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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科56巻12号

2001年11月発行

雑誌目次

特集 新しい医療材料と器具

合成吸収性癒着防止材

著者: 斉田芳久 ,   炭山嘉伸

ページ範囲:P.1447 - P.1450

 開腹術後の癒着は,イレウスの原因となり,つねに考慮しなければならない合併症である.この癒着の軽減を目的としたフィルム状の合成吸収性癒着防止材が開発された.これらは癒着完成の約7日間の間だけ損傷を受けた組織と周辺組織とを物理的に遮断することにより癒着を軽減するものである.いずれの製品も,十分な安全性と有用性が基礎実験でも臨床試験でも確認されており,それらの癒着防止効果により,術後癒着性イレウスの外科的治療が50%以上減少したことが報告されている.しかし癒着防止効果は完全ではなく,タルクの除去,確実な止血,十分な洗浄,愛護的手術操作などの基本的な術中癒着防止対策を怠らないようにすることが必要である.

皮膚用組織接着剤

著者: 多久嶋亮彦 ,   波利井清紀

ページ範囲:P.1451 - P.1454

 皮膚閉鎖の手段として,縫合ではなく接着という考え方は古くからあった.しかし,過去に開発された接着剤は,短鎖のアルキル基を持ったシアノアクリレートであったため,接着力は強いものの組織障害性があり,普及するには至らなかった.これに対して,最近開発された2-オクチルシアノアクリレートは,組織障害性がほとんど認められず,かつ大きな強度を併せ持っており,急速に臨床の場で広がりつつある.しかし,合成化合物であるため異物であることには違いなく,接着剤が体内に入らないように真皮縫合など表皮の接合を行ったうえで外用する必要がある.
 本稿では,皮膚用組織接着剤の概要,および使用に当たって注意すべき点などについて述べる.

吸収性局所止血剤

著者: 梅下浩司 ,   永野浩昭 ,   左近賢人 ,   門田守人

ページ範囲:P.1455 - P.1459

 現在,本邦で広く用いられている吸収性局所止血剤は,コラーゲン,酸化セルロース,ゼラチンスポンジの3種である.局所止血剤が効果を発揮するには出血面にある時間固着していることが必要であり,したがって出血量が非常に多い場合には使用に適さない.吸収性局所止血剤は,理論的には生体内で分解・吸収が可能であるが,残した止血剤の量が多い場合には膿瘍や肉芽腫などの合併症につながる.使用は必要最小限にすべきであり,また,止血後はできるだけ除去して手術を終えるのが原則である.3種のなかではコラーゲンが止血効果が最も強いと考えられているが,出血の場面に応じて最も適した製剤を選択することが肝要である.

組織接着剤

著者: 小原充裕 ,   浅間俊之 ,   青木貴徳 ,   紀野修一 ,   葛西眞一

ページ範囲:P.1461 - P.1465

 外科手術においては,止血と縫合は最も重要な操作であり,出血の迅速なコントロールと縫合不全の防止が術後短期の成績に大きく影響する.動脈性の出血では外科的な縫合,結紮による止血が必要であるが,静脈性あるいはoozing様出血ではフィブリン接着剤が有用である.また,脆弱部位の吻合補強,気胸からのエアーリークの防止にもフィブリン接着剤は有効である.フィブリン接着剤には液状,シート状の2種類あるが,適応部位により使い分けができる.液状タイプはスプレーとして使用し,シート状タイプは貼付後圧迫して使用する.フィブリン接着剤は血液凝固機序に基づく生理的な止血,組織接着を促し,その特性を理解することにより広く手術補助剤として有用であると考えられる.

鼠径ヘルニア用メッシュ

著者: 冲永功太 ,   福島亮治 ,   稲葉毅

ページ範囲:P.1467 - P.1470

 最近のヘルニア手術では,tension-freeの術式として人工膜prosthesisとしてのメッシュがしばしば用いられる傾向にあり,生体に対して固定性と親和性がよく感染に強いpolyprolene製メッシュが一般的である.このメッシュのなかでもわが国で用いられる頻度の高いPROLENE HerniaSystem(PHS)とBard PerFix plug+mesh(Plug)について解説した.両者は材質はほぼ同じであるが,PHSがunderlay meshとonlay meshの2重のメッシュによってヘルニア再発の防止を目的としているのに対して,Plug法ではヘルニア門をplugで閉鎖しonlay meshで再発を防止する術式である.またLichtenstein法によりonlay meshのみ用いられることもある.

創傷ドレッシング材

著者: 三浦英一朗 ,   小林徹也 ,   高尾良彦 ,   穴澤貞夫 ,   青木照明 ,   山崎洋次

ページ範囲:P.1471 - P.1476

 人はキズを治そうとするとき,キズを何かで覆うという行為を行ってきた。有史以来の歴史をみると創傷に樹液,獣脂,蜂蜜,オリーブ油などを塗布してから布などで覆う方法が何世紀も行われた。19世紀に細菌が発見され消毒や滅菌法が開発され,創傷を薬剤で消毒しガーゼで覆うことが一般的となり現在でも頻用されている。20世紀半ばに創傷治癒における閉鎖湿潤環境理論が提唱されてから,創傷被覆材の開発が盛んになってきた。現在わが国ではガーゼの欠点を補うものから,フィルム材,ハイドロコロイド材,アルギネートなどさまざまな創傷被覆材が入手可能であるが,それぞれの特徴を述べ,創傷被覆材の選択のガイドラインを示す。

胸骨閉鎖用縫合糸

著者: 嶋田一郎 ,   岡林均

ページ範囲:P.1477 - P.1480

 胸骨切開後の閉鎖用材料として従来のステンレスワイヤーに加え,マーシリン®テープとPDS®コードが現在使用可能となっている.
 マーシリン®テープは5mmの幅をもち,接触面を大きくすることで胸骨にかかる張力を分散させる.骨粗鬆症などで脆弱な胸骨のワイヤーによるカットアウトや過大な力によるワイヤー自体の断裂を防止する.ワイヤーとの併用で胸骨を適切に固定し胸骨動揺や離解,縦隔洞炎を減らすことが期待できる.
 PDS®コードは吸収性材料であるが,3週間後も40〜50%程度の張力を保持する.成長や日常生活を考慮すると吸収性材料の使用が望ましい小児や皮下組織の薄い成人例の胸骨閉鎖に適している.

閉腹用新型鈍針付き縫合糸

著者: 正木忠彦 ,   松岡弘芳 ,   泉里友文 ,   徳原真 ,   佐々木秀雄 ,   下位洋史 ,   阿部展次 ,   杉山政則 ,   跡見裕

ページ範囲:P.1481 - P.1484

 手術中には縫合針を扱う場面が何度もあるが,とくに手術の最終段階である閉腹時や閉胸時には手術スタッフの疲労度もピークに達しており,また集中力も低下していることから,針刺し事故が起こりやすいといえる.手術中の針刺し事故に対するリスクマネジメント対策として,最近エチガード(エチコン)やブラントポイント(オートスーチャー)などの,特別な鈍針が装着されたdetached typeの閉腹針が販売されている.組織の刺通性において従来の彎曲針よりも若干劣るものの,術中出血量や手術時間において差は認められず,臨床的には問題がないと考えられるので,今後の普及が望まれるところである.

肋骨ピン(合成吸収性肋骨固定材料)使用の適応と効能

著者: 淺村尚生

ページ範囲:P.1485 - P.1487

 吸収性PLLAで作られた肋骨ピンが登場して使用されるようになっている.主たる用途は通常の後側方開胸で切離される肋骨(1〜3本)の固定整復のほか,多発肋骨骨折などの胸壁損傷の整復である.素材は吸収性であり安全性も高く,固定操作も容易で時間もかからない.しかし,通常の後側方開胸の肋骨離断では,切離肋骨の固定は必ずしも必要でなく,胸壁動揺などはみられない.したがって肋骨ピンの目的は,術後疼痛の軽減ということになるが,現在までその有効性は科学的に証明はされていない.

超音波凝固切開装置とLigaSureTM

著者: 長谷川博俊 ,   渡邊昌彦 ,   馬場秀雄 ,   山本健太郎 ,   吉馴健太郎 ,   北島政樹

ページ範囲:P.1489 - P.1492

 超音波凝固切開装置の開発・普及により,内視鏡下手術は安全かつ迅速に行われるようになった.超音波凝固切開装置は超音波振動を利用した手術器具で,血管を含む軟部組織の凝固止血と切開を同時にかつ低温で行うことができる.現在,ハーモニック—スカルペル®,オートソニックス®,ソノサージ®の3種類が3社からそれぞれ発売されている.内視鏡下手術のみならず,開腹手術,とくに低位前方切除時にも有用である.また最近,バイポーラを進化させた新しい凝固装置LigaSure®が発売された.本特集では,超音波凝固切開装置およびLigaSure®の特徴,有用性と問題点について解説する.

サーキュラーステープラーによる内痔核治療

著者: 石橋生哉 ,   荒木靖三 ,   白水和雄

ページ範囲:P.1493 - P.1495

 Longoが直腸粘膜脱と内痔核への新しい外科的治療法としてサーキュラーステープラーを用いた直腸下部粘膜環状切除術を提唱して以来,さまざまな施設で二重盲験試験が従来の治療法との間で行われ,その簡便性と手術時間や疼痛,社会復帰時期などにおいて有効性が示され,日本でもいくつかの施設において導入されつつある.そこで,今回筆者らは,サーキュラーステープラーによる内痔核治療について,その材料,器具の使用上の利点や問題点について,これまでの使用経験に基づいて述べる.

ダイレーションカニューレ

著者: 松本敏文 ,   北野正剛

ページ範囲:P.1496 - P.1497

 ダイレーションカニューレは,従来のトロッカーと比べて体腔内に刺入する際の体壁損傷を低侵襲にしようとする改良がなされたシステムである.1.9mmのニードルとスリーブを体壁に刺入後,エクスパンダブルカニューレで拡張する.一連の操作は,体壁や腹腔内臓器の損傷を減少させ,カニューレ抜去後は筋層の収縮でニードルの穿刺孔まで塞がる利点をもつ.
 ダイレーションカニューレの使用によりトロッカー挿入に関連した合併症の減少と術後創痛の軽減が報告されており,安全で低侵襲な器具といえる.

カラーグラフ 正しい外科切除標本の取り扱い方・8

食道の切除標本の取り扱い方

著者: 野口剛 ,   内田雄三 ,   武野慎祐 ,   和田伸介 ,   橋本剛 ,   加島健司

ページ範囲:P.1439 - P.1443

はじめに
 食道の切除標本とは,①内視鏡的粘膜切除あるいはポリペクトミー,②食道管状切除,③壁部分切除,④食道憩室の切除,⑤粘膜下腫瘍の粘膜外摘出,⑥肺癌または縦隔腫瘍の合併切除として食道壁の一部を切除,などに大別される.さらに②は隣接臓器の合併切除を伴うものと伴わないものがある.
 「食道癌取扱い規約」(第9版)1)によると,検査材料の取り扱い,検査ならびに記載方法について表1のように述べられている.

目で見る外科標準術式・23

結腸嚢肛門吻合術

著者: 須田武保 ,   畠山勝義 ,   寺島哲郎 ,   川原聖佳子 ,   飯合恒夫 ,   岡本春彦

ページ範囲:P.1499 - P.1505

はじめに
 直腸癌に対する結腸嚢肛門吻合術は1986年に報告されて以来1,2),本邦でも2000年に超低位前方切除(経肛門的結腸嚢肛門吻合によるもの)として保険適用され,下部直腸癌に対する標準術式の1つと認められている.本稿では,当科で行ってきたこの直腸癌低位前方切除後の結腸嚢肛門吻合術について述べる.

麻酔の基本戦略・15

周術期:危機の回避(5)—循環器系トラブル(2):不整脈

著者: 稲田英一

ページ範囲:P.1507 - P.1512

目標
 1.術中によく起こる不整脈の原因について理解する.
 2.不整脈の治療の原則について理解する.
 3.個々の不整脈の具体的治療について理解する.

病院めぐり

香川労災病院外科

著者: 立本昭彦

ページ範囲:P.1514 - P.1514

 香川労災病院が位置する丸亀市は,香川県中央部で瀬戸内海に面し,人口80,000人あまり,緑の美しい小都市であります.江戸時代は京極藩の城下町として,また金比羅参りの玄関口として栄えてきましたが,現在でも瀬戸大橋の開通により四国の玄関として更なる発展をしております.
 当院は労働者災害補償保険法による労働福祉事業施設として設置され,1956(昭和31)年に丸亀城東隣の旧練兵場跡地に内科,外科,整形外科の3診療科40床をもって開設され,その後漸次拡張し,1997(平成9)年4月より16診療科,病床数394床(外科76床)となり現在に至っております.医師数は常勤医61名,うち研修医17名,1日の外来患者数は約1,300人であり,設立主旨である勤労者医療はもちろん,地域医療の基幹病院としての役割を担っております.

NTT東日本札幌病院外科

著者: 金子敏文

ページ範囲:P.1515 - P.1515

 当院は札幌市中心部の大通公園に近く位置し,1922(大正 11)年に逓信診療所としてスタートしています.その後,国の電信電話・郵政事業の変遷とともに,職域病院の「札幌逓信病院」から,「NTT東日本札幌病院」として一般市民に開放され,80年の長い歴史を経て,総合的な中核病院に発展してきています.
 病院規模は18診療科に透析センター,ドック科,健康管理センターを備え,病床数301床,医師数62名,1日外来患者数1,300人であり,入院は平均在院日数17日,病床利用率95%を超える多忙な状況です.診療科は臓器別の内科に対応して,外科も一般・消化器外科,心臓血管外科,呼吸器外科に分かれ,病床数は53床でつねに満床の状況です.外科のスタッフは日本外科学会名誉会長の田邊達三院長のほか,一般消化器外科は池田浩之副院長,金子敏文部長など6名,心臓血管外科は松居喜郎部長など3名,呼吸器外科にも同門の北海道大学第2外科から出張医が派遣されています.日本外科学会,日本消化器外科学会,日本乳癌学会などの認定施設であり,毎年,外科には2名前後,病院全体で十数名の出張医,研修医を受け入れ,また厚生省の臨床研修指定病院であります.

文学漫歩

—北杜夫(著)—『どくとるマンボウ青春記』(1973年,中央公論社 刊)

著者: 山中英治

ページ範囲:P.1516 - P.1516

 今月は申し訳ありませんが最初に少し宣伝させて下さい.11月21,22日に大阪国際交流センターで,日本クリニカルパス学会を岸和田市民病院担当で開催致しますので是非ご参会下さい.
 パスについては内視鏡外科学会,消化器外科学会,臨床外科学会と最近連続してパネルディスカッションに取り上げられ,外科系学会の中枢の先生方の間でも注目されていると感じた.パスはインフォームドコンセント,医療の標準化,チーム医療など21世紀の臨床外科に必要不可欠のツールである.残念ながら学会場では内視鏡手術,遺伝子,移植などは若い先生で満員で,パスとターミナルケアはともに不人気であったが,いずれも演者は臨床現場で現役の30〜50歳代の方が多くて,勇気づけられた.

南極物語

コジコジの風邪

著者: 大野義一朗

ページ範囲:P.1517 - P.1517

 雪上車はなにもない雪原にまっすぐな轍を後に残して進んでいた.風で削られた雪原は深い起伏となって行く手を阻んだ.雪上車は激しく揺れ,荷物は飛散し,人は車に酔いながら1日中なにかにしがみついていた.エンジンを止めると車内は−20℃まで冷え込んだ.高山病のため横になると肺に空気が入ってこない苦しさを感じた.
 「人員車両に異常なし」これが定時交信の決まり文旬だったが,出発してわずか1週間後には「異常」が続出した.燃料フィルターの凍結によるエンスト,ステアリング破損による操舵不能,燃料タンク破損による燃料漏れ…….雪上車4台のうち3台が走行不能になり,1台を放棄しその部品で他の2台を修理した.数日後,今度は起伏に乗り上げた食料ゾリが転覆し,全食料が飛散した.地吹雪の中で埋もれていく食料を拾い集めた.

私の工夫—手術・処置・手順

双口式人工肛門造設の工夫

著者: 渡部脩 ,   岩瀬博之

ページ範囲:P.1518 - P.1519

 筆者らは閉塞性大腸癌における単孔式人工肛門造設術についてすでに報告1)しているが,今回は双孔式人工肛門造設について報告する.大腸癌の増加とともに人工肛門を造設する機会も増えているが,高年齢患者,重篤合併症例,腫瘍切除不能例などで,単孔式人工肛門が不可能な場合は当然双孔式人工肛門が必要になる.しかしながらその造設においても出血,壊死,脱落,膿瘍などの早期合併症があり,これを回避することは重要である.磯本らはとくに教育研修病院では人工肛門造設術が比較的若い未熟な術者によって行われていると指摘2)し,早期合併症は7.9%,晩期合併症は10.4%にみられた3)と述べている.そこで以下のような方法を考案し,良好な結果を得ているので報告する.
 左下腹部に腸管をつまみ出せる程度の約5cmの縦切開を加え,腸管を創外に出し,筋膜と腸管漿膜筋層を縫合する.次に通常taeniaは人工肛門切開のときに利用されるが,筆者らは自由ヒモと大網ヒモを利用して,単孔式の場合と同様に腸管の全層に3-0合成吸収糸を用いて皮膚と縫合する(図1).これでしっかりと固定され脱落の心配はない(図2).

外科医に必要な皮膚科common diseaseの知識・6

皮膚掻痒症と痒みのメカニズム

著者: 河内繁雄

ページ範囲:P.1522 - P.1524

疾患の概念
 皮膚掻痒症とは皮膚に痒みの原因となる皮膚病変がないにもかかわらず,皮膚の痒みを訴える場合をいう.しかし実際には,掻破による掻破痕や二次的な湿疹化を伴うことが多い.限局性と全身性の2つに大別される.

米国でのProblem-Based Learning形式による外科研修

Problem-Based Conference(1)—Problem-Based Conferenceとは何か

著者: 町淳二 ,   児島邦明

ページ範囲:P.1525 - P.1533

1 はじめに
 私(町)は,1977年に順天堂大学医学部を卒業し,その後,沖縄県立中部病院,イリノイ大学医学部外科,久留米大学医学部外科,ペンシルベニア医科大学外科などを経て,現在,ハワイ大学医学部外科に所属しています.その間,日本での卒後研修レジデントを経験するとともに,また医学教育の指導にもあたりました.一方,米国においても外科レジデントを5年間経験したのち,現在レジデントならびに医学部学生の指導にあたっています.
 日本と米国での医学部学生教育と卒後研修教育には種々の相違点がみられます.米国での一般外科卒後レジデント研修をみてみますと,これは全米どこにおいても5年間で完了するよう決められています.従来から指導医(attending)が研修医(resident)と医学生を教育し,研修医も学生の教育に積極的に参加しています.研修・教育に対する評価が積極的に行われていますが,これは指導医が一方的に研修医や学生を評価するばかりでなく,レジデント教育施設や指導医も評価を受けます.研修医と医学生の教育は,主として実際の臨床の患者ケアを通して実施されています.研修医ばかりでなく医学生に対しても,指導医による一方的な系統的講義による教育は非常に少ないのです.

臨床研究

腹腔鏡下天蓋切除(deroofing)と遺残嚢胞壁焼灼を基本とした肝嚢胞治療

著者: 權雅憲 ,   乾広幸 ,   上山泰男

ページ範囲:P.1535 - P.1539

はじめに
 非寄生虫性肝嚢胞の頻度は4〜7%で加齢とともに増加し,通常は胆管や脈管に浸潤することはなく胆管との交通もみられない1,2).大部分の患者は無症状であるが,嚢胞内出血や破裂,感染,嚢胞による圧排,肝実質の萎縮により症状が出現し,これら有症状例には治療が必要となる.
 肝嚢胞に対する手術としては嚢胞の開窓術や天蓋切除(deroofing)が安全で有効であり広く行われてきた3,4).近年,侵襲の軽減を目的とした腹腔鏡下開窓術や天蓋切除術が行われている.しかしながら,腹腔鏡下治療を施行した肝嚢胞の再発評価に関しては多くの報告がなされているが,経過観察期間が短いことと再発の評価法が一定でないことから不十分である5,6).筆者らは肝嚢胞に対して広範な腹腔鏡下天蓋切除とアルゴンビーム凝固器(以下,ABC)による遺残嚢胞壁の焼灼を基本としており,その有用性を術後再発の観点から検討した.

臨床報告・1

多発性肝膿瘍をきたした大腸癌の1例

著者: 中川国利 ,   鈴木幸正 ,   豊島隆 ,   桃野哲 ,   佐々木陽平 ,   手島貞一

ページ範囲:P.1541 - P.1544

はじめに
 多発性肝膿瘍の多くは胆道疾患にて生じ,経門脈性感染にて生じる例はまれである1,2).今回筆者らは大腸癌穿通による後腹膜腔膿瘍にて多発性肝膿瘍をきたし,肝膿瘍のMRI検査にて特異な所見を呈した1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

CHDFなどにより急性期を乗り切った血液透析患者における壊死性筋膜炎の1症例

著者: 佐藤耕一郎 ,   佐藤孝臣 ,   三浦俊治 ,   天田憲利 ,   大橋洋一 ,   佐々木茂 ,   岡崎肇

ページ範囲:P.1545 - P.1549

はじめに
 壊死性筋膜炎は,皮膚および皮下組織の広範かつ急速な壊死を特徴とするimmunocompromisedhostに好発する疾患である1〜3).早期診断が遅延すると致死的であり,Klontzら4)によれば抗生剤投与開始が発症後24時間以上経過した場合の死亡率は66%であったとされている.今回,筆者らは糖尿病原発の慢性腎不全患者に発症し,sys-temic inflammatory response syndrome(SIRS)から急速に敗血症性ショック状態に陥った壊死性筋膜炎の症例に対し,continuous hemodiafiltration(CHDF)を主とした集学的治療を行い,急性期のショック状態を乗り切ることができた症例を経験したので報告する.

縦隔頸部に至る広範な気腫を伴った内視鏡的ポリープ切除後の大腸穿孔の1例

著者: 伊澤光 ,   藤本高義 ,   福地成晃 ,   吉田哲也 ,   戎井力 ,   先田功

ページ範囲:P.1551 - P.1555

はじめに
 近年,大腸内視鏡検査の普及,内視鏡的治療の一般化に伴いその偶発症の増加が指摘されている1).なかでも最も頻度の高い大腸穿孔は外科的治療の対象となることが多く,今後,われわれ外科医が日常臨床で遭遇する機会が増えるものと予想される.
 今回,大腸内視鏡的に下行結腸ポリープを摘除したのち穿孔をきたし,縦隔,頸部に至る広範な気腫を生じたが,保存的に軽快しえた症例を経験したので報告する.

早期多発胃癌と早期十二指腸癌の同時性重複癌の1例

著者: 田村昌也 ,   芝原一繁 ,   船木芳則

ページ範囲:P.1557 - P.1560

はじめに
 近年,重複癌は増加の傾向にあるが,胃と十二指腸の重複癌の報告は少ない.今回われわれはいずれも早期であった多発胃癌と十二指腸癌の重複癌を経験したので,本邦報告例21例の検討とともに報告する.

保存的に治癒した魚骨の消化管穿孔による腹腔内膿瘍の1例

著者: 吉光裕 ,   安田雅美 ,   天谷公司 ,   経田淳 ,   森和弘 ,   竹山茂

ページ範囲:P.1561 - P.1564

はじめに
 魚骨による消化管穿孔はそのほとんどが外科的治療を必要とし,従来は術前の診断は困難とされてきた.しかし近年の画像診断の進歩にともない,術前または術後のretrospectiveな検討により診断可能であったとする報告例が増加している1〜3).今回筆者らは,その特徴的な画像所見から魚骨の消化管穿孔による腹腔内膿瘍と診断し,保存的治療で軽快したため経過観察を行い,後日胃癌手術時に膿瘍の治癒を確認し得た1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

脾嚢胞を伴う遊走脾の1例

著者: 吉光裕 ,   安田雅美 ,   石井要 ,   経田淳 ,   森和弘 ,   竹山茂

ページ範囲:P.1565 - P.1568

はじめに
 遊走脾はまれな疾患であり,その原因として脾の固定靱帯の形成不全や欠損などの先天的因子と妊娠,外傷による靱帯の脆弱化,腹壁筋力の低下,脾腫による重力作用などの後天的因子が考えられている1,2).今回筆者らは,妊娠,分娩後に発症した脾嚢胞を伴う遊走脾の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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