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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科56巻8号

2001年08月発行

雑誌目次

特集 閉塞性黄疸の診療手順

閉塞性黄疸の病態—臨床現場の理解

著者: 高崎健 ,   大田岳洋 ,   吾妻司

ページ範囲:P.1019 - P.1022

はじめに
 閉塞性黄疸は外科臨床では日常的に遭遇する症状であり,それらに対する対応については多くの検討がなされて来た結果,大部分の症例には標準的となった処置がなされるようになった.診断については多くの画像検査が開発された結果,診断に苦慮する機会は稀なこととなっている.しかしながら,確定診断に到達するまでの時間については必ずしも問題がないわけではない.今後はいかに短時間に,少ない検査で診断に到達するかといった観点での検討が必要である.
 また治療については閉塞性黄疸の病態には個人差があり,多様で,肝臓はもとより全身的にも多くの障害が引き起こされるので,対応に苦慮する症例に現在でもしばしば遭遇する.治療経過中に予想される合併症をいかにして防いで,短時間でしかもスマートに治療を完結できるかといった目標を重視すべき時代となって来ている.ここでは現在の臨床現場での対応について,筆者らの理解を述べるとともに,更にはっきりさせてほしい点について触れてみたい.

閉塞性黄疸の画像診断

閉塞性黄疸の超音波診断

著者: 金子哲也 ,   中尾昭公

ページ範囲:P.1023 - P.1027

 超音波検査(US)は閉塞性黄疸に対して最初に行うべき検査法であり,閉塞性部位を正確に診断できる.外科医が初診の段階で無処置の閉塞性黄疸患者に対しUSを行う機会は少ないと思われるが,もしそのような機会があれば鑑別診断はもとより悪性疾患を疑った場合には減黄方法,PTBD穿刺ライン,staging,術式などを想定して行うとよい.最新の高性能の超音波診断装置ではtissue harmonic imagingが可能で高画質となり,各種Doppler機能を駆使することでよりUSの診断能は向上した.しかし検査医の解剖学的知識,技量,熱意が超音波診断には何より大切である.

CTによる閉塞性黄疸の診断

著者: 布施明 ,   平井一郎 ,   木村理

ページ範囲:P.1029 - P.1035

 閉塞性黄疸は肝,胆道,膵などの多くの臓器のさまざまな疾患で発生する.したがって,閉塞性黄疸の診断にはこれらの臓器を広く一定以上の精度で診断できるCTが最も適している.閉塞性黄疸の診断では閉塞部位の診断,閉塞原因の質的診断,悪性腫瘍における進展度診断の3点が重要であるが,CT以外の画像診断でこのすべてを満たす検査はない.さらに,最近のCT診断装置の進歩は著しく,中でもヘリカルCTによる診断能の向上はめざましいものがある.特に,悪性腫瘍の進展度診断の面では血管浸潤を中心とした周囲への浸潤の描出に優れており,CT画像なしでの手術は考えられないと言っても過言ではない.ただし,良好な画像を得るためには,胆道ドレナージ前に撮影する,適切な撮影法を選択するなどの配慮が必要であり,精密に読影する必要がある.
 閉塞性黄疸におけるCTの有用性は,ヘリカルCTによる描出能の向上により以前よりもさらに増している.

MRCPによる閉塞性黄疸の診断

著者: 杉山政則 ,   正木忠彦 ,   森俊幸 ,   跡見裕 ,   高原太郎 ,   蜂屋順一

ページ範囲:P.1037 - P.1040

 MRCPは膵胆道系を明瞭にかつ非侵襲的に描出できる検査法である.ERCPのように検者に特別な技術を要さない.閉塞性黄疸例のMRCPでは胆管閉塞の部位・原因の診断が正確に行える.MRCPではERCPやPTCと異なり狭窄・閉塞部の遠位側の情報が得られる.またMRCPによる胆道の情報は胆道ドレナージ法の選択に有用である.黄疸症例で超音波検査により胆管拡張を認める場合は閉塞性黄疸を疑い,すぐにMRCPを施行する.閉塞性黄疸の診断目的のみのERCPやPTCはMRCPに置き換えられつつある.

PTC,ERCP,MRCPによる閉塞性黄疸の診断

著者: 味木徹夫 ,   黒田嘉和

ページ範囲:P.1041 - P.1045

 閉塞性黄疸の確定診断にPTC,ERCP,MRCPはそれぞれが補完的な立場にあり,これらの検査を併用し,良悪の診断を行い,治療方針を決定する.PTC,ERCPは侵襲的な検査であるが,胆汁,膵液,組織採取が可能で,また,胆道ドレナージや胆管結石切石などの具体的な治療に結びつく.悪性疾患ではPTCとERCPの併用により癌の進展範囲の決定を行う.MRCPは無侵襲な検査法であり,スクリーニング検査として注目される.MRCPでは閉塞部位の上下流とも同時に描出が可能で,ERCPが不可能な消化管再建術後例にも利用できる.

減黄ドレナージ術

Evidence based medicine(EBM)からみた胆道ドレナージの適応

著者: 黒木祥司 ,   千々岩一男 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.1047 - P.1050

 本邦では閉塞性黄疸患者の術前には胆道ドレナージにより減黄することが当然とされているが,欧米では前向き無作為割付臨床試験の結果を根拠として減黄しないで手術することも多い.しかしながら,無作為試験の結果を正しく評価するためには欧米と日本との医療環境の相違点を理解することが必要である.本稿では,これまでに報告された前向き無作為試験の結果を概説し,EBMの立場から術前の減黄術の適応に関して考察した.

ENBDを用いた緊急胆道ドレナージ

著者: 大谷泰雄 ,   飛田浩輔 ,   堂脇昌一 ,   石過孝文 ,   杉尾芳紀 ,   柏木宏之 ,   石井正紀 ,   種田靖久 ,   田中豊 ,   田島知郎 ,   幕内博康

ページ範囲:P.1051 - P.1054

 閉塞性黄疽による急性胆管炎は比較的軽症のものから急性閉塞性化膿性胆管炎などの重症なものまであり,種々の病態をとり,重症胆管炎の死亡率はきわめて高いのが特徴である.従来,内視鏡的緊急胆管ドレナージはEST施行後の胆管炎や結石嵌頓の予防の目的で挿人されることが報告されているが,筆者らは緊急胆管ドレナージを迅速に施行するためにESTを施行することなしに細径5FrのENBDチューブを挿入し,減黄や胆管炎の消失を待って,追加治療としてEST・ESWL・EPBD・手術などの施設にあった治療方法を選択することが可能と考える.

閉塞性黄疸に対する胆道ドレナージ術後減黄不良の原因と対策

著者: 久保正二 ,   木下博明 ,   広橋一裕 ,   田中宏 ,   塚本忠司 ,   首藤太一 ,   竹村茂一

ページ範囲:P.1055 - P.1057

 閉塞性黄疸に対する減黄術後の黄疸遷延例では肝のみならず全身の各種機能障害から種々の合併症を惹起する.その原因には高度および長期黄疸,ドレナージカテーテルのトラブルやドレナージされる肝領域の不足など不適切な胆道ドレナージ,胆道感染,悪性腫瘍などの基礎疾患の進展,他の肝障害併存や糖尿病などの併存疾患などがある.個々の症例においてそれらの病態の把握とそれに応じた対処が必要となる.

病態からみた診療手順

閉塞性黄疸を伴う肝門部胆管癌の診療手順

著者: 新井利幸 ,   梛野正人 ,   神谷順一 ,   上坂克彦 ,   湯浅典博 ,   小田高司 ,   二村雄次

ページ範囲:P.1059 - P.1065

 閉塞性黄疸を伴う肝門部胆管癌では区域胆管枝が肝門部で分断されていることが多いため,PTBDによる胆道ドレナージを第一選択とすべきである.複数のPTBDを行うことにより各肝区域の胆汁排泄能の改善,区域性胆管炎の予防と治療,さらに,PTBDカテーテルから選択的胆管造影や経皮経肝胆道鏡検査を行えば癌の胆管壁内の進展度診断が可能になる.胆管壁外への進展度診断にはCT,動脈造影,経皮経肝門脈造影が必要である.広範囲肝切除が予定された場合には経皮経肝門脈枝塞栓術を行う.外瘻胆汁は全量を経管的に腸管内へ戻し,肝再生の促進,栄養状態の改善,bacterial translocationの予防に努める.根治切除には尾状葉切除を伴う肝区域切除を行う.術後は経腸栄養の早期開始,カラードップラーによる肝血流動態のチェックが必要である.
 閉塞性黄疸で発症することの多い肝門部胆管癌症例では十分な減黄を行っても胆汁排泄能や免疫能は完全には回復しない.また,根治切除には広範囲肝切除が必要となる場合が多いことから,術後の感染性合併症・肝不全の発生が少なくない.しかしながら,良好なQOLと長期予後をもたらすのは唯一根治切除であることから,きめ細かい術前・術後管理に基づいて,積極的に切除を行うことが重要である.本稿では筆者らの行っている閉塞性黄疸を伴う肝門部胆管癌の診療手順を,その理論的根拠を示しつつ具体的に解説する.

中下部胆管の腫瘍性閉塞の診断

著者: 三国潤一 ,   大内清昭

ページ範囲:P.1067 - P.1069

 中下部胆管の閉塞をきたす腫瘍性疾患の診断には各種超音波検査(体外US,EUS,IDUS)が非常に有用である.質的診断を含め深達度診断,脈管浸潤,リンパ節転移などについて外科に必要な多くの情報が得られる.これらに加え,直接胆道造影(ERC,PTBD造影),CTスキャン,血管造影,PTCSなどを用いて進展度診断を行うが,胆管癌の場合腫瘍の水平方向の進展を確定することは未だ困難な場合が多い.新しい診断法としてMRCP,3D CT,3D IDUSなどコンピュータによる画像処理を駆使したものが急速に発達してきている.近い将来,高精度で低侵襲の診断法として普及することが期待される.

総胆管結石による閉塞性黄疸の診療

著者: 塚田一博 ,   貫井裕次 ,   津田祐子 ,   坂東正

ページ範囲:P.1071 - P.1074

 総胆管結石の中で閉塞性黄疸をきたすものは不顕性黄疸を含めると63%に認められた.結石による閉塞性黄疸は自然に軽快することもあるが,ほとんどの場合胆道感染症を伴っている.胆石の嵌頓をきたしていることもあり,急性閉塞性化膿性胆管炎を併発すると重篤であり,速やかな減圧減黄処置が必要である.減黄方法では経皮経肝胆道ドレナージのほか最近では内視鏡的胆道ドレナージが広く行われている.総胆管結石の治療は結石の除去であるという考えに従い,十二指腸乳頭機能をできるだけ温存する方法が一般的となりつつあり,根治治療としての胆道付加手術の適応は限定されてきている.とくに閉塞性黄疸の有無でこの治療方針が左右されることは少ない.乳頭拡張術などでの胆管結石の除去が可能であった場合,残った胆嚢胆石に対しては腹腔鏡的胆嚢摘出術が適応される.

術後黄疸遷延例への対策

術後黄疸遷延例に対する薬物療法

著者: 伊佐地秀司 ,   田岡大樹 ,   横井一 ,   川原田嘉文

ページ範囲:P.1075 - P.1081

 閉塞性黄疸症例では黄疸による肝障害や胆管炎,外胆汁瘻造設による腸肝循環の欠如など術前因子も重なり,術後黄疸の病態は複雑で,さらに肝切除例では肝細胞性黄疸の因子も加わり,黄疸の成因を明確にすることは困難なことが多い.本稿では,術後黄疸の鑑別診断と黄疸遷延因子やその予測について簡単に触れ,ついで閉塞性黄疽症例における術後黄疸遷延例(肝内胆汁うっ滞症)の対策と薬物療法につき概説し,特に胆汁分泌動態やBT制御の観点からUDCAと排泄自家胆汁再投与の有用性を指摘した.術後の肝内胆汁うっ滞症に対しては未だ確立されて薬物療法がなく,今後多数例での検討が必要である.

術後黄疸遷延例に対する血液浄化法

著者: 吉田雅博 ,   高田忠敬 ,   安田秀喜 ,   天野穂高

ページ範囲:P.1083 - P.1087

 術後黄疸遷延の原因には,①減黄術によって血中ビリルビンは正常化しても,閉塞性黄疸の状態で低下した肝組織血流量,肝エネルギーチャージは十分回復しているとは限らないこと,②手術侵襲による高ビリルビン血症,③感染,bacterial translocation(エンドトキシン)による直接的な肝細胞傷害があげられる.血液浄化法の適応としてはAKBRに代表されるエネルギー代謝状態,プロトロンビン活性にみられる蛋白合成能,ビリルビン,アンモニアなどの物質除去能,肝性昏睡,細網内皮系機能としてのエンドトキシン除去能,総ビリルビン値などを指標とする.人工肝補助療法としては持続血漿交換と持続血液濾過透析が有用とされている.今後,肝移植へのbridge useあるいは肝移植の周術期管理においても重要な役割を担うこととなると期待されている.

カラーグラフ 正しい外科切除標本の取り扱い方・5

標本整理,標本固定の原則

著者: 風間伸介 ,   渡邉聡明 ,   名川弘一

ページ範囲:P.1011 - P.1016

はじめに
 外科医にとって,手術手技や検査手技を修得するだけではなく,自分で切除標本の整理をし,その切除標本の肉眼所見の読み方,病理標本の基本的な診断を修得することは,術前診断の観点から重要な学習項目である.
 現在の診断学は,外科医が基本に忠実に標本整理,標本固定を行い,その標本を病理医にゆだね,病理医が再構築をしたうえで最終診断がなされる,という一連の過程を積み重ねて進歩してきた.また最近では,臨床材料を用いた分子生物学的研究も行われてきているが,この場合も正しい標本整理とそれに基づく病理診断が基本となっていることは言うまでもない.

病院めぐり

—労働福祉事業団—釧路労災病院外科

著者: 小笠原和宏

ページ範囲:P.1088 - P.1088

 釧路湿原国立公園に隣接する釧路市は北海道東部の中核都市です.夏は湿潤,冬は乾燥する気候で,平均気温が低いほかは関東の沿岸地方と似たような気候です.市街地を少し離れると,湿原のカヌー下りや丹頂鶴を楽しむことができ,温泉にも恵まれています.何といっても,海産物の美味しさは釧路ならではのものでしょう.
 釧路労災病院が開設されたのは1960(昭和35)年で,昨年40周年を迎えました.1997(平成9)年に着手の増改築工事も,1999(平成11)年3月に鉄骨コンクリート9階建ての新病棟(本館)が完成,本年1月には外来棟も完成して,外周整備を残すのみとなりました.病床数は500床でほぼ100%の稼働率を維持,外来も1日平均1,500名を68名の常勤医で診療しています.人口密度の低い地域がら,釧路市民のみならず遠くから2時間以上かけて通院してくる患者さんもいらっしゃいます.

—JA北海道厚生連—札幌厚生病院外科

著者: 岡田邦明

ページ範囲:P.1089 - P.1089

 札幌厚生病院は1957(昭和32)年に札幌北農病院として開設されました.
 1961(昭和36)年に外科が新設され,1968(昭和43)年に札幌厚生病院と名称が変更されました.その後の増床・増築,医療機器の近代化により,敷地・施設が狭隘化したため,1994(平成6)年10月にJR札幌駅の東約1.5km,サッポロビール園の近くの現在地に新築移転しました.

私の工夫—手術・処置・手順

胃管瘻造設時の工夫

著者: 渡部脩 ,   岩瀬博之

ページ範囲:P.1090 - P.1091

 食道癌の手術侵襲は大きく,開胸操作もあり,経鼻胃管に誘発されて肺合併症を起こすことはしばしば経験される.また縫合不全の管理のための減圧効果,栄養補給のための経腸栄養のためにも,われわれは空腸瘻のひとつである胃管瘻を積極的に加味している.しかしその造設にもいろいろな合併症はある.Gerndtら1)は523例の食道疾患の手術にWitzel型腸瘻を造設して,11例(2.1%)の合併症を報告している.なかでも癒着,捻転によるイレウスが5例と最多であった.腸瘻造設の部位はTreitz靱帯から肛門側にGerndtら1)は15cm,Trotterら2)は20〜40cmを推奨し,Mc-Gonigalら4)は腸瘻部分での癒着や捻転を防ぐには1footが適当と記している.また腹腔内での固定に関しては腸瘻部分の口側と肛門側に2針ずつ腸を腹膜に縫合するとの記載がみられるのみである3).そのような状態ではTreitz靱帯から腸瘻までの間隙に腸が陥凹し,内ヘルニアを生じたり,捻転を起こすこともある.われわれはこれらの合併症を防ぐためには,Treitz靱帯から腸瘻までの距離をなるべく短くして,たるみを少なくするには25cmが最も適切であると考えているが,癒着や手術時の状況によってはより長くなることもある.

文学漫歩

—野坂昭如(著)—『火垂るの墓』(1972年,新潮社 刊)

著者: 山中英治

ページ範囲:P.1092 - P.1092

 人気歌手の三波春夫さんの訃報と重なったためか大きく報じられなかったが,華道・草月流家元で映画監督の勅使河原宏さんがこの4月に逝去された.実は私のアルバムには家元のご母堂と一緒に写った写真がある.
 1987年に南紀の古座川病院に出向していた時,暇だったので花婿修行?に草月流に入門した.元町長の娘さんが草月流のかなり高位の師範で,自宅で沢山のお弟子さんに教えておられた.それで家元のご母堂が南紀を訪問された際に私も師範に随行して,夕食のお相伴に預かった際の写真である.上品な白髪のご婦人は「外科医も鋏を持ったアーティストでしょ.芸術は人生の糧になるから華道はお続けなさいましね」と仰った.大学に戻った私は言いつけを守らなかったので芸術的センスのない外科医となった.

南極物語

厳寒期の凍傷

著者: 大野義一朗

ページ範囲:P.1093 - P.1093

 極夜が明けた7,8月,寒さは一段と厳しくなった.快晴時には放射冷却が進み,日中でも−30℃を切った.8月2日漁協係の釣行があり,1m厚の氷に開けた穴からショウワキスが釣れた.この魚は−2℃の海中でも血液が凍らない特殊な血漿蛋白質を持っているが,釣り上げた途端に凍結した.基地に持ち帰り,水に入れるとまた泳ぎ出し,みんなをびっくりさせた.
 厳寒の中,大陸調査の準備が始まった.昭和基地はオングル島にあり,大陸までは海を渡らなければならない.磁石で方位を切り,氷の厚さを測り,氷の割れ目を避け,巨大な氷山を迂回し,距離を測定して旗を立てていくルート工作.スノーモービルで走るこの作業は確実に顔面の凍傷を作った.大陸へのルートが完成すると,そこにデポしてある内陸用大型雪上車の整備だ.強風のなかで冷え切った車体に触れる作業はすぐに指先が痛くなり,それを我慢すると感覚が消え,凍傷になった.

外科医に必要な皮膚科common diseaseの知識・3

表在性皮膚真菌症

著者: 松本和彦

ページ範囲:P.1094 - P.1096

白癬(皮膚糸状菌症)の概念
 皮膚糸状菌が侵入,増殖したために生じる病変を白癬(皮膚糸状菌症)という.皮膚糸状菌はケラチンを栄養源として生息するため,ケラチンに富む表皮角層,爪,毛包内角質および毛に感染し病巣を生じる.
 病変の存在する部位により,(1)頭部白癬,(2)顔面白癬,(3)体部白癬,(4)股部白癬,(5)足白癬,(6)手白癬,(7)爪白癬などの疾患に分けられている.

麻酔の基本戦略・12

周術期管理:危機の回避(2)—呼吸器系のトラブル(2):血液ガスの異常

著者: 稲田英一

ページ範囲:P.1097 - P.1101

目標
 1.低酸素血症の早期診断ができる.
 2.低酸素血症へ系統的にアプローチできる.
 3.高二酸化炭素血症の診断ができる.
 4.高二酸化炭素血症へ系統的にアプローチできる.

目で見る外科標準術式・20

直腸癌に対する前方切除術

著者: 森武生

ページ範囲:P.1103 - P.1109

はじめに
 直腸癌に対する前方切除術は古くて新しい術式である.つまり原理的には腹腔内で直腸を切除し吻合することは可能であるはずだが,手術技術や栄養管理などの補助療法が進歩していない時代には腹腔内で縫合不全を起こすことは致命的であったために,採られなかった術式であった.しかし1970年代からは周辺の環境が整ったために,積極的に行われるようになり,現在では低位直腸癌であっても標準的な術式となっている.本稿では,基本的に癌が腹膜反転部にかかる位置にある進行癌と想定して叙述を進めたい.

臨床報告・1

盲腸癌に併存した高齢者回腸脂肪腫による腸重積の1例

著者: 松尾浩 ,   山内一 ,   近藤哲矢 ,   三鴨肇 ,   渡辺進 ,   下川邦泰

ページ範囲:P.1111 - P.1114

はじめに
 小腸腫瘍は比較的稀な疾患で,術前検査が難しく診断は必ずしも容易ではない.今回筆者らは盲腸癌に併存した高齢者回腸脂肪腫による腸重積を経験したので報告する.

慢性腎不全患者に発生した男性乳癌の1例

著者: 斎藤信也 ,   猶本良夫 ,   片岡正文 ,   松岡順治 ,   田中紀章 ,   平松聡

ページ範囲:P.1115 - P.1117

はじめに
 慢性腎不全患者における悪性腫瘍の発生頻度は健常者のそれに比べて高い1)とされているが,その中で男性患者の乳癌の報告は非常に稀である2).一方,男性乳癌そのものは全乳癌の1%程度の発生頻度と言われて3)おり,その報告も少なくない.
 今回,筆者らは慢性腎不全の男性患者に発生した乳癌を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

肝転移を伴った直腸原発gastrointestinal stromal tumorの1例

著者: 田中弘之 ,   谷口正次 ,   指宿一彦 ,   古賀和美 ,   岩本勲 ,   木佐貫篤

ページ範囲:P.1119 - P.1123

はじめに
 消化管に発生する腫瘍は多くが上皮性であり,大腸では非上皮性腫瘍の占める割合は3.0%と比較的稀である1).これら消化管に発生する紡錘形細胞を主体とした非上皮性腫瘍に対して,1983年頃に病理学からgastrointestinal stromal tumor(GIST)の総称が導入された3).これは,従来その細胞形態や細胞配列から筋原性あるいは神経原性などとされていた腫瘍を,免疫組織化学的手法によりその起源を明確にして分類するものである.今回,筆者らは肝転移を伴った直腸原発の非上皮性腫瘍で,免疫組織化学的検索によりGIST(smooth muscle type,malignant)と確認された症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

右横隔膜下と肝表面間に孤立性の播種性転移をきたした卵巣未熟奇形腫の1切除例

著者: 桜井嘉彦 ,   宮北誠 ,   古川潤二 ,   石川洋一郎 ,   吉武明弘 ,   西川眞史

ページ範囲:P.1125 - P.1129

はじめに
 卵巣未熟奇形腫は比較的稀な疾患であり,全卵巣腫瘍の1%を占める1).今回,筆者らは卵巣未熟奇形腫術後の肝表面への播種性転移に対して肝右葉切除術を施行した1例を経験したので報告する.

回腸末端部に巻絡し,絞扼性腸閉塞をきたした虫垂粘液嚢胞腺癌の1例

著者: 中村泰啓 ,   水澤清昭 ,   小川東明 ,   椿修 ,   松永朗

ページ範囲:P.1131 - P.1134

はじめに
 虫垂粘液嚢胞腺癌は比較的稀な疾患であるが,今回筆者らは腫瘍が回腸末端部にループ状に巻きつき,絞扼性腸閉塞をきたした特異な1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

臨床報告・2

巨大な胃壁外発育を示したgastrointestinal stromal tumor(GIST)の1例

著者: 荒川元 ,   小山文譽 ,   素谷宏 ,   辻端亜紀彦

ページ範囲:P.1135 - P.1136

はじめに
 今回,筆者らは超音波検査で腹部腫瘤として発見されたgastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)を経験したので,文献的考察1〜4)を加え報告する.

術前診断のできた胆嚢内回虫迷入症の1例

著者: 荒川元 ,   竹山茂 ,   森和弘 ,   福島亘 ,   小林弘信 ,   渡辺俊雄

ページ範囲:P.1137 - P.1138

はじめに
 今回,筆者らは超音波検査およびCT検査にて回虫の胆嚢迷入を診断し,外科的治療により摘出しえた1例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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