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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科57巻11号

2002年10月発行

雑誌目次

特集 癌診療に役立つ最新データ Ⅰ.総論

癌疫学データと外科治療の概況

著者: 田島知郎

ページ範囲:P.6 - P.21

 わが国における2000年(平成12年)度の総人口は1億2,692万人,年間死亡者数が96万1,653人,うち癌死亡者数が29万5,484人で,癌死で最も多いのは肺癌53,724人,続いて胃癌50,650人,大腸癌35,948人,肝癌33,981人の順で,男女合わせて,1分47秒毎に1人が癌で死亡している.年次推移を見ると,胃癌,了宮癌が減少傾向にあるのに対して,大腸癌,肺癌,乳癌の増加が続き,肝癌が再び増加の兆しをみせ,癌死亡が死亡の第1位になっている年齢層は男性では40〜89歳,女性では30〜84歳である.患者数からの現在の3大癌は男性では胃癌,肺癌,肝癌/大腸癌,女性では乳癌,胃癌,大腸癌で,癌は今後も増え続け,2015年の癌新患者数は男女合計で約90万人に達すると予想されている.これまでの癌検診は効率が悪く,とくに受診率向上とQC(quality of control)とが課題であり,また現在過半数の自治体で施行されている地域癌登録が国全体をカバーする癌登録システムに発展することが望まれる.個々の患者での癌の治療計画を立てるためには臨床病期の把握が基本で,この適切な記載が情報交換を可能にし,ひいては癌医療のレベルを向上させる.
 手術療法は最近,機能温存,低侵襲,切除規模縮小の傾向によって,総合的な癌治療戦略の中にほどよく収まる形が熟成されつつあり,また鏡視下手術などの適応が拡大されている.

癌治療成績の算出と解析

著者: 名川弘一

ページ範囲:P.23 - P.28

はじめに
 ここ20年ほどのパソコンの進歩と普及により,医療データの統計学的解析が容易となってきた.しかし,医学研究者にとって,その解析法の選択や意味するところならびに解析結果の解釈については,必ずしも完全な理解が得られていないのが現状であろう.
 統計学の専門家を目指すのであれば,それぞれの統計解析手法について数式を用いた算出法を知っておくべきであろう.しかし,現在では便利なソフトが統計パッケージとして市販されているため,具体的な算出法よりもその統計解析の意味するところならびに解釈を把握することのほうが重要である.このような背景から,本項では医学研究者として知っておくべき統計学的事項の概念を中心に述べることとする.

Ⅱ.甲状腺癌

甲状腺癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 岩崎博幸

ページ範囲:P.30 - P.34

 甲状腺癌の発生数は健康診断,集団検診などの頻度,病院での初診や手術例の頻度,剖検例での頻度によってばらつきがあるが,剖検例で10%前後,集団検診で0.4〜0.88%である.組織型別の頻度では乳頭癌が90.6%,濾胞癌が6.9%,髄様癌が1.4%,未分化癌が0.9%である.分化癌ではT2N0が多く,未分化癌ではT3N1が多い.初発症状別頻度では頸部腫瘤などの症状が認められることは1/3程度である.年間の甲状腺癌罹患数は1999年で6,827人,男女比は1:3.91で女性に多く,年間死亡数は1,300人であった.家族性甲状腺癌はMEN-Ⅱに代表される甲状腺髄様癌がよく研究されている.家族性甲状腺髄様癌はほとんど全例に遺伝子変異を認め,散発性の甲状腺髄様癌では約1/5の症例に変異を認める.甲状腺癌の予後は一般的には顕性癌となる前のラテント癌や微小癌がよいのは当然であるが,進行癌でも未分化癌以外は担癌状態でかなりの生存期間が見込まれる.

甲状腺癌の診断に関する最新のデータ

著者: 杉谷巌 ,   山田恵子 ,   池永素子

ページ範囲:P.35 - P.41

 わが国において甲状腺癌全体の85%以上を占める乳頭癌の診断は超音波,細胞診により容易であり,診断率は100%に近い.CT,MRIやシンチグラフィは腺外浸潤や遠隔転移の診断にのみ有用である.転移のない被包型の濾胞癌の術前診断は困難である.髄様癌は血中カルシトニン高値により診断できるが,最近では遺伝性の診断に遺伝子検査が行われるようになってきている.未分化癌,悪性リンパ腫の診断には生検を要する場合もある.

甲状腺癌の治療に関する最新のデータ

著者: 清水一雄 ,   北川亘

ページ範囲:P.42 - P.47

 甲状腺癌は組織学的に濾胞細胞由来の分化癌(乳頭癌,濾胞癌),未分化癌と傍濾胞細胞由来の髄様癌に分類される.治療方法は手術療法および内分泌療法,外照射や内照射(131Iなど)による放射線療法,化学療法があり,それぞれの病理組織型や進行度によって異なる.甲状腺乳頭癌,濾胞癌,髄様癌は手術療法が第1選択となる.他方,未分化癌では手術療法は気道閉塞などを防ぐ一時的な局所コントロールとしての意味を持つにすぎず,放射線療法,化学療法が選択されるが,予後不良である.

甲状腺癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 吉田明

ページ範囲:P.48 - P.54

 甲状腺癌の分化癌の再発を局所再発と遠隔転移再発に分けた場合,乳頭癌では局所再発が多い.局所リンパ節転移は再手術により大半が治癒するが,再発を繰り返し,遠隔転移や縦隔リンパ節再発を伴い難治性となるものも認められる.また進行した分化癌では気管や食道壁などに再発し,拡大手術が必要となることも多いが,進行が緩慢な分化癌では手術療法の有効性を直接証明することは困難である.遠隔転移再発は乳頭癌では肺転移が多く,濾胞癌では肺転移と骨転移がほぼ同率である.遠隔転移の治療はRI治療(131I大量療法)が主体となる.肺転移はRI治療に反応するものが多く,転移巣に131I(治療量)の取り込みのみられたものは有意に生存率が良く,またRI治療の著効例の10年生存率は90%以上である.骨転移の場合RI治療の反応性が悪く,患者のQOLを上げるためには転移巣の手術や放射線外照射を併用する必要がある.化学療法は効果的でないことが多いが,他の治療法が無効な場合再発巣への動注などが行われている.

Ⅲ.肺癌

肺癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 坪井正博 ,   佐治久 ,   加藤治文

ページ範囲:P.56 - P.60

 わが国の肺癌死亡数は1960年以降,男女とも一貫して増加している.2000年における肺癌死亡数は男性で39,053人,女性で14,671人となり,過去40年間に男では10.7倍,女では9.6倍に増加した.また,肺癌粗死亡率も1960年以後男女とも一貫して増加し,1960年において男性で7.9,女性で3.2から,2000年には男性で63.5,女性で22.9とそれぞれ40年間で8.0倍,7.2倍に増加している.一方,1990年以降男女とも80歳以上で増加,60〜79歳で頭打ちから減少,60歳未満で増加傾向にある.わが国の肺癌は男性の70%,女性の15〜25%は喫煙が原因と推定されている.肺癌死亡を減少させるには,現状では自衛策としては喫煙率を下げることが最も確実な手段であり,禁煙対策を徹底,推進させる必要がある.

肺癌の治療に関する最新のデータ

著者: 南谷佳弘 ,   小川純一

ページ範囲:P.61 - P.68

 肺癌に対する外科治療の標準術式は開胸下肺葉切除であるが,画像診断や工学系の進歩とともにStage I Aを中心に胸腔鏡下肺葉切除や積極的縮小手術が行われるようになってきた.局所進行肺癌に対して術前導入化学(放射線)療法が試みられているが,未だ標準治療にはなっていない.術後治療に関しては放射線照射は禁忌であるが,シスプラチンベースの多剤併用化学療法やUFT経口投与は一定の効果が期待できる.

肺癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 多田弘人

ページ範囲:P.69 - P.72

 肺癌の根治切除後の主な再発部位は遠隔転移で,その約80%を占める.再発部位の中で頻度が高いのは肺,脳,骨,肝である.局所再発の占める割合は20%前後である.時期的には50〜60%が2年以内に再発し,5年以降にも再発する危険性は残っている.再発を早期発見するために各種の検査が行われるが,これが生存に繋がるというevidenceはない.しかし,ごく限られた症例で再切除することで(streotactic radiosurgery to brainを含む)長期生存がみられることもある.
 Palliativeな治療としては脳転移に対するステロイド治療,骨転移に対する放射線療法,気道閉塞に対するステント・放射線治療がある.これらは,QOLの改善に繋がるものと考える.

Ⅳ.乳癌

乳癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 岡崎邦泰 ,   森本忠興

ページ範囲:P.74 - P.79

 近年,乳癌の罹患数,死亡数は増加し,罹患率の年次推移では胃癌を抜いて女性の癌の第1位となっている.今後も増加することが予測され,早急な対策が必要である.年齢分布は欧米と異なり,働き盛りの45〜50歳にピークがあり,その後は多少の増減があるが徐々に下降する傾向が見られる.初発症状は現在でも腫瘤を主訴とするものが多い.発見動機別頻度も腫瘤の自己発見が多く,集団検診,人間ドックでの発見率は低い.関連要因として月経,出産の関係,肥満,遺伝性乳癌の関係,食物,栄養との関係についても言及した.

乳癌の診断に関する最新のデータ

著者: 佐野宗明 ,   佐藤信昭

ページ範囲:P.80 - P.84

 わが国の乳癌は早期化に向かい,小腫瘤を対象とする診断が多くなり,各種診断機器の必要性が高まってきた.この状況下でも視触診は軽視できない重要な診断法であり,次のステップへの指針ともなる.本稿では現在わが国の乳癌について,診断時に必要とする各因子についてその頻度と成績について概説した.データは日本乳癌学会の全国乳癌登録の集計結果を用いた.

乳癌の治療に関する最新のデータ

著者: 緒方晴樹 ,   矢吹由香里 ,   太田智彦 ,   福田護

ページ範囲:P.85 - P.93

 乳癌の治療は局所療法(手術療法,放射線療法)と全身療法(化学療法,内分泌療法)の組み合わせで行われる.手術療法は乳房温存手術が40%にまで増加している.Sentinel lymph node biopsyが一部の施設で実地医療として行われている.補助内分泌療法はホルモン感受性陽性患者には第1選択である.閉経後患者ではアナストロゾールがタモキシフェンよりも有効である.補助化学療法はアンスラサイクリン系中心のレジメンが標準である.術前化学療法は乳房温存術の適応の拡大につながる.

乳癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 池田正 ,   神野浩光 ,   松井哲 ,   三井洋子 ,   麻賀創太 ,   武藤剛 ,   和田真弘 ,   北島政樹

ページ範囲:P.94 - P.100

 乳癌は予後がよい癌としても知られているが,全体でも約1/4は再発する.術後10年を過ぎて再発する症例もあり,長期の経過観察が必要な癌でもある.再発部位は局所,肺,肝,骨が多い.再発後生存期間は約2年半であるが,肝転移は最も予後が悪い.再発後の治療はホルモン療法から行っても化学療法から行っても生存期間に有意差はないため,ホルモン療法から行うことが一般的である.これら種々の治療を行うことにより比較的長期の生存も期待できる.

Ⅴ.食道癌

食道癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 畠山優一 ,   竹之下誠一

ページ範囲:P.102 - P.106

 食道癌は他の癌に比べて症状の出現が受診動機となるため進行癌が多く,課題の多い悪性疾患である.本邦では毎年10,000人以上が罹患し,男性で約8,700人,女性で約1,500人が死亡している(男女比5.5:1).男女とも85歳以上に死亡率のピークがあり,高齢者の癌という特徴を有している.国内では秋田県,宮城県,埼玉県などで死亡率が高く,国際的には中国郡部で著明に多い.食道癌の発生には喫煙や頭頸部癌の既往が強く関与すると報告されている.将来的には女性で減少し,男性では微増すると試算されている.

食道癌の診断に関する最新のデータ

著者: 広野靖夫 ,   山口明夫

ページ範囲:P.107 - P.112

 表在癌の深達度診断には従来のX線検査や内視鏡検査に加えて超音波内視鏡(EUS)の果たす役割が大きい.リンパ節転移検出にはFDG-PETとCTでは前者のほうが優るという報告が多いが,CTとEUSを組み合わせると同等となる.またPETは遠隔転移の検出能に優れ,MRIは病変の局所の評価に適している.これらの検査の利点や限界を考慮し,複数の組み合わせにより診断することが大切である.「1995-1997年全国食道がん登録調査報告」では表在癌は約3割占めるが,高度進行例も依然多い.cT3以上は全体の半数で,StageIVは約14%であった.

食道癌の治療に関する最新のデータ

著者: 北川雄光 ,   小澤壮治 ,   北島政樹

ページ範囲:P.113 - P.121

 早期食道癌発見率の上昇により内視鏡的粘膜切除術の適応症例は増加している.リンパ節転移のないT1aでは深達度m2までが適応となるが,耐術能不良例などを中心にm3〜sm1まで適応を拡大する試みが開始されている.T1b以深ではcN0であっても潜在的リンパ節転移の可能性を考慮して根治手術が施行されてきた一方,cT1bN0に対する化学放射線療法が一定の効果をあげており,今後手術療法との比較が注目される.T4ないしM1 lymph症例に対して化学放射線療法によりdown stageをはかったうえでsalvagesurgeryを行うことにより遠隔成績の改善が期待される.T2,T3の進行癌においては手術療法が中心に施行され,切除例5生率は施設により50%に達している.無作為化比較試験の結果,リンパ節転移陽性例では術後5—FU,CDDPによる補助化学療法の再発抑制効果が示され,現在術前化学療法との無作為化比較試験が進行中である.切除可能な進行癌に対する化学放射線療法の応用,普及しつつある内視鏡手術の根治術としての妥当性などが今後の課題である.

食道癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 北村道彦 ,   斉藤礼次郎 ,   本山悟 ,   小川純一

ページ範囲:P.122 - P.126

 食道癌の再発は80〜90%が2年以内に発症し,この期間の厳重なフォローアップが重要である.再発形式ではリンパ節(特に頸部・上縦隔)と遠隔臓器(肺,肝,骨,脳など)が多くを占める.再発癌の50%生存期間は6か月前後と予後は不良で,積極的治療が行われない場合は一層不良である.再発病巣切除により予後が良好な場合がある.頸部リンパ節など1領域限局再発例では放射線療法の効果がある程度期待できる.化学療法はCDDPと5-FUの併用が主流であるが,長期予後が得られる例は少ない.定期的フォローアップの徹底により,再発例の予後改善が示唆されている.

Ⅵ.胃癌

胃癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 谷川允彦

ページ範囲:P.128 - P.133

胃癌の罹患率は男性においては第1位であり,女性では第3位に位置している.1996年の本邦における胃癌の推計罹患患者数は男女合計102,945人であり,同年の全癌罹患数の21.8%を占めている.一方,胃癌死亡数については同年(1996年)は50,165人,1999年では50,676人であり,これは全癌死亡の17.4%である.世界各国の胃癌死亡率の年次推移をみると,わが国も諸外国と同様に低下傾向を示しているが,低下の開始時期は遅く,その影響もあって現在もなお諸外国に比べて高率である.この世界的な一様な低下傾向はおそらく食生活,特に食品の保存方法が塩蔵,燻製から冷蔵や冷凍保存に変わったことにより,塩辛い食品の摂取量が減少して,逆に果物や生野菜類の摂取最が増加したことが大きく関与していると考えられている

胃癌の診断に関する最新のデータ

著者: 下山省二 ,   上西紀夫

ページ範囲:P.134 - P.141

 胃癌の診断・治療は最近ではより早い段階で治療が施行される傾向にあり,胃癌診断技術の向上が示唆される.胃癌のリンパ節転移は深達度に比例して増加することから,胃癌の早期発見が治療成績のさらなる向上に必要である.早期癌のうち約70%が陥凹型であり,約半数が潰瘍(瘢痕)を伴っている.潰瘍(瘢痕)の存在は特に粘膜内癌のリンパ節転移のリスクファクターであり,陥凹型早期癌の診断,潰瘍(瘢痕)の存在の有無が治療法の選択・決定に重要な情報を提供する.一方,U領域の早期癌の頻度はいまだ少なく,この領域を注意深く観察するよう努めるべきである.

胃癌の治療に関する最新のデータ

著者: 山下好人 ,   澤田鉄二 ,   大平雅一 ,   平川弘聖

ページ範囲:P.142 - P.150

 胃癌の治療はD2郭清+胃切除術が長い間標準術式として定着していた.しかし,近年では早期胃癌に対する標準的治療としてEMRが行われるようになり,さらに胃局所切除術,分節切除術,PPG,迷走神経温存術,LADGなどの縮小手術が開発されるとともに,その有用性が証明されつつある.また,進行胃癌に対しては拡大手術や化学療法などが加わり,胃癌の治療法はますます多様化している.2001年に作成された「胃癌治療ガイドライン」には現時点で推奨される治療法とその適応が示されており,日常診療上の参考になると思われる.

胃癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 荒井邦佳 ,   岩崎善毅 ,   木村豊 ,   高橋慶一 ,   大植雅之 ,   山口達郎 ,   高橋俊雄

ページ範囲:P.151 - P.156

 再発形式は腹膜,肝,局所,リンパ行性の順であり,再発後2年以内の死亡が60%以上を占めていた.治療法における手術療法では再手術により根治切除が可能となる場合は積極的に切除を行う意義があるが,その頻度は再手術例の10%以下であり,多くの場合はQOLを改善するための姑息手術が行われているにすぎない.化学療法ではlowdose FP療法が汎用されているが,そのMSTは7〜10か月程度と他の治療法と差はなく,いまだ標準治療がないのが現状である.

Ⅶ.肝癌

肝癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 新谷隆 ,   加藤博久 ,   清水喜徳 ,   草野満夫

ページ範囲:P.158 - P.170

 第15回全国原発性肝癌追跡調査報告によると,肝癌の主要病理組織型は肝細胞癌と胆管細胞癌で,それぞれ94.9%,3.3%を占める.肝細胞癌においてはHCV抗体陽性率が72.3%,HBs抗原およびHBs抗体陽性率がそれぞれ16.8%,22.3%であり,C型肝炎に起因する肝癌が多いことに日本の肝癌の特徴がある.本稿では,日本において悪性新生物死亡数第3位に位置する肝癌に関する最新のデータおよび統計を供覧する.

肝癌の診断に関する最新のデータ

著者: 波多野悦朗 ,   山岡義生

ページ範囲:P.171 - P.177

 肝癌の診断には主に腫瘍マーカー,CT,超音波検査が有用である.原発性肝癌のうち93.1%が肝細胞癌で,5.2%の胆管細胞癌がこれに続く.肝細胞癌は胆管細胞癌に比べ障害肝に発生するが,今後早期肝細胞癌の診断が増加するものと予想される.胆管細胞癌切除例の約4割の症例がリンパ節転移を伴っている.再発時の肝外病変として肝細胞癌では肺,骨,リンパ節,腹膜,副腎が,胆管細胞癌では腹膜,リンパ節が多い.

肝癌の治療に関する最新のデータ

著者: 青木琢 ,   今村宏 ,   國土典宏 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.179 - P.193

 肝細胞癌(HCC)に対しては,肝切除,肝移植,局所療法,TACEなどのさまざまな治療が行われており,randomized controlled trial(RCT)が存在しないことから,治療法間の正確な比較は困難である.本邦では従来の各療法の治療成績に基づき,肝機能良好かつ切除可能例には外科切除が標準治療となっており,その他の症例には局所療法が選ばれる傾向にあるが,高頻度に認められる異時多中心性再発の問題がクリアーされていない.一方,欧米では,HCCに対する肝移植の適応,手術の安全性がほぼ確立され,癌,肝硬変両者の根治治療として移植治療の占める位置が大きくなっている.今後わが国でも,生体部分肝移植の活用により,多発症例や再発症例を中心に移植治療の適応が広がっていくことが予想される.局所療法では,ラジオ波焼灼療法(RFA)がエタノール注入療法(PEI)に代わり普及しており,長期成績の評価およびRCTに基づく他療法との比較が今後求められる.
 肝内胆管癌(ICC)の治療成績は,唯一の根治治療である外科切除においても満足できるものとはいえず,早期発見へのストラテジーの確立が急務である.

肝癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 山崎晋 ,   小菅智男 ,   島田和明 ,   佐野力

ページ範囲:P.195 - P.202

 肝細胞癌切除後1/3の症例が1年以内に,2/3が3年以内に再発する.再発部位は8割は肝臓のみであり,15%で「肝臓+他の臓器」に,遠隔転移のみは5%程度である.遠隔転移は,肺,骨,リンパ節,副腎の順に多い.肝細胞癌の再発はいつまでも続く可能性があり,再発監視の検診は一生涯続けなければならないが,肝切除後3年経過すると,再発頻度は低下するので半年に1回でよい.検診方法は,CT,超音波検査などの侵襲性の低い画像診断と腫瘍マーカーを施行する.再発に対する治療は,基本方針は原発癌に対するものと同じである.再発後の生存率は,再発後3年,5年でそれぞれ40.3%,22.7%であった.肝細胞癌の死因は,半数が癌死で,以下,肝不全,消化管出血,肝癌破裂などが続く.

Ⅷ.胆管癌

胆管癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 向谷充宏 ,   木村康利 ,   本間敏男 ,   桂巻正 ,   佐々木一晃 ,   平田公一

ページ範囲:P.204 - P.209

 わが国における胆道癌の疫学的研究の最新資料を基にその疫学的特徴を紹介した.人口動態統計によると1999年の胆道癌死亡者数は約1万5千人で,全悪性新生物中5%を占めている.癌死亡数の将来予測によると1995年の死亡数に対する2015年のその比率は,胆道癌の増加率が3.11倍と最も高くなるであろうと予測されている.さて,今日における分子生物学的研究の発展にもかかわらずあらゆる病態学的諸因子を対象としても,胆管癌の発生要因にかかわるリスク要因は確定されていない.胆道癌については,統計上胆管癌とともに胆嚢癌および十二指腸乳頭部癌などが一括されているが,今後は一時予防の展開のためにもICD−10に示されている細分類を基礎とした統計資料の公表と分析により,疫学的研究のいっそうの進歩発展が望まれる.

胆管癌の診断に関する最新のデータ

著者: 植木隆 ,   清水周次 ,   許斐裕之 ,   永井英司 ,   中野賢二 ,   山口幸二 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.210 - P.214

 胆管癌の診断はさまざまな診断法を駆使して包括的に行う.胆管癌の治療には正確な範囲,深達度,進行度診断が重要で,これらは直接患者の予後に影響する.肝外胆管癌では早期癌の割合は10%程度で,周囲組織および大血管への浸潤などによるt3,t4症例が45〜60%存在し,stage Ⅲ以上が50%以上を占める.一方,乳頭部癌では早期癌は33%と胆管癌より多く,stage Ⅰ,Ⅱ症例が70%程度を占めている.

胆管癌の治療に関する最新のデータ

著者: 上坂克彦 ,   二村雄次

ページ範囲:P.215 - P.221

 胆管癌に対する根治的な治療法は外科的切除のみである.このうち中・下部胆管癌に対する標準術式は幽門輪温存膵頭十二指腸切除であり,20〜40%台の合併症率,2〜3%台の在院死亡率,30%台の5年生存率が報告されている.肝門部胆管癌に対しては肝区域切除+尾状葉切除+肝外胆管切除が標準術式として行われており,30〜80%台の合併症率,10%前後の在院死亡率,20〜30%台の5年生存率が報告されている.非切除症例に対しては減黄処置に加えて放射線治療や化学療法が行われる.放射線治療には一定の有効性が認められているが,化学療法の有効性はいまだ確立されていない.

胆管癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 新井田達雄 ,   吉川達也 ,   高崎健

ページ範囲:P.222 - P.224

 胆管癌の再発診療と治療に関して文献的考察を中心に述べた.再発診断に関しては,CTやPTCDなどの画像診断が普及した現在,さほど困難ではなくなったが,再発治療に関しては抗癌剤や放射線療法の有効性を示唆するevidenceとなる文献がなく,これといった標準的治療法も定まっていないのが現状である.今後,抗癌剤の多剤併用療法や放射線療法との併用療法などの新たな治療法の確立が望まれる.

Ⅸ.胆嚢癌

胆嚢癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 阿部秀樹 ,   野澤聡志 ,   長田拓哉 ,   塚田一博

ページ範囲:P.226 - P.229

 女性の胆道癌死亡率は膵癌と同程度であり,無症候性閉塞性黄疸の鑑別診断にあたって考慮しなければならない.胆嚢癌検診の効率化を目的に,胆嚢結石の存在自体をハイリスクグループとして規定しうるが,無症状の胆嚢結石を発見する方法は超音波検査による検診以外にない.

胆嚢癌の診断に関する最新のデータ

著者: 三宅秀則 ,   藤井正彦 ,   佐々木克哉 ,   高木敏秀 ,   田代征記

ページ範囲:P.230 - P.234

 胆嚢癌の深達度診断法とその正診率,および進展様式・組織型の頻度を検討した.壁深達度に関しては,超音波内視鏡検査が最も信頼性があると思われた.組織学的検索では,乳頭腺癌と管状腺癌が大部分を占めており,tub2以上の分化度の比較的高い癌の頻度が高かった,ly,v,pn因子すべて深達度が進むに伴いその陽性率が高くなるが,特にly因子の陽性率が高率であった.リンパ節転移頻度も進行癌,特にse/si癌になると7〜8割に転移を認めた.stage別では約6割がstgaeⅢまでの症例であった.

胆嚢癌の治療に関する最新のデータ

著者: 清水宏明 ,   伊藤博 ,   木村文夫 ,   外川明 ,   大塚將之 ,   吉留博之 ,   加藤厚 ,   貫井裕次 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.235 - P.238

 胆嚢癌は近年,術前門脈枝塞栓術の導入や血管合併切除・再建などの手術手技の向上により切除率は向上してきたが,その予後は他の消化器癌に比してまだ不良である.1997年に胆道癌取扱い規約(第4版)が改訂されたが,本稿では,新規約に基づいた胆嚢癌の進行度別外科治療法とその成績を胆道癌登録の全国集計結果とともに最近の諸家の報告について解説し,さらに胆嚢癌の放射線・化学療法についても言及した.

胆嚢癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 石橋敏光 ,   安田是和 ,   永井秀雄

ページ範囲:P.239 - P.243

 再発胆嚢癌に関する集学的データは見当たらないため,個々の本邦報告例を集積し検討した.胆嚢癌切除例の5年再発死亡率は全体で58%,Stage別でStage Ⅰ 23%,StageⅡ 47%,Stage Ⅲ 69%,Stage Ⅳ 91%と類推された.主な再発様式は,肝転移,腹膜播種,リンパ節転移および局所再発で,大部分は術後1年半以内に再発するものの,晩期再発例もみられた.多くの再発胆嚢癌症例の予後は悲観的であるが,再切除例,化学療法施行例に長期生存例も散見された.長期生存が期待できる症例を特定することはできないが,個々の再発症例においてこれらの抗腫瘍療法を検討することが必要である.

Ⅹ.膵癌

膵癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 徳原真 ,   寺島裕夫 ,   跡見裕

ページ範囲:P.246 - P.254

 膵癌は予後の悪い癌として知られている.日本における推定罹患数(1996年)は16,987人(男性9,274人,女性7,713人)であり,近年の死亡者数(2000年)は19,094人(男性10,380人,8,714人)で,癌の死亡部位別にみると第5位となっている.罹患率,死亡数・率ともに増加傾向を認める.女性より男性に多くみられ,年齢分布では60〜70歳代がピークである.初発症状は腹痛が最も多く,ほとんどが有症状で発見される.喫煙が最も重要な危険因子であり,最近では家族性膵癌や遺伝性疾患がハイリスクグループとして報告されている.

膵癌の診断に関する最新のデータ

著者: 鈴木康之 ,   藤野泰宏 ,   黒田嘉和

ページ範囲:P.255 - P.258

 膵癌は全悪性腫瘍の約2%であるにもかかわらず,本邦における癌による死因の第5位,米国では第4位である.このことは膵癌の悪性度の高さを如実に物語っている.早期診断の難しさもあり,切除不能例で発見されることも多い.切除できても5年生存率は10%前後との報告が多い.早期診断の重要性のみならず,術前の的確な鑑別診断や進展度診断も,適切な治療方針を決定するうえで不可欠である.本稿では膵癌の診断に関する最新のデータを紹介する.
 なお,膵癌取扱い規約の第5版が2002年4月に出版されたが,これまで膵癌全国登録調査1)などで蓄積されたデータは第4版に基づいて分類,評価されたものであるので,本稿の記載内容も取扱い規約第4版2)に準拠した.

膵癌の治療に関する最新のデータ

著者: 天野穂高 ,   高田忠敬 ,   安田秀喜 ,   長島郁雄 ,   豊田真之 ,   井坂太洋 ,   和田慶太

ページ範囲:P.259 - P.262

 1999年度の膵癌全国登録調査報告の進行度分類では,Stage Ⅰ,Ⅱはそれぞれ31例,62例と少なく,Stage Ⅲが154例,Stage Ⅳaが230例,Stage Ⅳbが315例であり,依然として多くの症例は,進行癌で発見されていた.術式では,PDが213例に対し,PPPDが158例であり,PPPDの適応が次第に広がってきていた.切除574例中D2が249例に,また門脈切除は137例に施行され,積極的な拡大手術が主流であったが,通常型膵癌切除例の5年生存率は13.2%であった.化学療法ではgemcitabineが標準的な薬剤となり,また放射線療法では術前重粒子線治療臨床試験が試みられており,その効果が期待された.

膵癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 濱崎啓介

ページ範囲:P.263 - P.269

 外科的治療の対象となる再発膵癌が極めて稀なため,化学療法や放射線療法を中心に治療が行われてきたが,満足すべき結果を得ることはできなかった.そこでbiologicalresponce modifiers(BRM)や免疫療法との併用が試みられたが,残念ながら成績の向上はみられていない.最近開発されたgemcitabineに症状緩和作用の強いことが明らかになり,特に再発膵癌には期待がもたれる.また分子標的治療の分野の進歩には目覚ましいものがあり,近い将来補助療法の一つとして追加され再発膵癌の治療にも新しい展開のみられる可能性が出てきている.

ⅩⅠ.大腸癌

大腸癌の疫学に関する最新データ

著者: 井上靖浩 ,   三木誓雄 ,   楠正人

ページ範囲:P.272 - P.277

 わが国の大腸癌は死亡数,罹患数とも上昇しており,死亡数では肺癌,胃癌についで癌死因の第3位(1999年)を占め,癌罹患数では胃癌についで第2位(1996年)となっている.また2010年頃までには胃癌死亡数を上回る見込みであり,その対策が急がれる.今回,大腸癌に関する死亡・罹患の推移および現況,地域・年齢分布,初発症状別頻度,関連要因について最新の疫学統計を供覧した.

大腸癌の診断に関する最新のデータ

著者: 丸田守人 ,   前田耕太郎 ,   内海俊明 ,   佐藤美信 ,   升森宏次 ,   小出欣和 ,   松本昌久 ,   松岡宏 ,   石原廉 ,   岡本規博 ,   勝野秀稔 ,   中村悟

ページ範囲:P.278 - P.282

 わが国の大腸癌の実態を最新のデータから,大腸癌の占拠部位別,結腸と直腸の占める比率とその変遷,大腸癌の占拠部位とその変化,肉眼的分類型別頻度,病理組織型別頻度,深達度別頻度,病理組織学進行度,病期分類と部位別頻度などについて述べた.

大腸癌の治療に関する最新のデータ

著者: 植竹宏之 ,   樋口哲郎 ,   榎本雅之 ,   杉原健一

ページ範囲:P.283 - P.288

 大腸癌の手術は治癒切除率には変化がないが,肛門の温存などQOLを考慮した術式が増えている.5年生存率は向上しており,これは診断学の向上や手術手技の改善,術前・術後の補助療法が寄与していると考えられる.近年,早期癌に対する手術が増えており,今後は内視鏡的切除や腹腔鏡下手術の普及と増加が予測される.わが国には大腸癌治療のガイドラインはなく,早期の確立が望まれる.

大腸癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 野田雅史 ,   柳秀憲 ,   山村武平

ページ範囲:P.289 - P.295

 大腸癌治癒切除後の再発として肝,肺,局所,腹膜などへの転移が認められる.これらの転移に対し,切除可能であれば切除することで治癒が期待できるが,切除の対象となるのは10〜30%と頻度は低く,大部分が切除不能である.このため術後再発を早期に発見し,治療する目的でサーベイランスが行われている.ここでは大腸癌治癒切除後の再発形式,頻度,再発発見の方法,そして再発に対する治療(切除および切除不能症例)について述べる.

ⅩⅡ.小児癌

小児癌に関する最新のデータ

著者: 横山清七 ,   平川均 ,   上野滋

ページ範囲:P.298 - P.309

 1985年以降,小児癌の治療成績は著しく向上した.シスプラチンの出現と小児癌治療グループスタディの成果によるものである.さらに肝芽腫に対する肝移植,進行癌に対する造血幹細胞移植を用いての治療により,以前には救命困難であった症例も治るようになってきた.すなわち小児癌を治せる時代がきた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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