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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科58巻7号

2003年07月発行

雑誌目次

特集 癌化学療法レジメンの選択とその根拠:乳癌・肺癌・甲状腺癌

乳癌術前化学療法の標準的レジメン

著者: 小林直 ,   宇野真二 ,   相羽恵介 ,   平野明夫 ,   吉田和彦 ,   内田賢 ,   戸崎光宏 ,   兼平千裕 ,   鈴木正章 ,   倉石安庸

ページ範囲:P.893 - P.901

術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy:NAC)の目的は乳癌の原発巣と潜在的な微小転移巣のコントロールにある.最近,NACは術後補助化学療法に代わりうる治療法であり,乳房温存を希望するがその腫瘍が大きすぎ,温存術の適応外である症例はNACの最もよい適応であるとの見解も聞かれる.またタキサン,ハーセプチン(TM)などの新規薬剤の導入により治療成績は向上しつつある.さらにはNACではもっとも迅速に新しい薬剤やレジメンの評価が可能であることから,NACで得られた知見に基づいて再発乳癌や術後補助療法が施行されるようになる可能性がある.本稿ではNACの現状と問題点,標準的レジメンを中心に述べ,術前内分泌療法についても言及した.

アンスラサイクリン・タキサン耐性乳癌に対する化学療法

著者: 清水千佳子 ,   安藤正志 ,   渡辺亨

ページ範囲:P.902 - P.908

乳癌は初期治療の段階で全身に散布された微小転移を根絶しない限り治癒は得られない.そのため,アンスラサイクリン系薬剤およびタキサン系薬剤がここに投入される.そのようにしても転移・再発をきたす症例に対して行う治療の目的は,治癒ではなく症状緩和,QOL向上であるため,緩和化学療法(palliative chemotherapy)ともよばれる.アンスラサイクリンおよびタキサンに耐性となった乳癌に対しては,ホルモン療法を含め,効果が少しでも高く,副作用が少しでも軽い薬剤を一薬剤ずつ順番に使用し,症状緩和が得られるか,過剰な副作用が認められていないか,という点を慎重に評価しながら治療を進めなくてはならない.

乳癌術後補助化学療法の標準的レジメン

著者: 中野正吾 ,   山下純一

ページ範囲:P.909 - P.916

乳癌術後補助化学療法は再発抑制効果を目指したものであり,乳癌を治癒させる可能性がある唯一の治療法である.現在,evidenceに基づいた理論的補助療法を基にNIHとSt. Gallenのコンセンサス会議で推奨されたガイドラインが世界的に採用されている.CMF療法がゴールドスタンダードであったが,近年Anthracycline系薬剤を含むレジメンがより優れていることが示され,標準治療として確立されている.また,Taxane系薬剤,Trastuzumabとの組み合わせによる上乗せ効果も期待されており,大規模臨床試験にて検証中である.

再発乳癌に対する標準的化学療法レジメン

著者: 佐伯俊昭 ,   高嶋成光

ページ範囲:P.917 - P.922

遠隔転移を伴う進行乳癌および再発乳癌を転移性乳癌として,国際的な臨床試験のエビデンスを示しながら当院の治療法を紹介する.転移性乳癌では患者への予後説明が非常に重要であり,転移性乳癌患者には治癒が望めないことを何らかの形で伝えなければならない.しかし,治療をすれば症状も緩和され,延命可能であることを理解してもらう必要もある.

 QOLの観点から,再発乳癌化学療法は外来治療として行う.最適な化学療法のレジメンの選択は補助療法も含めて決定される.1次化学療法レジメンとしては,アントラサイクリンを含む多剤併用療法が勧められ,補助化学療法でアントラサイクリンが使用され,1年以内の再発,あるいはアントラサイクリンが禁忌である症例では積極的にタキサンを使用する.CMFは転移性乳癌を対象として検討された歴史的経緯があるが,現在では補助化学療法として汎用されている.新規薬物療法剤であり,分子標的薬剤としてtrastuzumab(ハーセプチン(R))がある.奏効率および無増悪期間は,化学療法単独群より化学療法剤+ハーセプチン(R)併用群が優れ,さらに生存期間も併用群が化学療法単独より優れていた.現在,転移性乳癌のHER2陽性症例ではハーセプチン(R)は鍵となる1次選択薬剤と考えられる.

乳癌に対するハーセプチン(R)併用化学療法レジメン

著者: 徳田裕 ,   鈴木育宏 ,   齋藤雄紀 ,   田島知郎

ページ範囲:P.923 - P.928

HER2/neu蛋白に対するヒト型化抗体,一般名トラスツズマブ(trastuzumab),商品名ハーセプチン(R)(Herceptin)は,本邦でも,2001年6月にようやく保険収載された.本剤は,単独でも効果が期待できる薬剤であるが,前臨床の段階から,種々の抗癌剤に対する効果増強作用が認められている.さらに,第Ⅲ相臨床試験によりパクリタキセルあるいはドキソルビシン+シクロフォスファミドとの併用療法の有用性が示されている.そこで本稿では,乳癌の治療戦略におけるハーセプチン(R)と抗癌剤の併用療法の現状を紹介する.

甲状腺未分化癌に対する化学療法レジメン

著者: 中山貴寛 ,   芝英一 ,   塚本文音 ,   下村淳

ページ範囲:P.929 - P.933

甲状腺未分化癌は診断後,平均3か月で死亡するといわれ,ヒト固形癌のなかで最も悪性度の高い腫瘍である.この疾患に対峙する際,集学的療法,とくに化学療法が最も重要な役割を果たしている.筆者らが行っているEP療法は,EAP療法をはじめとする種々のレジメと比較しても,その抗腫瘍効果に遜色がなく,骨髄抑制も比較的軽微であった.そのため長期にわたる治療が可能であり,生存期間の延長が得られた.治療を行ううえで,もうひとつ重要な点である患者のQOLもよく保たれており,EP療法は,現在,臨床応用されている化学療法のなかで,有用性・認容性・患者QOLの観点から最適な化学療法であると考えられる.

甲状腺分化癌・低分化癌における化学療法の位置と役割

著者: 宮内昭

ページ範囲:P.935 - P.939

甲状腺分化癌・低分化癌に対する治療体系のなかで,選択すべき治療方法の優先順位は,一般的に手術,放射性ヨード療法,放射線外照射の順である.術後再発のリスクが高い症例や再発・遠隔転移症例には甲状腺ホルモン剤投与によるTSH抑制療法が併用される.この癌に対する化学療法に関する報告はきわめて少なく,かつそれらの報告においてもその有用性は限られたものでしかない.現状では,手術,放射性ヨード,外照射のいずれもが無効あるいは実施できず,しかもある程度進行が早い症例にのみ化学療法を試みることが許される.

甲状腺悪性リンパ腫に対する化学療法レジメン

著者: 鈴木眞一 ,   菅野英和 ,   伊藤淳 ,   伊藤泰輔 ,   河原正典 ,   旭修司 ,   阿美弘文 ,   福島俊彦 ,   関川浩司 ,   竹之下誠一

ページ範囲:P.941 - P.945

甲状腺悪性リンパ腫(TL)は甲状腺悪性腫瘍の2~5%を占め,節外性リンパ腫の約2%を占めている.橋本病を前駆として発症するとされ,多くは非ホジキンリンパ腫でB-cell由来のdiffuse large cellのものが多い.

 TLの治療方針としては,化学療法が第一選択であり,とくにCHOPやCHOP-likeのEpi-VEP療法を施行する.3コースでCRが得られない場合には,局所放射線照射を単独または化学療法併用で追加する.拡大根治手術は,予後を改善する根拠がないので行わない.ホジキン病にはABVD療法を行い,MALTリンパ腫に対しては,通常のCHOP療法か放射線療法か手術療法かいまだ確立していない.さらに抗CD20抗体を用いたモノクローナル抗体治療も考慮されるようになった.

 以上,TLでは化学療法が第1選択の治療であり,CHOPおよびCHOP-likeレジメンに局所放射線療法を追加して行う.

肺小細胞癌に対する化学療法レジメン

著者: 植島久雄 ,   福岡正博

ページ範囲:P.947 - P.951

小細胞肺癌(SCLC)の治療についてレビューし,現在の標準的治療について概説した.小細胞肺癌は病期分類としてLD/ED分類が使用される.一側胸郭内に腫瘍が限局するLD-SCLCに対しては化学療法と放射線の併用療法が標準的とされており,化学療法としてはシスプラチン+エトポシド療法,放射線療法は化学療法と同時併用で早期から1日2回の加速多分割照射法で治療する方法が確立されている.一側胸郭をこえて腫瘍が進展するED-SCLCに対しては,わが国で開発されたイリノテカン+シスプラチン療法が新たな標準的治療法として確立されつつある.

非小細胞肺癌に対する化学療法

著者: 齋藤元 ,   小川純一

ページ範囲:P.953 - P.960

非小細胞肺癌は他臓器癌と比較して予後不良であり,治療成績の改善のためにさまざまな治療法の検討が行われている.とくに化学療法は標準レジメンの確立に向けて種々の大規模臨床比較試験が行われている.その結果,現時点ではプラチナ製剤をベースとした新規抗癌剤を含む化学療法が標準レジメンと考えられている.現在はそれらのなかで投与時間,コスト,QOLや副作用などを考慮して併用新規抗癌剤を選択している段階である.術前・術後化学療法,高齢者,second lineの問題点も含め,肺癌化学療法の標準化に向けて現在進行中の臨床試験の結果が期待される.

目で見るカラーグラフ 世界に向かう乳腺疾患診療の新技術・3

乳管微小病変の乳管内視鏡下生検

著者: 長瀬慈村

ページ範囲:P.887 - P.892

はじめに

 乳腺の病変の多くは乳管上皮より発生する,あるいは乳管との交通をもつため,乳頭分泌より得られる情報は極めて重要である.乳腺疾患の診断で最も難しい乳管内乳頭状病変において重要な画像診断法には,乳管超音波検査,乳管造影,乳管内視鏡などがあるが,乳管内病変を肉眼的に診断できる唯一の検査法が乳管内視鏡である.従来の乳管内病変に対する最終診断は観血的な乳腺区域切除術であったが,乳管内視鏡下生検により,非観血的な細胞・組織採取による確定診断が可能となった1)

ここまで来た癌免疫療法・14

―臨床の場で今後の進展が期待される新規治療法―新規ワクチン療法

著者: 角田卓也 ,   和田聡 ,   田原秀晃

ページ範囲:P.961 - P.964

はじめに

 悪性黒色腫を中心に腫瘍拒絶抗原(tumor associate antigen:TAA)が同定される1)に従って,TAAを利用した特異的癌免疫療法が開発され,臨床試験が進行している.とりわけ,抗腫瘍免疫応答におけるCD8陽性T細胞の重要性が認識されるに伴い,腫瘍特異的CD8陽性T細胞を生体内で惹起させる癌ワクチン療法が注目されている.これは,9個や10個のアミノ酸残基からなるペプチドが共刺激分子の補助によりClassⅠ経路を介してT細胞を活性化し,腫瘍特異的細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte:CTL)を誘導する機序が解明されたことによる.現在,種々のTAAや個々のHLA分子に拘束性を示すエピトープペプチドの同定が精力的に進んでいる.これらペプチドを用いた癌ワクチン療法の臨床試験の結果から,生体内でCTLが誘導できることがわかった.また,一部の症例では臨床効果が得られたという報告もある2~4).しかし,期待されたほど抗腫瘍効果は高くなく,いまだ満足できる臨床効果を上げてないのが現状である.期待どおりCTLが誘導できているにもかかわらず,満足できる臨床効果を上げえていない原因はどこにあるのか? その問題を克服する手段にはいかなる方法があるのか? これらの問題点を踏まえて,今後期待が持てる新規ワクチン療法について論じる.

近代腹部外科の開祖:Billroth

ビルロート余滴・7―Billroth Ⅱ法の登場

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.965 - P.968

 1885年1月15日にBillrothは今日の「ビルロートⅡ法(残胃と空腸との端側吻合による再建:以下,B-Ⅱ-法と略す)」の原型となった手術を実施したが,それ以後Billrothの後を継ぐように,多くの外科医により種々の変法が開発発表されてきた(図1).しかし,歴史を顧みると,最初の「B-Ⅱ-法」は胃部分切除に引き続いて直ぐに胃空腸吻合を行うことを企図してなされたものではないのである.この手術の伏線となったのが,1881年9月28日に弟子のWölfler(図2)が,切除不能な幽門癌患者に実施した「胃空腸吻合(Gastro-Enterostomie:図3)」である.Wölflerは,幽門部の癌性狭窄のため胃拡張をきたした38歳の男性患者に,この手術(胃空腸吻合)を施術した.まず診断を確認するために試験開腹したところ,胃癌が肝十二指腸間膜や膵に浸潤していたため,切除を諦めて胃に小腸を吻合することにし,空腸を結腸前経由で挙上して胃の前壁に縫着したのである.これにより嘔吐は止み,第8病日には固形食がとれるまで回復した.Wölflerは,「この手術(胃空腸吻合)の意義は,患者を狭窄の原因から解放し生命が少しでも長らえるようにする」ところにあると考えていたようである.

 そして,この手術の成功を受けて,10月2日にはBillroth自身が2例目(通過障害のある45歳の男性患者)の手術を行ったのであるが,この患者は術後も胆汁性嘔吐が続き,第10病日目に死亡した.

文学漫歩

―ベルゲングリュン(著)野島正城(訳)―『スペインのバラ』―(1962年,郁文堂刊)

著者: 山中英治

ページ範囲:P.969 - P.969

 臨床実習が学外の病院でも行われるようになり,当院にも学生が来たので病歴を記載させた.私達が学生の時はドイツ語で書かされたが,やがて英語になり,最近は日本語である.かつて大学にポーランドの留学生が来た時に,貴国では何語で記載するのかと訊ねたところ「当然ポーランド語である.日本人は何故ドイツ語やラテン語,英語などを日本語で繋いだ変な記載をするのか?」と言われた.確かに私のような凡人には母国語でなければ詳細な記述は不可能である.

 私が研修医の頃,教授のシュライバーをしていると,間違いの多いドイツ語をよく直していただいた.ただし学生実習が始まると,私に恥をかかさぬように,私のは直さず学生のカルテだけを訂正された.学生が教授の質問に答えられない時,後で学生から「さっきの質問の答は何ですか?」とよく訊かれたが「僕が教えると勉強にならないから,自分で調べなさい」と答えていた.もちろん私は解らなかったからである.

医療制度と外科診療7

医療に関する基本的事項(5)―医療の質と赤字経営

著者: 飯田修平

ページ範囲:P.970 - P.971

医療の質と赤字経営

 良い赤字と悪い黒字がある.良い医療を提供するための赤字は良い赤字といえるのか.

 前回の営利性に続いて,経済性,特に“医療の質と赤字経営”に関して検証したい.

病院めぐり

埼玉社会保険病院外科

著者: 橋本光正

ページ範囲:P.972 - P.972

 平成13年5月に浦和市,大宮市,与野市が合併してさいたま市という人口100万人を超える都市が生まれました.そして平成15年4月には全国で13番目の政令指定都市に移行しました.このように目覚ましい発展を遂げている県都で昭和23年の発足以来,埼玉社会保険病院は地域の中核的病院の一つとしてその役割を担ってきました.

 現在,診療科は16科,病床数は439床の臨床研修指定病院です.平成11年には日本医療機能評価機構による病院機能評価認定を受けています.外科関連学会では日本外科学会,日本消化器外科学会,日本消化器内視鏡学会,日本消化器病学会,日本大腸肛門病学会,日本胸部外科学会,日本呼吸器学会,日本呼吸器外科学会,日本乳癌学会,日本気管支学会の修練施設,認定施設となっています.外科は慶應義塾大学の関連施設であり,スタッフは細田洋一郎,橋本光正,洪 淳一,酒井章次,中島顕一郎,久 晃生,唐橋 強の7名と,慶應義塾大学,藤田保健衛生大学,防衛医科大学校からの出張医3名の合計10名で診療を行っています.

上都賀総合病院外科

著者: 知久毅

ページ範囲:P.973 - P.973

 栃木県鹿沼市は,日光例幣使街道の宿場町として発展し,特産品として,鹿沼土,サツキが有名である.当院は,その鹿沼市に昭和10年7月20日に創立され,その後幾多の変遷を経て厚生連を経営母体とした現在の形態に至っている.鹿沼市をはじめ,近隣の宇都宮市,今市市,日光市,粟野町,足尾町,西方町などを主な診療圏とする栃木県西部の公的基幹病院である.

 診療科は19科,医師数55名,病床数は542床(一般392床,精神150床)である.臨床研修指定病院の指定をはじめ多くの指定を受けているほか,平成14年度にはトータルオーダリングシステム導入を果たし,同時に日本医療機能評価機構による病院機能評価の認定を受けた.病診連携を強力に推進して本年度中の地域医療支援病院認定を目指しているほか,癌拠点病院の指定を獲得するべく,全病院を挙げて邁進中である.

日常診療に役立つPalm活用術・1

Palmの基本的な使用法

著者: 讃岐美智義

ページ範囲:P.975 - P.978

はじめに

 最近,PDAという言葉をよく耳にするようになった.PDAとはpersonal digital assistant(携帯電子端末)の略で,Apple社により提唱された呼称である.現在では,片手で扱えるサイズのデジタル機器の総称として使われている.PDAの条件として,スケジュールやアドレスなどの個人情報を管理するPIM(personal information manager)機能を搭載していることが必須であるが,ソフトウェアを追加することにより医療現場での使用に適したものに変えることができる.この連載では,PDAのなかでも,医療分野で最もシェアの高いPalmコンピュータ(Palm OS搭載)について日常診療に有益な活用法を紹介する.

臨床研究

簡便に導入可能なクリニカルパスシステムによる業務軽減化

著者: 畝村泰樹 ,   佐伯知行 ,   三澤健之 ,   高尾良彦 ,   山崎洋次 ,   鳥居明

ページ範囲:P.979 - P.983

はじめに

 クリニカルパス(以下,パス)はもはや日本中の病院に定着したといっても過言ではないほど急速に本邦の医療に浸透した.入院期間の短縮,医療の質の標準化,インフォームドコンセントの充実,医療資源使用の適正化,evidence based medicineの推進,患者サービスの向上,リスクマネジメント,教育への利用など,その利点には枚挙に暇がない1)

 一方,現場で働く医師にとっては「またひとつ書類が増えた」,「パスと少しでも違うオーダーを出すと文句をいわれる」,「パスを参照しながらオーダーを出すのはかえって面倒だ」,「さまざまな伝票をいちいちセット化するのは誰の仕事なのか?」,「結局,医師個人のメリットとは何なのか?」など,不満の声もあるはずである.しかしこれら個々人の声は,パスは必ずやチーム医療に利点・発展をもたらすという圧倒的な論調の前にかき消されてしまうことになる.

 一方,当院においても医療の標準化は解決すべき問題であった.院内で行われる大腸ポリペクトミーは,外科・消化器内科・内視鏡科の3科が,心臓カテーテル検査では循環器内科・心臓外科がそれぞれ独自の方法で周術期管理を行っており,入院期間やケアの質が異なっていた.これを標準化することを目的にクリニカルパスの実質的導入を図った.その際,医師が積極的にパスを使用する動機を得ることが導入成功の鍵となると考え,医師・看護師・事務職員などの業務量の軽減が可能なシステムを考案・作成した.

麻酔前投薬廃止と手術室歩行入室の導入およびその効果

著者: 佐々木俊郎 ,   柴田俊成 ,   谷口英喜 ,   渡部節子 ,   鈴木純子 ,   本橋久彦

ページ範囲:P.985 - P.987

はじめに

 当センターでは,2001年4月より手術予定患者の麻酔前投薬を廃止し,歩行による手術室入室を開始したのでその概要を報告する.

臨床報告 1

胃癌からの甲状腺転移の2症例

著者: 石井雅昭 ,   西川隆太郎 ,   増田亨 ,   矢野秀 ,   坂倉究 ,   山添尚久

ページ範囲:P.989 - P.992

はじめに

 転移性甲状腺癌は剖検にて発見されることはしばしば認められるが,臨床症状を呈することは稀である.そのなかでも胃癌の甲状腺転移はほとんど報告が認められていない1,2).今回,筆者らは非常に珍しい胃癌の甲状腺転移を2例経験したので報告する.

男性に発生したleiomyomatosis peritonealis disseminataの1例

著者: 上田順彦 ,   礒部芳彰 ,   大場大 ,   八木治雄 ,   今村好章

ページ範囲:P.993 - P.997

はじめに

 播種性平滑筋腫症(leiomyomatosis peritonealis disseminata:LPD)は腹膜表面に多数の平滑筋腫が播種している稀な病態である1~3).大部分は性成熟期女性に発生し良性とされている.今回,男性に発生し,しかも悪性転化をきたした1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

多発胃癌を併発したKartagener症候群の1治験例

著者: 岡本大輔 ,   鍛利幸 ,   中島康夫 ,   浮草実

ページ範囲:P.999 - P.1003

はじめに

 Kartagener症候群1)は内臓逆位,気管支拡張症,慢性副鼻腔炎を三主徴とする比較的稀な疾患である.今回,筆者らは本症に多発胃癌を併発した症例に対して胃全摘術を施行し,経過が良好であったので若干の文献的考察を加えて報告する.

食道癌小腸転移による穿孔性腹膜炎の1手術例

著者: 夏目誠治 ,   寺崎正起 ,   岡本恭和 ,   後藤康友 ,   久留宮康浩 ,   新宮優二

ページ範囲:P.1005 - P.1008

はじめに

 進行食道癌は手術,化学療法,放射線療法などの集学的治療にもかかわらず多彩な様式で再発をきたす.しかし,小腸血行性転移の再発に関する報告例は数少ない1~3).今回筆者らは,食道癌の小腸血行性転移による穿孔性腹膜炎の手術例を経験したので報告する.

低分化腺癌に内分泌細胞癌成分を伴った進行胃癌の1例

著者: 上田順彦 ,   根塚秀昭 ,   山本精一 ,   礒部芳彰 ,   今村好章

ページ範囲:P.1009 - P.1012

はじめに

 胃の内分泌細胞癌は比較的稀な腫瘍で,臨床上は早期に肝転移をきたし予後不良とされている1,2).今回,低分化腺癌に内分泌細胞癌成分を伴った進行胃癌で,急速な経過をたどった1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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