カラーグラフ 正しい外科切除標本の取り扱い方 23
乳腺の切除標本の取り扱い方
著者:
増田幸蔵1
井上泰2
今成朋洋1
所属機関:
1東京厚生年金病院外科
2東京厚生年金病院病理科
ページ範囲:P.143 - P.149
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“近代乳癌の父”であるウイリアム=ハルステッドが,乳腺と胸筋と腋窩リンパ節を一括して取り除く定型的乳房切除術を発表したのは1896年である.その後,100年近く主流であったこの術式によって切除された標本が提出されることは現在ほとんどない.今日,乳房切除術の主流は,胸筋温存乳房切除術(Auchincloss,Patey)1,2)であり,さらに,より乳房の切除範囲を狭めた乳房温存術3,4)が増加の一途をたどっている.2000年には約40%が乳房温存術となっている5).乳癌は明らかに急速な増加を示しており,年間33,000人の新規患者があり,9,000人が乳癌で死亡している6).この現状を考慮すれば,乳房温存術はますます増加していくものと考えられる.当院でも同様の状況であり,過去5年間の乳癌手術例206例中61例(30%)に温存術(quadrantectomy)が行われ,最近の2年間では40%近くに達している.本論文における乳腺切除標本の取り扱いもこの温存術を中心に記載することになる.
乳腺の切除標本には,生検材料と手術材料がある.さらに,術中迅速診断材料が加わる.外科医にとって最大の関心事は,病理組織学的な腫瘍の良・悪の鑑別と,切除材料断端の評価,つまり,取り切れているか否かの診断である.このことが実際に行われるためには,外科医と病理医が連携し,切除標本の取り扱いに関して,リアルタイムで協議を積み重ねていくことが肝要である.検体の取り違いのないようにつねに注意すること,バイオハザードとくに感染症の有無については,検体申込用紙に正確に記載することは当然必要なことである.