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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科55巻2号

2000年02月発行

雑誌目次

特集 イレウス診療のupdate

イレウスの病態—最近の知見

著者: 恩田昌彦 ,   高崎秀明 ,   田中宣威

ページ範囲:P.145 - P.150

 イレウスでは腸管内へのガス,液体の貯留,体外への喪失をきたし,高度の脱水症状からhypovolemiaを起こし,呼吸機能,心機能,腎機能障害を引き起こす.細菌の異常増殖,細菌叢の変化,エンドトキシンの産生がBT(bacterial translocation)を惹起し,敗血症,エンドトキシン血症からいわゆるイレウスショックとなり,MOF,DICへと進展する.絞扼性イレウスでは静脈圧の上昇によりendothelin−1が放出され,全身の臓器不全の発現に関与している可能性がある.イレウスの病態にVIPなどの関与も明らかにされ,新たな治療法の可能性が出てきた.

診断

イレウス初期診療における腹部所見と一般臨床検査所見

著者: 村田陽子 ,   浜副隆一 ,   村田裕彦

ページ範囲:P.151 - P.155

 イレウスの診断・治療において臨床的に最も大切なのは,緊急手術が必要な複雑性イレウスを早期にかつ適切に鑑別することである.そのためにはイレウスの病態をよく理解した上で,診断学の基本である問診,腹部身体所見,さらに一般臨床検査所見から十分な情報を得るように努めることが重要であることを強調した.

イレウス診断における腹部エコーの有用性と限界

著者: 山下裕一 ,   上川秀樹 ,   馬場美樹 ,   白日高歩

ページ範囲:P.157 - P.161

 従来,イレウスの画像診断は主に腹部X線撮影検査やイレウス管を用いた消化管造影検査によりなされてきた.現在ではさらにCTや超音波を加え多角的に診断を行い,より正確で治療に直結した診断がなされている.本稿ではイレウスの分類に合わせ,おのおのの基本的な超音波像を呈示し,超音波の特性から見た限界についても述べる.臨床的には過去2年間の腹部超音波検査12,651例中に157例(1.6%)のイレウス症例を経験し,71例(35.9%)に超音波上診断可能であった.この結果は超音波検査のイレウスの現実的な診断率を示しており,超音波の位置付けを考慮すると決して低いものとは言えず,その有用性と限界を示す数字と言えた.

イレウスのCT診断

著者: 磯本浩晴 ,   林克実 ,   貝原淳 ,   松本敦 ,   荒木靖三 ,   淡河喜雄

ページ範囲:P.163 - P.168

 イレウスは日常診療下でよく遭遇する疾患の1つである.近年の画像診断法(CT,US,MRI)の進歩によりイレウスの診断における画像診断が重要な地位を占めるようになってきている.とりわけCT検査法は再現性,客観性に優れ,イレウスの原因検索に不可欠な方法になっている.イレウスの診断においては初期診断が重要であり,しかも絞扼性イレウスを見逃さないことが肝要である.そのためには腸管壁の状態,腸間膜のうっ血や出血,あるいは腸管係蹄の遠位と近位側が閉塞して生じるclosed loop obstructionの所見,腹腔内貯留物などの重要な所見を丹念に読影することが大切である.本稿ではこれらの所見を自験例を交えて考察した.

イレウスの診断はMRIでどこまでできるか

著者: 正木忠彦 ,   松岡弘芳 ,   杉山政則 ,   高原太郎 ,   跡見裕

ページ範囲:P.169 - P.177

 息止めスキャンが可能な高速spin echo(SE)法(HASTEなど)の出現により,消化管の蠕動運動をフリーズした状態で腸管の内腔(腸液)を画像化できるようになり,消化管がMRI検査の対象になるようになった.イレウスにおける閉塞部位とその原因の診断にMRIがCT scanに取って代わろうとしているといっても過言ではない.冠状断面画像はsurgical viewそのものであり,外科医にとって腸管の走行が容易に把握できるメリットは何物にも代えがたいものがある.さらに後処理として最大値投影(MIP:maximum intensity projection)を行えば小腸全体の立体走行の把握がきわめて容易となる.閉塞部位をpin pointに指摘できるものとして高原らが報告している残渣サインの有用性についても述べる.

イレウスが絞扼性かどうかの診断

著者: 冲永功太 ,   安達実樹 ,   坂川公一

ページ範囲:P.179 - P.183

 絞扼性イレウスの診断は臨床所見,血液検査所見,超音波検査,およびCT検査所見を総合して判断されるが,決め手となる診断法はない.特に腸管の壊死に陥る前の早期診断は困難であるが,腹膜刺激症状,血液検査でacidosis,超音波検査で腹水貯留,腸管内容の移動性の変化,腸間膜の変化など,またCT検査で腹水,腸間膜の変化,腸管壁の変化など,各検査で少しでも疑わせる所見がある場合には,積極的な治療の開始が重要である.

治療

イレウスの治療における全身管理の要点

著者: 市倉隆 ,   望月英隆

ページ範囲:P.185 - P.188

 イレウスの全身管理で重要な点は絞扼の有無や重症度,手術適応を的確に判断し,体液の消化管内への大量喪失および経口摂取不能状態に対し水,電解質,酸塩基平衡,栄養の管理を行い,腸管の拡張,虚血に伴う粘膜バリア破綻によるbacterial translocationや腸管穿孔から全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS),さらには多臓器機能障害症候群(multipleorgan dysfunction syndrome:MODS)への移行を防止することである.まず適切な輸液を早急に開始して脱水および電解質・酸塩基平衡異常を補正し,広域スペクトル抗生剤投与を行う.SepticshockやSIRSを呈すればカテコールアミン,蛋白分解酵素阻害薬,副腎皮質ステロイドなど薬物療法によりショック治療と臓器障害対策を行う.重症例では血液浄化療法やエンドトキシン吸着療法も考慮される.

イレウスの保存的治療と手術のタイミング

著者: 進藤勝久

ページ範囲:P.189 - P.192

 niveauがあれば開腹の適応と考えた時代から,緊急性がない限り保存的治療で乗り切ろうとするイレウス治療の時代へと変遷してきた.その反面では複雑性イレウスの質的診断にこだわるあまり,早期治療の時期を失して重篤な合併症を引き起こしている.手術のタイミングには刻々と変化するイレウスの状況をよく観察して,判断を誤らない実力が求められている.他方,単なる癒着性イレウスでは根気の良い積極的な加療が求められている.通常,そのような保存療法では発症4日目と積極的治療開始4日目に手術適応の判断をする.しかし,4週間以上も絶食にしていたり,保存療法が4回目になる場合には待機手術を行う.その保存的治療の要領は確実な初期治療と効果的な維持療法にある.

イレウスに対する手術術式の選択

著者: 高島茂樹 ,   上野桂一

ページ範囲:P.193 - P.198

 機械的イレウスの治療に際して,保存的治療の限界を見極め,手術のタイミングを逃さないことはもちろんであるが,いったん手術療法を選択した場合には適切な手術術式によって原因を確実に除去し,術後の再癒着による再発を防止することが大切である.イレウスの原因や病態は多彩で個々の症例に応じた術式を選択する必要があり,未だいくつかの点で議論がある.本稿では教室で経験した909例の解析から術式選択上の問題点,すなわち皮膚切開法と癒着剥離法,癒着完全剥離と限局的剥離の選択,単純性イレウスの原因による対応策,絞扼性イレウスにおける腸切除の適応と切除範囲,バイパス手術の功罪,腹腔鏡下手術に対する考え方,さらには再イレウス発症の防止策などを取り挙げ,私見を述べた.

癒着性イレウスに対する腹腔鏡下手術

著者: 山田成寿 ,   加納宣康

ページ範囲:P.199 - P.204

 腹腔鏡下手術は近年急速に普及し,適応も広がりをみせている.癒着性イレウスに対しても有益であるという報告が増加しているが,適応と限界についてのコンセンサスはいまだ得られていないのが現状である.癒着性イレウスに対する腹腔鏡下手術を成功させる条件として,第1に術前に十分に減圧が得られることが必要である.次に既往手術歴,臨床症状,画像診断所見を総合して責任病変がある程度推定されていることが重要である.また腸管壊死が予想される症例は腹腔鏡下手術の適応となりにくいと考えられる.腹腔鏡下手術手技を応用して低侵襲手術の実現を目指すが,必要とあれば適宜小切開を併置することをためらわない姿勢が重要である.

イレウスノート

イレウス管の挿入法

著者: 近藤泰理

ページ範囲:P.205 - P.208

 イレウス管挿入の前に患者と家族に標準的な治療方針を説明し,同意を得る.X線透視台上に患者を背臥位とし,イレウス管先端が胃内に挿入されたところでガイドワイヤーを進める.ガイドワイヤー先端を幽門輪から十二指腸下行脚にまで挿入する.イレウス管を十二指腸下行脚からトライツ靱帯を越えた上部空腸からできるだけ遠位側まで進める.幽門輪通過が困難な場合は内視鏡を併用する.バルーンを膨らませ,ガストログラフィン®を少量注入し,X線透視下にイレウス管の位置を確認する.閉塞部位でバルーンの先進が停止したら造影検査を行い,閉塞部を検索する.

経肛門的減圧術

著者: 炭山嘉伸 ,   斉田芳久 ,   長尾二郎

ページ範囲:P.209 - P.212

 経口的減圧術では効果がないとされる左側大腸癌イレウスに対しては従来二期的手術が選択されることが多かった.しかし最近では内視鏡技術やIVR機器の進歩とともに経肛門的減圧手技が登場し,普及してきている.本稿では経肛門的なアプローチである金属ステント挿入術(SECC)と経肛門的減圧チューブ挿入術の手技の実際と成績を紹介した.どちらも良好な挿入成功率(60〜100%)と良好な解除率(80〜100%)を可能にしており,今後患者のQOLの向上のためにより一層の普及が望まれる.

吸収性癒着防止シートの使用法

著者: 藤井正一 ,   小金井一隆 ,   福島恒男

ページ範囲:P.213 - P.217

 炎症性腸疾患および癒着性イレウスに対する術後の腹壁への癒着防止のために合成吸収性材(セプラフィルム®)の使用法を紹介した.同材はヒアルロン酸ナトリウムとカルボキシメチルセルロースから合成された薄いフィルム状で,術後約7日間適応部位に貯留して腹腔内臓器の腹壁への癒着を防止し,28日以内に吸収,対外へ排出される.使用上のポイントは,強い組織付着力を有し,非常に薄く,破れやすいことから,1)術野の余分な水分を取り除き,手袋,器具をできるだけ乾燥した状態で使用すること,2)閉腹直前に使用すること,3)フィルムの角をホルダーごと切り,挿入時には助手に確実に腹壁を挙上させ,予定外の部位に付着させないことなどが挙げられる.

T式シートを用いた癒着性イレウス根治術

著者: 田中豊治 ,   吉野肇一 ,   白京訓

ページ範囲:P.219 - P.223

はじめに
 癒着性イレウスに対しては古くから種々の手術術式が考案,工夫,施行されてきたが,術後発現する重篤な合併症やイレウス再発などにより今日まで広く繁用されてきた術式は少ない1〜3)
 筆者らは手術操作によって損傷または欠損した壁側または臓側腹膜の創傷部が治癒する問,癒着,剥離した全小腸をシリコンラバー性薄膜シート(以下,T式シート)で物理的に被覆,隔離し,腹腔内損傷,欠損部の創傷治癒を待って,T式シートを腹腔内から抜去して腸管の再癒着を防止する術式を考案した.基礎的検討の後,実地臨床に応用し,良好な成績を収めているので,本稿では癒着イレウス根治術における本法の有用性とその手技について述べる.

術中腸管viabilityの判断

著者: 高松督 ,   五関謹秀 ,   岩井武尚

ページ範囲:P.225 - P.226

 絞扼性イレウスの手術では絞扼解除後にviabilityがない腸管は切除が必要となるため,術中の判断が重要になる.臨床的には腸管の色調,腸間膜の拍動の触知,腸管蠕動の回復によりviabilityを判断している.これらの基準は主観的で,時として不正確であるため,fluorescein螢光法,Doppler法などのいくつかの補助的な評価方法が考案されてきた.これらの方法は臨床的な方法に比べてより正確に腸管のviabilityを評価しうるものの,まだそのaccuracyは満足できるものではなく,コストの問題や特殊な器械が必要であるなど実用的でない部分がかなりあるのが現状である.今後,これらの問題が解決された評価方法が開発されることが望まれる.

放射線照射後イレウスの特殊性

著者: 伊藤正直 ,   小棚木均 ,   小山研二

ページ範囲:P.227 - P.229

 放射線腸炎によるイレウス手術は腸管切除・吻合に伴う合併症が通常のイレウス手術より高率なため術式決定に難渋する.腸切除かバイパスか?:腸切除を第1選択とし,バイパス術は腸管切除が不能な場合に限定する.切除範囲の決定:小腸切除量が少ない場合は不顕性の放射線障害を考慮し,肉眼的病変から十分距離をとり腸切除するが,小腸大量切除の場合は切離線の病変の有無を術中迅速診断で判定して腸切除量の減少をはかる.吻合かストマか?:一期的吻合が第1選択だが,肉眼的病変部で切除せざるをえない症例,栄養不良などリスクのある症例ではストマを選択する.ストマ造設部位:被照射野を避ける.術後フォローアップ:放射線誘発大腸癌に注意する.

カラーグラフ 消化器の機能温存・再建手術・18【最終回】

潰瘍性大腸炎,家族性大腸ポリポーシスに対するW型回腸嚢肛門吻合術

著者: 畠山勝義

ページ範囲:P.137 - P.143

はじめに
 潰瘍性大腸炎や家族性大腸ポリポーシスは基本的には大腸粘膜の病変であるので,大腸粘膜が完全に切除されることによってその根活性が得られることになる.この根治性が得られることと,永久回腸人工肛門造設の回避を目的とし,ストレート型の回腸肛門吻合術が発表された1)(この時はanal ileostomyと表現されている)が,術後の排便回数が多く,夜間の排便の必要性も多かったので,その後あまり省みられなかった.しかしながら,回腸の末端で便貯留能を持った嚢を作製することにより排便機能が改善することが認識され,いろいろなタイプの回腸嚢が発表されている2〜6).筆者らの施設ではこの中でもW型回腸嚢を作製しての回腸嚢肛門吻合術を主に行ってきたので,その術式をカラーグラフや図を用いて解説したい.
 施設によっては歯状線から近位側の1〜2cmの粘膜(いわゆるanal transitional zone)を残して吻合しているが,筆者らは疾患の根治性を重要視して歯状線より近位側の粘膜は完全切除する立場をとっているので,はじめに断っておきたい.

目で見る外科標準術式・2

左開胸開腹下部食道噴門切除・胸腔内胃管再建術

著者: 藤田博正 ,   末吉晋 ,   山名秀明 ,   白水和雄

ページ範囲:P.231 - P.240

はじめに
 胸部食道癌の標準手術は右開胸開腹食道亜全摘・胃管による食道再建術である.一方,①下部食道の表在癌で上縦隔転移の可能性が少ない症例,②下行大動脈,左肺,横隔膜などへの浸潤が予想される症例,③胃に浸潤する下部食道噴門癌あるいは胃壁内転移を有する症例,④小彎から左胃動脈や腹腔動脈の周囲にかけてリンパ節転移が一塊となっている症例では,左開胸開腹下部食道噴門切除・胸腔内食道胃管吻合術が適応となる場合がある.ここでは筆者らが行っている標準的な術式とともにその変法を紹介する.なお,この手術で郭清されるリンパ節を図1に示す1,2)

病院めぐり

国立埼玉病院外科

著者: 原彰男

ページ範囲:P.242 - P.242

 当院は埼玉県のもっとも南の和光市にあります.診療圏は広く,来院患者は隣接の朝霞市,新座市,志木市さらに東京都練馬区や板橋区にも及んでいます.和光市に病院はありますが,病院への最寄りの駅は東武東上線の成増駅で東京都板橋区です.病院の周囲には,理化学研究所,司法修習所,税務大学校,予備衛生研究所,本田技研技術研究所などがあり,公共の施設に囲まれています.病院の敷地は広く,裏手には,雑木林があり,今なを武蔵野の面影を残しています.
 当院の歴史は古く,1941年7月白子陸軍病院として開設されました.終戦とともに厚生省に移管され,1945年12月1日新たに国立埼玉病院として発足しました.随時医療整備が行われ,1967年3月に鉄筋コンクリート4階建の病棟と2階建ての外来管理棟が建設され,医療法430床の総合病院として現在に至っています.2004年より独立行政法人化への転換をふまえ,最近国立病院をめぐる環境は厳しいものがありますが,本院は地方循環器センターを併設することが決定されており着々と準備を進めているところです.

国立佐倉病院外科

著者: 坂本薫

ページ範囲:P.243 - P.243

 当院は,東京から特急で45分のJR佐倉駅から約5km,印旛沼を見下ろす高台にあります.佐倉市(人口約17万人)は千葉県西北部,北総台地のほぼ中央に位置し,江戸時代には佐倉藩藩医の佐藤泰然が開設した蘭方医学塾佐倉順天堂の名声により,「西の長崎,東の佐倉」と称された医学に関係の深い町です.その佐藤家3代目佐藤舜海(岡本道庵)も院長を務めたことのある当院は,1874年(明治7年)東京鎮台佐倉営所病院として創設され,125年の歴史を有します.創設以来長く旧佐倉城址(現国立歴史民俗博物館)にありましたが,1979年(昭和54年)同博物館の建設に伴い現在の地に移転し,今日に至っております.療養所時代の1974年(昭和49年)に国立病院・療養所における最初の腎移植を実施し,以来全国の腎不全(移植)対策の中核施設となっています.これまでに行った腎移植は192例で,国立病院・療養所の全症例数の50%を占めております.
 病床数200床のうち外科は常時50から60床を使用しており,腎移植をはじめとする腎不全患者の外科の他に,消化器を中心とした一般外科,肺外科などを専門としています.スタッフは肺外科を含めて7名,それに横山院長,柏原副院長が外来診療に当たっています.

メディカルエッセー 『航跡』・39

病院の安全危機管理(3)—コードブルー

著者: 木村健

ページ範囲:P.244 - P.245

 入院中の患者が,突然心肺機能に異常をきたして生命の危機に瀕することは珍しくない.事態発生後,心肺蘇生が適切かつすみやかに施行されれば,患者は一命をとりとめることが出来る.合同委員会は,入院中の患者の生命が運・不運によって左右されることのないよう万全の手だてを尽くすべしと規定している.
 病院を舞台にしたアメリカ映画やテレビドラマで,「コードブルー」という院内放送が流されるとインターンやナースたちが一斉に駆け出すシーンを目にされたことがあろう.病院によっては,「コードブルー」の代わりに「コード99」というコード(暗号名)を使うところもある.いずれも,「心肺停止をきたした患者が発生した」という暗号である.不特定多数の人々が出入りしている院内で,「○○病棟で心肺停止をきたした患者が発生しました」と直接的な表現で放送されると,患者にもビジターにも良い印象は与えない.そこで考え出されたのが,「コードブルー」という暗号である.米国ではすでに一般化しているので,知る人ぞ知るであるが,それでも「心肺停止」より聞こえがよい.「コードブルー」の発信者は事態発生に最初に直面したスタッフ.アイオワ大学病院では院内のそこここにある電話の911番をダイヤルすると,「コードブルー」の発信システムにつながる仕組みになっている.

外科医に必要な泌尿器科common diseaseの知識・7

尿路損傷(1)

著者: 早川正道

ページ範囲:P.248 - P.249

はじめに
 ひとくちに尿路損傷と言っても,腎,尿管,膀胱そして尿道の損傷はそれぞれ病因や病態も全く異なり,治療法も多岐にわたる.また尿路損傷は腹腔内臓器損傷と合併することがあり,臨床上注意を要する.外力の作用部位や受傷機転により損傷臓器やその損傷の程度がある程度推察できることがあり,診断の第一歩として患者を診察して状況を把握することが肝心である.血圧低下,肉眼的血尿や尿閉が重要な症状である.
 以下に実践的な知識をまとめる.

外科医に必要な整形外科common diseaseの知識・9

五十肩

著者: 岡村健司

ページ範囲:P.250 - P.252

はじめに
 「五十肩」は「ぎっくり腰」と同様,通俗的に使われている用語である.厳密には40〜50歳代の肩関節痛を主訴とする患者に対する症候群名であり,病態を表した疾患名ではない.また「五十肩」は肩関節周囲炎と同義として使われることが多いが,本来は腱板断裂,インピンジメント症候群,上腕二頭筋長頭筋腱鞘炎などと同様に肩関節周囲炎を構成する有痛性肩関節疾患のひとつであると言える(表).したがって,通常肩の痛みを主訴に来院した患者の最初の病名が肩関節周囲炎であっても,その後の経過や検査の結果によって診断名が腱板断裂やインピンジメント症候群に変更されることも多い.そして最終的に他の疾患が除外され,40〜50歳代の有痛性肩疾患について初めて五十肩と診断される.

臨床研究

幽門輪温存膵頭十二指腸切除術後の胃内容停滞に対する再建術式の工夫

著者: 松本伸二 ,   石光寿幸 ,   庄野正規 ,   宮崎亮 ,   眞栄城兼清 ,   池田靖洋

ページ範囲:P.253 - P.256

はじめに
 全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(以下,PpPD)は膵頭十二指腸切除術に比較して術後晩期のquality of lifeが良好なことから1,2),膵頭部領域疾患の標準術式になりつつある.しかし,術後早期に好発する胃内容停滞は経口摂取の遅れ,電解質異常,入院期間の延長をもたらす厄介な問題点の1つである3〜5)
 今回,術後早期における胃内容排出の促進を目的として従来の再建術式に新たな工夫を行い,術後管理に有用だったので報告する.

臨床報告・1

経皮的乳頭拡張術を用いて除石した総胆管結石症の2例

著者: 河内保之 ,   岡本春彦 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.257 - P.260

はじめに
 総胆管結石症に対する治療は内視鏡的処置の進歩や腹腔鏡下手術の導入により大きく変わりつつある.一方,経皮的乳頭拡張術(percutaneouspapillary balloon dilation:PPBD)よる総胆管結石の除石は1980年代に欧米で報告されていたが1,2),本邦では内視鏡的治療に押され,検索しえた限り2つの報告しかない3,4).今回,筆者らは総胆管結石症の治療としてPPBDによる除石が最も低侵襲であると考え,2例の高齢者総胆管結石症に対してPPBDによる除石を行い,良好な結果を得たので報告する.

胆嚢胃瘻に起因して胃壁に穿破した胆石の1例

著者: 児玉久光 ,   野宗義博 ,   高島郁博 ,   上野秀晃 ,   讃岐英子

ページ範囲:P.261 - P.263

はじめに
 胆嚢胃瘻は内胆汁瘻の中でも稀な疾患である1).今回筆者らは胆嚢炎の手術時に胃前庭部の壁内腫瘤を摘出したところ胆石と判明し,胆嚢胃瘻に起因して胃壁に穿破してとどまっていたものと考えられた症例を経験したので報告する.

腹腔鏡下手術中に認められた虫垂子宮内膜症の1例

著者: 宮本康二 ,   林田有市 ,   高木博 ,   松波和寿 ,   松居和美 ,   池田庸子

ページ範囲:P.265 - P.268

はじめに
 腸管子宮内膜症は比較的稀な疾患であるが1,2),今回,婦人科での腹腔鏡下手術中に偶然発見された無症状の虫垂腫瘤に対し,二期的に手術,切除を行い,病理組織検査で子宮内膜症と診断された症例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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