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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科57巻4号

2002年04月発行

雑誌目次

特集 消化器外科における機能検査

食道内圧検査と24時間pHモニタリング

著者: 下位洋史 ,   森俊幸 ,   跡見裕

ページ範囲:P.417 - P.424

はじめに
 食道は嚥下された飲食物や唾液を胃内に運搬するための管腔臓器であり,蠕動能を持つ.食道から胃への嚥下物の運搬は食道運動能の協調により行われている.すなわち,口腔内容が嚥下され食道内へ運ばれると,迷走神経反射により上部食道から下部食道に向かって蠕動が起こり(一次蠕動波の出現),食道内を輸送する.この時嚥下運動にやや遅れて下部食道括約筋(LES)が弛緩し,嚥下物は胃内へ排出される.また,食道は縦郭内に存在し呼吸運動に伴い陰圧となることや,腹圧などによる胃内圧の上昇により胃食道逆流(GER)をきたしやすい状態にある.これに対し,下部食道高圧帯(HPZ)や食道裂孔のピンチコックアクションなどの協調により胃食道逆流を防いでいる1).GERは胃内容物がLESにおける圧勾配による逆流防止機構により抑制できない際に起こる.正常でも胃内圧の上昇などによりLESが一過性に弛緩する(TLESR)ことが知られており,GERがみられる2,3).食道内の逆流物はその刺激による新たな食道体部の蠕動波(二次蠕動波)の出現により速やかに胃内にまで搬送される.
 食道内圧検査は下部食道における逆流防止機構や食道体部運動機能の異常の有無,程度の評価に不可欠な検査であり,食道内pHモニタリングはGERの程度を評価するために行う検査である.

X線不透過マーカーを用いた消化管運動機能検査

著者: 中田浩二 ,   羽生信義 ,   青木照明

ページ範囲:P.425 - P.430

 X線不透過マーカーによる消化管移送能検査は,①X線撮影装置を備えた病医院であればどこでも行うことができ,②患者に身体的な苦痛を与えず,③測定結果を視覚的に容易に判別し評価することが可能で,④食道を除くほぼすべての消化管の移送能を同時に調べることができる,などの多くの利点を備えている.しかし,非消化性のマーカーの胃排出動態は同時に摂取した試験食の胃排出動態とは明らかに乖離することから,その結果の判読にはマーカーの排出が意味するところを理解した上で臨む必要がある.マーカー法は下部消化管の移送能評価に最も威力を発揮するが,簡便に行えるスクリーニング的な胃排出能検査としても臨床的に有用であり,術後胃の運動能評価にも応用可能と考えられた.

胃電図

著者: 佐治重豊 ,   平岡敬正 ,   石川亨

ページ範囲:P.431 - P.435

 胃の蠕動運動に伴う電気活動記録(electrogastrography:EGG)は体上部1/3の大彎側付近のペースメーカー(PM)から1分間に約3回の周期(cpm)で発生し,幽門側へ伝播される電気活動である.通常,体上部のPMから発信されるelectric control activityと,それにより収縮する平滑筋のelectric response activityを計測したものと考えられている.経皮的記録は皮膚電極を剣状突起と臍を3等分した上1/3の高さで,正中線から4〜5cm外側の左右2点の腹壁上に不感電極を尾側の任意の1点に装着して測定する.本稿では実際の測定法と波形の解析法,および周波数帯別度数の出現頻度(健常者では2.4〜4.0cpmにピークを示す)などを紹介し,EGG検索の臨床的意義と将来展望につき概説する.

消化吸収試験

著者: 中村光男 ,   丹藤雄介 ,   柳町幸 ,   長谷川範幸 ,   小川吉司 ,   松井淳

ページ範囲:P.437 - P.440

 胃切除,胃切除後乳糖不耐症,小腸切除および膵切除に伴う消化吸収試験の基本的考え方について述べた.胃切除は血中ビタミンB12測定,乳糖不耐症は乳糖負荷後に血糖あるいは呼気中水素分析,小腸切除・膵切除にはバランススタディーを行い,糞便中脂質一斉分析を行う.糞便中脂肪を簡便的に測定するためには近赤外分光法が,間接的脂肪吸収不良には13C—混合中性脂肪を用いた呼気中13CO2分析が有用である.その他の栄養指標になる血清アルブミン,コレステロール,ヘモグロビンの他,血中水溶性,脂溶性ビタミンや微量元素測定も消化吸収不良の診断には有用である.

直腸肛門機能検査

著者: 高瀬康雄 ,   大矢雅俊 ,   中村哲郎 ,   小松淳二 ,   菅又嘉剛 ,   高野仁 ,   赤尾周一 ,   石川宏

ページ範囲:P.441 - P.446

 直腸肛門機能検査は直腸肛門部における便の保持と排泄にかかわる種々の因子を客観的・定量的に評価することを目的として施行される.マノメトリーでは内・外肛門括約筋機能を,直腸感覚検査では便の貯留能を評価する.便失禁の患者では肛門管感覚の障害が見られることもある.排便造影は肛門部での便排泄障害の証明や便排泄に伴う形態的異常の検出に有用である.肛門括約筋超音波検査や陰部神経・脊髄神経伝導速度測定は肛門括約筋の機能低下の鑑別診断に有用である.腸管通過時間は便輸送能の指標となる.

肝臓のクリアランス試験—Indocyanine green(ICG)試験

著者: 見城明 ,   阿部幹 ,   後藤満一

ページ範囲:P.447 - P.450

 消化器外科において,術前に患者の肝機能を把握することは術式の決定および術後合併症を軽減するためにも重要である.中でも肝予備能についての予測が大切であり,その指標となる検査のひとつにインドシアニングリーン(ICG)を用いたクリアランス試験がある.ICGは血中から選択的に肝臓に取り込まれ,胆汁中に排泄される.ICGの値は肝血流量に影響され,肝線維化の指標の1つともされている.プロトロンビン時間,ヒアルロン酸の値,99mTc-GSAのLHL15などと相関を示していると言われている.
 ICG検査は消化管手術の術式決定,特に肝臓外科において切除範囲を決定するのに重要な検査の1つである.

GSAシンチグラフィー

著者: 木村文夫 ,   伊藤博 ,   清水宏明 ,   外川明 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.451 - P.454

 哺乳類の肝細胞表面に存在し,ガラクトース残基を特異的に認識するアシアロ糖蛋白受容体(asialoglycoprotein receptor:ASGP-R)は肝疾患の病態によってその発現が変化する.GSAシンチグラフィーはガラクトース残基を有する合成糖蛋白diethylenetriamine pentaacetic acid galactosylhuman serum albumin(GSA)を99mTcにより標識した99mTc-GSAを静脈内投与し,その血中クリアランスや肝集積からASGP-Rの発現を捉える肝機能検査法である.慢性肝炎や肝硬変症例では病状の進行に伴い,血中クリアランスや肝集積が低下する.また,肝切除例の術前肝予備能検査法としてもその有効性が報告されている.ICG検査と異なり,閉塞性黄疸例の肝機能評価も可能である.“肝機能の局在”を示すきわめてユニークな検査法と言えるが,簡便性と普遍性においてICGときわめて対照的である.

胆嚢収縮機能検査

著者: 金光敬一郎 ,   平岡武久

ページ範囲:P.455 - P.458

 胆嚢の機能は胆汁の貯留と濃縮胆汁の排泄にある.胆嚢の収縮機能検査は胆嚢ディスキネジーの診断や,胆石溶解療法における胆嚢機能の評価および上部消化管手術後の胆道機能の評価に重要である.最近の画像診断装置の進歩によって胆嚢を可視できるようになり,胆嚢の収縮状態が把握されるようになってきた.
 今日,胆嚢収縮機能検査法では超音波検査を用いる方法,DIC CTを用いる方法,MRIとくにMRCPにて胆嚢容積を検討する方法などが開発されてきており,これらを紹介する.胆嚢収縮機能検査法としては侵襲の少ない超音波検査による方法やMRCPを利用した方法が第一選択となり,精密検査としてCTでの検査が有用な情報をもたらすものと思われる.

膵内分泌機能に基づいたガストリノーマ・インスリノーマの診断

著者: 河本泉 ,   土井隆一郎 ,   藤本康二 ,   嶋田裕 ,   川村純一郎 ,   今村正之

ページ範囲:P.459 - P.463

 ガストリノーマ,インスリノーマなどの機能性膵内分泌腫瘍は微小な腫瘍で,従来の画像診断では診断が困難なことも多い.内分泌腫瘍の治療法の原則は根治的切除であり,そのためには術前の鑑別診断と局在診断は正確でなければならない.膵内分泌腫瘍はセクレチンやカルシウム負荷に対するホルモン分泌反応が正常細胞と異なっている場合があり,この反応を利用した検査法として選択的動脈内刺激剤注入試験やセクレチン負荷試験,カルシウム負荷試験が考案され有用である.微小な膵内分泌腫瘍の術前診断・局在診断にはこれら負荷試験が有用であることについて述べた.

カラーグラフ 正しい外科切除標本の取り扱い方・13

大腸の切除標本の取り扱い方

著者: 楠本哲也 ,   安倍能成 ,   米村智弘 ,   齋藤貴生

ページ範囲:P.411 - P.414

 大腸癌症例の増加と治療法の変遷に伴い,大腸組織の取り扱いにも,組織保存など,今後の新たな治療法決定のための準備が必要な時代と考えられる.しかしながら臨床病理学的所見は依然として重要な予後規定因子であり,大腸切除標本の取り扱いには慎重な態度で臨む必要がある.大腸は解剖学的に単純でかつ安易に切除材料の切開が行われる傾向がある.系統的に所見を記載する癖をつけることが重要であろう.

目で見る外科標準術式・28

右葉・右3区域肝切除術

著者: 川村徹 ,   寺本研一 ,   有井滋樹

ページ範囲:P.465 - P.473

はじめに
 肝右葉切除術は中肝静脈を温存し,前区域と後区域の2区域を切除する術式で,「原発性肝癌取扱い規約」では,Hr2(A,P)のように記載される1).右3区域切除術は内側区域・前区域・後区域の3区域を切除する術式で,Hr3(A,P,M)のように記載される1).本稿では右葉切除術と右3区域切除術に関する手技を要点的に述べる2,3)

ここまで来た癌免疫療法・1【新連載】

このシリーズを始めるにあたって

著者: 田原秀晃

ページ範囲:P.475 - P.479

リード
 癌免疫療法への関心が,最近とくに高まっている.これは腫瘍抗原が発見されたこと,生体の免疫制御にかかわる物質が同定されたこと,そしてそれを用いて免疫をさまざまな方向に修飾できる免疫担当細胞の機能解析と培養法が確立されたことなど,最近の基礎免疫学の急速な進歩がその背景にある.ところが,培養レベルや動物実験レベルでは有望な結果が報告されている方法であっても,その臨床応用がどの段階にあるのか,そしてその効果がどこまで科学的に証明されているのかに関しての情報を網羅的にかつ迅速に得ることは難しい.そこでこのシリーズは,この分野を専門としない先生方を主な読者として想定して,実際の臨床業務に有用な最新情報を提供し,かつその過程で最近の基礎免疫学の進歩に関しても紹介するものとして企画された.
 今回は,このシリーズの第1回として,これまでの癌免疫療法の歴史の一端に触れ,このシリーズ全体に流れる基本的な考え方を示し,またその具体的あらましについて紹介する.

病院めぐり

県立宮崎病院外科

著者: 下薗孝司

ページ範囲:P.480 - P.480

 当院は,九州は宮崎県の県庁所在地,宮崎市の市街地の中心にあります.位置的に大変便利なところにあり,伝統ある総合病院ということで,宮崎市だけでなく近隣の市町村からも患者さんが多数来院され,県民の当院指向は大変強いものがあります.
 当院は,大正10年に県立宮崎病院として創設されました.昭和60年にそれまでの病院が建っている同じ敷地内の南側に630床を有する10階建ての病院が新築され,地域の基幹病院としての機能充実が図られました.

聖路加国際病院外科

著者: 西尾剛毅

ページ範囲:P.481 - P.481

 聖路加国際病院は,米国聖公会の宣教医師ルドルフ・トイスラーにより1902年東京のど真ん中の築地(当時は外国人居留地)に開設された日本初の西洋式病院であり,本年は開設100年です.関東大震災による崩壊,アメリカ人の寄付による再建,第二次大戦後の米軍による接収などの長い歴史を経て,1992年に21世紀に対応できる病院を目標に新病院が建設され,今日に至っています.
 米国人医師により開設された基本理念を受け継ぎ,患者本位の医療と医師および看護婦の卒後教育の実践が,二つの大きな柱になっています.

文学漫歩

—石川達三(著)—『四十八歳の抵抗』(1958年,新潮社 刊)

著者: 山中英治

ページ範囲:P.482 - P.482

 駅でJRのフルムーンパスのポスターが眼にとまった.かつて上原謙と高峰三枝子が夫婦役での混浴(群馬の法師温泉だった)のポスターで話題となり,フルムーンは流行語にもなった.夫婦の年齢を足して88歳から利用できると書いてある.関係ないなと思っていたら自分も44歳で,もうすぐ利用できる.
 白髪が増えて老視も出てきた.救急当直明けに外来をしてから手術に入る日程だと,その晩は死んだように眠ってしまうので,やはり体力の衰えは隠せない.身体もたるんで,「郷ひろみ」のように素肌にジャケットを着ることなどとてもできない.無論はなから勝負にならないが,負け惜しみを言わせてもらえば,加齢に逆らって若作りするのもかえって見苦しいと思う.

忘れえぬ人びと

受持医となる

著者: 榊原宣

ページ範囲:P.483 - P.483

 腹部大動脈瘤破裂.思いもかけない疾患の出現に術者も助手も,そして器械出しの看護婦も,この手術に関与していた者みんなびっくりした.まず輸血が間に合うかどうかが確認された.ついで,この動脈瘤が左右腎動脈分岐部にかかっていないことが確かめられた.そこで,動脈瘤の部分を含んで腹部大動脈を切除,人工血管移植ということになった.その動脈瘤がどんな性質のものであるかを考える時間はなかった.これまでにこの外科にとって,腹部大動脈瘤切除,人工血管移植の経験はなかった.非常事態に医局員が集められた.この中に私もいたのだが,なにを担当したのか覚えていない.移植される人工血管はY字型テフロン製のものだった.幸い手術はうまくいき,一期的に閉腹することができた.術後診断名は腹部大動脈瘤破裂とされた.術後経過は良好で,術後7日目,型どおりの抜糸をすると大変,腹部手術創が全部哆開した.直ちに再手術ということになった.
 とにかく,腹腔内から血性膿汁の排出が第一.血管吻合部をみると,出血がみられる.数本の排膿ドレーンが留置された.1〜2日経過観察されたが,そのうち膿汁に糞臭のあることに気づいた.そこで,再々手術が行われた.上行結腸に二連銃式人工肛門造設術が施行されたが,初回手術創が大きくならないよう創上端に2針縫合糸がかけられた.

外科医に必要な皮膚科common diseaseの知識・11

帯状疱疹と単純疱疹

著者: 松本和彦

ページ範囲:P.484 - P.485

帯状疱疹の概念
 水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)の再活性化により発症する.水痘罹患後,表皮細胞で増殖したVZVは知覚神経に沿って神経節の神経細胞に潜伏感染を続ける.過労(ストレス)や老化,外傷,悪性腫瘍,自己免疫疾患,重症感染症などの疾患,免疫抑制剤や抗腫瘍剤などの薬剤,放射線療法などで免疫学的監視機構に異常が起こると潜伏していたVZVは再活性化し,増殖をしながら神経を伝わって所属の表皮細胞に再感染し,帯状疱疹を生ずる.

私の工夫—手術・処置・手順

Level Ⅲ 郭清を伴う胸筋温存乳房切除術におけるリトラクター開創器使用の工夫

著者: 岩瀬博之 ,   卜部元道 ,   鈴木義真 ,   内田陽介 ,   渡部脩

ページ範囲:P.486 - P.487

 乳癌における術式はほぼ完成された感があり,その術式も胸筋温存術式がかなりの比率を占めている.しかし胸筋合併乳房切除術と異なり胸筋温存のために1b,1cリンパ節の郭清は第1あるいは2助手によるしっかりとした胸筋の鉤引きのもとに行われ,2,2hの郭清は困難な時もある.また児玉法においても完全な郭清にはある程度は同様に胸筋の牽引は必要と思われる.そして胸筋だけではなく皮弁をしっかりと牽引することも良好な術野の確保には欠かせない.熟達した術者であれば問題ないことであるが,一般市中病院や教育関連病院では比較的若い術者に第一助手が指導しながら手術する場合が多く,またマンパワーの問題で2人で手術することも多い.このようなときには当然,胸筋や皮弁の確実な牽引が第三者を介さない器具でなされることが望まれる.
 そこで筆者らは一般に腹部手術で使用されるリトラクター開創器(瑞穂医科工業)を乳癌手術に応用し手術の簡易化に努めているので,これを紹介する.まず腋窩を大きく開くために,患側上肢を肘関節で90度屈曲させ,肩関節を120度程度挙上し,45度程度回外する.そしてL字型の門に固定する.その尾側でレトラクターの門を鎖骨と挿管チューブの間に固定する(図1).

米国でのProblem-Based Learning形式による外科研修

Problem-Based Conference(6)—救急でのプライオリティーのおき方:上部消化管出血(その2)

著者: 町淳二 ,   児島邦明

ページ範囲:P.489 - P.499

1 はじめに
 T(指導医):前回の救急例に対するproblem-based conferenceでは,まず消化管出血症例に対する質疑応答をフィードバックを入れることなく終わりまで行い,それに続いてプライオリティーを考慮しながらこの質疑応答に対する評価,そして批判などを行いました,特に緊急例ということもあって,質疑応答の最中にはミスした点や忘れた点が幾つかあったと思います.また,自分の発言のバックグランドについても,もう少し深い考察が必要であったように思います.
 そこで今回は,同じ症例シナリオを用いて,このような症例で,よいと思われる質疑応答の具体例,すなわち模範例を示してみたいと思います(注1).この質疑応答は,前同検討した上部消化管出血の患者さんと同じ症例を示しますが,細かな数値やteaching point以外の内容は重複を避けるためにできるだけ省略し,主として質疑応答の仕方に重点を置くので,その点をよく習得して下さい.

鼎談

進行・再発乳癌の治療方針と薬物療法

著者: 野口眞三郎 ,   池田正 ,   園尾博司

ページ範囲:P.501 - P.509

 進行・再発乳癌の治療には,現在,数多くのホルモン療法や化学療法が施行されている.これらの薬物療法をどのような順序で,どのような組み合わせで実施するかは,臨床医が苦慮している問題である.そこで本誌では,野口眞三郎氏の司会のもと,乳癌診療の第一線でご活躍中の池田正,園尾博司の両氏をお迎えし,「進行・再発乳癌の治療方針と薬物療法」というテーマで話し合っていただいた.

手術手技

超音波凝固切開装置を多用した腹腔鏡下胆嚢摘出術(ノンクリップ手術)

著者: 志田崇 ,   雨宮邦彦

ページ範囲:P.511 - P.514

はじめに
 腹腔鏡下胆嚢摘出術は本邦において今や胆嚢摘出術の第1選択術式となっている.そして,施設問において多少の差はあるものの,胆嚢動脈,特に胆嚢管の処理に関してはクリップを用いることが多い.
 筆者らの施設では患者の体内にはなるべく異物を残さないという観点のもと,様々な工夫をして手術を施行してきた.腹腔鏡下胆嚢摘出術において,胆嚢動脈,特に胆嚢管の処理を中心に超音波凝固切開装置を使用した簡便かっ安全な方法を試みたので報告する.

臨床経験

マイクロ波凝固療法が有効であつた腹部損傷(肝損傷,脾損傷)の2例

著者: 光岡晋太郎 ,   阪上賢一 ,   常光洋輔 ,   池田秀明 ,   田中公章

ページ範囲:P.515 - P.518

はじめに
 マイクロ波凝固療法(microwave coagulationtherapy:以下,MCT)はその優れた止血効果により肝切除あるいは脾切除術における出血制御の目的に開発された1).現在では肝腫瘍の局所療法として普及しているが,MCTの最大の特徴は「凝固」であることを考えると,実質性臓器の出血を制御する目的に使用することは非常に有用であると思われる.今回,筆者らは外傷による肝損傷および脾損傷の手術にMCTを用いて良好な結果を得たので報告する.

エホバの証人患者に対する消化器外科手術の経験

著者: 竹村雅至 ,   太田泰淳 ,   塚本忠司 ,   首藤太一 ,   竹村茂一

ページ範囲:P.519 - P.521

はじめに
 “エホバの証人”は輸血を拒否する宗教として世界中に知られ,その信者は増加しているとされている1).このため,信者が医療を受ける機会,特に手術を受ける機会も増加している.
 筆者らは以前からこのような輸血拒否患者に対しても積極的に消化器外科手術を施行し,最近の5年間に15例の輸血拒否患者に対し16件の消化器外科手術を行ってきた.今回,これらの症例について集計するとともに治療上の問題点について検討した.

臨床報告・1

食道・挙上結腸部の縫合不全に対し,前胸部皮膚・挙上結腸の一塊遊離を行い再吻合した1例

著者: 村上三郎 ,   大久保雄彦 ,   坂田秀人 ,   竹内浩紀 ,   北郷邦昭 ,   平山廉三

ページ範囲:P.523 - P.527

はじめに
 食道癌手術における食道再建術では,再建臓器として最も胃が用いられる.しかし,胃切除術の既往例や,胃切除術(あるいは胃全摘術)を必要とする胃疾患併存例などで再建用臓器として胃を利用できない症例では,挙上結腸による再建が選択されるのが一般的である1〜6).今回,胃癌・食道癌併存症例に対して横行結腸を用いた胸骨前食道再建術を施行したが,食道・挙上結腸吻合部の縫合不全をきたした.縫合不全間隙が4cmと長かったため,挙上結腸を前胸部皮膚とともに授動したのち再吻合し,良好な経過を経た症例を経験したので報告する.

胆嚢水腫をきたした胆嚢異所性胃粘膜による過形成性ポリープの1例

著者: 久留宮康浩 ,   服部龍夫 ,   小林陽一郎 ,   宮田完志 ,   湯浅典博 ,   平林紀男

ページ範囲:P.529 - P.533

はじめに
 胆嚢の異所性胃粘膜は稀な疾患であるが1,2),これまで慢性胆嚢炎3),結石の合併や潰瘍4,5),出血6)の合併が報告されている.今回,筆者らは胆嚢水腫をきたした異所性胃粘膜による過形成性ポリープの1例を経験したので,過去の報告例を集計し,その臨床病理学的特徴に考察を加えて報告する.

虚血性小腸炎の1例

著者: 佐藤公司 ,   河本篤希 ,   松村衛磨 ,   田中晃 ,   所忠男 ,   塩崎均

ページ範囲:P.535 - P.538

はじめに
 小腸は側副血行路が豊富で虚血性病変が発生しにくく,検査法も少なく診断が困難なため,小腸の虚血性腸炎の報告例は大腸の虚血性腸炎に比べてきわめて少ない1).今回,下腹部痛を主訴として来院経過観察中,腸閉塞を発症した虚血性小腸炎の1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

OK-432腹腔内投与が有効であった胃癌術後の難治性肝リンパ漏の1例

著者: 龍沢泰彦 ,   野崎善成 ,   木下敬弘 ,   清水淳三 ,   川浦幸光

ページ範囲:P.539 - P.542

はじめに
 腹部外科手術時のリンパ管損傷に起因するリンパ漏は多くの場合種々の修復機転が働き,自然に治癒する1,2).しかし稀に修復機転が作用せず,大量の腹水が発生し,全身状態にも悪影響を及ぼし,治療に難渋する場合がある1〜4).今回,筆者らは慢性肝炎を合併する早期胃癌の根治術施行後に肝リンパ漏と考えられる難治性腹水を合併し,OK-432の腹腔内投与にて保存的に治療した1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

急速に形態変化をきたした胃内分泌細胞癌の1例

著者: 木村臣一 ,   磯崎博司 ,   水野憲治 ,   岩本高行 ,   田中紀章

ページ範囲:P.543 - P.547

はじめに
 胃内分泌細胞癌は一般的に悪性度が高く,急速に発育・転移をきたすと言われている.PCNA標識率を用いて細胞増殖活性を検討した研究1)はあるが,肉眼的に急速な形態の変化を観察した例は少ない2).今回,筆者らは約1か月間に急速に肉眼形態の変化をきたし,腫瘍の速い増殖速度を示唆する1例を経験したので報告する.

直腸癌術後16年目に発生した孤立性回腸転移の1例

著者: 下田雅史 ,   齋藤眞文 ,   上田進久 ,   前浦義市 ,   松永征一 ,   岡本茂

ページ範囲:P.549 - P.552

はじめに
 大腸癌は治癒切除が行われれば5年生存率が70〜80%程度であり,比較的予後良好である.大腸癌治癒切除術後再発の約70〜90%は術後3年以内に認められ,術後5年以上経過した後の再発の頻度は低い.一方,大腸癌の小腸転移は比較的稀であり,剖検例の2.8〜8.2%に認められるにすぎない1).今回,筆者らは直腸癌術後16年目に回腸に単発性再発した非常に稀と思われる症例を経験したので報告する.

大腿-膝窩動脈バイパス後に診断を得た強皮症由来動脈閉塞症の1例

著者: 市場隆 ,   竹本直明

ページ範囲:P.553 - P.556

はじめに
 全身性進行性硬化症(強皮症)は四肢末梢の皮膚硬化が徐々に全身に及び,内臓諸臓器の結合組織が線維性硬化性病変を生じる膠原病である.自然経過はゆっくりと長期にわたり症状が進行するものや,ある程度経過すると進行がみられないものが多い1).今回,筆者らは慢性閉塞性動脈硬化症(ASO)の診断のもと,大腿-膝窩動脈バイパス(F-Pバイパス)を施行し,その直後から強皮症が顕性化,急速進行かつ劇症化を呈したが,早期診断,治療にて救命しえた症例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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