特集 肝良性疾患—鑑別診断と治療法選択のupdate
外傷性肝挫傷
著者:
富永正寛1
具英成1
黒田嘉和1
所属機関:
1神戸大学医学部第1外科
ページ範囲:P.919 - P.925
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外傷による腹腔内臓器の鈍的損傷のなかで肝挫傷は25〜35%を占め最も高率である.肝挫傷の病態は出血と胆汁性腹膜炎であるが,最近はその診断と損傷形態の分類に超音波検査や腹部CTなどの画像診断が用いられ,治療方針の決定に役立っている.とくに以前は開腹術を選択する場合が多かったが,近年では呼吸,循環などバイタルサインが安定していれば厳重な経過観察の下に保存的治療が選択されている.ただし,輸液や輸血にても循環動態が安定せず,経時的に腹腔内出血量が増加してくる例や他臓器損傷の合併の可能性が高い場合などには開腹術の適応となる.全体では肝挫傷の死亡率は20%前後であり,とくにⅢ b型で主肝静脈や肝後部下大静脈に損傷が及ぶ例では死亡率は50%以上と依然として高く,救命には各種血行遮断を併用した緊急の外科的処置が必要となる.また肝挫傷は多発外傷を伴うことが多く,他の損傷を見逃さず,保存的治療を選択した場合にも注意深く経時的変化を追うことで,手術のタイミングを逸しないことが大切である.