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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科55巻9号

2000年09月発行

雑誌目次

特集 外科医に求められる緩和医療プラクティス

外科医と緩和医療—何が求められているか

著者: 柳田邦男

ページ範囲:P.1079 - P.1082

低い緩和ケアへの関心度
 20歳代から30歳代はじめくらいの若手の医師に出会うと,私は時折,「がん患者の終末期医療に関心がありますか」と尋ねる.「末期患者のターミナルケアの経験はありますか」と聞くこともある.返答はだいたい決まっている.「いやあ,まだそんなことはできません」とか,「死が近い患者をみるなんて難しくてできませんよ」「緩和ケアの方法はまだ習ってませんから」といった言葉が返ってくるのである.
 その度に,私は不思議なような寂しいような思いにとらわれる.日本人でがんで死ぬ人は,1年間に30万人に近づこうとしている.緩和ケア病棟で最後の日々を送れる人は,ごくわずかである.大部分の人々は,一般病棟で死を迎える.がんが進行すれば,かなりの率で痛みやだるさ,嘔気,便秘,呼吸困難,不快感などの身体症状に加えて,不安,抑うつなどの精神症状に悩まされる.患者にしてみれば,手術や薬や放射線で懸命に治療にあたってくれた医師が,引き続きそうした苦痛や苦悩のケアをしてくれるものと期待する.だが現実には,医師は治療の時ほどには,患者に熱意を見せなくなる.それは,医師の年齢にはあまり関係がないようにみえる.まして若手の医師になると,どう対処してよいかわからないという傾向が強くなるのは当然だろう.

いのちは誰のもの—自然死と尊厳死と安楽死と慈悲殺と

著者: 星野一正

ページ範囲:P.1083 - P.1088

はじめに
 わが国では,国民の平均寿命が世界で最長になって久しく,1999年には100歳を越えた老人だけで11,346人と発表され,高齢者医療の向上と普及は急務である.
 わが国の医系大学における終末期医療を巡る医療並びに医療の倫理に関する医学教育の向上が強く求められる現状である1)
 正しい情報を提供することが教育研究上大切なことであるので,筆者は外国の法律や判例までも自分で翻訳して論文を発表し,原典に忠実な論文を書くことに努力してきている.最近原典によらない孫引きや思い込みで執筆してある書籍が氾濫しているので,原典主義を復活させたいものだと願っている.

ホスピス医が明かす緩和医療のコツ

著者: 小澤竹俊

ページ範囲:P.1147 - P.1152

 苦しみを和らげることが緩和医療の基本である.多くは疼痛コントロールで緩和可能であるが,死を前にした患者の苦しみには「答えのない問い」と称される苦しみが存在する.このような苦しみに対して科学的な答えの出し方では限界がある.このような苦しみを緩和する1つの方法は「人生の共感者・良き理解者」になることである.それは,医療者が患者を理解するのではなく,患者が理解されたと思える医療者になることである.そのためには,「聴くこと」が大切である.実際には,傍にいること,そして何か良いことをアドバイスしようとするのではなく,静かにその人の苦しみを聴くことである.聴くことを通して患者が苦しみの意味を見いだせたとき,今までにない笑顔と感謝の中で生きていくことを経験する.

緩和医療の実際 精神的ケア

緩和医療における精神療法

著者: 牛島定信

ページ範囲:P.1089 - P.1094

 まず,緩和医療における精神療法の目標は,患者の中に闘病精神を培うことであるとしたうえで,がんの経過の各期における精神療法のあり方を論じた.がん発見時の患者ないしは家族の情緒的混乱に対する支持のあり方,ことに心理教育的接近,また寛解期の集団療法が示した延命効果,さらにはがんをめぐる不安から生じる精神医学的問題の扱い方,さらには終末期の一種特有のがん患者の心理をどう理解しどう対応するかを考えた.そして最後に,がん患者の自我は酷く幼児化しているため,医療スタッフに及ぼす情緒的影響には看過できないものがあり,それに対する対応を考えておく必要のあることを説いた.最後に,将来は情緒的支持をめぐるシステム化の必要性述べた.

がんと心—サイコオンコロジー

著者: 保坂隆

ページ範囲:P.1095 - P.1099

 わが国のサイコオンコロジーの研究では,がん患者の30〜40%にはうつ病・適応障害などがみられることがわかり,がん患者の3人に1人にはメンタルケアが必要であると換言できる.また,告知率が20%台であるわが国の非告知の背景として,患者を落胆させたり希死念慮を生じさせたりするのを回避し,患者を守るためであると考えられてきたが,非告知のがん患者のほうが精神疾患合併率が高く,決して患者を守ってはないことがわかった.さらに,がん患者への集団介入は,患者同士で支援し合ったり情報交換を可能にさせるため,患者の情緒状態が改善することがわかってきた.このようなサイコオンコロジー的視点が,日常のがん診療の場で治療方針のなかに組み込まれていくことを期待する.

がん患者の精神症状—その診断と治療

著者: 明智龍男 ,   中野智仁 ,   内富庸介

ページ範囲:P.1101 - P.1105

 先行研究から,がん患者に頻度の高い精神症状は,せん妄と抑うつであることが示されている.せん妄は意識混濁にさまざまな精神症状を伴う特殊な意識障害であり,がんの進行に伴い頻度が高くなる.せん妄の診断に際しては,症状の日内変動や見当識障害の存在などが重要である.背景に存在する原因に対しての治療が原則であるが,治療困難な場合は,対症療法として抗精神病薬を主体とした薬物療法が行われる.
 抑うつは,軽度のものも含めると,がんの全臨床経過を通じて20〜40%程度の頻度で認められる.抑うつの治療は,支持的精神療法と薬物療法を組み合わせて行われるが,抗うつ薬の投与に際しては,患者の身体状態や各薬剤の有する特徴を十分踏まえたうえでのきめ細かい投与計画が必要である.

身体的ケア

セデーションの概念と実際

著者: 高宮有介

ページ範囲:P.1129 - P.1133

 緩和ケアの最新の知識を駆使しても緩和不可能な苦痛に対しては,セデーションが必要となる.ただし,セデーション適応の検討項目として,他に対応法がないか,死期が迫っている状態か,患者・家族へのインフォームドコンセントはどうか,チーム内の合意はどうかを吟味することは重要である.また,薬剤としてはミダゾラムやフェノバルビタールが使用されている.問題点として,精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛へのセデーションの是非,セデーション後の輸液やステロイドの継続投与をどうするかが挙げられる.信頼関係を築くなかで患者・家族の意思を尊重して決定していくことが望ましい.

呼吸困難対策

著者: 平泰彦

ページ範囲:P.1135 - P.1140

 呼吸困難は末期がん患者に耐えがたい苦痛を与える原因のなかで,痛みとともに代表的なものである.がん性疼痛対策においては多くの成果がみられ,実践されてきた.しかし,呼吸困難に対する理解と対策はいまだ十分とはいえない.これに対する具体的な処置と薬物療法について考える.
 近年,モルヒネが疼痛のみならず呼吸困難にも有用であることがわかってきた.呼吸困難対策にとって大きな助けとなる.

消化器症状対策

著者: 寺嶋吉保

ページ範囲:P.1141 - P.1146

 消化器症状は,多くの末期患者を苦しめる.これを完全に緩和することは困難であるが,正確な病状の共通理解のうえに身近な目標設定を行い確実に短時間で症状緩和を行う必要がある.急性期医療に慣れた外科医がホスピスの経験から学ぶべき点は,高カロリー輸液の中止,胃管の中止,ステロイド・オクトレオチド(サンドスタチン®)・抗精神薬などの薬剤の使用方法,持続静注から持続皮下注入への変更,コミュニケーション技法,患者家族と共同した治療目標の設定などであろう.緩和的手術は,保存的緩和ケアが十分提供された場合と比較検討して慎重に適応を決める必要がある.

疼痛対策

米国における癌性疼痛対策

著者: 橋口さおり ,   大西幸 ,   津崎晃一 ,   武田純三

ページ範囲:P.1107 - P.1111

 わが国における癌性疼痛対策は,WHO鎮痛ラダーの普及によって進歩したが,いまだに癌性疼痛=モルヒネとの短絡思考が根強く存在する.現在の米国では,単にモルヒネを投与するだけでなく,さまざまなオピオイドや投与システムが臨床的に試みられており,より副作用が少なく,有効性の高い方法が模索され続けている.このうち,わが国では臨床的に未経験のフェンタニルTTSやオキシコドン,埋め込み型薬物くも膜下投与システムについて紹介する.

どのような手段があるのか

著者: 佐伯茂 ,   小川節郎

ページ範囲:P.1113 - P.1120

 緩和医療においてわれわれペインクリニック科医が用いる鎮痛手段として,神経ブロック,WHO方式がん疼痛治療法,刺激による鎮痛法,漢方薬などが挙げられる.とくに主たる疼痛を神経ブロックで取り除き,残った痛みを神経ブロック以外のWHO方式などで対処することががん疼痛に対する基本的な治療方針と考えている.
 しかし,神経ブロックは何科の医師でも施行可能な治療方法というわけではなく,神経ブロックが適応とならない症例を経験することも多々ある.このような場合,WHO方式がん疼痛治療法が重要な鎮痛手段となる.
 本稿では,外科系の先生方に知っておいていただきたい癌疼痛管理に用いられる各種鎮痛手段の概要について解説した.

上手な薬の使い方とその評価法

著者: 平賀一陽 ,   五反田純

ページ範囲:P.1121 - P.1128

 鎮痛薬によって上手に痛みを治療するためには,①痛みが軽いうちに伝えてもらうと同時に,②痛みが止まる薬を選択し,③時間を決めて,④痛みが止まる量を,⑤痛みの原因と薬剤の正しい情報を与えて,⑥副作用対策を十分に行い,⑦薬が吸収される投与経路で投与し,⑧治療効果を評価し,⑨モルヒネの薬物動態の知識のもとに行う必要がある.痛みへの対策の知識の他に,痛みをもつ患者への対応,応対が必要になる.応対の心があれば痛みの強さ,部位,性状がわかる.それらへの対策の知識があれば,原因追及,治療手段がわかり,刻々変化する症状に対応することができる.対策の知識,対応の実践は応対の心があってはじめて生きる.

カラーグラフ 腹腔鏡下食道手術・3

TypeⅢ食道裂孔ヘルニアに対する腹腔鏡下手術

著者: 森俊幸 ,   下位洋史 ,   杉山政則 ,   跡見裕

ページ範囲:P.1071 - P.1077

食道裂孔ヘルニアの病型
 食道裂孔ヘルニアは,その解剖学的特徴により滑脱型(TypeⅠ),傍食道型(TypeⅡ),混合型(TypeⅢ)に分類される(図1)1).頻度としてはTypeIが最も多い.純粋なTypeⅡはまれであり,傍食道型ヘルニアの多くは滑脱型を合併する(TypeⅢ).いずれの型もヘルニアが軽度の場合には無症状のことも少なくないが,ヘルニアが高度になるに従って滑脱型ではGERD(gastro-esophagealreflux disease)の原因となり,傍食道型ではヘルニアの食道圧迫に起因する嚥下障害を認めるようになる.

Current Topics

医療機能評価の現状

著者: 星和夫

ページ範囲:P.1153 - P.1159

日本の病院医療の質
 1人の患者の疾病を診断・治療する知識や技術を意味する「医学」に関しては,わが国は欧米に比べて決して劣るものではないと考えられるが,患者を中心として実際の受診から入院,診断,治療,退院後のケアまでを通じた一連の過程を意味する広い意味の「医療」に関しては,残念ながら先進国に比べてアメニティなどの点でかなり劣るとされている.
 厚生省は戦後,戦火により壊滅した医療施設の復旧のため,「だれでも,どこでも,いつでも」を旗印に,国民皆保険の施行とともにひたすら医療施設や医療職種の増加に努めてきた.その結果,今やわが国の医療はaccessibility(かかりやすさ)の点では世界一と自負するようになったが,反面,医療施設のアメニティは劣悪,病床は過剰,医療費は高齢者の増加とともに高騰し,保険財政は破綻の危機に瀕している.

臨床外科交見室

米国でのSentinel Node BiopsyとProtocol

著者: 町淳二

ページ範囲:P.1160 - P.1161

 臨床外科55巻3号に特集された“Sentinel Node NavigationSurgery”を読み,日本におけるsentinel node biopsy(SNB)の現状を知ることができました.系統的リンパ節郭清や広範囲郭清を最先端に行ってきた日本において,リンパ節郭清の縮小につながるSNBの概念が研究され,すでに実地医療に導入されはじめているとのことで驚いてもいます.欧米におけるSNBの現況も紹介されていましたが,米国で外科を実践している立場から,乳癌における①SNBの手技,②standard surgery(標準術式)なのか,そして③protocol(臨床試験)について,一言意見を述べさせていただきます.

目で見る外科標準術式・9

下部食道噴門癌(腺癌)開胸付加

著者: 磯崎博司

ページ範囲:P.1163 - P.1171

はじめに
 下部食道噴門部癌に対する左胸腹連続斜切開法(いわゆる斜め胴切り法)を用いた胃全摘,脾・脾動脈幹合併切除,D3郭清手術について解説する.本術式の適応は食道浸潤が2cm以上の胃上部(噴門部を含む)を中心とした進行胃癌であり,十分な腹腔内および縦隔内リンパ節の郭清が必要な場合である.左開胸の手術侵襲はそれほど大きくはないが,術後の肺合併症が懸念される高齢者では開腹のみの操作による術式を採用するほうが安全である.

病院めぐり

横須賀市立市民病院外科

著者: 望月康久

ページ範囲:P.1172 - P.1172

 当院は三浦半島の西海岸,横須賀市の西部地域に位置し,病院からは相模湾が一望でき,比較的恵まれた環境の中にあります.昭和38年12月に横須賀市立武山病院として開設され,昭和46年に横須賀市民病院と改称され,横須賀市西部はもちろん,隣接する逗子市,三浦市,葉山町からの患者も多く,地域中核病院として機能しています.現在診療科21科,病床数512床,医師数65名,1日外来患者数は約1,200人です.
 当外科は病床数50床で,医師は横浜市立大学第二外科と日本大学第一外科より派遣されており,総勢7人体制で診療に当たっています.診療は胃癌,大腸癌,胆道系癌などの消化器癌を中心に,甲状腺,乳腺,肺,縦隔疾患なども含めて治療を行っています.各疾患ともに,術後のQOLを重視して縮小手術も含めて進行度に応じた外科治療を追及しています.

横浜赤十字病院外科

著者: 山中研

ページ範囲:P.1173 - P.1173

 当院は大正13年に日本赤十字社神奈川県支部根岸療院として開院しています.昭和21年に横浜赤十字病院と改称し,昭和39年に現病院として診療業務を開始しており,さらに平成元年に東館を新築し,380床の病床を許可され現在に至っています.
 2002年サッカーのワールドカップ決勝戦の行われる横浜市のほぼ中央部で,山下公園,中華街,元町などのある中区の南端に位置し,南側には広大な埋立地に立地する日石三菱根岸製油所のタンク群越しに,東京湾を眺望できる地にあります.

外科医に必要な脳神経外科common diseaseの知識・2

頭痛

著者: 松本健五

ページ範囲:P.1174 - P.1176

疾患の概念
 頭痛はだれでも経験する症状であり,また日常診療で遭遇する最も多い訴えの1つである.頭痛は何らかの原因により頭蓋内外の痛覚感受部位が刺激されることにより生じる.頭蓋内組織において痛覚を有するのは脳血管および硬膜の一部で,脳実質は痛覚を有しない.脳血管の中では脳内の主幹動脈,静脈洞および流入静脈で痛みを感じる.硬膜では主として脳底部,および脳底部に近い脳表硬膜,小脳テントに痛みを感じる.したがって脳腫瘍や頭蓋内血腫の頭痛は脳血管の偏位や硬膜の緊張で起こる.またくも膜下出血や髄膜炎での頭痛は脳底部硬膜,脳血管の刺激によるものと考えられる.一方,頭蓋外では頭部,頸部の筋肉および筋膜に痛覚があり,特に後頭下の筋肉,側頭筋の収縮がしばしば頭痛の原因となる.また頭蓋外の血管,特に動脈は疼痛に敏感である.頭痛の原因は国際分類(表)のごとく多岐にわたり,頭蓋内外の種々の病態が関与している.これらは機能性頭痛と,器質的疾患に基づく頭痛(症候性頭痛)の2つに大きく分けられる.前者は放置しても深刻な病態に進展することはないが,後者は放置すると生命の危険にさらされることが多い.外来を受診する頭痛患者のほとんどは緊張型頭痛や片頭痛のような機能性頭痛で,器質的疾患によるものは少ない.しかしながら,これらの中に潜む生命の危険をもたらしうる症候性頭痛(くも膜下出血,脳腫瘍,髄膜炎など)を見逃さないことが頭痛患者の診療で最も大切なことである.

外科医に必要な眼科common diseaseの知識・4

白内障

著者: 小松仁

ページ範囲:P.1177 - P.1179

疾患の概念
 白内障(cataract)は水晶体が混濁した状態をいう.
 水晶体の混濁部位により,①皮質(図1),②核(図2),③嚢下白内障(図2)に分類され,程度により,①初発,②未熟,③成熟,④過熟白内障に分類される.

メディカルエッセー 『航跡』・44

酷暑の夏にむかしのおはなし

著者: 木村健

ページ範囲:P.1180 - P.1181

 7月初旬,学会の招待でニッポンを訪れた.梅雨の明けやらぬ日本列島は,聞きしにまさる酷暑であった.クーラー音の心細くうなる室内でじっとしていても,額から流れる汗は止まらない.それでもニッポン男性は長袖のワイシャツにきりりとネクタイを締め,スーツをお召しになって涼しい顔.日頃,世界一悪名高いエネルギー大消費国に住み,冷蔵庫内とほぼ等しい室温を保つ環境に毒された身体には,スーツどころか,Tシャツにショーツ姿でいても耐え難い暑さである.
 耐えがたきを耐えながら今,トウキョウのホテルの一室に閉じこもり締め切りをとっくに過ぎた小稿を書いているところである.お上からのキツイお達しによる省エネとやらで,クーラーも思うようには冷風を吹き出してくれぬ.ゆで卵と化した頭では,思考も記憶も途切れがち.やむなく軽いおはなし3題でマス目を埋める次第に相なった.

麻酔の基本戦略・1

安全な麻酔のために

著者: 稲田英一

ページ範囲:P.1183 - P.1187

目標
 1.麻酔事故の重大性を認識し,その原因について理解する.
 2.「安全な麻酔のためのモニター指針」の内容を理解する.
 3.麻酔中に必要な最低限のモニターを列挙し,有用性について述べることができる.

臨床研究

75歳以上高齢者直腸脱における肛門管粘膜感覚閾値の検討

著者: 富田凉一 ,   池田太郎 ,   五十嵐誠悟 ,   萩原紀嗣 ,   藤崎滋 ,   福澤正洋

ページ範囲:P.1189 - P.1192

緒言
 直腸脱は,直腸壁全層が脱出する完全型,粘膜・粘膜下層が脱出する不完全型,直腸重積の先端が肛門外にでていない不顕性型の3つに分類される1)が,いわゆる直腸脱とは完全直腸脱を指している2),直腸脱は,高齢者女性に多く認められ,soilingやincontinenceを伴う症例が多い1〜3).そして,その病態生理については,主に直腸肛門内圧検査を中心に研究が行われてきたが4,5),いまだ詳細は不明である.
 ヒトの排便機構については,肛門括約筋能,直腸貯留能はもちろんのこと,直腸・肛門管粘膜感覚の重要性も指摘されている6).しかし,肛門管粘膜感覚から検討された報告は少ない.そこで,筆者らは75歳以上高齢者直腸脱症例について,soilingと肛門管粘膜感覚の関連を電流感覚閾値から検討した.

担癌患者に対するrecombinant human erythropoietin(rHuEPO)24,000単位皮下投与を用いた術前1週間自己血貯血方法

著者: 梅澤聡 ,   加藤友康 ,   清水敬生 ,   荷見勝彦

ページ範囲:P.1193 - P.1197

はじめに
 自己血貯血はrHuEPO製剤によるサポートにも保険が適用され,外科手術にとって欠かせない技術の一つとなっている.とくに最近,同種血輸血による問題点が感染症にとどまらずrecipientの免疫学的副作用についても言及され,とくにHeissら1)が大腸癌患者の同種血輸血と自己血輸血での検討を行い,同種間輸血が自己血輸血に比べて有意に再発率を上げていると報告するに至り,悪性腫瘍患者の手術時の治療行為として同意を得るレベルから,可能な限り輸血を回避する方法として自己血貯血は必要とされている.また,悪性腫瘍患者の自己血貯血療法における問題点である貯血液内の悪性細胞転移活性や貯血のサポートとして用いるrHuEPO製剤の悪性腫瘍細胞増殖に対する影響は,現在のところin vitroの検討では問題点は指摘されていない.
 一方,実際に貯血を行う臨床現場においては,貯血の方法は幾通りもの方法があると考えられるが,貯血を行う対象,手技の問題さらには保存,保管場所の確保と管理といった医療とはまた別の次元の問題が山積している.とくに保管,管理についていえば数多くの手術を行う病院にとっては,外来患者として貯血を行い,入院患者としてその貯血を使用するのは管理の面で非常に煩雑であり,また,マンパワー不足による管理者のオーバーワークにつながる.

手術手技

リアルタイム画像を用いた垂直アクセスによるMRガイド下肝腫瘍マイクロ波凝固壊死療法

著者: 来見良誠 ,   谷徹 ,   花澤一芳 ,   仲成幸 ,   小玉正智 ,   馬場忠雄 ,   村田喜代史 ,   野坂修一 ,   森川茂廣 ,   犬伏俊郎

ページ範囲:P.1199 - P.1202

はじめに
 インターベンショナルMRI(interventional MRI:IV-MRI)はオープンMRI装置の利用法の一つである.IV-MRIに必要な機能は,①リアルタイムで高解像度画像が得られること,②患者に対しすべての方向からのアクセスが可能であること,③他の画像診断機器より優れた特徴的な画像が得られることが必要であり,装置の環境としては,①麻酔器の使用が可能であること,②手術室とほぼ同程度の清潔さを保ちうること,などが挙げられる.
 これらの機能を満たしうる第1号機が1994年にハーバード大学Brigham and Women's Hospitalに導入されてからは,とくに脳神経外科分野で飛躍的な発展を遂げてきた.本邦ではすでに水平式のオープンMRI装置を導入している医療機関も散見されるが,患者に対するアクセスの制限が問題であり,侵襲的手技が十分普及するには至っていないのが現状である.

臨床報告・1

腹腔鏡下に切除した尿膜管臍瘻の1例

著者: 中川国利 ,   鈴木幸正 ,   豊島隆 ,   桃野哲 ,   佐々木陽平 ,   手島貞一

ページ範囲:P.1203 - P.1205

はじめに
 尿膜管臍瘻は胎生期の尿膜管臍側部分が出生後も臍から引き離されずに残り,臍で開口したまれな疾患である1,2).しばしば臍炎を繰り返し,治療に難渋する例が多い3).最近われわれは術前診断が困難であった難治性臍炎例に対して腹腔鏡下手術を行い,尿膜管臍瘻と診断するとともに尿膜管臍瘻を切除したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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