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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科59巻5号

2004年05月発行

雑誌目次

特集 Sentinel node navigation surgery―新たなる展開

International Sentinel Node Society(ISNS)の設立と今後の展望

著者: 北島政樹 ,   北川雄光

ページ範囲:P.529 - P.533

 Sentinel node(SN)とは,腫瘍から「最初の」リンパ流を受けるリンパ節であると定義されてきた.しかし,この定義では「最初の」=「ただ1つの」という連想を生じ,誤解を招きやすいことが指摘され,腫瘍から「直接の」リンパ流を受ける1つないし複数のリンパ節と定義されるようになった.まずはその定義から述べたが,もはや今回のような特集に際して,SNの定義から解説する必要もないほど多くの学術集会や学術誌にトピックとして取り上げられている.

 ここ数年のこの傾向は,これまで画一的に行われてきた固形癌の外科治療の「低侵襲化」「個別化」を実現するために有用な手段としての期待が大きいことの現れであろう.今日ではメラノーマ,乳癌など一部の体表悪性腫瘍に限られた手法との認識は変化し,多くの固形癌への応用が検討されている.一方,この理論に関するエビデンスの蓄積,臨床的意義に関しては各臓器によってさまざまな状況にある.本特集では,それぞれの領域の最新情報がレビューされている.

 SN理論は,外科治療の個別的低侵襲化のための手段という側面だけでなく,SNを舞台とした転移形成過程や局所免疫防御機構の解明に向けた素材としても注目されはじめている.こうした状況を反映してInternational Sentinel Node Society(ISNS)が2002年に国際的学術団体として設立された.本稿では,これまでのSN研究の歴史からISNS設立までの経緯をたどり,今後の展開についても言及する.

リンパ系の生理学からみたsentinel node理論

著者: 伊古美文隆 ,   水野理介 ,   河合佳子 ,   大橋俊夫

ページ範囲:P.535 - P.543

 要旨:リンパ系は粒子状物質を組織間隙から汲み上げリンパ節へと蓄積する.この粒子移行機序を理解するためには,①組織間隙からリンパ管への液体・粒子の移動,②リンパ管を経由する液体・粒子の輸送,③リンパ節における粒子の捕捉,の各段階について検討する必要がある.この観点から本論文では,sentinel node navigation surgery(SNNS)において使用される色素や放射性コロイドのリンパ系移行に関係する基礎的な知見について紹介した.また,最近のトピックであるリンパ管新生や,腫瘍リンパ行性転移の話題についても生理学的な視点から考察した.

解剖学・組織学からみたセンチネルリンパ節手法

著者: 村上弦

ページ範囲:P.545 - P.551

 要旨:術者さえ心得ていれば,リンパ管系のマクロ的バイパスやリンパ節を介在しない食道のリンパ路は,センチネルリンパ節手法によっても同定できるであろう.しかし腹部・骨盤部のリンパ節では,リンパ節内の表層皮質の切れ目や島状の皮質配置によって生じる節内シャントも考慮すべきである.加齢変化は節内シャントを増強するであろう.加えて,硝子化やアンテラといった一般的加齢変化もリンパ節機能を改変するであろう.トレーサーと癌細胞のリンパ節内の動態に差異があれば,節内シャントや加齢変化はセンチネルリンパ節手法の障害になりえる.また,実験動物を用いたセンチネルリンパ節研究は,その評価のうえで組織学的差異を考慮すべきではなかろうか.

悪性黒色腫に対するSNNS:臨床応用の現況について

著者: 山崎直也 ,   山本明史 ,   岩田浩明 ,   高橋聡 ,   西澤綾

ページ範囲:P.553 - P.558

 要旨:1992年に,Morton,Cochranらは皮膚悪性黒色腫の治療にintraoperative lymphatic mappingとsentinel node biopsyという概念を導入し,その有用性について報告した.今日では欧米を中心に,悪性黒色腫はsentinel node conceptの成立する腫瘍として知られている.筆者らは,88例の悪性黒色腫を対象にこの方法の有用性と安全性が欧米と同程度であることを明らかにした.とくにトレーサーとしてvital dyeとRIの両者を用いて術中にガンマプローブを併用する方法の普及は,皮膚科領域では現在まだ限られた施設にとどまってはいるが,今後この方法が確立され,広く臨床応用されることによって,所属リンパ節の取り扱いだけでなく,悪性黒色腫の治療体系全体の進歩が期待される.

乳癌のSNNS:臨床応用の現況と多施設共同試験

著者: 井本滋 ,   和田徳昭 ,   山内稚佐子

ページ範囲:P.559 - P.562

要旨:乳癌におけるsentinel node navigation surgery(SNNS)は,近い将来,N0乳癌の標準的なリンパ節転移診断法になる.SNNSによって腋窩リンパ節郭清を決める外科治療が標準化すれば,全乳癌患者の半数以上は術後リンパ浮腫などの後遺症から解放される.欧米では,腋窩リンパ節郭清とSNNSを比較する臨床試験が現在行われている.日本では施設ごとのfeasibility studyが行われ,各施設の適応基準に基づいたSNNSが行われている.SNNSの発展を目指してSNNS研究会が設立された.2003年に乳癌におけるSNNSのガイドラインを刊行した.SNNSの標準化を目指した多施設共同研究も計画中である.SNNSを安全に普及させ,日本独自の臨床試験を探索するために,多施設参加によるSNNSのデータベース構築の意義は大きい.SNNSの臨床応用の現況とSNNS研究会の取り組みについて以下に述べる.

消化器癌SNNSの現況:多施設共同研究の開始に向けて

著者: 北川雄光 ,   藤井博史 ,   久保敦司 ,   北島政樹

ページ範囲:P.563 - P.567

 要旨:Sentinel node(SN)理論に基づく治療の個別化は,消化器癌領域でも大きな期待が寄せられている.単施設研究としては各種消化器癌において比較的良好な成績が散見されるようになったが,今後の臨床応用に向けて多施設共同研究の遂行が急務である.欧米では大腸癌に対する正確な病期診断を目的として多施設共同研究が進行中である.一方,早期胃癌の発見頻度が高い本邦では,SN理論を用いて早期胃癌縮小手術の適応を拡大しようとする試みがなされている.現在,JCOG胃癌外科グループとSNNS(sentinel node navigation surgery)研究会はそれぞれが独自に多施設共同研究を計画している.食道癌については数施設でSN理論の検証が行われているが,国内・外ともに大規模な多施設共同研究は行われていない.今後,消化器癌についても手技の最適化と同時に多施設共同臨床試験による検証を進めていくことが,安全な臨床応用のために重要である.

甲状腺癌のSNNS:臨床応用への展開

著者: 津川浩一郎 ,   三輪晃一

ページ範囲:P.569 - P.573

 要旨:甲状腺分化癌は予後のよい癌腫の1つであるが,そのなかでも甲状腺乳頭癌はリンパ節転移頻度の高い癌である.臨床的にリンパ節転移がないと判断された症例(N0)に対するリンパ節郭清の意義はいまだ明確ではないが,“sentinel node concept”が成立すれば,合理的な郭清,治療につながる可能性がある.筆者らの色素法による検討では,センチネルリンパ節の組織学的転移陽性率はそれ以外のリンパ節に比べて有意に高く,“sentinel node concept”が成立する可能性が示唆された.センチネルリンパ節生検により,不必要な郭清の省略,非触知の転移リンパ節の発見による治療への応用などが期待される.

肺癌のSNNS:臨床応用への展開

著者: 南谷佳弘 ,   小川純一

ページ範囲:P.575 - P.578

 要旨:肺癌ではリンパ節郭清自体の直接的な合併症が明らかにされていないことから,センチネルリンパ節(SN)概念導入の意義は,通常のリンパ節郭清よりも技術的に難しい肺の区域切除やVATS肺葉切除におけるリンパ節郭清の省略ができるかどうかということと思われる.

 肺癌領域におけるSNの研究は始まったばかりで,英文誌に掲載された論文は現時点で8施設からのみである.SN検出法は色素法,RI法,磁性体法,蛍光ビーズ法が報告されている.色素法は検出率が低く実用化は難しい.アイソトープ法は検出感度は高いが,放射線取り扱いなどの規制のため本邦で一般化するには問題点が多い.磁性体法は検出感度はRI法と比較して遜色ないが,術中使用の段階には至っていない.蛍光ビーズ法は有望な方法であるが,臨床応用されるには至っていない.

 現在まで報告された論文はいずれも肺癌におけるSNの概念導入に肯定的であるが,一般化するにはエビデンスが十分ではなく,有用性と実用性を含めたさらなる研究が必要であろう.またSN概念に基づいたリンパ節郭清省略には正確な転移診断が重要であるが,手術時間内に正確に微小転移を検出する方法が確立しておらず,この点に関しても今後の検討が必要と思われる.

Sentinel nodeをめぐる画像診断の新技術

著者: 藤井博史 ,   北川雄光 ,   池田正 ,   尾川浩一 ,   中原理紀 ,   中村佳代子 ,   北島政樹 ,   久保敦司

ページ範囲:P.579 - P.585

 要旨:Sentinel node navigation surgeryを成功させるにはセンチネルリンパ節の局在の正確な同定が必須である.センチネルリンパ節の同定には,放射性薬剤の利用が有用である.各種の画像処理技術の開発により,多くの領域の腫瘍についてセンチネルリンパ節の明瞭な画像化が可能となってきている.半導体検出器の実用化により,小型ガンマカメラを用いた術中イメージングも実現しつつある.さらに,最近では放射性薬剤以外のトレーサーの応用も検討されており,磁性体,ヨード造影剤,超音波造影剤などを用いた興味ある報告がなされている.

Sentinel nodeトレーサーの特性に関する新知見

著者: 上之園芳一 ,   愛甲孝 ,   夏越祥次 ,   東泰志 ,   衣裴勝彦 ,   有上貴明 ,   中野静雄 ,   帆北修一

ページ範囲:P.587 - P.591

 要旨:SNNSにおいて使用されるトレーサーは,大きく色素とRI標識コロイドに大別され,施設によりおのおのの判断で使用するトレーサーの選択を行っているのが現状である.しかし,トレーサーは種類や調製法によって,その粒子径や性質に違いがあり,それが同定率や正診率に影響を及ぼす可能性がある.安全かつ安定したSNNSを行うためには使用するトレーサーを十分に熟知し,選択する必要がある.筆者らは,これまで至適トレーサーを明らかにするために,トレーサーの粒子径の測定を行い,その臨床データについて検討を行ってきた.本稿では,教室で得られた粒子径に関する知見を中心にトレーサーの特性について紹介する.

術中迅速リンパ節転移診断法の新展開

著者: 藤原義之 ,   宮田博志 ,   瀧口修司 ,   安田卓司 ,   矢野雅彦 ,   門田守人

ページ範囲:P.593 - P.599

 要旨:癌手術の理想は,的確な癌進展度診断に基づく必要十分な手術を行うことである.しかし,目に見えない癌細胞の広がりを確実に,しかも手術中に捉えることは不可能であり,元来,予防的リンパ節郭清が癌に対する標準手術とされてきた.一方,近年sentinel node conceptが各種の癌について提唱されるようになり,sentinel nodeの転移状況で残りのリンパ節転移の有無を予測し,リンパ節郭清の必要性を決定できるかどうかが検討されている.よってsentinel nodeの転移診断を確実に,しかも術中に行うことが重要となってきた.筆者らは,1999年より食道癌の頸部リンパ節郭清の決定に術中迅速PCR解析を導入しており,この状況を解説するとともに,さらなる臨床応用をめざしたpost-PCRの遺伝子診断法についても解説する.

カラーグラフ 肝・膵・脾内視鏡下治療最前線・2

肝癌に対する腹腔鏡補助下肝葉切除術

著者: 新田浩幸 ,   佐々木章 ,   斎藤和好

ページ範囲:P.521 - P.526

はじめに

 外側区域あるいは肝表面に位置する肝癌を対象として,腹腔鏡下肝切除術は徐々に行われるようになり,その有用性が示されている1~4).しかし,肝葉切除術に関しては,コストの問題や手技の困難性などから,わが国ではいまだ一般的ではなく報告も少ない5,6).筆者らは1997年から腹腔鏡下肝部分切除術を開始し,2002年より腹腔鏡補助下肝葉切除術と肝区域切除術を導入し,後述する手技の工夫により成績は向上している.

 本稿では,当教室における肝癌に対する腹腔鏡補助下肝葉切除術の適応と手術手技を中心に述べる.

特別寄稿

医療制度改革とDPC(diagnosis procedure combination)

著者: 武藤正樹

ページ範囲:P.601 - P.610

はじめに

 今,病院医療が大きく変わろうとしている.病院医療が変わる理由,変わらなくてはならない理由がいくつかある.まず,大きくは医療界全体が今,大きく変わろうとしている.財政破綻寸前の国民医療費,有病率が高い後期老齢人口の増加,癌や心臓病などの高価な医療資源を大量消費する疾病の増加,遺伝子治療をはじめとするさまざまなハイテク医療技術の普及などを背景に,医療保険の支払い制度の変更や病院の病床区分のあり方などの医療供給体制全体の大幅な見直しが始まっている.

目で見る外科標準術式・48

痔核に対する結紮切除半閉鎖術式

著者: 奥田哲也

ページ範囲:P.611 - P.646

はじめに

 社会保険中央総合病院大腸肛門病センターでは年間約1,000例の痔核手術が結紮切除半閉鎖術式で行われており,さまざまな形態の痔核の切除に対応でき,術後の肛門機能が良好で後遺症の少ない術式として評価を得ている.本稿では,筆者らが実際に行っている術式について述べる.

近代腹部外科の開祖:Billroth

ビルロート余滴・17―ベルリン時代のBillrothを取り巻く人々

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.617 - P.619

 「ビルロート余滴・13」(本誌59巻1号)の「ドイツ外科学の源流」において,Billrothを生んだドイツ外科学の源について述べたが,今回は(若干話が前後するが),ここでの学究生活を通じて後に外科学を志向するようになるBillrothが在籍していた頃のBerlin大学の医学者群を紹介する(彼らは,ときには師としてまたときには学友として,後にBillrothが外科医として大成するに際して,有形無形に多大な影響を及ぼしたと考えられる学者達だからである).

 さて,1851年に母親の死去を受けてBillrothは母方の祖母が住むBerlinに移り,Göttingen大学からBerlin大学に移った.この頃のBerlin大学外科には,Billrothが後にその門下となるLangenbeckがいたが,内科にはJohann Lucas Schönlein(1793-1864,図1),Ludwig Traube(1818-1876,図2),Moriz Heinrich Romberg(1795-1873,図3)という錚々たる面々が肩を並べていたのである.

外科の常識・非常識 人に聞けない素朴な疑問 2

急性腹症の鎮痛剤は避けるべきか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.620 - P.621

 急性腹症の患者は,診断と方針が決まるまで鎮痛剤を投与してはいけないと言われている.その理由は,鎮痛剤を投与すると,①腹部所見が変化して正しい診断ができず,②手術が必要か否かの判断を誤るからという.確かに,急性虫垂炎の患者でも鎮痛剤が投与されるのは手術場に搬入される直前である.

 「腹痛の患者に鎮痛剤を使うな」という考えは,1921年のアメリカの教科書までさかのぼるらしい.鎮痛剤投与の是非については,1979年になってBMJ(British Medical Journal)の誌上で議論されたが,臨床試験が行われたのは最近10年間であり,世界的な外科の雑誌に臨床研究やレビューが掲載されたのは2003年である.

 そこで,「急性腹症の鎮痛剤は避けるべきか」というテーマに対して,まず,これまでに行われた臨床試験の概要を示し,つぎに2003年に発表された3つの論文を紹介し,最後に,臨床医の立場から個人的な意見を述べる.

病院めぐり

(株)日立製作所日立総合病院外科

著者: 奥村稔

ページ範囲:P.622 - P.622

 (株)日立製作所日立総合病院は茨城県日立市にあり,1938年に開院されました.日立製作所の企業立病院です.当院には2003年4月開設の茨城県地域がんセンターが併設されており,それを含め許可病床数は567床で,茨城県の県北地域の中核病院になっています.1991年に臨床研修指定病院に指定され,診療科は22科,医師数104名です.PETを2004年4月より導入予定です.

 外科は,消化器一般,呼吸器,乳腺領域を担当しています.また日本外科学会,日本消化器外科学会,日本消化器病学会,日本胸部外科学会,日本肝臓学会,日本消化器内視鏡学会などの認定医,専門医修練施設となっています.外科病床数は72床,医師15名(副院長:奥村 稔,消化器一般:佐藤宗勝・上田和光・加藤昌弘,呼吸器:遠藤勝幸,レジデント10名)で診療に当たっています.

東京逓信病院第1外科

著者: 関川敬義

ページ範囲:P.623 - P.623

 当院は昭和13年に逓信省(現日本郵政公社)の職域病院として開設され,本邦初の大動脈冠動脈バイパス手術を行うなど,輝かしい歴史のある病院です.昭和61年には保険医療機関の指定を受け,地域医療にも貢献するとともに,平成8年2月には二次救急告示医療機関の指定を受け,東京都の救急医療の一翼を担っています.

 千代田区の外壕公園に面し,都心にありながらも閑静かつ病院全体が広いゆとりのあるスペースを確保した19科,521床の総合病院です.また,別棟に健康管理センターも設置されており,人間ドック,健康診断などの予防医学,健康管理業務が行われています.

私の工夫 手術・処置・手順

胸腔鏡下手術における胸腔ドレナージの工夫:一方弁付き細径カテーテルの有用性

著者: 矢野義明 ,   小泉貴弘 ,   菊池寛利 ,   浅井陽介

ページ範囲:P.624 - P.626

 筆者らは胸腔鏡下手術(以下,VATSと略)における胸腔ドレナージの方法として,胸腔カテーテルに水封式ボトルを連結する従来の方法(以下,従来法と称す)に替えて一方弁付き細径(8Fr)カテーテルの使用を試みたところ,良好な結果を得たので報告する.

1.対象

 対象は2002年1月~2003年1月の13か月間に当院でVATSを施行した自然気胸5例(うち1例は両側気胸),間質性肺炎7例,多発性肺腫瘍1例,転移性肺癌1例の計14症例,15本である(表1).

臨床報告・1

食道亜全摘,胃管吻合に併設した空腸瘻に起因した絞扼性イレウスの1例

著者: 上野正闘 ,   山田行重 ,   中島祥介

ページ範囲:P.627 - P.630

はじめに

 早期栄養状態の改善と術後合併症を最小限に抑える手段として,食道癌術後の早期から経腸栄養管理を行うことは有効であると考えられている1~6).筆者らの施設でも食道癌手術施行症例に空腸瘻を造設し,術後早期より経腸栄養を行ってきた.今回,Treitz靱帯より空腸瘻造設部までの腸管と,腹壁との間隙が原因となって発症した絞扼性イレウスの1例を経験した.

同時性多発小腸穿孔をきたした高齢者悪性リンパ腫の1例

著者: 趙秀之 ,   塩見明生 ,   大垣雅晴 ,   高階謙一郎 ,   川上定男 ,   藤田佳宏

ページ範囲:P.631 - P.634

はじめに

 悪性リンパ腫の消化器病変は,消化管のリンパ様組織から発生する原発性(節外性)と全身性悪性リンパ腫の一部分症として消化管が浸潤を受ける二次性(節性)に大別される.そのなかで,小腸悪性リンパ腫は,特異的な臨床症状を欠くため診断が遅れることが多く,予後不良である1).今回,筆者らは高齢者全身性悪性リンパ腫の部分症として,小腸浸潤巣が同時多発穿孔をきたした症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

術後膵仮性囊胞に対する内視鏡的胃囊胞ドレナージ術の2例

著者: 庭野元孝 ,   岡本竜弥 ,   藤木真人 ,   高木秀和 ,   池田博斉 ,   小笠原敬三

ページ範囲:P.635 - P.638

はじめに

 膵仮性囊胞は急性および慢性膵炎,外科領域では膵手術後に遭遇する合併症で,出血,囊胞破裂,囊胞内感染,囊胞による消化管や胆道の圧排などの合併症を引き起こす可能性がある.ドレナージ目的で,従来,外科的内瘻造設術あるいは経皮的外瘻造設術が施行されてきたが1),近年,囊胞の解剖学的特性と内視鏡的手法の確立により内視鏡的消化管囊胞ドレナージ,内視鏡的胃囊胞ドレナージ(endoscopic cystogastrostomy:ECG),内視鏡的十二指腸囊胞ドレナージ(endoscopic cystoduodenostomy:ECD)が普及している2).今回,筆者らは膵手術後に生じた仮性囊胞を対してECGが有効であった2症例を経験したので報告する.

虫垂重積をきたした虫垂憩室炎に対して回盲部切除術を施行した1例

著者: 大川将和 ,   渡辺透 ,   藪野太一 ,   宮永太門 ,   山脇優 ,   佐藤博文

ページ範囲:P.639 - P.642

はじめに

 急性虫垂炎は,日常診療において消化器外科領域の腹部救急疾患のなかで頻繁に遭遇する疾患の一つである.虫垂重積は虫垂炎の際にみられるまれな合併症であり,なかでも腫瘤や結石を伴わない特発性虫垂重積症はきわめてまれな疾患である1).今回,筆者らは回盲部重積を伴わず虫垂のみが盲腸内に重積し,穿孔をきたした急性虫垂炎の1例を経験したので報告する.

亜腸閉塞を繰り返したS状結腸脂肪腫の1例

著者: 岩佐和典 ,   佐藤嘉紀 ,   恩地英年 ,   長谷川保弘 ,   泉俊昌 ,   北村秀夫 ,   河原栄

ページ範囲:P.643 - P.646

はじめに

 大腸脂肪腫は比較的まれな非上皮性良性腫瘍であるが,内視鏡診断技術の進歩に伴い,報告例は増加している1).今回,筆者らは繰り返す亜腸閉塞症状にて発症したS状結腸脂肪腫の1例を経験したので報告する.

分類不能の重複胆囊にみられた胆囊結石症の1例

著者: 内田洋一朗 ,   川口雄才 ,   海堀昌樹 ,   福井淳一 ,   石崎守彦 ,   上山泰男

ページ範囲:P.647 - P.651

はじめに

 重複胆囊は胆囊の先天性形態的奇形であり,Boyden1)によると発生頻度は0.02%と非常にまれな疾患である.本邦では,自験例を含め75例(学会報告例含む,剖検例を除く)の報告があるが,本症例は胆囊頸部において中隔となる胆囊壁が欠損した重複胆囊であり,既存の分類には属さず,これまでに報告がなされていない.胆道系異常を念頭に置いた手術操作の重要性を再認識させられた症例であり,既存の分類に属さない非常にまれな重複胆囊症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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