療法または化学療法の選択を行い,できれば臨床的治癒を目指し,あるいは病状の進行を遅らせて,患者・家族の生活の質を保つことが重要である.しかし,実地医療として外科医ができることには限界があり,緩和医療に当たっては多くの専門家(内科医,麻酔科医,精神科医)の協力のもとにbest supportive careを目指すべきである.

食道癌・胃癌の遠隔臓器転移に対する外科治療の適応

著者: 松原敏樹 ,   国土典宏 ,   大山繁和 ,   植田守 ,   山本浩史 ,   高橋孝 ,   中島聰總 ,   奥村栄 ,   加藤友康

ページ範囲:P.165 - P.169

 従来,食道癌や胃癌の遠隔臓器転移は絶対的予後不良とされてきた.しかし,合併療法や手術術式の進歩によって遠隔臓器転移でも切除後長期生存症例が散見されるようになってきた.現在筆者らは転移巣の増大や広がりの速度が急速でなく,転移巣が解剖学的に局在しており,肉眼的全病巣が技術的に切除可能な場合には,放射線療法や化学療法とともに積極的切除を施行している.遠隔臓器転移切除例の予後は原発巣の進行度,転移臓器,遠隔転移出現時期などによって異なっている.とくに,肺,肝,脳,卵巣などの転移例では,病態によっては外科的切除によって予後の改善が期待しうる.

大腸癌肝転移に対する肝動注療法

著者: 奥野清隆 ,   安富正幸

ページ範囲:P.171 - P.179

 大腸癌肝転移に対する肝動注療法は主として肝動脈から血流を得る肝転移巣に効率よく薬剤を作用させ,かっ肝抽出率の高い5-FUやFUDRを用いることで全身への副作用を抑制するきわめて理論的な局所療法である.事実,欧米の無作為化試験における肝動注の奏効率は約40〜60%と全身静注のそれが20%程度であるのに比較して有意に高い.しかしながらその高い抗腫瘍効果が生存期間の延長に寄与していないという指摘もある.本稿ではその考察を行うとともに,これまで筆者らが施行してきたリンパ球増殖因子Interleukin-2(IL-2)と化学療法剤(5-FU, Mitomycin C)を併用する免疫化学肝動注療法の成績を紹介し,その作用機序がIL-2の肝類洞内リンパ球の活性化のみでなく,併用する化学療法剤の効果を向上させる薬理作用も存在するという解析結果を報告した.

転移性肝腫瘍に対する外科的切除の適応と限界

著者: 杉岡篤 ,   江崎哲史 ,   藤田順子 ,   小森義之 ,   松井英男 ,   宇山一朗 ,   蓮見昭武 ,   丸田守人

ページ範囲:P.181 - P.189

 転移性肝腫瘍に対する肝切除の適応と限界は画像診断および肝臓外科の進歩に伴い変化しつつある.本稿ではangio-helical CT(AHCT)の導入後の肝切除の適応と限界につき大腸癌肝転移切除例93例を中心に検討した.AHCTは1cm以下の微小肝転移の診断に不可欠であったが,検出限界は3mmで,5mm前後の腫瘍の質的診断は困難であった.AHCT施行例において残肝無再発生存率は良好で,特にH3症例でも良好であったが,生存率に対する効果はみられず,今後残肝以外の再発巣に対する治療が重要と考えられた.肝切除後の残肝再発切除を13例,肺転移切除を6例に施行し,良好な成績が得られたが,残肝再切除においてもAHCTが有用であった.非大腸原発肝転移17例を切除し,3例の5年生存例を得たが,大部分の症例は1年以内に再発死亡し,現時点では適正な肝切除の適応決定は困難であった.

定位放射線照射による転移性脳腫瘍の治療

著者: 内田孝俊 ,   林靖之 ,   越智誠 ,   林邦昭 ,   安永暁生 ,   柴田尚武

ページ範囲:P.191 - P.196

 転移性脳腫瘍に対して,定位放射線照射(STI)は有効な治療法である.腫瘍径3cm以下の転移性脳腫瘍は定位手術的照射(SRS,ラジオサージェリー)で局所制御可能である.現在では部位や脳外病変の有無に関わらず,腫瘍径3cm以下で単発もしくは2〜4個の脳転移はSRSが第一選択である.3cm以上の大きい病変やeloquent areaの病変に対しては,より安全に高い局所制御を得るために定位放射線治療(SRT)が期待されている.定位放射線照射(STI)の有用性が確認された現在,これを考慮に入れた転移性脳腫瘍あるいはその原発巣の治療戦略の確立が望まれる.

転移癌に対するターゲッティング療法の治療成績

著者: 山口俊晴 ,   沢井清司 ,   萩原明於 ,   谷口弘毅 ,   北村和也 ,   大辻英吾 ,   阪倉長平 ,   白数積雄 ,   岡本和真 ,   山岸久一

ページ範囲:P.197 - P.201

 抗癌剤のdrug delivery system(DDS)について概説し,消化器癌の転移形式別にその応用例を示した.臨床応用されている試みについては,できる限り臨床成績を紹介したが,実験段階にとどまっているものもいくつか紹介した.とくに,微小転移巣を標的とした抗癌剤のターゲッティング療法のためのDDSの開発が,今後の癌転移治療の成否を握る大きな鍵であることを強調したい.

転移性腫瘍に対する免疫療法・免疫遺伝子治療の現況と展望

著者: 北川雄光 ,   河上裕 ,   北島政樹

ページ範囲:P.203 - P.208

 従来のいわゆる免疫療法は非特異的免疫賦活を利用したものが多く,転移予防手段としては期待されていたものの,顕在化した転移性腫瘍に対する単独での治療効果は確立されていなかった.しかし,1990年代になり,分子生物学的手法を用いてメラノーマを中心にT細胞認識ヒト腫瘍抗原が相次いで単離・同定され,T細胞系を用いたより抗原特異的な治療が開発された.さらに,T細胞認識抗原の研究のなかで,その分子機構や免疫寛容誘導に関わる分子も明らかにされ,これら新知見に基づいた治療法が開発されている.現在,新たなT細胞認識癌抗原の同定が進められると同時に,これらを用いた抗原特異的免疫療法・免疫遺伝子治療が一部では臨床試験の段階に入っており,今後難治性の転移再発腫瘍に対する最終治療手段として期待されている.

カラーグラフ 消化器の機能温存・再建手術・6

早期胃癌に対するD2郭清を伴う自律神経温存幽門保存胃切除術

著者: 二宮基樹 ,   池田俊行 ,   朝倉晃 ,   岡村進介

ページ範囲:P.151 - P.157

はじめに
 予後の良好な早期胃癌に対して術後QOLの改善を目的として,種々の縮小手術や機能温存手術1)が試みられるようになってきた.筆者らは早期胃癌に対して根治性を保ちつつ,術後消化吸収機能と術後QOLの改善をめざして,D2郭清を伴う自律神経温存幽門保存胃切除術(以下,本術式)を行っている2〜5)医本稿ではこの術式の実際と管理について述べる.

私の工夫—手術・処置・手順・49

癌性腹膜炎による腸閉塞に対する手術の工夫—胃瘻,腸瘻チューブ同時造設

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.210 - P.211

1.はじめに
 癌性腹膜炎による腸閉塞は患者にとっても医療者にとっても対応に苦慮する状態である.特に大腸癌再発による癌性腹膜炎の状態は,多くの場合患者の意識状態は良く,長期にわたり吐き気や嘔吐が患者を苦しめ,食事摂取ができなくなる.したがって栄養の補給に高カロリー輸液をし,嘔吐するようになると,胃チューブやイレウス管を鼻より挿入しそのままベッド上でねたきりになることがほとんどである.末期患者のQOL向上のため,以下のように工夫し,効果的な方法を考案した.

病院めぐり

—秋田県厚生農業協同組合連合会—由利組合総合病院外科

著者: 海法恒男

ページ範囲:P.212 - P.212

 由利組合総合病院は日本海,鳥海山,子吉川(1級河川)と,文字どおり海山川の自然に恵まれた秋田県本荘市にあり,県の西南,本荘・由利地区の医療の中核を担っており,診療圏は,本荘市を中心に一市十町,対象人口13万,北は秋田市,東は横手・湯沢市,南は鳥海山を挟んで山形県酒田市の医療圏と接しています.病棟から真正面に見える鳥海山の景色は近くに競う山がなく格別で,入院患者さんの心の安らぎにもなっています.
 本荘市駅前に昭和8年24床で発足以来,諸先輩の努力により本院530床,分院(精神科)250床まで発展拡張して来ましたが手狭となり,平成6年11月,本荘市郊外へ移転しました.新病院は,地下1階・地上10階建,750床(一般660床,精神60床,伝染30床)で,ICUの設立,手術場はバイオクリーンルームを含め9室,病棟には骨髄移植用の無菌室もそなえ,CT・リニアック・MRIも最新機種が導入または更新されました.旧病院と異なり,3万3千坪の敷地に十分な駐車区域を確保でき,患者数も年々増加の一途で平成9年の1日平均外来数は1,900人を越し,勤務医師数は約70名,全職員数は760余名を数えます.

公立気仙沼総合病院外科

著者: 横田憲一

ページ範囲:P.213 - P.213

 気仙沼市はサンマ・カツオ漁,遠洋マグロ延縄漁の基地として宮城県北,南三陸海岸に位置しており,公立気仙沼総合病院は医療圏約10万人の当地域の基幹病院として昭和39年に開院しました.気仙沼は三方を山で囲まれ,残るは海という文字通りの陸の孤島であり,ゆりかごから墓場までよろしく,当院は一次救急から終末医療までの地域完結型の医療を期待されています.診療科の充実により,現在では19診療科,病床数530床,医師数40名で診療にあたっています.
 外科は東北大学第2外科の出身者で構成され,遠藤渉副院長のもと,医長4名,副医長1名,そのほか研修医3名の計9名で約90床を受け持っています.外来患者は1日約130名で,平成9年の年間手術件数は全身麻酔件数537件,総手術数763件でした.疾患は多岐にわたりますが,主なものでは甲状腺・上皮小体34例,乳癌34例,肺切除術24例,食道癌8例,胃癌69例,良性胆道疾患96例,膵・胆嚢・胆管悪性腫瘍18例(うち膵頭十二指腸切除術8例),肝切除術17例,結腸・直腸癌66例,血管外科14例(うちY型人工血管移植術4例),鼠径ヘルニア76例などであり,緊急手術は119例でした.

臨床外科交見室

成人鼠径ヘルニアに対するNyhus分類について

著者: 山本俊二

ページ範囲:P.214 - P.215

 従来,鼠径ヘルニアは,ヘルニア門の解剖学的位置により,外鼠径ヘルニア・内鼠径ヘルニア・大腿ヘルニアに分類され,また,発生原因から小児鼠径ヘルニアと成人鼠径ヘルニアとに分類されるが(表1),近年,Nyhus分類1)(表2)が用いられるようになってきている.このNyhus分類では,成人の外鼠径ヘルニァをType 2とType 3Bとに分類しているのが特徴であるが,はたしてこのように分けることは意味があるのだろうか.
 Type 2は,内鼠径輪の開大があるが,鼠径管後壁が正常な外鼠径ヘルニアであり,メッシュによる後壁補強は必要ないとしている1).たしかに,鼠径管後壁が正常であれば,補強は必要ないといえるが,術前はもちろん,手術中にも鼠径管後壁の脆弱性を判定することは困難である.Nyhus自身は,ヘルニア嚢内に挿入した指で,鼠径管後壁の脆弱性を判定しているが1),この判定方法は不正確である.実際,鼠径管後壁の脆弱性の判定の誤りにより,3.3%の内鼠径ヘルニア型の再発があるという2).また,Type 3Bは陰嚢まで達する外鼠径ヘルニアであり,Type 2は鼠径管内全体を占めるような外鼠径ヘルニアであるとしているが,われわれの経験では,鼠径管内全体を占めるようなヘルニアでは,鼠径管後壁の脆弱を認めるものが大部分である.

メディカルエッセー 『航跡』・29

クリティカルパス—究極のコストパーフォーマンス

著者: 木村健

ページ範囲:P.216 - P.217

 アメリカの病院が外国の医学部卒業生に対して卒後臨床研修の門戸を狭めて久しい.1950年代までは日本の医学部卒業証書を持っているだけで,米国での臨床研修医に採用された時代もあった.ECFMGと呼ばれる外国医学部卒業生に対する資格試験が制度として発足してから40年ほどしか経っていない.ECFMGは最近はFLEXと言う連邦医師免許試験に替わった.しばらくの間医師国家試験(NBE)とFLEXの二本建ての時代が続いたが,今はまた別の制度が出来て,外国の医学部卒業生がアメリカで卒後研修をするのは一段と困難になった.この背景にはアメリカ国民の就職機会を護るという連邦政府の政治的配慮が働いている.医師不足が深刻であった1960年代には若い労働力として外国の医学部卒業生は米国各病院で歓迎されたのであるが,全米で110校を超える医学部から毎年1万人以上の卒業生が吐き出される今,医師過剰の時代となり,外国医学部卒業生は職場の競争相手として歓迎されぬ存在となった.
 1950年から60年代にかけ,アメリカの病院で臨床研修を終えた方々が帰国されたあと,日本の医療の発展に寄与されたことは厳然たる事実である.ところが,1970〜80年代になって,前述の理由により,米国で臨床経験のあるニッポンの臨床医は激減した.日米の臨床医学における交流は途絶したと言ってもよい.

外科医のための局所解剖学序説・27

上肢の構造

著者: 佐々木克典

ページ範囲:P.219 - P.229

 上肢の体表解剖は下肢と同様自ら触れることができるため把握するのは容易である,詳しくは述べないが,曲がる場所がポイントになる.
 腋窩は前壁を大胸筋,小胸筋,後壁を大円筋,広背筋,肩甲下筋,外壁を上腕二頭筋,烏口腕筋を含めた上腕骨,内壁を前鋸筋が構成する窪みである.この場所には腋窩動静脈,腕神経叢の枝,よく発達したリンパ節が多数存在する.外転した状態で上腕骨の骨頭を腋窩で触れることができる.

外科医に必要な産婦人科common diseaseの知識・9

流産,早産

著者: 中里浩樹

ページ範囲:P.230 - P.231

流産の定義
 妊娠22週未満の妊娠中絶をいい,妊娠12週未満を早期流産,12週以降を後期流産という.

外科医に必要な耳鼻咽喉科common diseaseの知識・9

気管・気管支異物

著者: 鈴木吾登武

ページ範囲:P.232 - P.234

はじめに
 気管・気管支異物は耳鼻咽喉科領域における救急疾患の中で生命の危険を伴うことのある疾患である.なかでも乳幼児の場合には,解剖学的に組織の軟弱性や管腔の狭小なことから,楽観を許さない場合が多い.

短期集中連載・2 乳頭血性分泌患者に対する診断法—乳管内視鏡と乳管造影を中心として

乳管内視鏡下細胞採取法

著者: 長内孝之 ,   玉昧直哉 ,   脇田俊彦 ,   市川度 ,   仁瓶善郎 ,   杉原健一

ページ範囲:P.235 - P.238

はじめに
 前回の号では,乳管内視鏡検査の基本的な手技を記載した.今回は,乳管内視鏡を利用して,病変部の細胞採取法と検体の取扱いを述べる.
 乳管内生検法には,乳管内視鏡中央のworkingchannnelを用いる方法と内視鏡に外筒を装着して行う方法がある.各種生検針を図1,図2に示す.

癌の化学療法レビュー・10

肺癌の化学療法

著者: 市川度 ,   仁瓶善郎 ,   杉原健一

ページ範囲:P.239 - P.244

はじめに
 肺癌は,わが国における男性の癌死亡の第1位を占めており,治療は重要な課題のひとつである.
 原発性肺癌のうち,腺癌,扁平上皮癌,大細胞癌を一括した非小細胞肺癌(NSCLC:non-smallcell lung cancer)が80〜85%を占め,癌化学療法に対する感受性は低い.一方,化学療法に対して高感受性の小細胞肺癌(SCLC:small cell lungcancer)は15〜20%を占め,診断時大半の症例がすでに遠隔転移を起こしており,化学療法が治療の基本である.

臨床報告・1

骨盤腔内後腹膜腔に発生した神経鞘腫の1例

著者: 山内一 ,   島本強 ,   岩田尚 ,   片桐義文 ,   広瀬光男 ,   島寛人

ページ範囲:P.249 - P.252

はじめに
 神経鞘腫は頭頸部,四肢に好発する腫瘍で後腹膜腔での発生は非常に稀であると言われている.
 われわれは仙骨前部に発生し,骨盤腔内後腹膜腔に発育した良性神経鞘腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

腹腔動脈起始部圧迫症候群を伴った胃癌の1切除例

著者: 馬場秀文 ,   渡辺稔彦 ,   板野理 ,   三浦弘志 ,   今井裕 ,   菅重尚

ページ範囲:P.253 - P.257

はじめに
 腹腔動脈起始部圧迫症候群(celiac axis compres-sion syndrome:以下,CACS)は腹腔動脈起始部が横隔膜の正中弓状靱帯あるいは腹腔神経節などによって圧迫を受け,腹腔動脈の血流が減少あるいは途絶するために肝動脈血流が腹腔動脈以外の側副血行路により維持される結果,慢性的に腸管の虚血が引き起こされる比較的稀な疾患である1).臨床的には食後の腹部アンギーナおよび心窩部の血管雑音が特徴とされているが,全く無症状の症例もみられると言われている.今回われわれは,胃癌症例における術前血管造影,およびMRIangiography検査でCACSと診断し,胃癌手術の際に正中弓状靱帯の切離を施行し,術後の血管造影で腹腔動脈起始部狭窄および肝動脈血流の改善が確認された症例を経験したので報告する.

頻回な肝動脈化学塞栓療法が有効であった肝切除後多発性再発肝細胞癌の1例

著者: 馬場秀文 ,   三浦弘志 ,   今井裕 ,   渡辺稔彦 ,   板野理

ページ範囲:P.259 - P.262

はじめに
 肝細胞癌(以下,HCC)の治療成績は,画像診断の著しい進歩による早期診断ならびに肝切除術,経皮的エタノール注入療法(以下,PEIT),肝動脈化学塞栓療法(以下,TACE)およびマイクロ波凝固壊死療法(以下,MCT)などの様々な治療方法の確立により改善されてきた.これらの治療法はHCCの進展度や肝機能の程度により選択されているが,一般的には肝切除術が第一選択肢と考えられている.しかしながら,肝切除後の再発率も高率で,そのほとんどは残肝再発である1).また,これに対しても再肝切除術,PEIT,TACE,ならびにMCTが行われ,その治療成績も改善され長期生存が可能となってきた2).今回われわれは,肝切除後の肝内多発性再発に対して14回のTACEおよび2回のPEITを施行し,長期生存の得られている症例を経験したので報告する.

虫垂憩室症の2例

著者: 山本真也 ,   川村明廣 ,   尾崎信三 ,   弘井誠 ,   荒木京二郎

ページ範囲:P.263 - P.266

はじめに
 虫垂憩室症は比較的稀な疾患であり,その多くは仮性憩室である.臨床において虫垂憩室炎と急性虫垂炎の鑑別は容易ではないが,虫垂憩室炎は急性虫垂炎に比較し経過は長いが穿孔率が高いと言われている1,2).今回筆者らは虫垂憩室炎より虫垂炎様症状を呈した2例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

酢酸ナファレリンに奏効し,腸管子宮内膜症として治療されていたクローン病の1例

著者: 長尾厚樹 ,   岩垣博巳 ,   中尾篤典 ,   日伝晶夫 ,   磯崎博司 ,   田中紀章

ページ範囲:P.267 - P.270

はじめに
 酢酸ナファレリンはゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストであり,子宮内膜症の治療に用いられる薬剤である.今回筆者らは酢酸ナファレリン投与により症状が軽快するため,臨床的に腸管子宮内膜症と診断されていたクローン病の1例を経験した.本症例は腸管子宮内膜症として治療されている症例にクローン病が含まれる可能性を示唆する貴重な症例と思われる,酢酸ナファレリンとクローン病の関係について述べた報告はなく,その作用機序などについて若干の考察を加えて報告する.

自己免疫性溶血性貧血を併存した挟義の胃stromal tumorの1例

著者: 陣内祐二 ,   小森山広幸 ,   花井章 ,   萩原優 ,   品川俊人 ,   高木正之

ページ範囲:P.273 - P.276

はじめに
 胃stomal tumorは,古く1953年1),1962年2)にStousらの報告に始まり,非上皮性成分から発生したmesenchymal tumorである.肉眼病理組織学的には,筋腫,筋肉腫,神経鞘腫,組織球腫,脂肪腫などの総称と理解されている.さらに,最近の免疫組織化学的手法により腫瘍発生組織の解明が可能となり,筋原性および神経原性の腫瘍に分類されるようになってきた.しかし,原発組織を明らかにしえない腫瘍もあり,狭義の胃stromaltumorと呼称されている3〜5).今回,自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の患者において,筋肉細胞もしくは神経細胞に対するマーカーには染色されず,血管内皮細胞が染色されるCD34にのみ強陽性を示した狭義の胃stromal tumorを経験したので,文献的考察を加え報告する.

Appleby手術を施行した膵体尾部癌の1例—自験例と本邦報告15例の検討

著者: 小川東明 ,   西江浩 ,   水澤清昭 ,   栗栖泰郎 ,   角賢一

ページ範囲:P.277 - P.280

はじめに
 近年,膵体尾部癌に対し,Appleby手術を施行する症例が増加している.今回,われわれはstageIVa膵体尾部癌に対しAppleby手術を施行し,約3年2か月と比較的長期生存を得た症例を経験したので,臨床経過を述べるとともに過去の報告例についても若干の検討を加え,報告する.

ダウン症候群に合併した大腸絞扼性イレウスの1例

著者: 戎井力 ,   岡崎誠 ,   金井俊雄 ,   平井健清 ,   村井紳浩 ,   西本潤史

ページ範囲:P.281 - P.283

はじめに
 ダウン症候群は主に21番染色体standard trisomyタイプの染色体異常疾患であるが,以前より内臓奇形の合併が知られている1,2).今回,腹部手術の既往がなく,消化管奇形による大腸絞扼性イレウスの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

閉塞性黄疸を合併した慢性膵炎に対する磁石による胆管十二指腸吻合の1例

著者: 小森山広幸 ,   岡田孝弘 ,   田中一郎 ,   萩原優 ,   山内栄五郎 ,   山本高秀

ページ範囲:P.285 - P.288

はじめに
 閉塞性黄疸をきたした慢性膵炎症例に対して,総胆管と十二指腸の間で希土類磁石を用いての磁着による圧挫吻合を行った.約1週間で吻合が形成され,黄疸は消失した.その後の胆道内視鏡による生検では吻合部に粘膜の進展が認められた.磁石による吻合1)は新たな減黄法として,今後に発展の可能性が持てる方法と考えられたので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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