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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科57巻7号

2002年07月発行

雑誌目次

特集 外科診療とステロイド療法

ステロイドホルモンの薬理

著者: 川村将弘

ページ範囲:P.877 - P.883

 ステロイドホルモンはいわゆるステロイド核を持つホルモンの総称である.したがって副腎皮質ホルモン(グルココルチコイド,ミネラロコルチコイド),卵胞ホルモン(エストラジオール),黄体ホルモン(プロゲステロン),精巣ホルモン(テストステロン),神経ステロイドなどが生理的に合成分泌されている.そのうち強力な抗炎症作用・免疫抑制作用を持つがゆえに,臨床でよく用いられるのはグルココルチコイドとその製剤であるので,ここではグルココルチコイドについて,その生合成過程とその調節機序,生理薬理作用と作用機序,副作用および構造活性相関について述べる.

食道癌術前ステロイド単回投与の周術期に及ぼす影響について

著者: 竹村茂之 ,   山本昌督 ,   長尾成敏 ,   佐治重豊

ページ範囲:P.885 - P.890

 過大侵襲に対する術前ステロイド投与の影響を食道癌手術症例を用い,転移に及ぼす影響をマウス実験腫瘍を用いて検討した.その結果,臨床的検討からは術前ステロイド投与は炎症性サイトカインの過剰産生を抑制し術後経過を良好にしたが,Th1を中心とした細胞性免疫の回復が遅延し残存腫瘍の増殖を促進する可能性が示唆された.また,実験的検討では,担癌マウスにステロイドを単回投与すると転移が有意に促進されたが,過大侵襲時に併用投与するとサイトカインの過剰産生部分と接着分子の発現が抑制され,結果的に転移抑制に作用する可能性が示唆された.それゆえ,ステロイドの術前単回投与は有用であるが,さらなる適応拡大や大量投与には慎重を要するものと思われた.

食道癌術直前ステロイド投与とサイトカインの変動

著者: 久津裕 ,   久津由紀子 ,   布施明 ,   木村理

ページ範囲:P.891 - P.895

 食道癌根治手術の際の生体反応を制御する目的でmethylpredonisoloneの術前投与を行った.血中IL-6,IL-8の術後の上昇は有意に抑制され,過度の生体反応を抑制し,周術期管理に有用であった.一方でIL-12の血中レベルの回復遅延が認められ,生体の細胞性免疫の面からは不利に働く可能性が示唆された.また,食道癌術前照射を行った症例では,ステロイドの術前投与により,IL-6のピーク値は抑制されたものの,5日目からの再上昇を認め4例中3例に比較的重篤な感染症合併を認めた.ステロイドによる負の効果の懸念もあり対象の慎重な選択が必要と思われる.

食道癌手術における接着分子の発現と術前ステロイド投与

著者: 丸山弘 ,   田尻孝 ,   松谷毅 ,   笹島耕二 ,   宮下正夫

ページ範囲:P.897 - P.900

 生体に高度な侵襲をもたらす食道癌手術は過剰な炎症性サイトカインや接着分子などのメディエータが産生され,術後合併症の頻度が高い手術である.これら各種メディエータの産生を抑制するステロイドを術前に投与すると術後のTNF-α,IL-6,IL-8は低値を持続し,可溶性接着分子のsICAM-1,sELAM-1,sVCAM-1も非投与群に比べて低値を示した.TNF-αとsICAM-1,sELAM-1,sVCAM-1は相関を示した.術前のステロイド投与は直接あるいは間接的に好中球—血管内皮細胞相互作用を軽減し,術後合併症予防に有用と考えられる.

ARDSに対するステロイド投与

著者: 遠藤重厚 ,   佐藤信博

ページ範囲:P.901 - P.906

 ARDSの病態形成にはサイトカインのよう炎症性メディエータが関与している.ステロイドには炎症性メディエータ産生を抑制する効果がある.ARDS患者に対するステロイド投与の文献的考察をするとともに筆者らがARDS患者に行っているメチルプレドニゾロン投与の症例を紹介する.

潰瘍性大腸炎,クローン病に対するステロイド療法

著者: 須田武保 ,   飯合恒夫 ,   宮沢智徳 ,   桑原明史 ,   小出則彦 ,   岡本春彦 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.907 - P.913

 潰瘍性大腸炎やクローン病に対する厚生省特定疾患難治性炎症性腸管障害調査研究班の治療指針のうち,ステロイド療法に関する事項を概説した.ステロイド治療は現在内科的治療の主役であるが,これによって起こる副作用は頻度が高く,重篤なものも含まれている.ステロイド使用中の患者や手術に対する負の状況を考慮すると,ステロイド無効例,ステロイドによる重症副作用発症例,緩解維持や重症化を防ぐためにステロイドを継続投与せざるを得ないステロイド総投与量が10,000mgを越える症例,およびステロイドを継続投与されている10代発症例などが,現時点では効果が確実で,術後QOLも満足できる外科治療を考慮するべきと考える.

肝切除後における各種サイトカインの変動とステロイド投与

著者: 北原賢二 ,   松山悟 ,   森倫人 ,   眞方紳一郎 ,   神谷尚彦 ,   阪本雄一郎 ,   宮崎耕治

ページ範囲:P.915 - P.919

 肝切除術後に起こり得る感染などの合併症には炎症性サイトカイン,抗炎症性サイトカインが大きく関与しており,術後のサイトカイン変動を検討することは病態を把握するうえで非常に有用である.侵襲初期において炎症性サイトカインが誘導されるが,それに引き続いて内因性の抗炎症反応が強力に発動されて術後免疫抑制を惹起する.したがって,免疫抑制状態に移行した段階での炎症性サイトカインの抑制は病態を悪化させる危険性がある.侵襲初期の過剰な炎症性サイトカインを抑制することが術前ステロイド投与の目的であり,その投与法には十分な注意を要するとともに,その特性を生かすためには可及的な術中出血の制御と手術時間の短縮および厳重な術中・術後管理が不可欠である.

肝切除時の血行遮断とステロイド投与

著者: 緑川泰 ,   橋倉泰彦 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.921 - P.924

 肝切除および肝移植手術中における肝阻血は必須の手技である.しかし虚血後再灌流による肝組織微小循環障害にともない,炎症性サイトカイン,フリーラジカルの産生・放出による肝細胞傷害が生じ,その結果,術後肝再生障害,肝不全が起こりうることを念頭に周術期管理を行わなくてはならない.その対策として手術手技の向上のみならず,ステロイドやウリナスタチンの投与により術後に起こりうる合併症を回避する試みが,動物実験,臨床の場でもなされている.虚血後再灌流傷害とステロイド投与による抑制のメカニズムを理解し,副作用としての免疫抑制による感染を予防しながら,適切に肝切除術後の管理をすることが望まれる.

肝移植におけるステロイド投与

著者: 小川晃平 ,   木内哲也 ,   田中紘一

ページ範囲:P.925 - P.929

 臨床肝移植において副腎皮質ステロイド(主として糖質コルチコイド)は古くから免疫抑制療法の中心的役割を果たしてきたが,その多様な副作用は移植患者のQOLを下げるものに他ならない.そのためcyclosporine Aやtacrolimus(FK506)といったT細胞を標的とするより選択的な免疫抑制剤が登場するようになると,ステロイドの減量,早期離脱が多くの施設で試みられるようになった.
 本稿では当教室の症例を中心に,肝移植におけるステロイド使用の実際,術後急性期における感染症への影響,そして早期離脱の現況について述べる.

高度侵襲手術におけるSIRSとステロイド投与

著者: 篠澤洋太郎

ページ範囲:P.931 - P.937

 ステロイドは炎症性サイトカイン(TNF, IL-1など)産生抑制,抗炎症性サイトカイン(IL-4,IL-10など)産生賦活により,SIRSを軽減する.高度侵襲手術において術前,術中,あるいは術後の短期間に使用されたステロイド(比較的低用量〜比較的高用量のメチルプレドニゾロン)は術後の重症SIRSの回避,病態の改善に有用であり,重症SIRSは相対的な副腎機能不全とも考えられる.高齢者では低侵襲手術後においても重症SIRSが惹起される場合もあり,高度侵襲手術と同様な周術期ステロイド投与も考慮されるべきと考えられる.

長期ステロイド治療患者における消化管手術とステロイドカバー

著者: 宮田剛 ,   標葉隆三郎

ページ範囲:P.939 - P.944

 副腎皮質ホルモンを長期間投与されていた患者では,副腎萎縮による副腎皮質機能低下をきたしている.このため,外科治療に際しての正常な生体反応が障害され,循環不全,代謝障害などの合併症を引き起こすこととなる.適当量のステロイドカバーが必要であるが,患者側因子と侵襲程度を考慮した投与量の設定が必要である.これらの患者では創傷治癒反応も障害されており,より慎重な手技や術式の選択が必要である.ステロイドは侵襲に対する生体反応のなかでは重要なホルモンであり,生理的には侵襲の大きさに応じて増減している.この基本原理を把握し,適宜,適当量を補充してEucorticoid stateとすることが肝要である.

膵管狭細型自己免疫関連膵炎

著者: 原田信比古 ,   今泉俊秀 ,   羽鳥隆 ,   福田晃 ,   西野隆義 ,   土岐文武 ,   高崎健

ページ範囲:P.945 - P.949

 膵管狭細型慢性膵炎は主膵管のび漫性狭細化像を特徴とする膵炎で,近年自己免疫性膵炎との関連から注目を集めている.高齢者の男性に多く,高γグロブリン血症や自己抗体陽性例では自己免疫性要因の関与が示唆されている.組織学的にはリンパ球や形質細胞浸潤を伴った間質および膵管周囲の線維化と腺房の萎縮・脱落が特徴的な所見である.膵癌との鑑別診断にはCTのdelayed enhancement所見や細径カテーテルによるERCPが有用であるが,膵生検が必要な症例も少なくない.本症はステロイドの内服治療により画像所見や膵内外分泌機能の改善がみられるが,診断基準や治療指針など今後検討を要する課題も多い.

ステロイドパルス療法

著者: 田中一郎 ,   萩原優

ページ範囲:P.951 - P.955

 パルス療法は炎症,免疫の機序が関与する病態の重症例,難治例において用いられる治療法である.外科領域においてはショックや重症な炎症性疾患などに用いられる.しかし,その作用機序はいまだ不明な点も多く,その有効性はまだcontroversialな問題である.パルス療法の適応,用法,用量,投与日数などには今後前向きなrandomized control studyによるデータの集積とevi-dence based medicineによる評価が是非必要である.

緩和医療におけるステロイドの役割

著者: 池永昌之

ページ範囲:P.957 - P.961

 末期がん患者においてはがん悪液質症候群という特殊な病態により,緩和困難な全身倦怠感や食欲不振が出現する.また,腫瘍やその周囲に出現する炎症や浮腫により,神経因性疼痛や消化管閉塞,気道閉塞などが出現することもある.これらの症状に対してステロイドは著明な効果を示し,さまざまな症状緩和に有用であるといわれている.
 一方,ステロイドには消化性潰瘍や耐糖能障害,感染症の悪化などの副作用が報告されており,末期がん患者に対する使用が躊躇される場合も少なくない.これらの知見と患者の全身状態・生命予後を総合的に判断してステロイドを使用することが,末期がん患者のQOLを向日させるためには重要であると考えられる.

カラーグラフ 正しい外科切除標本の取り扱い方・16

胆嚢・胆管の切除標本の取り扱い方

著者: 鈴木哲也 ,   松本由朗

ページ範囲:P.871 - P.876

はじめに
 近年の画像診断の進歩により,以前では術前に診断しえなかったような微細な病変の診断が可能になりつつある.しかし,とくに肝門部領域は胆管系,動脈系および門脈系のそれぞれの脈管が複雑に入り組んでおり,この領域の腫瘍およびその進展範囲を正確に診断することは,いまだもって困難である場合に遭遇する.われわれ外科医は術前から術中,さらに術後の病理標本の処理に至るすべての段階で,これら病態の臨床的処理にかかわるわけであり,病理標本の取り扱いは,術前診断の確認,手術の根治性の確認,さらには術後治療方針などを決定するための貴重な情報を得る最終にして最重要な手段であり,慎重を期さなければならない.
 今回,胆管および胆嚢の病理標本の取り扱いに関しては,筆者らの施設でこの領域の疾患の発生に関与すると考え,とくに重要視している先天性胆道拡張症(以下,拡張症)および膵・胆管合流異常(以下,合流異常)を念頭に置いてその取り扱いに言及する.

目で見る外科標準術式・31

進行胆嚢癌に対する(拡大)肝右葉,全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術

著者: 太田岳洋 ,   吉川達也 ,   山本雅一 ,   新井田達雄 ,   吾妻司 ,   大坪毅人 ,   桂川秀雄 ,   今泉俊秀 ,   高崎健

ページ範囲:P.963 - P.970

はじめに
 (拡大)肝右葉切除,全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術は進行胆嚢癌や広範囲胆管癌に対して施行される術式である.消化器外科の手術のうちでも最も手術侵襲の大きい術式の1つであり,手術手技,周術期管理の進歩した現在でも術後肝不全などの術後合併症による手術死亡も稀ではない.また周術期を乗り切っても早期に再発死亡する症例もあり,手術適応の決定にはより慎重でなければならない.胆嚢癌における膵頭十二指腸切除術の適応に関しては,これまで教室で経験した症例をもとに報告してきた1〜4).本稿では手術手技に関して詳述する.

ここまで来た癌免疫療法・4

—臨床の場で実際に行われてきた癌免疫療法—細胞療法

著者: 角田卓也 ,   高山卓也 ,   田原秀晃

ページ範囲:P.971 - P.975

リード
 細胞療法はどのようなものかを,LAK療法,CTL療法,TIL療法,DC療法に分類し,実際に臨床応用されている細胞療法を中心に概説した.また,細胞療法の問題点について言及し,さらにこれらを踏まえて今後の展開について考察した.

病院めぐり

氷見市民病院外科

著者: 村田修一

ページ範囲:P.976 - P.976

 氷見市は富山県西北部,能登半島の東側付け根部分に位置し,長い海岸線のどこからでも富山湾に浮かぶ立山連峰が望め,また沖合いに設置された全国的にも大きな定置網により寒ブリなど新鮮な魚貝類が水揚げされる自然が豊かな所として知られています.
 当院は,昭和23年に氷見郡厚生病院として開設されてから50年以上経過しました,当時は病床数36床,医師3名,看護婦4名でスタートしました,その後,町村合併により氷見市に移管され,昭和36年に氷見市民病院と名称が変更されました.昭和56年に僻地中核病院の指定を受けました.現在の病院は昭和59年の増改築を経て,18診療科で病床数368床(一般病床363床,結核病床5床)となっています.医師数は常勤38名,看護婦数219名,平成12年度の外来患者数,入院患者数は各々平均1,130,300名でした.

国立松本病院外科

著者: 清水忠博

ページ範囲:P.977 - P.977

 当院は,松本市と塩尻市の境界地に位置し,松本市を中心とする中信地区・長野県第3次医療圏の中央部にあたる海抜625mの地にあります.当地は北アルプス連峰を一望に眺めることができ,近くには国宝「松本城」のほか,美ヶ原,霧ヶ峰,上高地などの景勝地を望む自然あふれた環境にあり,近年の交通網の発達と当院医療機能の充実強化に伴って診療圏は全県に及んでいます.
 明治41年に松本衛戍病院として創設,昭和11年に松本陸軍病院となり,昭和20年12月1日に国立松本病院として発足しました.昭和46年4月に現在地に新築移転し,国の政策医療のうち「がん」および「成育」の専門医療施設として位置づけられています.現在のベッド数305床,常勤医39名,レジデント・研修医など6名,1日の平均外来患者数は約600名,平均在院口数18.5日です.二次救急医療も担当しており,夜間,休日の救急患者さんを多数診療しており,とくに急性腹症に対しては24時間対応しています.

忘れえぬ人びと

患者を東京へ移送

著者: 榊原宣

ページ範囲:P.978 - P.978

 とにかく手術は終わった.患者を手術室から術後回復室に移した.受持医として術後の処置を指示票に,手術所見をカルテに記入し,摘出標本を整理した.摘出標本の大きさは5.5×8.5×3.3cm,重量は120gあった。硬度はほぼ一様で,弾性硬であった.結合織性の薄い被膜で覆われていた.割面は実質性で帯黄白色髄様であった.
 手術患者の受持医は手術当日一夜泊ることになっていた.一仕事済ませたので,宿直室で寝ようと思った.当時,岡山大学病院第1外科の宿直室は10畳のタタミ敷だった.ここに数人分の布団を敷き,そこでゴロ寝する.9月初旬といえば,まだ蚊の季節.宿直室には10畳の大きな蚊帳が吊ってあった.この蚊帳にもぐりこもうとしたところ先に寝ていた先輩に大声でどなられた.「一人前の医者でもない者が蚊帳に入って寝ようとはなんだ,」蚊帳から追い出されてしまった.「蚊帳の外」ということを実感させられた.

文学漫歩

—スウィフト(著),中野好夫(訳)—『ガリヴァ旅行記』(1951年,新潮社 刊)

著者: 山中英治

ページ範囲:P.979 - P.979

 最近「心が癒される香り」のラベンダーの入浴剤を愛用している.世間でも先の見えない不景気に,凶悪犯罪の増加,暗い世相を反映してか,アロマセラピー,healing music,癒し系タレントなどが流行っている.
 医療の現場もささくれだってきて,医療訴訟も増加の一途である.手術のみならず,麻酔薬と副作用,輸血,病理検体の使用,合併症の内容と発生率,検査の鎮痛剤の副作用,検査合併症と発生率,個室利用料金などの多くの承諾書をもらわねばならない.院内感染対策,セーフティマネジメント,褥創対策,詳細な入院診療計画書による説明などがなければ減点となるようだが,これらにはマンパワーと費用がかかる.在院日数の短縮,紹介率の増加も必要で,クリニカルパスと地域医療連携などの活動も必須である.

私の工夫—手術・処置・手順

急性虫垂炎手術においてラッププロテクターミニ®を用いる方法

著者: 田中仁 ,   岩川和秀 ,   岡田憲三 ,   梶原伸介

ページ範囲:P.980 - P.981

 鏡視下手術の普及とともに創部の展開,創感染予防の目的からラッププロテクター®(八光商事製)が用いられるようになってきた1).本製品はフレキシブルリングとラテックス膜の張力により,創が全周性に均等かつ適度に展開され,また創縁の感染防止にも有効である.本製品のメリットを考えると,われわれが日常よく遭遇する急性虫垂炎の手術時にこそラッププロテクター®が有効であると考えたが,創の大きさが約3〜4cmと小さくこれを用いることができなかった.そこで筆者らはこの縮小版としてラッププロテクターミニ®を考案し(現在八光商事より製品化された)使用したところ,2cm以上の創があれば装着でき,装着手技も簡単で術中操作にも非常に有効であった.
 一般的に急性虫垂炎の手術は,術者と前立ちの2人で行われることが多い.まず創の展開を前立ちが行う必要があり,これに難渋した場合はあとは術者1人の操作となる.症例によっては腹腔内の大網および小腸の圧排,虫垂の剥離,授動に難渋する例も多く,これに大部分の労力が費やされてしまうこともしばしばである.そこでラッププロテクターミニ®を用いて創の展開が行われると,腹腔内操作が2人で行え,術中の各操作を効率よく進めることができる.

米国でのProbiem-Based Learning形式による外科研修

Problem-Based Conference(9)—スタンダードケア:重症多発外傷(その1)

著者: 町淳二 ,   児島邦明

ページ範囲:P.983 - P.997

1 はじめに
 今回のproblem-based conferenceのテーマは,“スタンダードケア(standard care)”です,米国ではことに,スタンダードケアとか,スタンダードな診断や治療などということがよくいわれます.以前のカンファレンス〔例えばproblem-basedconference(4)〕でもたびたび触れてきましたが,スタンダードとは,これまでの臨床試験などによるエビデンスに基づいて確立している,そして皆のコンセンサスが得られているという意味です.したがって,スタンダードケアは1つの疾患や問題点に対して,時や場所を問わずにあらゆる人によって実践されるべきケアです.逆にいえば,スタンダードケアがなされなかった場合には,患者さんに対して医師の義務を果たさなかったことになり,米国などにおいてはこれが訴訟の原因になったりします.スタンダードケアは当然臨床の場において実践されるべきでありますし,学生の医学教育や研修医の卒後研修においても,このスタンダードケアを習得させることが特に大切です.Problem-based conferenceは,このスタンダードを学ばせるよい機会になります.
 一方,あらゆる疾患や問題点に対して,1つのスタンダードな診断法や治療方法が確立しているわけではありません.しかも新しいエビデンスに基づいて,スタンダードも時とともに変わり得ます.

臨床報告・1

胃結腸瘻を有し空洞化をきたした胃外発育型胃癌の1例

著者: 林正修 ,   野々山孝志 ,   呉原裕樹 ,   水谷隆

ページ範囲:P.999 - P.1002

はじめに
 胃癌は胃壁内あるいは胃内腔に発育するのが一般的であるが,胃壁外に発育進展する胃外発育型胃癌はまれであり,本邦報告例も100例に満たない.今回筆者らは,空洞形成が強く胃結腸瘻を伴う特異的な形態を示したため,術前診断が困難であった胃外発育型胃癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

胃消化性潰瘍穿孔を併存した胃内腔に穿破した壁外発育GISTの1例

著者: 高島健 ,   川本雅樹 ,   菊池仁 ,   平田公一 ,   笠井潔 ,   奥雅志

ページ範囲:P.1003 - P.1005

はじめに
 胃stromal cell tumorは,1953年に病理学者Stout1)が報告したことに始まり,以来これらの腫瘍は平滑筋腫/筋肉腫あるいは神経鞘師に分類されてきたが,近年の免疫組織学的検索法の発達により,gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略)という新しい疾患概念として総括されるようになってきた2,3)
 今回,筆者らは胃消化性潰瘍穿孔を併存した胃内腔に穿破した壁外発育GISTの1例を経験したので報告する.

気腫性胆嚢炎の4例

著者: 立本昭彦 ,   香川茂雄 ,   國土泰孝 ,   村岡篤 ,   津村眞 ,   鶴野正基

ページ範囲:P.1007 - P.1010

はじめに
 急性気腫性胆嚢炎(acute emphysematous chole-cystitis,以下,AEC)はガス産生菌を起炎菌とし,胆嚢内,胆嚢周囲組織内に特徴的なガス像を示す比較的まれな急性胆嚢炎の一亜型である.
 今回筆者らは4例の急性気腫性胆嚢炎を経験し,そのうち2例は経皮経肝胆嚢ドレナージ(以下,PTGBD)を施行し,二期的に胆嚢摘出を施行し良好な結果を得たので若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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