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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科55巻13号

2000年12月発行

雑誌目次

特集 超音波ガイド下の穿刺手技

内頸静脈穿刺法とその注意点

著者: 鈴木利保 ,   金沢正浩 ,   滝口守

ページ範囲:P.1505 - P.1509

 超音波エコーガイド下の内頸静脈穿刺法とその注意点について述べた.内頸静脈穿刺に用いられる探蝕子は7.5MHzのリニア型の電子走査探触子が距離分解能や分解能が優れており,表面近くの視野が広く見やすい利点がある.穿刺方法は鎖骨と胸鎖乳突筋の胸骨枝および鎖骨枝との三角形の頂点付近から尾側1cmに超音波プローベをあてて,内頸静脈,総頸動脈を描出する.内頸静脈径はトレンデレンブルグ体位でバルサルバ加圧をした時が最大径となり,水平位の1.3から1.4倍となり穿刺に有利である.右内頸静脈と総頸動脈の位置関係は内頸静脈が外側浅く,総頸動脈が内側深く位置し,部分的に(1/2〜1/3)重なっている例が85%,完全に離れているものが11%,縦にオーバーラップしている例が4%ある.縦にオーバーラップしている例は穿刺針を深く挿入しすぎると,総頸動脈を誤穿刺する可能性があるので注意が必要である.エコーガイドで内頸静脈穿刺をする場合,14〜18ゲージの穿刺針は穿刺に要する力が大きいために血管の前壁への圧迫が大きく,血液の逆流が見られた時には9mmあった静脈径が2.8mmまで狭小化していた.一方,22〜23ゲージの注射針を用いて穿刺すると血管壁の圧迫は少なかった.安全に穿刺するには22〜23ゲージの穿刺針を用いてガイドワイヤーを挿入できるセルジンガー法が優れている.

甲状腺腫瘍の超音波ガイド下穿刺吸引細胞診

著者: 中井茂 ,   久育男 ,   沢井清司

ページ範囲:P.1511 - P.1514

 甲状腺腫瘍の質的診断には低侵襲な穿刺吸引細胞診(FNA)が適している.安全,簡便に,繰り返し施行できる特徴を生かし,治療方針の決定に積極的に利用している.FNAを超音波ガイド下に行えば以下の点で有利である.①針先を確実に目的部位へ誘導できる.②頸部大血管の誤穿刺を避けることができる.③触診で捉えられない小病変の穿刺が可能.④病変の任意の部分から細胞採取が可能となる.
 良・悪性に関して正診率は90%以上とされるが,的確な穿刺部位の選択や適切な標本作製,病理医,スクリーナーへの臨床情報の提供が不可欠である.

甲状腺・副甲状腺病変に対する経皮的エタノール注入療法

著者: 吉田明

ページ範囲:P.1515 - P.1519

 甲状腺,副甲状腺病変におけるPEIT(percutaneous ethanol injection therapy)は,これらの臓器が体表近くに存在し,比較的容易に穿刺が可能であることから,ほとんどすべての病変に行われている.この内,PEITが最も効果的と考えられるのは甲状腺嚢胞であり,治療の一次選択と言っても過言ではない.また機能性甲状腺結節に対してもPEITは非常に効果的である.しかし,他の疾患では程度の差こそあるが,既存の治療法に比べ効果が不確実な所があり,現段階では試験的な治療法としての域を脱してはいない.したがって,その適応を決める場合は既存の治療法との十分な比較,検討が必要である.副作用として注意すべきものは反回神経麻痺であるが,幸いにして一過性であることが多い.最近では各疾患でカラードプラを併用し,血流の見られる周囲に少量のエタノールを注入し,より効果的な治療が可能となってきている.

局所進行乳癌に対する超音波誘導下化学療法

著者: 植野映

ページ範囲:P.1521 - P.1524

 局所進行乳癌の1つの治療法として超音波誘導下動注療法を開発した.超音波誘導下に鎖骨下動脈内へ23Gの側壁単孔針を挿入し,adriamycinと5-Fuを動注し,cyclophosphamideを経口投与する治療法である.この治療法では90%の奏効率があり,30%に組織学的な完全寛解をみた.この治療法の手技について詳細に解説した.

Mammotome®による乳腺生検

著者: 渡辺良二 ,   難波清

ページ範囲:P.1525 - P.1531

 Mammotome®(Ethicon Biopsis社)(以下,MMT)は1993年乳房生検専用に米国で開発された回転式吸引下生検器具である.欧米ではすでに多数の施設で多数の症例に施行されていて,その安全性と確実性は高く評価されているが,わが国では1998年11月末に臨床使用が承認されたばかりである.小さな侵襲で迅速,簡便に質量ともにしっかりした検体が採取できるため,病理組織診断が確実に行えることが特徴である.本稿では超音波とステレオガイド下におけるMammotome®の手順と工夫,ならびに,わが国の状況を勘案し検討した当院でのMammotome®の適応についても紹介した.

心嚢穿刺・心嚢液ドレナージ

著者: 木村民蔵 ,   前原正明

ページ範囲:P.1533 - P.1535

 心嚢液貯留の診断に心エコーは有用な検査である.心エコーガイド下でより安全,確実に心嚢穿刺を行うことができる.まず胸骨左縁からのアプローチで心嚢液貯留の程度を診断する.心タンポナーデ状態の解除のための心嚢液ドレナージの必要性,または悪性腫瘍などの確定診断のために心嚢液採取の必要性があると判断したら心嚢穿刺を実施する.心窩部から心エコーをあて穿刺の方向を定める.剣状突起と左肋骨弓の交点(Larrey点)と周囲を麻酔した後に穿刺を行い,エコーガイド下に心嚢内に穿刺針を進める.心嚢ドレナージを行う場合はガイドワイヤーを通してピッグテールカテーテルを留置する.心嚢穿刺後は血行動態の変化,出血,感染などに注意する.

胸腔穿刺・胸腔ドレナージ

著者: 近藤和也 ,   門田康正

ページ範囲:P.1537 - P.1540

 少量の胸水の診断には超音波エコー検査や胸部CT検査が必要となる.超音波ガイド下の胸腔穿刺は安全で簡便な手技である.胸水の貯留が多い時は問題ないが,少量の時は前腋窩線から後腋窩線の範囲で肋間からエコー検査を施行し,まず肝臓の実質を確認する.肝臓の頭側の低エコー領域が胸水で肺実質は砂嵐様のエコー像を示す.左の場合はエコーで脾臓の実質を確認し,同様の操作を行う.胸水貯留が多い時は治療目的にて胸腔ドレナージを施行する.1日排液量は1,000ml以下とする.特に,胸腔と肺に一部癒着があり,胸水の貯留が限局している場合,エコー検査にて胸水貯留の範囲を確認することで安全にドレナージすることができる.

腹腔穿刺・腹腔内膿瘍ドレナージ

著者: 金井歳雄 ,   高林司 ,   中川基人 ,   才川義朗 ,   川野幸夫 ,   坂田道生 ,   関みな子 ,   杉浦功一 ,   清水雄介

ページ範囲:P.1541 - P.1546

 限局的腹腔内膿瘍や液体貯留は経皮的な超音波ガイド下ドレナージが有効である.CTや超音波検査で穿刺部位,アプローチなど穿刺のイメージを固めてから,19Gエラスター針で超音波画像を見ながら穿刺する.この時,皮膚での抵抗をゼロにすることが針の直進性のために重要である.さらに,硬い“針金ガイドワイヤー(ハナコ)”を用いると,次に行うダイレーターによる拡張,8Fピッグテールカテーテルの留置操作が行いやすい.超音波ガイド下の経皮的腹腔内膿瘍ドレナージは安全,低侵襲で,非常に有効な方法である.腸腰筋膿瘍症例もこの方法でドレナージできる.

経皮的腎瘻造設術—水腎症の穿刺とドレナージ

著者: 勝岡洋治 ,   木下昌重

ページ範囲:P.1547 - P.1550

 経皮的腎瘻造設術は経皮的腎切石術(PNL),経皮的腎盂尿管移行部狭窄手術などにおける内視鏡手術操作のルート確保として重要である.本稿では,尿路変向を余儀なくされた場合の緊急処置として行われる経皮的腎瘻造設術を解説する.穿刺は超音波監視下が一般的であるが,腎杯の同定が困難なこともあり,さらに細部に達すると盲目的操作となる点が多く,X線透視の併用が必要となる.本法の要点は,1)目的の腎杯に正しく穿刺すること,2)一度確保したルートを失わないこと,3)各段階で手技を確実に行うことである.些細なトラブルでも腎瘻造設は困難となり,さらに重大な合併症を引き起こす可能性があることを常に念頭におかなければならない.

肝腫瘍の超音波血流画像下穿刺術

著者: 工藤正俊

ページ範囲:P.1551 - P.1555

 肝腫瘍に対する超音波血流画像下穿刺術には大きく分けて動注造影エコー下の穿刺,カラードプラガイド下の穿刺,静注造影エコー下の穿刺の3種類がある.CO2動注造影エコー下穿刺は精密かつコントラスト分解能がきわめて優れているものの,侵襲性が高い.カラードプラ下の穿刺は手軽ではあるが,感度の点とリアルタイム性に問題がある.したがって,最近の流れとしては静注造影剤を用いる穿刺術が今後普及してゆくものと考えられる.特に静注造影剤にハーモニックモードを備えた最新の装置を併用することにより得られるリアルタイムで,かつグレイスケールモードのハーモニックイメージはほぼCO2動注USに匹敵する空間分解能,時間分解能,濃度分解能が得られるようになってきたため,最終的にはこの手法が肝細胞癌の診断・治療戦略を大きく変えうる手段として臨床に定着して行くものと期待されている.

肝腫瘍に対する経皮的超音波ガイド下マイクロ波凝固療法

著者: 広田昌彦 ,   別府透 ,   島田信也 ,   小川道雄

ページ範囲:P.1557 - P.1560

 肝腫瘍に対する経皮的超音波ガイド下マイクロ波凝固療法(PMCT)の概略,および,その適応拡大のための工夫について述べた.胸水貯留法は円蓋部肝腫瘍のPMCTを安全,かつ確実に施行するために有用である.胆管クーリング法は主幹グリソン鞘に接して存在する肝腫瘍のPMCTにおいて胆管損傷の予防に有用である.マイクロ波凝固療法は小肝腫瘍に対しては肝切除にほぼ匹敵する局所コントロール能を有していることから,PMCTは小肝腫瘍の治療法として今後ますます普及するものと考える.

経皮経肝胆道ドレナージ

著者: 天野穂高 ,   高田忠敬 ,   安田秀喜 ,   吉田雅博

ページ範囲:P.1561 - P.1566

 経皮経肝胆道ドレナージ(PTCD)は,閉塞性黄疸の診断・治療に不可欠な手技の1つである.最近では術前の一時的な減黄術としてよりも,PTCD経路を用いた各種の胆道ステントの留置や胆道鏡の挿入,また腔内照射などに応用されることが多い.PTCDの方法は超音波ガイド法が一般的となり,より安全に施行できるようになった.一方,胆道内出血やPTCDチューブ逸脱などの合併症の可能性は依然としてあり,またチューブの留置部位が不適切なPTCDによりその後の治療が困難となる場合もある.PTCDについて精通することが重要であるが,PTCDの手技の実際と留意点,また合併症の対策について述べた.

急性胆嚢炎に対する経皮経肝胆嚢ドレナージ

著者: 吉田孝司 ,   中島正暢 ,   正木忠彦 ,   森俊幸 ,   杉山政則 ,   跡見裕

ページ範囲:P.1567 - P.1570

 急性胆嚢炎に対する非観血的ドレナージ術としての経皮経肝胆嚢ドレナージ術(PTGBD)は超音波ガイド下で施行され,胆道内圧の上昇をきたさず比較的安全に施行できる.また現在,胆嚢疾患に対する標準術式としてlaparoscopic cholecystectomy(Lap-C)が定着しつつある.急性胆嚢炎に対してのLap-Cの施行時期についてはまだ議論があるが,発症早期にPTGBDを積極的に挿入することの利点は少なくないと考える.ドレナージをより安全に施行するには,術前後の十分な管理と手技の習熟が必要とされ,また術中,術後の合併症に対し適切な対応が要求される.

EUSガイド下消化管穿刺

著者: 神津照雄 ,   菱川悦男 ,   鈴木康夫 ,   中尾圭太郎 ,   宮崎信一 ,   落合武徳

ページ範囲:P.1571 - P.1574

 現在では目的病巣のEUSガイド下の穿刺吸引細胞診断は容易になったが,この領域に求められるのは治療の分野である.その分野としてはすでに,①膵仮性嚢胞の吸引,②難治性腹痛に対する腹腔神経叢へのブロックが確立されている.今後の展開として,③転移リンパ節に対する高周波ラジオ波によるablation,④体表超音波穿刺が普及したようにリンパ節に対する制癌剤を含めたエタノール局注など種々の薬剤の局注の展開が期待される.そのためには血管を避け,確実に目的病巣に穿刺できる技術習得が不可欠である.本稿では消化管疾患における機器の開発過程および実際の手技について解説した.

膵疾患に対するEUS下穿刺

著者: 中澤三郎 ,   高島東伸 ,   服部外志之 ,   乾和郎 ,   芳野純治

ページ範囲:P.1575 - P.1578

 近年,欧米を中心にEUS下穿刺細胞診(EUS-FNA)が注目されている.リンパ節転移の有無により治療法が大きく変わる欧米では特に有用とされている.また,膵癌や慢性膵炎に対する疼痛対策として腹腔神経ブロックをEUS下に行うことも試みられている.さらにこの手技を応用してEUS下膵嚢胞ドレナージ術もさかんに行われている.EUS下穿刺は病変までの穿刺ルートを確認して行えば安全に行うことができる.本邦においても少しずつ広まってきているが,適応を十分に考慮して行っていくことが望まれる.

カラーグラフ 食道癌の内視鏡下手術・1

腹腔鏡下胃管作製術

著者: 小澤壯治 ,   安藤暢敏 ,   大上正裕 ,   北川雄光 ,   北島政樹

ページ範囲:P.1497 - P.1501

はじめに
 食道癌の低侵襲手術は胸部食道癌に対する胸腔鏡下食道切除から試みられた.1993年にGossotら1)が胸腔鏡下手術は施行可能であることを報告したが,その後1995年に彼らはprospective studyを行い開胸手術に比べて利点がないと否定的な結論を出した2).一方,Akaishiら3)はリンパ節郭清が開胸術と同程度に施行可能であり,開胸術に比べて術後呼吸機能の回復が早く,術後疼痛も軽度であると報告した.しかし,術後早期の肺活量低下が開胸術と同様に認められる点が問題であり,何らかの対策が必要と考えられていた.
 Ochiaiら4)は食道癌術後の呼吸機能は胸式呼吸から腹式呼吸へすみやかに移行するほどその回復が早いと報告した.すでにJagotら5)は閉塞性肺疾患を併存した患者に腹腔鏡下胃授動術を行い,開胸術や非開胸食道抜去術と組み合わせて,リスク患者におけるその有用性を報告していた.

目で見る外科標準術式・12

噴門側胃切除空腸パウチ再建

著者: 生越喬二 ,   中村健司

ページ範囲:P.1579 - P.1585

はじめに
 従来,上部胃癌においては進行癌のみならず早期胃癌に対してもリンパ節郭清の完全性や手術手技上の容易さから,一般的には胃全摘術が広く行われてきた.しかし,近年,癌患者のQOLが注目されるようになり,外科手術も臓器温存,術後障害の少ない再建術式を採用する方向へと変化する時代となってきた.筆者らは以前から上部胃癌に対して,術後の栄養面やQOLの面から噴門側胃切除術を施行してきた1).再建術式としては食物が十二指腸を通過するいわゆる生理的な経路と,食物の排出を良好に保つためにダブルトラクト法を施行してきた2).さらに数年前から術後患者の小胃症状の改善を目的として,ダブルトラクト法に空腸嚢を応用した空腸嚢形成ダブルトラクト再建法(jejunal pouch double tract:以下,JPD)を施行してきた.本稿では噴門側胃切除術後のJPD再建につき紹介する.

外科医に必要な眼科common diseaseの知識・6

ぶどう膜炎

著者: 岩田光浩

ページ範囲:P.1586 - P.1588

はじめに
 ぶどう膜は虹彩・毛様体・脈絡膜で構成される血管と色素に富む組織である.ぶどう膜炎は本来ぶどう膜組織の炎症性病変であるが,最近はぶどう膜とその隣接組織(水晶体・硝子体・網膜など)の炎症をも含む眼内炎症として臨床的に理解される.疾患によっては炎症の場が異なり,虹彩・毛様体といった前部ぶどう膜に発症するもの,脈絡膜・網膜といった後部ぶどう膜(眼底)に病変を生じるもの,そして,すべてのぶどう膜組織に病変が広がるものなどがある.ぶどう膜炎の病因は多岐にわたり,また,多種の全身疾患と関連して発症する.

外科医に必要な脳神経外科common diseaseの知識・5

三叉神経痛,顔面けいれん

著者: 松本健五

ページ範囲:P.1590 - P.1592

疾患の概念
 三叉神経痛,顔面けいれんはともに三叉神経,顔面神経が脳幹から出て数mm以内のところ,すなわちroot entry zone(根侵入部,運動神経の場合はroot exit zone:REZ)で血管などにより圧迫されることで痛み,けいれんが生ずる症候群である.その部では中枢ミエリンが末梢ミエリンに移行する部位で,機械的圧迫に弱い部分であり,容易に脱髄が起こって隣接した軸索との接触をもたらす.REZでは軸索はシュワン細胞に被包されていない.圧迫の原因のほとんどは動脈硬化性変化を伴った屈曲,蛇行した脳血管である.圧迫の原因となる責任血管は三叉神経痛の場合上小脳動脈が最も多く,顔面けいれんの場合前下小脳動脈,後下小脳動脈,椎骨動脈があげられる.血管以外の原因として稀に腫瘍,脳動静脈奇形があげられる.三叉神経痛(trigeminal neuralgia:TN)は数秒間続く発作性の乱刺痛で,しばしば感覚刺激により誘発され,顔面の一側の三叉神経の1枝領域またはそれ以上の分枝領域に限局し,神経学的障害を伴わない.また顔面けいれんは一側のみの顔面神経による神経支配を受ける筋肉の間歇性,無痛性,不随意性,攣縮性収縮状態である.本症は眼輪筋の収縮で始まり,徐々に顔面の半側すべてに広がり,頻度が増加して患側の開眼が困難となる.両者とも発作性,反復性,不随意的な神経刺激症状を病態とする類似疾患である.

臨床外科交見室

「急性腹症」補遺

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.1593 - P.1593

 急性腹症(acute abdomen)という用語は,従来言われてきたようにイギリスのZachary Cope(「Cope's Early Diagnosis of theAcute Abdomen」という名著を著している)ではなくて,同じ英国のHenry Battleが1906年にLancet誌に発表した[The AcuteAbdomen]という論文において初めて用いた言葉であることが,獨協医科大学越谷病院小児外科の川満富裕氏の研究で明らかになった(「臨床外科」第51巻6号,780-781頁,1996年を参照).そして,この中でその日本語訳である「急性腹症」は,第二次世界大戦後になってようやく文献上に現れてきたものであると考証している.ところが,最近筆者は別の目的で明治期の中外医事新報(日本医史学会の準機関誌的なもの)を調査中,「急性腹症」という用語に関して興味ある記事に遭遇したのである.中外医事新報は「中外新説」と題した項目を設け,国の内外で発表された新しい医学を読者に紹介しているが,その他にも多くの海外文献抄録を掲載している.この中外医事新報の明治39(1906)年11月20号(第640号:1574-1575頁)誌上に,「急性腹症」という用語がみられるのである.

病院めぐり

市立室蘭総合病院外科

著者: 渋谷均

ページ範囲:P.1594 - P.1594

 鉄の街室蘭市は鉄鋼業界不況の煽りを受け,昭利40年代の全盛期には18万人いた人口が現在では10万5千人ほどに減少しております.しかし,この人口減も市,企業努力により底打ちとなっており,人口減に歯止めがかかっている状況です.平成10年度には市民の長い間の夢であった自鳥大橋が完成したことにより市内から函館方面への交通の便が非常によくなり,また多くの観光客を呼んでいます.またスポーツではサッカーが非常に盛んで,サッカー競技場が完備されており,来年1部復帰がほぼ確実なコンサドーレ札幌の試合が年に数試合組まれております.
 さて,私たちが勤務する市立室蘭総合病院は明治時代に設立されて以来,120年余りの伝統をもつ市の中核病院の一つで,平成10年に脳外,心臓血管外科,形成外科を新たに加え全18科の総合病院として新しく新築移転しました.病床数は586床,医師数68名で診療にあたっております.来年度からは臨床研修指定病院の認定を受けることになり,研修医が10名ほど増えることが予測されます.当病院の医師構成は札幌医大の同門がほとんどで,眼科,麻酔科以外は札幌医大各医局の関連施設となっており,ミニ札幌医大ということができます.そのため各科の連携は非常に親密で,仕事がしやすい環境にあります.

三井記念病院外科

著者: 平田泰

ページ範囲:P.1595 - P.1595

 当院は,電器とパソコンの街として知られる秋葉原にほど近く,JRの秋葉原駅から徒歩5分と利便の良いところに立地しております.創立は明治39年にさかのぼり,全焼した東京帝国大学第二医院跡地に建てられた三井慈善病院から,泉橋慈善病院,三井厚生病院を経て現在の社会福祉法人三井記念病院に至っております.総病床数は482床で,うち外科の病床は平均して約130床程度になります.手術は年間約1,500件を数えます.
 私ども三井記念病院外科の特色は,何といってもそのレジデントシステムにあります.毎年全国から公募採用する4名の新卒者に4年間の一貫した研修を行っており,総勢16名のレジデントが消化器・乳腺内分泌・一般外科を中心に循環器・呼吸器・麻酔・救急などをローテートし,病棟では主治医として自主性を尊重されるとともに責任をもって外科の修練に励んでおります.すでに卒業生は100名を越え,日本全国で地域医療の最前線,総合病院勤務,大学教授などさまざまな進路に活躍中です.レジデント応募倍率は例年4倍を上回り,夏休みなどには下見を兼ねて多数の学生が見学実習に訪れます.さらに近年になってよりいっそうのスペシャリティが求められるため,各科が独自に専門レジデントを全国より公募しておりますが,外科レジデント卒業生も多く志望しております.現在専門レジデントは11名を数え,研修期間は2年程度となっています.

麻酔の基本戦略・4

硬膜外麻酔(1)

著者: 稲田英一

ページ範囲:P.1599 - P.1603

目標
 1.硬膜外麻酔の適応について理解する.
 2.硬膜外麻酔の禁忌について理解する.
 3.硬膜外麻酔で使用する器具について理解する.
 4.硬膜外麻酔のやり方を理解する.
 5.硬膜外腔穿刺困難やカテーテルが進まないときの対処法を理解する.

特別寄稿

南極レポート:臨床外科医の見た越冬隊医療とその特徴

著者: 大野義一朗 ,   宮田敬博

ページ範囲:P.1605 - P.1610

はじめに
 南極の昭和基地では現在39回目の越冬が運営されている.
 南極での越冬は探検の時代や南極自体の調査の時代は過ぎ,現在は南極の特殊事情を活かして地球全体の環境モニタリングや,地球・太陽系の研究をするものとなり,貴重な研究成果をあげている.

臨床研究

パミドロネート急速投与(1mg/分)の安全性

著者: 尾浦正二 ,   内藤泰顯

ページ範囲:P.1611 - P.1613

はじめに
 ピロリン酸の構造類似物質であるビスホスホネート1)は破骨細胞による骨吸収を抑制することで骨粗鬆症や骨転移に対して効果を発揮する薬剤である.
 ビスホスホネートには経口剤と注射剤が存在し,経口剤は主として骨粗鬆症などの良性骨吸収亢進疾患に用いられ,吸収効率が薬剤のいかんを問わず1%程度と非常に低率である点と消化性潰瘍の発生が問題とされている2).注射剤では経口剤で危惧される吸収効率の劣悪さや消化性潰瘍の発生は問題とならないが,急速大量投与を行った際の腎機能障害3)や低カルシウム血症の発現が危惧されている.

臨床報告・1

早期診断で治療しえた特発性食道破裂の1例—特に画像診断と術式の選択を加えて

著者: 深田民人 ,   牧原一彦 ,   玉井伸幸 ,   吹野俊介 ,   林英一 ,   岡田耕一郎 ,   仙田哲朗

ページ範囲:P.1615 - P.1620

はじめに
 特発性食道破裂はBoerhaave症候群1)とも呼ばれ,飲酒後の嘔気,嘔吐などの食道内圧の急激な上昇を契機として正常食道全層が破裂する疾患である2).本症は比較的稀な疾患であるため,診断が遅れ重篤な事態に至るケースが多い2).最近筆者らは発症後早期に胸部単純X線(以下,胸部X線)およびCT検査で本症と診断し,手術で短期間に治癒させた特発性食道破裂の1例を経験した.そこで今回,術前の画像診断と術式の選択について文献的考察を加えて検討したので報告する.

CTにて診断しえた魚骨の横行結腸穿通による腹腔内腫瘤の1例

著者: 小林広典 ,   杉原重哲 ,   生田義明 ,   金子隆幸 ,   江上哲弘

ページ範囲:P.1621 - P.1623

はじめに
 誤嚥された魚骨のほとんどは消化管を損傷することなく自然排出されるが,稀に穿孔・穿通を起こし,腹腔内膿瘍や慢性炎症性肉芽腫を形成することがある1〜8).しかもたとえ損傷を起こしても特異的な症状もなく,その多くは術前に診断できずに緊急手術となることが多い.最近,腹部CT検査にて確認できた魚骨による消化管穿通の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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「臨床外科」第55巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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