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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科57巻13号

2002年12月発行

雑誌目次

特集 胃癌治療ガイドラインの検証

胃癌治療ガイドラインの検証と今後の問題点

著者: 中島聰總

ページ範囲:P.1613 - P.1618

 胃癌治療ガイドラインが胃癌治療の進歩に適切に対応しつつ,日常診療の現場で十分活用されるためにはガイドラインの作成,流布,活用,フィードバックなどのguidelines development cycleが十分機能していることが必要である.特にEBMに準拠して評価の確定した治療法の取り込みと医療の現場からのフィードバックが重要である.標準治療の根拠となる研究報告の評価方法,いわゆるgrey zoneの問題,フィードバックの方法,expert panelの役割,初版のガイドラインで扱わなかった未検討課題などについて述べた.

EBMと胃癌治療ガイドライン

著者: 佐野武

ページ範囲:P.1619 - P.1622

 EBMという手法は欧米を中心に近年広く普及し,さまざまな疾患に対する治療ガイドラインも,強いエビデンスを基に記述・改訂されるようになっている.一方,わが国の胃癌治療ガイドラインはわが国独自で開発・発展してきたEMRやD2郭清,各種縮小手術などが治療法の中心となっており,EBMでいうところのエビデンスは弱い.しかしこれはスタートとも呼ぶべきものであり,このガイドラインは今後の日本における臨床研究のスタイルを大きく変えるポテンシャルを持っている.ガイドラインが示す標準治療を軸として,さまざまな臨床研究がprospectiveに展開されれば,高いレベルのエビデンスが集積されることが期待される.

一般用ガイドライン解説書の活用と問題点

著者: 荒井邦佳 ,   岩崎善毅 ,   木村豊 ,   高橋慶一 ,   山口達郎 ,   本間重紀 ,   高橋俊雄

ページ範囲:P.1623 - P.1628

 一般用ガイドライン解説書(本書)の活用の実際とアンケートによる患者側の反応を中心に今後の課題について言及した.当院では本書を2002年1月から活用開始し,5冊を常備して告知済みの患者から順次貸し出して,なるべく家族とともに読むことを勧めた.術前の治療説明時には本書を持参させ,説明の補助とした.
 最近の30例において患者側からみた本書の意義についてアンケート調査を行った.全員が本書の存在を知らなかったが,本書を読むことによって胃癌の病態と治療を理解するのに有用であることが示され不安の軽減につながった.今後は本書を手渡す時期や家族の参加を配慮するとともに,早めに術前ステージを示すことも理解を深めるために大切である.また,日本胃癌学会はわが国に適した普及方法を検討していく必要がある.

技術的側面からみたEMRの適応基準の評価

著者: 竹下公矢 ,   谷雅夫

ページ範囲:P.1629 - P.1634

 「胃癌治療ガイドライン」の有用性と問題点を内視鏡の立場から検証した.早期胃癌のEMRにおいては病変の大きさで適応拡大は可能であるが,大きくすればn(−)でもSM浸潤程度(頻度)は増加することになり,術前診断とEMR切除標本の深部断端の癌遺残に十分注意が必要である.また,深達度について丈の高いI型やIIa+IIc型と診断された症例は除外した後に,M癌と診断した例を対象とすることが望ましい.SM 1癌を粘膜筋板より500μ未満の浸潤としたことはその診断能,臨床病理学的特徴から妥当である,また,「胃癌取扱い規約」上の,一括,分割を問わないEMR後の根治度の評価法である,EA,EB,EC 3分類による遠隔成績の集積が待たれる.

ITナイフはEMRの適応基準を拡大したか?

著者: 斉藤大三 ,   後藤田卓志 ,   小田一郎 ,   小野裕之

ページ範囲:P.1635 - P.1640

 早期胃癌の治療に対する内視鏡的粘膜切除術(EMR)の比重は年々高くなっている.当院の絶対適応基準は,①分化型腺癌,②明らかなsm浸潤所見がない,③潰瘍所見(−):腫瘍径に制限なし,(+):3cm以下と胃癌学会から出された「胃癌治療ガイドライン」より拡大している.EMR前の正診率に制限がある以上,切除後の組織学的検索は必須であり,正確な病理診断を得るためには大きな病変に対しても一括切除を目指すべきである.1996年従来の高周波針状ナイフの先端にセラミック製の小球を接続させたITナイフが開発された.ITナイフを用いたEMR法は従来のstrip biopsy法では困難であった大きさ・部位の病変に対しても一括切除率はきわめて良好であり,現在当院の標準法となっている.

胃癌の縮小手術や腹腔鏡手術の適応

著者: 安達洋祐 ,   北野正剛

ページ範囲:P.1641 - P.1644

 今日の医療は「科学的根拠に基づいた医療(evidence-based medicine:EBM)」が重視されており,ガイドラインの作成や医療の実践にはエビデンスが求められる.最近の臨床研究によると,早期胃癌の縮小手術はガイドラインを越えた適応でも安全に施行でき,早期胃癌の腹腔鏡手術は開腹手術よりも優れた点があることが示されている.今後,縮小手術や腹腔鏡手術が胃癌の外科治療としてさらに評価されていくものと考える.

腹腔鏡下胃局所切除の適応基準

著者: 大谷吉秀 ,   古川俊治 ,   北川雄光 ,   才川義朗 ,   吉田昌 ,   久保田哲朗 ,   熊井浩一郎 ,   向井萬起男 ,   北島政樹

ページ範囲:P.1645 - P.1650

 早期胃癌に対する腹腔鏡下胃局所切除術はリンパ節転移のない比較的小さな病変に対する低侵襲で根治性の高い治療法である.胃内視鏡によるEMR,腹腔鏡下もしくは開腹縮小手術との間に位置するが,粘膜癌に対するこれまでの適応(Ⅱa:T<25 mm,Ⅱ c:T<15 mm,UL (−))に加え,sentinel lymph nodeの検索によるリンパ節転移の確実な把握ができるようになれば,粘膜下層に浸潤する胃癌に対して本法が適応できる可能性がある.胃の大部分を温存できる局所切除に対する期待は大きい.

迷走神経温存胃切除術は術後のQOLを向上させるか?

著者: 二村浩史 ,   高山澄夫

ページ範囲:P.1651 - P.1655

 幽門側胃切除では迷走神経を温存することで術後下痢の発生を有意に予防でき,BMIからみた体重減少を有意に抑えることができた.しかし,食事摂取,就労状況,気持といった患者の満足度の面からはQOLが有意に向上したとは言えなかった.術後胆石症の発生は単に神経を残すだけでは予防できない.神経温存幽門保存胃切除症例に胆石の発生を認めなかったことから,術後胆石予防には迷走神経肝枝・腹腔枝に加えて幽門枝や幽門輪の機能温存がかかわっていると考えられた.QOLの向上が明確にされるまでは適応はD1+αでよい症例に限るべきであろう.

胃癌術後補助化学療法の標準化は可能か?

著者: 前原喜彦 ,   掛地吉弘 ,   馬場秀夫

ページ範囲:P.1657 - P.1662

 米国では1984年からPDQ(Physician Data Query)というデータベースがNCI(National Cancer Institute)から提供され,癌に関する治療の最新情報,臨床試験に関する情報などが誰でも見られるようになっている.PDQには標準的治療のオプションが示されているので医師や患者の双方がこの情報を共有することができ,これらの内容が定期的に再検討されている.本邦ではまだこのような進んだシステムは存在せず,2001年に「胃癌治療ガイドライン」が医師用,患者用のそれぞれが発刊されたばかりである.この中にも述べられているが,胃癌術後補助化学療法の有用性についてはまだ明確にされておらず,標準化されるかどうかもわからないのが現状である.筆者は胃癌術後補助化学療法の臨床試験に携わってきた立場から,胃癌術後補助化学療法の標準化の可能性について述べる.

標準治療としての進行胃癌化学療法の適確性と現状

著者: 斎藤聡 ,   坂田優

ページ範囲:P.1663 - P.1667

 「胃癌治療ガイドライン」では化学療法に関して標準治療となるregimenを推奨することができなかった.現在は5-FUを中心とした化学療法が実地医療として行われており,汎用されている持続少量FP療法なども検証に耐えうる比較試験は行われていない.5-FUの入らない併用療法も盛んに研究されている.現状では5-FUを含む治療が中心で,その他は2次的に考えるのが一般的である.現在実地医療で行われている主な治療法を呈示し,可能性を検討した.標準治療を決定するためには大規模第III相試験を行うことが必要であるが,そのためには臨床試験を行うことのできる機構の整備と臨床腫瘍医の養成が必要である.

カラーグラフ 正しい外科切除標本の取り扱い方・21

甲状腺の切除標本の取り扱い方

著者: 八代享 ,   呉文文 ,   戸松澄世

ページ範囲:P.1607 - P.1611

はじめに
 甲状腺外科において切除標本を正確に観察・整理することには,大きく3つの目的がある.その第1は術中の肉眼所見から甲状腺およびリンパ節の適切な切除範囲を最終的に決定すること,第2は正確な病理組織診断を得ることで術前診断および術式の妥当性を判断すると同時に,術後の治療方針の決定および予後の判定に不可欠であること,第3は予後良好な甲状腺癌の治療成績の解析・比較検討のために20年後を見据えて,共通の基準に従って個々の症例の正確な情報を集積・蓄積するためである.
 本稿では甲状腺外科研究会が定めた「甲状腺癌取扱い規約」1)に沿って,筆者らが行っている甲状腺切除標本の取り扱い方を紹介する.

私の工夫—手術・処置・手順

3重構造硬性PTCDチューブの工夫

著者: 岩瀬博之 ,   卜部元道 ,   鈴木義真 ,   内田陽介 ,   折田創 ,   寺井潔 ,   前多力 ,   高橋玄 ,   石戸典保 ,   渡部脩

ページ範囲:P.1670 - P.1671

 閉塞性黄疸における減黄処置としてのPTCDはごく日常的に行われ,筆者らの病院でもPTGBDも含めれば年間約50例ほど施行している.その手順は馬場1)が紹介している方法が一般的で,ほぼ確立された感がある.しかしながら胆管造影後に穿刺針で穿刺しガイドワイヤーを挿入,ガイドワイヤーを通してPTCDチューブ本体を挿入するときに,ダイレーターで拡張した後でも肝臓の硬さ,挿入距離,胆管の硬さなどが問題となり,PTCDチューブがたわんでなかなか進まないときがある.このたわみがなければ,本体を押す力は挿入方向へスムーズに伝わり挿入は容易になる.もしチューブが硬ければたわみは少なく,挿入は簡単であるが,それでは挿入後の違和感が生じる.
 そこで筆者らはカテックス社と共同で6FrのPTCDチューブ本体の最内側に注射針を入れ,中間にはたわみ防止の硬さを持たせた金属チューブをいれた3重構造のチューブを考案,straightタイプとpigtailタイプの2種類を製作し(図1),挿入時には中間のチューブで硬さを持たせ,挿入後にはこれを引き抜き,軟らかい状態となるようにした.

病院めぐり

済生会横浜市南部病院外科

著者: 須田嵩

ページ範囲:P.1672 - P.1672

 済生会横浜市南部病院は,横浜市民の健康と生命を守り,福祉を増進することを市政の重要施策とし,また周辺地域における人口急増に対処するために,1983(昭和58)年に横浜市の医療計画に基づいて横浜市南部医療圏(人口100万人)の中核的病院として発足した.設計・建設は社会福祉法人恩賜財団済生会と共同で行い,経営は済生会に委託された.独立採算の公的医療機関である.
 本院は,①横浜市南部医療圏における医療の向上を目指す(横浜市の目的),②医療,保健,福祉の一本化,無料低額医療(=福祉医療)を推進する(済生会の目的),③公的医療機関としての責務を果たす,④教育研修病院としての責務を果たす,などの目標を掲げて設立されたのである.

自衛隊中央病院消化器一般外科

著者: 冨松聡一

ページ範囲:P.1673 - P.1673

 自衛隊病院は,北の札幌病院から南の那覇病院まで,全国で計16病院あります.自衛隊中央病院は診療・研究・教育のあらゆる面において自衛隊医療の中核となるべく,昭和31年に陸海空3自衛隊の共同機関として世田谷公園に隣接した三宿の地に開設されました.当初は,隊員および隊員の被扶養者のみを診療する職域病院でしたが,平成5年秋に東京都から保険医療機関としての指定を受けて以来,部分開放し,部外患者も受け入れています.総病床数は500床で,診療科は28科,医師数99名の臨床研修指定病院です.外科関連では,当科のほかに胸部外科,形成外科,脳神経外科があり,それぞれ独立して活動しています.また日本外科学会,日本消化器外科学会,日本胸部外科学会,日本呼吸器外科学会,日本消化器病学会,日本消化器内視鏡学会,日本大腸肛門病学会などの認定医,専門医修練施設となっています.
 当科は40床,医師11名(山田省一第1外科部長,長谷和生第2外科部長,岡田和滋第3外科部長,伊藤英人,菅沼利行,冨松聡一,宇都宮勝之,青笹季文,田中正文,識名敦,寺内りさ)で診療に当たっています.昨年度の手術件数は計373例で,全麻下手術は203例(うち胃癌40例,大腸癌38例),虫垂切除,痔核根治術,ヘルニア根治術などの腰麻下手術は170例でした.

文学漫歩

—深沢七郎(著)—『楢山節考』(1964年,新潮社 刊)

著者: 山中英治

ページ範囲:P.1674 - P.1674

 聖路加国際病院理事長・日野原重明先生の著書が『生き方上手』をはじめ何冊もベストセラーになった.先生の提唱される「新老人運動」では,健康な老人はボランティアなどをして弱い人を助ける側に回ることを勧めておられる.病院や介護施設で働いていただければ高齢化社会にとって福音である.人生経験豊富な方々に,不安な気持ちでいる患者の話し相手になってもらうだけでもありがたい.
 『楢山節考』では,寒村で若い者が生きていくために,食費を節減する目的で七十歳以上の老人は山に捨てる.主人公の老女「おりん」は七十前だが健康で体力もあり,魚穫りの技術や家事なども若者より優れている.しかしいくら有能でも例外は許されないし,何よりも自分で潔く山へ行くと決め,その日のための振る舞い酒や料理など準備万端にしている.かように賢くよくできた母親を,優しい息子はなるべく山には行かせたくない.較べて隣家の舅は役立たずで,家族にも嫌われているが生に執着し山へ行こうとしない.

Current Topics

海外および本邦における肝臓移植の現状と将来

著者: 新田耕作 ,   原田俊英 ,   石崎文子 ,   松本昌泰 ,   正田守

ページ範囲:P.1675 - P.1683

はじめに
 現在ではドナーからの肝臓の摘出手技,その保存方法,術後の免疫抑制剤,術後管理の向上などから,本邦の脳死肝臓移植においても17例中14例が生存中である.世界的に見ても年間約8,000例の脳死肝臓移植が行われ,その6割4,800人は手術後5年間生存している1).末期肝不全の患者,脳死の患者が5年間生存する可能性はまず0%であることを考えると,脳死肝臓移植が治療法の一選択肢として確立してきていると思われる.しかしながら,約4割3,200人の方は脳死肝臓移植を行っても手術後5年間生存しなかったことを考えると,Starzl TEがまだ脳死肝臓移植の成績に満足せず向上を求めている理由が理解できる2)

米国でのProblem-Based Learning形式による外科研修

Problem-Based Conference(14)—患者・家族とのコミュニケーション:胆道系手術と合併症(その2)

著者: 町淳二 ,   児島邦明

ページ範囲:P.1685 - P.1700

1 はじめに
 R (研修医):患者さんとその家族とのコミュニケーションは,どのような医療においても医師—患者関係をよく保つ上で必須のことですので,前回のproblem-based conferenceでは学ぶところが多かったです.腹腔鏡下胆嚢摘出術(胆摘術)に際してのインフォームド・コンセントのとり方を通して,患者さんに説明すべき点,コミュニケーションすべき事項を学習してきました.今回は,手術の合併症ということを通して,さらにいろいろなコミュニケーションについてディスカッションするということでしたね.
 S(医学生):私たちはまだ,患者さんからインフォームド・コンセントをとったりすることはないのですが,患者さんとその家族とのコミュニケーションは大変重要と理解しています.

臨床研究

中心静脈カテーテル挿入時の心電図モニター法による先端位置判定基準

著者: 浅井俊哉 ,   山東勤弥 ,   李都相 ,   光田伸行 ,   清水義之 ,   曺英樹 ,   岡田正

ページ範囲:P.1701 - P.1706

はじめに
 中心静脈カテーテル(central venous catheter:以下,CVC)挿入時の問題点および合併症にCVC先端の挿入時位置異常がある1〜3).CVCの先端は上半身からの挿入の場合,上大静脈内の右心房流入部手前に位置するのが適切とされている.しかし,CVC先端が上大静脈内にまで進まず,内頸静脈や反対側の鎖骨下静脈などに誤挿入(mislodg-ing)されることがある.このような状態で高濃度糖液を注入すると,静脈炎,血栓形成,輸液剤の血管外漏出(extravasation of fluids)などの合併症を引き起こす危険があり,カテーテルの再挿入が必要となる1〜4)
 Mislodgingの発生頻度を減少させる方法の1つとして,CVC挿入時に心電図モニターを用いる方法(以下,本法)がWilsonら5)によって試みられた.この方法は具体的には図1に示したように,生理的食塩水などの電解質溶液で内腔を満たしたCVCを電極付きアダプター(以下,アダプター)を介して,心電図モニターと接続して心電図測定を行う.CVC先端部が上大静脈から右心房に近づくにつれ心電図のP波が増高し,さらに洞房結節を越えると2相性のP波となる.このP波の波形変化からCVCがmislodgingしていないかどうかの判断ができる6〜8)

臨床報告・1

術後8年目に孤立性リンパ節転移で再発した早期胃膠様腺癌の1例

著者: 阪本研一 ,   広瀬一 ,   山田卓也 ,   安村幹央 ,   仁田豊生 ,   二村直樹

ページ範囲:P.1707 - P.1710

はじめに
 一般型胃癌のなかで胃膠様腺癌は稀な組織型であるために,その臨床病理学的特徴はあまり知られていないのが現状である1,2)
 今回,筆者らは術後8年目に孤立性リンパ節転移で再発した胃膠様腺癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

IVR下にシアノアシレートとマイクロコイルにて食道癌術後吻合部気管支瘻を閉鎖した1例

著者: 繁光薫 ,   猶本良夫 ,   羽井佐実 ,   山辻知樹 ,   白川靖博 ,   田中紀章 ,   金澤右 ,   三村秀文

ページ範囲:P.1711 - P.1715

はじめに
 食道気管支瘻は呼吸困難,嚥下困難,誤嚥性肺炎をきたし,quality of life(QOL)を著しく低下させるのみでなく,しばしば難治性となり,治療に難渋することが多い.一方,器械吻合の普及に伴い,食道癌術後吻合部狭窄をきたし,再度にわたり食道拡張術を必要とすることがある.
 筆者らは食道空腸吻合部に狭窄をきたし,気管支瘻を形成した症例に対し,digital subtraction angiography(DSA)装置監視下にN-ブチル-2-シアノアシレート(ヒストアクリル®:以下,NBCA)およびマイクロコイルを用いて塞栓し,閉鎖させることが可能であった症例を経験した.さらに,瘻孔形成の一因となった吻合部狭窄に対し,シリコン製人工食道プロステーゼ(住友ベークライト社)を留置し,良好なQOLを得ているので報告する.

閉鎖孔ヘルニア嵌頓に対する水圧による整復術の2例

著者: 光岡晋太郎 ,   阪上賢一 ,   池田秀明 ,   田中公章

ページ範囲:P.1717 - P.1719

はじめに
 閉鎖孔ヘルニアは骨盤CTの有用性が広く認識され,早期に確定診断が可能となってきている1〜7).嵌頓のため緊急手術となってもRichter型の嵌頓が多いため,ほとんどの場合嵌頓した腸管を用手的に引き出すだけで容易に整復されていた1,5,6)
 筆者らは骨盤CTにて術前診断しえた閉鎖孔ヘルニア嵌頓に緊急手術を行い,嵌頓が強固で整復困難な症例を経験した.用手的な牽引では腸管損傷の危険があるため,独自に水圧を利用した整復術を考案し,安全で有用であることを確認したので報告する.

後腹膜膿瘍を形成した輸入脚閉塞症の1例

著者: 島本強 ,   鬼束惇義 ,   片桐義文 ,   味元宏道 ,   岩田尚 ,   阪本研一

ページ範囲:P.1721 - P.1723

はじめに
 胃切除術後の合併症の1つに稀ではあるが急性輸入脚閉塞症がある.十二指腸断端を閉鎖する術式でみられ,急激な腹痛,高アミラーゼ血症が特徴とされている1).実際の診断は困難で外科的処置が遅れると輸入脚壊死を引き起こし,重篤な経過をとる.今回,筆者らは後腹膜膿瘍を形成した輸入脚症候群の1例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.

バリウム虫垂結石による急性虫垂炎の1例

著者: 宗岡克樹 ,   白井良夫 ,   藤村夏美 ,   佐藤英司 ,   須田剛士 ,   豊島宗厚

ページ範囲:P.1725 - P.1728

はじめに
 バリウム虫垂炎はバリウムを用いた消化管造影後に虫垂内にバリウムが残存し,急性虫垂炎を引き起こす病態である1).欧米では1970年のDehartの症例以来16例の報告がなされているが,本邦での報告は見られない.今回,バリウムを用いた上部消化管造影後2年9か月目に急性虫垂炎を発症し,虫垂切除術が施行され,硫酸バリウムからなる虫垂結石が虫垂炎の原因と考えられた症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

悪性無症候性膵島細胞腫の肝転移に対し,streptozocin(STZ),5-FU肝動注療法が奏効した1例

著者: 柿原直樹 ,   高橋滋 ,   泉浩 ,   竹中温 ,   早雲孝信 ,   加藤元一

ページ範囲:P.1729 - P.1731

はじめに
 無症候性膵島細胞腫瘍は比較的稀な疾患とされている1,2).本症は無症候性のために腫瘤が大きくなってから発見されることが多く,そのために悪性化も高頻度に見られるとされている3).今回,筆者らは術後多発肝転移をきたした膵島細胞腫に対し,皮下埋め込み型リザーバーを用いて動注化学療法を行い,肝再発後5年生存を得られた症例を経験したので報告する.

臨床報告・2

梅の種子による食餌性イレウスをきたした小腸狭窄の1例

著者: 川崎健太郎 ,   山口俊昌 ,   美川達郎 ,   脇田和幸 ,   大西律人 ,   石田武

ページ範囲:P.1733 - P.1734

はじめに
 食餌性イレウスはイレウスの中でも比較的稀な疾患である1).今回,筆者らは小腸狭窄を合併した梅の種子による食餌性イレウスの症例を経験したので報告する.

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「臨床外科」第57巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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