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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科58巻4号

2003年04月発行

雑誌目次

特集 腹腔鏡下大腸切除術のコツ

腹腔鏡下大腸切除術に必要な解剖学の知識

著者: 北野正剛 ,   猪股雅史 ,   白石憲男

ページ範囲:P.457 - P.460

 腹腔鏡下大腸切除術を安全に施行し,その長所である低侵襲性を十分に引き出すためには従来の開腹手術における解剖を理解するだけでなく,腹腔鏡下の外科解剖と腹腔鏡下手術の視野や手技の特殊性を熟知しておく必要がある.また各アプローチ法の正確な剝離層を理解し,各術式における剝離や切離のランドマークを決め,視野展開の工夫をすることにより腹腔鏡下大腸切除術は開腹手術以上の良好な視野で安全に施行可能となりえる.

腹腔鏡下大腸切除に用いる器具・器材

著者: 渡邊昌彦 ,   長谷川博俊 ,   西堀英樹 ,   石井良幸 ,   北島政樹

ページ範囲:P.461 - P.463

 腹腔鏡下大腸切除の原則は剝離・授動と血管処理であり,基本的には腸管や膜を愛護的かつ確実に把持・挙上できる鉗子を選択することが重要である.また術式の各場面においてどの器具をどのトロッカーから導入し,術者と助手がどのようにそれらを扱うかについてあらかじめ打ち合わせてこそ手術の標準化が可能となる.また使用器材の取り扱いのノウハウを熟知して安全な手術がはじめて施行できる.各施設で術式に応じた器具・器材を選択し,使用法を外科医と介助者が十分に打ち合わせて詳細なマニュアルを作成することが望まれる.場当たり的に器具・器材を用意させることは手術の安全性を損なうため厳に慎むべき行為だからである.

腹腔鏡下大腸切除術の適応とその根拠

著者: 河村裕 ,   小西文雄

ページ範囲:P.465 - P.469

 腹腔鏡下大腸手術が初めて報告されてから10年あまりが経過し,徐々にその適応が明らかになりつつある.良性疾患(クローン病,潰瘍性大腸炎,大腸憩室症,腺腫など)に関しては一部の症例を除き腹腔鏡手術の可能性を考慮する.大腸癌に関してはrandomized controlled trialの結果が報告されつつあり,腹腔鏡手術を受けた群の長期成績は開腹群よりもよい傾向にあるとの報告もある.腹腔鏡下大腸手術の適応は遠隔成績を検討しつつ決定していく必要がある.

腹腔鏡下右側結腸切除術のコツ

著者: 岡島正純 ,   有田道典 ,   池田聡 ,   惠木浩之 ,   吉満政義 ,   浅原利正

ページ範囲:P.472 - P.476

 右側結腸に対する腹腔鏡手術のコツはできるだけ素早く後腹膜下筋膜前面を露出し,安全に結腸を授動すること,また特に癌では主幹血管周囲リンパ節郭清を確実にていねいに行うことである.内側アプローチは血管周囲リンパ節郭清を良い視野で行うアプローチ法として非常に優れている.筆者らは内側アプローチの欠点のひとつである結腸剝離・授動の困難性と十二指腸の副損傷の危険性を軽減する目的で十二指腸前面の腹膜を切開し,ここから後腹膜剝離を先行する“内側アプローチ変法”を行っている.Surgical trunk前面のリンパ節郭清のコツは血管の損傷をきたさぬよう,ていねいに剝離しながら,慎重に操作することに尽きる.ドライラボなどで十分にトレーニングし,手技に慣れないうちはhand-assisted laparoscopic surgery(HALS)の併用や開腹手術へのconversionを常に念頭において手術すべきである.

腹腔鏡下横行結腸切除術のコツ

著者: 市原隆夫 ,   高田壮豊 ,   福本聡 ,   大野伯和 ,   黒田嘉和

ページ範囲:P.477 - P.482

 開腹手術では特に意識する必要のなかった手技でも,腹腔鏡下手術では視野展開の鍵になる操作や,重大なpitfallの入り口となる手技がある.本稿では以前より当科で行っている工夫を中心に腹腔鏡下横行結腸切除術の手術手技を供覧した.当科では横行結腸および間膜を旋回することで視野展開の方向を変化させ,腹腔鏡の二次元画像で最も安全な動脈壁と軟部組織の境界を常に前方からの視野で捉えてその間に進入し,両者間を広げて,動脈壁の全周を剝離するように操作している.これにより安全なリンパ節郭清が可能である.またLigaSure Atlas(R)(タイコ ヘルスケア ジャパン製)は手術時間の短縮に効果的であった.

脾曲部,下行結腸癌に対する腹腔鏡下手術のコツ

著者: 福永正氣 ,   木所昭夫 ,   射場敏明 ,   杉山和義 ,   福永哲 ,   布施暁一 ,   相原信好 ,   永仮邦彦 ,   須田健 ,   吉川征一郎 ,   小笠原智子

ページ範囲:P.483 - P.490

 大腸癌に対する腹腔鏡下大腸切除術のなかで横行結腸左側から下行結腸にかけては適切な術野の展開をした上で繊細な郭清操作と脾曲部の広汎な剝離・脱転操作,上腸間膜動脈系と下腸間膜動脈系の精緻な郭清操作が必要となり,高度な手技が要求される.このため適応には施設間で格差があるのが現状であり,手技的に習熟してから適応すべきである.筆者らは進行癌に対し適応し,D3リンパ節郭清を行っているが,特にこの部位では腹腔鏡手術の長所,短所を理解した上でその特性を活かした手技が必要で,その要点とコツを概説した.

内側アプローチで行う腹腔鏡補助下S状結腸切除術のコツ

著者: 山口茂樹 ,   森田浩文 ,   長田俊一 ,   石井正之

ページ範囲:P.491 - P.495

 内側アプローチは主要血管根部処理を先行,結腸間膜を内側から外側に剝離し,最後に結腸外側の腸管固定をはずす方法であり,no touch isolationの概念に基づき,授動した結腸が終盤まで一定の位置に保たれ,オリエンテーションがつきやすいという利点がある.S状結腸切除術でのポイントは,1)下腸間膜動脈を把持し十分牽引する,2)下腸間膜動脈根部は右側から露出,血管切離,左腰内臓神経からの分枝切離の順で行う,3)下腸間膜静脈,左結腸動脈は最小限の切除でよい,4)結腸間膜授動は主に鈍的操作でsubperitoneal fasciaを背側に落としながら十分行い,その後外側からwhite lineを切離する,4)肛門側結腸間膜切離時に腸管切離位置との関係を十分確認する,5)腸管切離は自動縫合器1回操作で完了するよう心がける,などである.

腹腔鏡補助下前方切除術のコツ

著者: 朴成進 ,   小嶋一幸 ,   植竹宏之 ,   樋口哲朗 ,   榎本雅之 ,   杉原健一

ページ範囲:P.497 - P.502

 腹腔鏡補助下大腸切除術は日本では内視鏡的手術と開腹手術の間を埋める手技として位置づけられていた.しかし現在では進行癌にまで適応が広がっており,着実に定着しつつある.また根治性についての報告も近年相当数のものがあり,5年生存率も開腹術と同等であることが報告されている.今後腹腔鏡補助下大腸切除術は大腸癌に対する標準的な手術となっていくことは確実である.手技に関しては部位によって手術難度に幅があり,なかでも骨盤内での操作が特に重要となる直腸前方切除術は技術,機器のさらなる進歩の余地を残している.本稿では,筆者らの経験をもとにその手技についてできるだけ詳しく,具体的にそのポイントを述べる.

腹腔鏡下結腸肛門吻合術のコツ

著者: 奥田準二 ,   豊田昌夫 ,   谷川允彦

ページ範囲:P.503 - P.511

 直腸癌に対する腹腔鏡下結腸肛門吻合術には,腹腔鏡下低位前方切除術で肛門側腸管切離部位が肛門管直上となり,結腸肛門管吻合を行う場合と,腹腔鏡下超低位直腸切除術で肛門側からのアプローチを併用してさらに低位の歯状線上で肛門側腸管を切離して結腸肛門吻合を行う場合がある.適応症例に応じて腹腔鏡下手術の利点を活かした合理的な手技を用いることで,自律神経・肛門機能を温存しつつ,より低位での的確な直腸切除と安全確実な結腸肛門吻合が低侵襲下に可能となる.

腹腔鏡補助下大腸亜全摘・回腸囊肛門管吻合術のコツ―特に潰瘍性大腸炎に対して

著者: 大谷剛正 ,   中村隆俊 ,   根本一彦 ,   佐藤武郎 ,   國場幸均 ,   井原厚 ,   柿田章

ページ範囲:P.513 - P.518

 腹腔鏡補助下大腸亜全摘・回腸囊肛門管吻合術特に潰瘍性大腸炎に対する手術について検討を行った.現在まで腹腔鏡補助下大腸亜全摘・回腸囊肛門管吻合術25例,開腹手術27例を経験した.手術時間は腹腔鏡下354分,開腹277分,出血量は腹腔鏡下205ml,開腹285ml,経口摂取開始日は腹腔鏡下12.9日,開腹15.1日,経口開始から退院までの期間は腹腔鏡下19.0日,開腹21.7日,退院時排便回数は腹腔鏡下10.0行,開腹8.5行であった.腹腔鏡下IACAは開腹手術と比較して問題点はなく,美容上の観点や手術侵襲面からも今後の発展が期待される手術である.

カラーグラフ 正しい外科切除標本の取り扱い方 25(最終回)

肺の切除標本の取り扱い方

著者: 佐藤之俊 ,   奥村栄 ,   中川健 ,   石川雄一

ページ範囲:P.449 - P.455

はじめに

 肺においても,他の臓器と同様に切除標本が正しく取り扱われ,正確な病理診断が記録,保存,報告されることは,とくに肺癌の術後病期の決定,抗癌剤投与や放射線照射などの適応を含めた治療方針の決定,癌の病態の把握・解明,分子生物学的解析などの面からきわめて重要である.また,各施設に共通した取り扱い方法によって切除肺が処理されることは,相互の情報比較,癌の病態解明を可能にするものである.本稿では,主として肺癌に対し手術によって切除された肺,リンパ節,合併切除臓器などの取り扱い法,その記録の記載法,病理所見の記載法などについて当科における手法を中心に述べる.さらに「肺癌取扱い規約」に基づいた記載法についても言及したい1)

目で見る外科標準術式・39

甲状腺分化癌に対する気管・喉頭合併切除

著者: 中尾量保 ,   仲原正明 ,   黒住和史

ページ範囲:P.519 - P.525

はじめに

 甲状腺分化癌の予後は良好であり,10年生存率は平均的に90%を越える.しかし,中には局所浸潤性の強い癌があり,その多くは低分化癌である.また,甲状腺は解剖学的に生命に直接影響を及ぼす気管,頸動脈などの重要臓器と接しているので,それらの臓器に癌が進展した時に対処の仕方が問題となる.甲状腺分化癌の場合には生物学的にも進展が遅く予後が良好であること,もう一つには手術以外の化学療法や放射線療法などの有効性が示されていないという理由で,局所根治性が得られる限りにおいて浸潤臓器を合併切除することはQOL,予後が改善されるので手術適応と考えられる1)

医療制度と外科診療4

医療に関する基本的事項(2)―医療の特殊性

著者: 飯田修平

ページ範囲:P.526 - P.527

 医療に関する基本的事項に関する設問

 世間では医療をどのように捉えているのだろうか.同一人物でも時により立場が変わる.立場により考え方が異なる.しかし,理由は異なるにせよ,あらゆる立場の人が“医療は特殊である”という.

 今回は“医療は特殊である”を命題に検証する.

 今までに筆者が講演や研修会で行った,「医療に関する基本的事項に関する設問」(前回呈示)に対する回答を参考にして解釈を加える.

近代腹部外科の開祖:Billroth

ビルロート余滴・4

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.528 - P.529

 Mikuliczらが追跡調査した4月10日の時点では順調に回復していたかにみえたが,4月下旬頃から容態が悪くなり,次第に再発の徴候が明らかとなった.そして,再び病床に伏すようになり,5月24日に死亡するに至った.その際,Billrothは患家においていわゆる「necropsy」を行い,世界初の胃癌切除手術(幽門切除:pylorectomy)の成否(吻合部の状況,感染の有無など)を検証した(ただし,ウィーン大学にはこの症例の正式な剖検記録は残っていないという).

 そして,この際に摘出された残胃標本が1月に摘出された「幽門癌」とともに,Billrothの偉業をたたえて医学博物館(図1)に展示され,衆目を集めている.この際,剖検で得られた残胃標本(図2)については,これまでにいろいろと成書に紹介されてきているが,“非の打ち所のない完璧な吻合”がなされているのはよく知られている.手術時にはすでにかなりの進行癌であったため,術後4か月ほどで再発死したのであるが,胃癌に対する胃切除手術としては成功であったと評価されている.

私の工夫―手術・処置・手順

直腸前方切除術後縫合不全に対するドレーンの工夫

著者: 河原秀次郎 ,   牛込琢郎 ,   良元和久 ,   柏木秀幸 ,   平井勝也

ページ範囲:P.530 - P.531

 低位前方切除術などの大腸切除術において縫合不全が生じた場合は,一時的なストーマの造設を余儀なくされる症例を経験する.たとえ縫合不全が改善されても,再々手術によりストーマ閉鎖術が必要であったり,患者の精神的肉体的負担は計り知れない.筆者らはドレーンを工夫することで,縫合不全部のドレナージと洗浄を行い,ストーマ造設術を回避してきたのでそのドレーンを紹介する.

ドレーンの作製法と操作法

1.ドレーンの作製法

 ペンローズドレーンNo.12(R)を用い,その内腔に14Frネラトンチューブを挿入する(図1).ドレーンの先端を腸管吻合部近傍に留置し,ドレーンを腹壁と最短距離に直線化できるように腹壁を貫いて固定する(図2).ネラトンチューブがペンローズドレーンより4cmほど長くなるようにドレーンをカットする(図3).

病院めぐり

医仁会武田総合病院外科

著者: 加藤仁司

ページ範囲:P.532 - P.532

 医仁会武田総合病院は,1976(昭和51)年に開設されました.京都市内の南東に位置する伏見区にあります.近くには秀吉が晩年に花見を行った醍醐寺があり,また万葉集にうたわれた“石田の森”とは50mの距離です.病床数は500で,21の診療科,27の専門外来をおき,医師数83名の病院です.1日の外来患者数は平均1,350人です.臨床研修指定,臓器提供病院の指定,日本医療機能評価機構認定も受けています.

 外科スタッフは5名で京大外科および関西医大外科から派遣されています.他に,常時1名の非常勤医師が京大外科より派遣されています.

松阪中央病院外科

著者: 松本英一

ページ範囲:P.533 - P.533

 松阪市は三重県中央部に位置し,1588年蒲生氏郷により開かれた城下町で,江戸時代に伊勢の玄関口,商人の町として栄えました.旧市街は古い町並みが残り,郊外は田園と堀坂山の風景がとても美しいところです.松阪城跡地では毎年桜が満開となり,医局の花見は例年ここで行います.また,松阪といえば明治よりこの地域周辺では松阪牛の肥育が行われており,高級ブランド肉として有名です.残念ながら,私の口にはあまり入ることがありません.

 当院は昭和36年,三重県厚生連にて松阪市街北部に設立,一般132床,結核80床,合計212床にて開院し,昭和45年,53年,56年に増床して,489床となりました.現病院は平成9年4月に市郊外へ移転,一般440床(外科56床),全17診療科で地域の中核病院となっています.

文学漫歩

―山際淳司(著)―山際淳司(著)『江夏の21球』―(1980年,文藝春秋社 刊)

著者: 山中英治

ページ範囲:P.534 - P.534

 手術中に予期せず太い静脈が裂ける.血の海の中で圧迫する.しばらくして押さえた指を緩めると,またドッと出血する.背後から術野を覗いていた教授が廊下に出た.血管外科で修練した若い医師に電話をしているようだ.こんな夢でうなされた経験がある.この状況下で術者は2つのタイプに分かれる.「ここで代えられてたまるか,俺に任せてくれ」という負けず嫌いと,「助かった,ありがたい」と安堵する者で,もちろん弱気な私は後者である.

 1979年11月4日.プロ野球日本シリーズ近鉄対広島最終戦9回裏,1点をリードされた近鉄の攻撃.マウンドにはリリーフエースの江夏豊.先頭打者羽田がヒット,代走藤瀬.打者アーノルドの時に盗塁,悪送球と四球で無死1,3塁.アーノルドの代走吹石の盗塁と敬遠で無死満塁.大ピンチで江夏の気持ちを乱したのはベンチの動きだった.監督は若い投手をブルペンに向かわせた.江夏は「俺はまだ完全に信頼されてるわけじゃないのか」と思う.江夏の感情を鎮めたのは,この時マウンドに駆け寄った一塁手衣笠の「俺もお前と同じ気持ちだ,ベンチやブルペンのことなんて気にするな」という言葉だった.集中力が戻った江夏は佐々木を三振に取る.そして次の石渡が今でも信じられないというスクイズを外して藤瀬がアウト.石渡も三振に仕留めた江夏は胴上げされた後,ベンチに戻り涙を流す.

インターネット検索時代の文献整理術・4

投稿用参考文献リストの自動作成(1)

著者: 讃岐美智義

ページ範囲:P.535 - P.538

 EndNoteを文献データベースとして活用する最大の利点は,投稿時の参考文献リストを自動作成できることである.しかも,各医学雑誌の投稿規定にあわせた詳細な設定ができるため,投稿雑誌により微妙に異なる参考文献リスト作成に威力を発揮する.また,英文の有名雑誌の文献リスト形式(参考文献スタイル)は,はじめからEndNoteに登録されているので,設定を自分で作成する必要がないのも魅力である.

 自動作成といっても下準備が必要で,はじめに参考文献スタイルを選択する必要がある.登録されていない場合には,よく似た形式のものを元に多少の変更が必要である.今回は,自動作成の準備として参考文献スタイル形式とスタイル選択・変更の方法について解説する.

ここまで来た癌免疫療法・11

―臨床の場で今後の進展が期待される免疫療法―新規細胞療法

著者: 角田卓也 ,   田原秀晃

ページ範囲:P.539 - P.542

はじめに

 細胞療法(cell therapy)の範疇で抗腫瘍効果を有するリンパ球をex vivoで培養し,移入する養子免疫療法(adoptive immunotherapy:AIT)において,最近,米国の二つのグループから今後の展開を期待させる報告があった.

 一つは,Fred Hutchinson Cancer Research Center(Seattle)のPhilip Greenbergらのグループ1)からで,もう一つはNational Cancer Institute(NCI)のSteven Rosenbergらのグループ2)からである.Greenbergらのグループは末梢血単核球をエピトープペプチドで刺激し,細胞傷害性T細胞(CTL)クローンを樹立して移入する方法で,Rosenbergらのグループは抗癌剤で前治療した患者に腫瘍浸潤リンパ球(tumor-infiltrating lymphocyte:TIL)を移入する方法である.

 注目に値する点は,臨床効果があった事実のみならず,これまでのAITの問題点を克服していることである.すなわち,①CTLであれTILであれ,移入細胞の抗原特異性を維持した大量培養法を確立できた,②移入細胞が癌患者の生体内で生存し増殖することに成功した,③移入細胞を腫瘍局所にtraffickingさせることに成功した,④癌患者内で抗腫瘍効果に対する抑制系を解除できたことであり,AITの新展開を方向づける研究であり,今後注目に値する治療法であるといえる.

臨床研究

急性閉塞性胆囊炎の臨床病理所見からみた治療上の問題点

著者: 上田順彦 ,   礒部芳彰 ,   根塚秀昭 ,   山本精一 ,   吉光裕

ページ範囲:P.543 - P.547

はじめに

 急性胆囊炎は日常診療でしばしば遭遇する腹部救急疾患である.しかしながら治療法の選択や手術時期に関してコンセンサスが得られていない点も多い1,2).今回,結石嵌頓による急性閉塞性胆囊炎の治療上の問題点を明らかにすることを目的として,摘出胆囊の病理組織所見を壊死の深さにより分類し,臨床所見を検討したので報告する.

臨床報告 1

TS-1,15クール投与後胃全摘を施行したAFP産生胃癌多発肝転移症例

著者: 岡崎誠 ,   山村順 ,   篠崎幸司 ,   川崎靖仁 ,   大鶴実 ,   仙波秀峰

ページ範囲:P.549 - P.552

はじめに

 AFP産生胃癌は一般的に生物学的悪性度が高く,高率に肝転移を生じやすく,生命予後は悪いとされている1)

 今回,筆者らは多発肝転移を伴ったAFP産生噴門部胃癌に対しTS-1を15クール投与後胃全摘を施行し,治療開始24か月後健在な症例を経験したので報告する.

肝原発腺扁平上皮癌の1切除例

著者: 石川忠則 ,   堀見忠司 ,   志摩泰生 ,   岡林孝弘 ,   西岡豊 ,   岩田純

ページ範囲:P.553 - P.556

はじめに

 肝原発腺扁平上皮癌は一般に肝内胆管癌の稀な特殊型とされる1).今回,筆者らは腹痛,発熱を契機に発見され,術中転移リンパ節の迅速病理診断にて扁平上皮癌と診断され,術後の組織学的検討にて腺扁平上皮癌と診断された1切除例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

下肢動脈再建術後健側肢に生じたblue toe syndromeの2例

著者: 市場隆 ,   竹本直明

ページ範囲:P.557 - P.560

はじめに

 動脈内粥腫が下肢に散乱することによって生じるblue toe syndrome1,2)は激しい疼痛と足趾の壊死をきたし,切断を余儀なくされる場合も多い.今回,筆者らは下肢血行再建術後,健側肢にのみblue toe syndromeを生じたが,薬物療法または植皮術にて足部切断を回避できた貴重な2症例を経験したので報告する.

急性膵炎をきたした小児石灰乳胆汁の1例

著者: 枝園忠彦 ,   水田稔 ,   宇高徹総 ,   前田宏也 ,   白川和豊 ,   大屋崇

ページ範囲:P.561 - P.564

はじめに

 石灰乳胆汁は比較的稀な疾患であり,なかでも小児症例の報告は数少ない1,8).そして,その治療方針はいまだ確定的ではない.今回,筆者らは治療に大変難渋し,急性膵炎をきたした小児石灰乳胆汁の症例を経験したので報告する.

後腹膜鏡補助下に摘出した成人後腹膜成熟型奇形腫の1例

著者: 青竹利治 ,   松村光誉司 ,   天谷博一 ,   打波大 ,   堀内哲也 ,   田中國義

ページ範囲:P.565 - P.569

はじめに

 成人の後腹膜成熟型奇形腫は比較的稀な疾患である1).今回,筆者らは後腹膜鏡を補助として後腹膜アプローチにより切除しえた後腹膜奇形腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

腸重積を呈した超高齢者多発大腸癌の1切除例

著者: 石沢武彰 ,   山本哲久 ,   坂口正高 ,   高倉裕一 ,   橋本直明 ,   関川敬義

ページ範囲:P.571 - P.574

はじめに

 成人の腸重積は比較的稀な疾患であり,大腸癌に伴うものはその10~20%とさらに少ない1,2).今回,筆者らは大腸の多発癌に合併した腸重積に対し超高齢ながらも一期的に切除,吻合しえた1例を報告する.

Spigelヘルニアの1例

著者: 東崇明 ,   毛利智美 ,   久保宏幸 ,   三木誓雄

ページ範囲:P.575 - P.578

はじめに

 腹横筋線維が腱膜に移行する半月状線と腹直筋外縁との間をSpigel腱膜と呼び,ここから発生するヘルニアをSpigelヘルニアと言っている1).今回,筆者らは腹部CTにて術前診断しえたSpigelヘルニアの1例を経験したので報告する.

乳癌小腸転移の1切除例

著者: 中辻直之 ,   杉原誠一 ,   堀川雅人 ,   高山智燮 ,   玉置英俊 ,   丸山博司

ページ範囲:P.579 - P.583

はじめに

 乳癌の臓器転移は多臓器に及ぶが,小腸への転移は稀である1).今回,筆者らは乳癌手術後3年目に小腸に転移を認めた1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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