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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科54巻3号

1999年03月発行

雑誌目次

特集 器械吻合・縫合におけるコツとピットフォール

1.器械吻合・縫合を用いた食道再建術

著者: 北川雄光 ,   安藤暢敏 ,   小澤壯治 ,   北島政樹

ページ範囲:P.301 - P.306

コツとピットフォール
 1.食道切除後の胃管を用いた再建術では,胸腔内での食道仮切断,胃管作製,食道断端の巾着縫合,頸部食道胃管端側吻合,胃管断端閉鎖の各操作において器械縫合・吻合器の使用が可能である.
 2.大彎側胃管を作製する際自動縫合器を利用するが,最も血流が不良となる胃管先端部の切離に際しては,阻血壊死を防止するためあえて小型ペッツを使用する.
 3.頸部食道断端の処理にはディスポーザブル巾着縫合器を使用するが,食道断端では粘膜と筋層がずれやすく,3-0絹糸にて3〜4点でタバコ縫合糸を含めて全層を固定する.
 4.頸部食道胃管端側吻合においてはサーキュラーステイプラー型の自動吻合器を用いる.頸部食道断端へのアンビルヘッドの挿入は食道断端を把持したアリス鉗子を用いて片側ずつをかぶせるように愛護的に行い,食道が裂けないよう十分注意する.
 5.サーキュラーステイプラー型自動吻合器のアンビルヘッドとセンターロッドの結合においては,センターロッドの動きを極力抑えて,その胃管壁貫通部が裂けることを防止すること,夾雑物の介入を防ぐことが重要である.
 6.開胸先行の後縦隔胃管再建においては,後縦隔にビニール製傘袋に通したテフロンテープを用いて胃管を挙上すると安全である.また,吻合後再建臓器の屈曲を解除しつつ,吻合部を安全な高さに保持するのにビニール製傘袋ごと胃管を腹腔側にやや引き戻すと安全である.

2.肺切除術および気管・気管支形成術

著者: 菊池功次 ,   中山光男 ,   山畑健 ,   細村幹夫

ページ範囲:P.309 - P.312

コツとピットフォール
 1.気管気管支断端はメスで鋭的に切断する.
 2.器械縫合ができない気管気管支再建手術の際,一本一本の運針が重要なのでその正確性を増すために気管支断端の縫合では器械縫合をしないで手縫いで縫合する.
 3.気管気管支再建手術では軟骨のcuttingが起こらないよう注意する.
 4.気管気管支吻合部の治癒には血流が重要な役割を果たしているので気管支動脈を極力温存する.
 5.気管気管支再建手術では非吸収性縫合糸でなく,吸収性縫合糸を使用する.

3.胸腔鏡下肺切除術

著者: 川原克信 ,   白日高歩

ページ範囲:P.313 - P.316

コツとピットフォール
 ステイプラーの作動にミスが生じ,カッターが作動しなかったり,ステイプルが噛み合わず大量出血や縫合不全の原因となることがある.器械の作動ミスは器械自体に原因がある場合と人為的ミスとがある.器械自体の欠陥は防ぎようがないが,操作のミスは絶対に避けなければならない.人為的ミスの原因は以下のような場合である.
(1)ステイプラーの選択の誤り,(2)ステイプラーの誤操作,(3)カートリッジの過剰なloading,(4)アンビルの不十分な清掃.
 したがって,作動ミスを防ぐためには次のような点に留意する.
(1)縫合切離する組織の性状,厚さおよび長さによって適切なステイプラーの機種を選択する.組織の厚さが判らないときはENDO Gauge®(オートスーチャージャパン)で計測する.
(2)ステイプラーの操作に習熟する.医師のみならず介助の看護婦も器械の取り扱いに十分慣れる必要がある.
(3)カートリッジの交換は4回までとなっている.過度のloadingは事故の原因となる.
(4)術者は介助の看護婦と連携を密にし,常にアンビルはガーゼで拭って組織片や血液,ステイプルの残りが付着しないようにきれいにしておく.
(5)ステイプラーの挿入には無理なく挿入できる肋間を選ぶ.必要なら新たにポート孔を設ける.無理な角度で挿入し,肋骨によってシャフトに過度な圧が加わると作動ミスを生じる.

4.器械吻合による幽門側胃切除術(Billroth I法)におけるコツとピットフォール

著者: 忠岡信彦 ,   中村靖幸 ,   水谷央 ,   吉永和史 ,   長谷川拓男 ,   高橋宣胖

ページ範囲:P.317 - P.322

コツとピットフォール
コツ:
(1)切離・吻合に際して位置関係がわかりにくくなる場合があるので切離予定線をマーキングする.
(2)切離予定線が小彎前壁に向いていることを確認し,吻合前に仮合わせを十分に行う.
(3)吻合口は手縫い吻合と同様に残胃の末梢断端に設定する.
ピットフォール:
(1)吻合により血行不良部や盲端を生ずることがある.
(2)残胃に不正なねじれがおこることがある.
(3)操作中に癌組織にシャフトが接触して癌細胞のimplantationを生ずる可能性がある.

5.胃全摘後再建術

著者: 小棚木均 ,   伊藤正直 ,   小玉雅志 ,   小山研二

ページ範囲:P.323 - P.326

空腸J嚢間置再建法におけるピットフォール(P)とコツ(K):
 1.P:縦隔内に引っ込んだ食道断端を引き出す際にアンビルが逸脱する.K:食道切離前に空腸操作を行う.
 2.P:食道—J嚢吻合部に緊張がかかる.K:横隔膜まで挙上可能な部位を吻合部と定めてから空腸切離範囲を決定する.
 3.P:間置空腸の血流が悪い.K:間置部に複数の腸間膜血管を付ける.
 4.P:歪んだJ嚢になる.K:器械縫合器挿入前に空腸を縫合する.
 5.P:器械縫合器挿入部位が,縫合閉鎖後に狭くなった.K:空腸両脚の中央に挿入孔を開ける.
 6.P:器械縫合器で腸間膜を損傷した.K:空腸後壁縫合の糸を腸間膜側に牽引してから器械縫合器を接合させる.
 7.P:PURSTRINGTM使用時,食道断端がアンビル・シャフトに均等に寄らない.K:ステイプルが3cm以上かかっていない部位にまつり縫合をかける.
 8.P:食道へのアンビル挿入が困難.K:平皿型アンビル・ヘッドを有する吻合器を用いる.
 9.P:食道J嚢吻合部の血流が悪い.K:J嚢前壁を吻合部にする.
 10.P:アンビルと器械本体が結合できない.K:両者の軸を合わせて押し,結合音を聴く.
 11.P:“リング”になっていない.K:食道とJ嚢間に他組織を挟まず,J嚢を近づけながら両者を接合させる.
 12.P:吻合口が狭い.K:食道,空腸の吻合面の緊張をとりながら両者を接合させる.

6.腹腔鏡下胃切除術における器械吻合の応用

著者: 宇山一朗 ,   杉岡篤 ,   藤田順子 ,   小森義之 ,   江崎哲史 ,   松井英男 ,   鳥居和之 ,   曽我良平 ,   若山敦司 ,   岡本喜一郎 ,   大山晃弘 ,   蓮見昭武

ページ範囲:P.327 - P.331

コツとピットフォール
 1.Circular staplerによるBillroth I法の場合,十二指腸断端を全周性に開放してからアンビルを十二指腸に挿人すると,巾着縫合から漿膜もしくは粘膜が脱落することがあるので,支持糸を置き,切離端の中央のみを切開して挿入するのがコツである.
 2.Functional end-to-end anastomosisの共通孔の縫合閉鎖は,吻合口がV字型に開大する方向にステイプラーをかけ,縫合閉鎖するのが狭窄防止のコツである.
 3.R-Y脚の空腸空腸吻合は,共通孔の縫合閉鎖の際に,大きく縫合閉鎖すると通過障害を来す恐れがあるので,必要最小限にステイプラーをかけることが大切である.
 4.食道空腸吻合の場合,食道切断後に吻合操作を行うと食道が後縦隔内に引っ込む可能性があるので,食道切断に先行して行うことが重要である.

7.結腸・直腸吻合再建術

著者: 岡本春彦 ,   酒井靖夫 ,   島村公年 ,   須田武保 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.333 - P.337

コツとピットフォール
 1.腸管の口径・厚さに応じたサイズの自動吻合器,ステイプルを用いる.
 2.ステイプル同士の重なりをできるだけ避ける.
 3.切離断端の把持には,組織挫滅の少ない鉗子を使用する.
 4.腸管軸の捻れに注意する.
 5.腸間膜の巻き込みを避ける.
 6.腸間膜および吻合部近傍の処理,あるいは追加縫合の際に辺縁動静脈・直動静脈を損傷しない.

8.腹腔鏡下手術における結腸・直腸癌切除再建法

著者: 森田高行 ,   宮坂祐司 ,   藤田美芳 ,   仙丸直人 ,   加藤紘之

ページ範囲:P.339 - P.343

コツとピットフォール
 1.腸管切離に際しては自動縫合器が腸管長軸に直角方向になるようにトラカールの位置や縫合器の選択を行う.縫合器は可変式が望ましい.
 2.血管や直腸切離の際に自動縫合器の先端が腹腔鏡の視野外になる時には,必ず腹腔鏡の位置を変え,反対側も確認する.
 3.自動縫合器を複数回連続して使用する場合には,前のステイプルラインに咬合するように注意する.
 4.吻合の際は腹腔鏡を横から観察できる位置に移動させ,接合後は反対側も必ず確認する.

9.実質臓器に対する腹腔鏡下手術における自動縫合器の使用法

著者: 若林剛 ,   大上正裕 ,   島津元秀 ,   北島政樹

ページ範囲:P.345 - P.350

コツとピットフォール
 1.肝切除時の自動縫合器使用方向に沿ってトラカールの位置は決める.
 2.肝実質切離面はできるだけ薄くし余裕を持たせて自動縫合器ではさむ.
 3.肝・膵・脾での自動縫合器の使用目的に応じてスペックを選択する.
 4.脾門部では自動縫合器を閉じたあと開くまでに十分時間を置く.
 5.膵実質はできるだけ周囲脂肪織にいっしょに巻き込まれるように処理する.
 6.クリップをはさむと自動縫合器が作動しなくなるので,使用予定切離線の近傍でクリップは使用しない.
 7.自動縫合器で実質をはさむときは十分なカウンタートラクションがかかるように確実かつ繊細に臓器を把持する.
 8.トラカールからの挿入は自動縫合器が開くだけの距離を十分とる.

カラーグラフ 消化器の機能温存・再建手術・7

胃全摘後空腸pouchによる代用胃作製手術

著者: 中根恭司 ,   井上健太郎 ,   飯山仁 ,   佐藤睦哉 ,   桝屋義郎 ,   奥村俊一郎 ,   明平圭司 ,   日置紘士郎

ページ範囲:P.295 - P.299

はじめに
 筆者らは10年程前より,70歳未満で術中StageIVを除く胃癌症例に対し,胃全摘術後のQOLの向上を目指して空腸pouchを用いた再建術式を採用し,従来のRoux-Y(RY),pouch・R-Y(PR),およびpouch・interposition(PI)法の3群を設定し,randomized controlled studyにてその有用性について検討してきた1)
 PR法は術後愁訴,食事摂取量,術後体重,各種栄養指標,代用胃RI排出能などからみてきわめて有効な術式であり,pouch造設による有用性が示唆された.しかしPI法は生理的ルートであるにもかかわらずつかえ感が強く,QOLは不良であった.そこで1993年よりPI法につき改良を加えたところ,PR法にほぼ匹敵する良好な術後経過を得ている2,3)

病院めぐり

公立佐沼総合病院外科

著者: 竹村正伸

ページ範囲:P.352 - P.352

 公立佐沼総合病院は宮城県北部,登米郡迫町にあります.町内には白鳥などの渡来で全国的に有名な伊豆沼があり,また東の三陸沿岸には車で30分,西の鳴子温泉峡には50分と自然環境に非常に恵まれたところです.郡全体が農村地域であり,その中で迫町は古くから仙台市と気仙沼市などの三陸の都市を連絡する交通の要所として栄え,県北の行政の中心的役割を担って発展し現在に至っております.
 しかしながら仙台市からは約70kmほど離れていること,また東北新幹線や東北自動車道からも約20km東に離れていることから,仙台市への通院はかなり困難で,登米郡内で充実した医療を受けたいという地域住民の強い要請があり,県北の高度地域医療をめざす中核病院として昭和30年に当院は創設され,現在では12診療科,一般病床300床と発展を遂げております.診療圏は登米郡全域にとどまらず,三陸沿岸,さらに県境にあることから岩手県にも及んでおり,その人口は約10万人ほどになります.当然救急医療については中核的存在で,時間外の患者数は年間7,000人を超えており,特に土,日曜日に集中する傾向があるため,一人で100人診療し悲鳴をあげたという当直医もいるほどです.

白河厚生総合病院外科

著者: 土井孝志

ページ範囲:P.353 - P.353

 白河厚生総合病院は,昭和19年10月福島県農業会白河厚生病院として創立され,その後昭和23年福島県厚生連設立とともに移管され病床数510床の総合病院として今日に至っております.その昔奥州街道の関所があった白河市は,福島県南地方の中心であると同時に栃木県と境を接することから,診療圏は福島県南地方の他に那須町・黒磯市など栃木県北の一部に及んでいます.開院以来市の中心街で何度かの増改築を経て今日に至っている現状では,敷地が手狭になってきたうえに施設の老朽化は明白であり,新病院建設へ向けプロジェクトチームが組まれています.
 外科は東北大学第1外科の関連施設であり,7代目科長の小林信之副院長の下,黒田房邦医長(検査科長を兼務),土井孝志医長の3名のオーベンの他,卒後1年目から4年目までの4名のネーベン(東北大3名,神戸大1外1名)で構成されています.外科病床は51床で,平成9年度の入院手術症例は457例で,主な疾患としては食道癌4例,胃癌44例,大腸癌48例,肝胆膵良性疾患47例,肝胆膵悪性疾患13例,乳腺疾患20例,虫垂炎101例,ヘルニア75例,肛門疾患22例,呼吸器疾患5例で,その他腹部外傷など地域の第一線の医療機関として幅広い疾患に対応しております.

臨床外科交見室

器械吻合によるBillroth I法幽門側胃切除術—われわれの経験から

著者: 忠岡信彦

ページ範囲:P.355 - P.355

 Billroth I法による幽門側胃切除後の再建に自動吻合器を利用することはいまだに一般的とは言えないだろう.諸学会において自動吻合器による幽門側胃切除術に関する発表は散見され,いずれの報告でも有用性が確認されていることより,実施される機会は着実に増えてはいるはずである.また,近年の診療報酬点数表の改訂により,幽門側胃切除術に自動吻合器を利用することによるコストの問題も,保険請求可能という意味では解決されている.しかしながら全体から見れば,依然として器械吻合は少数派なのであり,これには「ここまで器械に頼るものか」という外科医独特の思いによるものが大きいと考えられる.実際のところ,学会会場で耳にする批判的意見の多くも「長年の修練によって得た技術に誇りを持つ外科医の感覚にはそぐわない」式の感情的なものが多い.そこで,拙稿ではどのようにしてわれわれは器械吻合を始め,どのように教室内に定着する手技に至ったのかを紹介してみたい.
 1992年頃,小生は手術件数の大変多い多忙な病院に勤務していた.手術日には全身麻酔のいわゆるgross Opeが午前・午後と2件組まれており,午前の手術はなるべく午前枠で解決することが暗黙のうちに求められていた.手術室(10室),手術スタッフも常にフル稼働しており,手術時間が午後にずれ込めば,それは即午後手術の開始遅れを意味した.

メディカルエッセー 『航跡』・30

Evidence based medicine (事実立脚型医療)

著者: 木村健

ページ範囲:P.356 - P.357

 「あれ,術前の検査はしないのですか」.
 Nさんが2歳になる坊やに鼠径ヘルニアを見つけ,小児外科の外来に連れて来たときの会話である.診療の結果,次の週の月曜日に手術をすることになった.

私の工夫—手術・処置・手順

精神分裂病患者における総胆管切石術後Tチューブ皮膚固定法の工夫

著者: 村瀬順哉 ,   久保正二 ,   徳原太豪 ,   金沢景繁 ,   猪井治水 ,   木下博明

ページ範囲:P.359 - P.359

1.はじめに
 精神分裂病患者に対して,手術など外科的処置が必要な場合にしばしば遭遇する1)が,カテーテル類を留置した際にはその管理に難渋し,術後トラブルの原因になる場合がある.今回,精神分裂病患者における総胆管切石術後に留置するTチューブの皮膚固定の際に,筆者らが行っている工夫について紹介する.

外科医に必要な耳鼻咽喉科common diseaseの知識・10

口腔・舌外傷

著者: 久木田尚仁

ページ範囲:P.360 - P.362

疾患の概念
 現代社会において交通機関や産業機械の発展は日進月歩のごとく著しいものであるが,その一方で交通事故や労働災害の犠牲者も増加の一途をたどっている.またこれらの外傷は質的にも複雑かつ多様化してきている.顎顔面の外傷も非定型的な損傷が増加し,口腔・舌の外傷はその一部分を成すことが多い.本稿では口腔・舌の局所の損傷の診断・治療に関して述べるが,重要なことは他の部位に,より重篤に損傷がないかを検索し,確認することである.

外科医に必要な産婦人科common diseaseの知識・10

常位胎盤早期剥離

著者: 芳賀勇 ,   岡村州博

ページ範囲:P.363 - P.364

はじめに
 正常の位置に付着した胎盤が,児の出生前に剥離することを常位胎盤早期剥離という.原因は不明であり,多くの場合発症が突然であるので予測も予防も困難である.発症後,多くは急激な経過をたどり,出血性ショックに陥るものもある.したがって,本症では早期診断,早期治療が重要であり,発症から治療開始までの時間が母児の予後を大きく左右する.一般に常位胎盤早期剥離のgolden timeは発症後5〜6時間以内と言われるが,稀には発症直後から母体ショックに陥るような症例も存在する.

癌の化学療法レビュー・11

癌化学療法におけるQOL評価法

著者: 市川度 ,   仁瓶善郎 ,   杉原健一

ページ範囲:P.365 - P.370

はじめに
 癌化学療法の最終的な目標は,癌の「cure」にあることはいうまでもない.しかし,今までのレビューに述べてきたように,各癌腫において化学療法で「cure」を得ることは困難である.したがって,現時点での癌化学療法の位置付けは,あくまでも延命と症状改善を目的とした「palliation」のためのものといえる.
 癌化学療法の直接効果は,腫瘍の縮小により評価されるが,「palliation」の評価は困難である.この「palliation」の評価に有用な指標となるものが,quality of life(QOL)の概念である.

消化器疾患の総合画像診断

大腸疾患

著者: 吉川宣輝 ,   三嶋秀行

ページ範囲:P.371 - P.377

はじめに
 画像診断の進歩により,大腸疾患,特に大腸癌における深達度や周囲臓器への浸潤,リンパ節や肝・肺への転移などの術前診断がかなり正確にできるようになった.大腸癌の存在診断と深達度診断には,注腸検査と内視鏡検査,超音波内視鏡が有用であり,一方,他臓器浸潤や転移の診断には,CTやMRIが有用である.近年,それぞれの検査の診断能が著しく向上しているとはいえ,1つの検査にとらわれることなく,それぞれの検査の有効性と限界を理解したうえで総合的に判断すべきである.本稿では興味ある大腸疾患症例をいくつか呈示し,複数の画像を総合的に判断することの重要性にポイントをおいて解説する.

短期集中連載・3 乳頭血性分泌患者に対する診断法—乳管内視鏡と乳管造影を中心として

乳管造影所見と乳管内視鏡所見

著者: 長内孝之 ,   五味直哉 ,   脇田俊彦 ,   市川度 ,   仁瓶善郎 ,   杉原健一

ページ範囲:P.379 - P.382

はじめに
 前々回および前回は,乳管内視鏡検査の基本的な手技と生検法についてを記載した.今回は,非触知乳癌の診断において乳管内視鏡とともに重要な乳管造影法および造影所見について記載する.
 乳管造影(ductography,galactography)は,乳頭分泌開孔部から造影剤を注入し,分泌乳管をX線フィルムに描出し,病的乳管を診断する方法である.病変部位の存在位置や病変の範囲,乳管壁の異常を確認し良悪性の診断に役立てるとともに,次に行う乳管内視鏡検査や乳腺区域切除の前情報として重要である.

外科医のための局所解剖学序説・28

頭部・顔面の構造

著者: 佐々木克典

ページ範囲:P.383 - P.393

 頭部・顔面の体表解剖を簡単に述べる.後方では外後頭隆起の頂点イニオン,前方では両側の眼窩上縁と眉間の間の窪みナシオン,左右両側では頬骨弓,乳様突起がランドマークとして上げられる.前二者は計測点として知られている.イニオンとナシオンの中点より後1cmのところに大脳の中心溝がある.頬骨弓は前方に伸びる側頭骨の突起で,眼窩の外側を構成する頬骨に連なる.これらの会合部は少々出っ張る.その後方2横指の部に投影されるのが頭蓋の内壁を走る中硬膜動脈で,前方に傾きながら頬骨弓を横切り,その上縁のレベルで前後に分かれる.後の枝は頬骨弓より親指の幅ほど離れてほぼ平行に走る.頬骨弓の外側,後部では浅側頭動脈が垂直に横切り,拍動を触れることができる.乳様突起の前部は触れやすいが,後部は胸鎖乳突筋が被うため,その発達いかんによっては触れにくくなる.下顎骨の関節突起は,外耳道に指を入れ,噛むことにより触れることができる.咀嚼筋のうち咬筋,側頭筋は歯をくいしばることで収縮し,硬くなるから容易に触知できる.また硬くした咬筋の表面で耳下腺管を触れることができる.顔面に出る三叉神経は第1,第2小臼歯の間を通る垂直な線上に存在する頤孔,眼窩下孔,眼窩上切痕から出る.顔面神経の枝は掌で耳を被い,指を広げたときの指の方向にほぼ一致する.

臨床研究

甲状腺乳頭癌に対する縮小手術の検討

著者: 犬塚貴雄 ,   木村正美 ,   竹内尚志 ,   甲斐正徳 ,   山口祐二 ,   上村邦紀

ページ範囲:P.395 - P.398

はじめに
 近年,超音波診断装置の進歩と甲状腺癌検診への採用によって,微小甲状腺病変の発見の機会が増加した.また,このような微小甲状腺病変に対する超音波ガイド下穿刺吸引細胞診の普及により,多数の微小甲状腺癌が発見されるようになってきた1)
 一般に甲状腺癌の多くは,他の固形癌と比較すると予後良好であり,その中には自然治癒や生涯不顕性癌のため手術不要なものも含まれているという意見もある2,3).また,腫瘍径1cm以下の甲状腺乳頭癌に対して,リンパ節郭清を行わなかった報告もみられる4,5)

80歳以上の高齢者に対する腹部緊急手術例のPOSSUMスコアによる評価

著者: 松田充宏 ,   渡辺義二 ,   唐司則之 ,   鍋谷圭宏 ,   有馬秀明 ,   佐藤裕俊

ページ範囲:P.399 - P.402

緒言
 社会の高齢化にともない,80歳以上の高齢者(以下,高齢者)の腹部緊急手術をする機会が増加しつつある.緊急手術を要する病態においては,高齢者という特殊性に配慮しながらも,全身状態に係わらず大きな侵襲を伴う手術が避けられない場合もある.
 そこで筆者らは,周術期のリスクファクターの定量化法であるphysiological and operative severityscore for the enumeration of mortality and morbidity(POSSUMスコア)の高齢者における腹部緊急手術例に対する有用性について検討した.

臨床報告・1

中皮嚢腫を伴った胃腺扁平上皮癌の1例

著者: 唐土善郎

ページ範囲:P.403 - P.406

はじめに
 嚢胞形成のある胃癌を手術し,中皮嚢腫を伴った胃腺扁平上皮癌と診断した1例を経験した.筆者の調べ得た範囲では,胃の中皮嚢腫と腺扁平上皮癌の併存は初めての報告例である.

正中頸嚢胞腺癌の1例

著者: 鈴木喜裕 ,   永野篤 ,   今田敏夫 ,   天野富薫 ,   近藤治郎 ,   下山潔

ページ範囲:P.407 - P.409

はじめに
 正中頸嚢胞は胎生期の甲状舌管の遺残組織から発生する良性の先天性前頸部腫瘤である.正中頸嚢胞に癌が発生する頻度は低く,多くは甲状腺組織に由来し予後は良いとされている1〜4).今回正中頸嚢胞に合併した腺癌の1例を経験したので報告する.

充実性腫瘤像を呈し,他の乳腺腫瘍との鑑別が困難であった乳瘤の1例

著者: 石田数逸 ,   高橋寛敏 ,   大佛智彦 ,   花岡俊仁 ,   三原康生 ,   白川敦子

ページ範囲:P.411 - P.413

はじめに
 乳瘤は授乳期にみられる乳汁が貯留した嚢胞性病変である1).われわれは分娩後1年半を経過し,大きな充実性腫瘤像を呈し,ほかの腫瘍性疾患との鑑別が困難であった乳瘤の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

胸腺内気管支嚢腫の1例

著者: 笹橋望 ,   安藤史隆 ,   岡本文雄 ,   花田正治 ,   亀山敬幸 ,   広瀬圭一

ページ範囲:P.415 - P.417

はじめに
 縦隔腫瘍のひとつである気管支嚢腫は気管・気管支および食道周囲に発生することが多く,胸腺内発生は稀である.今回われわれは,胸腺内に発生した本症の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)療法が有効であった男性乳癌肺転移の1例

著者: 比企亮介 ,   牧野泰博 ,   比企裕

ページ範囲:P.419 - P.421

はじめに
 男性乳癌は比較的稀な疾患で,その発生頻度は全乳癌の約1%といわれている1).また,女性乳癌に比しその予後は不良とされており,その理由としては訪医の遅れや早期の皮膚・大胸筋浸潤などがあげられている.今回筆者らは,訪医の遅れから進行乳癌となった男性乳癌症例の肺転移再発に対し,酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)が有効であった1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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