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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科56巻9号

2001年09月発行

雑誌目次

特集 外科と消毒と感染予防

外科感染症の動向とCDCガイドライン

著者: 炭山嘉伸 ,   有馬陽一

ページ範囲:P.1153 - P.1160

 一般に近年の外科感染症の問題点として,基礎疾患・高齢,あるいは手術侵襲そのものにより生体の感染防御機能が低下した,いわゆるimmuno-compromised hostにおいて,多剤耐性菌あるいはいわゆる日和見感染菌がしばしば複数菌の感染を起こし,ときに院内感染の形で拡大していくという図式が成り立つ.これらの問題を解決すべく,科学的裏づけと実証に基づいた客観的かつ効率的な診療こそ,今後の医療のあり方である.この点でCDCのガイドラインはきわめて信頼性が高く,臨床家にとってわかりやすくて患者へ適用しやすく,有用である.

感染の発症機転と防御機構

著者: 江上寛 ,   小川道雄

ページ範囲:P.1161 - P.1168

 感染症は病原体の侵入に引き続いて,生体に炎症が引き起こされた状態である.手術や外傷はバリアーである皮膚あるいは粘膜を損傷し病原体の体内への侵入を許す.これに対して生体では非特異的防御機構が発動する.この非特異的な防御機構で中心的な役割を果たしているのが体液性因子,貪食細胞である.さらに引き続いて抗体や細胞性免疫からなる特異的防御反応が誘導される.この特異的防御機構の誘導に樹状細胞やマクロファージによる抗原提示と炎症局所で産生分泌されるサイトカインやケモカインが重要な働きをしている.これらは互いに影響し合い,協同して感染に際して生体の防御にあたる.

院内感染と日和見感染

著者: 内山和久 ,   山上裕機 ,   谷村弘

ページ範囲:P.1169 - P.1177

 現在の院内感染症はcompromised hostに対する多剤耐性菌による日和見感染が多い.つまり過大侵襲術後や大量輸血,癌に対する放射線療法,抗癌剤やステロイド投与後,糖尿病や黄疸,低栄養,透析患者などによる感染防御能の低下が誘因となる.さらに物理的な皮膚・粘膜バリアーの破綻,抗菌薬多用による正常細菌叢の乱れ,顆粒球減少,体液性・細胞性免疫能の低下のいずれかが存在すると感染が成立する.
 外科領域の院内感染起炎菌としては,MRSA,多剤耐性緑膿菌,腸球菌(VREを含む)がとくに問題で,医療従事者はその感染を媒介しないように,また自ら結核やHBV,HCV感染に罹患しないように注意する必要がある.

消毒と消毒薬

著者: 古山信明

ページ範囲:P.1179 - P.1184

 外科治療において消毒の意義を認識し消毒薬を適正に使用することは外科医にとって不可欠のことである.従来先輩の医師に経験的に学ぶということが繰り返されてきたが,消毒薬の特徴と適応を実証に基づいて理解し感染防止に努めることが重要である.対象にもっとも適切な消毒薬を選択し正しく使用できることが外科医の基本的条件の一つであると心得るべきである.

自験結果から推奨する術前の手洗い方法

著者: 山村義孝 ,   小寺泰弘 ,   伊藤誠二

ページ範囲:P.1185 - P.1191

 術前の手洗いにおいては,一過性菌だけではなく常在菌をも可及的に少なくしておく必要がある.術中の手袋損傷の研究では,被験者の13.3%に損傷がみられ,手術時間が3時間を超えると有意に増加した.また,ブラシ使用の有無別にポビドンヨードとグルコン酸クロルヘキシジンを用いた手洗いの研究から,ブラシの有無とは関係なくグルコン酸クロルヘキシジンの成績が良好であった.
 以上より,推奨しうる手洗い方法は「グルコン酸クロルヘキシジンによる4分前後の手揉み洗い」であり,長時間手術の場合には手術途中での再度の手洗いが必要である.またエタノールローションによる擦式消毒法を追加するのも有力な方法と思われる.

病棟での手洗い

著者: 佐藤直樹 ,   今村道明 ,   近藤正男 ,   川畑いつみ ,   下國達志 ,   片山知也 ,   嶋村剛 ,   山本浩史 ,   藤堂省

ページ範囲:P.1193 - P.1199

 接触感染が院内感染の主要原因である.易感染性患者の多い病棟では「医療者の手」が患者へ病原体を媒介し,患者の精神的・経済的負担を増加させ罹病率や死亡率を引き上げている.
 院内感染防止の観点から,standard precaution(1996年,米国CDC)は「手洗いに始まり手洗いに終わる」といわれるほど石けんによる手洗いを強調している.本稿では「手洗い」に石けんを使用(日常的)するのか,消毒剤(衛生的)を用いるのか,手袋は滅菌のものかプラスチック製でよいのか,滅菌ガウンの着用の適応などについて述べる.
 基本的には細菌,ウイルスを病室内に持ち込まず,病室外に持ち出さず,さらには職業感染として医療従事者への感染も防止すべく対処する必要がある.これら臨床外科における「感染と感染防御」の教育はわが国では乏しい現状にある.

剃毛と術後創処置

著者: 横山正義

ページ範囲:P.1201 - P.1205

 手術前の剃毛は近年,施行しない傾向にある.毛のみを電気ひげそり器で除毛したほうが術野の感染が少ないといわれている.
 手術野の消毒は機械的洗浄と化学的殺菌の二面作戦で行うとよい.消毒をしても,消毒薬で死滅する菌以外の微生物は手術野に残っている.手術用滅菌ドレープの使用については効果の判定が分かれている.ドレープが高価のこともあり,使用しない傾向にある.
 ペースメーカー植込み手術は完全な無菌手術であるが,初回で0.8%の感染があり,交換をくり返すたびに感染率は上昇する.

術前・術中の抗菌薬投与

著者: 横山隆 ,   竹末芳生 ,   檜山英三 ,   村上義昭 ,   今村祐司

ページ範囲:P.1207 - P.1215

 術後感染防止を目的とした抗菌薬の投与は投与対象が予防投与か否かを手術内容により的確に判断し,予防投与である場合には術野汚染菌のなかで感染発症能力の高い細菌を対象に抗菌薬を選択する.この際,常在細菌叢を攪乱すれば耐性菌感染を引き起こすので適切な抗菌スペクトルの薬剤を選択する.抗菌薬の投与経路,開始時間,血中,組織中濃度の維持時間を適切に守らなければ予防効果はなくなる.もし感染が発症した場合にはできるだけ早く治療抗菌薬に変更する.なお予防抗菌薬として使用する抗菌薬は術後感染では用いない.汚染手術や感染症手術の場合には予防投与とはまったく異なり,感染,汚染細菌に優れた抗菌力を有する抗菌薬の選択が必須であり,投与期間も感染症に準ずる.

消化管断端の消毒

著者: 福島幸男 ,   塚原康生 ,   藤田淳也 ,   柴田高 ,   北田昌之 ,   島野高志 ,   上田恒平 ,   高見元敞

ページ範囲:P.1217 - P.1222

 消化器外科における消化管の切断,吻合操作は必然的に消化管内容による細菌汚染を惹起する.これに対し以前よりポビドンヨードなどによる消毒がなされてきた.この消毒操作はほとんどすべての施設で習慣的に行われているが,外科医の多くはその有効性に懐疑的である.しかしながら文献的にも消化管断端,吻合部の細菌汚染の実態と消毒の効果に関する報告は乏しい.今回当院で行った胃癌手術の際の消化管吻合時の細菌検査の結果をもとに吻合部消毒の効果と意義を検討した.吻合部局所に関しては消毒は有効であると推測されたが,この局所の消毒が果たして周術期感染症予防に寄与するか否かは今後の検討課題であると考える.

感染予防としての腹腔内洗浄

著者: 植木浜一

ページ範囲:P.1223 - P.1226

 術後感染予防として,腹腔内洗浄を行うか否かについては議論のあるところであるが,筆者らは閉腹に際して,約1,500mlの加温した生理食塩液にて腹腔内洗浄を十分に行い,原則として術後ドレーンを留置しない方針で腹部手術を行ってきた.現在まで,このことにより致命的な合併症を経験していない.むしろドレーン留置による合併症がなく,好結果を得ている.
 重症の汎発性腹膜炎に対しても,37℃に加温した生理食塩液10,000ml以上で徹底的に洗浄する方針で好結果を得ている.
 この腹腔内洗浄の実際と有用性を若干の文献的考察を加えて述べた.

閉腹時の創処置

著者: 榎本武治 ,   小森山広幸 ,   萩原優 ,   田中一郎 ,   山口晋

ページ範囲:P.1227 - P.1231

 術後の創感染を防ぐべく,縫合糸の選択や創面の処置の仕方など各施設で種々試行されているが,創感染の発症を完全に抑えるには至っていない.閉腹に用いる縫合糸が感染の原因となる可能性は少ないが,抗張力が強く組織刺激性がなく感染に抵抗性である吸収性の合成素材の糸がよい.縫合は腹膜と筋膜を1層とし,幅広く縫い代をとるmass closureが推奨されている.その運針法には単結節縫合と連続縫合があり,おのおのの特徴がある.創面の処置では消毒薬での擦過や抗菌薬の塗布を行っているが,その有効性に関しては疑問視されている.創面の生理食塩水での十分な洗浄が創感染の防止に有益である.筆者らの術中細菌汚染と術後の創部皮下膿瘍の発生についての検討では,両者間に直接的な関係は見いだせなかった.また,皮下ペンローズドレーンの留置は創部皮下膿瘍発生率を有意に減少させることが明らかとなった.

病棟での創処置と回診順序

著者: 吉田順一 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.1233 - P.1238

 本邦の外科感染対策は,その黎明期においてListerの無菌手術をいち早く導入したが,近年はわが国特有の処置を残している.本稿ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの接触伝播路を絶つため,evidenceに基づく病棟の感染対策を記載する.膿盆や鑷子立てには盲点があり,これらを撤廃して入院におけるMRSAの全黄色ブドウ球菌内の比率が減少した.回診順序も清潔例→一般例→感染例とゾーン順に改め,MRSA検出ゼロ17か月の記録を達成できた.また迅速かつ的確な感染サーベイランスも,伝播状況やルート解析に重要である.今後も新興感染症の脅威のもと,病棟処置の見直しが必要であろう.

点滴ルートの感染予防

著者: 原口正史 ,   平潟洋一 ,   兼松隆之

ページ範囲:P.1239 - P.1247

 点滴静脈注射に関連した血流感染は,院内感染のなかでも生命予後に重要な影響を及ぼすものである.とくに中心静脈高カロリー療法(IVH)は,侵襲が大きい消化器手術前後の栄養管理をはじめとして,経口・経腸摂取が不可能な患者の生命維持などに広く普及しているが,感染を引き起こすリスクも高い.欧米では早くから院内感染について積極的な臨床研究がなされているのに対し,日本では院内感染に関するデータベースがなく,感染対策も施設によってさまざまである.今後は診断基準を明らかにし,リスクで調整した患者転帰を基準とした恒常的サーベイランス体制の構築とそれを動かす専門職および行政の協力が望まれる.

カラーグラフ 正しい外科切除標本の取り扱い方・6

標本造影・標本撮影の原則

著者: 神谷順一 ,   梛野正人 ,   金井道夫 ,   上坂克彦 ,   佐野力 ,   二村雄次

ページ範囲:P.1145 - P.1150

標本造影の原則
 1.ルーチン検査として施行する
 標本造影は手間のかかる検査である1).2本,3本とカテーテルを留置し,漏れがあれば縫合しなければならない.これで30分前後かかる.そして透視室で,条件設定のための撮影,現像待ち,本番撮影,現像待ち.やはり30分はみておく必要がある.しかもつねに目が覚めるような写真が撮れるわけではない.ときには評価に値しない写真しか手に入らないこともある.敬遠されて当然かもしれない.
 しかし,標本造影でしか得られない情報も多く,術前診断をチェックするうえでは不可欠の資料となるなど,メリットは多い.慣れと少しの知識ですぐ上達する検査でもあり,ルーチン検査として施行することをすすめたい.報告に値しそうな症例を選んで造影する,という姿勢は失敗作のもとである.レベルの高い標本造影を手に入れたかったら,日頃から積極的に実施し実力を高めておくべきである.

目で見る外科標準術式・21

直腸癌に対するTEM(transanal endoscopic microsurgery)

著者: 木下敬弘 ,   金平永二 ,   大村健二 ,   川上和之 ,   渡邊剛

ページ範囲:P.1249 - P.1257

はじめに
 経肛門的内視鏡下マイクロサージェリー(以下,TEM)は,直腸病変の外科的一括切除を目的にして行われる管腔臓器内視鏡下手術(endoluminalsurgery)である(図1).TEMの出現により内視鏡的粘膜切除(以下,EMR)の限界を超えた病変でも直腸腔内での局所切除による治療が可能となった.本稿ではBuessら1,2)により開発された直腸内通気法を用いたTEM原法3)を図譜を用いて解説する.

病院めぐり

恵佑会札幌病院外科

著者: 久須美貴哉

ページ範囲:P.1258 - P.1258

 恵佑会札幌病院は,悪性腫瘍の診断,治療および末期治療を一貫として行うことを目的に,北海道札幌市白石区に開設され,2001年3月に満20周年を迎えました.昨年は末期治療のさらなる充実のために緩和ケア病棟がオープンし,体制が一段と充実し強化されました.開設時は外科の単科で外科医4人,病床数80床でスタートし,その後増築増床を繰り返し,現在は外科・内科・口腔外科・耳鼻科・泌尿器科・婦人科・形成外科・循環器科・放射線科・麻酔科があり,医師は常勤・非常勤を合わせて40名を越え,病床数は272床です.また,昨年は同院内に臨床病理研究所も開設されました.
 外科は現在,固定の常勤医7人に加え,全国各地から大学の研修医を3人迎え,総数10人体制で,細川院長を中心とした消化器グループと岡安副院長を中心とした呼吸器外科グループの全員で一般外科の日常の診療にあたっています.

仙台赤十字病院外科

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1259 - P.1259

 当院は1924年に創設され,以来77年間にわたり地域の基幹病院として親しまれております.1982年仙台市中心地から南西部の丘陵地に移転し,近くには伊達政宗公の居城である青葉城があります.また朝日が昇る太平洋と夕日が沈む蔵王連峰を一望でき,患者さんには素晴らしい入院環境を提供しております.
 当院は病床数484床,診療科22科を有し,医師数は53名で,一日の外来患者数は約1,000名です.外科のスタッフは院長を含めて6名で,病床数は34床です.2000年の麻酔件数は629例(全身麻酔494例,硬膜外麻酔109例,局所麻酔26例)で,手術総件数は673件でした.主な疾患は,胃癌41例,大腸癌109例,乳癌30例,虫垂炎42例,鼠径ヘルニア73例および胆石症254例でした.なお当院には小児外科があり,年間400例ほどの手術を行っております.

麻酔の基本戦略・13

周術期管理:危機の回避(3)—呼吸器系のトラブル(3):誤嚥

著者: 稲田英一

ページ範囲:P.1260 - P.1263

目標
 1.誤嚥を起こしやすい患者について理解する.
 2.誤嚥の予防処置について理解する.
 3.誤嚥を起こした場合の処置について理解する.
 今回は誤嚥を起こしやすい患者に対する予防対処と,もし誤嚥を起こした場合の処置について述べる.麻酔中の誤嚥の頻度については大規模な調査がいくつも行われている.臨床的に明らかな誤嚥の頻度は1万例につき1.7〜4.7例程度と報告されている.

文学漫歩

—シェイクスピア(著),福田恆存(訳)—『ハムレット』(1967年,新潮社 刊)

著者: 山中英治

ページ範囲:P.1264 - P.1264

 8月は小学生の扁桃腺とヘルニアの手術が多いので病棟が賑やかになる.耳鼻科に扁摘で入院した葉月ちゃんという女の子に「8月生まれ?」と聞くと,「違うよ,5月だよ」とのこと.この葉月ちゃんは誕生月とは関係なく,お父さんが葉月里緒菜のファンだそうだ.
 葉月里緒菜は「魔性の女」とか言われて,世間一般の女性達からは頗る評判が悪い.しかし彼女とつきあった真田広之とイチローはその道で一流の仕事をしている.きっといい女性に違いないと思う.

南極物語

ダイダンの多血症

著者: 大野義一朗

ページ範囲:P.1265 - P.1265

 9月に内陸のH72地点で浅層ボーリング調査が行われた.39次隊では初めての本格的な内陸調査で,今後予定されているドームふじ,やまと山脈など内陸旅行の前哨戦であった.南極では雪が溶けることはない.積雪は平均2,000mの厚さの圧雪氷(氷床)となって大陸を覆っている.氷床は辺縁が急峻なお供え餅のような格好をしていて海岸から見上げるような急坂を一気に登り切って氷床の上に出る.360度ぐるりと白い地平線が見え,いつも強風が吹き,生き物はひとつもいない.H72地点は気圧830〜50hPa,気温は昭和基地より10℃以上低い.それに9月は1年で最も過酷な季節だった.作業用テントは風に破れ,雪に埋もれた.除雪に明け暮れ,全員が凍傷を負った.支援の後発隊は悪天候で立ち往生し,目的地に着けなかった.貴重なサンプル採取には成功したもののさんざんであった.
 内陸から帰ってくるとみんな赤血球数が増加していた.中でもダイダン(雪氷)はH72の前後で505万から580万/mm3へと最大幅を示した.彼は越冬序盤のドームふじ旅行から帰った直後にも725万まで上昇していた.ドームふじは昭和基地から真南1,000kmの内陸にあり,標高3,800m,気圧500hPa台,年間最低気温は-70℃を割り,最高気温も−20℃と南極でも屈指の厳しい環境にある.今は無人だが1995年から3年間ここで越冬し,深さ2,000mまで氷のボーリングを行った.

外科医に必要な皮膚科common diseaseの知識・4

虫による皮膚疾患

著者: 宇原久

ページ範囲:P.1266 - P.1268

疥癬の概念
 ヒゼンダニの皮膚角質層内の寄生による.感染経路は皮膚間の直接的な接触感染と寝具などを介した感染がある.本来は性行為感染症であったが,最近は老人施設などでの集団的な流行が問題となっている.臨床症状は,基本的には米粒大の丘疹が散在性に全身にみられるが,手指間の鱗屑と小水泡,陰茎や陰嚢の小豆大までの赤褐色の丘疹,手掌足底の水疱,膿疱(特に乳幼児)などが特徴的で,夜間に増強する激しいかゆみを伴う(図1).時に頭部,手掌などに黄褐色の厚い角質や痂皮を固着した臨床像をとるものがあり,ノルウエー疥癬と呼ばれている.これは衰弱した老人,免疫抑制療法中の患者,AIDSなどの免疫不全患者にみられる.

臨床報告・1

胃切除後にみられた魚骨穿通による回盲部膿瘍の1例

著者: 田中幸一 ,   山下裕一 ,   高地俊郎 ,   平野忠 ,   白日高歩

ページ範囲:P.1269 - P.1271

はじめに
 誤嚥した異物のほとんどは自然排泄されるが,時折穿通や穿孔を起こして外科手術の対象となる.本邦おいて誤嚥異物のなかで最も多いのは魚骨であり,消化管穿孔のなかで最も多いとされている1).臨床症状は多種多様であり,その術前診断は非常に困難であり,開腹時に発見されることがほとんどである.今回,筆者らは胃切除後にみられた魚骨穿通による腹腔内膿瘍の1例を腹部超音波検査(以下,US)および腹部CT検査(以下,CT)で術前に診断し得たので若干の文献的考察を加えて報告する.

CTにて術前診断し得た魚骨による小腸穿孔の1例

著者: 上山聰 ,   上川康明 ,   小林達則 ,   馬場孝子 ,   里本一剛

ページ範囲:P.1273 - P.1276

はじめに
 誤嚥魚骨による消化管穿孔・穿通は比較的まれで,しかも術前診断は困難な場合が多い.とくに穿孔による汎発性腹膜炎発症例においては,膿瘍や炎症性肉芽腫などの慢性炎症をきたしたものに比べ,術前診断し得た報告例はまれである4,11〜20).今回筆者らは,CTにて術前診断し得た1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

5年後に再切除生検を要した乳腺アポクリン腺症の1例

著者: 石山智敏 ,   中村隆 ,   鈴木知信 ,   稲沢慶太郎 ,   遠藤泰志 ,   本山悌一

ページ範囲:P.1277 - P.1279

はじめに
 乳腺腫瘤内にアポクリン化生上皮を認める場合,多くはそれを根拠に良性と診断されている1).しかし,多数のアポクリン化生細胞からなる腺症の場合,診断に苦慮することがある.このようなアポクリン(硬化性)腺症(apocrine[sclerosing]adenosis)が一つの病理組織学的疾患概念として提唱されるようになってすでに約十年を経るが2),本邦における報告例はいまだ少ない.最近筆者らはアポクリン腺症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

大腿内側の穿通外傷から後腹膜膿瘍を生じた1例

著者: 安田一弘 ,   甲斐哲司 ,   白石憲男 ,   北野正剛 ,   後藤憲文 ,   長順一郎

ページ範囲:P.1280 - P.1282

はじめに
 腹部外傷のなかでも後腹膜損傷は,その解剖学的特異性から発見困難な場合があり,診断・治療の遅れから,重大な合併症を引き起こすことがある1〜3),今回われわれは,大腿内側部の穿通外傷後に広範な後腹膜膿瘍をきたした1例を経験したので,報告する.

造影CTにより部位診断しえた大腸憩室出血の2例

著者: 板野理 ,   馬場秀文 ,   渡辺稔彦 ,   神野浩光 ,   鈴木文雄 ,   三浦弘志

ページ範囲:P.1283 - P.1286

はじめに
 近年わが国における大腸憩室症は高齢化と食生活の欧米化により増加傾向にあり,注腸施行例の20%に認められるとの報告もみられる1).憩室からの出血も大腸憩室症の1〜4%程度といわれているが,欧米の10〜30%の頻度を考慮すると2)遭遇する機会は増えていると思われる.今回筆者らは造影CT検査にて出血部位を同定し,外科的切除を施行した大腸憩室出血の2例を経験したので報告する.

臨床経験

80歳以上の患者に対する膵頭十二指腸切除の経験

著者: 田中恒夫 ,   香川直樹 ,   岡本有三 ,   福田康彦

ページ範囲:P.1287 - P.1289

はじめに
 近年,術前・術後の管理の進歩により高齢者に対しても膵頭十二指腸切除術(以下,PD)が安全にできるようになってきた1〜7).しかし,現在でもPDは腹部手術のなかでは最も大きな手術の1つであり危険性も高く,高齢者に対するPDの手術適応には一定の基準はない.
 高齢者になるほど術前合併症は増え各種臓器の予備能は低下してくるが,筆者らは暦年齢が80歳以上であるという理由だけで,手術適応から除外する必要はないと考えている.今後も超高齢者に対するPD適応症例は増えるものと思われ,筆者らの経験した症例を検討し報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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