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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科58巻3号

2003年03月発行

雑誌目次

特集 Q&A器械吻合・縫合のコツ

自動吻合・縫合器の最近の進歩

著者: 萩原優

ページ範囲:P.295 - P.301

はじめに

 自動吻合器・縫合器に関することで忘れてならないことがある.それは,この原型は京都府立医科大学の峰先生により開発されたという事実である1).峰先生の考案された吻合器がロシアで改良され,そのロシアの特許がアメリカ合衆国へ移された.現在われわれが使用している器械はさらにアメリカ合衆国で改良され,実用化されたものである.

 自動吻合器・縫合器はもはや手術の進行過程で何の抵抗もなく,まさに機械的に使用されている.また,使用に際してもだんだん縫合糸で補強する頻度も減り,より簡便な操作が可能となった.

 われわれはあまり気づかないが,器械は確実に進歩しており,それにより実際の操作も簡便かつ安全性が高まっている.

 この特集は約5年前に一度企画された.今回,最近5年間にどれだけわれわれが日常頻用する器械が改良・進歩したかについて検証した.

 また,医療経済の面から医療保険制度で設定されている術式別の自動吻合・縫合器の保険点数と実際の手術で使用する器械の種類と使用頻度を試算した.

Q1 タバコ縫合器の使い方のコツは?

著者: 河野浩二 ,   松本由朗

ページ範囲:P.302 - P.303

 アンビルヘッドを挿入すべくタバコ縫合をおく際には,自動タバコ縫合器(Purstring 45(R)または65(R))を用いる場合と,タバコ縫合鉗子(巾着縫合器)を用いる場合がある.

 前者は,腸管の外膜側(漿膜側)にちょうどズボンのベルト通しのようにステイプルで糸が固定され,タバコ縫合がなされる(図1).文字どおり簡便であるが,自動タバコ縫合器先端の形状がやや大きいため,術野が狭い場合,例えば食道切離端が高位(縦隔内など)である場合などは挿入できないことがある.また,タバコ縫合糸が漿膜側の固定のみなので,粘膜と筋層がずれやすく,全層が巾着されない点や,縫合糸が脱落しやすい点に注意する必要がある.当然のごとくディスポーザブルのためそのつどコストが生じる.

Q2 タバコ縫合した消化管の拡張方法のコツは?

著者: 河野浩二 ,   松本由朗

ページ範囲:P.304 - P.305

 自動タバコ縫合器,あるいはタバコ縫合鉗子(巾着縫合器)のいずれを用いても,タバコ縫合糸をかけ終わり,巾着器具をはずした時点では,腸管の前後壁は軽く圧縮され付着している.この際には,確実に前後壁の粘膜面を同定し,鑷子,あるいはアリス鉗子で付着を解除し,腸管内腔を確認する.

 その後,腸管全層を3~4本のアリス鉗子で確実に把持し,その内腔をアリス鉗子もしくは腸鉗子で,前後左右方向に1~2回拡張する(図1).ゆっくり均等に力をかけることが肝要で,無理な拡張は腸管に裂傷を生じる.また,この際,タバコ縫合された糸は十分に緩めておく必要がある.緊張がかかると巾着糸の脱落が生じて,巾着操作が不確実になる原因となりうる.

Q3 アンビルヘッド使用サイズの決め方のコツは?

著者: 河野浩二 ,   松本由朗

ページ範囲:P.306 - P.306

 基本的に,消化管吻合は内容の通過を容易にすべく可及的に大きくあるべきだと考えられている.例えば,胃全摘後の食道・空腸吻合を例にとると,自動吻合器のサイズ,すなわちアンビルヘッドのサイズを規定する因子は,いうまでもなくアンビルヘッドが通る食道口径と,本体が通る空腸口径である.また,最初にアンビルがうまく挿入できても,空腸側で本体が挿入できずサイズを変更した例が16%あったとの報告もある1)

 一般的な使用説明では,アンビルヘッド挿入側の腸管の口径をサイザーにより確認し,器械吻合器を選択するように勧められている.しかし,一般にサイザーは,最大径の部分が比較的長い円筒形であり,最近の自動吻合器のアンビルヘッドは最大径の部分が薄く,皿状の形態をとっているため,挿入を斜め方向に行えば,実際にはサイザー径より余裕を持って挿入できる.また,より口径の大きい吻合器の挿入のためのサイザーを用いたブジー操作は,腸管損傷のリスクがある.以上の点から,筆者らはサイザーをルーチンでは使用していない.また,もし利用するとしても,目的の口径より1サイズ細いサイザーで余裕を持って挿入し,その腸管口径のイメージをつかむのみとしている.

Q4 アンビルヘッドを挿入する際に腸管が攣縮した場合はどうする?

著者: 大野聡 ,   高倉範尚

ページ範囲:P.307 - P.309

 手縫い吻合のように経験や熟練を要さず,短時間に消化管吻合ができるという点や,狭いスペースでも容易に吻合操作が可能という利点により器械吻合が頻用されてきている.しかしながら種々の条件や臓器の状態によっては器械吻合にも問題点があり,このためにより安全で確実な吻合を行うさまざまな工夫がなされてきている.食道切除,胃切除後の再建では食道-胃管吻合,食道-結腸吻合,食道-空腸吻合を行うが,サーキュラーステイプラータイプの自動吻合器のアンビルヘッドの口径は25mm以上のものを用いる.また前方切除やS状結腸切除の再建では,結腸-直腸吻合が行われ,31mm以上の口径のものが用いられる.

 食道切除後や胃全摘術後では,タバコ縫合器(purse string instrument:PSI)もしくは,食道離断後に手縫いによるタバコ縫合を行い,口側食道にアンビルヘッドを挿入する.まず,バブコック鉗子やアリス鉗子などの軟部把持鉗子で結紮点を避けてタバコ縫合糸を含めて口側食道を3点把持する.

Q5 アンビルヘッドを挿入中に腸管が裂けた場合はどうする?

著者: 大野聡 ,   高倉範尚

ページ範囲:P.310 - P.311

 「Q4」の項で述べた要領でアンビルヘッドを挿入しても,ときとして口側食道や口側腸管の一部が裂けることがある.その裂け方は,外膜(漿膜)筋層のみ裂ける場合と,粘膜を含め全層にわたって裂ける場合がある.アンビルシャフトにタバコ縫合糸を結紮した時点で,どのような裂け方をしているのかを十分に観察することが肝要である.全層が裂けている場合は,基本的にはやり直すか,器械吻合は諦めて手縫い吻合に切り替えるべきである(図1,2).

 しかしながらアンビルヘッドの半径の2/3程度の小範囲のものであれば,まず絹糸で裂けた部分の全層を拾って1針掛けて結紮し,それをもってアンビルシャフトにもう一度結紮すればまったく問題はない(図3,4).しかし裂けた部分が長すぎてセンターロッドに縫縮・結紮したときに,余剰の組織が縫合器よりはみ出るような場合には,かみ込みの高さに不均一が生じるため好ましくない吻合となる.

Q6 タバコ縫合糸の結紮のコツは?

著者: 大野聡 ,   高倉範尚

ページ範囲:P.312 - P.313

 器械吻合において,食道もしくは口側腸管にアンビルヘッドを挿入しタバコ縫合糸を結紮する際にもいくつかの注意点がある.タバコ縫合に用いる糸は,結紮していくときにタバコ縫合をかけた組織の間を滑りやすい材質のナイロン糸を用いるために,結紮点が緩みやすいのも事実である.

 したがって,第一結紮後に先の細い鉗子で結紮点を押さえてもらって第二結紮へ進むか,第一結紮を外科結紮にすると緩まずに締めることができる.もう一つの注意点としては,食道-空腸吻合の際にアンビルヘッドを挿入する食道,あるいは前方切除術で腹腔内のみで側端吻合を行う際のアンビルヘッドを挿入する直腸のいずれも,十分に周囲組織を剥離しておき,タバコ縫合糸を結紮するときに結紮点に過度の緊張が掛からないようにしておくことが大切なことである.

Q7 タバコ縫合糸を結紮する際に組織の一部がアンビルシャフトから外れた場合はどうする?

著者: 大野聡 ,   高倉範尚

ページ範囲:P.314 - P.315

 器械吻合は,基本的には一発勝負であり,やり直しがきかない場合が多く,それゆえに個々の細かい縫合手順によく習熟しておき,トラブルを未然に防いだり,発生した場合の対処の仕方をよく知っておく必要がある.

 器械吻合において発生するトラブルの一つに,食道もしくは口側腸管にアンビルヘッドを挿入し,アンビルシャフトにタバコ縫合糸を結紮するときに腸管の一部が結紮・縫縮されずに外れてしまうことがある.原因としては,手縫い吻合にしてもタバコ縫合器(PSI)を用いた場合でも,タバコ縫合が口側腸管の全層に十分に掛かっていなくて,結紮するときに腸管壁から縫合糸が切れてはずれてしまった場合か,結紮する際に過度の緊張が腸管にかかったために発生することが多い.

Q8 腸管に吻合器本体の挿入が困難な場合はどうする?

著者: 辻谷俊一 ,   上田毅 ,   貝原信明

ページ範囲:P.316 - P.318

 腸管の器械吻合では,吻合器が腸管内に挿入できないと吻合は不可能である.器械吻合のポイントについては多くの報告がある1~3).通常使用されるのはサーキュラーステイプラーである.今日では,機器全体がディスポーザブルで,アンビルは分離するようになった.さらに,アンビルは挿入しやすいように次第に平坦になり,アンビルの挿入に難渋することはなくなった.問題は吻合器本体の腸管内への挿入が困難な場合で,本稿ではその場合の対応について概説する.

Q9 端側吻合でアンビルヘッドと本体を合体させる際に,本体側の腸管を巻き込まないようにするためのコツは?

著者: 辻谷俊一 ,   上田毅 ,   貝原信明

ページ範囲:P.319 - P.321

 腸管の器械吻合の場合は手縫い吻合と異なり,一針一針を確かめながら縫合することができないので,十分な準備と確実な操作を行うことが,唯一縫合不全や吻合部狭窄を防止する対策となる.そのためには吻合する腸管の十分な授動と適正な牽引が必要である.本稿では,安全な端側吻合のための注意点を概説する.

Q10 吻合部にアンビルヘッドはどこまで寄せる?

著者: 中村利夫 ,   中村達

ページ範囲:P.322 - P.323

 自動吻合器を用いた腸管吻合の場合,吻合腸管の密着の程度はアンビルヘッドをどこまで寄せるかにより決定される.しかし吻合される腸管の厚みは患者や吻合部位により異なり,また浮腫や肥厚を伴う場合もあるため均一ではない.そのためアンビルヘッドをどの程度締めるかが重要となり,自動吻合器に表示されるインジケーターやノブを締めるときの抵抗感がアンビルを寄せるときの判断材料となる.

 こうした締め幅を調整する機構はそれぞれの自動吻合器において異なるため,自動吻合器を操作する際にはその特性を十分に理解し手技に習熟することが必要となる.

Q11 ファイアしたあとはknotをすぐに緩める,それとも数秒そのままにする?

著者: 中村利夫 ,   中村達

ページ範囲:P.324 - P.324

 器械吻合において発生しうる合併症の一つに吻合部出血がある.Williamらは大腸における器械吻合部の術後出血の集計を行い,器械吻合を施行した775例中17例(1.8%)に緊急手術または輸血を要する出血を認めたとし,なかでもサーキュラーステイプラーを用いた直腸の吻合部出血が11例と多かったと報告している1)

 この出血を防ぐためには自動吻合器の締め幅を狭くするか,自動吻合器のステイプル数が多く間隔が密なものを使用するかであるが,これは同時に吻合部の組織の挫滅や狭窄をきたすおそれがあるため一概には論じ得ない.

Q12 アンビルヘッドが腸管から抜去できない場合はどうする?

著者: 中村利夫 ,   中村達

ページ範囲:P.325 - P.326

 現在使用されている自動吻合器は,以前に指摘されたようなアンビルヘッドが抜去できないような場合はほとんどみられなくなった.ファイア後,本体がスムーズに抜去されるためにアンビルヘッドを扁平にしたり,倒れるようにしたりとさまざまな工夫がなされてきている.しかしまれにではあるがアンビルヘッドの抜去が困難となることがあるため,術者はそれぞれの器械の特性を十分に熟知して使用することが必要である.

 タイコ ヘルスケア ジャパン社のプレミアプラスCEEA(R)(PPCEEA(R))は,ファイア後にティルトトップアンビルが倒れることにより抜去が容易になるよう工夫がなされている(図1).しかしごくまれにアンビルヘッドが抜去しにくい場合があり,その原因として倒れたアンビルヘッドが吻合ライン断端に引っ掛かっていることがある.こうした場合,本体をむりに引っ張り出そうとはせず,まずアンビルヘッドを少しゆるめた後,ゆっくりと頭側に本体を押し入れてみる.これによりアンビルと吻合ライン断端が自然に離れるため,本体を容易に引き抜くことができる(図2).同様に本体を左右にゆっくりと回転させることによっても抜去が容易となる場合があるので,むりに引っ張らないで行ってみるのもよい.また抜けやすくするための工夫であるティルトトップアンビルヘッド自体が倒れていなければ抵抗がかかり,当然アンビルヘッドは抜去しにくくなる.このためティルトトップアンビルがスムーズに倒れたことを確認することも術者にとって注意すべき点である.ティルトトップアンビルはシャフトについているバネと反対方向に倒れる構造となっているため,バネが腹側にくるようにアンビルヘッドを本体に挿し込むことによりアンビルヘッドが背側に倒れ,確認が容易となる.

Q13 残ったドーナツが全周性でない場合はどうする?

著者: 串畑史樹 ,   小林展章

ページ範囲:P.328 - P.329

 自動吻合器を用いた吻合の際,器械に残ったリング状の口側・肛門側の切除腸管である“残ったドーナツ”が全周性・全層性に含まれていることを確認することは,器械吻合の成否を見極めるうえで非常に重要な操作である.もし,この残ったドーナツが全周性・全層性でない場合の行うべき対応策として,①ドーナツ不全部位の同定,②漏れの有無の確認,③修復である.

Q14 吻合部からの漏れの確認はどうする?

著者: 串畑史樹 ,   小林展章

ページ範囲:P.330 - P.330

 自動吻合器を用いた器械吻合の場合は手技が簡便である反面,手縫い吻合とは違って直視下で確認しつつ吻合することができない.したがって,『吻合のできばえ』を必ず試す必要がある.残ったドーナツの確認と同様,リークテストによる吻合部からの漏れの確認は,器械吻合の必須のプロセスである.

 確認の方法として基本的なことは,①外側からの視認,②色素による確認,③エアーによる確認がある.

 器械吻合を頻用する胃全摘術と低位前方切除術について具体的に述べる.

Q15 吻合部の離開がみつかった場合にはどうする?

著者: 串畑史樹 ,   小林展章

ページ範囲:P.331 - P.333

 吻合部の離開が確認された場合,吻合部の補強もしくは再吻合を行わなければならない.まず,吻合部の十分な視野を確保したうえで,落ち着いて離開の部位・程度をよく見極めることが肝要である.もし,術野確保のために助手が足らなければ,ためらわず人手を呼ぶことである.

 自動吻合器を用いる機会の最も多い胃全摘術,食道空腸吻合と低位前方切除術,結腸直腸吻合について具体的に述べる.

Q16 打針前にステイプルがすでに飛び出していた場合はどうする?

著者: 竹之下誠一 ,   関川浩司

ページ範囲:P.334 - P.336

 ステイプル式自動縫合器はその機能から2つに大別される.①4列の互い違いの直線的なステイプルラインを形成すると同時にその中央を切離するリニヤーカッター型,②2列の互い違いの直線的なステイプルラインを組織に残して縫合するリニヤーステイプラー型である1~3).基本構造は両者とも本体と交換可能なステイプルを格納しているカートリッジの部分よりなる.

 「ステイプルがすでに飛び出していた場合」の対応の原則は,「その縫合器は使用しないこと」である.縫合器によるトラブルは患者の生命予後と直接関係するものであり,安易な考えによる急場しのぎの策を試行してはならない.本設問に対しては「直ちに新しいカートリッジに交換する」という答えに尽きる.そこで本稿ではステイプルが飛び出す原因とそのような事態を避けるための予防策について述べる.

Q17 ハンドルが進まない場合はどうする?

著者: 竹之下誠一 ,   井上典夫

ページ範囲:P.337 - P.340

 自動縫合器のハンドルが進まない場合の原因としては,大きく2つの理由が考えられる.1つは,器具の選択ミスや不適切な操作による場合であり,もう1つは器具の故障による場合である.多くの場合は前者の不適切な使用が原因であり,縫合器の原理を十分に理解することが肝心である.自動縫合器の基本的な原理はアンビルとカートリッジに縫合する組織を挟み,コの字型のステイプルを押し出して,アンビルで受けてB型のステイプルが形成されることで縫合が完了する.さらに,これに切離器が付属し,縫合と切離が同時に行われるものがある(図1.2).本稿では,自動縫合器のハンドルが進まない場合に想定される原因と対策について述べる.

Q18 ステイプルが形成不全の場合はどうする?

著者: 竹之下誠一 ,   大木進司

ページ範囲:P.341 - P.342

 自動縫合器は大きく2種類に分けられる.1つは2つのフォークの間に組織を挟み込んで,器械本体のノブを押しだすことによって,片側2列あるいは3列ずつのステイプルの間をナイフが通り,その結果,組織の切離と縫合が同時に行われるリニヤーカッター型(マルチファイヤーGIA(R)やプロキシメイトリニヤーカッター(R)など),もう1つは2列の互い違いのステイプルラインにて組織を縫合閉鎖するリニヤーステイプラー型(マルチファイヤーTA(R)やプロキシメイトリニヤーステイプラー(R),ロティキュレーター(R)など)である.本稿は使用条件や使用法上,多くのピットフォールが存在する前者を中心とする.

 組織の確実な切離と縫合が行われ,正しいB型のステイプリング形成がなされるためには以下のような基本的な原則事項がある.①組織をまっすぐにステイプルが貫いていること,②組織から適度な長さのステイプルが突き出していること,③ステイプルの先端がアンビルにより正しい方向に導かれること,④正確なステイプル形成のために十分な力が加わることである(図1).これらの原則が1つでも守られなかった場合にステイプルの形成不全の可能性が生じる.そしてその発生要因としては,器械自体の問題あるいは不適切な使用方法が想定される.

Q19 器械が開かない場合はどうする?

著者: 栗栖茂

ページ範囲:P.344 - P.345

 とくに問題となるのは鏡視下手術の場合である.通常手術の場合であれば,別の縫合器をかけるなり手縫いで処理するなどして,ほとんどの場合は対処することが可能であると考えられる.しかし鏡視下手術の場合には,最悪の場合はopen surgeryに移行となる可能性すらあるので,このような事態に陥らないよう心するとともに,万一の場合の対処方法についても十分に理解しておく必要がある.

 縫合器が開かなくなるトラブルは,鏡視下手術用両側縫合式縫合器(エンドGIA(R),エンドカッター(R))で厚すぎる組織をむりに挟み込んで打針した場合に生じることがほとんどである.開腹(胸)手術用縫合器におけるこのようなトラブルはほとんど報告されていない.

 このようなトラブルを避けるためには,何よりもまず適正なサイズのステイプルを選択することによって,トラブルを未然に防止することが最も重要である.表1にカートリッジの色分けとステイプルの高さを示すとともに,それぞれのカートリッジが具体的にどのような組織に適合するのかということに関しての一応の目安を示す(エチコン エンド サージェリー社提供).

Q20 縫合器切断端からの出血の処置は?

著者: 栗栖茂

ページ範囲:P.346 - P.347

 Q19において,縫合器の先端部分が開かなくなるトラブルはステイプル形成後の足の高さに対して組織が厚すぎる場合に生じると述べたが,出血はこれとは逆に,ステイプルが組織の厚さに比べて相対的に高すぎる場合に生じる.

 このトラブルを避けるためには前項で述べたとおり,組織の厚みに対して適切なカートリッジを選択することがまず何よりも重要である.表1はQ19の表と同趣旨のものであるが,タイコ ヘルスケア ジャパン(旧オートスーチャー)社の直線型縫合器におけるカートリッジ選択の目安を示す.

Q21 縫合器断端はそのまま放置する,それとも埋没縫合する?

著者: 栗栖茂

ページ範囲:P.348 - P.349

 埋没縫合の必要性が問題になるのは消化管の場合である.筆者は伝統的なAlbert-Lembert二層縫合のトレーニングを受けて育ってきたという歴史的経緯もあり,ことに外翻となる縫合器断端に対しては漿膜筋層縫合を付加することを一応の原則としている.しかしすべての縫合器断端を埋没するという考え方は今日ではむしろ少数派であろう.部位によって,あるいは状況によって埋没の必要性には差がある.この問題に関する考え方と,手技のうえで筆者がとくに重要と考えているポイントについて述べる.

Q22 頸部での食道・胃吻合のコツは?

著者: 藤田博正 ,   末吉晋 ,   田中寿明 ,   白水和雄

ページ範囲:P.350 - P.352

 当科では胸壁前食道胃吻合術において器械吻合を行っている.ここでは器械を用いた食道胃吻合法とそのコツを述べる.

Q23 胸腔内での食道・胃吻合のコツは?

著者: 奈良智之 ,   小西敏郎

ページ範囲:P.353 - P.355

腹部操作

 胃管の作成では,血流のよい胃管を作成しなければならない.胃大彎側の授動では,右胃大網動静脈と左胃大網動静脈のコネクションがあるかどうか確認する.コネクションがある場合にはなるべく左胃大網動静脈を長く温存し,その根部にて結紮・切離する(図1).小彎側では右胃動静脈を温存し,その末梢枝のところで胃小彎を切離して,亜全胃管の途中まで腹部操作にて作成しておく(図2).

Q24 胃・十二指腸の端々吻合(ダブルステイプリング)のコツは?

著者: 永井祐吾 ,   田中信孝 ,   野村幸博 ,   永井元樹

ページ範囲:P.356 - P.359

 胃切除後のBillroth I法の再建は,手縫いでも縫合不全などの合併症はめったにみられず,通常の開腹手術でわざわざ器械吻合を行うメリットは少ない.

 しかし,腹腔鏡下手術においては,鏡視下あるいは小開腹での再建となり,消化液による汚染防止と手術時間短縮のために器械吻合の果たす役割は大きい.筆者らは腹腔鏡補助下胃切除1)を施行する際,器械吻合による端々吻合を施行している.この吻合法は少なくとも10分以内の短時間で終了でき,しかも完成後の外観は,手縫い端々吻合と何ら変わるところがない.最近は胃切除においても器械吻合器2個分の保険請求が可能になったので,当然のことながら開腹手術でこの手技を応用してもなんら問題はない.

Q25 胃・十二指腸の端側吻合のコツは?

著者: 帆北修一 ,   愛甲孝 ,   夏越祥次 ,   石神純也 ,   宮薗太志

ページ範囲:P.360 - P.361

 最近の胃切除術の動向をみると,器械吻合器の改良や周辺機器の進歩により,さまざまな部位で器械吻合による再建術式が確立している.手術時間の短縮や術者の技量にあまり差がでない一定の術式として,幽門側胃切除後の再建にも器械吻合が導入されつつある.本稿では幽門側胃切除後のBillrothⅠ法端側吻合のコツについて述べる.

 十二指腸を切離する際は,遠位側にはper string instrument(Perstring(R))あるいは小児用腸鉗子などで把持し,近位側は十二指腸鉗子などで把持後切離する.十二指腸断端をアリス鉗子で把持し,28あるいは31mmのILS(R)またはPCEEA(R)を使用している.アンビルを挿入後,巾着縫合糸を緩まないように縫縮する.シャフトの挿入には種々の方法が報告されており,残胃切開部からの挿入法や胃の切除予定部分に切開をおき,胃の後壁に吻合後に胃を切離する方法,胃を半切後に切除胃からステイプラーを挿入する方法などがある.胃を半切後挿入する場合について述べると,胃の切離線を決定した後,大彎側からsurgical instrument(Liner Cutter(R),GIA(R))(75mm)を用い,切離予定線の約2/3を切離する(非切離部分をシャフトが通過する程度の余裕を持たせる).この切離部位の約2~3cm遠位側でPCEEA(R)が抵抗なく通過可能な大きさ(約3cm)の切開を加えるが,この際に支持糸を2本かけておくと切開創からのシャフト挿入が容易となる(図1).

Q26 腸管のファンクショナル端々吻合のコツは?

著者: 渡辺伸和 ,   森田隆幸 ,   小山基 ,   佐々木睦男

ページ範囲:P.362 - P.363

 自動縫合器・吻合器の進歩,そして内視鏡下手術の普及により,消化管の吻合を手縫いではなく器械吻合で行う機会が増えてきた.本法の利点は,腸管径の差を考慮しなくてよいこと,大きな吻合径が得られること,そして解剖学的には側々吻合であるが,機能的には端々吻合となる点である1).本稿では機能的端々吻合(functional end-to-end anastomosis)の手技と,その要点について述べる.

Q27 腸管の端側吻合のコツは?

著者: 西澤雄介 ,   森田隆幸 ,   村田暁彦 ,   佐々木睦男

ページ範囲:P.364 - P.366

 近年のサーキュラーステイプラーやリニアステイプラーの改良・普及に伴い,消化管吻合において器械吻合が用いられる機会が多くなっている.一般に端側(あるいは側端)吻合は,①吻合腸管の口径差に左右されない,②吻合口がより大きくとれる,③吻合部の血流が良好である,④口側腸管の収縮が直接吻合部に伝わらない,などの利点が挙げられる.さらに結腸直腸吻合では,⑤骨盤腔内の死腔が埋まりやすい,⑥盲端部の貯留能が期待できる,という利点を有する1)

 以下,器械吻合による端側吻合法のコツについて述べる.

Q28 直腸のダブルステイプリング法のコツは?

著者: 森田隆幸 ,   村田暁彦 ,   小山基 ,   池永照史郎 ,   佐々木睦男

ページ範囲:P.367 - P.368

 直腸のダブルステイプリング法は直腸断端をTA(R)55やTLH(R)30,TL(R)60で閉鎖切離した後,経肛門的にPCEEA(R)やCDH(R)を挿入して閉鎖断端をトロッカーで打ちぬき端々あるいは側端で結腸直腸吻合を行うもので,直腸低位前方切除術では最も多用される.直腸切離時の汚染が少なく,狭い骨盤内最深部での操作も容易である.

Q29 自動縫合器を用いた膵切除のコツは?

著者: 小山勇

ページ範囲:P.369 - P.371

 理想的な膵切除法は膵液瘻の発生が最も少ない方法である.膵液瘻を防ぐ方法として,主膵管の結紮と膵断端の魚口型縫合閉鎖が標準術式と長く考えられてきた.しかし,この方法でも20~30%の膵液瘻が生じると報告されている1).主膵管を確実に結紮しても,膵管の分枝および挫滅した膵組織から膵液の漏出がみられるためである.より確実な断端の処理をめざして,手縫い法に代わり自動縫合器が膵切離法に用いられるようになってから20年以上経過しているが,残念ながらいまだ理想的な方法とはいえないのが現状である.ここでは膵切離を行う際の自動縫合器使用のコツを述べるとともに,新たな工夫を紹介する.

Q30 自動縫合器を用いた肝切除,肝血管切除のコツは?

著者: 田端正己 ,   水野修吾 ,   上本伸二

ページ範囲:P.372 - P.374

 自動縫合器は簡便かつ確実に組織の離断や縫合あるいは脈管の閉鎖を行えるという利点を有している.この利点は出血のコントロールが重要な要素を占める肝切除においても大いに魅力的であり,最近,肝血管の切離・縫合やグリソン一括処理あるいは肝実質切離などに用いられる機会が多くなってきた1~4).今回はこのうち,筆者らの行っている自動縫合器を用いた肝血管の切離・縫合および肝実質切離の要点を紹介する.

Q31 痔核に対する自動吻合器を用いたPPH法のコツは?

著者: 蓮田慶太郎

ページ範囲:P.375 - P.377

 Longoによって始められたPPH法は本邦における痔核治療において近年急速に広まりつつある.その理論は脱肛の原因となる直腸粘膜を環状切除することによって下垂したanal cushionsを吊り上げ,同時に粘膜下の上痔核動脈の血流を遮断し内痔核の縮小をはかるものであり,利点として従来の結紮切除法に比べて手技的に容易で,術後の疼痛が軽いといわれている.しかし結紮切除法がわが国で相当数施行され完成された域にあるのに対し,PPH法の長期予後はまだ不明であり,適応についても現在施設によりさまざまである1).本稿ではコツを含めた手術手技を説明する.

Q32 内視鏡下手術用自動縫合器の使い方のコツは?

著者: 石田善敬 ,   金平永二

ページ範囲:P.378 - P.381

 近年の内視鏡下手術の進歩と普及は,内視鏡外科医の技術向上ももちろんであるが,新たな機器の開発によりもたらされたといっても過言ではない.なかでも内視鏡下手術用自動縫合器の開発は内視鏡下手術の適応を飛躍的に拡大させた.

 本稿では,内視鏡下手術におけるより安全で確実な自動縫合器の使い方について述べる.

カラーグラフ 正しい外科切除標本の取り扱い方 24

肺の切除標本の取り扱い方

著者: 吉田浩一 ,   加藤靖文 ,   柿花昌俊 ,   辻興 ,   海老原善郎 ,   加藤治文

ページ範囲:P.287 - P.293

はじめに

 ヒトゲノムの解析が完了し,ポストゲノム時代の幕開けとなった昨今であるが,分子生物学的研究の情報量は毎年飛躍的に増加している.今後,分子診断学の進展に伴って診断技術が向上し,遺伝性疾患に限らず遺伝子診断の対象となる疾患は大幅に増えてくるものと予想される.このような時代背景を踏まえ,近年では手術材料の扱い方も基本のホルマリン固定標本に加え,遺伝子解析を目的とした特別な処理法が多くなってきている.

 しかし肺の切除標本の処理を外科医が自ら行うにあたって最も重要なことは,基本のホルマリン固定が正しくできるかどうかということである.切除標本の固定が悪いものは染色性の低下を招き,また固定まで時間のかかった標本では自己融解が強く,診断に苦慮しかねない1)

 当施設では肺の手術症例の全例において外科医が切り出しまで行っており,図1に簡単なチャートとして作業の流れを示した.

 肺の標本はホルマリン固定後に割を入れ切り出した後,3次元的に血管,気管支を同定する必要がある.この作業は術前の内視鏡所見や手術所見を熟知している外科医が担当することが望ましいと思う.病理医には血管,気管支を命名したのちに手渡すのが最善である.正しい標本整理の仕方と基本的な固定法は身に付けておくべきであり,ここでは当施設で通常に行われている検体の処理を紹介する.

文学漫歩

―藤原正彦(著)―『若き数学者のアメリカ』―(1981年,新潮社 刊)

著者: 山中英治

ページ範囲:P.382 - P.382

 新聞記事で,こと政治家と医師に関しては褒める記事はまずありえず,大抵は非難の論調である.しかし日経に連載されている「医療再生」は冷静に医療問題について記載している.「3時間待ちの3分診療」と大病院を非難する前に何故そういうことになるのか,日本の医療制度上の問題点や,風邪でも大病院を受診する患者側の意識についても言及している.日経によると慶應義塾大学病院の外来患者は1日に4,500人もあり,乳腺外来は予約しても5~6時間待ちだそうだ.「過半数は地元の医院でも対応できる患者」(慶應大副院長),「大病院では軽症患者に時間を割かれ,手厚いケアの必要な重症患者に十分時間をかけられない」(都内大学病院元院長)などのコメントもあった.

 当院から神戸に転勤した先生の話では,せっかちな大阪は「診察時間は短くても良いから待たせるな」という人が多かったが,神戸のとくに高級住宅街の御婦人は「長く待っても良いから長時間のていねいな診察を」と希望する患者が多く戸惑ったそうだ.弁護士の相談料は30分5,000円とかだそうだが,医師の診察料は時間は無関係で短時間に多くの人数をこなしたほうが経営上は良い.ならば私のような単純な頭でも思いつくのは,診察に時間を要する患者の診療報酬を加算する時間割増案である.先日これを元厚生労働省の先生に述べたところ,「そんなことをすれば患者の少ないヘボ医者が雑談で延ばして保険請求する」と一笑に付された.「では自費でも良いから長く診て欲しい人からはいただくという案は」と食い下がったが,「それは自由診療となりダメです」とのこと.紹介状なしでも大病院希望の方からいただく「特定療養費」と変わらぬような気もして腑に落ちない.

目で見る外科標準術式・38

バセドウ病の手術―甲状腺亜全摘術および超亜全摘術

著者: 杉野公則

ページ範囲:P.383 - P.391

はじめに

 バセドウ病に対する手術方法は術後内服の必要のない寛解をめざす甲状腺亜全摘術1)と,再燃を確実に避ける甲状腺超亜全摘2)がある.前者は甲状腺の一部(残置量)を約4g程度残し,後者は2g以下の極少量の残置量にする方法である.前者の場合は術後再燃の危険性が残されており,後者の場合は術後再燃の可能性は非常に少ないものの,一生涯にわたる甲状腺ホルモンの内服が必要となる.

医療制度と外科診療3

医療に関する基本的事項(1)

著者: 飯田修平

ページ範囲:P.392 - P.393

医療制度の多様性

 医療提供のあり方を規定するものが医療制度であることはすでに述べた.医療のあり方に関する考え方は時代背景,状況,価値観,立場あるいは利害関係によって異なり,様々である.

 医療は社会的・文化的制約を受け,時代によって様々に変容する.近年,特に経済財政状況の影響を大きく受けている.あるべき姿を論じるだけでは実践にそぐわない.

病院めぐり

名古屋第一赤十字病院一般・消化器外科

著者: 小林陽一郎

ページ範囲:P.394 - P.394

 当院の歴史は,遠く1923(大正12)年に日本赤十字社愛知支部が貧困者救済のため開設した無料診療所に遡る.その後1937(昭和12)年に鉄筋3階建て,80床の病院が完成した.戦時中は一時軍の病院として使われたが,昭和20年に終戦とともに名古屋第一赤十字病院と改名された.外科には昭和16年に名古屋大学から田代勝洲先生が赴任されており,先生の卓越した外科手術手技,人望から多くの患者さんが集まり,2代目の病院長に就任されるや昭和30年には新病棟が増築され,さらに昭和38年には新たに癌センター病棟,中央診療棟も完成し,手術室も中央化され,麻酔科も新設された.昭和45年には8階建ての本館が完成して850床となり,現代の医療にふさわしい病院体制が完成した.

 外科の診療体制も,名古屋大学医学部第一外科教室が細分化されて胸部外科,小児外科各講座が独立したのに呼応して分化し,現在は心臓血管外科,呼吸器外科,小児外科,そして一般・消化器外科の4診療科に分かれてきている.しかしこれら4つの外科医は病院の医師定数25名の枠組みで構成され,毎週1回は全員が集合して連絡会を開催し連携を保っている.

大津市民病院外科

著者: 塩田昌明

ページ範囲:P.395 - P.395

 大津市民病院は昭和23年に23床の病院として開設され,昭和33年に診療科9科の150床を有する総合病院として生まれ変わり,増床と診療科の増設を行いつつ現在に至っている.

 本院の所在する大津市は,滋賀県南に位置する県庁所在地で比良連峰などの山々と琵琶湖に囲まれた風光明媚な人口29万あまりの近畿の中核都市である.本院の二次医療圏は隣接する医療圏の一部を含みおよそ40万人である.平成11年4月に病院の増築・改修が完了し現在23診療科,562床で「良質で,清潔で,安全な医療」を病院の理念として日々の診療を行っている.また,木津稔院長の指導の下,改築以降病院機能の整備,充実が行われ,救急集中治療棟6床,第二類感染症病棟6床,緩和ケア病棟20床,結核病棟10床,血液浄化部20床,神経難病病棟30床,回復期リハビリテーション病棟28床,その他日帰り手術部,通院化学療法室を設置し,患者のニーズに応じた機能的な医療が行われるよう努力している.さらに平成13年4月に医療安全評価部会が設置され,各病棟,各科に52名のリスクマネージャーを委嘱し,医療の安全化を目指し病院全体として取り組んでいる.

近代腹部外科の開祖:Billroth

ビルロート余滴・3

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.396 - P.397

 「1881年1月29日」が,外科学史上重要な日であることは論をまたない.この日はウィーン大学において,Billroth(図1)が世界に先駆けて成功裡に胃切除を実施し,それまで骨関節疾患や外傷を対象としていた外科学の主体を腹部内臓外科に大きく転換させた日である.Billrothの偉業をたたえて,この切除胃は現在ウィーン大学医学部医史学講座附属の医学博物館に展示されている(図2).そして,それを反映するかのようにこれまでに幾多の執筆者によってその「歴史的手術」の詳細が紹介されてきている.しかしBillrothについて語る際には避けて通ることができないことなので,Billrothが翌月(2月4日)にウィーン医事週報(Wiener Medizinische Wochenschrift)誌の編集主幹のWittelshöferに送った公開書簡に基づいて症例と手術を紹介する.

 患者は市内に住むTherese Hellerという43歳の女性であった(弟子のWölflerを介して,Billrothクリニックに紹介された患者).この婦人はこれまでに8人の子をなし,著患を知らなかったが,10月頃から食後に嘔吐するようになり,少量のミルクしか摂取できない状態でるいそうが進行していた.ときにタール便も伴っていた.診察すると,胃の輪郭に一致するように可動性の硬い腫瘤を触知しえた.このような病歴聴取と身体所見の診察から,胃の幽門部に生じた癌腫による幽門狭窄症状であることは,容易にみて取れた.

インターネット検索時代の文献整理術・3

文献データベースソフトEndNotePlusへの文献データ取り込み

著者: 讃岐美智義

ページ範囲:P.398 - P.399

 PubMedなどのデータベースからの文献情報の記録は,紙以外にフロッピィディスク,MOなどの磁気メディアにも可能である.記録が容易なだけに保存した検索結果も知らないうちに増え,結果の整理にも工夫が必要である.データベースからの検索結果をファイルに保存して自分のパソコンで閲覧するだけであれば,ワープロやエディタなどで開いてみればよいのであるが,データ量が多くなってくるとワープロやエディタでは管理が困難で,ハードディスクにデータベース形式で保存したものを取り扱うほうが便利である.

 今回はPubMedや医学中央雑誌WEBからの結果を,文献データベースソフトであるEndNotePlusに取り込む方法を解説する.検索結果を取り込むことができれば,文献データベースファイルとして管理できるだけでなく,投稿用の参考文献リストを作成するのに役立つ.

私の工夫―手術・処置・手順

DERMABONDを用いた手術創の閉鎖術

著者: 宮崎恭介

ページ範囲:P.400 - P.400

 最近,鼠径部ヘルニア修復術や乳腺および甲状腺手術,胸腔鏡下手術などの短期滞在手術では,手術創が完治する前に退院となることが多いと思われる.しかし,退院した患者が最も心配することは,自宅で手術創の処置をどうしたらいいのかという点であろう.

 DERMABOND(ジョンソン・エンド・ジョンソン社,東京)は合成皮膚表面接着剤であり,これによる創閉鎖では創部の消毒やガーゼ交換が一切不要で,患者は手術当日からシャワー浴も可能である.今回,筆者が行っているDERMABONDを用いた手術創の閉鎖術を報告する.

ここまで来た癌免疫療法・10

免疫化学療法の臨床応用と基礎的根拠

著者: 虫明寛行 ,   角田卓也 ,   田原秀晃

ページ範囲:P.401 - P.406

はじめに

 癌を拒絶する癌患者自身が有する免疫力の活性化を目的とする免疫療法と,癌を直接傷害する化学療法は,本来相容れない治療法のように考えられてきた.なぜなら,抗癌剤は“諸刃の刃”にたとえられるように,抗腫瘍効果を示す一方ですべての細胞に対して毒性を示すからである.つまり,患者の免疫担当細胞の機能も傷害し,逆に免疫監視機構を脆弱化させ,その副作用からQOLの低下をもたらす可能性もある.

 抗癌剤における第Ⅰ相臨床試験からも明らかなように,正常細胞に対する毒性(副作用)が発現する用量を見極め,その用量を下回る投与量を投与することで,正常細胞に対する毒性を少なくし,癌細胞に対する殺細胞効果を得ようとすることが臨床試験の目的であり,抗癌剤の本質から考えれば合目的的である.しかし,白血病などの血液腫瘍における化学療法の概念である“total kill theory”が,固形癌には適応しがたいことは自明の事実であるにもかかわらず,新しい抗癌剤は現在も上記の手法で臨床効果の判定,至適投与量の決定が行われていることは問題といえるであろう.先に述べたように抗癌剤の第Ⅰ相臨床試験は,グレード4の副作用が認められれば,その投与量より少ない抗癌剤の投与量を推奨投与量とするが,血液毒性および非血液毒性を指標としても,やはり正常細胞,とくに免疫担当細胞にはかなりの傷害が生じていると考えられる.

 免疫療法は本来から生体に備わる,異物(癌も含めて)を排除する機構を活性化することにより癌を治療する方法であり,患者自身の免疫能をうまく活性化させることは合理的な治療法といえよう.腫瘍免疫の分野においては,近年,画期的な発見や知見が相次ぎ,分子レベルで癌を排除する生体の免疫機構が明らかになってきた.さらにマウスにおける腫瘍免疫の基礎的実験から,ヒトでも抗腫瘍効果を発揮する免疫療法が開発されつつあり,このような科学的根拠を基盤に免疫療法と化学療法を併用した免疫化学療法が注目されている.

 本稿では主に固形癌にターゲットを絞って,これまでの免疫化学療法の歴史,基礎および臨床研究の結果をまとめ,免疫化学療法の成立根拠を科学的基礎データから検証し,今後の展望について解説する.

臨床報告 1

肺腺癌の小腸・大腸転移の1例

著者: 本田勇二 ,   河野哲夫 ,   日向理 ,   田中暢之 ,   神谷増三

ページ範囲:P.407 - P.413

はじめに

 転移性大腸癌は大腸癌の0.1~1%に認められるまれな疾患で,肺癌からの転移は肺癌剖検例では2.3%といわれている6)が,生前に認められることはまれである.今回,筆者らは肺腺癌の小腸・大腸転移の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

外傷性骨盤骨折,直腸穿孔に対しdamage control surgeryとinterventional radiologyを施行し救命し得た1例

著者: 小山基 ,   渡部修一 ,   稲葉行男 ,   林健一 ,   柘植通 ,   神尾幸則 ,   千葉昌和 ,   螻真弘

ページ範囲:P.415 - P.418

はじめに

 重度外傷の新しい治療戦略であるdamage control surgery(以下,DCS)は,患者の生理学的安定度を維持するために外科的操作を意図的に最小限に抑え,全身状態の改善を図ったのち改めて最終的な外科的操作を加えるものである1).今回筆者らは,大量出血を伴う外傷性骨盤骨折,直腸穿孔に対しDCSとinterventional radiology(IVR)にて救命し得た1例を経験したので報告する.

ラジオガイド下γプローブと術中迅速intact PTH測定が有用であった腎性副甲状腺機能亢進症再発症例の1例

著者: 高山純一 ,   高見博 ,   池田佳史 ,   佐々木裕三 ,   古井滋 ,   神長達郎

ページ範囲:P.419 - P.423

はじめに

 近年,副甲状腺機能亢進症に対する低侵襲性副甲状腺摘出術が行われつつある1~3).本術式の手術成績の向上には,術中99mTc-sesta MIBI(sesta MIBI)ガイド下γプローブによる腫瘤の検索と術中迅速intact PTH測定が有用である1~3).筆者らは腎性副甲状腺機能亢進症の再発症例に対して,γプローブと迅速intact parathyroid hormone測定キットを用いて,低侵襲かつ確実に副甲状腺摘出術を施行しえた1例を経験したので報告する.

術中内視鏡が有効であった小腸出血の1例

著者: 平沼知加志 ,   原拓央 ,   大和太郎 ,   平野勝康 ,   高橋英雄 ,   魚津幸蔵 ,   長谷川洋 ,   前田宜延

ページ範囲:P.425 - P.428

はじめに

 小腸出血はまれな病態であり,その診断,治療に苦慮することが多い.今回筆者らは,胃癌手術後に発症した小腸出血に対して緊急手術を施行した.その際,術中内視鏡が有効であった症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

上腸間膜静脈瘤の一切除例

著者: 石川智啓 ,   욖英洙 ,   斉藤裕 ,   野沢寛 ,   北川清秀 ,   川森康博

ページ範囲:P.429 - P.433

はじめに

 上腸間膜静脈瘤はまれな疾患である1~9).今回筆者らは経過観察されていた拡大する上腸間膜静脈瘤に対する切除術を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

持続する尿溢流から胸水貯留をきたしたと思われる胸・腹部外傷の1例

著者: 箱田滋 ,   尾田聖子 ,   津田雅庸 ,   矢吹輝 ,   北澤康秀

ページ範囲:P.435 - P.438

はじめに

 今回筆者らは,持続する尿溢流から胸水貯留をきたしたと考えられた胸・腹部外傷の1例を経験したので報告する.

臨床報告 2

誤飲した義歯が直腸で穿孔した1例

著者: 大谷眞二 ,   野坂仁愛 ,   若月俊郎 ,   竹林正孝 ,   鎌迫陽 ,   谷田理

ページ範囲:P.440 - P.441

はじめに

 誤飲した異物は多くの場合は自然排泄されるが,まれに消化管穿孔を起こすことがある1~3).今回,誤飲した義歯が直腸まで到達した後に穿孔し,腹膜炎を呈した手術症例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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