icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科57巻10号

2002年10月発行

雑誌目次

特集 内視鏡下手術の現状と問題点

〔巻頭言〕内視鏡下手術の現状と問題点

著者: 木村泰三

ページ範囲:P.1319 - P.1319

 腹腔鏡下胆嚢摘出術が1986年にMüheにより初めて行われたあと,それが胆嚢摘出術の標準術式として全世界に受け入れられるようになるまで,わずか10年ほどしかかからなかった.内視鏡下手術の低侵襲性の利点が注目され,次々と他の手術も内視鏡下に試みられ,施行可能とされた.しかし,気胸手術あるいはニッセン手術を除けば,内視鏡下手術が標準術式になったといえないのが現状であろう.その理由は何であろうか.
 内視鏡下手術が短期間に標準術式であると認められるためには,いくつかの条件がある.その条件を列挙してみると,

内視鏡補助下甲状腺手術の現状と問題点—皮膚吊り上げ法(VANS法)

著者: 清水一雄 ,   北川亘 ,   赤須東樹 ,   田中茂夫

ページ範囲:P.1320 - P.1325

 甲状腺の内視鏡下手術は初報告以来5年が経過し,近年内分泌外科分野で一般化しつつある.前頸部には生理的腔がないため手術は操作腔作製と腫瘍切除の2つの作業から成る.操作腔作製法は大別してCO2送気法と前頸部皮膚吊り上げ法があり,切開部位と甲状腺へのアプローチにはいくつかの工夫された術式が報告されている.切離操作には超音波メスが有用である.対象疾患で最も多いのは良性甲状腺腫であるが,悪性腫瘍,バセドウ病に対しても内視鏡下手術が行われている.良性では腫瘍の大きさ,悪性に関してもその細胞学的分類と大きさおよびリンパ節転移の状況など慎重かつ正確な術前の評価のもとに手術適応を検討すべきである.バセドウ病の甲状腺はび漫性腫大を呈し,更に易出血性となっており,手術による残置量の程度で甲状腺機能を調節するという本疾患に対する外科的治療の本来の目的を十分考慮し,手術に臨む必要がある.低侵襲,整容上利点を求めすぎるあまり本来の治療目的がおろそかになり,合併症を作ってしまっては本術式の意味がなくなる.通常の甲状腺外科手術,また内視鏡的手技に習熟し,甲状腺に対する内視鏡手術の限界を評価しつつ行うことが肝要である.

乳腺内視鏡下手術の現状と問題点

著者: 山形基夫 ,   三上元 ,   千島由朗 ,   高山忠利

ページ範囲:P.1327 - P.1333

 乳腺内視鏡下手術は1995年頃から本邦で独自に開発され,乳房温存療法の整容性をさらに高めた術式である.現在施行されている術式は様々であるが,個々の手術手技は対象疾患(良性,悪性),および腫瘍の占居部位により集約されつつある.アプローチ法として外側,腋窩,乳輪の各アプローチ,視野の確保法として吊り上げ法,気嚢法,皮弁形成法として直接法,皮下トンネル法,バルーン法,大胸筋膜剥離法としてvein harvestor法,剥離バルーン法があり,今後は個々の手術にこだわらずこれらの組み合わせにより手術が施行されることが予想される.手術成績では通常術式とほぼ同等であり,整容面ではより良好な成績が得られることから,今後普及する術式であると考えられた.

胸腔鏡下気胸手術の現状と問題点

著者: 鈴木一也 ,   霜多広 ,   伊藤靖 ,   朝井克之 ,   高橋毅 ,   浅野寿利 ,   木村泰三 ,   数井暉久

ページ範囲:P.1335 - P.1340

 胸腔鏡下手術は気胸の治療として急速に普及し,外科治療の主役となった.しかし,症例の積み重ねと,長期間の観察によって術後の再発が多いことが明らかになってきた.初回手術時の病変の見落としと,不十分な切除が主たる原因と考えられた.明らかなブラ,ブレブとその周辺の切除を安易に行うのではなく,全胸膜面を良く観察し,大きめの切除を心がけること,縫縮術の追加やメッシュの張り付けなど,追加処置を考慮することが必要であろう.

肺癌(原発性,転移性)に対する胸腔鏡下手術

著者: 白日高歩 ,   山本聡 ,   米田敏 ,   吉永康照 ,   岩崎昭憲 ,   川原克信

ページ範囲:P.1341 - P.1345

 胸腔鏡下の肺癌手術は早期の肺野型肺癌を対象として実施されるが,リンパ節郭清については右側は信頼されうるものの,左側ではやや不十分な感を否めない.したがって,左側進行肺癌での実施は時期尚早の感がある.一方,術後の生存率については通常開胸よりも良好な成績が得られており,非侵襲性でもあることから今後更なる発展が望まれる.また微小癌については胸腔鏡を利用した縮小手術が採用され,特に区域切除が普遍化する可能性が高い.

食道癌に対する胸腔鏡下手術の現状と問題点

著者: 宮崎修吉 ,   里見進

ページ範囲:P.1347 - P.1352

 食道癌に対する胸腔鏡下食道切除郭清術は標準的開胸手術に比べ,疼痛の軽減や術後呼吸機能の改善などの利点を有する.しかし,利点追求のために本来の癌治療の目的である根治性を犠牲にすることは避けなければならない.そこで,筆者らは本術式の遠隔成績を標準的開胸術式と比較検討した.その結果,両術式は予後の面から同等であると考えられた.また,安全性の面では導入初期に手術関連死をみたが,次第に術式の安全性は確立されてきた.すなわち,食道癌に対する胸腔鏡下食道切除郭清術は安全性,予後の面から開胸手術と同等で,食道癌の標準術式として確立されうると考える.

逆流性食道炎,食道アカラシアに対する内視鏡下手術の現状と問題点

著者: 柏木秀幸 ,   小村伸朗 ,   矢野文章

ページ範囲:P.1353 - P.1360

 胃食道逆流症(逆流性食道炎を含む)や食道アカラシアに胸腔鏡下,腹腔鏡下の手術は定着し,手術手技に関する検討や重症例に対する適応拡大が行われるようになってきている.胃食道逆流症の維持療法に対する代替治療や食道アカラシアに対する第一選択治療としての適応も生まれているが,一方,進行した症例に対しても内視鏡下手術が行われるようになり,良好な成績も報告されてきている.一方,特に進行例において問題となるが,直視下手術との比較で再発率が高いとの指摘であり,今後の課題となっている.再発例や再手術例の検討で,適応とともに内視鏡下の手術手技が問題点として指摘されており,高度の技術の普及が重要な課題となっている.

内視鏡下胃癌手術の現状と問題点

著者: 安田一弘 ,   白石憲男 ,   安達洋佑 ,   北野正剛

ページ範囲:P.1361 - P.1364

 胃癌に対する腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(LADG)の現時点での適応と評価および合併症からみた手技上の注意点についてまとめた.現在,LADGで安全に行えるリンパ節郭清範囲はD1+αであり,根治性を保つためにはリンパ節転移がないか,あっても胃周囲にとどまる早期癌が適応となる.LADGは開腹術と比較すると出血量が少なく,疼痛・炎症反応が軽度であるため回復が早く,術後在院日数が少ないなどの利点がある.さらにアンケート結果を見ると術後の嚥下困難・胸焼け・体重減少が少なく,他人に勧める手術として評価されている.また,手技の確立に伴い術中・術後合併症も大きく減少している.その中で吻合部の狭窄や通過障害の頻度が開腹術に比べるとやや高く,小開腹創からの再建に注意を要する.

腹腔鏡下大腸癌手術の現状と問題点

著者: 宮島伸宜 ,   山川達郎

ページ範囲:P.1365 - P.1370

 大腸癌に対する腹腔鏡下手術は進行癌に対しても積極的に行われるようになってきた.しかし,アプローチ方法や適応に関しては施設間による差があり,定型化していないのが現状である.いずれのアプローチ方法でも正確な解剖を把握し,正しい層を保持することが術中の偶発症や合併症を予防することにつながる.長期予後を論じるには時期が早いが,現時点での成績は良好で,合併症も少ない.Port site recurrenceの報告も最近はほとんどみられず,技術的な問題と推測される.今後はさらに適応の拡大が期待される.

腹腔鏡下胆嚢摘出術の現状と問題点

著者: 小田斉 ,   中村光成 ,   植木敏幸 ,   佐田正之

ページ範囲:P.1371 - P.1375

 過去11年間に当院で腹腔鏡下胆嚢摘出術(以下,LC)を3,164例経験した.開腹手術を必要とする他臓器疾患が同時に存在しなければ原則としてすべての胆石症に対してLCを試みている.開腹移行率3.4%,手術時間54±37分,術後在院日数9.2±8.8日であった.Day surgeryを46例に実施し,37例が日帰りできた.急性胆嚢炎268例と上腹部開腹既往119例のLC困難例では開腹移行率が20%以上と高率で手術時間,術後在院日数も有意に延長した.合併症は胆管損傷13例(胆管完全切断6例,胆管部分損傷7例),開腹移行を要した出血5例,大腸損傷1例,術後胆汁漏8例でmorbidity 0.82%,mortality 0%であった.合併症のほとんどは急性胆嚢炎などLC困難例に発生した.LCは胆嚢疾患に対する低侵襲な標準術式として急速に普及したが,一方では常に危険をはらんだ手技であることを忘れてはならない.

腹腔鏡下胆管切石術の現状と問題点

著者: 徳村弘実 ,   鹿郷昌之 ,   原田伸彦 ,   坂本宣英 ,   力山敏樹 ,   峯岸道人 ,   里井俊平 ,   国仲弘一 ,   百目木泰 ,   藤原秀之

ページ範囲:P.1377 - P.1382

 腹腔鏡下胆管切石術は多くの利点を有しているがその手術困難性のため十分普及していない.自験258例から本手術の適応と手技上の問題点を述べた.経胆嚢管法を107例に,胆管切開法を149例に完遂した.胆管切開処置はCチューブ76例,Tチューブ50例,縫合.閉鎖24例,胆管十二指腸吻合1例であった.経胆嚢管法は第一に選択されるべきアプローチ法だが適応は制限され,適切な器機の整備が重要であった.胆管切開法は経胆嚢管法のできない症例のほとんどに適応できたが,胆管非拡張例は適応から除外すべきと考えられた.胆管切開法は慎重な手技とドレナージの選択,十分な準備と修練が必要であった.

腹腔鏡下脾臓摘出術の現状と問題点

著者: 山口将平 ,   橋爪誠

ページ範囲:P.1383 - P.1387

 近年の腹腔鏡下外科手術の発展はめざましく,消化器外科領域においても適応がますます拡大されている.脾臓摘出術もその例外ではなく,1992年にわが国で初めて施行されて以来,その安全性と低侵襲性はすでに多くの報告がなされ急速に普及し,今では多くの疾患に対する標準術式となっている.さらに,最近では内視鏡下手術に関する周辺機器の発達によりさらに安全,かつ短時間に行えるようになってきた.
 本稿では,現時点における腹腔鏡下脾臓摘出術の適応,および手術における手技のポイントや工夫について述べる.

内視鏡下肝切除術の現状と問題点

著者: 金子弘真 ,   柴忠明

ページ範囲:P.1389 - P.1393

 内視鏡下肝切除術は出血のコントロールや脈管の処理などの技術的問題や,肝癌における慢性肝炎,肝硬変などの併存肝病変が障壁となり,積極的に内視鏡下肝切除術を行っていた施設は少数であった.しかし,近年,本邦では併存肝病変を伴う原発性肝癌を中心に,欧米においても正常肝組織が対象となることが多いものの,肝腫瘍に対し積極的に内視鏡下肝切除が施行され,多くの施設から本術式の有用性が報告されるようになってきた.今後より確立された術式を目指して肝実質切離と出血,脈管処理への対応や気腹の問題点などを解決し,その手術適応を十分にふまえたうえで症例を厳選し,手術機器の特性をよく理解することが重要である.そして,さらなる周辺機器の改良と手術手技の向上により,安全かつ低侵襲で患者のQOLにも貢献できる新たな術式の1つとして発展しいくものと考えている.

腹腔鏡下副腎摘除術の現状と問題点

著者: 加藤司顯 ,   東原英二

ページ範囲:P.1395 - P.1401

 腹腔鏡下副腎摘除術はその安全性,低侵襲性,手術に縫合操作を必要とせず切開,剥離,クリッピングで対処できること,摘除した副腎はそのままトロッカー孔から取り出せることなどから標準的な術式になった.
 その術式は発展・進化し,3つの経腹膜アプローチ,2つの後腹膜アプローチがある.各々のアプローチには利点・欠点があり,適応は異なる.
 腹腔鏡手術の技術,器具,経験の蓄積で両側褐色細胞腫に対する腹腔鏡下副腎部分切除術はすでに可能となり,副腎癌の腹腔鏡下アプローチも発展していくであろう.

腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術の現状と問題点

著者: 池田正仁

ページ範囲:P.1403 - P.1409

 成人鼠径ヘルニアに対する腹腔鏡下手術(LH)の現状と問題点について述べた.LHには腹膜外腔アプローチで行うTEPPと経腹腔的アプローチで行うTAPPがある.両者とも限りなくゼロに近い低い再発率と,迅速な回復を約束するtension-freeの合理的術式である。しかしLHの今後の普及のためにはより完成度の高いTEPPを第1選択とし,手技が煩雑で重大な合併症の可能性のあるTAPPはTEPPの補完的手術に位置づけるべきであることを強調した.そして,普及を阻む最大の問題は他の各種ヘルニア術式に対するTEPPの圧倒的優位をほとんどの外科医が知らないという点にあることを指摘した.LH,とくにTEPPのトレーニングシステムの確立が急がれる.

カラーグラフ 正しい外科切除標本の取り扱い方・19

膵臓の切除標本の取り扱い方

著者: 山本正博 ,   出射由香

ページ範囲:P.1313 - P.1317

はじめに
 外科切除標本を正しく整理することは,手術の正当性と適格性を判断すると同時に,その症例の病期分類と予後の判定に不可欠である.またその外科的取り扱いと病理組織学的検討は,手術成績の向上をめざして検討が可能なように,共通の基準のもとに一定の約束に従って行うことになっている.ここでは,膵臓の切除標本について日本膵臓学会が定めた「膵癌取扱い規約」をもとにその取り扱い方を概説する.

病院めぐり

北里研究所メディカルセンター病院外科

著者: 西八嗣

ページ範囲:P.1410 - P.1410

 北里研究所は大正3(1914)年に北里柴三郎博士によって創設されて以来,同博士の精神「事に処してパイオニアたれ,人に交わって恩を思え,そして叡智をもって実践する実学の人として不撓不屈の精神を貫け」を基盤に公益法人としての社会的な役割を果たしています.この間創立50周年記念事業では学校法人「北里学園」を創設して北里大学を設置し,また創立75周年記念事業として平成元年に埼玉県北本市に北里研究所メディカルセンター病院が設置されました.都市部のベッドタウンとして発展めざましい北本市をはじめとする周辺地域の要請に応えるために,多くの診療科と各種専門外来を擁し,総合的医療を実践することを目的としています.また地域に開かれた病院として,一般病院,診療所などと密接に結びついた病診連携を推進しています.敷地面積は約17,000坪(56,479m2)に及び,病院はいたるところに絵画を展示できるよう設計され,常時300点もの絵画が展示されています.また美術館も併設し,医療とは別の観点から来院される人々の心を癒すことを目的としています.現在14診療科,医師61名,440床の総合病院で,1日の外来患者数は平均1,200人を数えます.
 平成13年度の手術例数は,胃癌74例,食道癌12例,結腸癌58例,直腸癌22例でした.

藤沢市民病院外科

著者: 仲野明

ページ範囲:P.1411 - P.1411

 藤沢は東海道五十三次,藤沢宿の旧道沿い,眼下に相模湾が広がる所謂湘南にあり,江ノ島を眺められる所です.藤沢市の人口は約40万で,藤沢市民病院は市内で唯一の公立病院です.昭和46年10月に横浜市立大学第二外科の初代教授であった山岸三木雄先生が初代院長として臓器別診療体制をとった,当時では全国でも斬新な病院として開院されました.開院当初の診療科は17科,病棟数は330床でしたが,患者数の増加などにより,現在診療科は29科,506床となり,常勤医74名,非常勤医24名,研修医13名で,湘南地区の基幹病院として定着し,平成12年には地域医療支援病院に認められました.外来患者数は平成13年度で1日平均1,525人,病棟利用率も98%となりました.
 院内の各診療科も,先に述べた病院開設の経緯から,外科は当初横浜市立大学第二外科の出身者で構成されていましたので,一般外科を主にしてスタートしました.その後,時代の要請で専門分化され,昭和56年に呼吸器外科を新設,さらに平成4年には第一外科から医師が派遣されて心臓血管外科が新設されました.診療は,外科,消化器外科として仲野,小林部長の他5名,呼吸器外科は城戸部長の他1名,心臓血管外科は岩井科長の他1名で行っています.

文学漫歩

—ベルンハルト・シュリンク(著)松永美穂(訳)—『朗読者』(2000年,新潮社 刊)

著者: 山中英治

ページ範囲:P.1412 - P.1412

 診療報酬改定で,ちゃんとした褥瘡対策をチーム医療で行っていないと減算となった.十数年前に赴任した過疎地の病院の療養型病床では,寝たきり高齢者の仙骨部にできている褥瘡を,天気の良い日には天日干しにしていた.幹燥していかにも清潔そうに見えたが,何年経っても治る気配はなかった.今ではキズはドライにすれば悪化して,湿潤環境に保てば治癒が促進するというのは(とくに看護部の間では)常識だが,内科医では御存じない方も少なくない.
 今年の外科代謝栄養学会の栄養評価のセッションで,栄養サポートチーム(NST)の臨床検査技師の発表があり,血清アルブミン濃度は採血時の体位(座位と臥位)の違いで有意差があるので,考慮して評価するべきだとの要旨であった.これは検査技師では常識だそうだが,会場の医師はほとんどが知らなかった.

忘れえぬ人びと

「癌全治」宣言

著者: 榊原宣

ページ範囲:P.1413 - P.1413

 イレウスであることは誰にでもわかる.対症療法をいろいろ試みるが一向に症状改善はみられない.これまで,子宮頸癌に対する放射線治療後のイレウス症例を経験しているが,開腹手術を行っても,術後難渋したことが多く,再開腹の決心がつかない.胃瘻からの排液があるため,状態の悪化は急速ではない.とにかく,症状改善を期待して対症療法を続けていた.そのうち,患者本人がこれまでと異なり,手術するしかないと思い始めた.毎日朝夕の回診時の説明が効果を現わしたのかもしれない.2月26日,開腹手術を承諾した.大変な決心であったと思われる.
 2月27日,腹部正中切開で開腹.腹腔内を見ると,小腸は癒着して一塊となっている.注意深く剥離する.癒着が強く,剥離に際して漿膜面を傷つけたので,一部小腸切開,端々吻合を行う.腹壁は一期的に縫合して手術を終える.再癒着しないことをひたすら願った.術後1週間目から抜糸を行う。やはり放射線が照射されているので,創は哆開する.とにかく肉芽がきれいになるのを待つしかない.毎日,ガーゼ交換するたびに,患者は創は治るでしょうかと涙ぐむ.かならず治るからと励ます.その繰り返しである.

目で見る外科標準術式・34

胆道・十二指腸温存膵頭切除術

著者: 平野聡 ,   近藤哲 ,   田中栄一 ,   安保義恭 ,   加藤紘之

ページ範囲:P.1414 - P.1422

はじめに
 膵頭切除術はBegerらにより腫瘤形成性慢性膵炎に対する術式として初めて報告されたものである1).本術式は幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)とのrandomized studyが行われ,術後長期の栄養状態や膵機能維持の点で優れていることが報告され,機能温存術式として膵頭部領域の良性病変の切除術式としても次第に応用されるようになった2,3).筆者らも主に慢性膵炎症例に対して行ってきた胆道・十二指腸温存膵頭切除術を,膵頭部の分枝型粘液産生膵腫瘍などの低悪性度病変に対して適応し,良好な結果を得ている4)
 本稿では,胆道・十二指腸温存膵頭切除術の手術手技の実際について述べる.

ここまで来た癌免疫療法・7

移植免疫からみた癌免疫療法の弱点

著者: 安藤裕一 ,   別宮好文 ,   田原秀晃

ページ範囲:P.1423 - P.1428

リード
 癌免疫療法の歴史は長いにもかかわらず,いまだに決定的な治療法というものが確立されていない.それは,癌細胞がホストの免疫反応からうまく逃れていることに一因がある.本稿では,癌免疫療法の確立を困難にしている問題点を,移植免疫の立場から解説する.

米国でのProblem-Based Learning形式による外科研修

Problem-Based Conference(12)—Controversyとプロトコール:乳癌の治療(その2)

著者: 町淳二 ,   児島邦明

ページ範囲:P.1429 - P.1442

1 はじめに
 T(指導医):前回のproblem-based conferenceでは,乳腺腫瘤と乳癌のマネージメント上のスタンダードと対比しながら,controversyということを学んできました.乳癌の外科的治療まで話が進みましたので,今回はsystemic therapyからディスカッションを開始します.学生さんには多少詳しすぎる内容になりますが,思ったことや確かでないことでもよいので,できるだけ発言してみて下さい.それでは,前回のシナリオの患者さんについて,一言でまとめて下さい.
 S(医学生):前回の患者さんは,60歳の女性で,右乳房に腫瘤を触れ,マンモグラフィではそれ以外に異常はありませんでした.Core needlebiopsyによって浸潤性乳癌(invasive ductal carcinoma)の診断がつき,手術前の転移の検索では異常はありませんでした.

臨床研究

腸閉塞手術症例の検討

著者: 矢島和人 ,   斎藤英樹 ,   大谷哲也 ,   片柳憲雄 ,   山本睦生 ,   藍沢修

ページ範囲:P.1443 - P.1447

はじめに
 腸閉塞症は依然外科領域の急性腹症では主要な位置を占める疾患である1).絞扼性腸閉塞に関しては手術時期を逃すと致命的な結果となりうるため,診断と治療方針は適切でなければならない.また,癒着性腸閉塞は一般的には保存的治療が行われているが,この手術の適応に関しても高度な判断を要する場合がある.このため,今回筆者らは当院で手術を施行した腸閉塞症例を検討して,その臨床的特徴を明らかにした.

臨床報告・1

直腸回腸痩を形成した直腸癌の1切除例

著者: 青木孝文 ,   庭野元孝 ,   大石達郎 ,   笹野満

ページ範囲:P.1449 - P.1452

はじめに
 結腸癌が他の管腔臓器に浸潤して内瘻を形成するのは比較的稀に認められるが,直腸癌が回腸に内瘻を形成するのはきわめて稀である.今回,筆者らは直腸癌が回腸に浸潤して内瘻を形成し,膀胱壁浸潤を疑わせた症例を経験した.病変の一塊切除を施行した自験例を呈示し,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?