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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科55巻11号

2000年10月発行

雑誌目次

特集 癌治療のプロトコール—当施設はこうしている Ⅰ.食道癌治療のプロトコール

新潟大学医学部・第1外科

著者: 西巻正 ,   神田達夫 ,   桑原史郎 ,   渡辺直純 ,   伊藤寛晃 ,   田邊匡 ,   矢島和人 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.6 - P.12

術前診療のプロトコール
 食道癌に対する治療方針は腫瘍の進展状況と患者の全身状態の総合評価で決定する.

大阪大学大学院・病態制御外科

著者: 矢野雅彦 ,   塩崎均 ,   井上雅智 ,   安田卓司 ,   藤原義之 ,   門田守人

ページ範囲:P.13 - P.18

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の評価
 食道癌の手術は他の消化器癌手術に比べて侵襲が大きく,また術後の患者のQOLの低下も著しい.したがって,手術療法を選択するからには根治度Cの手術を極力避けねばならず,かつ術後合併症の発生を減少させるよう努める必要がある.そのためには術前の正確な進行度評価と患者の全身状態の評価が重要である.

順天堂大学医学部・第1外科

著者: 鶴丸昌彦 ,   梶山美明 ,   鳴海賢二 ,   岩沼佳見 ,   富田夏見 ,   服部公昭

ページ範囲:P.19 - P.26

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の評価
 術前評価では癌のステージング,重複癌の有無,患者側のリスク判定を行うが,リスク判定では合併疾患の有無,呼吸機能,循環機能,腎機能,肝機能,凝固機能を中心に行う.また,服用している薬剤を把握し,コントロールしておく.

国立がんセンター中央病院・食道外科

著者: 日月裕司 ,   井垣弘康 ,   坪佐恭宏 ,   佐藤弘 ,   加藤抱一

ページ範囲:P.27 - P.33

術前診療のプロトコール
 1.治療前患者の評価
 ①癌の進行度診断
 食道癌の治療は進行度に合わせて選択される.食道癌の進行度は原発巣(T因子),リンパ節転移(N因子),遠隔臓器転移,播種性転移(M因子)の進展範囲により判定される.これらの因子を評価するための検査項目を図1に示す.
 原発巣の深達度の診断は内視鏡所見,内視鏡超音波,CT検査で行う.食道の壁の層構造を描出できる検査は現在は内視鏡超音波のみであり,食道壁内の深達度診断には必須である.食道壁外への浸潤の診断にはCT検査を行う.狭窄のある進行癌では内視鏡超音波のプローブが狭窄部を通過できず,癌腫の最深部の診断が不可能である場合もあり,T3以上の深達度の判定にはCTが必須である.気管,気管支への浸潤が疑われる場合は気管支ファイバースコープによる気道壁,粘膜の観察を行う.MRIの解像度は現時点ではCTを超えるものではない.気管や大動脈への浸潤が疑われる場合には矢状断などの横断面以外の断面が描出できるMRIが有効な場合もあるが,ルーチンではない.切除範囲や放射線照射範囲を設定するには上皮内進展の範囲の診断のためにヨウ素液を用いた色素内視鏡を行う.

慶應義塾大学医学部・外科

著者: 北川雄光 ,   安藤暢敏 ,   小澤壯治 ,   北島政樹

ページ範囲:P.35 - P.41

術前診療のプロトコール
 1.術前の評価
 ①進行度評価
 上部消化管造影,内視鏡検査,超音波内視鏡,胸部(頸部上縦隔を含む)・腹部造影CT,腹部超音波検査にて主病変の深達度とリンパ節転移状況を把握する.骨シンチやMRI,気管支鏡,血管造影などは必要と判断した場合のみに行う.
 術前の深達度診断はとくに表在癌において重要である.深達度m1, m2と診断された場合には内視鏡的粘膜切除(EMR)の適応となるため,内視鏡検査に加えて20MHzの細径プローブによる超音波内視鏡検査を併用している.遠隔臓器,リンパ節転移ともに胸・腹部CT所見を重要視している.リンパ節転移診断においては7.5MHzの超音波内視鏡を併用しているが,画像診断だけでは微小転移の検出は不可能であることを念頭におかねばならない.他臓器浸潤の診断にもCT,超音波内視鏡が有用である.胸部上部進行食道癌では気管支鏡を施行し,その所見も参考にしている.気道系,大血管への直接浸潤例(T4)は根治切除の対象とせず,その疑いがあれば術前治療の適応としている.

Ⅱ.胃癌治療のプロトコール

金沢大学医学部・第2外科

著者: 三輪晃一 ,   木南伸一 ,   西島弘二 ,   林智彦 ,   伏田幸夫 ,   藤村隆 ,   清水康一

ページ範囲:P.44 - P.52

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の評価
 ①全身状態
 麻酔法,術前,術後の管理技術の進歩により,通常のD2胃切除術程度であれば合併症を有する患者でもほとんどの場合は手術可能である.しかし,開胸を要する場合や拡大手術では侵襲が大きく,術式適用の可否は慎重に判断しなければならない.特に肝硬変,糖尿病,呼吸機能低下などの併存疾患を有する患者では術後合併症を発生しやすく,細心の注意を払わねばならない1)

鹿児島大学医学部・第1外科

著者: 夏越祥次 ,   石神純也 ,   帆北修一 ,   愛甲孝

ページ範囲:P.53 - P.60

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の評価
 ①全身状態の評価
 視診(体格,栄養状態,皮疹など),触診(Virchow転移やDouglas窩転移,腫瘍の触知など),聴診(心肺異常,イレウスの有無など),打診(胸・腹水貯留,肝腫大など),問診により全身状態をチェックし,個々の患者にとっての問題点を把握する.循環機能検査として心電図,血圧測定を行い,異常を認める場合は心エコー,Holter心電図,RI検査などにより精査している.呼吸機能は胸部X線,呼吸機能スパイログラム,動脈血ガス分析によりチェックする.肝機能,耐糖能を採血により,腎機能は検尿,血液検査,クレアチニン・クリアランスによって調べる.高齢者ではとくにperformance statusや精神障害の有無について調べておく.肝炎や梅毒などの感染や鼻腔内のMRSAの存在などをチェックする.
 術前合併症では狭心症,不整脈や心電図異常などの循環器障害,結核,喘息,肺機能低下などの呼吸器障害,肝機能障害,糖尿病,腎機能障害,脳血管障害などがみられる.最近高齢者が増加しているため,潜在性の合併症もあることを念頭に置く必要がある.教室例の高齢者胃癌で,心,肺,肝,腎,脳などの2臓器以上の合併症を有する症例は70〜74歳で45%,75〜79歳で47%,80歳以上では62%であり,複数臓器に機能障害を認める頻度は高率である(図1)1)

東京大学医学部・消化管外科

著者: 下山省二 ,   上西紀夫 ,   瀬戸泰之 ,   山口浩和 ,   清水伸幸 ,   青木文夫

ページ範囲:P.61 - P.67

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の一般評価
 問診,身体所見では他の悪性腫瘍疾患,全身麻酔症例と同様に,入院までの患者の日常生活状態,主訴を把握し,既往疾患の有無とその程度を把握して全身状態の評価を行う.腹部触診,体表リンパ節触診,ダグラス窩指診により原発巣の評価,転移の有無を確認する.一般検査では胸・腹部X線検査とともに血液,心,肺,肝,腎機能,電解質バランス,栄養状態,耐糖能などを評価し,麻酔科とともに全身麻酔・耐術例か否かを評価する.高度進行例で術前の栄養状態の不良な症例や,拡大郭清など侵襲の大きな手術の予測される症例では術前後の栄養管理のため中心静脈栄養を施行する.糖尿病,高血圧など合併疾患併存症例でコントロール不良な症例では術前に適切にコントロールする.

京都府立医科大学・消化器外科

著者: 山岸久一

ページ範囲:P.69 - P.73

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の評価
 ①全身状態の評価
 進行度判断のための身体所見(ウィルヒョウリンパ節の有無,腹水の有無,肝腫大の有無,ダグラス窩の指診など)および血液一般,生化学的検査,腫瘍マーカー,感染症の検索に加えて遠隔転移の有無(肺,肝,骨を中心に他臓器転移)の検索をする.また,食道,大腸などの腹腔内臓器の合併病変の検査をする.
 全身麻酔の術前検査として,心機能検査(ECG,場合により心エコー),肺,肝,腎機能検査を行う.殊に糖尿病がある時にはインスリンによる術前コントロールをする.

新潟県立がんセンター・外科

著者: 梨本篤 ,   藪崎裕 ,   滝井康公 ,   土屋嘉昭 ,   田中乙雄 ,   佐々木壽英

ページ範囲:P.75 - P.83

 当院外科では完全に臓器別制になっており,胃癌患者に対しては必ず胃癌専門医が主治医となり手術,術後管理,術後経過観察を担当する体制をとっている.

Ⅲ.大腸癌治療のプロトコール

東京医科歯科大学・消化機能再建学(第2外科)

著者: 榎本雅之 ,   杉原健一

ページ範囲:P.86 - P.90

術前診療のプロトコール
 1.術前評価
 ①全身状態の評価
 麻酔および手術に耐えうるかどうかを検査する.特に高齢者では自覚症状がなくとも潜在的に呼吸器疾患や循環器疾患を持っている患者もいるので,一般検査は必ず行わなくてはならない.項目は血算(貧血の有無),生化学(肝機能,腎機能など),凝固能,耐糖能,胸部X線,心電図,呼吸機能検査,検尿などを行う(表1).

兵庫医科大学・第2外科

著者: 柳秀憲 ,   楠正人 ,   山村武平

ページ範囲:P.91 - P.98

術前診療のプロトコール
 筆者らの施設における大腸癌治療は外科的手術に化学療法あるいは放射線療法を組み合わせた集学的治療を基本方針としている.術前のマネージメントで手術までに補助療法で変えることのできるファクターがあるかどうかを診断し,手術あるいはneo-adjuvant therapyのいずれを先行させるかを速やかに決定・準備・実行する必要がある.Neo-adjuvant thrapyの効果や患者自身のリスクによって手術方法を変更することがあるからである.
 また,筆者らの施設ではクリティカルパスを導入して,入・退院管理および手術周期の管理を行い,リスクマネージメントに対処している.

愛知県がんセンター・消化器外科部

著者: 加藤知行 ,   平井孝 ,   安井健三

ページ範囲:P.99 - P.106

はじめに
 大腸癌の治療は1970年代には内視鏡手術と拡大郭清,80年代には機能温存手術と再発癌に対する積極的再切除,そして90年代には腹腔鏡手術に代表される縮小手術が採り入れられて年々進歩し,変化している.その中にはstandardとして確立したものと未だ結果がわからないもの,そして試験的に導入しているものとがある.本稿では現在筆者らが大腸癌手術について行っているプロトコールを示す.患者管理については一般的な事項は省略し,大腸癌治療に関係する事項について重点的に解説する.

東京都立駒込病院・外科

著者: 高橋慶一 ,   森武生 ,   安野正道

ページ範囲:P.107 - P.114

術前診療のプロトコール
 1.患者の評価に必要な術前検査
 安全に適切な手術を行うには,術前に患者の全身状態および癌の進行度を可能な限り的確に把握することが重要である.

弘前大学医学部・第2外科

著者: 森田隆幸 ,   伊藤卓 ,   村田暁彦 ,   遠藤正章 ,   小山基 ,   佐々木睦男

ページ範囲:P.115 - P.121

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の評価
 手術に必要な一般的検査に加え,病変部の局所進展・浸潤程度や遠隔転移有無の検査が必要である1)

Ⅳ.肝癌治療のプロトコール

癌研究会附属病院・外科

著者: 國土典宏 ,   関誠 ,   猪狩功遺 ,   松原敏樹 ,   太田博俊 ,   山口俊晴 ,   高橋孝 ,   中島聰總 ,   武藤徹一郎

ページ範囲:P.124 - P.128

はじめに
 肝悪性腫瘍に対する治療として肝切除が最も根治性が高いことは論を俟たないが,腫瘍の占拠部位や肝予備能によって肝切除の可否や切除範囲が規定されてくる.本稿では当施設での肝予備能評価法と肝切除許容範囲の決定法を紹介し,疾患ごとの治療方針について肝細胞癌を中心に述べたい.

広島大学医学部・第2外科

著者: 浅原利正 ,   板本敏行 ,   片山幸治

ページ範囲:P.129 - P.134

はじめに
 肝癌,特に肝細胞癌に対する治療法は肝切除を中心に肝動脈塞栓術(TAE),経皮的エタノール注入療法(PEIT),マイクロ波凝固壊死療法(MCT)など多岐にわたる.治療法の選択には患者の全身状態,肝予備能や腫瘍進展度を正確に把握して決定される.小肝癌に対する治療法は施設によって異なるのが現状であり,新たな治療法も臨床応用されている.また最近,肝癌に対する鏡視下手術も導入されている.教室では肝予備能の許容範囲内で積極的に肝切除を行ってきた.
 本稿では以上の点をふまえた上で,教室の肝癌治療の基本方針について述べる.

長崎大学医学部・第2外科

著者: 古井純一郎 ,   兼松隆之

ページ範囲:P.135 - P.138

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の評価(表1)
 ①腫瘍進展度の評価
 超音波検査,ヘリカルCT,ダイナミックMRI,血管造影検査を行い,腫瘍の局在と進展度を評価する.胆管細胞癌の場合には胆管像を得ることも重要である.

富山医科薬科大学・第2外科

著者: 塚田一博 ,   霜田光義 ,   板東正 ,   岸本浩史 ,   貫井裕次

ページ範囲:P.139 - P.141

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の評価
 ①腫瘍進展度,進行度の判定
 腹部超音波検査(US),computed tomography(CT),magnetic resonance imaging(MRI),血管撮影などの画像診断を組み合わせて,腫瘍の存在と局在をまず検討する.最近ではCT-APや造影下USを主に用いている.3Dイメージは作製していないが,腫瘍の局在では肝区域との関係,肝門グリソンとの距離,肝静脈との距離などを立体的に評価する.さらに門脈腫瘍栓や娘結節(肝内転移),動静脈(門脈)シャントの有無などを確認し,進行度を併せて判定する.

Ⅴ.胆管癌治療のプロトコール

秋田大学医学部・第1外科

著者: 安藤秀明 ,   古屋智規 ,   佐藤勤 ,   安井應紀 ,   田中淳一 ,   小山研二

ページ範囲:P.144 - P.148

はじめに
 胆管癌は解剖学的に門脈,肝動脈に近接しているため,根治切除不能な症例は少なくない.また,これら大血管への浸潤に対する血管合併切除は,門脈の場合は良好な予後が期待できることが多いが,動脈の場合の予後は期待できない.このような特殊性をもった胆管癌治療を適切に行うための術前検査,それに沿った術式の選択,さらに術後補助療法について当科におけるプロトコールを提示する(図1).

杏林大学医学部・第1外科

著者: 阿部展次 ,   泉里友文 ,   徳原真 ,   羽木裕雄 ,   森俊幸 ,   杉山政則 ,   跡見裕

ページ範囲:P.149 - P.154

 胆管癌の多くの症例は発見時にはすでに高度進展例であり,これらに拡大手術を行うことで遠隔成績の改善が図られてきた.しかし胆管癌に対する拡大手術は早期合併症の頻度が高く,QOL(quality of life)を損なう場合も少なくない.またその遠隔成績も決して満足すべき結果が得られておらず,手術適応も施設間により異なっているのが現状である.したがって癌の進展度だけでなく,患者の全身状態や予測される予後などを十分考慮したうえで治療方針(手術適応,術式)を決定することが重要である.本稿では,現在教室で行っている胆管癌の治療法について概説する.

山梨医科大学医学部・第1外科

著者: 藤井秀樹 ,   松田政徳 ,   板倉淳 ,   飯野弥 ,   河野浩二 ,   宮坂芳明 ,   河野寛 ,   三浦和夫 ,   飯塚秀彦 ,   松本由朗 ,   大西洋

ページ範囲:P.155 - P.164

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の評価
 ①癌の進展度診断
 胆管癌の進展度診断の基本となるのは直接胆管造影像である.胆道ドレナージ施行後に種々の体位で胆管を描出し,狭窄像,壁の不整像,硬化像などの変化を詳細に分析する.特に,壁の硬化像はその判読に熟練を要するが,癌の進展範囲の判定に最も重要な情報を与えてくれる.肝門部胆管癌では,肝側胆管への進展度の評価はその後の治療法の選択に際して最も重要な因子であり,特に尾状葉枝への進展の有無は,肝切除施行の適応決定に重要であり,肝内胆管をその区域ごとに1本ずつ同定することが肝要である.
 胆道ドレナージ術の術式には,内視鏡的胆道ドレナージ術(endoscopic biliary drainage:EBD)と経皮経肝的胆道ドレナージ術(percutaneoustranshepatic biliary drainage:PTBD)が含まれる.PTBDに関しては,教室では全例ドレナージチューブの留置に成功しているが,肝内門脈損傷とその後の術中の肝動脈血流の遮断ないしは低下に起因すると考えられる,術後の損傷肝内門脈より末梢の領域の肝梗塞(図1),ならびに2回以上の穿刺による胆汁の腹腔内漏出と,それによると考えられる腹膜播種再発を経験するに至って,内科の協力を得てEBD,なかでも内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)を施行している.

帝京大学医学部・第1外科

著者: 吉田雅博 ,   高田忠敬 ,   安田秀喜 ,   天野穂高

ページ範囲:P.165 - P.170

 胆管癌は,年々その発生率が増加しているにもかかわらずいまだに早期診断が困難な疾患であり,他の消化器癌に比し切除率も低い.近年,診断・治療機器の開発,治療への応用・工夫によって切除率,治療成績改善の報告がみられるようになった.本稿では,筆者らが胆管癌に対して施行しているプロトコールを紹介し,併せてより安全な手術のための工夫についても言及したい.

Ⅵ.胆嚢癌治療のプロトコール

東京女子医科大学・消化器外科

著者: 太田岳洋 ,   吉川達也 ,   高崎健

ページ範囲:P.174 - P.178

 胆嚢癌は早期では胆嚢摘出術で十分な根治が得られるが,進行するにつれ肝直接浸潤,肝十二指腸間膜浸潤,肝転移,リンパ節転移,腹膜播種など多彩な進展様式を示し,治療に難渋する1,2).本稿では教室におけるこれまでの胆嚢癌の治療成績を示し,術前診断から術式選択,術後補助療法に関する現在の治療方針について述べる.

横浜市立大学医学部・第2外科

著者: 遠藤格 ,   増成秀樹 ,   藤井義郎 ,   田中邦哉 ,   簾田康一郎 ,   関戸仁 ,   渡会伸治 ,   長堀薫 ,   嶋田紘

ページ範囲:P.179 - P.182

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の評価
 原発巣の深達度診断は,m, mp, ss癌ではEUSを用いている.HinfにはCT,体外USを用いている.肝転移が疑われる症例では,微細な転移巣を捉えうるCTAPを行っている.Binfの診断はERC,MRCPによる胆管壁の変形により診断しているが,胆管壁外の進展範囲を正確に診断することは困難である.リンパ節転移診断にはCTを用いている.
 耐術能の判定,とくに肝切除の安全限界が問題となる.右葉切除以上では肝切除率は60%を越えることが多く,根治術の安全性を高める目的で門脈塞栓術を施行している.門脈塞栓術後2週目にCT volumetryを行う.この時点でも肝切除率が60%以上の症例では,術後肝不全の発生率が高くなる.

国立がんセンター東病院・外科

著者: 小西大 ,   木下平 ,   中郡聡夫 ,   井上和人 ,   小田竜也

ページ範囲:P.183 - P.187

 術前診療のプロトコール
 1.フローチャート
 図1に当施設における胆嚢癌治療方針のフローチャートを示す.

九州大学大学院医学研究院・臨床・腫瘍外科

著者: 千々岩一男 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.189 - P.194

術前診療のプロトコール
 胆嚢癌の進展度(壁深達度を含めた胆嚢周囲進展とリンパ節転移の程度,腹膜播種や遠隔臓器転移の有無)とともに,患者の全身状態(physicalstatusや合併症を含め)と肝予備能を基に治療方針を決定する.治療全般の流れの概略を示す(図1).

Ⅶ.膵癌治療のプロトコール

大阪府立成人病センター・第1外科

著者: 石川治 ,   大東弘明 ,   山田晃正 ,   佐々木洋 ,   今岡真義 ,   中泉明彦 ,   上原宏之 ,   西山謹司 ,   春日井務

ページ範囲:P.196 - P.200

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の評価
 ①質的・進行度診断
 膵癌患者は黄疸,腹・背部痛を主訴として来院することが多い.腹部超音波(US)やCT検査を行い,膵腫瘤の存在を疑う場合には遠隔転移や局所進展(門脈,腹腔動脈,上腸間膜動脈への浸潤など)の有無を読影する.入院後ERCP,膵液細胞診,造影CT,血管造影を行えば,通常膵病変の質的診断,進行度診断は可能となる.腫瘍マーカー(CEA, CA19-9)や75gブドウ糖負荷試験は全例に行い,必要に応じて経皮経肝胆管造影(PTC),MRCP,超音波内視鏡1)などを付加する.一方,USやCT上明らかな膵腫瘤が同定できなくても膵管の軽度拡張や小嚢胞が認められたならば,このような症例(病変部位とは限らない)は微小・潜在膵癌の高危険群であることから積極的にERCPを施行する.その際,膵液を採取し,これに細胞診を行って,潜在膵癌(上皮内・微小浸潤癌)の発見に努めている2).膵液のK-rasやtelomerase遺伝子診断で陽性と判明し,癌細胞を検出できない場合には膵液検査によるフォローアップ間隔を1年から6か月に短縮している3)

京都大学医学部・腫瘍外科

著者: 細谷亮 ,   土井隆一郎 ,   和田道彦 ,   今村正之

ページ範囲:P.201 - P.207

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の評価
 ①診断
 膵癌の診断では,存在診断・鑑別診断・進展度診断のすべてにおいて画像診断が最も重要である.体外式超音波検査(US)とMRCP(MR cho-langiopanceatography)は,尾側膵管拡張や閉塞性黄疸合併時の胆管拡張などの,膵癌の間接所見を拾い上げるスクリーニング検査法である.ERCPはかつては膵癌の診断に最も有効な検査法であったが,最近のMRCPの進歩により診断的ERCPは実施されなくなりつつある.しかし,他の画像診断法で腫瘤像を捉えにくい小膵癌や,膵炎による限局性の膵管狭窄などの精査には必須の検査法として位置づけられる.腫瘍を直接描出する画像検査としてはEUS(超音波内視鏡),CT(ダイナミックCT)とMRIが優れ,特にCTは膵癌の基本的な画像診断法であると同時に,手術適応や術式決定を判断するうえで重要視している.
 18F標識フルオロデオキシグルコースとポジトロン断層法を用いるFDG-PETは,悪性腫瘍の糖代謝に着目した新しい核医学的画像診断法である.膵癌ではFDGの強い集積が認められるが,多くの良性疾患ではFDGの集積が低いので,膵癌と腫瘤形成性膵炎などとの鑑別に優れている1).教室では膵腫瘍が疑われる患者には全例で実施している.最近は,膵癌患者の遠隔転移の有無の検索の目的で,全身のPETを行い,治療法の適正化に役立てている.

札幌医科大学・第1外科

著者: 本間敏男 ,   平田公一 ,   向谷充宏 ,   桂巻正 ,   浦英樹 ,   佐々木一晃 ,   伝野隆一

ページ範囲:P.209 - P.214

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の評価
 ①一般状態
 一般血液生化学検査,腫瘍マーカーに加えて患者の既往歴,performance status(PS)をチェックする.心・肺機能,肝機能,腎機能による耐術性の評価は他の消化器外科手術の場合と同様であるが,膵癌に伴う特徴的な合併症として黄疸,膵炎,内外分泌機能障害(糖尿病,低栄養),疼痛などがあり,それらを認めた場合には術前に適切な治療を行う必要がある(後述).

名古屋大学医学部・第2外科

著者: 竹田伸 ,   井上総一郎 ,   金子哲也 ,   中尾昭公

ページ範囲:P.215 - P.220

 近年のめざましい画像診断の進歩にもかかわらず,膵癌の早期発見は容易ではなく,診断時はすでに進行していることがほとんどで,予後は不良である.当科では,膵癌に対して積極的に門脈合併切除を併施した拡大手術を施行し,切除率は63%と向上したが,術後早期に肝再発や局所再発をきたした.そのために拡大手術だけでなく術中照射と術後補助5—FU門脈持続注入化学療法を施行してきた.切除不能膵癌にも除痛によるQOLを考慮し術中照射を施行している.当科での膵癌症例に対する手術適応,術前・術中・術後のプロトコール,さらに術後補助5—FU門脈持続注入化学療法の新しい知見について紹介する.

Ⅷ.甲状腺癌治療のプロトコール

名古屋第一赤十字病院・外科

著者: 加藤万事 ,   服部龍夫 ,   小林陽一郎 ,   宮田完志 ,   米山文彦 ,   西尾秀樹

ページ範囲:P.222 - P.228

術前診療のプロトコール
 甲状腺癌の予後は図1に示すように分化癌と未分化癌では全く異なるため,常にこの両者は区別して考えざるをえない.また分化癌において腫瘤径が5cm以下で隣接臓器浸潤を伴わないT1, T2症例では当科ではこれまでに死亡例を経験していない(図2).さらに病理学的リンパ節転移の有無も予後に影響は認められず,むしろ周囲組織へ浸潤する顕性リンパ節転移を伴うN3症例であるかどうかが臨床的に重要である(図3).すなわち,甲状腺癌の中には,①臨床的にほとんど悪性の態度をとらないT1, T2NOの分化癌と,②他の癌と同様に外科医が再発させないよう治療戦略を熟慮すべきT4orN3分化癌と,③現在の医学ではいまだ全く治療法のない未分化癌の3者が存在することを十分に意識した上で,診断,治療を進めていくことが肝要である.

福島県立医科大学医学部・第2外科

著者: 土屋敦雄 ,   鈴木眞一 ,   竹之下誠一

ページ範囲:P.229 - P.232

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の評価
 甲状腺癌の治療は病理組織型,つまり分化型か未分化型かによりその治療法が大きく左右されることが,他の臓器の癌と大きく異なる1).臨床的に甲状腺癌のほとんどは分化癌であり,その大部分を乳頭癌が占める.

信州大学医学部・第2外科

著者: 小林信や ,   麻沼和彦 ,   藤森実 ,   新宮聖士 ,   伊藤研一 ,   浜善久 ,   丸山正幸 ,   天野純

ページ範囲:P.233 - P.240

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の評価
 ①病理の組織型の決定および臨床病期の決定
 ①穿刺吸引細胞診(fine needle aspirationbiopsy:FNAB):診断のために最も大切な検査のひとつである.②頸部軟X線撮影:石灰化の性状により良性,悪性を鑑別する.③胸部X線撮影:肺転移の有無をみる.分化癌でも初診時に肺転移を認めることがある.濾胞腺腫の術後に肺転移がみつかり,濾胞癌と診断されることがある**.④CT・MRI:気管内腔への腫瘍の突出,気管壁の直線化から浸潤を診断する.⑤鼻咽喉ファイバー:気管浸潤,および反回神経麻痺をみる.気管に浸潤していれば気管壁が突出したり,気管粘膜の発赤・血管の拡張も認められる.⑥血管造影:総頸・内頸・外頸動脈への浸潤の可能性がある場合に検査する.⑦甲状腺機能:正常であることを確認しておく.稀ではあるが,機能性の甲状腺癌のうち機能亢進症となっていることもある.⑧腫瘍マーカー:乳頭癌の腫瘍マーカーとして血中サイログロブリンを測定し,術前から異常高値であったり,術後も低下しない場合は遠隔転移を疑って精査が必要である.髄様癌の腫瘍マーカーとしてはカルシトニン,CEAが有用である.

Ⅸ.乳癌治療のプロトコール

東北大学医学部・腫瘍外科

著者: 原田雄功 ,   石田孝宣 ,   大貫幸二 ,   大内憲明

ページ範囲:P.242 - P.249

術前診療のプロトコール
 1.術前一般検査
 全身麻酔による手術になるため通常の耐術機能検査を施行する.心疾患の既往あるいは心電図異常がある場合には心エコーを含めた精密検査を施行する.空腹時血糖が高い場合にはHbA1c値を測定し,未治療の糖尿病がある場合にはまず糖尿病のコントロールを優先する.術前,特に注意が必要なのは服用薬の有無をチェックすることであり,中でもプレタール®やワーファリンなどの抗凝固剤を服用していた場合にはあらかじめ服薬を中止させる必要がある.

東海大学医学部・外科

著者: 太田正敏 ,   徳田裕 ,   齋藤雄紀 ,   鈴木育宏 ,   久保田光博 ,   田島知郎

ページ範囲:P.251 - P.255

はじめに
 当施設における乳癌治療の基本的方針は,lim-ited diseaseの段階にあるものについては整容効果を含めてQOLを重視した手術療法を実施する.一方,systemic diseaseに対しては集学的な治療を積極的に展開していく.従来より,進行乳癌症例,再発乳癌症例,さらには術後高リスク症例に対して自家造血幹細胞移植を併用した大量化学療法を治療戦略に組み入れてきた1,2).現在,標準的治療とのprospectiveな比較試験が欧米およびわが国においても行われており,その結果が待たれる.

川崎医科大学・乳腺甲状腺外科

著者: 園尾博司

ページ範囲:P.257 - P.264

はじめに
 わが国における最近の乳癌治療の進歩は著しい.とくに10数年前に導入された乳房温存療法の急速な普及に加え,5〜6年前に市販されたLHRHアゴニストやアロマターゼ阻害剤などのホルモン剤,2〜3年前に市販されたタキサン系抗癌剤などの有用な治療薬が登場し,乳癌治療はここ5年間に急速に進歩した.しかし同時に多くの情報が氾濫しており,施設間のプロトコールにも差がみられるものと思われる.本稿では,当科の乳癌治療のプロトコールについて概説する.

国立病院四国がんセンター・外科

著者: 高嶋成光 ,   青儀健二郎 ,   大住省三 ,   河村進 ,   片岡正明

ページ範囲:P.266 - P.274

術前診療のプロトコール
 1.術前患者の評価
 乳癌の診療は外科3名,放射線科(治療および診断)2名,形成外科1名,内科腫瘍医(medicaloncologist)1名に数名のレジデントが加わった乳腺グループが担当している.初診患者は外科を受診し,視触診と必要に応じてマンモグラフィを追加してスクリーニングを行う.精密検査は週1回,乳腺グループ全員が参加し,再度の視触診,超音波検査,サーモグラフィを追加して総合診断を行う.
 乳癌確診症例については術式を含めた治療計画を作成し,これを呈示してインフォームドコンセントを得たうえで,入院予約,術前検査を施行する.疑診例は穿刺吸引細胞診,針生検,外来あるいは入院での外科生検を行う(図1).

Ⅹ.肺癌治療のプロトコール

東京医科大学・第1外科

著者: 坪井正博 ,   大平達夫 ,   斎藤誠 ,   加藤治文

ページ範囲:P.276 - P.283

術前治療のプロトコール
 肺癌は,その組織型により性格を異にするために,まずは治療前に組織型を可能な限り明確に診断する必要がある.そして,これに基づいた治療戦略を組み立てていくことが肝要である.これに加えて外科治療が考慮される患者には肺機能を含めた全身状態の評価を行う.すなわち,術前患者の評価は,①臨床病期の決定(進行度の判定),②治療法の選択,③全身状態の評価の3段階に大別される.

千葉大学医学部・呼吸器外科

著者: 藤澤武彦 ,   斎藤幸雄 ,   馬場雅行 ,   飯笹俊彦 ,   渋谷潔 ,   鈴木実 ,   関根康雄

ページ範囲:P.285 - P.291

 近年,肺癌の疑いあるいは確定診断のついた状態でわれわれの施設を紹介される患者はさまざまな点で多様性を増している.来院時から各患者に応じた一定のプロトコールに沿った診断治療計画が必要となる.具体的には,集団検診の普及や診断機器の進歩により増加した喀痰細胞診陽性・画像無所見症例や胸部CTで発見された小型病巣症例などに対する診断計画から始まり,高齢化社会に伴って増加した高齢者・低肺機能症例に対する適切な術式の選択,現在でも多数存在する進行期症例に対する拡大手術や補助療法の適応,さらに患者自身の期待する術後のQOLなど,症例ごとに診断治療計画が立案されなければならない.われわれの施設における基本的な方法を概説する.

岡山大学医学部・第2外科

著者: 青江基 ,   板野秀樹 ,   永広格 ,   佐野由文 ,   伊達洋至 ,   安藤陽夫 ,   清水信義

ページ範囲:P.293 - P.300

はじめに
 1994年以来,肺癌は全癌死の第1位の原因疾患であり,早急な治療方法の確立が望まれて種々の研究がなされてきている.しかし,肺癌の治療成績は集学的医療の重要性がいわれるようになってからも,いまだ満足のいくものではなく,予後不良の疾患であることには変わりない.一方,胸腔鏡下手術,術前化学療法の導入によって肺癌の外科的治療戦略も年々変化してきている.
 今回,肺癌治療において外科的な立場から手術療法を中心に,その術前検査,術式,術後管理を,特に近年変化のあった事柄を中心にまとめ,当科における肺癌治療のストラテジーの現況(図1)を報告する.

東京女子医科大学・第1外科

著者: 新田澄郎 ,   大貫恭正 ,   池田豊秀

ページ範囲:P.301 - P.306

術前のプロトコール
 1.術前患者の評価
 近年では,肺癌に合併する頻度の高い疾患,病態として,好発年齢が一致する虚血性心疾患,慢性閉塞性肺疾患,慢性腎不全などが挙げられる.これらを合併疾患として持つ肺癌患者の手術適応の決定に際して,肺切除術の特異性を考慮した筆者らの日常診療での対応と成績を中心に述べる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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