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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科58巻9号

2003年09月発行

雑誌目次

特集 癌と紛らわしい各領域の諸病変

甲状腺悪性腫瘍およびそれらとの鑑別が必要な疾患

著者: 塚本文音 ,   芝英一 ,   島津研三 ,   下村淳

ページ範囲:P.1173 - P.1179

 甲状腺疾患には腫瘍,腫瘍様病変,炎症,自己免疫疾患など多彩な疾患が存在する.甲状腺悪性腫瘍およびそれらと鑑別が必要な疾患は,臨床所見から①甲状腺結節を生じるもの,②痛みを伴い急速に増大した結節を甲状腺に触れるものの2群に大別できる.多くのケースで鑑別診断には超音波検査とエコー下穿刺吸引細胞診が有用である.①に含まれる濾胞腺腫と微少浸潤型濾胞癌の術前での鑑別診断は困難なことが多い.②には亜急性甲状腺炎,急性化膿性甲状腺炎などの急性期に内科的治療を行うべきものと,未分化癌,悪性リンパ腫などの集学的治療が必要な悪性腫瘍など,まったく性質の異なる疾患が含まれ,注意を要する.病理組織型ごとの疾患の特徴・性質を十分理解したうえで,早急に診断と治療を進めていくことが必要である.

乳腺疾患の臨床における留意点

著者: 安村和彦 ,   須田嵩 ,   田島知郎

ページ範囲:P.1181 - P.1190

 乳癌症状類似良性疾患について,通常の臨床診断で症状からの鑑別が難しい例として①乳腺結節性筋膜炎,②肉芽腫性乳腺炎,さらに画像検査所見でも鑑別の難しい例として③放射状瘢痕,④顆粒細胞腫,また良性ばかりでなく悪性成分合併が問題になる⑤腺筋上皮腫,⑥粘液瘤様腫瘍について,発症年齢,症状,画像所見などの傾向と適した病理診断法について文献上の報告例も含め,鑑別上の留意点を検討した.①,②は局所所見ばかりでなく画像診断上も悪性と紛らわしい所見を呈する.さらに遭遇頻度の高い線維腺腫にかかわる近年の画像診断および細胞診,組織診上の留意点を指摘した.新しい診断法については,その特性を理解して診断にあたる必要がある.

肺癌と鑑別診断が必要な末梢性腫瘤

著者: 近藤和也 ,   門田康正

ページ範囲:P.1191 - P.1198

 最近,CTの普及により末梢性の小型腫瘤陰影が発見される機会が増えてきた.末梢性の肺癌との鑑別診断は重要である.臨床において比較的遭遇する確率の高い良性疾患として,過誤腫,結核症,炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor),硬化性血管腫(sclerosing hemangioma),肺動静脈瘻の5つの疾患の臨床所見,画像,病理組織所見を供覧し肺癌との鑑別点を詳述した.今回呈示した肺良性病変の多くは,円形で,辺縁は平滑で境界明瞭,内部は均質な腫瘤を形成していることが多い.しかし,少数ではあるが肺癌との鑑別が困難な症例があり,そういう症例に対しては胸腔鏡下生検にて速やかに確定診断することが大切である.

食道癌と紛らわしい食道疾患

著者: 的野吾 ,   藤田博正 ,   末吉晋 ,   田中寿明 ,   笹原弘子 ,   森直樹 ,   李美慧 ,   山名秀明 ,   白水和雄 ,   立石秀夫 ,   豊永純 ,   中島格

ページ範囲:P.1199 - P.1204

 他院から食道癌の疑いで紹介されたにもかかわらず,異なる疾患であった症例を中心に,食道癌と紛らわしいとわれわれが感じた症例,①難治性食道熱傷,②左反回神経麻痺を伴うPTPによる食道損傷,③両側反回神経麻痺を伴うKClによる食道潰瘍,④突然の嚥下障害をきたしたびまん性食道痙攣症,⑤表在癌0-Ⅱa類似の顆粒細胞腫,⑥1型進行癌類似の平滑筋肉腫,7 甲状腺原発悪性リンパ腫の食道浸潤の7例を紹介した.

 食道癌と紛らわしい食道疾患を食道癌と鑑別するには,内視鏡下または頸部腫瘤の生検・病理検査がきわめて有用である.また,1回の生検で診断できない場合はそれを繰り返すことが重要である.

胃癌と紛らわしい胃疾患

著者: 安田一弘 ,   白下英史 ,   白石憲男 ,   北野正剛

ページ範囲:P.1205 - P.1209

 胃癌と紛らわしい病変はさまざまなものがあるが,そのなかでも頻度が高く,臨床上,重要なものには腺腫,過形成性ポリープ,胃底腺ポリープ,吻合部ポリープ状肥厚性胃炎などがある.鑑別診断に際しては,それぞれの病変の特徴を十分に理解したうえで内視鏡検査を行い,癌の併存が疑われた場合や鑑別困難な場合は,的確なポイントから生検を行うことが重要である.

大腸―炎症性腸疾患に合併する狭窄病変

著者: 池内浩基 ,   山村武平 ,   中埜廣樹 ,   内野基 ,   中村光宏 ,   野田雅史 ,   柳秀憲 ,   嵯峨山健 ,   西上隆之

ページ範囲:P.1211 - P.1218

 潰瘍性大腸炎においては,罹患期間が長くなれば発癌症例が増加することは一般に知られている.粘液癌が多く,多発傾向があるため,サーベイランスの重要性が指摘されている.クローン病においても患者数の増加とともに,癌合併症例の報告が増加している.しかし,クローン病では病変が非連続性であり,小腸病変を伴うため,潰瘍性大腸炎よりもサーベイランスは困難であり,一般的ではないのが現状である.これらの炎症性腸疾患に合併する狭窄病変に遭遇した場合,正確な診断を下し,どのような治療を選択すればよいか,悩むところである.

 本稿ではクローン病に合併する直腸癌,診断に難渋した潰瘍性大腸炎に合併した狭窄病変症例,繰り返す結腸憩室症に合併する結腸狭窄症例を取り上げ,それぞれの症例の診断,治療およびそれらの疾患の要点について考察した.

肝細胞癌との鑑別を要する肝癌類似肝腫瘍

著者: 萩原優 ,   谷一朗 ,   福島徹 ,   小森山広幸 ,   鈴木通博 ,   品川俊人

ページ範囲:P.1219 - P.1228

 肝臓癌の類似病変を考える際には,病理組織学的に鑑別が難しい疾患と画像上鑑別が難しい疾患に分けられる.また,肝硬変の合併の有無により,鑑別すべき疾患は絞られる.肝硬変非合併疾患では海綿状血管腫,限局性結節性過形成,肝腺腫を取り上げた.いずれも画像上は特徴的な所見を備えている.

 腺腫様過形成,異型性腺腫様過形成,早期肝細胞癌は画像上で確実に診断することが難しく,病理組織学的にも診断基準が確定していない.臨床経過を注意深く観察する必要がある.

癌と鑑別困難な胆道良性疾患

著者: 新田浩幸 ,   島田裕 ,   佐々木章 ,   佐々木亮孝 ,   斎藤和好

ページ範囲:P.1229 - P.1233

 胆道良性疾患のなかには癌と紛らわしい像を呈するものがある.画像所見による癌との鑑別が困難である場合も多いが,解剖学的特異性から手術の大きさがまったく異なってくるため,良・悪性の鑑別は重要である.胆道癌(胆嚢,胆管,乳頭部)と紛らわしい疾患として胆嚢腺筋症,胆嚢炎,胆嚢(コレステロール)ポリープ,肝外限局型原発性硬化性胆管炎,胆管良性腫瘍,結核性リンパ節炎などを,超音波検査の画像所見を中心に実際の画像を呈示し概説した.画像所見と他の諸検査(生検,細胞診など)の総合的判断が必要となることも多く,今後さらなる画像診断法の進歩が期待される.

浸潤性膵管癌と紛らわしい疾患

著者: 河岡徹 ,   山本光太郎 ,   岡正朗

ページ範囲:P.1235 - P.1241

 膵癌は消化器癌のなかでも最も予後が不良な疾患であり,5年生存率はわずか4.9%ときわめて低い.しかしながらstageⅠ症例では5年生存率は膵頭部癌49.5%,膵体尾部癌51.9%と高く,いかに切除可能な状態での早期発見が重要かがわかる.

 膵癌は一般的に豊富な線維性間質を有する乏血性の腫瘍であり,局所への強い浸潤や早期の段階での遠隔転移を認めることが多い.それらの点を踏まえて他の疾患との鑑別を早急かつ的確に行う必要がある.具体的に鑑別すべき疾患としては腫瘤形成性膵炎,島細胞腫瘍,腺房細胞癌,転移性膵癌などが挙げられる.

 現在,膵癌を早期診断するために従来の腹部超音波,CT,MRCP,血管造影などの諸検査に加えて,FDG-PET,EUS-FNABなども有用な検査手段となってきている.これらを用いて多角的に膵癌と他の疾患を鑑別する必要がある.

目で見るカラーグラフ 世界に向かう乳腺疾患診療の新技術・5

吊り上げ法による内視鏡下乳腺切除術と広背筋脂肪弁による同時再建法

著者: 沢井清司 ,   中嶋啓雄 ,   水田成彦 ,   阪口晃一 ,   鉢嶺泰司

ページ範囲:P.1165 - P.1171

はじめに

 乳房温存療法の普及に伴い,日本乳癌学会の乳房温存療法ガイドライン(1999年)の適応外でも,温存手術を希望する女性が増加してきている.一方,視・触診上は小さな腫瘤であってもMR mammographyなど画像診断で乳管内進展が明らかになり,そのためにガイドラインの温存適応外となる例,さらにマンモグラフィで発見される広範囲の非浸潤性乳管癌(DCIS)で乳腺全切除などを要する例も増加してきている.

 筆者らは,これらの症例に対して吊り上げ法による内視鏡下乳腺切除と広背筋脂肪弁充填を同時に行う術式を開発し,根治性と整容性の両面とも満足すべき成績が得られたので紹介する.

医療制度と外科診療9

医療に関する基本的事項(7)患者の意向は絶対

著者: 飯田修平

ページ範囲:P.1242 - P.1243

 患者の意向は絶対である

 前回は,「患者第一,患者本位,患者中心ではなく,顧客志向さらには関係者満足という表現が適切である」という結論であった.顧客志向,顧客満足を目指すということは,顧客の意向はなんでも聞くということであろうか.今回は患者の意向に関して検証したい.

命題:患者の意向は絶対である.

近代腹部外科の開祖:Billroth

ビルロート余滴・9―Billrothを招聘した新ウィーン学派

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.1244 - P.1246

 1867年,Billroth(図1)はウィーン大学教授会からの招聘を受けて,7年間を過ごしたチューリッヒを離れて,ウィーン大学第二外科教授に就任することになった.Berlin大学助手からZurich大学外科学の主任教授に迎えられた1860年から1867年までを過ごしたチューリッヒ時代に,仕事の面では名著と評される『Die allgemeine chirurgische Pathologie und Therapie in 50 Vorlesungen』の刊行,「Beobachtungsstudienuber Wundfieber und accidentelle Wundkrankheiten」の発表や外科臨床への体温表の導入(なお,経時的な体温測定から「体温曲線」を創始したのはライプチッヒ大学内科学のWunderlich:図2である)などがあったが,家庭的には子供達の病気や長男の死(図3)などがあり,暗澹たるものであった(こういうことからも,夫人はチューリッヒを不吉で忌まわしい地と感じていたという).そのような事情もありウィーン大学からの招聘を熟慮のうえ受諾し,“心機一転”ウィーンに転任することになった(後年音楽を通じて親交することになるBrahmsがウィーンにあったことも,ウィーン行きを決意することになる一因であったといわれている).ウィーンに赴任したとき,Billrothは38歳と若く,医学部教授のなかで最年少であった.

 堺哲郎教授が以前に本誌上に連載された「Theodor Billrothの生涯」によれば,普襖(プロシヤ-オーストリア)戦争後でプロシアに対する憎悪が依然として強い時期であったにもかかわらず,17名からなるウィーン大学医学部の教授会(図4)はいわば敵国人に白羽の矢を立てて,ウィーン大学外科学をBillrothに託したのである(Billrothは,17票のうち病理学のRokitanskyや生理学のBruckeの票を含む11票を獲得して,第二外科の主任教授に選出されたという).

文学漫歩

―檀 一雄(著)―『火宅の人』―(1975年,新潮社 刊)

著者: 山中英治

ページ範囲:P.1247 - P.1247

 文学漫歩の連載のお陰で,抄録の書き方が多少は上達したためか,日本外科学会(第103回)のパネルディスカッションに採用していただいたので,良い時候の札幌での学会に行かせてもらった.とくにウケを狙ったわけではなかったのだが,私は質問する度に失笑を買った.私の発表自体は抄録の割に大した内容ではない,いわゆる羊頭狗肉である.

 やはり,夏の札幌ではジンギスカンにビールだが,古来中国でも羊は頭を看板に掲げる程であるから,上等の肉であったのかもしれない.SARSなどが発生するのは犬猫までもを食すからだと非難されたりしているが,どんな食材でも上手に料理するのは,さすがに医食同源の国である.

病院めぐり

大田原赤十字病院外科

著者: 松井淳一

ページ範囲:P.1248 - P.1248

 栃木県大田原市は東北新幹線那須塩原駅から車で15分の距離にあり,東京まで約1時間半の自然環境に恵まれた街です.大田原赤十字病院は,昭和24年7月1日にその中心部に開設され,栃木県那須医療圏唯一の公的医療機関として徐々に発展し,現在,総病床数556床,診療科目20科目,医師数68名の栃木県北部の中核病院として,7市町村約23万人の地域住民の医療に貢献しています.本年4月から佐々木哲二新院長(外科,慶大昭40年卒)が赴任し,新しい飛躍の時を迎えています.

 医局は歴史的に慶應大学各科との関係が強く慶大の関連病院となっていますが,現在は,慶大,自治医大,独協医大,慈恵医大などの多くの大学から医師を迎えています.病院は,日本医療評価機構により“一般病院種別B”と認定され,最近,クリニカル・パスの導入,内視鏡センターの拡充,職員研修の充実などのプロジェクトに取り組んでいます.外科は,古泉桂四郎前院長,雨宮哲副院長により現在の礎が形作られ,平成11年から松井淳一(慶大昭54年卒)が部長を勤めています.現スタッフは,雨宮(肝胆膵,外科一般),松井(肝胆膵,内視鏡手術),岡昭一(乳腺),赤松秀敏(下部消化管),田村明彦(上部消化管),松田純一(上部消化管),レジデント2名の計8名です.外科病床は60~70床,年間手術件数は700~800例です.

京都桂病院消化器センター外科

著者: 野口雅滋

ページ範囲:P.1249 - P.1249

 京都桂病院は京都市の南西にある病院です.正式には社会福祉法人京都社会事業財団 京都桂病院といいます.昭和12年11月に結核療養所として創立され,創立当初の病床数は34床でした.その後数々の変遷を経て,現在は病床数585床,平均病床稼働率89%,平均在院日数19日の急性期病院となり,この地域の医療を担っています.京都社会事業財団としては,訪問看護ステーション「桂」,京都厚生園・京都桂川園の施設を運営し,慢性期の方々の介護支援も行っています.京都桂病院の基本理念である『私達は,患者さんの人権を尊重し,地域に必要な基幹的中心的な医療を担当すると共に,さらに高次の医療に対応できるように努力します』という考えに則って日々の診療に従事しています.

 京都桂病院の外科は今から10年前の平成5年10月に消化器内科と共同で消化器センターを立ち上げ,以後消化器センター外科として治療に当たっています.現在,消化器センターは内科系13名,外科系8名,合計21名が勤務しており,さらに5名の研修医が研修しています.まず,消化器センター設立後の内視鏡検査数の動向をみますと,上部内視鏡検査は年間4,200例から年間約7,000例へと増加し,下部内視鏡検査も年間1,000例から年間約3,000例へと増加しています.それに伴い外科での手術症例数も増加し,年間手術症例数808例,全麻件数473件となっています.1年間に胃癌を約80例,大腸・直腸癌を約110例手術しています.内視鏡的にも胃・大腸ともに約50例ずつ癌の切除を施行していますので,消化器センターとしては胃癌を130例,大腸・直腸癌を160例治療しています.

私の工夫―手術・処置・手順

腹腔鏡下手術におけるトロカールの挿入

著者: 中川国利 ,   工藤貴志 ,   岡田恭穂 ,   鈴木幸正 ,   桃野哲

ページ範囲:P.1250 - P.1251

 腹腔鏡下手術における最初のトロカールは,小開腹下に直接挿入する方法(open法)が主に行われている1).挿入は臍部もしくは臍上・下部で行われるが,しばしば挿入に難渋し,さらに術後に創感染や腹壁瘢痕ヘルニアが生じる例がある2).そこでわれわれが施行している,容易で偶発症の少ない挿入法を紹介する.

日常診療に役立つPalm活用術・3

Palmでデータベースを持ち歩く(1)

著者: 讃岐美智義

ページ範囲:P.1252 - P.1254

 これまでに,Palmの基本的な使い方と日常診療に役立つPalmwareを紹介した.今回からはテーマ別にPalmの活用事例を紹介する.今回と次回で「Palmでデータベースを持ち歩く」ことをテーマに取り上げる.PC(WindowsやMacintosh)上のファイルメーカーPro(ファイルメーカー社)で作成したデータベースを,ファイルメーカーMobile(ファイルメーカー社)を使ってPalmに転送し,日常診療に役立てることを考える.

手術手技

会陰部に浸潤した直腸肛門癌に対する骨盤内臓全摘術および腹直筋による有茎筋皮弁形成移植術

著者: 太田博俊 ,   澤泉雅之 ,   高橋孝 ,   関誠 ,   山田和彦 ,   二宮康郎

ページ範囲:P.1255 - P.1259

はじめに

 最近の直腸癌は,肛門温存術が可能な進行程度で発見・処置される例が増加してきている.しかし,このような時代に直腸癌が高度に進行し隣接臓器(膀胱,前立腺,精嚢,腟,子宮)に浸潤・波及し,骨盤内臓全摘術(TPEと略)を施行しないと治癒切除が得られない症例を年に1~2例経験する.また,最近は膀胱のみに浸潤している場合はTPEにせず,膀胱浸潤部を切除して膀胱再建を行って,回腸導管を回避する術式で根治する例も経験する1)

 直腸切断例では,会陰部は一期的に縫合閉鎖できることが多いが,肛門に近い直腸癌が会陰部の泌尿生殖器に浸潤・波及しているときは広範な合併切除を余儀なくされ,会陰部の一期縫合ができず,薄筋を利用し筋皮弁を形成し移植することで,創傷治癒に大きく貢献してきたが2),両側大腿内側に手術侵襲が加わり大腿筋の筋力低下のため,しゃがみ,立ち上がりに不自由を訴える例があった.術後経年的に,その運動動作は回復してきたが,階段の急ぎの登りや走りは制限されたままであった.その障害を回避する目的で,腹直筋皮弁を利用して有効な再建ができ,QOLを高く維持した生活を送ることができたので,その手術手技の詳細を報告する.

臨床報告 1

化学内分泌放射線温熱治療後6年目に手術を行った進行乳癌の1例

著者: 木村正美 ,   兼田博 ,   久米修一 ,   松下弘雄 ,   井上光弘 ,   上村邦紀

ページ範囲:P.1261 - P.1263

はじめに

 進行乳癌に対する治療は化学内分泌療法が中心で,ダウンステージングの目的で術前化学療法も行われている1,2).一方,乳癌の局所治療は手術以外に,放射線治療や温熱治療が奏効することも広く知られている3)

 今回,筆者らは皮膚浸潤を伴った進行乳癌に対し,化学内分泌療法後,放射線,温熱治療にて局所制御を行い4),6年目に同側乳腺の別の部位に再発した症例を経験した.今回の切除により初発部位の初回治療効果を6年後に評価する機会を得たので報告する.

壁外有茎性に発育した胃gastrointestinal stromal tumor(GIST)の1例

著者: 藤田真司 ,   吉田郁男 ,   山口久 ,   津田真吾

ページ範囲:P.1265 - P.1267

はじめに

 近年,消化管に発生する間葉系腫瘍を総称してgasrointestinal stromal tumor(以下,GIST)とよばれるようになった1).今回人間ドックを契機に発見された比較的稀な有茎性のGISTの1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

膵内分泌腫瘍と鑑別が困難であった膵漿液性囊胞腺腫の1例

著者: 上田順彦 ,   大場大 ,   八木治雄 ,   礒部芳彰 ,   今村好章

ページ範囲:P.1269 - P.1272

はじめに

 膵の嚢胞性腫瘍のうち,漿液性嚢胞腺腫の典型例では画像所見のみでも診断は比較的容易である1,2).しかしながら近年,非典型例の報告例が散見されるようになり,改めて膵漿液性嚢胞腺腫の画像および病理所見が見直されている3,4).今回,膵内分泌腫瘍と鑑別が困難であった漿液性嚢胞腺腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

肝細胞癌による癌性腹水が誘因と考えられた成人臍ヘルニア嵌頓の1例

著者: 佐々木隆光 ,   福森大介 ,   堺浩太郎 ,   鍋山健太郎 ,   大森斉 ,   山元章生

ページ範囲:P.1273 - P.1276

はじめに

 成人の臍ヘルニアは比較的まれな疾患であり,一度閉鎖した臍輪に後天的に脆弱化が生じ,肥満,妊娠,腹水など腹圧上昇を契機に発症する1,2).今回筆者らは,肝細胞癌による癌性腹水が誘因と考えられた成人臍ヘルニア嵌頓の1例を経験したので報告する.

盲腸原発MALTリンパ腫の2例

著者: 辻秀樹 ,   榊原堅式 ,   三井章 ,   西脇忠 ,   三宅忍幸 ,   田代和弘

ページ範囲:P.1277 - P.1281

はじめに

 Mucosa-associated lymphoid tissue lymphoma(以下,MALTリンパ腫)は,1983年Issacsonら1)によって提唱され,1994年にRevised European-American Lymphoma(REAL)分類で取り上げられた比較的新しい疾患概念である.大腸原発MALTリンパ腫の頻度は低く,さらに盲腸原発症例は現在までに10例と非常にまれである.今回筆者らは盲腸原発MALTリンパ腫の2例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

重症虚血肢に発生したFOY(R)による ものと思われる皮膚潰瘍の治療経験

著者: 江田匡仁 ,   矢野隆 ,   市原利彦 ,   上田裕一

ページ範囲:P.1283 - P.1286

はじめに

 重症虚血肢に発生した皮膚潰瘍は血流が悪いことから治療に難渋する.また,蛋白合成阻害剤であるメシル酸ガベキサート(FOY(R))は,静脈から液漏れを生じると血栓性静脈炎,皮膚びらん,潰瘍などを発症する.今回筆者らは,重症虚血肢に発症したFOY(R)による難治性皮膚潰瘍を経験したので報告する.

臨床報告 2

腹腔内ドレーン抜去創からの大網の大量自然脱出の1例

著者: 鈴木一実 ,   小林実

ページ範囲:P.1288 - P.1289

はじめに

 腹腔内のドレーン留置は腹腔内手術操作に伴い日常的に行われており,ドレーン抜去後は創部は自然閉鎖するため,通常,処置は必要としない.今回筆者らは,ドレーン抜去創より大網が大量に自然脱出した1例を経験したので報告する.

Double stapling techniqueによる低位前方切除吻合部のimplantation cystと考えられた1例

著者: 古川義英 ,   門馬智之 ,   浦住幸治郎

ページ範囲:P.1290 - P.1291

はじめに

 吻合操作によるimplantation cystの形成は非常に稀である1).今回筆者らは,直腸癌に対しdouble stapling technique(DST)にて低位前方切除を施行した後,吻合部にimplantation cystを形成したと考えられる症例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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