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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科59巻10号

2004年10月発行

雑誌目次

特集 周術期の輸液と感染対策

<Editorial>周術期の輸液と感染対策

著者: 炭山嘉伸 ,   斉田芳久

ページ範囲:P.1248 - P.1248

 手術中には腹膜から多量の水分が失われるために脱水が少なからず存在する.また,術後数日間は経口摂取が不可能であることも多く,周術期の適切な輸液は治療上不可欠な存在である.周術期の輸液に用いる薬剤の選択や投与量,投与期間については詳細な研究が多岐にわたって行われている.また,手術手技の向上,内視鏡手術の普及,自動縫合器の発達,電気メスの性能の向上,様々な止血機器の発達により,外科手術の出血量も減少傾向にある.このため,健常な患者であれば,多くの施設ですでに完成されているクリニカルパスに従った輸液療法で大きな問題は生じないであろう.

 また,感染対策も本邦においても全国的なサーベイランスが確立し,CDCのガイドラインを基にした日本独自の感染対策ガイドラインも完成,啓蒙活動も活発であることから,広く普及している.推奨される抗菌薬の使用方法や創縫合管理法など,近年エビデンスに基づく情報で大きく変化しながら徐々に統一化されたクリニカルパスの導入により感染症の減少に大きく寄与している.しかし,高齢患者の急激な増加と,手術適応の拡大,生活習慣病の増加に伴い,様々な合併症を有する患者の手術も増加しており,これらの患者はクリニカルパスに従った画一的な輸液療法では不十分なばかりでなく,新たな合併症を招く危険性すらも生じてくる.特に,クリニカルパスで研修された若い先生方にとってはこのような合併症を有する患者の周術期管理には難渋されることも多いことと思われる.そして,このような合併症を有する患者は通院期間・入院期間が長く,また,様々な薬剤によって治療を受けており,外因性感染の危険にさらされる機会が増加し,また原疾患そのものによる感染防御能低下により,術後感染のハイリスク患者となっている.患者の術前合併症,既往歴,投与薬剤によって輸液の内容や感染対策も異なる.つまり患者個々の状態の把握とそれぞれの病態にあった輸液と感染対策を行うことが術後合併症を減少し,良好な外科的治療成績をあげるポイントとなる.

術前患者の評価と術前準備

著者: 吉田孝司 ,   森俊幸 ,   杉山政則 ,   跡見裕

ページ範囲:P.1249 - P.1254

 要旨:手術は完全回復を放棄した侵襲を伴う治療法であり,組織の損傷や生体への侵襲という犠牲を払っても,それを凌駕する結果を得ることにより容認されてきた治療法ともいえる.低侵襲治療など手術法自体の進歩のみならず,患者の評価や周術期の輸液療法を含めた患者管理法の進歩により,手術のアウトカムをより良いものとすることが外科医の使命である.「敵を知り己を知れば百戦危うからず(孫子)」である.すなわち術前,患者が潜在的にもつ危険因子を的確に評価し,可能性のある合併症に対し予め準備を行い,リスクに見合った手術法を選択することによって手術により得られるメリットを最大化することができる.本号の特集,周術期の輸液と感染対策に関連する敵,すなわち心肺腎機能,肝機能や内分泌代謝,栄養評価によるリスク評価を概説する.

心機能低下患者の周術期輸液と感染対策

著者: 冲永功太

ページ範囲:P.1255 - P.1259

 要旨:心機能低下にはさまざまな病態が含まれ,虚血性心疾患,不整脈,弁膜症などの心疾患併存患者における輸液管理と感染対策を含めた周術期管理について概説した.心機能低下患者の輸液療法は過剰輸液にならないように,時間尿量や時に肺動脈楔入圧をモニターしながら注意深く行う必要がある.感染対策では心疾患併存のみでは特別な対策は必要ないが,人工弁など人工物が体内に挿入されている例で,腹膜炎など細菌性炎症性疾患の手術の際には適切な抗菌薬投与が重要である.

呼吸機能障害患者の周術期輸液と感染対策

著者: 小野聡 ,   望月英隆

ページ範囲:P.1261 - P.1265

 要旨:呼吸器疾患を有する患者の周術期管理について輸液療法を含めて述べた.術後合併症による死亡率は以前からみると著しく減少したが,術後呼吸器合併症は依然発生率が高く,特に術前呼吸器疾患を有する患者においては致命的になる.したがって,このような患者に対する手術に際しては術前の呼吸機能評価や術前処置,術中・術後管理がきわめて重要である.特に輸液管理はoverhydrationやhypovolemiaにならないように厳密な投与量の設定や術前栄養状態の改善が重要である.また周術期の経腸栄養管理は術後呼吸器合併症の予防に有用である.

肝機能障害患者の周術期管理

著者: 菅原寧彦 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.1267 - P.1270

 要旨:慢性肝炎,肝硬変症例では門脈圧亢進症に加え,網内系機能の低下が認められ,周術期管理が進歩した現在でもリスクは高い.周術期管理においては用意周到に肝不全対策を講じ,患者の退院まで細やかな観察を怠らないことが重要である.術前管理では慢性活動性肝炎処置,利尿剤の投与,低蛋白血症の是正,食道静脈瘤のチェックなどが重要である.術後管理では総ビリルビン値の他,ヘマトクリット値,血清・尿中電解質,血清総蛋白量,アルブミン値などが特に注目すべき指標である.これらの値をチェックし,随時新鮮凍結血漿や利尿剤などの投与を行い,患者のホメオスターシスを保っていく必要がある.

腎機能低下・透析患者の輸液と感染対策

著者: 渡会伸治 ,   遠藤格 ,   関戸仁 ,   池秀之 ,   嶋田紘

ページ範囲:P.1271 - P.1276

 要旨:腎機能障害例の周術期管理の要点は腎機能低下の程度と合併症の有無を正確に判定し,それに応じた患者管理を行うことである.すなわち,術前にはクレアチニンクリアランス値によって腎機能を評価し,適切な管理を行い,最良の状態にしておくことである.術中は止血の確認が最も重要であり,術後管理は透析を導入するのに躊躇せず,水分出納と高カリウム血症に注意することである.抗菌薬はその排出経路を熟知し,薬物濃度モニタリング法を積極的に取り入れるべきである.

耐糖能異常および糖尿病患者の輸液と感染症対策

著者: 斎藤慶太 ,   本間敏男 ,   矢嶋彰子 ,   平田公一

ページ範囲:P.1277 - P.1280

 要旨:糖尿病は慢性進行性の全身性代謝障害であり,障害の程度が個々の症例により異なること,手術後にはsurgical diabetesの病態も加わることなどを考慮し,周術期には厳密な管理を必要とする.感染症と糖尿病はお互いに増悪因子であり,悪循環を形成する.外科医は糖尿病患者にみられる感染症の特徴を把握し,感染症の予防,早期発見に努める必要がある.また,感染症の発生時には迅速でかつ適切な治療を行うことが重要である.

高齢者の輸液と感染対策

著者: 江上寛

ページ範囲:P.1281 - P.1285

 要旨:高齢者では細胞内液の減少,腎における尿濃縮能,希釈能の低下により,細胞外液の増減や浸透圧,電解質の変化に対する緩衝力が弱く,不適切な輸液により容易に心不全や肺水腫となる.また,加齢に伴う免疫機能の低下,あるいは侵襲時の高サイトカイン血症や抗炎症性サイトカインの過剰産生により,高齢者の周術期では感染の危険が増大している.

 高齢者の外科治療にあたっては各臓器の予備力や特徴を十分に把握して,合併症の発生を予測し,早期発見,早期治療に努めることが重要である.

カラーグラフ 内視鏡外科手術に必要な局所解剖のパラダイムシフト・1

胸腔鏡下食道切除術

著者: 村上雅彦 ,   加藤貴史 ,   大塚耕司 ,   五藤哲 ,   牧田英俊 ,   草野満夫

ページ範囲:P.1239 - P.1246

はじめに

 食道癌に対する胸腔鏡下食道切除術は1993年のCuschieriら1)の報告を始まりとする.わが国においては1994年の川原ら2)の報告以来,症例数は年々増加しているが,胸腔内リンパ節郭清手技の難しさから,いまだ施行施設が限られているのが現状である.本法は大開胸による術後呼吸機能障害の軽減や創痛の軽減の点からは,きわめて意義の高い手技と思われる.胸腔内へのアプローチ法としては小開胸併用3)と完全内視鏡下4)に大きく二分される.腹腔鏡下アプローチと違って,視野確保のための気腹操作を必要としないが,肺や気管の圧排による視野確保が重要であり,ポート位置によって操作性が固定されてしまうため,難易度は高い手術とも言える.

 われわれは1996年末から胸腔内完全鏡視下食道切除術を開始し,約130例に本法を遂行し得た.本稿では,手技のポイントについて説明する5)

Expert Lecture for Clinician

―第103回日本外科学会定期学術集会 イブニングレクチャー6―肝門部胆管癌の手術手技―ビデオによる日米対決

著者: 二村雄次 ,  

ページ範囲:P.1287 - P.1294

 Blumgart まず最初に,私の持ってきたビデオを見てもらっても,血管再建がわかるわけではありません.基本原則についてのビデオと考えてください.ここでテクニックの違いなどを話し合うわけですが,この問題の一例として示しているわけです.それでは,一例目をご覧ください.

特別寄稿

鼠径ヘルニアに対するtension free修復術の問題点

著者: 津村裕昭 ,   市川徹 ,   竹末芳生 ,   村上義昭 ,   末田泰二郎 ,   日野裕史 ,   金廣哲也

ページ範囲:P.1295 - P.1305

はじめに

 成人鼠径ヘルニアに対するtension-free修復術(以下,TF法)は修復素材とその形状改良と相俟って現在では広く普及するに至った.とくに,前方到達法によるTF法(以下,open-TF)は手技が簡便であり,アウトカムが良好なことから一般的となっているが,これらの修復術もさまざまな問題点を抱えているのが現状である.本稿では,tension-free修復術の問題点について最近の文献に基づいて概説する.

目で見る外科標準術式・52

低位筋間痔瘻に対する括約筋温存術式

著者: 辻順行 ,   辻大志 ,   辻時夫

ページ範囲:P.1307 - P.1313

はじめに

 肛門腺の感染で痔瘻の大部分が発生することが判明し,病変を切開(切除)する開放術の普及とともに痔瘻の根治率は高まった.その後原発口と瘻管のみを切除する括約筋温存術(温存術)が開発され,その広まりとともに痔瘻の根治のみならず肛門機能も保持されるようになった.しかし実際には術者により後術成績に差が生じているのが現状である1).そこで今回痔瘻の約半数を占める低位筋間痔瘻に対する手術の中で,特に括約筋温存術に焦点を当て手術法を解説する.

近代腹部外科の開祖:Billroth

ビルロート余滴・22―ミクリッチによるビルロートの蓋棺録(obituary)

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.1314 - P.1318

 1894年のBillroth逝去に際しては,多くの友人や門下生が追悼文を寄せている.なかでも,その当時Billrothの後継者の筆頭と目されていたBreslau大学のJohann von Mikulicz-Radecki(1850-1905)(図1)が,同年のベルリン臨床週報(Berliner Klinischer Wochenschrift)に長文の蓋棺録(obituary)を寄せているので,今回はこの訳文を紹介する.

 「Billrothの名前は単に医学の歴史にとどまらず,われわれすべての門下生や友人の記憶の中に深く刻み込まれています.彼の人間的魅力は交流のあったすべての人々を魅了してやみませんでした.助手として長年にわたって接触した門下生達は,彼を尊敬し深く敬愛していました.師も若い門下生達に深く意を注ぐとともに愛情を注ぎ,そしてわれわれを鼓舞しました.そういう意味では,彼は臨床教授の理想像を具現化した指導者であったといえます.

海外医療事情

中国の医療事情

著者: 周聞笛 ,   浅原利正 ,   朱正綱

ページ範囲:P.1319 - P.1323

はじめに

 中国の医療と聞くと,まず中国古来の気功,鍼灸,指圧療法などを思う方が多いかもしれないが,実際には今日の中国の医療現場では西洋医療を取り入れた医学教育や医療体制が急速に整いつつある.この十年で中国は飛躍的な経済発展を遂げ,あらゆる分野において国際基準に即した法制度の確立に向けて様々な改革を行ってきた.医療分野においても医療保険制度の確立と同時に,国家衛生部を中心にした「中華人民共和国医師業務法」を根幹とする「医師資格試験実施暫定規定」以下,様々な法律,通達が出された.その中でも医師の育成・養成のための医学教育改革は特に重視されている.中国は広大な国土と膨大な人口を抱え,地方毎に経済,社会,文化的状況が各々異なる.そのため各種制度の弾力的な運用が特色となっている.ここでは現代中国の医療の現状について代表的な事柄をいくつか紹介する.

日米で異なる外科レジデント教育・医療事情(第4回)

労働時間制限

著者: 十川博

ページ範囲:P.1324 - P.1325

レジデント教育をめぐる最新動向・労働時間制限

 ここ数年の外科レジデント教育において,最も大きな変化は労働時間制限であろう.もともとはニューヨーク州で他の州に先駆けてレジデントの労働時間を週80時間以内にする規則を設け,実際に成果をあげてきたのであるが,この動きは昨年から全米に広がることになった.さらに言えば,この労働時間制限を守れないプログラムは認可を取り消されるという明確な方針が示され,面白い変化が生まれている.

 ここ数年間人気が落ちていた一般外科が昨年は急に人気が上昇し,categorical(5年間の)一般外科のレジデンシーに入るのは非常に難しくなった.これは明らかに労働時間制限の効果である.さらに女性の外科レジデントの割合が上昇した.ストーニーブルック校のプログラムでも21人の1年目の外科レジデント全体のうち9人が女性となった.Categoricalの5人の外科レジデントのうち2人が女性である.通常,一学年に2~3人女性がいればいいところであるから,非常に大きな変化である.他のプログラムでもそういう傾向が出ているという.推測するに今まで過酷な労働時間を強いられていたのが,大いに軽減されたため,今まで敬遠していた外科レジデント予備軍が外科系に入ってきたためと思われる.

外科の常識・非常識 人に聞けない素朴な疑問 8

胆囊管の遺残は避けるべきか

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1326 - P.1327

【素朴な疑問】

 胆囊を摘出する際には,胆囊管が遺残すると不定愁訴を生じることがあるため,胆石症の手術では胆囊管は総胆管ぎりぎりで切断し,胆囊管をできるだけ残さないようにするのが基本であった.ところが腹腔鏡下手術の時代になると,胆囊管を総胆管ぎりぎりで切離するのは危険であり,胆囊管は余裕を持って切離したほうが安全であるとされている.腹腔鏡下胆囊摘出後の患者に不定愁訴が増えている様子はないが,胆囊管は少しくらい残してもよいのであろうか.

病院めぐり

長岡赤十字病院外科

著者: 田島健三

ページ範囲:P.1328 - P.1328

 長岡赤十字病院は昭和6年5月に創立されました.新潟県の中越地区の中心都市で,新潟市に次ぐ人口19万人余りの県内第二の長岡市にあります.上越新幹線および関越道・北陸道の高速道が交わっており,医療対象人口は周辺市町村および湯沢町や十日町市まで含め30万から40万人です.当院は診療科25科,救命救急センターとICUおよびNICUを併設しており,一次から三次までの救急患者を受け入れて地域医療に貢献しています.また,県の基幹災害医療センターとして救護班,救護車両,資材などを整備して万一に備えています.平成9年に現在地に新築移転しました.12階建てで,眼下に悠々と流れる日本一の信濃川を見ながら日夜診療に当たっています.そして平成14年に日本医療機能評価機構の認定病院となり,赤十字の理念のもと,地域住民に良質な医療を提供できるよう努力しています.

 全病床数は748床で,うち一般・消化器外科45床が8階にあり,そのほか,5階の婦人病棟の10床程度に乳癌の患者さんを受け入れています.現在の外科のスタッフは8名で,常勤医は5名で,あと3名は新潟大学第1外科からの2名と富山医科薬科大学第2外科からの1名の外科医が半年交代で勤務しています.また,当院は平成12年から臨床研修病院になっており,今年4月末からは新制度のもと6人の臨床研修医を迎え,外科の研修も開始しています.毎週木曜日の朝に,消化器内科および放射線科との合同症例検討会を行っています.また,月1回の院内集談会と月2回のCPCが開催され,知識の向上と更なる診療の充実を目指しています.

深谷赤十字病院外科

著者: 鈴木裕之

ページ範囲:P.1329 - P.1329

 当院は埼玉県の北部に位置する深谷市の地にあり,昭和25年に開設され,平成16年現在,2回目の大規模な建て替え中で,病棟部門はすでに引越しを終了し,現在472床で運用中です.7月に外来部門の引越しを行い,正式には11月に506床の病院に生まれ変わります.診療科は20科,常勤医師数は69名で,今年度から臨床研修指定病院の指定を受け,協力型病院としても,国立千葉大学および群馬大学から研修医の受け入れを開始しています.

 本年4月に呼吸器外科が独立し,現在の外科のスタッフは諏訪敏一院長以下7人です.主に千葉大学臓器制御外科(旧 第1外科)出身の医師であり,同医局から2名,同形成外科から1名のローテーターを加え,10名で3チームに分かれ診療を行い,年間約650例の手術をこなしております.平成15年度の全身麻酔症例は567例で,腰椎麻酔61例,局所麻酔27例でした.主な内訳は食道癌9例,胃癌106例,大腸癌116例,肝切除15例,膵切除15例,乳癌44例,ラパコレ81例,鼠径ヘルニア51例,虫垂炎41例などでした.最近は腹腔鏡による胃癌,大腸癌の手術も増え,適応を選んで積極的に施行しています.また,当院は第三次救命救急センターを兼ねており,緊急手術も昨年は134例で,特に高齢者や合併症並存の重症例の紹介が多く,苦しいながらも可能な限り受け入れる体勢でいます.手術以外では,一般内視鏡およびEMR,胆道のPTBD,EBD,血管造影などを消化器医,放射線科医と協力して多数行っており,外科医にできることはすべてやろうという方針で臨んでいます.

私の工夫 手術・処置・手順

成人鼠径ヘルニア手術時の皮膚縫合

著者: 岡崎誠 ,   三好秀幸

ページ範囲:P.1330 - P.1331

はじめに

 最近,成人鼠径ヘルニア手術はメッシュを使用したtension freeの術式が標準術式になり,短期間入院あるいは日帰り手術が一般的となっている.このとき,意外に問題になるのが,抜糸を含む創部の処置である.患者側は糸がついていると退院したがらない場合が多いし,術後の創部からの出血や滲出液の漏出は日帰り手術や短期入院の妨げになる.

 本稿では,成人鼠径ヘルニア手術における皮膚縫合およびその後の処置における工夫を報告する.

粉瘤の摘出

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1332 - P.1333

 粉瘤は皮脂腺管の閉鎖によって生じた貯留囊胞である.粉瘤の内側は扁平上皮から成り,脂質を含む粥状物質を含んでいる.また,皮脂腺排泄口からの細菌の侵入によって化膿する頻度が高い.

 粉瘤の基本的治療は摘出である.一般的には,以下のような治療法が行われている1~3).非感染例では局所麻酔下に皮膚切開(小さい例では直線,大きい例では紡錘形)を加え,囊胞壁を破らないように壁組織を把持・牽引し,周囲から剝離する.壁が破れた場合には,損傷部を鉗子で把持して摘出する.摘出後,死腔を残さないようにマットレス縫合を行う.

臨床研究

リンパ節転移状況からみた右側結腸癌に対する至適切除範囲の検討

著者: 高橋周作 ,   佐藤裕二 ,   近藤正男 ,   篠原敏樹 ,   前田好章 ,   藤堂省

ページ範囲:P.1335 - P.1342

はじめに

 従来から右側結腸癌に対する標準術式として結腸右半切除術が施行されてきた2,3)が,この術式では回盲部から横行結腸に及ぶ広範囲の腸管が切除される.また食物通過時間,大腸内嫌気性菌の逆行性増殖の抑制,胆汁酸・ビタミンB12の吸収,免疫に関与する4)とされるBauhin弁も喪失するため排便習慣などへの悪影響が考えられる.近年Bauhin弁温存結腸切除により良好な排便習慣が得られたとの報告5,6)や鏡視下手術などの縮小手術が注目される中,右側結腸癌の至適切除範囲を再検討することは臨床上有用と考えられた.今回自験例から至適切除範囲を再検討したので報告する.

臨床報告・1

下肢浮腫が発見契機となった尾状葉を中心とする肝限局性結節性過形成の1手術例

著者: 石黒要 ,   佐々木正寿 ,   荒能義彦 ,   清水陽介 ,   南部修二 ,   寺崎禎一

ページ範囲:P.1343 - P.1347

はじめに

 肝限局性結節性過形成(FNH:focal nodular hyperplasia)は良性腫瘍のひとつである.その発見契機は検診や腹部症状が大半である1).今回,下肢浮腫という稀な症状が発見契機となったFNHの1例に対し,外科的切除を行い,良好な結果を得たので報告する.

血液透析中の患者にみられた上腸間膜動脈血栓症による門脈ガス血症が疑われた1例

著者: 青竹利治 ,   田中文恵 ,   藤井秀則 ,   廣瀬由紀 ,   山本広幸 ,   松下利雄

ページ範囲:P.1349 - P.1352

はじめに

 門脈ガス血症は腸管の壊死など虚血性腸疾患によることが多く,予後不良とされる1,2).しかし最近では腸管壊死を伴わず保存的加療により軽快した報告も散見される3,4).今回,筆者らは透析中の患者に上腸間膜動脈血栓症による門脈ガスが疑われた1症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

ホースを使用した自己浣腸による直腸穿孔の1例

著者: 佐藤友威 ,   鈴木俊繁 ,   斉藤英俊 ,   斉藤文良 ,   近藤匡 ,   山洞典正

ページ範囲:P.1353 - P.1355

 結腸直腸穿孔は発症早期から細菌性の腹膜炎を呈し,予後不良である1,2).その原因は特発性,結腸癌などに伴う続発性,外傷性がある1,2).外傷性大腸穿孔のうち,家庭用のホースを用いた自己浣腸によって直腸穿孔をきたした稀な1例を経験したので報告する.

脾リンパ管腫を併存した結腸癌に対し腹腔鏡補助下に切除した1例

著者: 外山栄一郎 ,   杉原重哲 ,   鶴田豊 ,   田中睦郎

ページ範囲:P.1357 - P.1360

はじめに

 腹腔鏡下脾臓摘出術は1992年に報告1)されて以来,現在では脾腫のないものには脾摘術の標準術式として認められつつある2).また,結腸癌の手術においても腹腔鏡下大腸切除術も積極的に導入されるようになってきている3).今回,筆者らは結腸癌および脾転移の疑いで一期的に腹腔鏡補助下結腸切除術および脾摘術を施行し,脾腫瘍はリンパ管腫であった1例を経験をしたので,若干の文献的考察を加え報告する.

胃癌術後に抗血漿タンパク質抗体による非溶血性輸血副作用を呈した1例

著者: 末永光邦 ,   大山繁和 ,   佐藤貴弘 ,   山本順司 ,   山口俊晴

ページ範囲:P.1361 - P.1364

はじめに

 外科臨床のなかで輸血に伴う非溶血性輸血副作用を経験することがある.原因として選択的IgA欠損症,IgAに対する抗アロタイプ抗体などの血漿タンパク質抗体の存在が報告されている1~6).今回,筆者らは術後に抗IgA抗体が原因と判断した非溶血性輸血副作用を呈した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

乳房温存療法後にBOOP様肺炎を発症した2例

著者: 武者信行 ,   番場竹生 ,   本間英之 ,   坪野俊広 ,   酒井靖夫 ,   相場哲郎 ,   川口正樹 ,   牧野真人

ページ範囲:P.1365 - P.1369

はじめに

 乳房温存療法は乳癌学会のガイドライン1)を参考にすると,腫瘍径3.0cm以下の単発乳癌では標準治療と呼べる段階まで来ている.手術と放射線の両者の特長を生かし,相補的に用いる乳房温存療法は乳房温存手術と腋窩郭清の後に残存乳房に照射を加えることを必須としている.近年この乳房温存療法の後,3か月から半年前後に器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎(bronchiolitis obliterans with organizing pneumonia:BOOP)を併発した報告が増加している2~4).当科でも2例のBOOP様肺炎を経験したので報告する.

門脈内ガスを認め消化管出血による出血性ショックを呈した非特異性多発性小腸潰瘍症の1例

著者: 倉立真志 ,   余喜多史郎 ,   山口剛史 ,   兼田裕司 ,   宮内隆行 ,   矢田清吾 ,   廣川満良

ページ範囲:P.1371 - P.1374

はじめに

 非特異性多発性小腸潰瘍症は比較的浅い潰瘍で,慢性の経過をたどることが多い1,2).今回門脈内ガスを認め,消化管出血による出血性ショックを呈した症例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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