文献詳細
文献概要
近代腹部外科の開祖:Billroth
ビルロート余滴・3
著者: 佐藤裕12
所属機関: 1北九州市立若松病院外科 2日本医史学会
ページ範囲:P.396 - P.397
文献購入ページに移動 「1881年1月29日」が,外科学史上重要な日であることは論をまたない.この日はウィーン大学において,Billroth(図1)が世界に先駆けて成功裡に胃切除を実施し,それまで骨関節疾患や外傷を対象としていた外科学の主体を腹部内臓外科に大きく転換させた日である.Billrothの偉業をたたえて,この切除胃は現在ウィーン大学医学部医史学講座附属の医学博物館に展示されている(図2).そして,それを反映するかのようにこれまでに幾多の執筆者によってその「歴史的手術」の詳細が紹介されてきている.しかしBillrothについて語る際には避けて通ることができないことなので,Billrothが翌月(2月4日)にウィーン医事週報(Wiener Medizinische Wochenschrift)誌の編集主幹のWittelshöferに送った公開書簡に基づいて症例と手術を紹介する.
患者は市内に住むTherese Hellerという43歳の女性であった(弟子のWölflerを介して,Billrothクリニックに紹介された患者).この婦人はこれまでに8人の子をなし,著患を知らなかったが,10月頃から食後に嘔吐するようになり,少量のミルクしか摂取できない状態でるいそうが進行していた.ときにタール便も伴っていた.診察すると,胃の輪郭に一致するように可動性の硬い腫瘤を触知しえた.このような病歴聴取と身体所見の診察から,胃の幽門部に生じた癌腫による幽門狭窄症状であることは,容易にみて取れた.
患者は市内に住むTherese Hellerという43歳の女性であった(弟子のWölflerを介して,Billrothクリニックに紹介された患者).この婦人はこれまでに8人の子をなし,著患を知らなかったが,10月頃から食後に嘔吐するようになり,少量のミルクしか摂取できない状態でるいそうが進行していた.ときにタール便も伴っていた.診察すると,胃の輪郭に一致するように可動性の硬い腫瘤を触知しえた.このような病歴聴取と身体所見の診察から,胃の幽門部に生じた癌腫による幽門狭窄症状であることは,容易にみて取れた.
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