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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科57巻8号

2002年08月発行

雑誌目次

特集 ヘルニア—最新の治療

鼠径部における筋膜の層構造

著者: 金谷誠一郎 ,   玉置信行 ,   桃井寛仁 ,   五味隆 ,   片山哲夫 ,   和田康雄 ,   大歳雅洋

ページ範囲:P.1027 - P.1032

 一見複雑な鼠径部の解剖は筋層を中心に皮下筋膜と腹膜下筋膜が2枚ずっ対称に存在するという腹壁の層構造の理論を応用することにより,簡単に理解することができる.精巣は胎生期に中腎の頭側に形成され,後に陰嚢内に下降する.したがって,精巣,精管,内精(精巣)動静脈はあくまでも腹膜下組織の一部であり,鼠径部には腹壁の層構造すべてが凝縮された形で存在している.今回,成人男性を例にとり,鼠径部における筋膜の層構造を概説した.

欧米における鼠径部の筋膜層構造の知見

著者: 柵瀬信太郎

ページ範囲:P.1033 - P.1042

はじめに
 筆者も佐藤達夫先生の理論を応用した金谷誠一郎先生の見解に大賛成である.ただし,名称については筆者はanterior approachにより鼠径ヘルニア手術を行うことが多いので,以前から腹膜下筋膜を“腹膜前筋膜”と呼び,腎筋膜前葉に連続する筋膜を“腹膜前筋膜深葉”,腎筋膜後葉に連続する筋膜を“腹膜前筋膜浅葉”と呼んでいるので,ここでは筆者の名称を使用させていただく(表1)1)
 古くから欧米からも横筋筋膜と腹膜の間の筋膜構造に関して多くの異なった見解が報告され,またそれぞれ報告者が異なった名称の筋膜を指摘しているので紹介する.しかし,それらの筋膜はすべて性状が異なった筋膜であるのか,それとも同一と考えられるものもあるのか,いまだ不明な点は多い.また,それぞれの筋膜は佐藤先生の理論(筆者の2層の腹膜前筋膜)ではどの筋膜にあたるのかも不明であるので,これらの点を考察してみたい.

鼠径ヘルニアの分類と術式選択

著者: 柵瀬信太郎

ページ範囲:P.1043 - P.1050

はじめに
 鼠径部周囲ヘルニアは古典的に外鼠径ヘルニア,内鼠径ヘルニア,大腿ヘルニアと分類されてきた.この40年間にいくつかの新分類が提唱されてきたが,どれも納得のいくものでなかったためかあまり普及せず,1998年の時点では欧米のヘルニア学会員(対象61名)でさえ,50%(米国),33%(欧州)は未だに古典的分類を使用していたとされる1)(表1).

Lichtenstein法—再発を起こさないコツ

著者: 渡部和巨

ページ範囲:P.1051 - P.1056

 1989年からLichtenstein法を開始した.再発はO.5%以下.鼠径部に緊張がかかりにくいために再発は起こりにくいことが実証された.再発例はHesselbachの内側であった.再発を起こさない手技上の注意点は,①Hesselbachの内側は重要であり,鼠径鎌から腹直筋そして裂孔靱帯にしっかりと糸をかけること.②間接型ヘルニアを見逃さないこと.③内鼠径輪外側をmeshのtailでしっかりと被うこと.④Meshは術後10〜20%収縮するため,若干meshがたわむくらいがちょうどよいこと.⑤Meshの辺縁はほつれやすいことも考慮して1〜2cm辺縁から離して針をかけること.以上5点が再発を起こさないコツと言える.

Mesh plug法—再発を起こさないコツ

著者: 蜂須賀丈博 ,   篠原正彦 ,   宮内正之

ページ範囲:P.1057 - P.1059

 Mesh plug法は一般的に手技が簡単であると言われているが,この言葉を鵜呑みにし,安易な準備と知識でこの手術を行うと痛い目に遭うことがある.筆者らは再発症例の経験から手技として横筋筋膜の全周性剥離を徹底し,新しいプラグとしてExtra largeを開発した.また,手術法の変化とともに適切な麻酔法も変化し,むしろ筋緊張を多少残したほうがよいため,硬膜外麻酔か局所麻酔を採用している.わが国にmesh plug法が導入され,すでに7年が経過した現在,鼠径部の解剖と術式について再確認され,正しい認識のもとにmesh plug法を行われることが望まれる.

PHS法—再発を起こさないコツ

著者: 坂田晃一朗 ,   筒井理仁 ,   白石充宏 ,   前田祥成 ,   長島淳 ,   植田充宏 ,   島袋隆 ,   菅野元喜 ,   西澤弘泰 ,   福山訓生

ページ範囲:P.1061 - P.1066

 Three-in-one modelであるPROLENE® Hernia System(以下,PHS)の構造・コンセプト,挿入のための鼠径部の解剖について述べ,vein-harvestを用いたspermatic sheathを辿る腹膜前腔への到達法を中心とした手術手技を供覧した.また,tension-free hernioplastyであるPHS法による自験例のべ209症例の内,再発症例3例(1.4%)について検討し,underlay patchの留置法・onlay patchの固定法など再発を起こさないための手術手技上の工夫につき勘案した.

低侵襲腹膜前到達法による鼠径ヘルニア手術

著者: ,   柵瀨信太郎

ページ範囲:P.1067 - P.1072

 理想的なヘルニア手術法開発に向けての努力が実り,近年非常に進歩がめざましかったと言える.しかしながら,ヘルニア手術や,より新しい修復方法に関心が高まっているなか,大抵の外科医は現在用いられている方法に十分満足しているとは言い難い.
 この修復法は少ない器具で,コストもかからず,局所麻酔下に実施する腹膜前到達法である.これはごく小さな切開で行われ,縫合を伴わないtension-free修復法である.初発および再発の外,内鼠径ヘルニアおよび大腿ヘルニアに対しても同一の方法を用いて治療し,効果をあげている.
 54か月間に行った808例のヘルニア修復術で,わずか5例に再発が確認されただけである.創傷感染は2例にのみ認められた.術後,患者の活動については特に制限を設けなかった.患者のほとんどが術後数日以内に仕事などの通常の諸活動に戻ることができた.
 費用,手術の容易さ,および早期回復という観点からすると,この手術法による成績は従来のものに比べより効果的なヘルニア修復方法であることを示唆している.

鼠径部の外側三角

著者: ,   ,   ,   柵瀨信太郎

ページ範囲:P.1073 - P.1077

 鼠径部の外側三角とは内鼠径輪とそのすぐ外側の領域である.この領域は再発外鼠径ヘルニアやinterstitial herniaが起こりやすい.Interstitial herniaとはヘルニアサックが筋肉にもぐるようにあるいは筋層の間から突出する.典型的には前回手術創外側の膨瘤として触知され,患者がバルサルバ法(Valsalva maneuver)を行うとより顕著となる.
 筆者らの単一施設における4年間の再発鼠径ヘルニア症例を検討した.その結果,多くの前方からの手術(鼠径法),および腹腔鏡手術によるメッシュを用いた術式後の新しい再発好発部位が明らかになった.
 前方からの術式によるメッシュ法(以下,OMR)後の外側三角からの再発は初発あるいは14発ヘルニアに対し,乎術時にプラグや扁平メッシュでヘルニア門だけしか被覆していないことに関連している.典型的な腹腔鏡下ヘルニア手術(以下,LHR)後の再発は内鼠径輪の外側の被覆が不十分であるためである.
 筆者らの経験した鼠径ヘルニア手術症例3,216症例中,初発例は2,768例,再発例は452例(1回〜4回再発例)であり,うちLHR後再発は28例,OMR後は20例であった.

小児外鼠径ヘルニアの手術

著者: 中田幸之介

ページ範囲:P.1079 - P.1083

 開存する腹膜鞘状突起がヘルニア嚢である小児の外鼠径ヘルニアの手術はヘルニア嚢のいわゆる単純高位結紮術が定着している.乳幼児においても手術侵襲は少なく,術後合併症発生率あるいは再発率も低い.一時期治療に関しての問題点と話題はもっぱら患側手術後の対側発症に関してであった.最近,腹腔鏡下手術が導入され,対側発症への対処に新しい試みが加えられた.いずれにせよヘルニア本来の治療目的は再発のない確実な修復を行うことである.そこで現在標準化されているヘルニア嚢の単純高位結紮術の術式について記載した.また小児にも導入されている腹腔鏡下手術について考察した.

大腿ヘルニアに対するプロリン®ヘルニアシステムの適応

著者: 田村明彦 ,   木村成卓 ,   岡本一真 ,   大関美穂 ,   川久保博文 ,   赤松秀敏 ,   岡昭一 ,   清水敦夫 ,   水沼仁孝 ,   松井淳一 ,   雨宮哲 ,   古泉桂四郎

ページ範囲:P.1085 - P.1090

 大腿ヘルニアは高齢の女性に好発し,しばしば嵌頓し,緊急手術となることも多い.標準手術とされているMcVay法は手技が煩雑で再発率も無視できない.1998年にわが国に導入されたプロリン®ヘルニアシステム(以下,PHS)は内外鼠径ヘルニアに対し良好な成績を示しているが,大腿ヘルニアに対する術式としてはまだ定着していない.当院ではこれまでに6例の大腿ヘルニアに対して使用し良好な結果が得られている.いくつかの点に留意すれば大腿ヘルニアに対しても適応が可能であり,確実性・簡便性の点からも標準術式となりうると考えられる.本稿ではPHS使用における一般的な注意事項と大腿ヘルニアに対する適応について述べる.

閉鎖孔ヘルニアに対する診断と手術法

著者: 篠川主 ,   大日方一夫 ,   高橋聡 ,   渡辺真実 ,   鰐渕勉 ,   佐藤巌

ページ範囲:P.1091 - P.1097

 当科で経験した27例の閉鎖孔ヘルニア症例を基に本疾患の診断方法と手術術式について述べた.術前診断はCTで可能と考えられるが,自然還納を認める症例もあることに注意を要する.また対側でも閉鎖孔ヘルニアをきたす危険があり,ヘルニア嚢の確認と修復が必要と考えている.閉鎖孔ヘルニアでは嵌頓した腸管の穿孔や壊死例が多く,また整復に伴い腸管の二次的損傷をきたすこともありうる.ヘルニア手術の基本はヘルニア嚢の処理とヘルニア門の閉鎖にあり,現在筆者らは開腹および腹膜前腔からのアプローチで,両側の閉鎖孔ヘルニア嚢の剥離とMarlex® meshsheetを用いたヘルニア門の閉鎖を標準術式としている.本法は両側のヘルニア嚢を容易に確認でき,閉鎖神経,動・静脈を直視し損傷を避けてヘルニア門を閉鎖することが可能である.

腹壁欠損に対する複合メッシュを用いた腹壁再建術

著者: 宮崎恭介 ,   成田吉明 ,   中村文隆 ,   増田知重 ,   道家充 ,   樫村暢一 ,   松波己

ページ範囲:P.1099 - P.1104

 近年,腹壁再建術に使用できる複合メッシュが注目されている.複合メッシュは確実な腹壁再建と同時に,メッシュと腹腔内臓器との癒着防止やメッシュの異物反応軽減を目的に開発されたメッシュである,筆者らは腹壁瘢痕ヘルニアや腹壁腫瘍切除後の腹壁欠損に対して,Marlex® メッシュとGore-Tex® シートを重ね合わせたBard® ComposixTM Meshを用いた腹壁再建術を行い,良好な成績を得ている.複合メッシュを用いた腹壁再建術は腹膜欠損があってもtension-freeの腹壁再建が可能で,ヘルニア再発およびメッシュ使用の合併症を軽減できる術式である.今後,日本でもBard® ComposixTM Mesh以外の複合メッシュが認可されることを期待したい.

カラーグラフ 正しい外科切除標本の取り扱い方・17

胆嚢・胆管の切除標本の取り扱い方

著者: 小西一朗

ページ範囲:P.1019 - P.1025

はじめに
 外科医にとって切除標本の整理は大切な義務である.外科医は切除標本という貴重な資料を通じて,良性疾患では悪性病変の併存の有無を確認し,悪性疾患では病変の進展様式を正確に把握して術前進展度診断と対比するとともに,予後との関連を検討し,それらのデータを蓄積して解析することにより合理的な治療法を工夫しなければならない.とはいうものの標本整理は体力と気力を要するつらい義務である.大学の医局のようにグループの医師が協力しあえる施設はともかく,一般病院ではそれは主治医の義務であり,膵頭十二指腸切除術(以下,PD)のような長時間の手術を終えて疲労困憊していても,術後管理と併行して行わなければならない.
 そこで本稿では,主治医に負担がないうえ病変の進展様式がより正確に判定可能となるように行っている工夫をまじえつつ,胆道系疾患切除標本の取り扱い方について述べる.

目で見る外科標準術式・32

門脈合併切除を伴う全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術

著者: 今泉俊秀 ,   原田信比古 ,   羽鳥隆 ,   福田晃 ,   鬼沢俊輔 ,   高崎健

ページ範囲:P.1105 - P.1112

はじめに
 本術式の適応となる膵頭部癌は,1)遠隔転移や高度のリンパ節転移がない例,2)主要動脈浸潤がない例,3)胃・十二指腸球部への直接浸潤がない例に限られる.本稿では膵頭部癌の基本手術であるD2リンパ節,後腹膜神経叢郭清,門脈合併切除を伴う全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術について述べる.

ここまで来た癌免疫療法・5

—臨床の場で実際に行われてきた癌免疫療法—遺伝子治療

著者: 市川直哉 ,   田原秀晃

ページ範囲:P.1113 - P.1119

リード
 遺伝子治療は多岐にわたる手法を用いた開発途上の治療法であり,目的遺伝子を導人するためのべクターの選択,発現の調節,安全性など未解決の問題は多い.しかしながら,進行癌の次世代の治療法として遺伝子治療が選択肢の一つとして有効となることが期待されている.とりわけ,免疫を遺伝子治療という手技により制御して癌を治療しようとする癌免疫遺伝子治療には注目が集まっている.

病院めぐり

福井県済生会病院外科

著者: 飯田善郎

ページ範囲:P.1120 - P.1120

 曹洞宗大本山永平寺で有名な福井県の中心の福井市にて,福井県済生会病院は昭和16年8月に恩賜財団済生会福井診療所として開設されました.その後戦災,福井震災にて全焼しましたが,復旧し昭和25年9月に福井県済生会病院と改称しました.以後,増床,拡張を続けてきましたが,敷地が狭小となったため平成5年5月に郊外の福井市和田中町に新築移転しました.平成10年にはホスピスを開設し,また関連施設として乳児院などを新設してきました.
 当院の基本理念としては,①最新鋭の医療機器を駆使した高度医療の推進,②24時間体制の救急医療,③地域医療機関との密接な連携,④健診による積極的な予防医療,⑤全人的な終末期医療の推進であります.平成5年よりいち早くオーダリングシステムを導入し,現在は電子カルテシステムを導入中であります.病診連携事業では,開放型病棟を福井市および近郊の150近くの連携関係にある医療機関に利用していただき,全国でもトップクラスの病床利用率を誇っています.また日本医療機能評価機構による認定も取得しております.

砺波総合病院外科

著者: 小杉光世

ページ範囲:P.1121 - P.1121

 1948年に開設された砺波総合病院は富山県西部に位置し,砺波医療圏内の地域中核病院です.院内標榜35診療科,従業員656名(常勤医師68名),3年前より増改築中で病床数535床となります.その理念は「地域に開かれ,地域住民に親しまれ,信頼される病院」で,地域災害拠点,僻地中核病院として地域に密着した砺波市立の自治体病院です.地域住民が求める救急,小児,精神,老人,在宅,周産期,リハビリテーション医療など高度先進医療を実践し,今年度ICU18床が開設されます.1989年より外国人医師指導施設として中国,イランより数名の外科医を含む多くの外国人研修医を受け入れ,また関連大学の卒後専門医育成にも力を注いできました.2001年より臨床研修指定病院の指定を受け,卒後初期研修医を募集しています.
 当院外科は設立当初より金沢大学第1外科の医師派遣を受けてきました。昭和40年代に赴任し名誉院長である小林 長が,やる気のある医師の参集に尽力され,厳しい危機的状況を越えて今日の発展の基礎を作られました.現在,日本外科学会,消化器外科学会,胸部外科学会,呼吸器外科学会,大腸肛門病学会,消化器内視鏡学会,乳癌学会などの專門認定施設となっている.

文学漫歩

—鈴木光司(著)—『らせん』(1995年,角川書店 刊)

著者: 山中英治

ページ範囲:P.1122 - P.1122

 関西医大病院がクリニカルパスを導入したいということで講演に呼んで頂いた.母校は知人が多いので緊張もしたが,嬉しかった.終了後に副院長先生達と居酒屋「白木屋」に行った.大学も経営を真剣に考えねばならなくなって大変そうだが,教授で年収1,000万円というお話も寂しい気がした.新聞に載った高額納税者は消費者金融やパチンコ店関係者などが目立ち,医師は美容形成外科1人である.
 ベスイスラエル・メディカルセンターの桑間雄一郎先生は『裸のお医者さまたち』(ビジネス社刊)で,日本の医師は名誉,実力,お金は同時に得られず,1つを選ばねばならないと述べられている.大学教授になるにはネズミや細胞を使った実験をして,多くの論文を書くのに精力を費やす.教授という名誉はあるが給料は安い.第一線病院で臨床経験を積んだ実力のある医師も,一流病院は大学人事なので部長にはなれないし給料もそう高くない.お金儲けに精を出すと,研究や臨床はできない.

忘れえぬ人びと

頸動脈毬悪性腫瘍

著者: 榊原宣

ページ範囲:P.1123 - P.1123

 東京女子医大外科から,その後の経過について数回報告をいただいた.転院後間もなく,手術瘢痕部に腫瘤を生じてきた.2〜3週後には手術瘢痕中央部は軟化,開口した.潰瘍は次第に大きくなり,気管,食道,および頸動脈が露出した.11月に入ると激しい背痛を訴えるようになったので,胸椎X線写真を撮影したところ,第11胸椎に転移を認めたとの連絡があった.11月下旬には食道穿孔が起こり,食道瘻を形成したとのことであった.12月1日,頸動脈穿孔が起こり,出血多量のため不幸な転帰をとることとなった.
 これより先,転送から帰学したところ,頸動脈毬悪性腫瘍は稀な疾患であるから症例報告するようにとの指示があった.症例報告とはどんなものかわからなかった.はじめ同僚に相談してみると,同期生で症例報告したものはなく,とにかく先輩に指導してもらったらよいだろうということであった.

米国でのProbiem-Based Learning形式による外科研修

Problem-Based Conference(10)—スタンダードケア:重症多発外傷(その2)

著者: 町淳二 ,   児島邦明

ページ範囲:P.1125 - P.1139

1 はじめに
 T(指導医):前回の重症多発外傷に対するスタンダードケアのproblem-based conferenceでは,米国での外傷マネージメントの背景とprehospital care,外傷の分類と重症度,救急室での初期のマネージメント(primary survey),初期蘇生とそのレスポンスの評価についてディスカッションしました.重症多発外傷の可能性のある患者さんのマネージメントを行う上で重要なポイントが4つほどあります.このうち,ATLSに則ったスタンダードケアを実践しミスや見逃しを回避すること,そして初期の処置に対してそのレスポンスを評価し,さらに継続的に対処していくことの重要性を前回のカンファレンスで学習しました.そのほかのポイントとして,外傷性ショックの迅速かつ適切な処置と,多発外傷での種々の問題点に対するプライオリティーのおき方があり,これらを含めて今回のディスカッションを行っていきます.
 S(医学生):前回の患者さんは30歳の男性で,運転中に対向車に正面衝突し,10分後に救急室に来院し,明らかなショック状態でした.

臨床報告・1

横隔膜気管支嚢腫の1切除例

著者: 安村幹央 ,   阪本研一 ,   山田卓也 ,   二村直樹 ,   千賀省始 ,   広瀬一 ,   高屋忠丈 ,   安田洋

ページ範囲:P.1141 - P.1145

はじめに
 横隔膜原発の腫瘍性病変の頻度はきわめて少なく診断も困難である1).また,気管支嚢腫は主に縦隔や肺内に発生する先天性嚢腫で,横隔膜に発生することは稀とされている.今回,筆者らは横隔膜に発生した気管支嚢腫を経験し,手術を施行したので文献的考察を加えて報告する.

十二指腸に穿破した総肝動脈瘤に対し,NBCリピオドールによる経動脈カテーテル塞栓術が有効であった1例

著者: 柿原直樹 ,   庄野泰規 ,   竹中温 ,   藤田正人 ,   竹内義人

ページ範囲:P.1147 - P.1150

はじめに
 肝動脈瘤は比較的稀な疾患とされている.近年血管造影検査の進歩に伴って腹部動脈瘤の発見率は向上しており,経動脈カテーテル塞栓術(以下,TAE)が行われるようになってきた.しかしいったん破裂をきたすと重篤な経過をたどる症例が多く,その救命率は低い.今回,総肝動脈瘤が十二指腸に穿破した症例を動脈瘤塞栓術で止血,救命しえたので報告する.

慢性高位腹部大動脈閉塞症を伴う発症34時間後の急性上腸間膜動脈閉塞症の1救命例

著者: 江田匡仁 ,   市原利彦 ,   上田裕一

ページ範囲:P.1151 - P.1154

はじめに
 上腸間膜動脈(SMA)閉塞症は稀な疾患であり,診断に苦慮することが多く,いまだ死亡率も高い.またたとえ救命できたとしても多くは広範囲腸管切除を余儀なくされ,短腸症候群に悩まされる予後不良な疾患である1〜3).今回,筆者らは高位腹部大動脈閉塞症に伴って発症した上腸間膜動脈塞栓症に対し血栓除去術を施行し,良好な結果を得たので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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