icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科56巻4号

2001年04月発行

雑誌目次

特集 外科におけるクリニカルパスの展開

本邦におけるクリニカルパスの現状と最近の話題

著者: 武藤正樹

ページ範囲:P.439 - P.447

 クリニカルパスは1988年頃から国内の病院への本格的な導入が始まり,現在全国9,300の病院の約30〜40%で使用されていると考えられる.導入疾患としては外科,整形外科,循環器科,産婦人科,泌尿器科などの外科系の手術,処置,検査が多い.クリニカルパス導入が進むにつれ,導入による臨床面,病院マネジメント面でのインパクトも明らかになってきた.クリニカルパス導入により感染合併症が減少して臨床成績が向上した,術後鎮痛剤投与が減った,リハビリが早くなった,周術期の抗生剤が標準化された,在院日数が短縮した,患者説明ツールとして有効などの評価がなされている.しかし同時にクリニカルパスへのEBMの応用,クリニカルパスと記録,クリニカルパスの電子化,クリニカルパスのリスクマネジメントへの応用など課題も多い.

クリニカルパスと結果マネジメント運動

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.449 - P.453

日本での展開
 日本では1990年代の半ばからクリニカルパスが取り上げられ,看護部門を中心に普及し始めた.すでに1996年に厚生省の呼びかけで開かれた医療技術評価の検討委員会でも,医療技術評価の1つの応用法としてクリニカルパスが取り上げられるに至っている1).しかし急速な普及をみたのはここ数年で,1998年から国立病院を中心に試行された日本版DRGの応用がその普及に拍車をかけていると言えよう.1999年の夏にはクリニカルパス研究会全国大会が茨城県つくば市で開かれ,看護部門を中心に1,400人の会員を集め,熱気の込もった討論が行われた.クリニカルパスへの関心は看護部門を越えて病院経営者にも拡がりつつある.2000年6月に熊本県で開催されたクリニカルパスの研究会は医療マネジメント学会に発展し,2,800名の学会員を集め,盛大に行われた.参加者も看護部門に加え,経営者,事務部門,医師の参加者も目立った.最近では看護学会のみならず医学会でも主要なテーマとして取り上げられ始めている.数多くの急性期病院では実用段階に入っており,長期ケアや地域ケアにも応用され始めている.武藤によると大規模病院を中心に30〜40%の病院ですでに使用されており,病院内での適応も50%を越えているところも出ている2)

病院マネジメントの面からみたクリニカルパス

著者: 池田俊也 ,   小林美亜 ,   池上直己

ページ範囲:P.455 - P.460

 クリニカルパス(CP)とは多職種からなる医療チームが協働で実践するための行動計画を時系列で描き出したものである.CPの病院マネジメントへの利用可能性として,在院日数の短縮,医療の質およびコストのコントロール,原価計算に基づく収支分析のためのツールとしての活用が考えられる.本稿では米国の大学病院におけるCPを用いた質管理の方法を紹介するとともに,筆者らが実施した原価計算手法について概説した.

バリアンス分析と診療の改善

著者: 小西敏郎 ,   阿川千一郎 ,   古嶋薫 ,   針原康 ,   伊藤契 ,   外村修一 ,   長谷川潔 ,   佐貫潤一 ,   田原宗徳 ,   今井延年 ,   石川誠 ,   大塚裕一 ,   清松知充

ページ範囲:P.461 - P.466

 米国では診断群分類による医療費の定額支払い制度DRG/PPS(diagnosis related group/prospective payment system)の導入を契機に在院期間の短縮と人院費用の削減を目的としてクリニカルパス(clinical path)あるいはクリティカルパス(critical path)が広まった.しかしわが国では,実際にクリニカルパスを推進している臨床現場では,入院期間の短縮や医療費の削減よりは医療従事者の協調性の向上のために,そしてなによりも患者満足度の向上と患者中心の医療の展開のためにクリニカルパスは重要であるとの認識が広まっている.一般にはバリアンスの多い疾患ではクリニカルパスの適応は困難であると考えられている.だが,筆者らのこれまでの経験ではクリニカルパスの主目的はバリアンスを減らすことではない.在院期間の短縮やコストの削減を目標としてクリニカルパスを適応するのではなく,チーム医療の推進,患者主体の医療の展開などによる質の高い医療を提供することがクリニカルパスの大きなアウトカムである.胃癌の手術などバリアンスの多い疾患の治療でもバリアンスとなった理由を患者に十分に説明することにより,かえってクリニカルパスでの治療が患者に喜ばれることも多い.むしろ治療経過に変異の多い疾患であるからこそ,患者満足度の向上と医療従事者の協調性の向上の点からクリニカルパスのよい適応となると言える.

管理者の立場からみたクリニカルパス

著者: 平塚秀雄

ページ範囲:P.467 - P.470

 今病院に求められているのは患者中心の医療,質の高い医療,効率の向上,チーム医療の促進,リスクマネジメントなどの諸課題である.病院運営上,これらの課題を解決するためにクリニカルパスは明らかに貢献しうるツールであると考えられる.事前の十分な準備と導入後の改善の繰り返しが重要である.クリニカルパスの導入は職員の意識改革,働き甲斐のある職場作りにも役に立つと考えられる.

看護の立場からみたクリニカルパス導入・実践までの評価

著者: 嶋野ひさ子

ページ範囲:P.471 - P.474

 クリニカルパス作成は単に形にあてはめるのではなく,自分の病院の目的に適した実用可能なパスを作成することである.導入するに当たってはいくつかの準備段階とそれに伴う組織の問題など,ポイントがある.当院でのCP導入・実施までの状況を紹介する.日的は,1)医療チームの共通言語ツール,2)治療・ケアの標準化,3)インフォームドコンセント,4)患者教育ツールの4つである.また,効果的にCPを導入するには組織的な取り組みや手順・基準の作成が欠かせない.以上を踏まえて実施したことの見解を看護の視点から述べる.

クリニカルパス導入の事例

肺癌の術前・術後のクリニカルパス

著者: 野守裕明

ページ範囲:P.475 - P.478

 1999年1月から肺癌の術前・術後のオーダーにクリニカルパスを導入した.また2000年4月から患者にも術前・術後の経過を良く理解していただくために,患者用のクリニカルパスを作成して術前に説明するようにした.医療側のクリニカルパスはA3の1枚の表にまとめられており,そこには入院日から退院までチェック項目がすべて書かれている.一方,患者用のクリニカルパスには入院時から手術前日,手術当日,術後,退院までの間に患者に説明を必要とすることを主にイラストで描いてA3の表にしている.
 医療側のクリニカルパスにより入院期間が短くなったという現象はないが,初めて肺癌の治療に参加する看護婦や理学療法士がケアを理解する上でかなり役に立っている.患者用のクリニカルパスは患者が術前・術後のことを良く理解することを助けている.当院では通常は術後1週間で退院するが,退院に関して患者が不安を感じなくなり,退院がスムーズにできるようになった.

大腸癌に対するクリニカルパス

著者: 宮島伸宜 ,   山川達郎

ページ範囲:P.479 - P.483

 大腸癌症例のクリニカルパスの導入と実例について述べる.導入することによって医療の質が高まり,効率化され,結果的に入院期間の短縮をめざした.今回作成したクリニカルパスを実際に適用したところ,早期癌症例あるいは腹腔鏡下手術症例ではクリニカルパス通りに完遂可能な症例が多かった.しかし,高度進行癌症例では負のバリアンスが多く,問題を残していた.通常は術後約2週間で退院が可能であるが,早い退院に戸惑う患者もみられた.このような混乱を避けるためには外来での説明時,人院時,手術前にクリニカルパスの意義を十分に説明し,早期退院のみをめざすためだけのものではなく,医療の質の向上と効率化を目的としていることを理解してもらうことが重要である.バリアンスがみられた場合にはその都度検討を行うことで合併症の予防につながるものと考えられた.今後,クリニカルパスをさらに有効なものにするためには大腸癌をいくつかに分類し,クリニカルパスもある程度細分化して個々の症例によく合致するようにして運営するとバリアンスの発生は低下するものと考えられた.

胆嚢摘出手術におけるクリニカルパスの導入

著者: 石井誠一郎 ,   池田信良 ,   納賀克彦

ページ範囲:P.485 - P.489

 胆嚢結石症に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術を1990年7月から導入しており,当院では胆嚢摘出手術のほぼ80%に施行されている.本稿では当院で使用されている腹腔鏡下胆嚢摘出術のクリニカルパス(以下,CP)について紹介する.CP導入にはその目的を明らかにすることが重要であり,医療スタッフの教育ばかりでなく患者に対する教育の徹底が必要と考えられた.不必要な入院期間の延長を避け,効率良く入・退院を行うツールとしてCPを使用しているが,一定の期間使用した後に見直して使いやすいように改定していくこと,導入前後の評価をしてCPの効用を理解してもらうこと,ヴァリアンスを評価することによりCPに適応する患者の逸脱を防ぐことが重要である.

乳癌手術症例に対するNavigation Care Mapの導入—電子カルテ上で展開するクリニカルパス

著者: 福間英祐 ,   比嘉国基 ,   渡井有 ,   草薙洋 ,   加納宣康 ,   吉良賢治 ,   榎本倫子 ,   高野理加 ,   渡辺京子 ,   鴇田真理子

ページ範囲:P.491 - P.496

電子カルテ上で展開するクリニカルパス
 近年,医療の質の向上が求められており,そのため1人の患者に多くのスタッフ・部門が関わることとなる.そこにおいて行われる医療行為,発生する医療情報は膨大なものとなる.医療の質を高めるためには各部門・スタッフ間での医療行為の連携.効率化と医療情報の共有が必要となる.そこでクリニカルパスが導入され,医療の高度な均質化がはかられている.しかし,クリニカルパスの効率的な運用にあたっては時系列での医療行為の管理と各部門がリアルタイムで情報を共有できることが必要になる.クリニカルパスを電子カルテ上で運用することはその2つの問題点の解決に有用である.当院では1995年から電子カルテ1,2)を開発・導入し,検査・投薬などのオーダーリングシステムのみならず画像閲覧,医師やコメディカルの記録などと連携し,運用している.その電子カルテ上に展開するクリニカルパスの目的は当然時系列での管理,医療行為の連携である.さらに各部門で発生する膨大な医療情報を各部門が効率的に,かつリアルタイムで共有するために各部門で発生した医療情報を実績マップとしてクリニカルパスの画面上で容易に閲覧できるように作製されている.

大学病院におけるクリニカルパスの導入

著者: 村井勝 ,   大谷俊郎 ,   北島政樹

ページ範囲:P.497 - P.502

 大学病院におけるクリニカルパス(CP)導入について,当院におけるCP導入の経緯と現状および将来計画について述べた.診療科医師,看護部,薬剤部,医療事務部,病院情報システム部などを含めた委員からなるCP推進委員会を設置し,27疾患の処置・千術についてCPを作成した.運用にあたっては既存のフォーマットのExcel形式変換プログラムを開発した.
 CP導入前後の比較では在院日数のバラつきがなくなり,かつ短縮化がみられた.レセプト請求からみた医療費も減少したが,入院基本料を除いた1日あたり医療費は増加傾向を認めた.CP導入により病院経済の効率化が期待できると考える.EBMに則って作成された診療ガイドラインが普及すれば医療がより望ましい方向へ向かうと思われるが,運用したCPの十分な検証が必要である.

カラーグラフ 正しい外科切除標本の取り扱い方・1

切除標本整理の基礎的知識・手順

著者: 徳原真 ,   森俊幸 ,   杉山政則 ,   跡見裕

ページ範囲:P.431 - P.436

はじめに
 標本整理の目的は,切除された標本を点検し肉眼所見を正確に記録することと,病理検査のために標本を適切に処理,固定することである1).正確な病理組織診断がなされるためには正しい標本の整理が不可欠であり,切除標本より得られる貴重なデータの収集,管理はまず,標本の整理を行う外科医の手に委ねられているといえよう.
 悪性腫瘍の切除標本の整理については“癌取扱い規約”に準じて行われている.細かい注意点や実際の手順については,各施設の独自のマニュアルによるか,オーベンからネーベンへ口述で伝えられていることが多いと思われる.しかし,とくに標本整理をまかされる若い研修医は,実際,整理をしながらどのようにすればよいのか迷うことも多いのではないだろうか.

目で見る外科標準術式・16

横行結腸切除術

著者: 橋口陽二郎 ,   望月英隆

ページ範囲:P.503 - P.509

はじめに
 横行結腸切除は横行結腸の良性腫瘍および早期癌に対してD0〜D1程度の郭清の手術として行われる場合には腹腔鏡補助下手術の良い適応と考えられる.一方,十分なリンパ節郭清を行うためには中結腸動脈を根部で切離し,大網および結腸間膜も広範に切離する必要があるため,標準的横行結腸切除は腹腔鏡補助下手術の対象となりにくいとされている.本稿では当科で施行している進行横行結腸癌に対する開腹によるD3郭清の横行結腸切除について述べる.

麻酔の基本戦略・8

覚醒と抜管

著者: 稲田英一

ページ範囲:P.511 - P.515

目標
 1.スムーズな覚醒をするような麻酔法について理解する.
 2.患者の覚醒状態や筋力の評価法について知る.
 3.抜管の条件を理解する.
 4.筋弛緩薬の拮抗法や,注意点について理解する.
 5.術後に酸素投与を行う理由について理解する.

外科医に必要な脳神経外科common diseaseの知識・9

眼窩骨折—頭蓋内気腫,眼窩眼瞼気腫,ブローアウト骨折

著者: 魏秀復

ページ範囲:P.516 - P.519

概念
 頭部外傷,顔面外傷に伴っての眼窩骨折はありふれたものである.眼窩は上下内外の四面の壁によって構成されていて四角錐に似ている.眼窩上壁(=前頭蓋底)骨折は前頭骨々折,前頭洞骨折に合併し,頭蓋内気腫や髄液鼻漏をきたすことがある.眼窩内側壁(=篩骨,篩板)骨折,眼窩下壁(=上顎洞上壁)骨折は眼窩内結合織や外眼筋が脱出して複視を併発することがある.また内側壁骨折には眼窩内気腫や眼瞼気腫をきたすことがある.眼窩内に眼動脈圧を越えて多量の空気が侵入するような眼窩内気腫は虚血により速やかに失明に至る軽視できない合併症がある.下壁骨折には眼窩下壁とそれに接する薄い板状の眼窩骨膜が破れ,その割れ目から眼球支持組織が下方の上顎洞内に脱出することがあり,眼球上転障害や複視を呈し「ブローアウト(blow-out)骨折」という名で有名である.下壁すべてが抜けることもある.眼窩外側壁骨折は多くの場合頭蓋骨々折に合併して起こることが多く,単独の骨折は骨の強固さから稀である.

外科医に必要な眼科common diseaseの知識・10

視力と屈折異常

著者: 澤充

ページ範囲:P.520 - P.522

はじめに
 屈折異常,斜視・弱視は視力,色覚異常は色の感覚に関係する内容である.これらは他の器質的眼疾患とは異なり,視機能(物を見る機能)として分類される事象である.これらの問題を述べる前に視覚について概説する.
 物を見る機能の基本である視覚は光覚,色覚,視的空間覚の3つの要素からなる(Hering).

病院めぐり

社会保険群馬中央総合病院外科

著者: 石川功

ページ範囲:P.524 - P.524

 当院は群馬県の県都,前橋市内にあります.前橋市は城下町で,東京より北に関越道で約100kmの関東平野に位置し,北の方には赤城山,榛名山,妙義山の上毛三山の屏風絵が眺望され,市内を利根川の本流が流れ,水と緑と太陽に恵まれた人口約29万人の文教都市です.
 当院の現在地は,城址に建つ群馬県庁や前橋市役所に近く,旧制前橋中学のあったところで,病院の入り口には前橋中学の記念碑があります.当院の歴史は古く,昭和8年に組合病院として発足,終戦後の昭和25年4月に社会保険に属する公的病院として新生され,今日に至っております.平成10年に現在の新病院の建築が完成し,本棟は8階建て,病床数は327床です.地域医師会と密接に協調した病診連携を主軸に,地域の基幹病院としての機能を果たしております.現在の常勤医師数は40名.うち外科は7名で,東京大学4名(副院長兼主任部長,部長,医員2名),群馬大学3名(医長2名,医員1名)で構成されております.

せんぽ東京高輪病院外科

著者: 小山広人

ページ範囲:P.525 - P.525

 当院は港区高輪の高台に位置しています.山の手線の内側にあり,品川駅,五反田駅,高輪台駅(都営浅草線)などが利用でき,交通の便もよい病院です.
 当院は財団法人船員保険会により昭和22年に設立され,東京船員保険病院の名称で昭和26年5月に渋谷区から当地に移転開設以来,社会保険庁の指導,援助のもと歴史を刻んでまいりましたが,平成11年4月,7年間にわたる全面建替え工事が完了し,最新の医療機器をそろえ,名称も『せんぽ東京高輪病院』と変更し,文字どおり新たなスタートをきったわけです.これに備えて,平成9年より循環器内科(東邦大学より),心臓外科(亀田総合病院より),脳神経外科(東京女子医科大学より)を診療科に加えてさらに充実させ,急性期医療を中心とする高度先進医療の提供を目指しています.健康管理センターも併設しており,健診予防医療にも力を注いでおります.

文学漫歩

—チェーホフ(著),神西清(訳)—「桜の園」(1954年,河出書房刊)

著者: 山中英治

ページ範囲:P.526 - P.526

「願はくは花のもとにて春死なむそのきさらぎの望月のころ」
 西行法師は山家集に遣したこの歌のとおりの旧暦2月に,河内国の弘川寺で没した.

南極物語

医務室

著者: 大野義一朗

ページ範囲:P.527 - P.527

 南極は日本とは季節が逆になる.3月,気温はどんどん下がっていった.
 騒々しかったペンギンやアザラシ,トウゾクカモメなどは天候が荒れるごとに姿が減り,越冬隊39人だけが取り残された.昭和基地では定常観測が淡々と続けられていた.

Expert Lecture for Clinician

縫合糸使用の現状と問題点

著者: 兼松隆之 ,   杉町圭蔵 ,   小野成夫 ,   桑野博行 ,   山本正博 ,   貞廣荘太郎

ページ範囲:P.531 - P.538

 兼松 ただ今から「職業感染と縫合糸使用の現況研究会学術講演会」を開始致します.
 初めに,杉町先生からご挨拶いただきたいと思います.

臨床研究

胃切除術既往症例における腹腔鏡下胆嚢胆管結石治療について

著者: 權雅憲 ,   乾広幸 ,   上山泰男

ページ範囲:P.539 - P.543

はじめに
 腹腔鏡下胆嚢摘出術(LC)は低侵襲手技として広く普及し,良性胆嚢病変に対する第一選択術式の地位を確立し,従来は相対的禁忌とされてきた上腹部手術既往症例にも適応が拡大されている1).胃切除術後には迷走神経切離による胆嚢収縮障害が要因となり,胆石が高い率で発生すると報告されている2〜4),胃切除既往症例は解剖学的位置関係から胆嚢周囲の癒着を伴い,腹腔鏡下のアプローチが困難となることが多いと考えられる.筆者らは当科における胃切除既往例に対する腹腔鏡下胆管結石治療の実際を手術適応の決定と手術手技の要点から検討した.

手術手技

フック型ハーモニック・スカルペル®を用いた頭側から尾側に向けた肝静脈処理による肝右葉切除

著者: 竹内仁司 ,   田中屋宏爾 ,   柚木靖弘 ,   武田晃 ,   安井義政 ,   小長英二

ページ範囲:P.545 - P.548

はじめに
 通常,系統的肝切除では肝門部グリソン鞘を遮断後,図1aのごとく肝切離は尾側から頭側,下大静脈流入部に向かって肝静脈本幹を露出しながら行われる.しかし,肝静脈は末梢ほど細い分枝が多く,切離方向の同定が困難である.また,鋭角に分枝を出しているため,分岐部で裂きやすい.こうした解剖学的特徴から図1bのごとく頭側から尾側に向かって肝切離したほうが合理的と考えられる1).そこで代表的な肝右葉切除でその手技を供覧する.

臨床報告・1

5'-DFUR・MPA併用療法が著効した進行乳癌症例

著者: 豊田秀一 ,   黒木祥司 ,   大城戸政行 ,   横畑和紀 ,   土居布加志 ,   有馬剛 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.549 - P.552

はじめに
 進行・再発乳癌に対する治療はanthracyclin系薬剤を含む多剤併用化学療法が主流であったが,近年,taxane系抗癌剤の単独ないし多剤併用療法が注目され1,2),また内分泌療法の重要性も再認識されている3).今回筆者らは進行乳癌多発転移例に対し5'-DFUR・MPA併用療法により原発巣,多発転移巣ともに著明な縮小効果を示し,術後4年間,担癌状態で生存中の症例を経験したので報告する.

大動脈解離による腹腔動脈閉塞に伴う胃・脾・膵体尾部梗塞の1例

著者: 中村貴成 ,   柴田高 ,   藤田淳也 ,   北田昌之 ,   島野高志 ,   高見元敞

ページ範囲:P.553 - P.556

はじめに
 解離性大動脈瘤の進行により解離腔が腹腔内主要動脈の起始部を巻き込み,これらの血流障害から臓器循環障害・虚血性腸炎・腸管壊死などに陥ることが報告されている1,2).解離性大動脈瘤では解離腔から出ている動脈分枝はreentryがない限り血流が維持されず,支配臓器の虚血や壊死を引き起こすためと考えられる.大動脈解離に腸管の虚血・壊死を合併する頻度は約5%で,その死亡率は80%を超えると報告されている1,2)
 今回筆者らは胸部大動脈瘤人工血管置換術後に大動脈解離の進行により腹腔動脈が閉塞し,胃・脾・膵体尾部梗塞をきたした症例を経験し,診断に苦慮しながらも緊急手術にて救命しえたので報告する.

腹腔鏡補助下に摘出した小腸平滑筋腫・平滑筋肉腫の2例

著者: 山本聖一郎 ,   固武健二郎 ,   清水秀昭 ,   尾形佳郎 ,   小山靖夫 ,   松井淳一

ページ範囲:P.557 - P.560

はじめに
 小腸平滑筋腫・平滑筋肉腫は発生頻度が低く,術前の組織診断が困難な場合が多いが,症例を選択すればほかの消化管悪性腫瘍と同様に腹腔鏡手術の適応になると考えられる1,2).筆者らは腹腔鏡補助下に切除した小腸平滑筋腫,平滑筋肉腫をそれぞれ1例ずつ経験したので,文献的考察を加えて報告する.

Diabetic mastopathyの1例

著者: 岸渕正典 ,   弥生恵司 ,   西敏夫 ,   山崎誠 ,   川崎勝弘 ,   加藤充 ,   松浦成昭

ページ範囲:P.561 - P.564

はじめに
 Diabetic mastopathyはインスリン依存性の糖尿病(以下,IDDM)患者に臨床的に乳癌との鑑別困難な乳腺腫瘤を認め,病理組織学的に間質の著明な線維化,乳腺の萎縮および乳腺小葉や乳管へのリンパ球浸潤をきたす病態である1).本邦での報告は8例にすぎず,比較的稀な疾患である.
 今回,筆者らはdiabetic mastopathyの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

メラニン染色および電顕像で診断した直腸肛門部無色素性悪性黒色腫の1例

著者: 上山直人 ,   渡辺明彦 ,   仲川昌之 ,   奥地一夫

ページ範囲:P.565 - P.569

はじめに
 直腸肛門部悪性黒色腫は比較的稀な疾患である.なかでも黒色調を呈しない無色素性悪性黒色腫はしばしば扁平上皮癌,悪性リンパ腫,カルチノイド,未分化癌,肉腫との鑑別診断1〜4)を要する.有色素性の悪性黒色腫の場合にはHE染色などで容易に確定診断されるが,無色素性悪性黒色腫の場合にはメラニン染色,DOPA染色によるメラニン顆粒の証明1),S-100タンパクを用いた免疫組織染色2),透過電子顕微鏡によるmelanosomeの確認1)などにより初めて確定診断が可能である.また,本症の悪性能は強いため予後はきわめて不良1,2,5〜8)である.
 今回,初診時脱出外痔核様所見を呈し,術前生検で移行上皮癌(疑)のもと手術が施行され,摘出標本のメラニン染色(Warkelらの方法9)-Fon-tana・Masson法より優れている)および透過電子顕微鏡検査で確定診断がつき,術後4か月で脳転移再発をきたした直腸肛門部の無色素性悪性黒色腫の1例を経験したので報告する.

特徴的な腹部CT所見を呈した大網裂孔ヘルニアの1例

著者: 龍沢泰彦 ,   大田浩司 ,   木下敬弘 ,   清水淳三 ,   川浦幸光

ページ範囲:P.571 - P.574

はじめに
 大網裂孔ヘルニアは比較的稀な疾患であり,術前診断は困難である.今回筆者らが経験した大網裂孔ヘルニアの1例について腹部CT所見を中心に若干の文献的考察を加えて報告する.

術中内視鏡により小腸ポリープのクリアランスを行ったPeutz-Jeghers症候群の1例

著者: 澤井照光 ,   井手昇 ,   辻孝 ,   安武亨 ,   中越享 ,   綾部公懿

ページ範囲:P.575 - P.578

はじめに
 Peutz-Jeghers症候群(以下,P-J症)は常染色体優性遺伝,口唇・四肢末端の色素斑,多発する消化管ポリープを主徴とする症候群で,その原因遺伝子として19p13.3に座位するLKB1/STK11がクローニングされた1,2).P-J症の臨床的問題は消化管を中心としたあらゆる臓器において発癌率が高いことである.P-Jポリープは組織学的には過誤腫であって,hamartoma-(adenoma)-carcinomasequenceについては詳細不明であるが,過誤腫からの直接癌化が示唆される臨床報告もみられる3〜5).こうした悪性腫瘍の発生や,腸閉塞・腸重積の合併がP-J症の予後を左右すると言われており,消化管ポリープのクリアランスは臨床医にとって重要な課題であると考えられる.クリアランスの方法として侵襲の面からは内視鏡摘除が理想的であるが,通常の内視鏡検査ではTreitz靱帯,あるいはBauhin弁からそれぞれ数十cmまでが到達できる限界である.今回,筆者らは腸重積をきたした内視鏡摘除不可能なP-J症に対し開腹術を行い,術中内視鏡の併用で小腸ポリープのクリアランスを施行した1例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?