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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科59巻3号

2004年03月発行

雑誌目次

特集 肝細胞癌治療の最前線

肝癌治療の現状と今後の展開

著者: 國土典宏 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.261 - P.265

 要旨:肝癌の治療は確立された手術療法に加えて非手術的治療法の進歩もめざましく,選択肢が広がり患者にとって大きな恩恵をもたらしている.年代別にみると,70年代には肝切除以外に選択肢はほとんどなかったが,80年代に入り肝動脈塞栓術が,80年代末にエタノール注入療法が開発され,主に切除不能症例や再発例に対する治療法として発達した.局所療法はその後,ラジオ波焼灼術という新しいmodalityに中心を移した.90年代後半からは肝癌に対する肝移植の有用性が再認識され,わが国では生体肝移植が症例を慎重に選択しながら行われている.再発の多いこの悪性腫瘍に対する最善の治療法をどのように選択して患者に提供するかについて,判断材料となるべきエビデンスの集積と指針(ガイドライン)の整備が急がれる.

肝癌における樹状細胞療法

著者: 岩下幸雄 ,   後藤茂 ,   田原光一郎 ,   佐々木淳 ,   太田正之 ,   北野正剛

ページ範囲:P.267 - P.271

 要旨:樹状細胞治療は,腫瘍抗原に対する特異的な免疫反応を誘導することにより治療効果を期待する方法である.筆者らは肝癌患者に対して樹状細胞治療臨床第Ⅰ相試験を行い,本治療法は肝癌患者に対しても安全で施行可能であることを確認した.治療を行った10例のうち,腫瘍の縮小を1例,腫瘍マーカー低下を2例に認めた.免疫反応は,治療後皮内反応の陽転を7例に認め,抗腫瘍免疫反応の誘導が示唆された.樹状細胞治療は今後,症例の選択や抗ウイルス治療あるいは遺伝子治療の併用などにより治療効果を増強することで,肝癌に対して理想的な治療法になる可能性がある.

統合staging systemを用いた肝細胞癌の予後予測および治療法選択

著者: 鄭浩柄 ,   工藤正俊

ページ範囲:P.273 - P.278

 要旨:肝細胞癌患者を簡便に層別化する方法として,癌の進行度および肝予備能の両者を併せたいくつかの統合staging systemが考案されてきた.それらのうち世界的にある程度有用性が評価されてきたCLIP scoreと,わが国にて最近注目されつつあるJapan Integrated Staging(JIS)scoreを用いて,3,884人の初発肝細胞癌患者の層別化を行い,staging system別に,また同一スコアグループにおいて初回治療法別に累積生存率を比較した.JIS scoreはCLIP scoreに比し,早期から進行病変まで幅広い患者の層別化,より正確な予後予測が可能かつ治療成績評価にも有用であり,とくに早期病変の多いわが国に適した統合staging systemと考えられた.

肝癌に対するcryoablation(凍結融解壊死治療)

著者: 若林剛 ,   田邊稔 ,   上田政和 ,   島津元秀 ,   河地茂行 ,   北島政樹

ページ範囲:P.279 - P.287

 要旨:筆者らは低侵襲かつ局所根治的な肝癌の治療を目指して,肝癌の存在様式と肝予備能・全身状態(治療歴,年齢など)に応じて個別化した低侵襲肝癌手術という概念を提唱し体系化を試みている.低侵襲肝癌手術の内訳は内視鏡下肝切除,内視鏡下ablation,経皮的ablation,小開腹下肝切除/ablationであり,個々の肝癌患者ごとに個別化した低侵襲手術を行っている.

 当教室では熱凝固治療の欠点を補う治療として,近年開発された米国Endocare社のアルゴンガス凍結治療装置を2002年1月に導入し,2003年8月末までに肝細胞癌82例,転移性肝癌18例の全100例に使用した.このうち59%の症例がいわゆるablationの適応といわれる「腫瘍径3cm,腫瘍個数3個以内」の基準をこえていた.この装置では,冷却開始前に8本まで冷却針を病巣部に挿入し同時または個別に冷却が可能なため,解剖学的に複雑な治療域を確保しやすく,大型腫瘍も凍結可能である.個別化・低侵襲肝癌手術は肝癌の低侵襲かつ局所根治的治療として有効であり,アルゴンガス凍結治療は重要な位置を占めた.

門脈内腫瘍栓を伴う進行肝細胞癌に対するインターフェロン併用化学療法

著者: 宮本敦史 ,   永野浩昭 ,   丸橋繁 ,   左近賢人 ,   門田守人

ページ範囲:P.289 - P.292

 要旨:肝細胞癌に対する治療法の進歩にもかかわらず,脈管侵襲を伴う症例の予後はきわめて不良である.当科では,門脈本幹あるいはその一次分枝に腫瘍栓を伴う高度進行症例に対して,5-FUの持続肝動注療法にinterferon-αの全身投与を併用することにより良好な成績を上げてきた.とくに,全肝に多発病変を伴う切除不能症例に対しても約50%の奏効率を認め,有効例では50%生存期間が24か月となるなど,きわめて良好な結果を得ている.本法は,既存の治療法の組み合わせでは予後の改善が望めない難治性進行肝細胞癌に対する新たな治療法として期待される.

切除不能肝細胞癌に対する減量肝切除と経皮的肝灌流による集学的治療

著者: 富永正寛 ,   具英成 ,   岩崎武 ,   福本巧 ,   楠信也 ,   土田忍 ,   高橋応典 ,   田中基文 ,   武部敦志 ,   黒田嘉和

ページ範囲:P.293 - P.301

 要旨:新しい外科治療戦略として,従来切除不能の高度進行多発肝細胞癌に対し減量肝切除と経皮的肝灌流(PIHP)の2段階治療の有効性について述べる.

 2段階治療対象例は31例(stageⅣA/ⅣB;23/8)で,腫瘍分布により遍在型と多中心型に分類した.術式は遍在型で葉切除以上が大半で6例に門脈本幹腫瘍栓を同時摘出した.多中心型は全例部分切除,うち3例で腹腔内孤立性リンパ節を同時切除した.遍在型はB型肝炎,肝機能良好例で大型かつ高度血管侵襲陽性例が多かった.PIHPは肝切後平均2回施行した.2段階治療完遂27例では奏効率85%(CR 13例,PR 10例)で,CRは全例遍在型であった.生存率は,完遂27例で1年生存率87%および5年生存率41%ときわめて良好であった.とくに遍在型では,3年生存率62%に対し多中心型0%と遍在型で予後改善が顕著であった.一方,Vpの3年生存率は陽性43%,陰性48%とVp陽性でも陰性と同等レベルまで改善した.従来切除不能の大型多発例や門脈腫瘍栓併存例でも肝機能が許せば本法により中期ないし長期予後の改善が高率に得られ,とくにVp陽性の腫瘍遍在型は至適適応であり,本法が合理的で強力な治療戦略になると考えられた.

肝細胞癌に対する外科切除

著者: 猪飼伊和夫 ,   藤井英明 ,   上杉毅彦 ,   波多野悦朗 ,   嶌原康行

ページ範囲:P.303 - P.307

 要旨:肝細胞癌の治療法として肝切除は局所制御能の観点からみると最も優れている.術前の腫瘍因子と肝機能評価による適切な手術適応と術式の選択,手術手技の改善,周術期管理の向上により肝細胞癌の外科的治療は安全に行えるようになり,手術死亡は1%以下となった.第15回全国原発性肝癌追跡調査報告では肝切除全例の1年,3年,5年生存率は各々87.4%,69.0%,52.3%であり,単発腫瘍の治療成績は他の治療法と比較し良好である.また門脈腫瘍栓症例においても長期生存例が得られており,積極的な外科治療が望まれる.

肝細胞癌に対する生体肝移植治療:適応拡大に向けた新たな戦略

著者: 佐藤好信 ,   山本智 ,   中塚英樹 ,   大矢洋 ,   原義明 ,   小林隆 ,   竹石利之 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.309 - P.316

 要旨:肝細胞癌に対する生体肝移植医療の問題点と筆者らの独自の試みを述べた.適応基準としてミラノ基準が世界的な基準となっているが,生体肝移植においてはより優れた適応基準,そして適応拡大をもたらす戦略的治療の必要性が求められている.

 筆者らは新たな適応基準として,移植後流血中肝癌細胞の転移着床の観点から血中h-TERT mRNAに注目した.また適応拡大の工夫として,ミラノ基準逸脱例に移植前5-FU+IFNβによる免疫化学療法,そして術後転移着床予防としてアドリアマイシンの全身投与と5-FUの門脈内投与(Sandwich chemotherapy)を試みた.さらに免疫抑製剤の早期減量のためドナー血門脈内投与を行った.移植直前h-TERT mRNA陽性症例は全例早期再発をきたした.また移植前陽性症例であっても,免疫化学療法で陰性化した症例は再発を認めなかった.ドナー血門脈内投与は免疫抑制剤の早期減量,ステロイド早期離脱を可能にした.今後より良い適応基準と治療法の開発により,ミラノ基準をこえた適応拡大が可能となってくるものと思われる.

C型肝炎における宿主免疫の解析とその進歩

著者: 中本安成 ,   金子周一

ページ範囲:P.317 - P.323

 要旨:C型肝炎ウイルスは,水平感染した後に60~80%と高率に持続感染が成立する.高率に慢性化する病態における宿主免疫の特徴について最近の知見を中心に考察した.C型慢性肝炎患者におけるTリンパ球,単球の特徴として,細胞質Bcl-2タンパクが低下してアポトーシス感受性が亢進していることが示された.また抗ウイルス反応の主役である細胞傷害性Tリンパ球については,高感度なテトラマー技術を用いても少数しか検出されないだけでなく,活性化しているにもかかわらず抗ウイルスサイトカインであるインターフェロンγの産生能が低下していた.これよりC型慢性肝炎においては,ウイルスの排除に十分な免疫反応が誘導されにくい病態であると考えられた.

カラーグラフ 世界に向かう甲状腺疾患診療の新技術・4

甲状腺の内視鏡補助手術:アプローチの工夫

著者: 池田佳史 ,   高見博 ,   田島厳吾 ,   佐々木裕三 ,   高山純一 ,   栗原英子 ,   宮部理香

ページ範囲:P.255 - P.259

甲状腺疾患の開放手術による頸部の手術

 創と皮弁の形成は,頸部の違和感や無感覚などの感覚の問題と硬結や肥厚性瘢痕などの整容性の問題が生じる.またときには,皮下縫合の癒着によって,嚥下時の引きつれや違和感を引き起こしてしまうこともある.このように頸部の手術創は整容性の問題だけではなく,患者のQOLを低下させている.

 近年,外科領域の技術と器具のめざましい進歩により,内視鏡下に外科手術が行われることが可能となってきた.頸部の手術においても1996年にGagner1)が内視鏡下に副甲状腺摘出術を行って以来,急速に広まってきた.欧米では,従来の内視鏡下手術の利点である低侵襲という点が追求され,頸部の小さい創から内視鏡を利用して,手術操作腔をできるだけ小さくする手技が考案され好んで行われている2)

 一方,日本では内視鏡下手術のもう一方の利点である整容性が追求され,頸部から離れた手技が考案されてきた3,4).筆者は,1999年に娘が腕を挙げて眠っている姿からヒントを得て,腋窩より甲状腺・副甲状腺の手術を行うことを開発した5).以降徐々に改善を加えて,現在教室では,前胸部6),腋窩アプローチ法5,7)による内視鏡下甲状腺切除術を行っている.それぞれの方法には利点と欠点があり,患者の要求に応じた術式を施行する必要がある.それぞれの手術手技とアプローチ法の特徴を紹介する.

目で見る外科標準術式・46

大腿ヘルニア

著者: 宮崎恭介

ページ範囲:P.325 - P.329

はじめに

 大腿ヘルニアとはヘルニア囊が腹部内臓の一部や腹膜前脂肪織を伴って大腿輪から大腿管の中に脱出し,さらに大腿卵円窩に突出するヘルニアである.手術術式には鼠径靱帯の上からアプローチするのか下からアプローチするのかの違いにより,鼠径法と大腿法の2つがある.鼠径法では本来ヘルニアのない鼠径靱帯より上の腹壁にも手術侵襲が加わるため,大腿輪に加えて鼠径管後壁の補強も同時に行わなければならない.一方,大腿法では大腿輪のみを閉鎖する方法であるが,視野が悪いためヘルニア門である大腿輪を閉鎖することが困難であるとされてきた.

 プラグ(Bard(R)PerFix(R)Plug,メディコン社製)を用いた大腿法(以下,プラグ・大腿法)は,大腿管にプラグを挿入することで大腿輪を確実に閉鎖することのできる最も簡単な大腿ヘルニア修復術1~3)で,非嵌頓例であれば15分程度で施行可能である.本稿ではプラグ・大腿法について,その術式を詳細に解説する.
適 応

病院めぐり

静岡県立静岡がんセンタ一外科

著者: 上坂克彦

ページ範囲:P.330 - P.330

 静岡県立静岡がんセンターは,2002年9月に開院したばかりの,日本で最も新しいがん専門病院です.新幹線三島駅から北へ車で約15分,富士山を背に駿河湾を一望する自然豊かな丘陵地に建設されました.11階建ての本棟とその前にせり出した3階建ての外来棟,本邦で6番目の施設となる陽子線治療棟,緩和医療別棟からなり,周囲を庭園で囲まれたガーデンホスピタルとして患者さんに癒しの空間を提供しています.開院時は315床を開棟し,2003年5月から403床で運用,その後順次病棟を開き,最終的に2005年度には615床全面開棟する予定です.

 当センターの基本理念は“患者の視点の重視”であり,その実現のためにさまざまな工夫や取り組みを行っています.外来診察室はすべて個室で,また外来待合室で患者さんの名前を呼ばないようにするための呼び出し用PHSシステムを採用,病棟はその約5割が個室,残りは二人部屋となっており,患者さんのプライバシーを最大限に保護するよう設計されています.外来には乳癌・婦人科系癌専用の女性センターを設け,また病棟10階は女性専用病棟としています.開院時から全面的に電子カルテシステムを採用し,入院患者は各ベッドに一人一台あるベッドサイド端末によってさまざまな情報にアクセスすることができます.例えば病院案内を見たり特別食の注文をできるほか,暗証番号を入力すれば自分自身の血液検査結果や診療スケジュールも見ることができます.外来棟にはよろず相談を設け,専任の看護師,MSW,事務を配置し,院内・院外のがんにかかわるあらゆる相談を受け付けています.当センターではハード・ソフトにおけるこうした取り組みを通して,単に高度で先進的な医療を提供するだけでなく,癒しのアメニティーの提供,安全の重視,患者の権利やプライバシーの保護,情報公開などを進め,21世紀の新しいがんセンターとしてのあるべき姿を模索しています.

遠州総合病院外科

著者: 水上泰延

ページ範囲:P.331 - P.331

 浜松市は静岡県西部に位置し,人口は60万人で,浜名湖に近接し,平成16年4月より浜名湖花博が開催されます.浜松駅から歩いて10分のところにある当院は,地域医療の中核病院としての役割を果たしています.昭和21年に静岡県農業会遠州病院として病床40床で開設し,昭和23年に静岡県厚生農業協同組合連合会の直営となり,昭和34年に現在の遠州総合病院と改称されました.平成11年には開放型病院の承認を受け,開業医との共同診療を行い,病診連携を図っています.

 現在,診療科は12科,病床数は402床,常勤医は38名で診療を行っています.外来患者数は1日平均700人,平均在院日数17日,紹介率38%で,急性期病院加算を取得しています.

近代腹部外科の開祖:Billroth

ビルロート余滴・15―ビルロートと乳腺,泌尿器外科

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.332 - P.334

 Billrothが多分野において数々の先駆的業績をあげてきた具体例として,前回は「ビルロート余滴・14」として甲状腺外科について述べたが,今回は乳腺と泌尿器領域の癌とのかかわり合いについて述べる.

 Halstedがいわゆる「standard radical mastectomy」という術式を提唱したときから10数年遡った1879年に,Billrothの弟子の一人のAlexander Winiwarter(1848~1917年,図1)が,Billroth clinicにおける乳癌の外科治療成績について論文を発表している.これによると,143例の乳癌手術症例中34例(23.7%)が感染症で死亡し(経過観察期間は明記されていないが),55例(38.5%)が再発死したとしている.この頃Billrothが採用していた術式は,現在の術式でいうと「乳房全切除(total mastectomy)」に相当するものであるが,これはいわゆる「所属リンパ節を含んだ系統的な一括切除(en blocresection)」ではなかった.ただし,胸筋に癌が及んでいる場合には胸筋切除を,腋窩リンパ節の腫大が認められるときには同部の郭清を付加していたようである.

私の工夫 手術・処置・手順

肝表面の肝腫瘍切除のための高周波円形電気メスの開発

著者: 宮澤光男 ,   鳥井孝宏 ,   岡田克也 ,   小山勇

ページ範囲:P.336 - P.337

 肝表面に存在し肝の辺縁には存在しない肝腫瘍の肝部分切除には定型的な方法がない.その理由としては,腫瘍が肝表面に存在するため簡単に切除可能と判断されると考えられるが,腫瘍の大きさが3cm以上となると実際には困難な症例がある.一般的には,一定のサージカルマージンをとり,図1のように切除ラインに糸を掛け,牽引しながら種々の肝切除器具(超音波電気メスなど)で辺縁から徐々に中枢方向に切除を進めることになる.

 しかし,とくに,基礎疾患として肝硬変がある場合は,切除肝の糸による牽引が十分とはならないため,腫瘍によって中枢方向が直視できず,次のような問題が生じてくる.①肝の中枢方向のサージカルマージンが不確実になりやすい.②腫瘍の栄養血管が直視できず,切除時に思わぬ出血を招く.③腫瘍が障害となり,止血が困難である.このような問題点を解決し,サージカルマージンを確保し,低侵襲で短時間に確実に肝切除を可能とする円形の高周波電気メスを開発したので紹介する.

臨床報告・1

異時性孤立性脾転移をきたした虫垂癌の1例

著者: 塚原明弘 ,   田中典生 ,   丸山聡 ,   小山俊太郎 ,   武田信夫 ,   下田聡

ページ範囲:P.340 - P.342

はじめに

 脾臓は悪性腫瘍の転移の少ない臓器とされており1),とくに大腸癌の転移はまれである.今回筆者らは,異時性孤立性脾転移をきたした虫垂癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

初回手術から28年後に再燃した胆囊十二指腸瘻の1例

著者: 中川原寿俊 ,   川崎磨美 ,   古屋大 ,   吉光裕 ,   上田順彦 ,   澤敏治

ページ範囲:P.343 - P.346

はじめに

 胆囊十二指腸瘻は胆石症の合併症としてときおり経験されるが,手術の際,胆囊周囲の癒着が強いために一部胆囊を遺残せざるを得なかったり,瘻孔の閉鎖も困難となることがある1).しかしそれらの症例の長期経過については不明な点が多い.今回筆者は,胆囊十二指腸瘻を合併した胆石,総胆管結石手術から28年後に,総胆管結石にて発症した胆囊十二指腸瘻再燃の1例を経験したので報告する.

下大静脈に接した再発肝癌に対してマイクロ波凝固療法,エタノール注入併用療法が著効した1例

著者: 山村進 ,   江上格 ,   渡辺秀裕 ,   宮本昌之 ,   飯田信也 ,   田尻孝

ページ範囲:P.347 - P.350

はじめに

 肝細胞癌に対する治療方法は肝切除術などの外科的療法に加え,肝動脈塞栓療法(TAE)や,エタノール注入療法(EIT)などが症例に応じて広く行われている.近年,マイクロ波凝固療法(microwave coagulation therapy:MCT)による良好な結果が報告されている1).しかし病変局在が右横隔膜ドーム内でそのうち肝静脈-下大静脈(IVC)接合部のものは手術的にも,凝固療法でも治療が最も困難である2).このような症例に対して,今回筆者らは,再発肝癌に対してEIT,MCTの利点を生かした治療法を行い,良好な効果を認めている1例を経験したので報告する.

転移性肝癌との鑑別が困難であった 肝膿瘍併発S状結腸癌の1例

著者: 安友紀幸 ,   下沢英二 ,   磯村洋

ページ範囲:P.351 - P.354

はじめに

 近年,大腸癌に併発した肝膿瘍の報告が散見されるようになってきた1).今回,筆者らは進行S状結腸癌の転移性肝癌との鑑別が困難な肝膿瘍を併発した症例を経験したので報告する.

悪性リンパ腫化学療法中に発症した十二指腸穿孔の1例

著者: 武市卒之 ,   竹吉泉 ,   富沢直樹 ,   川手進 ,   岡野孝雄 ,   田中俊行 ,   福里利夫 ,   大和田進 ,   森下靖雄

ページ範囲:P.355 - P.357

はじめに

 近年,化学療法の進歩により血液悪性疾患の治療成績が向上している.一方,化学療法に起因する消化管穿孔例の報告も散見される1,2).今回筆者らは,悪性リンパ腫治療中に発症した十二指腸穿孔の1治験例を経験したので報告する.

絞扼性イレウスにて発症した虫垂粘液囊腫の1例

著者: 末光浩也 ,   江田泉 ,   中島裕一 ,   宗淳一 ,   大塚昭雄 ,   須藤一郎

ページ範囲:P.359 - P.361

はじめに

 虫垂粘液囊腫は虫垂切除例の0.2~0.3%1)に認められるが,絞扼性イレウスをきたした症例はきわめてまれである2,3).今回筆者らは,虫垂粘液囊腫が回腸に巻き付き絞扼性イレウスをきたした1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

早期直腸癌に対してcircular staplerで切除した1例

著者: 有田道典 ,   福田康彦 ,   小林剛 ,   田中恒夫 ,   土肥雪彦

ページ範囲:P.363 - P.366

はじめに

 自動縫合器を利用したPPH(procedure for prolapse and hemorrhoids)とよばれる痔核手術は,1993年にイタリアのLongo1) が始めた手技である.その有用性が報告され,本邦でも行われるようになり,当院においては1999年9月に導入してこれまで約200例の痔核症例に対して施行してきた2).この手技は実際の手術内容からは,stapled anopexy,stapled hemorrhoidectomyともよばれ,あくまでも直腸脱や痔核が対象であり,この際に用いられるcircular staplerを直腸の腫瘍性病変の切除に応用した報告はこれまでにみられない.

 当院におけるこれまでのPPH手術経験を踏まえて,早期直腸癌に対してcircular staplerを応用して完全切除し得た症例を経験したので,その有用性について報告する.

発見が困難であった長期経過潰瘍性大腸炎における進行大腸癌合併の1例

著者: 吉岡慎一 ,   三嶋秀行 ,   辻仲利政

ページ範囲:P.367 - P.370

はじめに

 長期に経過した潰瘍性大腸炎の合併症として大腸癌の発生が知られている.潰瘍性大腸炎の経過観察として大腸内視鏡検査や注腸検査を定期的に行っているにもかかわらず,潰瘍性大腸炎の癌化はその特性により発見が難しく,また発見の難しさから診断された時点で進行癌であることが多く,予後不良とされている1)

 潰瘍性大腸炎に併発した大腸癌は,潰瘍性大腸炎のサーベイランスにより発見されることが大半であるが,その診断は必ずしも容易ではない.今回,1年以内に術前内視鏡と注腸検査が施行されているにもかかわらず術前診断が困難であり,急性腹症様の症状があったために,手術をすることになりはじめて発見された潰瘍性大腸炎に発生した進行大腸癌の症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

膿瘍を形成した大腿ヘルニア内虫垂嵌頓の1例

著者: 齋藤心 ,   小島正幸 ,   清水敦 ,   反町政巳 ,   金田文輝

ページ範囲:P.371 - P.374

はじめに

 大腿ヘルニアは鼠径ヘルニアと比べて嵌頓率が高いとされ1),ヘルニア内容については小腸,大網が大半を占め,虫垂が内容となることはまれである2).今回筆者らは,内容が虫垂であり膿瘍を形成した大腿ヘルニア嵌頓症例を経験したので報告する.

術前に印環細胞癌が疑われた横行結腸内分泌細胞癌の1例

著者: 中鉢誠司 ,   内田孝 ,   奥山吉也 ,   名久井雅樹 ,   玉橋信彰

ページ範囲:P.375 - P.378

はじめに

 消化管に発生する内分泌細胞由来の腫瘍は,カルチノイドと高悪性度の内分泌細胞癌に大別される.大腸内分泌細胞癌は早期より血行性およびリンパ行性転移をきたす予後不良な疾患である1,2).術前低分化腺癌や未分化癌と診断されたなかに,術後の検索によって内分泌細胞癌と診断された症例が報告されている3).今回,筆者らは腫瘍粘膜面に多数の粘液産生細胞を伴い,術前印環細胞癌が疑われた横行結腸内分泌細胞癌の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

臨床報告・2

頸部外切開により摘出した食道壁内埋没魚骨異物の1例

著者: 吉田禎宏 ,   鳥羽昭三 ,   斉藤恒雄 ,   今冨亨亮 ,   井川浩一 ,   中田昭愷

ページ範囲:P.379 - P.381

はじめに

 食道異物のなかで魚骨は頻度の高いものであるが,一般的には内視鏡的に除去され軽快することが多い1~3).今回筆者らは,魚骨異物が頸部食道壁内に完全に埋没した症例を経験し,頸部外切開にて摘出したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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