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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科56巻7号

2001年07月発行

雑誌目次

特集 肝良性疾患—鑑別診断と治療法選択のupdate

肝良性腫瘍と肝細胞の過形成結節

著者: 山本雅一 ,   高崎健

ページ範囲:P.877 - P.882

 肝良性結節性病変は肝細胞性かそれ以外の結節であるのか,腫瘍性か非腫瘍性であるのかの判断が大切である.頻度が高く肝癌との鑑別で問題となるのは,肝細胞性結節では腺腫様過形成,肝細胞腺腫,限局性結節性過形成,大再生結節で,肝細胞性以外では血管腫,肝血管筋脂肪腫,胆管細胞腺腫などがある.典型例では鑑別診断が可能であるが,病変の小さなもの,肝炎併存例では診断が困難となる.また肝癌を画像や生検所見にて否定し得たにしても,長期にわたる経過観察が必要である.現在,肝結節性病変のterminologyが整理されつつある段階であり,今後は治療方針についての明確なevidenceを明らかとしなくてはならない.

肝血管腫

著者: 斎藤拓朗 ,   阿部幹 ,   後藤満一

ページ範囲:P.883 - P.888

 肝血管腫は腹部画像検査により偶発的に発見されることが多いが,他の肝腫瘍性病変との鑑別が重要な疾患である.腹部超音波検査,CT,MRI,血管造影,シンチグラムなどの組み合わせにより多くの症例では術前に診断が可能である.大半の症例は経過観察が可能であるが,有症状,大きさ4cm以上,Kasabach-Merritt症候群を呈する場合,悪性腫瘍との鑑別が困難な場合などは治療の対象となる.治療法は開腹による外科的切除が一般的で,術式は腫瘍の局在と占拠部位によって決定するが,基本的には核出術でよい.最近は腹腔鏡下切除も試みられている.破裂時の止血手段として動脈塞栓術は非侵襲的で有用である.

寄生虫性肝嚢胞

著者: 紀野修一 ,   葛西眞一

ページ範囲:P.893 - P.901

 寄生虫疾患で肝に嚢胞性病変をきたす可能性のある疾患として,肝包虫症,アメーバ性肝膿瘍,肝吸虫症,肝蛭症が挙げられる.最も遭遇する可能性が高い多包虫症は,北海道の風土病と思われているが,北海道以外でも患者が発生している.また,本症は進行すると肝悪性腫瘍に似た病態をとり,肺,脳などに転移性病巣を作るが,有効な化学療法が施行できるため,正確に診断し治療することが重要である.肝腫瘤性病変や嚢胞性病変で,日常経験する腫瘍や嚢胞と比較して非典型的な所見を呈する場合は,本症に特異的な血清診断を行い治療前に確定診断を得ることが大切である.

肝膿瘍—細菌性肝膿瘍

著者: 小森山広幸 ,   萩原優 ,   田中一郎 ,   鈴木博 ,   岡本英明 ,   宮崎治

ページ範囲:P.903 - P.912

 発熱と上腹部痛を訴え,血液生化学検査で白血球数とCRPの著明な上昇を認め,腹部超音波検査あるいはCT検査で肝に嚢胞状の腫瘤をみれば肝膿瘍の疑診は容易であり,さらに穿刺にて膿汁が得られれば確定診断に至る.しかし実際には肝腫瘍などでも同様な臨床経過や画像所見をとることがあり,鑑別に難渋することもある.肝膿瘍の治療としては,小さい単発の膿瘍では抗菌剤の使用のみでも軽快するが,症状や炎症所見が継続したり,膿瘍が3cmを越える症例には積極的に超音波誘導下のドレナージを計画すべきである.さらに肝膿瘍を誘発した原囚疾患の検索と治療が大切である.

肝膿瘍—アメーバ性肝膿瘍

著者: 廣安俊吾 ,   武藤良弘

ページ範囲:P.913 - P.917

 アメーバ性肝膿瘍は赤痢アメーバ(E.histolytica)の経口感染により,経門脈的に肝に達して膿瘍を形成した状態である.性別は圧倒的に男性に多く,海外渡航者,同性愛者,梅毒反応陽性がリスクファクターとされ,近年ではHIV感染との関連も問題となっている.熱発,右上腹部痛を認め,ときに右胸部症状を認める.膿瘍は典型的にはアンチョビペースト状で,無臭である.治療はメトロニダゾールを第一選択とし,必要に応じてドレナージを施行する.適切に対処されれば予後は比較的良好である.近年,分子生物学の発展に伴って新しい血清学的診断法が開発され,アメーバ症の根絶を目指したワクチン療法の確立が期待されている.

外傷性肝挫傷

著者: 富永正寛 ,   具英成 ,   黒田嘉和

ページ範囲:P.919 - P.925

 外傷による腹腔内臓器の鈍的損傷のなかで肝挫傷は25〜35%を占め最も高率である.肝挫傷の病態は出血と胆汁性腹膜炎であるが,最近はその診断と損傷形態の分類に超音波検査や腹部CTなどの画像診断が用いられ,治療方針の決定に役立っている.とくに以前は開腹術を選択する場合が多かったが,近年では呼吸,循環などバイタルサインが安定していれば厳重な経過観察の下に保存的治療が選択されている.ただし,輸液や輸血にても循環動態が安定せず,経時的に腹腔内出血量が増加してくる例や他臓器損傷の合併の可能性が高い場合などには開腹術の適応となる.全体では肝挫傷の死亡率は20%前後であり,とくにⅢ b型で主肝静脈や肝後部下大静脈に損傷が及ぶ例では死亡率は50%以上と依然として高く,救命には各種血行遮断を併用した緊急の外科的処置が必要となる.また肝挫傷は多発外傷を伴うことが多く,他の損傷を見逃さず,保存的治療を選択した場合にも注意深く経時的変化を追うことで,手術のタイミングを逸しないことが大切である.

カラーグラフ 正しい外科切除標本の取り扱い方・4

電顕標本の試料作製・取り扱いの原則

著者: 吉澤浩次 ,   櫻井達夫 ,   斉藤建 ,   永井秀雄

ページ範囲:P.869 - P.873

外科病理診断における電子顕微鏡の意義
 当院では,腫瘍をはじめ腎生検などさまざまな組織の病理診断に電顕(電子顕微鏡)検索を行っている.ここでは,主に外科医が扱う「腫瘍」などの切除標本の電顕の有用性・試料の取り扱い方について述べる.外科医にとっては電子顕微鏡はあまり馴染みがなく,とくに最近では通常のパラフィン切片に免疫組織化学や分子生物学的手法が応用できるようになり,その簡便さ,普及に押され,以前より電顕検索の有用性が注目されなくなった感もある.
 しかし,光顕(光学顕微鏡)と電顕とでは,どちらかといえば「光顕では組織」を,「電顕では細胞」を詳細に観察するものという特色の違いがある.したがって電顕検索は,光学顕微鏡では観察不十分な細胞レベルの微細構造を詳細に観察することで,腫瘍の組織発生・分化を知るうえで有力な情報を提供してくれることも多い.また,光顕で組織診断に迷う未分化な腫瘍などの鑑別に明快な所見を提示してくれる1).その反面,電顕では試料が小さく,観察できる範囲が非常に狭いため,氷山の一角をみているにすぎないという面や目的の腫瘍病変以外のものを誤ってみてしまう可能性も指摘されている1).したがって電顕の有用性と限界とをよくわきまえ,試料の選択・作製・観察を行うことが何より大切となる.

目で見る外科標準術式・19

腹会陰式直腸切断術

著者: 前田耕太郎 ,   丸田守人 ,   内海俊明 ,   佐藤美信 ,   千田憲一

ページ範囲:P.927 - P.934

はじめに
 近年超低位での吻合術式の改良や進歩により,直腸癌に対する腹会陰式直腸切断術の症例は減少している1,2).しかしながら,肛門近傍の病変などに対しては,根治性を保つために永久的なストーマを造設する腹会陰式直腸切断術を行う症例も少なくない.本稿では,筆者らの行っている標準的な術式について述べる.

麻酔の基本戦略・11

周術期管理:危機の回避(1)—呼吸器系のトラブル(1): 気道確保困難

著者: 稲田英一

ページ範囲:P.935 - P.939

目標
 1.気道確保や気管挿管困難症例に対する術前評価について理解する.
 2.気道確保困難な場合の対処法について理解する.
 3.気管挿管困難の場合の対処法について理解する.

外科医に必要な皮膚科common diseaseの知識・2

アトピー性皮膚炎

著者: 河内繁雄

ページ範囲:P.941 - P.943

疾患の概念
 「アトピー」とはギリシャ語の“a-topos”に由来し,「奇妙な」という意味であり,1923年にCocaらによって喘息や枯草熱に対して提唱された用語である.アレルギーの概念が確立された現在ではその発症に即時型アレルギーが関与する喘息,アレルギー性鼻炎・結膜炎,アトピー性皮膚炎(atopicdermatitis:AD)をアトピー性疾患とよぶ.これらの疾患をもつ患者の多くは身の周りのありふれた環境抗原に対してIgE抗体を産生しやすい遺伝的素因(アトピー素因)を有する.しかし,ADは前3者とは異なり,dry skinを中心とした非アレルギー性要因の関与も大きく,また即時型・遅延型アレルギーの両者が関連した複合型アレルギー疾患であることに留意したい.ADとは,「多くはアトピー素因をもち,皮膚の生理学的機能異常を伴い,アレルゲンや機械的刺激など多彩な特異的・非特異的刺激によって炎症を生じ,慢性に経過する湿疹である」と定義される1)

病院めぐり

日鋼記念病院外科

著者: 辻寧重

ページ範囲:P.944 - P.944

 日鋼記念病院は診療科23,従業員936人(医師84名),病床数544を有する総合病院で,北海道室蘭市に位置しています.厚生省指定の臨床研修病院,歯科医師臨床研修施設および地域災害医療センターでもあります.当院は以前は日本製鋼所の付属病院(通称日鋼病院)でしたが,1980(昭和55)年に会社より独立して日鋼記念病院となりました.その歴史をひも解くと遠く1911(明治44)年に,日本製鋼所の従業員と家族の診療のために設立された私立楽生病院が発祥で,ほぼ90年の歴史を有することになります.日鋼病院時代は日本製鋼所の発展とともに病院も大きくなりましたが,1975(昭和50)年前後から始まる鉄鋼産業の不況に伴い,病院も会社より独立しなければならなくなりました.この時代が日鋼病院の存続に関して最も危機的な時でありましたが,1978年に就任した第6代院長西村昭男(現理事長)はこの危機を逆にチャンスと捉え,“原点から考えなおす医療”を院是として,職員研修会を通して医師を含めた職員の徹底した意識改革を行い,さらに3期に分けて病院改築を行って現在の日鋼記念病院の基礎をつくりあげました.この間,医療はサービス業であるという理念のもとに,あらゆる職種,職域で医療の質を高めるために日々研鑽し,1997(平成9)年7月には日本医療機能評価機構の認定病院第1号を得ました.

社会保険船橋中央病院外科

著者: 高橋誠

ページ範囲:P.945 - P.945

 船橋の地は古事記にその起源があるとされる海の守り神の船橋大神宮もあり,江戸時代より東京湾(江戸前)の幸を船上げする港として,また宿場町,産業地として栄えてきました.現在,東葛南部地域医療圏6市のひとつとして人口55万人の市です.
 当院は国民医療保険制度の発足に伴い,全国に設立された社会保険病院のひとつで,昨年は設立50周年を迎えています.

文学漫歩

—ケッセル(著),堀口大学(訳)—『昼顔』(1968年,新潮社 刊)

著者: 山中英治

ページ範囲:P.946 - P.946

 新暦の七夕は梅雨時のため星が見えないことが多い.幼稚園児の時に短冊に「ウサギさんになりたい」と書いた長女も中学生となり,「ベガとアルタイルを確認する」と天体望遠鏡を組み立てている.「お父さんが望みをかなえてあげよう」と,バニーガールのつけ耳と網タイツを買ってきて,娘に着せて父娘で歓んでいたら私の母に叱られたことも記憶にないようだ.
 庭のフェンスには次女が春先にばらまいた朝顔が咲き始めた.昨年隣近所の花と交配したのか色とりどりで,中には紅白のストライプもあって縁組みとしてもおめでたい.ところで,朝顔はヒルガオ科で朝に咲く.昼顔は昼に咲き,夕顔は夕方に咲くがこれはウリ科である.

南極物語

ミッドウインター

著者: 大野義一朗

ページ範囲:P.947 - P.947

 「ドク,だめだ,動けない」とコングはダイビングのように手足を伸ばした格好で情けない声を出した.ぎっくり腰だ.担架で医務室へ運ばれ入院第1号となった.
 トイレに行くにも呻っている患者を尻目に基地ではミッドウインター祭が盛り上がっていた.一番太陽が遠くなる冬至を挟んだ約1週間,演芸大会・雪上10種競技・仮装・ウルトラクイズ・大食い大会など力の限り騒いだ.極夜期に蔓延する沈うつな気分は南極越冬症候群とも呼ばれている.その対策の意味もあり,どの国の基地でも催される.

臨床報告・1

結腸癌治癒切除後卵巣転移の1切除例

著者: 山口峰生 ,   小林中

ページ範囲:P.949 - P.952

はじめに
 転移性卵巣癌は本邦では胃癌からの転移が多く大腸癌からの転移は比較的少ない.決してまれな疾患ではないが,遠隔転移であるため予後も非常に悪く臨床上重要である.今回われわれは大腸癌術後8か月で左卵巣に転移をきたした症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

腋窩リンパ上皮嚢胞に発生した扁平上皮癌の1例

著者: 小林達則 ,   上川康明 ,   上山聰 ,   里本一剛 ,   藤井喬夫 ,   荻野哲也

ページ範囲:P.953 - P.956

はじめに
 リンパ上皮嚢胞は病理学的に扁平上皮または腺上皮の周囲に胚中心を伴うリンパ組織を持つまれな病因不明の嚢胞であり,頸部に発生する側頸嚢胞や鰓性嚢胞が代表的疾患で,まれに膵や消化管にも発生する1).今回われわれは,腋窩に発生した癌化を伴うリンパ上皮嚢胞の1例を経験したので報告する.

異時性両側性閉鎖孔ヘルニアの1例

著者: 谷口正展 ,   増田靖彦 ,   小原弘嗣 ,   丹羽弘之 ,   平井利幸

ページ範囲:P.957 - P.959

はじめに
 閉鎖孔ヘルニアは比較的まれな疾患であるが,近年,画像診断法の発達と本疾患に対する認識の高まりに伴い,数多くの症例が報告されてきている.今回,われわれは異時性に発生した両側閉鎖孔ヘルニアの1例を経験し,再発時には自然還納されていた症例を経験したので報告する.

腸重積をきたした盲腸子宮内膜症の1例

著者: 森下実 ,   山田哲司 ,   八木真悟 ,   北川晋 ,   中川正昭 ,   車谷宏

ページ範囲:P.961 - P.964

はじめに
 子宮内膜症は子宮内膜組織が異所性に増殖する疾患で,婦人科領域では頻度の高い疾患である.比較的まれに腸管発生例がみられ,消化器外科領域においてもその診断および治療が問題となってくる1).今回,腸重積をきたした盲腸子宮内膜症を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

胃切除後の魚骨による小腸穿孔の3例

著者: 宇高徹総 ,   曽我部長徳 ,   前田宏也 ,   水田稔 ,   白川和豊 ,   大屋崇

ページ範囲:P.965 - P.968

はじめに
 嚥下された魚骨は通常は消化されるか,または消化管を損傷させることなく自然排泄される.しかし,ときに消化管穿通・穿孔のため,急性腹膜炎を起こしたり,腹腔内膿瘍や慢性肉芽腫を形成し外科的治療の対象となることが少なくない1).今回われわれは,胃切除後に魚骨による小腸穿孔により腹膜炎を起こした3例を経験したので報告する.

CT所見が有用であった子宮広間膜異常裂孔ヘルニアの3例

著者: 豊田和広 ,   中塚博文 ,   眞次康弘 ,   小川尚之 ,   大城久司 ,   小川喜輝

ページ範囲:P.969 - P.971

はじめに
 子宮広間膜異常裂孔に生じた内ヘルニアは非常にまれな疾患であり,術前診断は困難とされている1).これまでの報告でもほとんどが術中に本疾患と診断されているが,最近,術前のCT検査の有用性を指摘する報告も散見される2〜7).これまでわれわれは,本疾患を3例経験し2例はそれぞれ報告してきた1,7).この3例に対してはいずれも術前CT検査を施行しており,子宮広間膜異常裂孔ヘルニアに特徴的なCT像の所見が得られたので報告する.

Brunner腺由来と考えられた早期十二指腸癌の1例

著者: 小林達則 ,   上川康明 ,   上山聰 ,   里本一剛 ,   藤井喬夫 ,   荻野哲也

ページ範囲:P.973 - P.977

はじめに
 上部消化管の検診の普及や内視鏡検査の進歩により,十二指腸腫瘍の報告例は近年増加傾向にある.今回われわれは,十二指腸下降脚に発生した隆起性病変の局所切除を施行し,病理学的に十二指腸Brunner腺から発生した早期十二指腸癌と考えられたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

99mTc-DTPA-HSAシンチグラフィーが術前診断に有用であった蛋白漏出性胃癌の1例

著者: 南木浩二 ,   稲葉行男 ,   林健一 ,   戸屋亮 ,   大江信哉 ,   渡部修一 ,   千葉昌和

ページ範囲:P.979 - P.982

はじめに
 蛋白漏出性胃腸症は,アルブミンを主とする血清蛋白が消化管内腔へ異常漏出することによって引き起こされる病態であり,まれではあるが胃癌などの消化管悪性腫瘍も原因となる1).しかし,従来の画像診断では,感度が低いため,蛋白漏出部位の同定は非常に困難であった.今回われわれは,胃癌からの蛋白漏出を99mTc-DTPA(diethyl-enetriamine-pentaacetic acid)-HSA(human serumalbumin)を用いることで高精度に評価し,胃切除により低蛋白血症を改善し得た1例を経験したので報告する.

慢性関節リウマチ治療中に発症した子宮留膿症穿孔の1例

著者: 斎藤典才 ,   山岸雅司 ,   渡辺博之 ,   横山隆 ,   原和人 ,   村山隆司

ページ範囲:P.983 - P.985

はじめに
 子宮留膿症穿孔(以下,本症)はまれな疾患で,治療が遅れると腹膜炎,敗血症を併発し重篤となる1).今回われわれは,慢性関節リウマチの治療中でFK506投与試験を終了後に本症を併発し,救命できなかった症例を経験した.本症は文献報告例をみるかぎり高齢者に多く,60歳での発症は比較的若年齢と思われる.このため本症例の発症理由について,若干の文献的考察を加え報告する.

イレウスを契機として診断された進行びまん浸潤型胃癌大腸転移の1例

著者: 川﨑浩之 ,   佐々木一晃 ,   高坂一 ,   仲川尚明 ,   矢花剛 ,   平田公一 ,   近藤信夫

ページ範囲:P.987 - P.991

はじめに
 進行したびまん浸潤型胃癌(Ⅳ型胃癌)は今日では上部消化管内視鏡検査(GIF)で容易に診断されるものである.本疾患は腹膜播種やリンパ節転移を高頻度1)に認め,腹部腫瘤や腹水を合併することも多い.しかし,肉眼的に腹膜播種や腹水または他臓器転移所見を認めない状態において大腸転移のみが明らかとなって診断されることはまれである2).とくに転移巣の症状を主訴に発症した症例は報告されていない3)
 今回,腹痛,大腸イレウスで発症し腹部単純X線,注腸造影,腹部CT検査などで大腸癌イレウスと診断し,イレウス管による治療を行った.そのため上部消化管検査が不十分となり,手術中に腹膜播種を認めないⅣ型胃癌による大腸転移との診断に至った1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

光ガイドキーボード装置を用いた高齢者周術期音楽療法の試み

著者: 近森文夫 ,   国吉宣俊 ,   渋谷進 ,   高瀬靖広

ページ範囲:P.993 - P.997

はじめに
 本邦における平均寿命は20世紀後半に急速な延びを示したが,高齢化社会はさまざまな問題を提起している.一般外科臨床においても,顕性あるいは潜在的痴呆状態をかかえる高齢患者に遭遇し,適応について悩みながら外科手術を遂行しなければならない場合も少なくない.高齢者における周術期のせん妄など,精神機能の異常発現頻度は非高齢者に比べて明らかに高く1〜4),周術期精神機能障害を最小限におさえ,かつ術後の生活機能を低下させない工夫が望まれている.これまでの急性疾患罹患後のリハビリテーションはどちらかというと筋力トレーニングプランを主体とするものが多く,患者の心,すなわち脳の情動中枢を刺激するものは少ない.現在,音楽療法はストレス解消や痴呆状態に対する応用などどちらかというと慢性的な神経・精神科領域で積極的に試みられているものの5〜7) ,急性疾患とくに外科領域における音楽療法は今なお未開拓の状況といえる.そこで今回,光ガイドキーボード装置を用いた周術期音楽療法の試みについて報告する.

胸壁に発生した巨大な悪性線維性組織球腫の1手術例

著者: 金子隆幸 ,   生田義明 ,   小林広典 ,   杉原重哲 ,   江上哲弘

ページ範囲:P.999 - P.1002

はじめに
 悪性線維性組織球腫(以下,MFH)が胸壁に発生することはまれで,局所再発や遠隔転移を起こしやすく予後不良といわれている1〜3).今回われわれは,初診時すでに胸壁に巨大な腫瘤を形成していたMFHの手術を行い,切除後5年経過し再発の徴候を認めない1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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