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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科58巻5号

2003年05月発行

雑誌目次

特集 栄養療法とformula

エディトーリアル―栄養療法の現状

著者: 畠山勝義

ページ範囲:P.601 - P.605

はじめに

 栄養療法には静脈栄養法(parenteral nutrition:PN)と経腸栄養法(enteral nutrition:EN)がある.前者の静脈栄養法は中心静脈を介して栄養輸液を行う完全静脈栄養法(total parenteral nutrition:TPN,または中心静脈栄養法intravenous hyperalimentation:IVH)と,末梢静脈を介して栄養輸液を行う末梢静脈栄養法(peripheral parenteral nutrition:PPN)とに分類される.一方,経腸栄養法は経腸栄養剤を経口的に投与する経口法と,チューブを介して投与する経管法(チューブ栄養法)とに分類される.TPN,PPN,ENなどに関しては項を別に詳しく解説されているので,ここでは栄養法の現状の総論的なことについて述べる.

必要栄養素のformula

著者: 井上善文

ページ範囲:P.607 - P.612

 必要栄養素のformulaを決定する場合,エネルギー必要量をまず計算し,脂肪・タンパク質必要量から糖質必要量を計算する.基本的には基礎代謝量に生活活動強度指数を乗じてエネルギー必要量を求め,脂肪エネルギー量をNPCの20~25%に設定し,タンパク質所要量を〔0.67g/kg×体重(kg)×日常摂取タンパク質の消化吸収率(100/90)×個人間変動係数(1.3)〕の式で計算して,残りを糖質から補うとして計算する.経腸栄養法,静脈栄養法におけるビタミン,微量元素投与量に関しては,各種製剤における含有量を十分に計算して投与することが重要である.とくに経腸栄養剤では,投与エネルギー量が少ないと欠乏症が発生する可能性がある.

栄養アセスメントのformula

著者: 橋口陽二郎 ,   深柄和彦 ,   望月英隆

ページ範囲:P.613 - P.618

 外科領域における栄養アセスメントの目的は,手術リスクの評価と術前栄養療法の適応決定,および周術期の栄養管理における必要な投与エネルギー,栄養素の構成の算定,その効果の評価である.評価法には,病歴,身体所見,人類学的計測,生化学検査,免疫機能検査,間接熱量測定などがある.経口摂取の低下と1か月間に5%以上の体重減少,血清アルブミン値(3.0g/dl以下),リンパ球数1,000/mm3以下などを手術リスクとして重視する.栄養アセスメントは,すべての術前患者に一律にもれなく施行されることが重要であり,クリニカルパス作成などの際に,看護師,栄養士と協力して行われるように配慮していくことが望まれる.

中心静脈栄養法(TPN)のformula

著者: 東口髙志 ,   五嶋博道 ,   根本明喜 ,   池田剛 ,   山口由美 ,   大川光 ,   中井りつ子

ページ範囲:P.619 - P.627

 中心静脈栄養法(total parenteral nutrition:TPN)は,どのような症例に対しても施行可能で,経口・経腸栄養に比べて水分やカロリーの出納が明確であるため選択しやすい栄養管理法である.しかし,TPNに頼るあまり不用意に長期絶食を強いると,消化吸収能や腸管由来の免疫能の低下のほか,カテーテル敗血症などの致死的な感染症を惹起することがあり,その適応は慎重に判定されなければならない.

 そこで本稿では,TPNのformulaを輸液剤の組成・内容だけでなく,TPN施行の適応や標準的な輸液剤の選択方法,さらに実際の管理方法についても概説する.

末梢静脈栄養法(PPN)のformula

著者: 岡村健二

ページ範囲:P.629 - P.633

 末梢静脈栄養輸液(PPN)の定義はなく,従来は「末梢静脈からの可及的高カロリー投与法」とよばれていた.PPNの臨床実地上もっとも困難なことは,比較的大量のカロリーを投与し,しかも静脈炎の発生を抑えるという矛盾した問題をいかに扱うかである.筆者は欧米におけるPPNの現状を参考にして,本邦で実施可能なPPNとして,末梢静脈「中カロリー輸液」を提唱してきた.中カロリー輸液の目的は,経口摂取不能で栄養状態の比較的良好な患者に1~2週間程度の栄養管理を行い,その栄養状態を維持することにある.

 以上の点を考慮すると中カロリー輸液の組成は,1日量としてNPC 1,000~1,200kcal,脂肪量1.0~1.5g/kg,窒素量8~10g,総液量2,500ml前後である.

経腸栄養法の有用性と経腸栄養剤の特徴

著者: 田代亜彦 ,   佐野渉 ,   山森秀夫

ページ範囲:P.635 - P.641

 経腸栄養法は静脈栄養法に比べて安全であり,廉価に施行できるなどの利便性に優れているばかりでなく,種々の生体反応からもメリットが大きい.すなわち,侵襲反応が少ない,免疫低下を予防できる,translocationを防ぐなど,今はimmunonutritionの一部と考えられている.また経腸栄養剤は多くの企業が参入して,消化態から濃厚流動食まで,薬剤扱いや食品扱い,また機能性栄養剤を含むものまで消化吸収能や病態に応じた製剤が用意されている.市場に出ている少なからざる種類の経腸栄養剤の中から現場で適切に選択するために,その特徴と選択基準を概説した.

在宅栄養療法のformula

著者: 高木洋治

ページ範囲:P.643 - P.650

 介護保険の導入,高齢化,診療報酬の改定などにより,在宅医療の推進が図られているなか,栄養療法でも在宅中心静脈栄養法(home parenteral nutrition:HPN)と在宅経腸栄養法(在宅成分栄養経管栄養法)(home enteral nutrition:HEN)により,患者の家庭・社会復帰,患者・家族のquality of life(QOL)の向上,医療費の節減が可能となった.よい結果を得るには正しい指導と管理が重要で,それにはformulaが必要となる.ここではHPN,HENについてそれぞれのformulaを示した.これにより一人でも多くの患者が在宅での生活が可能になることを願うものである.

小児外科における栄養管理formula

著者: 遠藤昌夫

ページ範囲:P.651 - P.661

 小児外科の栄養管理に際して考慮すべき問題点と,栄養管理用のformulaについて考察した.栄養代謝上の特徴としては,①一定量の栄養素を代謝するのに多量の水分を必要とする,②離乳期前では乳糖分解酵素が優位で,ぶどう糖重合体の分解酵素が未発達,③アミノ酸代謝では芳香族アミノ酸の転換酵素が未発達,④腎への溶質付加を軽減するためにCal/N比を高く,⑤熱量比で脂肪への依存度が高い,⑥細胞外液電解質のNa,Clを少なく,細胞内電解質のK,Mg,PおよびCaを十分に,⑦微量元素ではZn,ビタミンではA,D,Eとともにビオチンも重要である,などが挙げられる.静脈栄養では小児用の基本液をベースにしたformula,経腸栄養では小児に応用可能なformulaについて解説した.

免疫調整経腸栄養剤(食品)

著者: 入山圭二

ページ範囲:P.663 - P.666

 経腸栄養剤(食品)の栄養素組成を変化させることによって生体の免疫力増強,炎症反応の軽減などを目的とする栄養管理を,immuno-enhancing(modulating)enteral dietあるいはtherapyという.欧米ではさまざまな栄養素を添加することによって免疫能を増強させることが実験的あるいは臨床的に確認されている.わが国にimmuno-modulating enteral dietが導入されたのは2002年に入ってからであり,この手法の経験も少なく,clinical evidenceも確立されていない.本稿では,免疫力を変化させると考えられている栄養素の代謝の基礎と,海外で行われた臨床研究の結果を紹介する.

特殊病態下のformula

SIRS・敗血症におけるformula

著者: 織田成人 ,   平澤博之

ページ範囲:P.667 - P.674

 SIRS・敗血症の病態は複雑であり,その栄養管理はきわめて困難である.近年,bacterial translocation(BT)の概念の導入や,各種の栄養成分によってSIRS・敗血症の病態をモジュレートしようというimmunonutritionの導入により,SIRS・敗血症に対する栄養管理は変化しつつある.しかし,実際に急性期のSIRS・敗血症患者に経腸栄養を行うことは困難であり,また最近,免疫増強経腸栄養剤(immune-enhancing diet:IED)がかえってSIRS・敗血症患者の死亡率を増加させる可能性があることも報告されている.SIRS・敗血症に対する適切な栄養formulaの確立には,さらなる検討が必要である.

糖尿病・耐糖能異常における周術期管理formula

著者: 野村秀明 ,   土師誠二 ,   大柳治正

ページ範囲:P.675 - P.682

 糖尿病は増加の一途をたどり,外科領域でも糖尿病患者の手術は不可避の問題である.さらに術後の耐糖能異常や膵切除後の二次性糖尿病の病態も明らかにされ,よりきめ細やかな周術期代謝管理が要求されるようになってきた.糖尿病・耐糖能異常を有する患者の周術期管理の要点は,インスリンを用いて耐糖能異常のコントロールを行いながら,手術侵襲と術後の回復に必要なエネルギーをいかにうまく投与するかにある.糖尿病はコントロールが可能な合併症であるため,そのために本来の外科的治療が制限されることがあってはならず,また種々の合併症がみられるために全身状態の把握に努め,systemic diseaseであることを念頭においた周術期管理が必要である.

肝機能障害におけるformula

著者: 中村卓郎 ,   長谷部正晴

ページ範囲:P.683 - P.686

 肝臓は栄養代謝において中心的な役割を果たしており,肝疾患における栄養管理は重要な治療の一つになっている.肝硬変患者では夜間就寝前補食(late evening snack:LES)により夜間飢餓状態が改善し,窒素バランスも良好になっている.急性肝性脳症の治療として,分岐鎖アミノ酸製剤を使用することは推奨されていない.

 肝硬変患者において蛋白質消費は促進しており,中・長期的な蛋白制限は望ましくない.分岐鎖アミノ酸投与は慢性肝性脳症の症状をもち,通常のアミノ酸が投与できない肝硬変患者に対して有用である.

腎機能障害におけるformula―腎不全に対する栄養療法

著者: 池田健一郎 ,   新田浩幸 ,   木村祐輔 ,   青木毅一 ,   小川雅彰 ,   岩谷岳 ,   肥田圭介 ,   小鹿雅博 ,   八重樫泰法 ,   佐藤信博 ,   鈴木泰 ,   石田薫 ,   遠藤重厚 ,   斎藤和好

ページ範囲:P.687 - P.692

 慢性腎不全患者の栄養障害は蛋白栄養不良症が重要で,定期的な主観的・客観的栄養評価を行う.保存期腎不全は低蛋白・高カロリー食を基本とし,投与蛋白量は0.6~0.8g/kg/day,熱量は35kcal/kg/dayである.透析では,アミノ酸喪失を考慮し,蛋白質は1.2~1.3g/kgの投与が推奨される.栄養投与ルートの基本は経口摂取であるが,必要に応じて経腸栄養,経静脈栄養を選択する.経静脈栄養施行時は糖質をエネルギー基質の基本とし,腎不全用アミノ酸製剤を加えて非蛋白熱量比を300~500に設定する.また,水溶性ビタミンを補充する.急性腎不全時は,持続的血液濾過透析の施行により全身状態に応じた栄養療法が施行可能になりつつある.

目で見るカラーグラフ 世界に向かう乳腺疾患診療の新技術・1

乳腺疾患における細胞・組織診断の新技法と工夫

著者: 渡辺良二 ,   難波清

ページ範囲:P.591 - P.599

はじめに

 従来,乳腺疾患の診断は,外科的切開生検で施行されてきたが,侵襲が大きく瘢痕を伴うばかりでなく,術前に画像診断の評価なく生検されたときは癌の広がり診断が困難となり,乳房温存手術の適応決定で難渋する場合がある.

 近年,乳腺疾患の診断は外科的切開生検から穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration cytology:FNAC)が主体になったが,FNACは生検に比べて検体量の不足,変性や偽陽性が多いのが難点である.米国では,1990年代から低侵襲で組織学的情報が得られるバネ式針生検(core-needle biopsy:CNB)が発達し,現在ではFNACはほとんど行われなくなってきた1)

 また,画像診断の進歩により非触知病変や良・悪性の判定困難な病変が増加してきた.非触知病変に対する正確な検体採取のために,画像誘導下の生検が必須になった.当院では画像診断を重視し,CNBが正しい診断と治療に有用であることを発表してきた2,3).本稿では,FNACとCNBの適応ならびに正確な検体採取の工夫を中心に解説する.

ここまで来た癌免疫療法・12

―臨床の場で今後の進展が期待される新規治療法―新規遺伝子治療

著者: 高山卓也 ,   田原秀晃

ページ範囲:P.695 - P.698

はじめに

 近年,先天性疾患や癌の発症機構が分子生物学的機能解析の進歩により,遺伝子レベルで明らかになり,遺伝子治療はその原因遺伝子の制御もしくは補完する治療法として期待されている.1990年に米国でADA(adenosine deaminase)欠損症の患者に世界初の遺伝子治療が行われて以来,世界で500以上の遺伝子治療のプロトコールが実施され,3,000人以上の患者が治療を受けている.表に示すように2003年1月現在,遺伝子治療に関して600以上の臨床試験が実施され,患者数は3,000人をこえる.そのプロトコールの対象疾患の60%以上が悪性腫瘍であり,2,000人以上の患者が臨床試験を受けている.また,多くの臨床研究が第1・2相試験段階にあり,従来の治療法と比較対象とした第3相試験のプロトコールは4件行われている.

 本邦においては,その治療計画は文部科学省,厚生労働省で慎重な審査を受けて承認される.しかし,承認されても治療の安全性が医学的に証明されていないため既存の治療法に抵抗性の疾患および病期の患者にのみ対象となる実験的治療法である.つまり,必然的に末期癌の患者が対象になるため,治療効果は安全性の証明とともに副次的に腫瘍の縮小および患者のQOLの改善が目標となり,けっして完治という理想が目的とはならない.つまり,この臨床研究段階を経ることにより将来的に癌の治療法として確立が期待できるのである.

 本邦における遺伝子治療は,1995年に北海道大学でADA欠損症に対する遺伝子治療に始まり,東京大学,岡山大学,東北大学,千葉大学,大阪大学などとさまざまなプロトコールの申請および臨床試験が始まっている.本稿では本邦で行われている悪性腫瘍に対する主な遺伝子治療を紹介し,あわせてその問題点についても紹介する.

文学漫歩

―フィツジェラルド(著)野崎 孝(訳)―『グレート・ギャツビー』―(1974年,新潮社 刊)

著者: 山中英治

ページ範囲:P.699 - P.699

 私の所属する日本静脈経腸栄養学会ではNSTプロジェクトを2001年に立ち上げた.NSTはnutrition support teamの略で,栄養療法を医師,看護師,栄養士,薬剤師,検査技師,言語聴覚士などの多職種で行うチーム医療である.感染対策チームなどと同様に,欧米では医療の質の向上を目的に当然のごとく活動している.プロジェクト開始当初にはNST設置は12施設であったが,1年半後に7倍の84施設となった.チーム医療推進は時代の流れであろう.NSTプロジェクトには活動費用も必要だが,企業がセミナー開催,勉強会などの支援を行っている.NSTが普及しても会社の製品が売れるわけではないので,一種の社会貢献と考えているようだ.

 日本の企業は社会貢献しないように言われるが,今年京セラの名誉会長が私財18億円を投じて,両親のない子供達のための福祉施設を設立することが報じられた(小さい記事であった.良いニュースをもっと大きく載せて欲しい).ヤマト運輸の前会長も私財24億円を投じて障害者のための福祉財団を設立している.日本の企業人も捨てたものではない.一方で子供のなかった某芸能人の数億の遺産相続では,義弟と異父弟らが争って泥沼状態だという.人は死して名を残す,児孫のために美田を買わず.財産の遣い方は難しい.

医療制度と外科診療5

医療に関する基本的事項(3)―医療の公益性

著者: 飯田修平

ページ範囲:P.700 - P.701

医療の公益性

 多くの社会問題,とくに医療の問題は,公益・公共の定義および認識が多様かつ曖昧であることに起因すると考えられる.そこで,公益とはなにか,公共とはなにかを考えたい.導入として今回は,“医療は公益事業である”を命題に検証する.

 命題1:医療は公益事業である.

 解釈1:医療は公共財である.

 補助線1:公共と公共性の相違は何か.

病院めぐり

西宮市立中央病院外科

著者: 高田俊明

ページ範囲:P.702 - P.702

 西宮市には高校野球で有名な甲子園球場があり,六甲山系から湧き出る宮水を利用した酒造業の盛んな所でもあります.

 当院は阪急電鉄今津線門戸厄神駅の東側,駅から歩いて7分ほどの所にあります.門戸厄神駅の西側には神戸女学院があり,その少し北側,六甲山の麓には関西学院大学があって,当地はまさに文教の地といえます.

総合病院国保旭中央病院外科

著者: 田中信孝

ページ範囲:P.703 - P.703

 旭中央病院は,千葉県東部東総地区にあり,旭市,干潟町,海上町,飯岡町よりなる病院組合が設立母体である.現在は茨城県鹿島地区を含む10市25町1村を診療圏とする診療人口100万人,病床数956,診療科28の総合病院です.当院は地域医療に力を注いでおり,「医学的に正しく,早く,安く,親切に治療する」がモットーです.教育病院として各学会の認定医,専門医の教育,および全国から公募した研修医の教育に力を注いでいますが,厚生労働省臨床研修指定病院に指定されているほか,エイズ治療拠点病院,地域難病治療支援病院,基幹災害医療センターでもあります.外科領域では,日本外科学会,日本消化器外科学会,日本胸部外科学会,日本消化器病学会などの認定施設です.

 外科は60床で,スタッフは田中信孝副院長兼主任部長,永井祐吾内視鏡外科部長,古屋隆俊血管外科部長,野村幸博医長,重松邦広医長,永井元樹医長ほか7人の計13人です.外勤者は従来より東京大学第2外科より派遣をうけていましたが,最近は東京大学からの2年次研修医とともに当院スーパーローテートも採用しつつあります.当外科は,一般外科,消化器外科,乳腺内分泌外科のみならず,血管外科,呼吸器外科,内視鏡外科も行っており,いかなる救急手術にも対応しうる体制をとっています.昨年の中央手術場手術件数は1,082件で,胃癌129,結腸癌67,直腸癌44,肝癌11,胆道癌8,膵癌9,乳癌60,肺癌41,胆石106,イレウス31,腹部大動脈瘤43などです.消化器外科は拡大根治手術から機能温存手術まで,病状に応じた幅広い治療を行っています.胆石,早期胃癌,早期大腸癌,再発鼠径ヘルニアのほとんどは内視鏡下手術を施行しています.血管外科は,地域の唯一の血管外科施設として,紹介患者が多く,破裂性腹部大動脈瘤や四肢血管閉塞などの救急手術に迅速に対応しています.

近代腹部外科の開祖:Billroth

ビルロート余滴・5―Billroth Ⅰ法の完成

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.704 - P.705

 アメリカのAbsolonは,Billrothに関して多くの著書を著しているが(事実,筆者も彼の文献を参考にした),1968年「Review of Surgery]誌に「Resection of the Cancerous Pyrolus Performed by Professor Billroth」と題した論文を寄せている(この論文はAbsolonがミネソタ大学外科のWangensteen教授の退官に際して行った口演をまとめたものである.Wangensteen自身も「Theodor Billroth and his unique school of surgery;図1」という論文をものにしている).これはBillrothが最初に行った胃癌切除手術の詳細を弟子のWölflerが報告したものの英訳である.ここに2,3,4例目の胃切除症例の臨床経過が掲げられているので,以下にその概略を紹介する.

 2例目(図2)は2月28日に行われ,患者は39歳の女性であった.胃癌が疑われたが,確診に至らなかったため試験開腹し,幽門部に生じた髄様癌を確認し,2時間45分かけて切除している.しかし,術前の胃内腔洗浄が不十分であったこともあり,術後も胆汁を混じた嘔吐が続き患者の衰弱が進行するため,術後6日目に再開腹した.この際,残胃が高度に拡張していたため,胃壁を腹壁に固定した後に十二指腸に栄養チューブを挿入・留置するにとどめ,1時間ほどで手術を終えている.しかし,術前から栄養状態が悪く,衰弱も高度であったことから,術後経過は思わしくなく患者は再手術から30時間後に死亡した.剖検により,癌切除は完璧であったことが確認されたが,この症例においてBillrothは,いわゆる「oralis superior」で残胃十二指腸吻合を行っており,このため残胃の大彎側が嚢状に拡張(Billrothはこれを「diverticular pouch」とよんでいる)して通過障害をきたしていたことも判明した.以後,Billrothはこういう状況に陥ることを避けるため,残胃と十二指腸の吻合様式を「oralis inferior」に改めた.

インターネット検索時代の文献整理術・5

投稿用参考文献リストの自動作成(2)

著者: 讃岐美智義

ページ範囲:P.706 - P.709

 EndNoteで参考文献リストを作成する方法には,大きく分けて3つある.第1の方法は,独立参考文献の作成とよばれている.他の2つの方法とちがい,本文中に文献番号を振らずに,参考文献のリストのみを作成する.この方法は手軽で,引用する文献数が少ないときには重宝する.また,テキストエディタ(テキスト書類)でも使用できるので万能である.第2の方法は,CWYW(Cite While You Write―作成しながら引用)である.日本語の文献リストの作成時には文字化けを起こすので注意が必要である.第3の方法は,Scan Paperを用いる方法である(Version 6からはこの機能は削除された).結局,日本語文献の場合,第1の方法が安全確実である.

独立参考文献の作成

 Copy Formattedを使用する方法と,Exportを使用する方法がある.前者は,文献数が少ない場合には重宝する.

臨床報告 1

閉塞性黄疸,腸閉塞併存再発癌症例に対し経皮経肝胆道ドレナージチューブより腸管の減圧を行った2例

著者: 亀井桂太郎 ,   前田光信 ,   三田三郎 ,   早川英男 ,   渡邊俊明 ,   柴原弘明

ページ範囲:P.711 - P.714

はじめに

 消化器癌の腹腔内再発により閉塞性黄疸と腸閉塞が併存することがときに経験される.筆者らは,経皮経肝胆道ドレナージを内外瘻化することにより1本のチューブを用い,より良好なquality of life(QOL)を得た2例を報告する.

感染性腹部大動脈瘤の1手術例

著者: 裴英洙 ,   斉藤裕 ,   石川智啓

ページ範囲:P.715 - P.718

はじめに

 感染性腹部大動脈瘤はその早期診断に苦慮することが多く,またその治療成績は不良である1,2).筆者らは感染性腹部大動脈瘤に対して炎症の消退を待って待機手術を行い,良好な成績を得たので文献的考察を加えて報告する.

SIADHを伴った肺粟粒結核の治療後1年で出現した原発性肺癌の1切除例

著者: 加瀬昌弘 ,   山形達史 ,   永友章

ページ範囲:P.719 - P.722

はじめに

 ADH分泌不適合症候群(SIADH)を伴う粟粒結核の治療後に発生した肺癌を経験した.近年の肺結核発症数の増加に伴い肺癌との合併例の報告1~3)も散見されるようになってきたが,自験例のような報告は筆者が検索した範囲内では認められず,まれな症例と思われた.しかし,今後も肺結核の増加が懸念されており,同様な症例の増加も予想されるため,若干の文献的考察を加えて報告する.

特発性血小板減少性紫斑病に合併した胃癌の1手術例

著者: 蓮尾公篤 ,   利野靖 ,   米山克也 ,   鹿原健 ,   稲葉將陽 ,   高梨吉則

ページ範囲:P.723 - P.726

はじめに

 特発性血小板減少性紫斑病(以下,ITP)は自己免疫性疾患と考えられており,それ自体治療に難渋する疾患である1).今回筆者ら,ステロイド療法にて管理されたITP合併胃癌に対して,術前免疫グロブリン大量療法を行い,安全に幽門側胃切除術を施行し得た1例を経験したので報告する.

急性虫垂炎との鑑別が困難であった虫垂粘液囊胞腺癌の1例

著者: 森美樹 ,   山田卓也 ,   松友寛和 ,   嘉屋和夫 ,   阪本研一 ,   下川邦泰

ページ範囲:P.727 - P.730

はじめに

 原発性虫垂癌は比較的まれな腫瘍であり術前診断は困難な場合が多い1,2).今回,術前に急性虫垂炎と診断した虫垂粘液嚢胞腺癌の1例を経験した.本邦の報告例に本症例を加えた75例を集計し,考察を加えて報告する.

臨床経験

膵頭部に多発性囊胞を形成した慢性膵炎に対し,Frey手術が有効であった1例

著者: 櫻井康弘 ,   澤田隆吾 ,   鬼頭秀樹 ,   阪本一次 ,   柳善佑 ,   山下隆史

ページ範囲:P.731 - P.734

はじめに

 慢性膵炎は膵実質の脱落と線維化が進行性に増強し,頑固な腹痛や膵内・外分泌機能の低下による消化吸収障害や糖尿病をきたす難治性の疾患である.内科的治療が優先されるが,制御困難な腹痛の持続や仮性嚢胞,胆道狭窄などの合併症,膵癌との鑑別が困難な症例に対しては外科的治療が行われる.今回,筆者らは胆道狭窄,主膵管拡張および膵頭部に膵石と多発性仮性嚢胞を形成した慢性膵炎に対し,Frey手術が有効であった1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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