icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科58巻1号

2003年01月発行

雑誌目次

特集 外科における重症感染症とその対策

外科領域における深在性真菌症とその対応

著者: 竹末芳生 ,   大毛宏喜 ,   今村裕司 ,   村上義明 ,   横山隆

ページ範囲:P.61 - P.66

 要旨:外科領域では疑診のまま治療が行われることが多い.その適切な開始基準がないことが第一の問題点である.その場合,日本では血清学的診断を,欧米では全身のカンジダ属によるcolonizationの程度をもとに治療が開始されるが,両者を併用したストラテジーを講じることにより精度の高いpre-emptive therapyが可能になると考える.第二の問題点として,non-albicans Candidaの増加が挙げられる.この真菌は,外科領域で常用されるfluconazoleに感受性が低いことが報告されている.新規抗真菌薬はこれらにも良好な感受性を示し,今後の適応について検討が必要である.

重症感染症時の炎症性cytokineのmodulationは可能か

著者: 深柄和彦 ,   松田剛明 ,   齋藤英昭

ページ範囲:P.67 - P.74

 要旨:重症感染症時の炎症性サイトカイン過剰産生は,代謝,呼吸循環動態の異常,免疫細胞による組織傷害を生じる.そのため炎症性サイトカインのはたらきを抑制する治療法の研究が進んできた.しかし,特定のサイトカインのみを,中和抗体や受容体拮抗物質などによってブロックする抗サイトカイン療法は,実際の大規模臨床試験では無効であった.最近は,サイトカインを投与することで,乱れたサイトカイン環境を改善する試みや遺伝子導入によってサイトカインレベルを調節する試みもなされているが臨床応用には遠い.感染症自体の適切な治療,抗生物質の選択,積極的な栄養管理,抗炎症薬の投与による高サイトカイン血症の予防と治療が効果的である.

エディトリアル

外科領域における重症感染症治療上の問題点

著者: 横山隆

ページ範囲:P.13 - P.20

 要旨:外科的感染症の重症化の機構の解明が進み,TLR(Toll-like receptor)による炎症性メディエーターの産生機構などが明らかになりつつあるが,予後の改善のためにそれらの機序に基づく対応策の開発が望まれる.またグラム陽性菌の菌体外毒素はスーパー抗原として作用するが,今後は起炎菌の菌種とその病態に応じた治療を行う必要があり,起炎菌の決定が重要である.

 一方,抗菌薬による治療は現在まで抗菌薬の薬物動態,薬動力学に基づいた投与量,投与間隔の設定が行われておらず,今後はこれらのパラメーターを熟知した抗菌薬の選択,投与が望まれる.最終的には感染という侵襲に対する生体反応の制御ができるようになれば治療成績は向上すると考えられ,侵襲制御の考え方が必要である.

市中発症外科的重症感染症への対応

重症急性膵炎における感染の制御と感染発症時の対応

著者: 磯谷正敏 ,   山口晃弘 ,   渡邊芳夫 ,   金岡祐次 ,   鈴木正彦

ページ範囲:P.21 - P.28

 要旨:急性膵炎の死因の80%は感染性膵壊死によるといわれ,重症急性膵炎では感染の制御,感染の早期診断,および感染発症時の迅速な外科的治療が治療成績を左右する.重症急性膵炎では,経時的な造影CTによる膵壊死の程度と膵外液体貯留や後腹膜脂肪壊死の進展範囲を評価する.壊死性膵炎では,酵素阻害剤と抗生物質の持続動注療法によって膵壊死の感染制御を行うとともに,CTガイド下に病巣部の穿刺吸引細菌検査で感染の有無を診断する.感染性膵壊死ではネクロセクトミーを行うが,治療に抵抗する非感染性膵壊死に対する手術適応と手術時期には異論が多い.感染の見逃しを否定できない場合には,時期を逸することのない迅速な対応が必要と考えられる.

重症腹膜炎への対応―大腸穿孔を中心として

著者: 梅木雅彦 ,   松田昌三 ,   栗栖茂 ,   小山隆司 ,   北出貴嗣 ,   高橋英幸 ,   篠原永光 ,   三村剛史 ,   吉田剛 ,   高橋宏明

ページ範囲:P.29 - P.35

 要旨:大腸穿孔をはじめとする重症腹膜炎では,容易に敗血症性ショックに陥りやすく,いまなおその予後は不良である.治療は,外科的に感染巣を完全に除去することが最も重要であることはいうまでもないが,敗血症性ショックと高サイトカイン血症をはじめとする各種メディエーター対策も重要である.筆者らは術前から抗ショック療法を施行し,さらに術直後にPMXによる血液浄化法を導入している.PMXは血中エンドトキシンのみならず他のメディエーターをも除去し,病態の改善に有効であると考えられるため,血中エンドトキシン値に関係なく,ショックを伴う重症腹膜炎では有効な治療手段と考えている.

術後重症感染症への対応

術後重症呼吸器感染症への対応

著者: 村田厚夫 ,   樽井武彦 ,   井上哲也 ,   山口均 ,   山口芳裕 ,   島崎修次

ページ範囲:P.37 - P.45

 要旨:外科手術などの侵襲に対する生体反応をSIRS・CARSで捉える概念があるが,実際には損傷を受けた局所では「急性炎症」が起こっており,一方で全身は「抗炎症性」に傾いている.局所の炎症が全身に広がらないようにした,これも一種の生体防御反応かもしれない.異物(微生物)につねにさらされている肺は,高齢者における術後や重症患者に対する人工呼吸管理でダメージを受けやすい.それが術後急性肺障害やARDSの発症につながり,人工呼吸管理自体が長期化するとVAP(ventilator-associated pneumonia)や院内感染としての肺炎が起こる.

 呼吸管理だけでなく,侵襲に対する生体防御反応を修飾する新しい治療戦略としてのサイトカインモデュレーション,とくにG-CSFを用いた戦略が期待される.

術後重症腹腔内感染症への対応

著者: 福島亮治 ,   冲永功太

ページ範囲:P.47 - P.52

 要旨:術後腹腔内感染症は消化器外科領域で最も重大な術後合併症であり,重篤化すると多臓器不全から患者を死に至らしめる.重篤化の機序としては,嫌気性菌を含む複数の起炎菌による病原性の上昇,細菌毒素の関与,免疫細胞による過剰な炎症性メディエーターの産生などが考えられている.術後は,手術によってprimingされた状態にある免疫細胞が,引き続く感染によって過剰な生体反応を惹起するので,臓器障害を起こしやすい状態にあるといえる.治療は適切なドレナージと抗菌薬投与が大きな柱となるが,術後の腹腔内感染はすでに抗菌薬が投与されている状態で発症するため,これらの抗菌薬に対して感受性のない菌による混合感染が多いことを念頭においておく必要がある.

術後重症耐性菌感染症とその対応

著者: 炭山嘉伸 ,   草地信也

ページ範囲:P.53 - P.59

 要旨:耐性菌感染症への対応は,周術期の抗菌薬療法をトータルで考えて,「術後感染予防」なのか,「感染治療」なのかを明確に意識することがまず必要である.加えて,新しい抗菌薬ばかりを使用するのではなく,臨床症状や宿主である患者の全身状態を考慮して,なるべく古い薬剤から使用することが重要である.現在,問題となる耐性菌はMRS,VRSA,VRE,P.aeruginosa,B.fragilisであるが,リネゾリドや治験中の薬剤が存在するMRSA,VRSA,VREといったグラム陽性菌に比べて,グラム陰性桿菌は治療薬の選択に難渋することが多い.また,新しい試みとして,サイクリング療法が紹介されており,今後の検討が期待される.

カラーグラフ 正しい外科切除標本の取り扱い方 22

乳腺の切除標本の取り扱い方

著者: 水田成彦 ,   中嶋啓雄 ,   鉢嶺泰司 ,   阪口晃一 ,   大江信哉 ,   沢井清司

ページ範囲:P.5 - P.11

はじめに

 近年,乳癌の領域において急速に手術の縮小化が進んでいるが,それにつれて癌の取り残しによる局所再発が重要な問題となっている.確実な切除,最低限の侵襲といった理想的な手術を行っていくためには,切除標本の取り扱いに細心の注意を払う必要がある.

 従来から治療方針を決定する因子として腫瘍径,腫瘍の浸潤範囲,リンパ節転移の個数などが用いられてきた.また,癌細胞の悪性度の指標としては,組織型,histological gradeなどが用いられ,非常に重要な役割を担ってきた.しかし,近年,分子生物学や遺伝子解析の発展に伴い,分子病理診断による切除癌の悪性度診断,再発の推定が可能となり,今後さらに発展していくものと考えられる1)

 本稿では,分子病理診断を行ううえでの注意点なども含めて当科の流れに沿って乳房温存手術における切除標本の取り扱いについて解説する.

目で見る外科標準術式・36

内視鏡下甲状腺手術

著者: 清水一雄

ページ範囲:P.75 - P.81

はじめに

 低侵襲,整容上の利点から内視鏡手術はもはや各科領域で一般化されている.甲状腺外科も国外1,2)および国内3,4)で最初の報告以来5年が経過し,本疾患を扱う施設では本術式が一般化してきた.甲状腺手術は女性に多い疾患であるとともに,露出された前頸部に手術創が入ることから,通常手術と遜色なく行うことができればこの内視鏡手術は主に整容上の利点からきわめて有用性があると思われる.現在は各施設から独自の工夫された方法が報告されているが5~7),本稿では内視鏡手術を取り扱う施設であればどこでも行える,簡便で,実用性のある筆者らの術式を示し,適応疾患,手術手技とポイントなどについて述べる.

医療制度と外科診療1

医療とは何か

著者: 飯田修平

ページ範囲:P.82 - P.83

連載開始にあたり

 連載にあたり,次のことをお断りしたい.本稿の内容の正否や世論を代表するか否かは考慮していない.しかし,筆者の臨床医および病院経営者の両方の体験に基づいた事実あるいは考え方であることは申しあげられる.まだ悟りを得ていないので,唯我独尊までも到達していない.

 連載の執筆依頼を受けて,感慨深いものがある.1971年,外科医になった時の驚き(後述する)を想起したのである.

近代腹部外科の開祖:Billroth

ビルロート余滴・1

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.84 - P.85

 今月から,Billroth(図1)に関する連載を掲載することになった.そこで,開始にあたってまずはこのような連載を書くようになった経緯から述べていきたい.

 さて筆者は,以前より本誌の「臨床外科交見室」に外科学史に関した話題を年々投稿してきたのであるが,これらの投稿が編集室の目にとまり,今回のお声が掛かった次第である.そこで,筆者は2つ返事で引き受け,外科医になって以来の長年にわたる関心事であった近代腹部外科の開祖「ビルロート」について書くことにした.また,1999年の万国外科学会への参加を機に,ウィーンを訪れ,その際にBillrothに関して種々調査していて,多少なりとも写真資料が集まっていたことも一因である[なお,この際の写真資料の一部は,日本外科学会誌(第102巻2号,244-245頁)に,「ウィーン逍遥(ビルロート顕彰碑巡り)」として既報しているので参照されたい].

病院めぐり

石川県立中央病院外科

著者: 山田哲司

ページ範囲:P.86 - P.86

 1948(昭和23)年11月に金沢市彦三町に,わずか病床数30床,職員数約20名で誕生した当院も,西御影町,鞍月町へと2度の移転新築を重ねて,現在では22の診療科を有し,病床数662床,職員数約850名(医師112名)を有する県内有数の病院に成長した.

 1976(昭和51)年鞍月町に移転した当時は,病院周囲は稲穂が茂るのみであり,はたして患者さんが集まるのかと心配されたが,職員一丸となった頑張りの結果,石川県の中核病院としての地位を確立した.また現在では,病院周囲は新県庁などが立ち並ぶ石川県の行政の中心となっている.

豊橋市民病院一般外科

著者: 加藤岳人

ページ範囲:P.87 - P.87

 豊橋市は,人口約37万人,愛知県東三河渥美半島の付け根にあり,市街地を市電が走る風情豊かな町です.当院は,古くは明治時代に端を発し,1951年より市民病院として長く豊橋駅近くに位置していましたが,1996年に桜ヶ丘分院と合併し,市の西方豊橋港近くの青竹町に移転しました.現在26診療科,医師151名,910床の総合病院であり,豊橋市と近郊都市を含む東三河50万人の基幹病院として機能しています.救急医療にも積極的に取り組み,1日平均救急車来院数は15台です.

 一般外科は,病床数87,1日平均入院患者数80人,平均在院日数14日,1日平均外来患者数113人です.豊橋市医師会との病診連携のおかげで,当科への紹介率は48%と高率です.

文学漫歩

―織田作之助(著)―『六白金星』―(1950年,新潮社 刊)

著者: 山中英治

ページ範囲:P.88 - P.88

 占いの類はほとんど信じない.生まれ月(星座)や年齢が同じ人が皆同じ運勢であるはずがない.もちろん厄払いにも行かなかったが,厄年は結構良いことが多かった.弟の小学校時代の担任は,厄年に厄除けで有名な寺で祈とうしてもらった帰路に交通事故に遭い入院した.また先日は外来に他院での乳腺腫瘍の生検結果が癌で,手術が必要だと言われたが,祈とうの先生が癌ではないので拝んで治してやると言うのを,母が信じて困っているという娘さんが50代の女性を連れて来て,説得に苦労した.医師が誤診をしたら大騒ぎだが,祈とう師は大金を取って治らなくとも罪にはならないようだ.

 とは言うものの正月のおみくじは好きだ.寒い朝に朱袴姿の,できれば色白肌で長い緑の黒髪の巫女さんから貰うのが良い.新年の暦の運勢も,つい読んでしまう.私の生まれ年は六白金星である.織田作之助の『六白金星』の主人公の楢雄も六白金星の生まれで「この年生まれの人は,表面は気長のように見えて,その実至って短気にて…」と書かれている.当たっているような気もするが,もし本当なら,私の学年は喧嘩が絶えないことになる.

ここまで来た癌免疫療法・9

いわゆる「民間療法」と科学的免疫療法の相違

著者: 角田卓也 ,   田原秀晃

ページ範囲:P.89 - P.92

はじめに

 いろいろな「民間療法」があるが,癌免疫療法の「民間療法」には免疫を高める「薬」に関するものや免疫療法として科学性に欠けた「細胞療法」などを施行する施設による治療が含まれる.ここでは「民間療法薬」と「民間免疫療法」に絞って論じる.癌免疫療法における「民間療法」が新聞や雑誌によく掲載されている.外来で患者を診察していても,免疫を高め癌を治すといわれている,新聞に載っていたあのお薬はどうでしょうか? ある施設の癌免疫療法はいかがでしょうか? などといった質問が多く,患者の関心は高い.それでは,科学的免疫療法と「民間療法」はいったいどのような相違があるのか? どうして癌患者は「民間療法」に関心を持つのかを検証した.

Problem-Based Conference(15)

Problem-Based形式の口述試験による評価(その1)

著者: 町淳二 ,   児島邦明

ページ範囲:P.93 - P.103

1 はじめに

 医学生や研修医の教育においては,彼らを正しく評価することが不可欠です.これまで日本では,医学生の評価は,BSL(bedside learning)における態度評価を付加することもありますが,筆記試験を中心にして行われてきました.研修医の評価では,各ローテーションにおける研修上でのperformance(患者さんの診療や術前・術後の管理,手術中の判断力や手術遂行能力,カンファレンスでの発言態度など)の評価が主になされています.

 一方,米国では,医学生の評価には,筆記試験も行いますが,clerkship(臨床実習)でのperformanceや態度,problem-based learningでのディスカッションの内容などが評価の対象として重視されています.また,problem-based形式による口述試験を行う場合もあります.研修医の評価においては,日常の研修におけるperformanceが最も重視されていますが,全米の研修医を対象とした筆記試験が毎年1回必ずあり,この結果も評価の対象となります.さらに,problem-based形式の口述試験を定期的に行います.これは特に上級の研修医(外科研修5年のうちの3年・4年・5年目の研修医)が対象です.米国では外科専門認定医になるためには,筆記試験に加えて口述試験にパスしなければなりませんが,この口述試験がproblem-based形式なのです.したがって,この専門医口述試験の準備という意味も兼ねて,“mock oral examination”と呼ばれる口述での試験・評価を行うわけです.

 Problem-based形式の口述試験は,筆記試験と比較して,医学知識だけでなく,その知識の臨床への活用能力や臨床上の判断力を評価する上で特に有用です.より臨床に即した評価法として,この口述試験では,患者さんの病態や問題点の変化などに対応する能力や,自らの判断の背景となるエビデンスの評価,コミュニケーションの能力をみる上でも役立ちます.Problem-based形式の口述試験による評価は,現時点での医学生や研修医の知識や能力を評価することが目的ですが,そのほかにもこれを活用することができます.すなわち,口述試験での評価後に,彼らにその結果をフィードバックすることにより,それぞれの優れた点や弱点を指摘して今後の学習を助長したり,弱点に対するさらなる指導を行うことが可能です.また,このような口述試験を定期的に行うことによって,医学生や研修医の能力がときとともに改善しているか否かをみることもできます.

 そこで今回は,mock oral examinationでよく取り上げられる症例のシナリオを用いて,problem-based形式の口述試験を紹介します.このような口述試験を行う際の注意点,ポイントは下記のとおりです.

 (1)口述試験に出題するproblem-basedな症例のシナリオをつくるにあたっては,まず質問に対する評価ポイント(evaluation point)を決める.このevaluation pointは,problem-based conferenceでのteaching pointに相当するものである.評価を受ける学生や研修医が,このevaluation pointに対してどのような応答をするかが評価の決め手となる.

 (2)Evaluation pointは,問題解決の上で必要な知識や,臨床状況に対応した判断力,その背景となるエビデンスなどであるが,重要な点は,それぞれの臨床状況における問題点に対して決断した判断や処置が,果たして正しいかどうかという点である.

 (3)Problem-based conferenceでのディスカッションと異なり,評価を行う指導医は,評価を受ける者(医学生や研修医)の答えが正しいか間違っているかなどの意見やコメントは,試験中には述べないようにする.すなわち,口述試験の最中には,評価を受ける者に対して,その回答に対するフィードバックは行わない.

 (4)口述試験での症例のシナリオは,主訴からはじまり,病歴,理学所見,検査,そして処置あるいは治療法と進行してよいわけであるが,evaluation point以外の事項はすばやく進行させる.例えば,評価を受ける者は逆に質問を返してもよいのではあるが,これがevaluation pointとかけ離れている場合には,迅速に応答を切り上げ,evaluation pointに関しての質問に集中するようにする.

 (5)1つの症例に対しての最終的な評価は,数々あったevaluation pointに対して,医学生や研修医がどの程度正しく答えたかの総合的な評価によって行う.1つの症例に対して評価を5段階程度に分け,総合的に点数をつけるのもよいであろう.また1回の口述試験で2~4例を呈示し,個々の症例というより全体での総合的な評価をつけることもできる.評価の内容としては,知識,判断力,問題解決能力,緊急例に対する対応能力,コミュニケーション能力や,場合によっては医師としての責任感・信頼度や倫理観などを個別に評価することが可能である.

 今回と次回にわたって,医学生を対象としたproblem-based形式の口述試験の症例1題,同じく研修医を対象とした症例1題の計2例を呈示し,口述試験の質疑応答終了後に,evaluation pointとなった項目の説明を加え,回答に対する評価をまとめてみます.

私の工夫―手術・処置・手順

腹腔鏡補助下胃切除時の肝円索吊り上げ方法

著者: 倉持純一 ,   中島和美 ,   五関謹秀

ページ範囲:P.104 - P.104

 近年,腹腔鏡下手術が盛んに行われるようになり,いかにして術者のストレスを緩和するかが個々の術式において必要である.腹腔鏡補助下胃切除の際,肝円索が垂れ落ちている症例では鉗子類の移動の妨げとなることがある.また,肝円索を挙上すると視野が良好となり,とくに十二指腸球部周囲や小彎側の手術操作が容易となる.肝円索の挙上には針糸を刺入して挙上する場合もあるが1),筆者らの行っている簡便に挙上できる方法を紹介する.

 肝円索の挙上には心窩部のトロカールが必要である.これらの留置後に,16Gサーフロー針を,心窩部のトロカールが肝円索の左側に出ている場合はその右側に,肝円索の右側であればその左側に穿刺し,外筒を留置する.次いで1-0絹糸などを16Gサーフロー針の外筒内に挿入し,糸を心窩部のトロカールより鉗子でつかみ引き出す(図1).糸を把持したままトロカールを抜去し,糸を結紮すれば肝円索を挙上できる.改めてトロカールを挿入すれば,糸はトロカールと腹壁の創の間に挟まれ支障をきたさない(図2).

インターネット検索時代の文献整理術・1

文献検索と保存(PubMed編)

著者: 讃岐美智義

ページ範囲:P.105 - P.108

はじめに

 文献検索*1もCD-ROMの時代からインターネット検索時代になり,大きく様変わりしている.文献リストのみではなく,インターネット経由で全文まで入手可能になってきた.インターネット上で無料あるいは低価格で文献検索ができるサイトとしてPubMedと医中誌WEBがある.これらのサイトから得られる文献検索結果は,Internet ExplorerなどのWEBブラウザで表示ができるだけでなく,自分のコンピュータにファイルとして取り出せる.

 文献検索を行ってその結果を印刷だけしてデータを捨てていませんか? このファイルを活用して,自分のデータベースを作りましょう.1回の検索で得られたデータを文献コピーのリストを印刷するだけでなく,自分の手元にデータベースとして残すことにより,研究開始から論文執筆までをカバーできる.文献検索を行って,研究を始める前にどのような研究がどの程度進んでいるかを知ることが大切である.詳しく知れば知るほど,これまでわかっていたと思われていることの問題点がみつかる.学会発表の質疑応答の準備や論文執筆時にも文献は必要である.そのたびごとに文献検索を行い,印刷して保存するのでは,印刷物の整理が大変である.自分のパソコン上にデータベースを作れば,図1のような流れで文献を活用できる.この連載では,図1に示す環境を作るために必要な考え方とテクニックを紹介する.

臨床研究

地方郡部における小児鼠径ヘルニア日帰り手術の実際―アンケート調査による評価

著者: 井上光弘 ,   木村正美 ,   久米修一 ,   兼田博 ,   松下弘雄 ,   上村邦紀

ページ範囲:P.109 - P.112

はじめに

 近年,day surgeryの普及により,小児鼠径ヘルニアに対し,日帰り手術を行う施設も増加してきた1,2).また,小児手術においては入院という環境の変化に対する患児の不安や,両親の患児以外の兄弟の世話などの理由で,日帰り手術のニーズは大きいと考えられる.

 当院のある人吉市およびその近隣の球磨郡は,熊本県の南部に位置する山間の地であり,交通の不便さや,夜間対応可能な医療機関の不足という問題を抱えている.

 筆者らは1997年後半より小児鼠径ヘルニアに対して日帰り手術を導入し,現在まで行ってきた.

 今回,地方郡部における小児鼠径ヘルニア手術に対する日帰り手術の有用性と問題点を患児の親へのアンケート調査を基に検討した.

手術手技

LigaSureTMを用いた腹腔鏡補助下直腸前方切除術

著者: 大村泰之 ,   川崎伸弘 ,   松前大 ,   戸田完治

ページ範囲:P.113 - P.115

はじめに

 今日の鏡視下手術の普及には著しいものがあり,それに伴い新しい手術手技,器械の開発がなされている1,2).Tyco Healthcare社が開発したLigaSureTMベッセルシーリングシステム(以下,LigaSureTM)は,焼灼組織におけるインピーダンスを検出することができるバイポーラー型の血管凝固装置であり,その止血効果には優れたものがある2,3)(図1a).開腹手術器械とともに鏡視下手術用の器械も製造されている(図1b).筆者らの行っているLigaSureTMを用いた腹腔鏡補助下直腸前方切除術の手術手技について報告する.

臨床報告 1

切除後の閉鎖に有茎広背筋皮弁・植皮が有効であった巨大自壊乳癌(扁平上皮癌)の1例

著者: 竹原朗 ,   清水淳三 ,   木下敬弘 ,   川浦幸光 ,   島田賢一 ,   今井美和

ページ範囲:P.117 - P.119

はじめに

 乳腺原発扁平上皮癌はまれで,その頻度は乳癌全体の0.1~4.0%1,2)とされている.今回,筆者らは肉腫様変化をきたした巨大自壊乳癌(扁平上皮癌)に対し胸筋合併乳房切除術を施行した後,組織欠損部を有茎広背筋皮弁と植皮により閉鎖し,良好な結果が得られた1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

鈍的外傷による大腿動脈解離の1例

著者: 石川雅彦 ,   森本典雄 ,   石崎彰 ,   矢吹英彦

ページ範囲:P.120 - P.122

はじめに

 鈍的外傷による血管損傷は急性動脈閉塞症状を呈する場合や,徐々に虚血症状が進行して結果的に肢切断に至る場合などが散見され,受傷初期の対応により予後が分かれる傾向がある1).今回,鈍的外傷による大腿動脈解離に対して血行再建術により救肢した症例を経験し,その診断,治療の留意点に関して検討したので報告する.

右上肢に生じたvenous aneurysmの1例

著者: 黒柳裕 ,   久保田仁 ,   上松俊夫 ,   鈴木秀昭 ,   児玉章郎 ,   城田千代栄

ページ範囲:P.123 - P.125

はじめに

 Venous aneurysm(以下,VAと略す)は静脈の限局性の嚢腫様拡張性病変で,通常の静脈瘤(varicose vein)とは異なり比較的まれな疾患で,その成因も不明なことが多い1).今回筆者らは右の尺側皮静脈に生じた限局性拡張病変,VAを経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

ITPに対する腹腔鏡下脾臓摘出術後に認められた下肢深部静脈血栓の1例

著者: 岩瀬和裕 ,   檜垣淳 ,   三方彰喜 ,   宮崎実 ,   西谷暁子 ,   上池渉

ページ範囲:P.127 - P.130

はじめに

 手術後の肺塞栓症(pulmonary embolism,以下,PE)は致死率の高い合併症であり,塞栓子の80%以上は深部静脈血栓症(deep vein thrombosis,以下,DVT)に由来するとされている1)

 欧米では,DVT発生率は開腹消化器系手術の7%,開腹胆嚢摘出術の1%,腹腔鏡下手術全体の0.33%,腹腔鏡下胆嚢摘出術の0.4~0.59%と報告されている2~4).本邦においてはPE,DVTはまれな合併症とされてきたが,腹腔鏡下手術の普及により,腹腔鏡下胆嚢摘出術後のPE,DVTの報告が散見されるようになってきている5~7)

 近年,腹腔鏡下脾臓摘出術も標準術式の一つとなりつつあり,そのうちでも巨脾を伴わない特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura,以下,ITP)はよい適応とされている8,9).摘脾術後の反応性血小板数増加に際しては血栓性合併症併発の危険性がよく知られているが,ITPに対する摘脾術周術期には出血傾向に対する監視が優先されることが多い.欧米においては腹腔鏡下摘脾術周術期のDVT発生の報告が散見されるが8,9),本邦においてはITPに対する腹腔鏡下摘脾術周術期のPE,DVTの発生の報告は見当たらない.ITPに対する腹腔鏡下脾臓摘出術において,反応性血小板数異常高値を伴わない周術期にDVTの発生が認められた1例を経験したので報告する.

コイル塞栓術にて止血しえた直腸杙創の1例

著者: 那須二郎 ,   高田登 ,   前田将臣 ,   吉仲一郎 ,   原田和則

ページ範囲:P.131 - P.134

はじめに

 杙創とは古典的には杭のような物体による刺創という意味であるが,今日一般には,本来鈍的な物体が何らかの機転で下腹部に貫入する外傷をいう1).本邦では1927年の布目2)の小児杙創例の報告を蕎矢とする比較的まれな疾患である.今回,筆者らは偶然的な外傷機転で発症した経肛門的直腸杙創例を経験し,その出血に対して血管造影下のコイル塞栓術にて止血し得たので若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?