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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科59巻13号

2004年12月発行

雑誌目次

特集 直腸癌に対する手術のコツ

直腸癌手術に必要な解剖の知識

著者: 楠正人 ,   井上靖浩 ,   三木誓雄

ページ範囲:P.1517 - P.1522

 要旨:下部進行直腸癌の標準術式とされるtotal mesorectal excision(TME)は肛門挙筋までの直腸間膜をすべて筋膜でパッケージングされた状態で切除する方法で,著しく局所再発率を低下させることから,消化器外科専門医にとって必ず習得しなければならない術式である.しかしながら外科的見地からは縫合不全の増加や,骨盤深部での手術操作の困難さが問題となっている.そこで,筆者らは解剖学的見地から3つのポイントに重点を置くことで,TMEに独自の工夫を加えている.本稿ではTMEのlandmarkとなるhiatal ligamentを中心に,理論的には理解できても,なかなかその実践手技がわかりにくいTMEについて,手術に必要な解剖の知識を中心に述べる.

早期直腸癌に対する局所切除術

著者: 前田耕太郎 ,   花井恒一 ,   佐藤美信 ,   升森宏次 ,   小出欣和 ,   松本昌久 ,   青山浩幸 ,   松岡宏 ,   勝野秀稔

ページ範囲:P.1523 - P.1527

 要旨:肛門縁から5cm以下の低位の腫瘍に対してはローンリトラクターやE,F式の開肛器を使用して5mm程度のsurgical marginを確保しつつ全層で切除を行う.切除は腫瘍肛門側から開始し,はく離した直腸を肛門側に牽引しながら切除する.縫合は腸管軸の短軸方向に手縫いの一層縫合で行う.より高位の腫瘍に対してはE式開肛器を用いて直腸を短縮させることで腫瘍を肛門側に下降させ,次に筋層を含む牽引用の糸針を掛ける.さらに高位の腫瘍ではinvagination techniqueも行う.牽引用の糸を肛門側に牽引することで直腸を重積させた後,surgical marginを確認しつつ自動縫合器を用いて直腸壁を二つ折りにした形で切除と縫合を同時に行う.

経肛門的内視鏡下マイクロサージェリー(TEM)―テクニックとコツ

著者: 木下敬弘 ,   金平永二 ,   山田英夫 ,  

ページ範囲:P.1529 - P.1534

 要旨:経肛門的内視鏡下マイクロサージェリー(TEM)においては狭い直腸鏡内での細かな鏡視下手技が要求される.TEMをスムーズに行うためにはTEMシステムの構造と特性を理解し,適宜直腸鏡のポジショニングを行い,良好な視野の下で手術を行うことが重要である.最も困難とされる縫合操作では左右の協調運動を常に意識して無駄のない合理的な動きを心がけることが肝要である.

進行直腸癌に対する腹腔鏡下低位前方切除術

著者: 奥田準二 ,   山本哲久 ,   田中慶太朗 ,   川崎浩資 ,   谷川允彦

ページ範囲:P.1535 - P.1544

 要旨:腹腔鏡下手術には近接視や拡大視効果により狭い骨盤腔内でもきわめて繊細な観察が可能で,チーム全員がその良好な術野を得られる大きな利点がある.適切な器具と的確な手技を用いれば進行直腸癌に対しても腹腔鏡下手術の利点を生かしつつ,自律神経完全温存の腹腔鏡下低位前方切除術を適切に行える.しかし,進行直腸癌に対する腹腔鏡下低位前方切除術では病変部への直接操作を避けた直腸のはく離・授動,適切な切離面とsurgicalmargin(AW)を確保した肛門側腸管切離に特に注意する必要がある.不用意な合併症や再発を予防し,その有用性を最大限に引き出すためには段階的な適応の決定,周到な術前処置,適切な器具と的確な手術手技に加えて,さらなる工夫と器械の改良・開発を続けていく必要がある.

直腸癌に対する神経温存側方郭清術のコツ

著者: 森武生 ,   高橋慶一 ,   山口達郎 ,   松本寛 ,   宮本英典

ページ範囲:P.1545 - P.1549

■■■

はじめに

 低位(Rb)直腸癌においては筋層以上の浸潤を示す進行癌の13%内外,直腸固有筋膜内にリンパ節転移のあるDukes C癌では20%以上に側方転移があることは,日本においては大腸癌研究会の登録データを示すこともなく自明の理として理解されている.しかし,欧米では依然としてイギリスやアメリカを中心にこのことに理解を示す施設は少なく,かつ郭清効果はないものと依然として決めつけている向きも多い.このことは日本側にも責任があり,日本の国内において側方郭清の効果が大腸癌研究会のプロジェクト研究で明らかになったにもかかわらず,国際学会では弱腰にどうしてもRCTの必要性があるなどと述べる人もいることに問題がある.国内で明らかなデータが出ていて,なおRCTを行うとしたらこれは倫理的にいかがなものか見解を問いたいものである.このことと別に,側方にある頻度で転移があるのならば,術後のQOLを守るために側方郭清と自律神経温存の両立をはかるのは外科医である以上当然の帰結である.術前放射線化学療法が未だにどの大きさのどの部位のリンパ節転移に対して有効であるか否かが定かでない以上,まず手術的に神経温存側方郭清に習熟することが骨盤外科医としては必須である.本稿ではこの術式について詳述し,長期の結果についても述べたい.

下部直腸癌に対する括約筋温存手術

著者: 森田隆幸 ,   梅原実 ,   西川晋右 ,   小川仁 ,   向田和明 ,   三上泰徳 ,   小原治枝 ,   小山基 ,   村田暁彦

ページ範囲:P.1551 - P.1556

 要旨:下部直腸癌の標準的治療として括約筋温存手術が普及してきた.癌の肛門側進展の頻度は低いが,腫瘍細胞の分化度,壁深達度,リンパ節転移の状況を見定めながら方針を決定する.実際の手術では解剖学的はく離層を保ち,骨盤隔膜まで完全に直腸をはく離・授動する手技が求められ,安全かつ確実な吻合を行う.術後の排便に関する愁訴は少なくないが,括約筋機能温存手術は括約筋という組織を残すという手術にとどまらず,排便機能温存手術という概念の中で発展させなければならない.

結腸(囊)肛門吻合術

著者: 岡本春彦 ,   谷達夫 ,   飯合恒夫 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.1557 - P.1563

 要旨:当科では直腸癌手術における結腸囊作製を経肛門吻合となる超低位前方切除術に限っており,腹腔操作のみで吻合できる場合は結腸囊を作製していない.結腸囊は簡便性,安全性の面からtransverse coloplasty pouchを第一選択としている.経肛門吻合では肛門管直上での直腸の切離と術野の展開を適切に行うことで確実な結腸囊肛門吻合が可能となる.4-0吸収糸20~24針の全層一層結節縫合で吻合し,diverting enterostomyを造設する.吻合部の過緊張の回避と結腸の血流温存が重要であり,結腸と血管の走行パターンを確認し,切離部位を適切に決定することが吻合手技以上に重要となる.

下部直腸・肛門管癌に対する深・浅外肛門括約筋合併切除を伴う究極の肛門温存術

著者: 白水和雄 ,   緒方裕 ,   荒木靖三 ,   小河秀二郎

ページ範囲:P.1565 - P.1570

 要旨:肛門にきわめて近い下部直腸癌や肛門管癌に対しては手技的な問題や肛門機能の問題から肛門温存は不可能と考えられ,腹会陰式直腸切断術が一般的な術式と考えられていた.しかし最近,このような下部直腸癌に対して内括約筋を切除し,肛門機能を温存しようとする初めての試みがヨーロッパで施行され,本邦でもこの術式に対する誤解や拡大解釈が一部ではなされてはいるものの,次第に理解が深まり,新しい術式に挑戦する施設が多くなってきた.筆者らはこの術式に対する欠点を補うために,肛門挙筋を切離して内括約筋を含めて深・浅外括約筋を合併切除し,肛門を温存する新しい術式,すなわち究極の肛門温存術を考案し実践している.ここでは腫瘍学的な理論的背景と手術手技の実際を紹介する.

Fixed Recurrent Tumorに対する仙骨合併骨盤内臓全摘術

著者: 森谷宜皓 ,   上原圭介 ,   山本聖一郎 ,   赤須孝之 ,   藤田伸

ページ範囲:P.1571 - P.1576

 要旨:局所再発には吻合部断端再発から骨盤内を占拠するような巨大なものまであり,治療成績を論ずるには症例の背景を十分吟味する必要がある.骨盤壁に固定ないし浸潤をきたした57例の局所再発癌に対して仙骨合併骨盤内臓全摘術を施行した.手術適応,手術手技の実際を具体的に記述した.最も頻度の高い合併症は仙骨創の哆開で58%にみられた.症例経験に比例して出血量は減少し,合併症率も低下した.3年生存率は64%,5年生存率は41%であった.TPESなどの拡大手術を行うにあたっては各科合同で手術適応を検討し,手術においてもチーム医療としての対応が不可欠であることを強調しておきたい.

カラーグラフ 内視鏡外科手術に必要な局所解剖のパラダイムシフト・3

腹腔鏡下幽門側胃切除術

著者: 松田年 ,   星智和 ,   和久勝昭 ,   大沼淳 ,   葛西眞一 ,   加藤一哉

ページ範囲:P.1511 - P.1516

はじめに

 腹腔鏡下手術は低侵襲であることから,様々な疾患に対して行われるようになってきた.胃癌に対する腹腔鏡下胃切除術もその1つであるが1~3),手技の難しさゆえに広く普及するには至っていない.その原因としては,(1)腹腔鏡下手術特有の視野の狭さ,(2)操作ポートの数と動作が限られており,特殊な器具を使用しなければいけないこと,(3)腹腔鏡下の郭清が困難で不十分であると思われていること,(4)腹腔鏡下に適した消化管吻合器が開発されていないこと,が挙げられる.

 われわれは1996年から腹腔鏡補助下幽門側胃切除術を開始し,その手術手技の改良に努めてきた4).1998年には,腹腔鏡下手術を専門に行っていない施設でも受け入れやすい手技として,ハンドアシスト法を併用した腹腔鏡補助下幽門側胃切除術を導入し5,6),さらに改良を加えて非常に良好な結果を得ている.

 本稿では,幽門側胃切除術ついて解剖のポイントとはくはく離,切離の際のコツを中心に解説する.

目で見る外科標準術式・54

坐骨直腸窩痔瘻に対する括約筋温存術式と肛門保護手術(Hanley変法)

著者: 瀧上隆夫 ,   嶋村廣視 ,   竹馬彰 ,   根津真司 ,   仲本雅子 ,   竹馬浩

ページ範囲:P.1577 - P.1583

はじめに

 坐骨直腸窩痔瘻は痔瘻の中で低位筋間痔瘻についで多く約20%を占める.原発口はほとんどの場合6時の方向にある.原発口から細菌が侵入し,内外括約筋間に膿瘍を形成し,さらにCourtney's space(深肛門後隙,原発巣)と呼ばれる間隙を経て,左右の坐骨直腸窩に炎症が波及して形成される痔瘻である.片側のみの痔瘻はsinglehorse shoetype(Ⅲu),両側のものはhorseshoetype(馬蹄型痔瘻ⅢB)と呼ばれ,肛門尾骨靱帯を穿破したものである.

 痔瘻の治療の原則はいずれの型であろうとも原発口,原発巣,感染巣の完全除去であることに変わりはない.坐骨直腸窩痔瘻(膿瘍)の治療において,創をすべて開放するには肛門に対するダメージが大きく,諸家により根治性を維持しながら括約筋を可及的に温存し,術後創の変形の少ない術式が種々工夫されてきた1,2).1965年Hanley3,4)は坐骨直腸窩膿瘍に対して肛門後方の原発口から内括約筋の一部,皮下,浅外括約筋の一部を切開し,原発口,原発巣を開放創とし,左右に広がる膿瘍に対しては皮膚切開を行い,ドレナージ創を作製することでほとんどの症例で良好な成績を上げたと発表している.その後原発口から内括約筋の一部と皮下外括約筋は切開するが,浅外括約筋は切開しないで膿瘍腔,瘻管を開放するHanley変法が一般的に行われるようになった.

 筆者らは坐骨直腸窩痔瘻の手術に対しては一般的には原発口,原発巣,二次口を含めた瘻管を可及的にくり抜き,肛門後方の死腔となった括約筋間隙を強彎Vicryl(R)糸で縫合・閉鎖し,その縫合・閉鎖部を肛門管上皮および直腸粘膜で被覆縫合する術式5)をとっているが,坐骨直腸窩膿瘍で一期的に根治手術をめざす場合や,原発巣周囲の炎症が強く,瘻管をうまくくり抜けない場合はHanley変法で行っているので,この稿では筆者らの行っている坐骨直腸窩痔瘻の手術術式について述べる.

外科の常識・非常識 人に聞けない素朴な疑問 11

胆囊の病理組織検査は必要か

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1584 - P.1585

【素朴な疑問】

 腹腔鏡下手術の時代になって胆囊を摘出する症例が増加しており,以前に比べて炎症の軽い胆囊症例が増え,胆囊癌を合併する頻度は減少している.胆石症で胆囊を摘出すれば,胆囊を病理組織検査に提出し,病院によっては結石の成分分析や胆汁の細菌検査も行っている.胆囊を病理組織検査に提出する目的は何であろうか.「胆囊癌を見落とさないようにするため」という理由もあるだろうが,すべての胆囊を一律に病理組織検査に提出する意義はあるのだろうか.

病院めぐり

長崎県立島原病院外科

著者: 松尾繁年

ページ範囲:P.1586 - P.1586

 当院(旧 島原温泉病院)は昭和41年4月に温泉利用のリハビリテーション医療を中心とした一般病床(内科,外科,整形外科)200,肢体不自由児病床100の計300床で長崎県島原市に開設されました.当地,島原は長崎県の島原半島の東部に位置し,背後に遠く普賢岳を配し,眼下に有明海を望む風向明媚な城下町です.

 昭和48年に脳神経外科が常設となり,昭和57年の肢体不自由児病床の廃止とともに,300床の一般病床のみの病院と生まれ変わりました.その後,皆様ご存知の平成3年6月の雲仙普賢岳噴火災害を乗り越え,平成8年に災害拠点病院の指定を受けました.平成11年と13年には麻酔科および小児科が常設科となり,平成14年1月24日に一般病床254床(感染病床4)の新病院が開設されました.さらに泌尿器科と眼科が常設科となって名称も長崎県立島原病院と改称し,文字どおり島原半島における拠点病院となりました.

トヨタ記念病院外科

著者: 辻秀樹

ページ範囲:P.1587 - P.1587

 トヨタ記念病院は1938年11月にトヨタ自動車工業(株)診療所として,挙母工場(現 本社工場)地内に発足しました.1942年に全37床のトヨタ病院として開院し,1987年には会社創立50周年記念事業の一環として名前もトヨタ記念病院と改め,新病院として現在の地に移転しました.現在,病床数は513床で標榜科は36科と,ほとんどすべての疾患を網羅できる病院となっています.

 2000年に稲垣春夫院長が就任し,「トヨタにふさわしいトップ水準の急性期病院を目指すこと」が目標となりました.これらの目標を実現していくため2003年9月には電子カルテを導入し,外来棟と全室個室の新病棟の新築を行い,さらに2004年7月には救急処置室の拡充(ERトヨタ)と,集中治療室の新設などの院内全面改装を完成させました.

日米で異なる外科レジデント教育・医療事情(第6回)

外科専門医試験とABSITE

著者: 十川博

ページ範囲:P.1588 - P.1589

◇はじめに◇

 外科レジデント教育の目的は米国のスタンダードな診断,治療が単独で行える外科医を5年間で育成するということだと思われる.5年間の後に外科専門医試験(通称ボードイグザム)に通らねばならない.これは筆記と口答試問に分かれ,それぞれ毎年75%および83%程度の合格率であるから,どちらも一度で合格する率は約62%となる.就職する際には常にBoard certifiedかどうか問われる.外科レジデント終了後数年以内には合格していないとその後は厳しい.外科専門医試験はほとんどが臨床外科学を問う試験なのに対し,インサービスイグザムと呼ばれるABSITE(American Board of Surgery In-Training Examination:通称アブサイト)は外科に関連した基礎医学と臨床外科学が半分ずつ問われる試験になっている.後者は外科のレジデントの間に年に1回,米国のすべての外科レジデントが受けなければならない(通常1月の最後の土曜日に全米で一斉に行われる).そして,自分がその学年の上位あるいは下位何パーセントにいるのか,どの分野が弱いのかがわかるシステムになっている.当然,成績は各プログラムのディレクターに通知され,平均点を下回ると呼び出される.また,それぞれの外科レジデントプログラムはその成績を見て,どの分野が全体として成績がよくないのかを参考にプログラムのカリキュラムを変えたりする.

 今回はそのボードイグザムとアブサイトについて述べる.

海外医療事情

ハンガリーの医療事情

著者: 大久保雄彦 ,   村上三郎 ,   辻美隆

ページ範囲:P.1591 - P.1594

はじめに

 奇妙な縁から,筆者らの教室はハンガリー国の4つの医科大学,国立がんセンターなどと深い連携をもっており,毎年student exchange programによる数人の学生の交換,外科医相互の訪問と研鑽を続けている.かく申す筆者らもハンガリーのデブレツェン医科大学,国立がんセンターにおいて大変な例数の乳癌はじめ種々の癌を経験し,それ以降も交流を続けている.

 我々はヨーロッパを西ヨーロッパと東ヨーロッパに2つに区分すべきものと錯覚しているが,実は第二次世界大戦までイタリア-スイス-オーストリア・ハンガリーが中央ヨーロッパ(セントラルヨーロッパ)であった.さらに遡れば,ハプスブルク王朝のオーストリア・ハンガリー帝国は実にヨーロッパ本土の1/4を領有していた.また,乱暴な言い方が許されるなら,日本とハンガリーは2,000年前の同根の民族である.アッチラ大王に率いられ,中央アジアを出発して西に向かったフン族がハンガリー,フィンランドに落ち着き,東に向かったものが朝鮮半島・日本に達した(ウラルアルタイ語族).顔,体型は違っても血のなせるわざか,会ってすぐさま互いに並々ならぬ親近感を覚える.

 今回,ハンガリーの医療事情,医学教育,そして外科現況の一端を紹介したい.

近代腹部外科の開祖:Billroth

ビルロート余滴・24―最終章

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.1595 - P.1599

 過去2年間「ビルロート余滴」と題して,これまであまり知られてこなかった(と筆者は考えた)ビルロートを紹介すべく連載を続けてきたが,今章で最終回となる.この連載を続けるにあたって,内外のビルロート関連文献を渉猟してきたわけであるが,最終回を前に筆者の手元にはある程度のビルロート関連資料が集まってきた.そこで,今回の最終章では,筆者が本連載に際して参考にしてきた書籍や文献と,筆者が1999年に万国外科学会に参加した際にウィーンで入手したビルロート顕彰品目を紹介する.

 まず最初に挙げる文献は,筆者がウィーンを訪れた際にビルロート探訪のためのガイドブックとして重宝した故 堺哲郎教授の「Theodor Billrothの生涯」である(タイトル中の“Theodor Billroth”の部分はビルロート直筆のサインを転用している).本連載のなかで何回も言及してきたが,堺教授が昭和58年(1983年)から4回にわたって雑誌「外科」に連載された(おそらく日本ではじめての)ビルロートの評伝である〔詳しくは南江堂発行の「外科」(28:1206-1213,1315-1323,29:100-109,429-439)に4回にわたって掲載されているので,ぜひとも参照されたい〕.

臨床研究

大腸穿孔に伴う急性肺障害に対する好中球エラスターゼ阻害剤の有効性についての検討

著者: 鈴木慶一 ,   勝又貴夫 ,   大野通暢 ,   橋本健夫 ,   古川潤二 ,   山崎晋

ページ範囲:P.1601 - P.1606

はじめに

 大腸穿孔は胃十二指腸潰瘍穿孔や虫垂炎穿孔に比べて比較的少数ではあるが,日常診療において時に認められる重篤な疾患である.しばしば重篤な細菌性腹膜炎から敗血症性ショックに移行し,さらには急性肺障害(acute lung injury:ALI)や急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)を合併する頻度も多く,その予後は不良とされている1)

 今回,筆者らは大腸穿孔・便汁性腹膜炎術後に発症した急性肺障害に対して人工呼吸器管理に加えシベレスタットナトリウム(エラスポール(R))を投与し,良好な成績が得られたので報告する.さらに,診断に苦慮したため発症から手術まで長時間を要した1例を呈示する.

手術手技

非開放式腸々吻合術の実際

著者: 太田博俊 ,   二宮康郎 ,   関誠 ,   斉藤良太 ,   高橋孝 ,   高木国夫

ページ範囲:P.1607 - P.1609

はじめに

 消化管および腹腔内疾患で開腹手術を行うと,術後に種々の原因で小腸癒着を惹起し,イレウスを併発することがある.小腸の通過障害が単純に癒着はく離で終わることは稀であり,小腸の癒着はく離に加えバイパス吻合が必要になることが多い.腸管狭窄を緩和する目的にバイパス術を施行するとき,腸鉗子をかけ,腸切開して吻合するのが通常である1)が,筆者らは非開放的に腸々吻合法を行っている.腸鉗子がかかりにくい腹腔内深部でも適切な部位に腸管を切開開放することなく汚染の心配もなく造設できる.また,胃切除の再建にB-Ⅱ法吻合にブラウン吻合を併設するが,そのときも同様の方法で汚染なく造設できるので,その手技を記述する.

臨床報告・1

胃転移をきたしたPTH-rP産生乳癌の1例

著者: 堀場隆雄 ,   今井常夫 ,   舟橋啓臣 ,   菊森豊根 ,   柴田有宏 ,   日比八束 ,   長坂徹郎

ページ範囲:P.1611 - P.1615

はじめに

 乳癌の遠隔転移は一般に骨・肺・肝に多く,消化管への転移は比較的稀である1).今回,筆者らは胃転移をきたした上皮小体ホルモン関連蛋白(parathyroid hormone-related protein:以下,PTH-rP)産生乳癌の1例を経験したので報告する.

A型胃炎を伴った多発性胃カルチノイドの1切除例

著者: 野村朋壽 ,   米田啓三 ,   勝又健次 ,   一宮博勝 ,   青木達哉 ,   小栁𣳾久 ,   芹澤博美

ページ範囲:P.1617 - P.1620

はじめに

 カルチノイド腫瘍は組織学的に低悪性度の古典的カルチノイド腫瘍と高悪性度の内分泌細胞癌に分類される1,2).今回,筆者らは心窩部痛を主訴に上部内視鏡検査を行ったところ胃内に多発するカルチノイドを認めた症例を経験した.精査したところ高ガストリン血症によるA型胃炎を伴った多発性胃カルチノイドと診断した.A型胃炎を伴う多発性カルチノイドは前2者とは異なる腫瘍であり,若干の文献的考察を加えて報告する.

出血を契機に発見された空腸GISTの1例

著者: 龍沢泰彦 ,   木下静一 ,   平能康充 ,   清水淳三 ,   川浦幸光 ,   佐藤勝明

ページ範囲:P.1621 - P.1625

はじめに

 原発性小腸腫瘍は比較的稀であり,特有の症状や身体所見に乏しく,画像診断も困難な場合が多い1,2).また全消化管における出血源としてもきわめて少ないとされている3,4).今回,筆者らは出血を契機として発見された小腸gastrointestinalstromal tumor(以下,GIST)の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

難治性肛門周囲膿瘍で発見された魚骨による右殿部異物の1例

著者: 上山直人 ,   鶴井裕和 ,   奥地一夫 ,   藤井久男 ,   中島祥介

ページ範囲:P.1627 - P.1629

はじめに

 魚骨が生体内で異物となって引き起こす病態として口腔内や咽頭・喉頭部への刺入,消化管穿孔による胸膜炎1),腹膜炎2)などが挙げられる.しかし,今回,当施設にて右殿部を中心に再発を繰り返す難治性肛門周囲膿瘍の治療中,膿瘍腔内に魚骨による右殿部異物が発見された症例を経験した.治療経過から食事性に摂取された魚骨が直腸を穿通して肛門周囲から右殿部の脂肪組織から筋層内にとどまり,感染を引き起こしたものと考えられた.

 直腸・肛門管を離れた殿部脂肪層内から魚骨が発見された稀な右殿部異物の1例を経験したので報告する.

骨形成を伴った高齢者大腸粘液癌の1例

著者: 佐藤裕 ,   田坂健彦 ,   山崎徹 ,   岸川英樹

ページ範囲:P.1631 - P.1634

はじめに

 骨形成を伴う大腸癌は稀で,その報告はきわめて少ない2~9).今回,筆者らは術後の病理学的検索から骨形成を伴った大腸癌と診断された症例を経験したので,文献的考察とともに報告する.

前立腺癌治療中に生じた同時性食道癌,胃癌,上行結腸癌の1例

著者: 安友紀幸 ,   倉島庸 ,   川端幹夫

ページ範囲:P.1635 - P.1638

はじめに

 近年,悪性腫瘍に対する診断技術,治療の進歩により多発癌,重複癌の報告が増えている1).今回,筆者らは前立腺癌の治療経過中に食道癌,胃癌,上行結腸癌を同時性に発生した4重複癌の症例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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