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ここまで来た癌免疫療法・10
免疫化学療法の臨床応用と基礎的根拠
著者: 虫明寛行1 角田卓也1 田原秀晃1
所属機関: 1東京大学医科学研究所先端医療研究センター外科・臓器細胞工学分野
ページ範囲:P.401 - P.406
文献購入ページに移動癌を拒絶する癌患者自身が有する免疫力の活性化を目的とする免疫療法と,癌を直接傷害する化学療法は,本来相容れない治療法のように考えられてきた.なぜなら,抗癌剤は“諸刃の刃”にたとえられるように,抗腫瘍効果を示す一方ですべての細胞に対して毒性を示すからである.つまり,患者の免疫担当細胞の機能も傷害し,逆に免疫監視機構を脆弱化させ,その副作用からQOLの低下をもたらす可能性もある.
抗癌剤における第Ⅰ相臨床試験からも明らかなように,正常細胞に対する毒性(副作用)が発現する用量を見極め,その用量を下回る投与量を投与することで,正常細胞に対する毒性を少なくし,癌細胞に対する殺細胞効果を得ようとすることが臨床試験の目的であり,抗癌剤の本質から考えれば合目的的である.しかし,白血病などの血液腫瘍における化学療法の概念である“total kill theory”が,固形癌には適応しがたいことは自明の事実であるにもかかわらず,新しい抗癌剤は現在も上記の手法で臨床効果の判定,至適投与量の決定が行われていることは問題といえるであろう.先に述べたように抗癌剤の第Ⅰ相臨床試験は,グレード4の副作用が認められれば,その投与量より少ない抗癌剤の投与量を推奨投与量とするが,血液毒性および非血液毒性を指標としても,やはり正常細胞,とくに免疫担当細胞にはかなりの傷害が生じていると考えられる.
免疫療法は本来から生体に備わる,異物(癌も含めて)を排除する機構を活性化することにより癌を治療する方法であり,患者自身の免疫能をうまく活性化させることは合理的な治療法といえよう.腫瘍免疫の分野においては,近年,画期的な発見や知見が相次ぎ,分子レベルで癌を排除する生体の免疫機構が明らかになってきた.さらにマウスにおける腫瘍免疫の基礎的実験から,ヒトでも抗腫瘍効果を発揮する免疫療法が開発されつつあり,このような科学的根拠を基盤に免疫療法と化学療法を併用した免疫化学療法が注目されている.
本稿では主に固形癌にターゲットを絞って,これまでの免疫化学療法の歴史,基礎および臨床研究の結果をまとめ,免疫化学療法の成立根拠を科学的基礎データから検証し,今後の展望について解説する.
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