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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科54巻5号

1999年05月発行

雑誌目次

特集 切除標本取扱いガイドライン—癌取扱い規約に基づいた正しい取扱い法と肉眼所見の記載法

標本取扱いの基本

著者: 神谷順一 ,   佐野力 ,   上坂克彦 ,   金井道夫 ,   梛野正人 ,   早川直和 ,   二村雄次

ページ範囲:P.573 - P.576

はじめに
 切除標本を点検するのは外科医の努めと考えるべきである.施行された手術が適切であったかどうかを検討するうえで,正確な標本整理が基礎となる.術式選択のもととなった術前診断が正確であったか客観的に判定するうえでも,標本整理は欠かせない.また,病理組織診断は,きちんとした標本整理がなされていないと不正確になりかねない.ここでは,われわれが日常行っている消化器外科領域の標本整理を念頭において,整理方法を具体的に紹介する1)
 標本整理という用語であるが,手術室で標本を受け取ってから,プレパラート用に切り出した切片を病理部に提出するまでの一連の仕事という意味で用いている.これらの作業のうち,外科医が実際にタッチできる範囲は施設により異なっているが,基本という意味合いで,標本をプレパラート用に切り出すところまで述べた.

術中迅速組織診断の取扱いの注意点

著者: 萩原明於 ,   山岸久一

ページ範囲:P.577 - P.580

はじめに
 術中迅速組織診断はしばしば手術術式の選択や治療方針に決定的な役割を果たす.特に機能温存やQOLを重視する近年の外科手術の傾向から,術中迅速組織診断の果たす役割はますます重大になってきている.外科医がもし標本の取扱いや評価を誤れば,たとえ正しい病理診断がなされ,また手術手技が完全に行われても,治療結果には重大な誤りを来す可能性も招来する.しかし現在の外科の卒後教育では,術中迅速組織診断に関する知識が十分に行われているとはいい難い.本稿では術中迅速組織診断の切除標本の取扱いを中心に,外科医にとって必要な知識を概説する(表).

乳癌切除標本の取扱い

著者: 池田正 ,   北島政樹

ページ範囲:P.581 - P.584

はじめに
 病理組織学的診断は手術の根治性を判定し,予後を推定する有力な情報である.しかし,病理組織学的診断も正確な切除標本の取扱いおよび正確な情報を病理医に伝達しなければ正確に下し得ない.この意味で,乳癌切除標本の取扱いは重要な意味を持つ.ここでは,日常臨床上想定されるいくつかの術式に沿って切除標本の取扱い方を解説する.なお,乳癌取扱い規約は第13版1)に拠つた.

甲状腺癌切除標本の取扱い

著者: 宮内昭

ページ範囲:P.585 - P.587

はじめに
 異なる施設におけるデータを比較検討するのに便利なように,わが国では甲状腺外科研究会(旧,甲状腺外科検討会)によって「甲状腺癌取扱い規約」が制定されている.この中に甲状腺癌切除標本の取扱い方法も記載されているが,これは重要なデータが漏れないように最小限記録すべき水準を示したものである.肉眼的所見は外科医が把握すべき重要なマクロ病理学であり,病理組織学的なミクロ病理学と同等の,あるいは場合によるとそれ以上に重要な臨床的意味を持つている.本稿では取扱い規約での記載に加え,われわれが行っている方法を説明する.

肺癌切除標本の取扱い

著者: 渡邉洋宇

ページ範囲:P.589 - P.593

はじめに
 いずれの臓器の固形癌であっても,切除標本が正しく取扱われ,正しい病理結果が報告され,記録・保存されることは,術後病期の決定,治療方針の決定,癌の病態解明などの面からきわめて重要である.各施設に共通の取扱い法によって標本の処理がなされることによって,相互の情報の比較が可能となる.
 肺癌に対する標準術式とは,原発巣の存在する肺葉(ときに片側肺)と肺門・縦隔リンパ節の郭清をいう.したがって,この場合に切除される臓器は,肺とリンパ節である.さらに標準術式に加えて,他臓器合併切除を伴う拡大術式が行われる場合は,肺,リンパ節に加えて合併切除臓器が切除材料に加わることになる.日本肺癌学会は「臨床・病理—肺癌取扱い規約」を1978年にその第1版を刊行し,現在は第4版1)が用いられている.

食道癌切除標本の取扱い(1)

著者: 中野静雄 ,   草野力 ,   夏越祥次 ,   馬場政道 ,   愛甲孝

ページ範囲:P.595 - P.598

はじめに
 正確な組織診断が得られるためには適切な切除材料の取扱いが基本であり,術前の臨床所見との対比が可能となるような標本の取扱いに心がけるべきである.また,術前に予想展開図と予想リンパ節転移mappingを作成し術前の臨床所見と問題点を明確化しておくことは,切除材料との対比のために必須である.予想展開図は占居部位,範囲,深達度,周囲臓器との関係について記載し,予想リンパ節転移mappingはCT,EUS,体外超音波検査を総合し,リンパ節番号のみならず,詳細な解剖学的局在についても記載しておく.
 基本的記載は食道癌取扱い規約1)に沿って行い,個人差をなくし統一された記載が望ましい(表).われわれが行っている術中術後の切除材料の取扱い方,写真による記録,スケッチによる記録,切除標本からのリンパ節の摘出,切り出し,病理検索への提出までの流れについて順を追って紹介する.

食道癌切除標本の取扱い(2)

著者: 土岐祐一郎 ,   塩崎均 ,   門田守人

ページ範囲:P.599 - P.602

はじめに
 本章ではまず手術場で食道が切除されてから病理医に手渡すまでの段階を主に説明し,最後に新しくなるであろう食道癌取扱い規約について解説を加える.

胃癌切除標本の取扱い(1)

著者: 峠哲哉 ,   平井敏弘

ページ範囲:P.603 - P.607

はじめに
 摘出切除標本の取扱い,すなわち摘出臓器の固定と切り出しを定められた一定の方法に従って適切に行うことは,患者の正確な組織学的所見を得る上で必須であるばかりでなく,その所見を基盤にした治療成績の比較検討にも欠かすことのできない重要な事項である.実際の医療現場では,この作業を行うのは研修医を中心とした若い外科医であることが多いと思われる.本稿では胃癌切除標本の取扱いの最も基本的な事項について,特に新鮮材料の固定と固定標本の切り出しの方法について,広島大学医学部附属病院病理部が発刊した外科手術材料切り出しマニュアル1)および胃癌取扱い規約第12版2)をもとに概説する.

胃癌切除標本の取扱い(2)

著者: 山村義孝 ,   小寺泰弘 ,   紀藤毅

ページ範囲:P.609 - P.613

はじめに
 どのような疾患であれ,適切な治療を行うためには,その疾患についての正しい情報を得ることが重要である.胃癌治療においても同じであり,癌の拡がりについての正確な病理組織学的判定が不可欠である.そのためには,外科医は常に病理医に適切な標本を提供するよう努めなければならない.
 切除標本を病理検索する場合,摘出した胃やリンパ節などをホルマリンに浸漬し固定するまでを外科医が行い,以後の操作を病理医が行うのが一般的であると思われる.そこで本稿では,術中から術後にかけての標本の取扱いについて,外科医として注意すべき事柄を中心に述べることとする.

肝癌切除標本の取扱い(1)

著者: 竹並和之 ,   高崎健 ,   山本雅一

ページ範囲:P.615 - P.617

はじめに
 標本整理には重要な役割が3つある.まず第一に術前診断の正しさを検証しフィードバックを行う場であること.第二に観察したいポイントを抑え,的確に組織標本を作成し個々の症例から学ぶ材料を作り出すこと.そして,これら症例の蓄積により手術成績向上の礎となることである.このことを念頭におきながら現在われわれが行っている肝切除標本の取扱い方を特に肝細胞癌について前回1)と同様に紹介する.

肝癌切除標本の取扱い(2)

著者: 山田晃正 ,   佐々木洋 ,   今岡真義

ページ範囲:P.619 - P.624

はじめに
 医学の発展は動物実験などの基礎研究により得られたデータもさることながら,実際の患者より得られた膨大な標本材料の詳細な検討の上に成り立つていると言っても過言ではない.中でも,手術により得られた標本は病態の把握には生きた材料であり,きわめて貴重なものである.したがって,切除標本を生体が持つあるがままの姿を保つよう正しく取扱い,正確なデータの収集・保管につとめることは外科医にとって課せられた義務である.
 外科的な切除標本の大半は腫瘍(特に悪性腫瘍)であり,検体の取扱いについては病理学の成書1,2)に記載されている.また詳細は各「癌取扱い規約」に掲載されており,各々の取扱い規約に準じて処理された標本は臨床・病理組織学的データとして大切に保管・蓄積されることになる.

胆嚢・胆管癌切除標本の取扱い(1)

著者: 鈴木昌八 ,   馬場聡 ,   中村達

ページ範囲:P.625 - P.630

はじめに
 胆嚢・胆管癌はその解剖学的位置関係から周囲臓器への直接浸潤と肝十二指腸間膜方向への長軸進展を介して進行する1〜3).本疾患の適切な術式や治療成績に及ぼす要因を知る上で多施設の症例のsurveyが必要である.このため施設間で切除標本の取扱いに違いがあってはならない.正確な病理診断を得るためには切除標本の詳細な肉眼所見の記載を怠らないことであり,外科医が胆道癌取扱い規約に沿って切除標本を取扱う必要がある.
 本稿では胆道癌取扱い規約4)に基づいた胆嚢・胆管癌切除標本の取扱い上の注意点について述べる.

胆嚢・胆管癌切除標本の取扱い(2)

著者: 安保義恭 ,   近藤哲 ,   平野聡 ,   近江亮 ,   加藤紘之

ページ範囲:P.631 - P.635

はじめに
 胆道癌では,腫瘍の原発部位や進行度によって切除術式が選択される.進行癌では,肝臓や十二指腸など他臓器の同時切除も多く,腫瘍と他臓器との立体的な位置関係や,剥離面は複雑になりがちである.このような標本から総合的進行度や手術根治度を評価するためには,胆道癌取扱い規約1)に定められた各所見を肉眼的,病理学的に正確に判定できるよう標本を取扱う必要がある.特に腫瘍浸潤部や切除縁など重要部分を標本割面上に表わす配慮が必要である.このためわれわれは,術前診断と切除に関わった外科医自らが切除標本をスライスし,関心領域を割面に出すことが標本整理の柱と考え実行してきた.また,術前の画像所見と実際のスライス標本所見を対比することが,術前診断へのフィードバックにつながっている.なお,固定標本のスライスは病理医の同意を得た上で自ら行っているが,病理医の切り出しに立ち会って,その場で割面所見を確認するだけでも有意義である.以下本稿では,当科で行っている標本整理法を順を追って述べる.標本整理は観察と記録の積み重ね作業であり手間がかかるため,日常業務が終了した夕刻から数時間をかけ,数人の外科医で作業している.

膵癌切除標本の取扱い(1)

著者: 徳原真 ,   森俊幸 ,   杉山政則 ,   跡見裕

ページ範囲:P.637 - P.640

はじめに
 切除標本の整理の目的は,まず第一に切除された標本を術前診断と照らし合わせて点検し,肉眼的診断を行い正確に記録に残すことで,第二に病理検査へ提出するために,標本を適切に処理,固定することである.
 膵癌(特に膵頭部癌)の切除標本は,十二指腸,胃,胆管,膵臓と多臓器にわたり,解剖学的にも複雑な部位にある.したがって,オリエンテーションを把握した上で正確に病変を評価し記録することは簡単ではない.また,膵臓自体も自己融解を起こしやすい組織であるため標本の固定にも注意が必要である.標本の造影検査もあり,膵癌の標本整理はやるべきことが多く,消化器切除標本の中でも難しいものの一つと言えるかもしれない.しかし,順序よく一つ一つポイントを押さえていけば目的通りの標本整理は可能である.

膵癌切除標本の取扱い(2)

著者: 浅沼義博 ,   南條博 ,   古屋智規 ,   佐藤勤 ,   小山研二

ページ範囲:P.641 - P.644

膵切除材料取扱いの原則
 膵は内在する膵酵素によって自己融解をおこしやすい.しかも膵頭十二指腸切除などでは摘出に長時間を要するので,摘出後に新鮮標本を室温に放置することは避けなければならない.また固定法は,灌流固定が最も効果的であり,動脈や膵管,胆管から10%ホルマリン液を各20〜50ml注入した後に10%ホルマリン液に浸潰し3〜6日間固定する.
 また,最近の画像診断の進歩と普及により無症候性膵腫瘍の診断が可能となり,小さい,予後の比較的良好な膵腫瘍が切除されるようになった.それに伴って,1993年(第4版)の膵癌取扱い規約1)では,肉眼的分類でも嚢胞型および膵管拡張型の2型が新たに加えられた.これらは組織型分類では主に粘液性嚢胞腫瘍あるいは膵管内腫瘍ともいわれるものであり,いずれもその発生において膵管上皮と深くかかわっている.したがってこのような症例の膵切除標本では,膵管系の十分な固定に留意し,異型上皮の進展範囲をよく観察することが重要である.

大腸癌切除標本の取扱い(1)

著者: 須田武保 ,   高久秀哉 ,   島村公年 ,   岡本春彦 ,   畠山勝義 ,   味岡洋一

ページ範囲:P.645 - P.648

はじめに
 切除標本は,消化管病変の診断・治療に対して非常に多くの情報を与えてくれる.すなわち術前のX線・内視鏡診断に対しては厳しい解答を,術後の治療に対しては最良の指針を示す.その情報量は,遺伝子学的なものから最も日常臨床的なものまで広く及び,求める人の学問的レベルの高さに応じてくれるものである.
 本稿では大腸癌切除標本からできるだけ有益な情報を引き出せるように,切除標本の取扱い方のポイントを大腸癌取扱い規約(第6版)1)に基づき概説する.

大腸癌切除標本の取扱い(2)

著者: 藤井久男 ,   中野博重 ,   小山文一 ,   寺内誠司 ,   榎本泰三

ページ範囲:P.649 - P.655

はじめに
 臨床外科において,切除標本は最も貴重な資料である.術前に検討が重ねられた病態評価の解答であり,今後の治療の指針となる情報が入っている.しかし,この貴重な資料の取扱いを若い外科医に委ねている施設も少なくない.ここでは,筆者らの施設で指導している大腸癌切除標本の取扱い方法を,手術室から病理に送るまで切除標本の流れを追ってマニュアル形式に述べる.筆者らの方法は,大腸癌取扱い規約1)(以下,規約)に基づいているが,ごく一部異なる点は明記した.

カラーグラフ 消化器の機能温存・再建手術・9

胃全摘後回結腸間置による再建術—器械吻合の利用

著者: 柴田純祐 ,   水谷幸之祐 ,   山口剛 ,   川口晃 ,   小玉正智

ページ範囲:P.567 - P.571

はじめに
 胃全摘後の障害は胃がないことによる胃での食物の貯留,攪拌による前消化の欠如,噴門での逆流防止機構と幽門による食物の排出調節の欠如,および各種栄養素の吸収障害などがあり,これらに起因する諸症状が問題となる.これらの問題を解決するためにいろいろの再建法が工夫されている.
 筆者らは回腸,上行結腸を食道十二指腸間に挿入する回結腸間置法を行ってきた.回結腸を利用する方法は1951年Lee1)が報告しているが,当時は術後合併症や死亡例が多く,彼自身はこの術式を推奨していない.しかし,時代背景が大きく変わり,筆者らは腸管の長さなど,移植腸管の作製法に工夫を重ねて積極的にこの方法を行い,よい結果を得ている2〜5)

病院めぐり

新日鐵室蘭総合病院外科

著者: 鈴木康弘

ページ範囲:P.656 - P.656

 札幌から1時間30分,千歳から1時間の太平洋側,内浦湾の東端に位置する室蘭は雪も少なく北海道でも過ごしやすいところです.慶長年間(1600年頃)松前藩がアイヌの人たちと交易をするため,絵鞆場所が設けられたのが始まりで,戦前戦後を通じて鉄の町のイメージが強い室蘭ですが,現在では地球の大パノラマを堪能できる地球岬,断崖絶壁の続く風光明媚な海岸線,さらに東日本最長(全長1,380m)の吊り橋「白鳥大橋」の完成により景勝地の室蘭へとイメージを大きく変えています.人口は約10万人で北海道では10番目の市です.私たちの病院は室蘭の中でも東側に位置し,隣は温泉で有名な登別市で,登別の患者さんも来院されます.
 新日鐵室蘭総合病院は昭和16年に室蘭製鉄所病院が開設されてから丁度50年目の平成4年4月1日に新日本製鐵株式会社より分離独立しています.五十年史によると,製鉄所の発展とともに歩んできた病院が昭和44年には一般病院として開放され,さらに平成2年には近代化病院へと外来・中央診療棟のリプレース,平成7年には新入院病棟が完成し現在に至っています.

岩手県立磐井病院外科

著者: 大江洋文

ページ範囲:P.657 - P.657

 当院は岩手の玄関口に位置する人口約6万3千人の一関市にあります.“磐井”は一関を中心として東西に広がる地域一帯を東磐井郡,西磐井郡と呼ぶことに由来しており,宮城県北を含め対象人口はおよそ15万人になります.築33年の老朽病院で,外科病棟はボイラー室の上にありエアコンもなく,夏は外気温と同じになり創感染が続出,冬は蚊が出没して電気蚊取が活躍します.全305床のうち外科の病床数は46床で,これを以下の8人の医師で担当しております.副院長の蔵本('75卒)は診療のみならず,医師のマナーや生活態度にも厳しい指導で定評があり,“患者さんが自分,あるいは自分の家族だったらどうして欲しいかを常に考えて行動しろ”というのが口癖ですが,気まぐれで飽きっぽいのが玉に瑕です.副院長の下は皆研修医のようなものですが,科長の大江('84卒),医長の渡辺('88年卒),以下研修医の佐野('96卒),村上('96卒),更科('97卒),成田('97卒),白井('98卒)と続きます.
 昨年の手術件数は557件,うち全麻は412件で,主な内訳は食道癌7,胃癌79,結腸・直腸癌62,肝癌8,乳癌28,胆石86(うち腹腔鏡下38),腹部大動脈7,甲状腺11例などです.

メディカルエッセー 『航跡』・32

米国大学病院で外科教授になる過程(2)

著者: 木村健

ページ範囲:P.658 - P.659

 大学病院の外科スタッフ応募者は,まず履歴書,自薦作文(ステートメント)および研修病院指導医の推薦状の3つによってふるいにかけられる.首尾よくこれにパスすると,2日間にわたって20人もの人との面接が待っている.この過程を経て選りすぐられた応募者が,すんなり外科スタッフの職に就けるかというと,そうはいかない.外科医としてスタッフを選ぶからには,腕のほどをしっかり確めておく必要がある.研修病院で指導にあたった外科医に電話で応募者の腕前のほどを問い合わせる.それも相手がひとりだと偏見があってはいけないので,複数の外科医の意見を聞いて,総合的に判定する.技のほかに外科知識,判断力,指導力,勤勉および信頼度,それに人柄はどうかなどが質問に含まれている.吟味を重ねて選ばれた応募者の最終評価は医学部長に送られ,承認を受けてはじめて就任が決まる.未来の大プロフェッサーを目指す若者にとって息をつくのも束の間,就任と同時にtenure取得という難関が待ち受けている.アメリカの大学ではtenure(終生身分保証)をとるまでの期間は1年契約の臨時雇いである.折角職に就いてもことと次第では1年でお払い箱になる可能性がある.就任から半年ほどの間,手術中に同じ外科の畑の違う先輩スタッフがさり気なく手術室に出入りする.これを手術を見に来たギャラリーとカン違いしてはいけない.

私の工夫—手術・処置・手順

膵頭十二指腸切除術(PD-Ⅲ:今永法)における術後残胃うっ滞防止を意図としたCattell再建法

著者: 大井田尚継 ,   三宅洋 ,   森健一郎 ,   天野定雄 ,   福澤正洋

ページ範囲:P.660 - P.661

1.背景
 最近の術前術後管理法の進歩や手術手技の改良により膵頭十二指腸切除術(PD)はより安全に施行可能となったが,今なお手術侵襲は大きく,さらに術後のQOLを考慮した再建術式が重要視されてきた.このような背景の中,術後の消化吸収能に優れていることや1),食物の胆道内への逆流が見られるものの胆管炎の発生頻度が低いこと2)から,Child法3)より生理的な今永法4)が見直されるようになった.筆者らもPD術後の再建法として今永法を行ってきた.しかし膵液瘻などの合併症が無いにもかかわらず術後早期に残胃うっ滞により経口摂取が不良な例を経験した.一方PD術を受ける患者は総じて術前術後の入院日数などが他の術式によるものと比べ長い傾向にあり,早期退院が可能となるべく術式の選択も必要と考える.そこで今永法における残胃うっ滞を防止し,術後早期から十分な経口摂取を可能とすべく意図してCattell法5)を採用し良好な結果を得ている.そこで今回われわれが行っているCattell法による再建時の留意点について述べる.

外科医に必要な産婦人科common diseaseの知識・12

羊水塞栓症

著者: 千葉亜有美

ページ範囲:P.662 - P.663

はじめに
 羊水塞栓症(amniotic fluid embolism)は妊娠特有の合併症であり,分娩前または分娩直後に突然発症して短時間で心肺停止に至るため,母児ともにきわめて予後不良である.2〜3万分娩に1例と稀な疾患ではあるが,母体死亡率が60%1)と高いため,妊産婦死亡率が大きく改善された現在,産科領域において無視できない存在となっている.本来産科合併症である羊水塞栓症に対して外科医が関わる状況を想定すると,おそらく発症直後の心肺蘇生およびその後の全身集中管理などに関わる場合だろう.本稿の目的は羊水塞栓症の病態,臨床症状,および適切な管理方法について解説し,不幸な母体死亡を1例でも少なくすることにある.

外科医に必要な耳鼻咽喉科common diseaseの知識・12

急性咽喉頭炎,急性喉頭蓋炎

著者: 朝比奈紀彦

ページ範囲:P.664 - P.666

はじめに
 一般の診療あるいは救急外来などにおいて,“のどが痛い”と訴える患者を診察する機会は多いことと思う.舌圧子とペンライトがあれば咽頭の所見を診ることは容易であるが,特に強い所見がないにもかかわらず咽頭痛,嚥下痛を訴える症例に遭遇したことはないだろうか.咽喉頭の急性炎症のうち喉頭に病変が存在する場合は,観察が困難なために診断を誤る可能性がある.その中には致命的な疾患も含まれているため,診断や治療には細心の注意が必要である.

外科医のための局所解剖学序説・29【最終回】

文献

著者: 佐々木克典

ページ範囲:P.667 - P.673

解剖学一般
1)岳中典男(編):冠状循環.朝倉書店,1978
2)河西達夫:解剖学実習アトラス.南江堂,1993

消化器疾患の総合画像診断

食道癌

著者: 橋本哲夫 ,   三輪晃一 ,   八木雅夫

ページ範囲:P.675 - P.680

はじめに
 食道癌の診断には内視鏡や消化管造影法による病巣内腔からの診断とともに,食道周囲への浸潤,遠隔転移の診断目的に各種画像診断が駆使されている.特に,従来のCTでは体の横断面の画像しか得られなかったが,MRIでは病巣の矢状断,前額断など従来のCTでは得られなかった情報が観察可能となった.本稿では診断,治療に際してこれらの画像診断をどのように解釈し,治療に導くかを食道癌の症例を提示して述べる.

医療保険指導室より・2

一般検査および術前検査

著者: 林田康男

ページ範囲:P.681 - P.684

はじめに
 日常診療のなかで,特に外科医にとって手術は重要な位置を占めていることはいまさらながら言うまでもない.もちろん医療保険のなかでも,手術料の算定に関しては非常に興味の寄せられるところである.また常に手術料が正当に評価されているのか議論の的となるところでもある.
 それと同時に,外来も含め入院から手術までに施行される検査についても医療保険上,適正であるのか否か頭を悩ますところでもある.

臨床研究

胃悪性リンパ腫手術症例の臨床病理学的検討

著者: 二村直樹 ,   中村栄男 ,   鬼束惇義 ,   林勝知 ,   阪本研一 ,   広瀬一

ページ範囲:P.689 - P.692

はじめに
 胃原発悪性リンパ腫は比較的稀な疾患であり,胃原発悪性腫瘍の0.8〜1.8%と報告されている1〜4).Isaacsonら5〜7)によりlow-grade B-cell lymphomaof mucosa associated lymphoid tissue(以下,MALT型リンパ腫)の概念が提唱され,その発生,進展について新たな知見が得られつつある.今回われわれは,胃原発悪性リンパ腫の組織像をMALT型リンパ腫の観点から再評価し,また外科治療上の問題点を明らかにするために,臨床病理学的検討を行った.

境界領域

地域中核病院における術中迅速診断—遠隔病理診断(telepathology)の実践

著者: 吉田徹 ,   中村眞一 ,   菅井有 ,   佐藤房子 ,   及川正 ,   安保淳一

ページ範囲:P.693 - P.696

はじめに
 1997年3月に第1回遠隔医療研究会が発足し,全国各地で行われている遠隔医療の臨床での実施が検討・評価されている.遠隔医療は以下の4つの分野に分類される.
 1.Telehomecare.

手術手技

PROLENE® HERNIA SYSTEMを用いたopen tension-free鼠径ヘルニア修復術

著者: 齋藤健人 ,   今西宏明 ,   柳原正智 ,   佐藤直夫 ,   古川祐介 ,   上妻達也

ページ範囲:P.699 - P.702

はじめに
 近年,成人鼠径ヘルニアに対するopen tensionfree hernioplasty1)としてRutkowらによつて発表されたmesh-plug法2)が本邦でも普及しつつあり,良好な術後成績が得られている3〜6)
 しかしプラグ拘縮による本法の再発症例がAmidによつて呈示され7),mesh-plug法にも改善の余地が見られてきた.そこで1つの提案ともいえるprosthesisが1998年7月から国内にて発売されている.PROLENE® HERNIA SYSTEM(Johnson & Johnson medical社)と称し,構造としてはヘルニア門を閉鎖する平坦な広めのメッシュ(underlaypatch)と後壁補強用のパッチ(onlay patch)がconnectorを介して一体型となったものである(図1).当院にて8例の鼠径ヘルニア症例に対し,本法を施行した.以下,外鼠径ヘルニアに対する手術手技を記述する.

臨床報告・1

胃大網動脈を使用した冠状動脈バイパス術後の胃癌の1切除例

著者: 山田哲司 ,   北川晋 ,   中川正昭 ,   坪田誠 ,   関雅博

ページ範囲:P.703 - P.705

はじめに
 冠状動脈バイパス術(CABG)において動脈グラフトの遠隔開存率が良好なことより,右胃大網動脈(RGEA)は内胸動脈に次ぐ第2の動脈グラフトとして使用されることが多い1).RGEAを使用したCABG後に,胃癌を発症した症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

臨床報告・2

術後11年を経過して腹壁創瘢痕に孤立性再発をきたした直腸癌の1例

著者: 石田雅俊 ,   濱路政靖 ,   宮崎知 ,   西田幸弘

ページ範囲:P.706 - P.708

はじめに
 大腸癌開腹術後の孤立性腹壁再発は稀な再発様式である.われわれは術後11年を経て腹壁創瘢痕に孤立性再発をきたした直腸癌の1例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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